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魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」
Part30


149:1:2012/09/05 23:32:08.35 ID:j1ZinjLAO
国王「どちらが『勇者の剣』を持っているかでかなり戦局は変わるがのう…」
剣士「そんなにすごいものなのですか?」
国王「ある意味無敵な剣じゃ。使用者さえ合っていればの」
側近「使用者…」
国王「……剣の力を最大限に発揮できる“勇者”が死んだ今――」
国王「誰かにあの剣を扱う資格が移っていると思うのじゃが」
剣士「でも、勇者は血筋で選ばれましたよね?確かにあれを扱えましたが…」
国王「不思議なことにの、勇者の一族も選ばれたものと同様に使えるんじゃ」

150:1:2012/09/05 23:36:49.14 ID:j1ZinjLAO
剣士「へぇ……」
側近「しかし」
国王「」ビク
側近「“勇者”の資格を持つものが百年に一度しか現れない、というのがあるが。あれは?」
国王「資格を持つものが現れるのは不定期でのぉ…」
剣士(そのぐらいハンデないと魔王もたまったもんじゃないだろうなぁ)
僧侶「適切のある人が触ったら、光るんでしたよね?」
国王「おお、そうじゃ。祝福の光があたりに満ちる」
魔大臣(人間ばっかり有利じゃないか?)
側近(魔王さまが強すぎるだけなんだよ)

151:1:2012/09/05 23:47:53.80 ID:j1ZinjLAO
僧侶「そういえば…魔法使いさんは剣に触っていましたよね?」
国王「たまにいるそうじゃ。剣に触れるだけならできる者が」
剣士「?なら、選ばれたものは…持つとすごいんですか?」
国王「悪を滅ぼす力を纏い、聖なる光で刃を輝かせ、敵に立ち向かう勇気を与えてくれるだとか」
僧侶「すごいですね」
側近(…下手すればチートじゃないか)
魔大臣(魔王さま自体がチートだからな…トントンってとこだろ)

152:1:2012/09/05 23:55:49.30 ID:j1ZinjLAO
――公開処刑場
魔王「心臓らしいな」
魔法使い「心臓?」
魔王「あの男、攻撃を受ける度にまず胸を庇う」
魔法使い「そこらへんにダメージが行くのが不味いという意味か?」
魔王「そう、だから――弱点は恐らく心臓だ」
魔王「普通の生き物でも貫かれたら死ぬ、非常に重要な器官だからな」
魔法使い「なるほど…で、私はどうすればいい?」
魔王「その剣で大臣の心臓を突け」
魔法使い「……確かに効果はありそうだけど」
魔王「何が心配だ?」
魔法使い「逃げられるだろ、流石に」

153:1:2012/09/06 00:02:23.61 ID:jQFuqzIAO
魔王「ふん、馬鹿か。そのぐらい考えている」
魔法使い(馬鹿って…)
 大臣に一度強い攻撃を浴びせてから魔王は続ける。
魔王「おれがあいつを止める」
魔法使い「どうやって?」
魔王「魔法陣を展開して、その中に閉じ込めるさ」
魔王「ただ、今あいつは半分暴走状態だ――いつまで閉じ込められるかは疑問だが」
魔法使い「じゃあ早いうちに刺せばいいんだな?」
魔王「ああ。いざとなったら強化も行う」
魔法使い「強化?」

154:1:2012/09/06 00:08:51.02 ID:jQFuqzIAO
魔王「ちょいと力を借りるんだよ」
魔法使い「……?へぇ…、元気玉みたいな?」
魔王「なんだそれ」
魔王(力は力でも生命力…それを強力な魔力に変換させる禁忌魔法)
魔王(魔法を破られたら最悪死だ。…魔法使いが反対するだろうから言わないけど)
魔法使い「私はこれで攻撃をしかければいいんだな」
魔王「そうだ。…重くないのかその剣」
魔法使い「あんまり。むしろしっくりくるよ」
魔王(案外いるんだな、適正持つやつ)

155:1:2012/09/06 00:15:35.64 ID:jQFuqzIAO
魔法使い「じゃあ、魔王、あとはたの――」
ゴゴゴゴゴ
魔王「!?」
魔法使い「なんだこの揺れ!」
 ピシ、と何かが割れる音がした。
 そしてその音は近づくにつれ早くなってゆく。
魔王「魔法使い!地面だ!」
魔法使い「えっ!」
蝙蝠「キャア!」
 魔王と魔法使いの間にヒビが入った。
 そして、一段と大きい音がした直後に魔法使い側の地面が崩れた。
魔法使い「っ!」
 ここはかなり高い。
 魔物化してるとはいえ、落ちたら死ぬだろう。
魔王「魔法使い!」
 伸ばされた手はギリギリで届かなかった。

164:1:2012/09/06 23:04:15.46 ID:jQFuqzIAO
魔王「くそ!」
 魔王が飛び降りようとした時、彼の首すれすれに魔法で作られた刃が舞った。
大臣「ここでの勝負を投げ出すつもりか?」
大臣「たった一人のために部下の戦いを無駄にするつもりか?」
魔王「……っ」
 挑発だ。挑発だが、確かにその通りなのだ。
 ここで決着をつけなければこれから先、また犠牲を増やさなければいけない。
魔王「……」
 魔法使いがいた部分を一瞥して、魔王は大臣に向き直る。
魔王「…あいつが飛ぶ、とは思わなかったのか?」

165:1:2012/09/06 23:10:51.33 ID:jQFuqzIAO
大臣「思わなかったさ、思わなかったよ!」
大臣「なんせあれは人間として生きたいだなんて馬鹿なことを考えていたんだからな!」
 障害物である魔法使いを始末できたことで興奮しているらしかった。
 顔を赤くし、おおげさに腕を広げてみせる。
大臣「アッハッハッハ!まったく愉快だよ!」
魔王「……」
大臣「私の理想の世界にはあれはいない!消えてくれて清々した!」
魔王「そうか」
大臣「あとはお前だけだ!この世界の王は私だけなんだ!」
魔王(遠い所にも一応国はいくつかあるが、まあそれは範囲外なんだろう)

166:1:2012/09/06 23:16:29.06 ID:jQFuqzIAO
大臣「どうした?まさかあの女に惚れていたのか?」
魔王「ああ」
大臣「それは失礼なことをした!仲良く殺せば良かったかな!」
魔王「問題ない」
 金色の目が大臣を睨んだ。
 大臣は一瞬息を飲む。
魔王「仲良く貴様を殺すさ」
大臣「アハハハ、どうやって?死人に手でも貸してもらうか?」
魔王「その前に、現実を突きつけてやろう」
大臣「は」
魔王「貴様は負ける。多分でも恐らくでもなく絶対にして確定だ」
大臣「…あれが死んで頭がおかしくなったか?今の私にはお前を殺害するほどの」

167:1:2012/09/06 23:22:59.48 ID:jQFuqzIAO
魔王「それだよ。おれに勝つ?一昨日きやがれ」
大臣「は――はぁ?」
魔王「一度おれは貴様の策略に負けた。だがな、二度も負けるつもりは、ない」
大臣「……」
魔王「それに貴様はおれを随分と怒らせてくれるからな。それ相応の覚悟は出来てるだろ?」
大臣「…ま、負け犬の遠吠えか。そんなことで寿命延ばして楽しいか?」
魔王「もうひとつ」
魔王「貴様、いつから魔法使いが死んでいると勘違いしていた?」
大臣「……は?」
魔王「あいつがただで落ちるわけねぇよ」

168:1:2012/09/06 23:28:35.66 ID:jQFuqzIAO
魔王「ならとっくに死んでいるはずだ。おれに会う前にな」
大臣「魔法使いが――生きてる?」
魔王「おれの妄言でもなんでもないぜ。――貴様、人の魔力が分からないか?」
大臣「な……なんのことだ」
 分かってはいる。
 だが、魔王が復活したあたりから魔王が魔法使いの魔力を隠してしまっていたのだ。
 強力ゆえに。覆い被せるように。
魔王「焦らされるのは嫌いみたいだな。じゃあ、もうネタバレするか」
 魔王が横にすっと手を伸ばした。
 バサリ、と音がして剣を片手に掴んだ魔法使いが姿を表した。
 魔王の手を取り、無事に着陸する。

169:1:2012/09/06 23:33:21.43 ID:jQFuqzIAO
魔法使い「盛り上がりにかけるんじゃないか?」
魔王「いいんだよ、盛り上がりなんて」
魔法使い「そうか」
魔王「ああ」
大臣「な、な、なんで飛べたんだ!?」
魔法使い「見よう見まねだよ。蝙蝠に教えて貰ったんだ」
蝙蝠「エヘへ」
魔王「いつ?」
魔法使い「さっき。剣がたまたま城壁に刺さってぶら下がってたとき」
魔王「ふぅん。お疲れだな」
魔法使い「見えてたくせに……」
魔王「覗いたらあいつに殺されかけるもんよ」

170:1:2012/09/06 23:38:38.61 ID:jQFuqzIAO
魔法使い「なら仕方ないな」
魔王「だろ?」
大臣「う、嘘だ…どうして翼が使える?普通は弱るはずなのに!」
魔法使い「それはただの鳥の場合。私は魔物の子だぜ」
魔法使い「まあ…すごく疲れたけど」ハァ
蝙蝠「マホウツカイ、カナリヒッシニバタバタシテタ!」
魔法使い「しっ」
魔王「明日は筋肉痛だな」
魔法使い「やめてくれ。考えたくもない」
大臣「……もう一度…今度は翼をもいで…」ブツブツ
魔王「物騒だな」
魔法使い「物騒だ。私が生きててそんなショックか」

171:1:2012/09/06 23:42:55.03 ID:jQFuqzIAO
魔王「おれはお前が生きてて嬉しい」
魔法使い「ありがと」
蝙蝠(ココハ…カオヲアカラメルトコナノニ…)
魔王「それじゃ、魔法使い」
魔法使い「うん」
魔王「まずおれが近寄ってあいつの動きを封じる。至近距離じゃないとうまくいかないんだ」
魔法使い「分かった」
魔王「そしたら、すぐに攻撃に入ってくれ」
魔法使い「うん」
魔法使い「おれに剣が当たりそうでも構わずに行け」
魔法使い「え?うん」
魔王「実行だ、魔法使い」
魔法使い「分かった、魔王」

177:1:2012/09/07 21:22:19.10 ID:t4MUEh0AO
 魔王がたったの一歩で高く跳躍し、回転しつつ大臣の視界を遮るような爆発を起こした。
大臣「まだ何かをするつもりか……!!」
魔王「そろそろクライマックスだからな」
 魔王が大臣の真上に落ちる。直前の爆発のせいで大臣の対応がわずかに遅れる。
 それを狙って大臣の身体を後ろに踏み倒した。
 即座に魔法陣を展開させて大臣をその場に縛り付ける。
 この術を実践したことは片手に数えるほどしかない。
 その為、どの程度暴れたら術が破れてしまうのかはまるで検討がつかない。

178:1:2012/09/07 21:31:48.56 ID:t4MUEh0AO
魔王(やはり禁忌魔法を使うか――)
 『勇者の剣』で術を破られようなら死は確定できだ。
 いや、むしろ魔法陣に侵入された時点で生命が果てるだろう。
 強化の代償は大きい。
魔王「――いや」
 魔法陣を二重三重に展開し、変わらずあの位置に立つ魔法使いを見て考える。
大臣「離せ!くそったれ、私ならこのぐらいはずせるぞ!」
 ミシミシと魔法陣にヒビが入る。
 さすがに驚嘆した。ここまで力を引っ張り出せるのかと。
 だが、例え彼が勝ったところで身体は限界を迎えているだろう。

179:1:2012/09/07 21:40:00.93 ID:t4MUEh0AO
魔王「後先考えないとろくな目にあわない、か」
 上半身を起こした大臣の首根っこを掴み、無理矢理立たせる。
 それから脇の下に手を入れ羽交い締めにした。
魔王「禁忌魔法に拘らなくても、こういう方法があるんだよな」
大臣「な…!お前も死ぬぞ!私を離さなければ死ぬぞ!」
 大臣の頭越しに真正面からこちらへ向かってくる魔法使いが見えた。
魔王「分かってる、そんなの」
 魔王の行動に、顔をしかめ歯を食い縛っていた。
 だが彼女は止まらない。
魔王「もし死んだとしても、それはそれで本望だ」

180:1:2012/09/07 21:47:19.87 ID:t4MUEh0AO
 魔法使いは、魔王が大臣へと躍りかかったのを見届けるとゆっくりと瞼を閉じた。
 今が決着の時だ。
 大臣とも。
 自分の存在とも。
 ずっと逃げてきた。
 今戦わなければこの先はずっと逃げ続けるだろう。
 そんなのは嫌だった。
 人間として生きたかった。
 しかし、それは人間の世界しか見ていないからではないか?
 魔物の世界で生きていたなら、魔物として生きたいと言っていたかもしれない。
 心のどこかで人間になれないと分かっていた。

181:1:2012/09/07 21:54:57.14 ID:t4MUEh0AO
 魔法使いと人間は決定的に何かが違う。
 人間としていくなら様々な制限や我慢をしなくてはいけないだろう。
魔法使い(それでもいいと思っていた。けど)
 魔王と会って、色んなことに遭遇して、次第にそれでは駄目だと思い始めていた。
 出した答えはシンプルだった。
 無理して人間として生きるよりもありのままの自分で生きればいい。
魔法使い「蝙蝠」
蝙蝠「ナァニ?」
魔法使い「お前の考える王とは、なんだ?」
蝙蝠「エットネ…ミンナヲナカヨクサセルノ!ケンカシナイヨウニスル!」
魔法使い「そっか」

182:1:2012/09/07 21:58:48.31 ID:t4MUEh0AO
蝙蝠「マホウツカイハ?」
魔法使い「私もそう思うよ。国民を守るのが、王なんだろうな」
蝙蝠「ダカラ、マオウサマハツヨインダネ!」
蝙蝠「コクオウハソウデモナイケド!」
魔法使い「それは言っちゃ駄目だよ。でも、彼には彼を手助けする部下がいる」
 その一人があれだったんだけど、と魔法使いは苦笑いする。
魔法使い「蝙蝠」
蝙蝠「ン?」
魔法使い「私が何者になっても――仲良しでいてくれるか?」
蝙蝠「モチロンダヨ!マオウサマモ、タカサンモ、ミンナナカヨシ!」
魔法使い「ありがとう」

183:1:2012/09/07 22:00:42.58 ID:t4MUEh0AO
蝙蝠「マホウツカイ、ソロソロジャナイ?」
魔法使い「うん」
 ――幼い頃、魔法使いは訪ねたことがある。
魔法使い『わたしは魔物なの?人間なの?』
 父親は困った顔で、柔らかく魔法使いの髪を撫でた。
父『どちらでもあって、どちらでもないよ』
 母親は穏やかな笑顔で抱き締めた。
母『それはあなたが決めることよ。――あなたの選択は、きっと正しいわ』
 魔法使いは目を開けて、剣を構えて呟く。
魔法使い「私がなんなのか、何をすべきか、分かったよ」

184:1:2012/09/07 22:03:33.13 ID:t4MUEh0AO
 魔法使いは走り出す。
 魔王が大臣を羽交い締めにしていた。
 下手すれば魔王も死んでしまうだろう。
 だが、彼女は止まらなかった。
魔法使い「魔王!!」
魔王「魔法使い!!」
 喉が潰れるほどの大音量で叫ぶ。
魔法使い「行くぞ!」
魔王「来い!」
 奇しくもその姿は
大臣「やっ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 “魔王”を倒さんとする、“勇者”のようだった。

185:1:2012/09/07 22:12:53.14 ID:t4MUEh0AO
 魔王はギリギリで大臣を突き飛ばした。
 魔法使いは心臓に剣を突き刺した。
 大臣の最後の足掻きによって魔法使いの脇腹がえぐれた。
 また、大臣の背から飛び出した剣が魔王の肺を突き刺した。
魔法使い「大臣――あなたが二つの国を一つにして、王になると言うのなら」
 魔法使いは口から血を流しながら、死に行く大臣に囁く。
魔法使い「私は三つ目の国を――混血の国を作る」
大臣「ば……か…め…」
魔王「ふん――お前、らしい」
 魔法使いと魔王は顔を見合せ、そして笑った。

186:1:2012/09/07 22:13:39.67 ID:t4MUEh0AO
「「チェックメイトだ、大臣」」

187:1:2012/09/07 22:18:46.82 ID:t4MUEh0AO
 大臣が息を引き取ると同時に処刑場が音を立てて崩壊する。
 激しい戦闘のせいで限界を迎えていたのだ。
魔王「あー…、もう、動けねぇ」
魔法使い「私も…」
 並んで横たわりながらぼそぼそと会話をする。
魔王「傷、酷いな。平気か」
魔法使い「そっちこそ、ひゅうひゅういってるじゃないか」
魔王「はは」
魔法使い「あはは」
蝙蝠「マオウサマ!マホウツカイ!」
魔王「おう、蝙蝠、か。逃げた方がいいぞ」
蝙蝠「オイテニゲラレナイヨ!ボク、バリアハレル!」ポワン