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魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」
Part29


104:1:2012/09/02 21:19:00.98 ID:lIr8fK+AO
マスター「前々代!?」
国王「なんてことじゃ」
黒髪の男「魔物は長生きだかぁな。二百年前の魔王がいてもおかしくねーさ」
僧侶「そうなんですか…二百年、てすごい年数ですね」
黒髪の男「人間にとっちゃそーだろうな」
僧侶「……」
剣士「……あの、誰ですか?」
黒髪の男「前代魔王」サラリ
僧侶「」
剣士「」
黒髪の男「お、いいねぇそのリアクション」
僧侶「え、えええっ!?」
剣士「なんで魔王が!?」

105:1:2012/09/02 21:29:23.17 ID:lIr8fK+AO
黒髪の男「息子の様子を見に来たんだよ、僧侶の姉ちゃん」
僧侶「じゃ、じゃあ早く魔王さんのところへ行ってあげないと!」
黒髪の男「いいや?あいつの戦いはあいつ自身が終わらすべきなんだよ」
僧侶「ではなんのために…」
黒髪の男「今みたいなあいつの手が届かないところをサポートしに来たわけ。ちなみにあれは俺の父親」
オマエモ タタカエ!バカムスコ!
黒髪の男「へいへい」
僧侶「息子さんが、心配じゃないんですか?」
黒髪の男「それなりに心配さ。でも大丈夫だろ」
黒髪の男「あいつは今、一人じゃないから」

108:1:2012/09/02 23:49:01.73 ID:lIr8fK+AO
――階段
 手を繋ぎながら二人は階段を登る。
 魔法使いの左手には魔王の手、右手には剣を携えていた。
蝙蝠「マオウサマ、カツホウホウ、カンガエタ?」パタパタ
魔王「最終手段はな」
魔法使い「どんな?」
魔王「言わない。まだお披露目じゃないからな」
蝙蝠「イジワル!」
魔法使い「…よろしくない魔法なんだな?」
魔王「ふん。まあ使いたくはないものだ」
魔法使い「…そうか」
魔王「……」
魔法使い「……」
魔王「魔法使い、怖くないか」
魔法使い「うん。あなたがいるから」

109:1:2012/09/03 00:06:44.33 ID:Zlp56LcAO
――屋外、公開処刑場
コツコツ
魔王「見晴らしがいいな」
魔法使い「下からも見えるようにしてあるからだと思う」
魔王「ここはなんだ?」
魔法使い「公開処刑場だと聞く」
魔王「ふん。なかなか洒落た場所で決戦か」
魔法使い「洒落てるか…?」
蝙蝠「キニシタラマケ」
 剣を一度地面に下ろす。
魔王「そういえば、お前、杖どうした」
魔法使い「あっ」
魔王「会ったときには持っていなかったな」
魔法使い「あちゃー…森に忘れたかもしれない」
魔王「無くてもいけるだろ?」

110:1:2012/09/03 00:13:27.34 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「私の数少ないアイデンティティーが…」
魔王「むしろありすぎだろ」
蝙蝠「ウン」
魔法使い「外見的な意味でだよ」
蝙蝠「ツバサハエテルジャン」
魔法使い「…普段人間の姿の私がってやつ」
魔王「まあ確かに普段の姿はパッと見、どこでもいそうだが」
魔法使い「だろ?」
魔王「アイデンティティがないというかまず胸からしてないからな」
魔法使い「うぬぉっ!」ブン
魔王「暴れるなよ」パシッ
蝙蝠「パンチ、アッサリウケトメタネ!」

111:1:2012/09/03 00:21:26.84 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「やめろ。その話題はやめろ」
魔王「減るものでもあるまい。これ以上」
魔法使い「ぐぬぬぬ」
蝙蝠「オフタリサン、イイトコロワルイケド、ホラアレ」
 五メートルほど先にワイン瓶が七、八本転がっていた。
 そばには踞る人間の姿。
魔王「ありったけをのんだって感じか」
魔法使い「…副作用を無視してこんなに…頭おかしいな」
魔王「副作用が無くても無理矢理魔法を持たされた身体はボロボロだろうさ。寿命も縮むらしい」
魔法使い「え?」

112:1:2012/09/03 00:33:34.98 ID:Zlp56LcAO
魔法使い(寿命縮むんだ…)
 ゆらりと大臣が立ち上がる。
 先ほどより身長が高く、ゆうに二メートルを越していた。
 眼球はすべて黒くなっている。
魔王「この中で一番人間らしいの、もしかしたらおれかもな」
魔法使い「角が生えてる以外はそうだよな」
蝙蝠「マオウサマノ、アイデンティティ、チッチャイネ!」
魔王「ふん、王はシンプルでいいんだよ。飾り立ててたら戦い難いだろ」
蝙蝠「カッコイイ!」
魔法使い「ちっちゃいと言われても起こらないとか心広いなあなたは…」

113:1:2012/09/03 00:41:15.64 ID:Zlp56LcAO
魔王「…む」
 魔王は会話をしながらも一切大臣から視線を逸らさずに見ていた。
大臣「……」ユラリ
 動き始めからを捉えられたために、防御にするか攻撃にするかと考える余裕がある。
 大臣が片手を前に出すと、紫色の光がそこに集まり大きくなっていった。
魔王「お喋りはここまで――みたいだな」
魔法使い「うん」
 痛いほどに緊張した空気が針つめた。
魔王「最初は慎重に行くぞ。集中砲火からだ」
魔法使い「どこらへんが慎重なのか是非教えてくれ」

122:1:2012/09/03 22:09:12.32 ID:Zlp56LcAO
 大臣が紫色の光を放つと同時に魔王も真っ黒な光を放った。
 二つの力はぶつかり合い、激しい火花を生む。
魔王「本体に攻撃をしてくれ」
魔法使い「了解」
 魔法使いは見えないものを持ち上げるように、手を上にあげた。
大臣「!?」
 ザクザクと先が鋭く尖った杭が地面から生えてきた。
大臣「ぐぅっ……!」
 どれかが刺さったらしい。
 紫色の光が弱まり、それを弾くと共に魔王は大臣へ黒い光を打ち込む。
蝙蝠「ヤッタ?」
魔法使い「…まだだな」
魔王「このぐらいで終わるようならこんな苦労してないさ」

123:1:2012/09/03 22:18:02.25 ID:Zlp56LcAO
 魔王が言い終わる前に杭が凄まじいスピードで飛んできた。
 魔法使いは自分たちの目の前に新たな杭を隙間なく並べる。
 それらに飛んできた杭がぶつかってきた。
 攻撃が止んでしまうと魔王が即座にすべて燃やしてしまった。
魔王「視界を悪くしてどうする」
魔法使い「そこまで考えてなかった」
 思いついたものがそれしかなかったのもある。
 視界を防いでしまうのは隙となりかねない。
蝙蝠「ダイジン、アシ、サンボン」
魔王「三本?」
蝙蝠「アレ、ミテミテ」

124:1:2012/09/03 22:23:58.87 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「…違う。足が裂けているんだ」
 杭によってなのか、右足がえぐいことになっている。
 戦場とはいえ、そうした張本人とはいえ気分の良いものではない。
魔王「ほう」
 魔王が感嘆の声をあげた。
魔王「自己再生までするのか、あの薬は」
 妙に軋んだ音をたてながら足が元通りに戻っていく。
魔法使い「あの薬…今まで見た薬と同じなのかな」
 今まで、というのは人を操るだとか読心のことだ。
 あそこまで強力だとは思わなかったが。

125:1:2012/09/03 22:28:05.74 ID:Zlp56LcAO
魔王「さあな」
 空中から火の玉を取り出し、そのまま大臣に投げつけた。
 回復を待つこともせず。
 容赦なく、思いっきり。
大臣「があぁぁぁぁ!?」
魔法使い「うわ」
蝙蝠「オニダ」
 悲鳴が聞こえた。
 少しだけ同情するが、すぐに気持ちを入れ替えることにした。
蝙蝠「マオウサマ、ソコハマッテアゲヨウヨ」
魔王「いちいち相手に花を持たせなくてもいいだろ」
魔法使い「絶対にあなた、勇者が回復魔法かけてもらっている最中に攻撃するよな」

126:1:2012/09/03 22:36:32.91 ID:Zlp56LcAO
魔王「悠長に待ってられないだろ」
魔法使い「そうなんだけどな、なんか正しいというか間違えているというか」
蝙蝠「キニシタラ、マケ」
魔法使い「便利な言葉だよな」
大臣「……」ヨロ
魔王「さてさて。大臣が焼け死んでいないんだがどうしようか?」
魔法使い「…しぶといな」
蝙蝠「ドコカニジャクテンガアルハズ!」
 魔法使いは顎に手をやりながら風を作り出し、カマイタチにして大臣に浴びせた。
 大臣の身体がところどころ裂けるのが見えた。

127:1:2012/09/03 22:41:39.41 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「…直ぐに傷を修復してしまう…」
魔王「お前もひとの事言えないだろ」
魔法使い「これでも足りないぐらいだ。親も殺されてるんだから」
魔王「そうか」
魔法使い「ああ」
 魔王と魔法使いはお互いから半歩離れる。
 その間を攻撃魔法が通り抜けていった。
魔法使い「危なかった」
魔王「まったくだ」
 あらかた身体を治した大臣は、足元に爆発を起こし真っ直ぐに魔法使いへと向かっていく。
魔法使い「直接殺りあおうってか!」

128:1:2012/09/03 22:51:30.87 ID:Zlp56LcAO
 頬に向かってくる手のひらをはね除ける。これはフェイクだ。
 本命であろう大臣の魔力を込めた拳を、こちらも魔力を込めた手刀で叩き切る。
大臣「ぐっ!」
魔法使い「だぁッ!」
 力を入れた蹴りで数メートル飛ばす。
 何度かバウンドした後に、大臣は地面にごろりと転がる。
魔王「まだ死なないか…」
魔法使い「怖くなってきたな、なんか」
蝙蝠「フジミダッタラドウシヨ」
魔王「それは困る」
魔法使い「だったらどこかに沈めてしまおうよ」
魔王「それいいな」

129:1:2012/09/03 22:58:20.69 ID:Zlp56LcAO
蝙蝠「アブナイケイカクダヨ!」
 空気が動く。
 また大臣が立ち上がっていた。
大臣「ククク……」
魔王「何がおかしい」
大臣「薬について、教えてやろうか」
魔法使い「……」
大臣「あの薬にはただ飲んだだけじゃ魔法は使えない」
魔法使い「というと…」
大臣「飲んだ人間の強い望みによって変化するってことだよ…」
魔王「興味深いな」
大臣「そこまで思い悩んでいないような望みなら持続性はない。深い望みなら長い間持つ」
大臣「大量に飲むと、自分でも扱い難いほどの魔力を得られることが分かったがな――」

130:1:2012/09/03 23:05:05.52 ID:Zlp56LcAO
魔王「…ずいぶん便利なものを考えつくんだな」
大臣「お褒めいただき光栄だよ魔王――」
魔王「今日いっぱいでその技術も無くなると思うと残念だな」
大臣「軽口を叩けるのも今のうちだ!」
蝙蝠「マホウツカイ!」
魔法使い「!」
 大臣から切り離した手首が突然動いて魔法使いへ飛び、その細い首を絞め始めた。
魔法使い「取れなっ……!?」
魔王「魔法使い!」
大臣「そっちの心配ばかりでいいのかァな!?」
 気づくといつのまにか接近していた大臣の腕が魔王の体内に潜り込んでいた。

131:1:2012/09/03 23:11:04.45 ID:Zlp56LcAO
魔王「やりやがったな」
大臣「これでも平然としてられるのか化物め」
魔王「魔法使いからさっさとあれを外っ……!」
 魔王の口から大量の血が溢れた。
 体内で小規模ながら爆発を起こされたのだ。
蝙蝠「マオウサマ!」
魔法使い(くそっ、どんな魔法使ってるんだ!全然取れない!)ギリギリ
魔法使い(見えないから、指ごと消去しようとしても下手をすると私の首も…)ギリギリ
魔法使い「が、は」
魔王「っんの…」
 魔王が爪を大臣の眼球に突っ込むよりも早く、蝙蝠が躍り出た。

132:1:2012/09/03 23:19:24.39 ID:Zlp56LcAO
 それから顔面に張り付く。
蝙蝠「コノコノコノ!」バタバタバタ
大臣「な、なんだ!退け!」
蝙蝠「ヤダ!」バタバタバタ
 散々大臣の顔面で暴れた挙げ句に、小さな口で噛んだ。
大臣「いたっ!」
 集中力が乱れたその隙に魔王は体内から大臣の手を引きずり出し、
 魔法使いは絞めが弱まりかけた手を無理矢理剥がした。
魔法使い「けほっ……蝙蝠!」
大臣「こんの――!!私に何をする!!」
 蝙蝠をわしづかみにすると、そのまま地面へと叩きつけた。

134:1:2012/09/03 23:25:15.70 ID:Zlp56LcAO
蝙蝠「ギッ」
大臣「この、下等なくせに、よくも――!」
 まさに蝙蝠を踏み潰そうとした大臣を魔王が殴り付ける。
 そのまま少し離れた地面へと飛ばされ石畳へと若干めり込んだ。
魔法使い「蝙蝠!」
魔王「蝙蝠!」
蝙蝠「」ピクピク
 魔王は塞ぎかけた傷から血を掬いとり蝙蝠の口へ含ませた。
魔法使い「なぁ、大丈夫なのか?生きてるよな?」
魔王「生きてる。それに魔王(おれ)の血も飲んだんだ、すぐ治る」
 そういえばいつか魔法使いも魔王の血を注がれ治ったことがある。

135:1:2012/09/03 23:36:05.71 ID:Zlp56LcAO
魔法使い「助かるんだよね?平気だよね?」
魔王「そう言ってるだろう」
魔法使い「はぁぁぁ…」ヘタリ
魔王(出来ればこっちの心配もしてほしいんだけどな)
 体内の修復過程で要らなくなった肉片を吐き出しながら思った。
蝙蝠「ムー?」パチ
魔王「まだ動くな」
蝙蝠「ナンカ、カラダカライヤナオトシタヨ…」
魔王「夢だろ」
蝙蝠「ユメカナァ?」
魔法使い「ちょっとうたた寝してたんだよ」
蝙蝠「ソウナノカナ?」
魔法使い「ちょっとここにいな」
蝙蝠「マホウツカイタチハ?」
魔法使い・魔王「ちょっと本気出してくる」

148:1:2012/09/05 23:26:00.31 ID:j1ZinjLAO
――城門
ドドーン…
師匠「やれやれ。年老いた身にはキツいわい」
黒髪の男「そう言いながらわずか数分で沈めましたか」
師匠「あちらも戦局は変わってなさそうじゃな」
黒髪の男「そうですね。かろうじて人影が見えるぐらいですが、まだ両者立ってますし」
剣士「いやいや…見えやすい工夫をしてるとは言え、オレには何も見えませんぜ」
僧侶「剣士さん、お二人は元魔王ですから…」
剣士「魔王ってすげぇな…さすが王だぜ」
師匠「褒めてるのかが良く分からん」