Part27
20:
1:2012/08/30 20:44:45.83 ID:XKrELNSAO
魔王「それがあの剣だよ。おれの力なんて通用しない」
パァンッと鎖が弾けた。ついでに国王のも。
魔王「あー……まだ魔力戻りきってねぇな…」
魔法使い「…今ので十分魔力がある方だと思うが…」
僧侶「あ、あの、大丈夫ですか?」
恐る恐るといった風に僧侶が近寄る。
僧侶「わたしの魔法が効くか分からないですが…その、見てられませんし」
今もなお流れ続ける傷を指差す。
魔法使いはどうしたものかと両者を見比べた。
魔王「…やってくれるならやってくれないか。割りと死にそうだから」
21:
1:2012/08/30 20:51:49.50 ID:XKrELNSAO
魔法使い「えっ、死にそうなのか!?」
僧侶「ちょっとじっとしていて下さい」パァ…
魔王「……」
血がとまり、神経が繋がり、筋肉が修復し、皮膚がそれらを隠した。
数分も経たず、完全にそれは治る。
魔法使い「…すごい、こんなに」
魔王「治癒されるのは初めてだな。ありがとう」
僧侶「ひぅ!?ど、どういたしまして」
蝙蝠「テンパッテルネ!」
国王「魔王も礼を言うのか…」
魔王「失礼だな。傷つくぞ」
彼は壁に身体を預けつつ立ち上がった。
足取りは不安定だ。
22:
1:2012/08/30 20:58:56.71 ID:XKrELNSAO
魔法使い「魔王、まだ無理をしないほうがいいと思う」
魔王「あいつが何かしでかす前に止めないといけない」
魔法使い「でも、まだ体力も魔力も回復してないんだろ?」
魔王「待ってくれるほど世界は優しく……っ」
よろめいて魔法使いに倒れ込む。彼女はなんとか彼を支えた。
僧侶は口出ししないほうがいいなぁと下がっていた。
魔法使い「そんなんじゃ倒す前に倒され……あ、そうだ」
魔王「なんだ?」
魔法使い「お使い頼まれていたんだよ。忘れかけていた」
魔王「お使い?また手紙か?」
魔法使い「そうじゃない。ちょっと屈め」
魔王「分かった」
23:
1:2012/08/30 21:03:29.45 ID:XKrELNSAO
魔法使いは彼の肩を掴み、少しばかり背伸びをする
そうして顔と顔の距離を近づけて。
唇を合わせた。
30:
1:2012/08/30 22:55:06.45 ID:XKrELNSAO
老兵「」
国王「」
僧侶「!?」
剣士「ぶっ」ブシャアッ
大人二人は口をあんぐりと開け、僧侶は顔を赤くし、盛大に剣士の鼻から血が流れた。
構わずに魔法使いは魔王の口内に舌を入れてそこから魔力を送る。
魔王はと言えば突然のことに目を見開いたまま固まっていた。
魔法使い「んっ……」
口を離し、こぼれた唾液を手の甲で拭う。
魔法使い「一気に入れたが大丈夫か?」
魔王「…ちょっと待て」
魔法使い「どうした」
魔王「何故口移しなんだ」
31:
1:2012/08/30 23:02:41.96 ID:XKrELNSAO
魔法使い「なんでって…傷をいちいち作るのも面倒だったし」
真面目な顔だった。
魔法使い「厳密には唾液は体液じゃないけど口腔からならいけるかなって」
魔王「ああ、うん、いけた。おかげで復活した」
魔法使い「良かった、駄目だったらどうしようかと」
魔王「なんか挫けそうだ」
蝙蝠「マオウサマ…」
剣士「僧侶、大怪我だ。オレの心が大怪我した」
僧侶「今から鼻血止めますね」
老兵「お、男同士か…」
国王「ま、まあ人それぞれだがいきなりすぎてもう」
剣士「いや、あいつ女なんだって」
僧侶「ええ!?」
32:
1:2012/08/30 23:09:13.97 ID:XKrELNSAO
剣士「僧侶、手元が狂ったのか知らないが鼻血がスピードアップした」ダクダク
老兵「間抜けな光景だ……」
僧侶「し、知りませんでした!魔法使いさん女の人だったんですか!」
魔法使い「う、うん。バレると火炙りだから隠してきたけど」
老兵「“魔女”か…最近は見ないがあったな、そんなものが」
国王「…そうじゃったな」
剣士「ごめん、しんみりしたところ悪いけど誰か鼻血なんとかして」ダクダク
蝙蝠「マオウサマ、ダイジョブ?」
魔王「変なところで世間知らずでびっくりした」
33:
1:2012/08/30 23:16:54.69 ID:XKrELNSAO
魔法使い「なんか不味いことしたか?私も初めてだったから勝手が」
魔王「した。今の行為はなんという」
魔法使い「接吻というものらしいが」
魔王「そうだな。その接吻は一体誰とやればいいかは分かるか?」
魔法使い「? 親しい同士じゃないのか」
魔王「……」
国王(すごく頭が痛そうじゃな…)
老兵(戦闘は半端ないのにこういうのは駄目か)
僧侶(どこか母親らしい優しさがあると思ったらそうだったんですね)
剣士「」ボタボタ
34:
1:2012/08/30 23:24:42.58 ID:XKrELNSAO
蝙蝠「マホウツカイ…ジョウダンハヨシンコチャン」
魔法使い「冗談って」
魔王「魔法使い」
魔法使い「うん」
魔王「良く聞け」
魔法使い「う、うん」
魔王「唇同士の接吻――キスは、互いを好きあっている者同士がするものだ」
魔法使い「は?」
魔王「深いキスは非常に愛し合ってる者たちがする」
魔王(と、サキュバスとか他が言っていた)
魔法使い「つまり……」
魔法使い「」カァァ
魔王「やっとわかったか…」
蝙蝠「マホウツカイ、カオガマッカッカ」
35:
1:2012/08/30 23:30:36.30 ID:XKrELNSAO
僧侶「それはそうですよねぇ…」
剣士「純粋って恐ろしいな」
国王「昔の妻もあんな感じじゃったな。可愛いんじゃぞ、照れたときの」
老兵「ここでノロケないで下さい」
魔法使い「……」
耳まで赤くなりながら俯いた。
同時に頬の羽毛がはらはらと取れていく。魔力を渡したからなのか。
魔法使い「その…ごめん」
魔王「何故謝る?」
魔法使い「だって、仕方ないとはいえ嫌だったろ。私となんか」
魔王「バーカ」
魔法使いの顎を持ち上げると自動的に顔があがる。
数秒見つめあったのちに今度は魔王から軽くキスをした。
36:
1:2012/08/30 23:38:17.02 ID:XKrELNSAO
剣士「ぞうりょ…」ダバダバ
僧侶「剣士さーん!!」パァァ
老兵「」
国王「」
蝙蝠「ダイタンダネ!」
魔法使い「……、何してる!?」
魔王「別に。お前の疑問に答えただけだ」
魔法使い「はい!?」
魔王「おっと、気を引き締めろ。ラスボスが登場だぜ」
魔法使い「ああもうタイミング悪いなおい!」
更に上へ繋がる階段に人が立っていた。
全員に緊張が走る。
39:
1:2012/08/30 23:42:44.00 ID:XKrELNSAO
魔王「よう。どうやらおれを倒すにはお前の実力で勝負しないといけないみたいだぜ」
大臣「楽をしたかったが…うまくはいかないか」
そして魔法使いの姿に顔をしかめる。
大臣「忌々しい…。魔法使い、またお前が邪魔をするのか」
魔法使い「…何故私をそこまで憎む」
質問には答えずに、大臣は床にワイン瓶を二つ投げ捨てた。
甲高い音が響く。
僧侶「大臣さま、まさかその分の薬をお飲みに…!?」
大臣「そうだ」
魔王「ふん。そこまでして頂点に上りたいかよ」
大臣「そうだ。…話をする時間すらおしい」
40:
1:2012/08/30 23:46:53.31 ID:XKrELNSAO
大臣「負けた姿が楽しみで仕方ないよ」
魔王「それはこっちの台詞だ。早く見たいもんだな」
――時刻は夕方。
城にいた者たち全員が、城が大きく揺れるのを感じた。
48:
1:2012/08/31 20:47:20.45 ID:XcSJkxKAO
――階下、通路
側近「」ハッ
魔大臣「何だったんださっきの揺れ…側近?どうした?」
側近「魔王さまが本気を出されたようだ」
魔大臣「本当か!?」
トロール「魔王さま、復活なされたカ」
側近「ついでに二人に進展があった気がする!」
魔大臣「…はい?」
側近「なんだろう、苦労が報われた気分だ…」グス
ミノタウロス「精神攻撃でも食らったんじゃないか!?」
ゴブリン「衛生兵ー!!」
49:
1:2012/08/31 20:52:16.08 ID:XcSJkxKAO
――牢、だったところ
天井の一部から茜に染まった空が見えた。
僧侶(すぐ上は外だったんですね)
僧侶(ああ……公開処刑所でしたっけ)
何が起きたか、良く覚えていない。
魔王と大臣が動くのが同時で、魔法使いが自分たちの前に立って、爆発が――
僧侶「みなさん!?」ガバッ
剣士「いちち…みんな生きてるか?」
老兵「なんとか」
国王「死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った」ブツブツ
辺りは先ほどよりも更に酷い有り様だった。
50:
1:2012/08/31 20:58:26.56 ID:XcSJkxKAO
大きい瓦礫や細かな瓦礫、それらが床を覆いつくしている。
壁はひび割れ、無事なところを見つけるのが困難だ。
魔法使い「怪我はないか?」
僧侶「魔法使いさん!魔法使いさんが守ってくれたんですね」
魔法使い「僧侶、いや全員」
僧侶「はい」
魔法使い「逃げろ。退避を伝えながら城から出ろ」
僧侶「え?」
魔法使い「巻き込まれて死ぬぞ。脅しじゃなく」
剣士「今ので決着はついたんじゃ…」
魔法使い「そう簡単につくと思うか。見ろよ」
指差した向こう、暗がりの中に立ち尽くすシルエットが二つ。
51:
1:2012/08/31 21:03:44.37 ID:XcSJkxKAO
魔法使い「大臣が耐えた」
剣士「嘘だろ……」
魔法使い「本当だ」
僧侶「だ、大臣さんっ!!」バッ
魔法使い「あ、僧侶!」
静止を聞かず、僧侶が飛び出した。
僧侶「止めてください!これ以上はもう駄目です!」
大臣「……」
僧侶「もうこんなことやめましょう!…いっしょに、静かに生きていきましょうよ…」
無駄な事とは分かっていた。
都合の良いことだと自覚していた。
しかし、大切な人がこれ以上壊れるのはみていられなかった。
52:
1:2012/08/31 21:11:29.55 ID:XcSJkxKAO
大臣「……」
魔王「なんとか言ったらどうだよ」
大臣「……僧侶」
僧侶「大臣さん…」
大臣「もう…立ち止まれないんだ。そして誰にも止めらない」
僧侶「そんな…」
大臣「僧侶、お前は大切な“娘”だった。それでも――これは邪魔させぬ」
大臣の目が不気味に光り、とっさに魔法使いは僧侶を地に伏せさせた。
直後に大臣の本当の狙いに気づく。
魔法使い(違う、狙いは僧侶じゃない!)
視線の先には、
魔法使い「国王!!」
53:
1:2012/08/31 21:16:00.91 ID:XcSJkxKAO
国王「わし!?」
大臣「弱いところから攻撃をするのは基本だよな!」
どす黒い矢が空中から現れ、国王へと真っ直ぐ突き進んで行く。
とっさに剣士が身体を被せるようにして国王を庇う。
しかし、このままでは剣士に刺さってしまう。
魔法使い「くっ――!」
魔法使いの魔法は遅すぎた。
54:
1:2012/08/31 21:22:28.71 ID:XcSJkxKAO
――階下、通路
魔大臣「上でかなりすごい魔力がぶつかり合ってるぞ?」
側近「多分、首突っ込んだら死ぬ」
魔大臣「だな」
ゴブリン「退却?それとも部屋をひとつひとつ捜索していく?」
魔大臣「だな…まだ隠れている輩がいるかもしれんし」
ミノタウロス「しかしまぁ、ぼっろぼろだぁな。この城も」
魔大臣「元は綺麗だったんだろうな。もったいない」
トロール「でモ、赤も綺麗じゃないカ?」
ゴブリン「時間の経過でどんどん黒くなってくよ」
側近(む?この感覚は…)
55:
1:2012/08/31 21:30:18.99 ID:XcSJkxKAO
――牢だったところ
剣士「オレ死んだか…あれ?」
老兵「あんなこと言ってるからやはり…あれ?」
国王「わしのせいで若い命が…あれ?」
僧侶「剣士さん…あれ?」
魔法使い「馬鹿だけど良いやつだった…あれ?」
大臣「ど、どうしてだ!?そいつらに魔力など感じなかったのに!」
魔法使い「これは…羽?」
焼け焦げた羽を拾い上げた。
剣士「それ、僧侶が貰ったやつじゃないか?」
僧侶「ええと…すみません、剣士さんにこっそり忍ばせてました」
56:
1:2012/08/31 21:43:36.59 ID:XcSJkxKAO
剣士「馬鹿、なんで」
僧侶「ごめんなさい…なんだか、あっさり死にそうで……」
老兵(分かる)
国王(気持ちは分かる)
魔法使い(痛いほど分かる)
魔王「まったく――おれはメインディッシュかよ?」
大きい瓦礫が持ち上がった。
上から、右から、斜めから、法則性などなく大臣にぶつけていく。
ちらりと魔王が目配せして魔法使いが頷いた。
魔法使い「そんなわけだ。その人連れて行ってくれ」
剣士「魔法使いは?」
魔法使い「私は魔王と戦う。手助けぐらいはできるだろうから」
58:
1:2012/08/31 21:57:54.90 ID:XcSJkxKAO
剣士「じゃあ、オレも」
魔法使い「駄目だ」
剣士「…確かに魔法使えないし、弱いけどよ」
魔法使い「次元が違う。私だって今この状況で一対一なら負けている」
剣士「……」
魔法使い「僧侶と国王を守ってくれ。それとも逃げが恥ずかしいか」
剣士「…逃げる勇気ってな。足手まといにはなりたくないから行くよ」
僧侶「剣士さん…」
魔法使い「早く行け。魔王の時間稼ぎもいつまで持つか」
剣士「わぁったよ、後でな!」
僧侶「ご武運を…」
老兵「立てますか国王さま」
国王「うむ…悪いな、頼んだぞ!」