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魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」
Part26


957:1:2012/08/28 23:13:50.70 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「コノボクネンジン!」
魔法使い「う、うん」
蝙蝠「コタエハジブンデミツケナサイ!」
魔法使い「意地悪だな」
蝙蝠「コウイウノハネ、ジブンデキヅクノガ、イチバンナンダヨ」
魔法使い「ちなみに、蝙蝠は?」
蝙蝠「ボクニモプライバシーハアルンダヨ!」
魔法使い「はいはい」
蝙蝠「アレレ、ネエネエコンケツ、シタミテ」
魔法使い「下?――ああ」
蝙蝠「オジイサンタチ、マンゾクソウニネテルヨ」
魔法使い「いや……死んでるんだよ」

958:1:2012/08/28 23:18:53.05 ID:Kid2apjAO
 身体のあちこちが裂け、刺された姿で老人二人は座って壁にもたれていた。
 微かな笑みを浮かべ、二度と上がることのない目蓋を閉じていた。
魔法使い「あなたたちが…この上を守ったのですか」
 数秒の黙祷。
 それから頭を深くさげて階段を登る。
蝙蝠「コンケツ」
魔法使い「どうした?」
蝙蝠「ダレカシヌト、カナシイ?」
魔法使い「悲しいよ。取り残されてしまうことが、悲しい」
蝙蝠「ソッカァ」
魔法使い「あなたは?」
蝙蝠「マダダレモイナクナッテナイカラ、ワカンナイ」

959:1:2012/08/28 23:22:36.76 ID:Kid2apjAO
魔法使い「そうなんだ」
蝙蝠「デモ、ソッカ、サミシイノカ」
魔法使い「うん」
蝙蝠「コンケツ、シナナイデネ。ボク、サミシイノキライ」
魔法使い「…ああ。そっちも死ぬんじゃないぞ?」
蝙蝠「モチロン!」
魔法使い「私の名前は魔法使いだ」
蝙蝠「ウン?」
魔法使い「混血は名前じゃないんだ。魔法使いが名前」
蝙蝠「マホウツカイ」
魔法使い「そう」
蝙蝠「マホウツカイッテヨンダホウガイイ?」
魔法使い「そのほうが、仲良しって感じでいいじゃないか」

960:1:2012/08/28 23:27:27.72 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「ナカヨシ!」
魔法使い「そう、仲良し。私は、仲良しの子には寂しくさせないよ」
蝙蝠「ジャ、マホウツカイトマオウサマ、ナカヨシ?」
魔法使い「え……どうだろ」
蝙蝠「ア、デモ、マオウサマナキソウナカオ、シテタトキアルヨ!」
魔法使い「あいつが?」
蝙蝠「マホウツカイノネ、アノシンジュノヤツヲワタシタトキ」
魔法使い「ああ、あの“人魚”ときの」
蝙蝠「ナンカ、モッテイタノガイガイダッタミタイ」
魔法使い「そうなんだ…」

961:1:2012/08/28 23:38:52.49 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「ナンデモッテタノ?」
魔法使い「なんとなく、かなぁ。なんでだろ」
蝙蝠「アトネアノトキ、マオウサマ、マホウツカイイナクテ」
蝙蝠「チョットサミシカッタンダヨ。ボクガオモウニ」
魔法使い「そんなことはないんじゃないか?いじる相手がいなかったからとか」ハハハ
蝙蝠「………」
魔法使い「……あ」
蝙蝠「ドウカシタ?」
魔法使い「あの真珠の、魔王が持ちっぱなしみたいだ」
蝙蝠「カエシテモラワナイトネ」
魔法使い「ふふ、そうだな。早く返してもらわないと」

962:1:2012/08/28 23:52:52.06 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「モウチョットデカイダンオワルネ」
魔法使い「長かったな」
蝙蝠「ツカレタ?」
魔法使い「ううん。今この状態なら、全然」
蝙蝠「ボクハマホウツカイにシガミツイテルシネ」
魔法使い「そうだな」
蝙蝠「ダケドサ、イマツカレスギタラ、カエリタイヘンダヨネ」
魔法使い「少し休んで帰るよ。どんな戦闘になるかは分からないけど」
蝙蝠「ソダネ」
魔法使い「ああ」
蝙蝠「マホウツカイ」
魔法使い「うん?」

963:1:2012/08/28 23:56:54.85 ID:Kid2apjAO
蝙蝠「マホウツカイハ、マオウジョウスムノ?」
魔法使い「いやぁ…難しいだろうな…」
蝙蝠「ムズカシイカナ?」
魔法使い「私のことを嫌がる人がいるかもしれないし…」
蝙蝠「マオウサマサエイレバ、ラクショーダヨ!」
魔法使い「はは、そうかもな」
蝙蝠「コンド、マホウオシエテネ!マホウツカイミタイニツヨクナル!」
魔法使い「あれれ、強いんじゃなかったのか?」
蝙蝠「マホウハマダマダナノ!アトハツヨイノ!」
魔法使い「はいはい分かった分かった――さぁ、どの部屋に行けばいいのかな」

973:1:2012/08/29 21:15:39.47 ID:TQPwLVvAO
――牢の近く
剣士「はぁっ!」バキッ
老兵「とうっ!」バコ
剣士「ここの見張りはこいつらだけか」
老兵「だな」
僧侶(神に仕えるものとしてこれは辛いですね…)
僧侶(口出しなんかして皆さんで死ぬのは目に見えてますからいいませんが)
剣士「鍵はっと……一個あった」ゴソゴソ
老兵「こっちは一個だけだ」
剣士「あ、こいつも一個」
僧侶「この人も一個ですね…」
剣士「……あと七人、地道に調べろと……?」
老兵「時間食うなこれ…」

974:1:2012/08/29 21:19:58.70 ID:TQPwLVvAO
剣士「」ゴソゴソ
老兵「」ゴソゴソ
僧侶「失礼します…」ゴソゴソ
剣士「これいちいち差し込まないといけないのか」ゴソゴソ
老兵「面倒くさいが、良く考えたものだな」ゴソゴソ
僧侶「すみませんすみません」ゴソゴソ
剣士「よしっ、これで最後だな」
老兵「じゃあ奥へ進もう」
剣士(……なんか“勇者”になった気分だな…)
剣士(あいつがいたらどんなことをしただろうか)
僧侶「剣士さん?」
剣士「あっ、い、いやなんでもないぞ」
僧侶「?」

975:1:2012/08/29 21:24:57.19 ID:TQPwLVvAO
コツコツ
剣士「灯りがろうそくだけっていうのも不気味だな」
僧侶「なにか出てきそうです…」
老兵「……」キョロキョロ
剣士「トラップの類いはなさそうだな」キョロ
老兵「逆に気味が悪い」
剣士「ああ…まるで来ることを望まれているようだな」
老兵「何故だ?」
剣士「オレも知りたい」
僧侶「わたしも、どうしてこんなことをしているか不明です…」
剣士「一番奥に部屋が――」
老兵「用心しろ」
剣士「忠告ありがとう」ゴクリ

976:1:2012/08/29 21:29:11.24 ID:TQPwLVvAO
僧侶「……」
剣士「僧侶は、どうやって大臣と知り合ったんだ?」
僧侶「い、今それいいますか?」
剣士「緊張しすぎで気をそらしたいんだよ現実から」
僧侶「それもそれでどうなんでしょうね…」
僧侶「わたしは元々孤児でした。それで、戦争が終わる前に大臣さんにあったんです」
僧侶「『願いはあるか』と聞かれて――わたしは、『みんなの怪我を治したい』といいました」
僧侶「その時、小瓶にいれられた液体を飲むようにいわれて――」
剣士「飲んだのか」

978:1 ミス:2012/08/29 21:34:51.50 ID:TQPwLVvAO
僧侶「いいえ。その時は飲みませんでした」
剣士「え?」
僧侶「というより、引っ込められたんです」
老兵「引っ込められた?」
僧侶「それからわたしに、『“僧侶”になりたいか』と言いまして。頷きました」
剣士「そしたら?」
僧侶「引き取られました。それで、いくつか治癒魔法を習ったり」
老兵「大臣から?」
僧侶「いえ、専門の人からです。確か三つ子でした」
剣士「三つ子ってすごいな」
僧侶「ええ。ちょっとうざったい人たちでした」

979:1 :2012/08/29 21:38:48.31 ID:TQPwLVvAO
老兵「それで“僧侶”として?」
僧侶「まだです。…女ですから魔力はありませんし、かすり傷を治すのでやっとでした」
剣士「……」
僧侶「それで、大臣さまからとある液体をもらったんです。なんでも、魔力を出すものとか」
老兵「へぇ」
僧侶「それを飲んだら今みたいな治癒魔法を使えるようになったんです」
剣士「……僧侶にとって」
僧侶「はい」
剣士「大臣は、どんな存在だ?」
僧侶「――お父さん、みたいな存在でしょうか」
剣士「……そうか」

980:1 :2012/08/29 21:41:16.13 ID:TQPwLVvAO
剣士「先に謝っとく。ごめん」
僧侶「え?」
老兵「……」
剣士(大臣を切ったら僧侶に嫌われるだろう)
剣士(でも――“剣士”は情に流されてはいけないんだ)
剣士「」ピタ
僧侶「ここですね…ここしかありませんが」
老兵「鍵は?」
剣士「開いているみたいだ。――離れててくれ」
――キィ

981:1 :2012/08/29 21:47:05.52 ID:TQPwLVvAO
見張り「来たか。やれ!」
見張りB〜G「オオ!!」バッ
剣士「っちくしょ!」シャキン
老兵「懲りずに続々と!」シャキン
 ふと僧侶は左側の壁が気になった。
 何故だろう。とても嫌な予感がする。
 交戦する剣士たちの背中を眺め、決心したようにふたりの襟首を背伸びしてつかむ。
 そのまま後ろに倒れ込んだ。
老兵「な―――」
剣士「そうり―――」
 文句が最後まで出るのも待たずに、鼓膜を震わす破壊音が牢に響いた。
 さっきまで剣士と老兵がいた場所が瓦礫で埋もれていた。

982:1 :2012/08/29 21:55:33.57 ID:TQPwLVvAO
剣士「」
老兵「」
僧侶「だ、誰が……!?」
 僅かにかぶった砂や小石を払いながら立ち上がる。
 ここだけは丈夫なランプだったようで、辺りが無事に明るくまず安心する。
 奥の鉄格子の向こうにはポカンとする国王と動かない青年がいたが今は後回しにする。
 この惨事を起こした主が敵かもしれないのだ。
 ぽっかりと空いた穴の向こう、異形のシルエットが浮かび上がった。
 人の形と、そこから生える翼。
「ムチャクチャダヨ!トイウカ、キシカンアルヨ!」
「気のせいじゃないか?」
 そして、異形のものは僧侶を見て軽く手をあげる。
 どこか鳥の手に見えるのは気のせいだろか。
魔法使い「やあ、僧侶。ごめん、平気だった?」
 いっそ、その姿は恐ろしさを通り越して美しかった。


魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」魔法使い「…ああ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346245762/

4:1:2012/08/29 22:31:10.28 ID:TQPwLVvAO
僧侶「魔法使い…さん」
魔法使い「うん」
僧侶「どうしたんですか…先ほどより、外見が…」
魔法使い「なんだかこんな姿になってた」
 瓦礫を踏み越え、鉄格子に近寄る。
 国王は顔面蒼白でパクパクと口だけ動かすのみ。
魔法使い「魔王」
魔王「……」
魔法使い「どうした?」
国王「ま、魔王は……」
 震えながら国王は声を絞り出した。
国王「その水晶玉に、生命力を吸いとられておる」

5:1:2012/08/29 22:34:19.01 ID:TQPwLVvAO
魔法使い「…あれですか?」
 光る透明な球を尖った爪先で指差す。
国王「そ、そうじゃ」
魔法使い「生命力をとられたら、死ぬのですか?」
国王「ああ。助けるなら早く助けないと、危険な状態じゃぞ」
剣士「ま、魔法使い!鍵ならこれらのうち一つにあるぞ!」
魔法使い「ありがとう。でもいらない」
 言った瞬間、ぐにゃりと鉄格子を曲げた。
 その場の全員が黙った。
 そのまま牢の中へ入り、魔王の前に片膝をつく。

6:1:2012/08/29 22:40:33.52 ID:TQPwLVvAO
魔法使い「…生きてる」
 彼の口元に手をあて呼吸を確認すると安心したように息を吐く。
魔法使い「『勇者の剣』に串刺されたりして災難だな、あなたは」
 そして足元の水晶に視線を落とした。
 そっと指先で触れると軽く電気が流れた。防御魔法は弱いみたいだ。
魔法使い「蝙蝠」
蝙蝠「ドシタノ?」
魔法使い「ちょっと離れていてくれ。危険だから」
蝙蝠「ウン」パタパタ
剣士「……魔法で砕くのか?」
魔法使い「ううん。魔法を跳ね返す術があるみたいだ」
剣士「じゃあどうやって」
魔法使い「こうやって」

7:1:2012/08/29 22:44:44.31 ID:TQPwLVvAO
魔法使い「ふっ!」
 渾身の力をこめて水晶玉を殴った。ヒビが入った。殴った。砕いた。
 破片が手に突き刺さるのも構わずに、何回も何回も拳を降り下ろす。
 粉々になって、ようやく手を止めた。
 光は既に消え失せていた。
魔法使い「魔王」
魔王「……」
魔法使い「魔王!」
 のろのろと魔王が顔をあげる。
 金色の瞳に混血の少女が写る。
魔王「……魔法使い、か?」
魔法使い「…良かった…間に合ったか」
 脱力したように魔法使いはへたりこんだ。

18:1:2012/08/30 20:35:00.04 ID:XKrELNSAO
魔王「ずいぶんと激戦を潜り抜けてきたみたいじゃないか」
魔法使い「踏み越えてきた、と言った方が正しいかもな」
 一度振り返って剣士たちが国王の元に走り寄るのを見たあとにまた魔王へと視線を合わせる。
魔法使い「顔、腫れてるぞ」
魔王「やっぱりか。そっちもしばらく見ないうちに変わったな」
魔法使い「ああ、正直自分でも驚いている」
 魔法使いは立ち上がり、魔王の脇腹に突き刺さる剣の柄に手をかけた。
魔法使い「抜くけど覚悟は出来てる?」
魔王「一思いにやってくれ」

19:1:2012/08/30 20:39:43.88 ID:XKrELNSAO
魔法使い「――やるぞ」
 腕に意識を集中させ、なるべくまっすぐに抜けるように調整する。
 そして思い切って引っ張った。
魔王「っ」
魔法使い「わぁっ」
 勢いで後ろに倒れた。
僧侶「魔法使いさん!?」
魔法使い「あいたた…尻餅ついただけだから…」
 不思議と剣が手に馴染むが、今はそんなことよりも魔王の傷だ。
 鎖で押さえつけられてるために傷口に手を添えることもできない。
魔法使い「なんで…あなたは傷がすぐ治るんじゃないのか」