Part21
782:
1:2012/08/21 23:18:23.98 ID:H1rROV4AO
戦士「この森に元々住んでいる魔物じゃないんだな?」
魔法使い「違う。この森は小さい魔物がほとんどだから
ボンッと。
当たったら爆散しかねない攻撃が四方から二人に向かってくる。
魔法使い「触るなよ!」
魔法使いも光の球をいくつか出現させ、当てさせた。
強い風と砂ぼこりが舞う。
戦士「来る!」
砂ぼこりを掻き分け、敵が踊りかかってくる。
見る限り全員魔物だ。
魔法使い「了解!」
背中あわせになり戦士は拳で、魔法使いは強化した杖で相手を砕いていく。
783:
1:2012/08/21 23:23:13.57 ID:H1rROV4AO
殴り、叩き、突き刺す。
悲鳴と肉が潰れる音が断続的に響いていた。
魔法使い「ようやく半分だ」
戦士「気を抜くな」
足下からきた魔物を蹴り飛ばす。
魔法使いは魔法で石を浮かし、執拗に魔物へ当てていく。
数は減ってきた。
しかし疲労は重なっていく。
戦士「あっぐぅ!?」
魔法使い「戦士!?」
戦士「足をぶっ刺された…くそったれ!」
何かを殴打する音が背中から聴こえる。
しかし魔法使いも魔法使いで絶え間なくくる攻撃で振り向けない。
784:
1:2012/08/21 23:28:23.64 ID:H1rROV4AO
戦士「くっそ…」
戦士(足の感覚がほとんど消えた。立つのでやっとだ)
魔法使い「悪い、あとで薬草を渡す、今は辛抱してくれ!」
戦士「……わぁったよ。っと」
首筋に噛みついてくる魔物に容赦なく頭突きをした。
足の血が止まらない。
間隙を縫って布で止血を試みたが、深すぎるようだ。
戦士「……」
魔法使い「っ」
魔法使いが息を飲む。
魔法使い「最後の切札か!」
見れば、残った五体が突き出した手に魔力を込めていた。
785:
1:2012/08/21 23:34:17.53 ID:H1rROV4AO
邪魔をしようと杖を振り、
魔法使い「っぐ」
五体のうちの一体が攻撃をしかけてきた。
魔法使いの腕と手の甲が裂けた。
直後に二体が崩れ落ちたが、残りの魔物たちは気にするようもない。
いや、むしろ。
今がチャンスとばかりに、飛びきり大きい攻撃の球を送り出す。
魔法使い「――させるか」
応戦。
二つの球はぶつかり合い牽制しあう。
魔法使いがさらに力を放出すると魔物側の球は圧されていく。
あともう一押し、というところで。
786:
1:2012/08/21 23:39:04.14 ID:H1rROV4AO
魔物「魔王、捕ラエタ」
魔法使い「―――は?」
瞬間、集中力が途絶える。
それに気づいたころにはもう魔法使いの目前に死が迫っていた。
戦士「魔法使い!!」
横から強い力で押された。
堪らずに数メートル吹っ飛ぶ。
振り向いて、彼の姿を認める。
球に真正面から立ち向かう戦士を。
魔法使い「せん――」
ゴウッという音がやけに耳に焼き付いた。
787:
1:2012/08/21 23:44:18.51 ID:H1rROV4AO
轟音。
強い光があたりを照らす。
一通り落ち着いたあと、魔法使いは唇を震わせながら呼ぶ。
魔法使い「戦士……?」
砂ぼこりを手で払うように振ると、すぐさま視界が透明になる。
人間が横たわっていた。
魔法使い「うそ」
両腕の肘から下がない。
あちこちが焼け焦げ、悲惨な有り様だった。
魔法使い「戦士!なんで!」
胸元を叩いて呼びかける。
薬草でどうにかなるレベルの損傷ではない。
戦士「………い…」
魔法使い「戦士!」
戦士「あ……オレ、原型残っ……さすが、強化……魔法…」
788:
1:2012/08/21 23:47:54.24 ID:H1rROV4AO
魔法使い「なんで…なんで私を!」
戦士「女に……戦わせん……の、恥、だから」
魔法使い「誇りのためか!?でも、結果がこれだ馬鹿!」
戦士「……オレ、さぁ……勇者、になりたくて………」
戦士「でも、なれなくて……さ」
魔法使い「……」
戦士「あんな…こと、した……償い……」
魔法使い「私を殺さないのか。大臣を殺さないのか!?」
戦士「足……も、ダメだったから。動くの、無理……だった」
魔法使い「……」
戦士「足手、まとい、よりは、いいだろ?」
789:
1:2012/08/21 23:50:57.05 ID:H1rROV4AO
魔法使い「馬鹿……お前なんか見とりたくなかった」
戦士「オレも……できれば、王女、さまが、良かった、なぁ……」
魔法使い「あはは…わがままなやつ」
戦士「なぁ……オレから、必要なの、持ってけ…」
魔法使い「ああ」
戦士「埋めなく……いいから…体力、使う」
魔法使い「ああ」
戦士「勝てよ」
魔法使い「必ずだ」
戦士「……僧侶と、剣士にも……よろしく」
魔法使い「分かった」
戦士「………」
魔法使い「………」
魔法使い「止まった」
790:
1:2012/08/21 23:56:44.15 ID:H1rROV4AO
見渡せば、魔物が増えていた。
ちらほら人間も見える。
騒ぎで集まってきたらしい。
魔法使い「……もっと早く魔物化していれば良かったな…」
魔法使い「でもなんでか……感情が高ぶらないとなれないんだよ、戦士」
魔法使い「ごめんな。都合が悪いやつで、ごめん」
翼が少女の背から生える。
鷲の大きく獰猛な翼が。
魔法使い「一人で逝くのは寂しいだろ?すぐ賑やかにしてやるから」
一対数十。
圧倒的な数の中、魔法使いは笑った。
791:
1:2012/08/22 00:03:40.90 ID:aUuKbk4AO
――酒場
僧侶「あ」
剣士「どうした?」
僧侶「いえ…なにか、今、感じまして」
剣士「感じた?」
僧侶「…『戦いの中死ぬなら本望だ』」
剣士「……それ、戦士が昔言ってたやつ?」
僧侶「あれ、そうですね。なんで突然こんなことを…」
剣士「……」
僧侶「……」
剣士「…なんか、胸がざわめく夜だ」
僧侶「ええ…」
802:
1:2012/08/22 22:59:19.66 ID:aUuKbk4AO
――城のそばの森
魔法使い「はぁ……はぁ……」
血まみれだった。
彼女自身の血と彼女のではない血で。
まだ息のある人間を見つけ、胸ぐらをつかんで中吊りにした。
魔法使い「教えろ。魔王が捕まったとはどういうことだ」
生き残りの兵「ひっ…自分は何も知らねぇ!ただ、魔王を誘き寄せたとは聞いたが…」
魔法使い「誘き寄せた?一体どうやってだ」
生き残りの兵「わ、分かんねぇ……本当だよ、分かんねぇんだ…」
魔法使い「そうか」
そのまま落とした。
「ぐぇ」と足下から声がしたが気にしない。
803:
1:2012/08/22 23:04:23.57 ID:aUuKbk4AO
生き残りの兵「頼むよ……見逃してくれないか」
魔法使いの足首にすがって人間は言う。
魔法使い「……」
生き残りの兵「妻子がいるんだよ……」
魔法使い「勝手にしろ」
足首に絡まる手を振り払い、完全に興味をなくして踵をかえした。
生き残りの兵「なぁんてな化物がァァァァァ!!」
隠し持っていたナイフで人間が魔法使いの首筋を狙う。
素早い動きで彼女は振りかえると、ナイフをかわしつつ右手を固めて顔面を殴った。
湿った嫌な音がした。
804:
1:2012/08/22 23:09:26.15 ID:aUuKbk4AO
魔法使い「これで終わりか」
魔法使い「みんな死んじゃった」
感情もなく呟くとそのまま崩れ落ちた。
魔法使い(まおう……)
魔法使い(まおう、あぶないなら、たすけにいかなきゃ)
しかし手はおろか身体に力が入らない。
魔法使い「バッカだなぁ――体力使い果たした…」
夜風がふいて魔法使いの短い髪を優しく撫でた。
静かだった。
??「うわ、すごいな」
意識のどこかで声が響いた。
805:
1:2012/08/22 23:16:44.73 ID:aUuKbk4AO
魔法使い「……あなた、は」
黒髪の男「よー」
魔法使い「こんばんは…」
黒髪の男「魔力使い果たしたな。頑張りすぎだろ」
魔法使い「はは…」
黒髪の男「力が欲しいか」
魔法使い「怪しい匂いしかしないのでいいです」
黒髪の男「単純に魔力だよ、魔力」
魔法使い「いいです」
黒髪の男「大丈夫大丈夫。――ちっと俺の魔力を渡してほしい奴もいるし」
魔法使い「話だけは聞きましょう」
黒髪の男「目が虚ろなんだが。生きてるか?おーい」
806:
1:2012/08/22 23:22:38.33 ID:aUuKbk4AO
魔法使い「行かなきゃ…」ググ
黒髪の男「そんなボロボロでか?」
魔法使い「国が……魔王が……」グググ
黒髪の男「やめな姉ちゃん。死ぬぜ」
魔法使い「え……性別」
黒髪の男「俺にはお見通しだよ。なんでもな」
魔法使い「……」バタッ
黒髪の男「あ、死んだ」
黒髪の男「……生きてた生きてた、びっくりした」
黒髪の男「少し寝てろよ姉ちゃん。まだ始まってすらないぜ」
黒髪の男「っと、傷口失礼……」
指で皮膚を噛みきり、魔法使いの傷口と接触させる。
魔法使い「ん……」
黒髪の男「いま渡した魔力の半分は魔王にやってくれ」
魔法使い「あなたは…誰なんですか?」
807:
1:2012/08/22 23:29:05.57 ID:aUuKbk4AO
質問しながら意識が沈んでいく。
手足の隅々が暖まっていくのをぼんやり知覚する。
本当に魔力を流し込んでいるのか。
黒髪の男「知りたいか。知りたいよな」
なにか言っている。
でももう眠気が限界だ。
月を背にしたその姿がとても誰かにそっくりだった。
その誰かの名前もモヤがかってきている。
それでもその誰かの、あの金色の瞳が見たかった。
黒髪の男が何やら言ったとき、魔法使いの意識は深く落ちた。
黒髪の男「俺はほんの少し前まで魔物の国を治めていた、王だよ」
808:
1:2012/08/22 23:34:48.13 ID:aUuKbk4AO
――同時刻、魔王城で
魔大臣「魔王さまが……?それは本当か?」
鳩「クルッポー」
魔大臣「勇者の剣…!?そういやあんなもんあったか」
鳩「クルッポー」
側近「兵の収集を頼む。女子供はいいから」
鳩「クルッポー」バサッ
トロール「するト?」
人魚「…どうする?」
魔大臣「決まっているだろう」
側近「人間の城に行くぞ」
809:
1:2012/08/22 23:44:44.41 ID:aUuKbk4AO
――人間の城、牢
国王「…………で」
魔王「なんだ」
国王「何やっとるんじゃお主は…」
魔王「捕まった」
国王「魔王はそんなにあっさり捕まるものか!?」
魔王「傷口に響く。もっと静かに話してくれ、人間の王よ」
国王「激戦と聞いたが……」
魔王「おれ対二百な。しかも対魔物用の矢」
国王「……」
魔王「不意討ちの不意討ちの不意討ちで脇腹にこれ――『勇者の剣』を刺されてな」
国王「……」
魔王「後は分かるだろ」
国王「いや、分からん」
810:
1:2012/08/22 23:51:01.40 ID:aUuKbk4AO
魔王「理解力のないじいさんだな」
国王「どうして畏怖されてきた魔王が全身ボロボロなのか理解できんのじゃ…」
魔王「簡単だよ。刺されたとたん、力をほぼコイツが封印してただの人間当然となって」
魔王「残ってた十二人に殴る蹴るされていた。ざっと二時間」
国王「ということは最後の力を振り絞ったんじゃな…」
魔王「その頃には疲れていたしな」
国王「しかし、さっきお主を連行してきたのは大臣含め六名じゃったが」
魔王「四人死体にして三人足もいでおいたからな」
国王「うわぁ」
811:
1:2012/08/22 23:54:58.09 ID:aUuKbk4AO
魔王「あー、でもしくったな。あいつら上手くやれてるかな」
国王(すごく人間味があるのう……)
魔王「じいさん、これ抜いてくれないか」
国王「互いに鎖に繋がれてるから無理じゃな」
魔王「おれとか身動ぎすらできない。待遇の改善を訴えるべきだな」
国王「……」
魔王「というよりこれ、後ろに突き刺してるのか?馬鹿か?抜けないだろ」
国王「しかし不思議じゃな……なぜ“勇者”でもないのに使えたのか」
812:
1:2012/08/23 00:04:13.63 ID:q5pwSgPAO
魔王「触るだけならできるヤツもいるだろうさ。人間に関わらず魔物だって」
国王「そ……そうなのか」
魔王「ただ使えるかは別問題だ。今回は魔法を使って飛ばしてきやがった」
国王「とんでもない戦闘じゃったんだな……」
魔王「まあな。魔力封じられてるから傷も治らない。不便だ」
国王「…“勇者”はよくこんな奴と戦えるのう…」
魔王「だったら送り込むのやめろよ。前代国王は“勇者”を送り込まなかったぞ」
国王「新しい“魔王”になったって聞いたから早めに潰そうと…」
魔王「“勇者”のほうが先に潰されたが」
813:
1:2012/08/23 00:14:46.36 ID:q5pwSgPAO
国王「あれ、一体何が問題だったんじゃろうな……」
魔王「人材」
国王「……」
魔王「さらに言うなら、国王の判断ミス」
国王「やめてくれ!こんなことになってるから凹んどるんじゃて!」
魔王「暇だから仕方ない」
国王「暇だから人の心を抉っとるのか!」
魔王「いいじゃねぇか。ボケ予防になるんじゃないか」
国王「逆にストレスばかりが溜まりそうで嫌なんじゃが」
魔王「王はそんなもんだろ」
国王「だれのせいじゃだれの」
見張り(仲良しだなー)