Part20
743:
1 :2012/08/19 22:24:29.73 ID:og8I/D6AO
メイド長「いいのか?来なかったらお前の可愛い部下は酷い苦しみの中死ぬぞ」
魔王「はん。三流の脅し文句か」
メイド長「本気だ。お前みたいなたかだか百歳二百歳の若造にはまだ未経験だろうがね」
魔王「……」
メイド長「さぁ宣戦布告もすんだ。ああ、残念ながら私が呼んだのは魔王だけだから、」
魔王「一人で来いってことだろう?そのぐらい予想できるさ」
メイド長「なら話は早い。来いよ、じゃないと…」
魔王「チョップ」ビシ
メイド長「鈍痛。わたくしはいったいなにを?」
魔王「何も。早く行こう、時間がない」
744:
1:2012/08/19 22:34:05.39 ID:og8I/D6AO
――魔王城医務室
医師「呪いです。無理矢理解除したら、命に関わるほど強力な」
魔王「嘘ではなかったか」
医師「はい?」
魔王「なんでもない。こちらの話だ」
医師「解決を急いでいますが……どうしたらいいものか」
魔王「なんとかする」
医師「魔王さま?」
魔王「なんとかしてくる」
745:
1:2012/08/19 22:41:47.33 ID:og8I/D6AO
――会議室
側近「魔王さま!ゴブリンが!」
魔王「…どうした?」
トロール「いきなり倒れて…意識が戻らなイ」
人魚「突然、突然に魔法が…巧妙な時限制の魔法だったみたいで…」
魔王「昏倒の呪文か…おい、ゴブリン」
ゴブリン「」
魔王「起きろ。聞こえるか、起きろ」
人魚「……っ」
ミノタウロス「チクショウ…!」
側近「……」
魔王「…彼を医務室に。おれは出掛けてくる」
側近「魔王さま、お一人で、ですか?」
魔王「ああ」
746:
1:2012/08/19 22:50:04.82 ID:og8I/D6AO
魔王「兵は側近、魔大臣で指揮をしろ」
側近「…は?」
魔大臣「えっ?」
魔王「もしも敵からおれの名前を出されても惑わされるな」
人魚「魔王さま!?いったい何を!」
魔王「なに、大切な部下たちに手を出されたお礼にいくんだよ」
ミノタウロス「大切な部下って、え、」
トロール「自分たチ?」
魔大臣(な、なんか嫌な前触れのデレかただな…)
魔王「ゴブリンの扱いは丁寧にな。お前らも無理をするな」
人魚「……ま、待って下さい!なんで今、そんなことを…」
魔王「なに、ちょっと遊びに行ってくるだけだ」バタン
側近「魔王、さま…」
747:
1:2012/08/19 23:04:01.31 ID:og8I/D6AO
――魔王城通路
サキュバス「魔王さま!」
魔王「サキュバスか。非戦闘員は安全な場所へ行け」
サキュバス「どこにいくの!?どうして皆を頼らないの!」
魔王「危険だ」
サキュバス「あたしたちは喜んで危険に飛び込むわよ!」
魔王「おれが良くない」
サキュバス「あなたが優しいのよ!魔王はもっと残酷であるべきだから!」
魔王「ふん。30年前、敵味方諸とも吹き飛ばしたおれが優しいと?」
サキュバス「優しいわよ…優しくなかったら、孤児になったあたしを城にいれてくれなかった」
748:
1:2012/08/19 23:09:05.52 ID:og8I/D6AO
魔王「……そんなこともあったな」
サキュバス「いかないで。事情はあるだろうけど――みんなを率いて戦って」
サキュバス「お願い、一人で戦わないで」
魔王「おれは一人じゃない。お前らがいるかぎりな」
サキュバス「またそんな…」
魔王「それに部下に手を出されたんだ。このまま黙っていられない」
サキュバス「あなたは…優しくて、脆くて、鈍感」
魔王「そうか」
サキュバス「でもそういうところも好きなのよ、魔王さま」
魔王「すまんな。他に、特別な相手がいるんだ」
サキュバス「なら仕方がないわ。寝取りは嫌いなの」
749:
1:2012/08/19 23:14:59.92 ID:og8I/D6AO
魔王「でも気持ちは嬉しい」
サキュバス「すっぱり断りなさいよ☆」
魔王「じゃあ行ってくる」
サキュバス「ええ。――ちゃんと帰ってきてね、お兄ちゃん」
魔王「懐かしいな」
サキュバス「あの頃は偉いひととは思わなかったからね〜」
魔王「じゃ」
蝙蝠「トウッ」パタパタ
魔王「皆によろしく伝えてくれ」シュンッ
サキュバス「……」
サキュバス「えっ、今なんかいた?」
756:
1:2012/08/20 21:39:18.80 ID:f/AiJ6RAO
――どこか
魔法使い「そうだ、城へ行こう」
戦士「軽いな」
魔法使い「状況が不明なところに乗り込むのは気乗りしないが仕方ない」
戦士「さすがに城はまだ大臣の手に落ちてないんじゃないか?」
魔法使い「どうなんだろうな。大臣はかなり汚い奴だから」
戦士「お前本当に嫌いなんだなあいつ」
魔法使い「戦士のほうがまだ二割はマシだ」
戦士「そうか、やっぱり予定を変更してここで殺るわ」ブォン
757:
1:2012/08/20 21:43:44.04 ID:f/AiJ6RAO
魔法使い「仲間割れをしている場合じゃない。…仲間というものなのかは知らんが」
戦士「自分の発言を見直してから仲間割れ云々言えよな」
魔法使い「話を戻して、だ。下手すると城の人間達が私たちの敵になっている可能性もあるぞ」
戦士「…冗談でもそういうのはやめろよ。頼るところがねーじゃん」
魔法使い「そうだな。じゃあ城に行くか」
758:
1:2012/08/20 21:46:29.70 ID:f/AiJ6RAO
戦士「待て。自分で話しときながらそれか。負ける。絶対負ける」
魔法使い「“戦士”だろ?負けるなんか思うな」
戦士「二対何百何千の兵で勝てると思ってんのかアホ!」
魔法使い「全てに立ち向かわなくてもいいじゃないか」
戦士「へ?」
魔法使い「なにをそんな几帳面に戦う必要がある?」
戦士「これだから魔王討伐の時からお前が苦手だったんだよ…」
魔法使い「なんだ、苦手だったのか」
戦士「お前の料理もろもろにな」
759:
1:2012/08/20 21:51:31.35 ID:f/AiJ6RAO
戦士「あのな、“戦士”は戦うことが誇りなんだ。戦わない道を選択するなんて恥だ」
魔法使い「じゃあいますぐその誇り捨てろ。まあ戦士のばあい埃被ってるだろうが」
戦士「無茶ぶり言うな!あとそのうまいこと言ったって顔やめろ!むかつく!」
魔法使い「冗談はともあれ、誇りに縛られてたら死ぬぞ。特に今回は」
戦士「……」
魔法使い「何も考えず戦えないんだよ。殴りあうだけじゃ駄目だ」
魔法使い「それに大臣はさっきも言ったように汚い奴だ」
760:
1:2012/08/20 22:02:27.25 ID:f/AiJ6RAO
戦士「……分かったよ!そんな説教しなくてもいいじゃねーか」
魔法使い「悪い」
戦士「しかし本当に二人だけで行くつもりか?」
魔法使い「……助っ人が欲しいところだがな」
戦士「ちょっと待ってみよう。この流れならもしかしたら助っ人が来るかもしれない」
魔法使い「そうだな」
一分経過。
戦士「んなわけねーだろうが!!」
魔法使い「言い出しっぺのくせに何を言っているのやら」
戦士「都合良く助っ人なんか来るわけないよな!」
761:
1:2012/08/20 22:09:55.37 ID:f/AiJ6RAO
魔法使い「追っ手は来たけどな」
戦士「無駄話しすぎた」
魔法使い「うまくひっかかるといいが」トントン
戦士「……杖、新しくしたのか?」
魔法使い「ないと色々困るし」
前方を見やれば追っ手がかけてくる。
戦士「おい、やばいんじゃ…」
魔法使い「大丈夫。走っていれば弓矢は使えないし」
距離、五十メートルになって。
魔法使いが一段と強く杖で地面を叩いた。
がばっと地面に穴が開く。
追っ手は抵抗できずに飲み込まれて消えた。
762:
1:2012/08/20 22:15:30.82 ID:f/AiJ6RAO
戦士「……死んだのか?」
魔法使い「いいや。数日後にここから吐き出されるよ」
戦士「お前、すげー魔法使うんだな」
魔法使い「そりゃどうも。じゃあ、城に行こうか?」
そういってずりずりと地面に円を書き始めた。
戦士「なにしてんだ…?」
魔法使い「魔法との相性が悪くて思うままに使えないんだよ」ガリガリ
魔法使い「だからこうやってわざわざ陣を地面に書いているわけ」ガリガリ
魔法使い「最近魔法陣でも正確に転移できる魔法を教わったし」ガリガリ
戦士「…何か大変だな」
魔法使い「武器との相性みたいなもんさ」
763:
1:2012/08/20 22:21:09.48 ID:f/AiJ6RAO
魔法使い「できた」
戦士「大丈夫なんだろうな」
魔法使い「いけるだろ、多分」
戦士「不安すぎる」
魔法使い「位置的には城のそばに転移するぞ。いいな」
戦士「その方がいいだろ。なあ、これって衝撃とかあ―――」
シュンッ
764:
1:2012/08/20 22:49:00.16 ID:f/AiJ6RAO
――人間の城、門前
魔王「……」シュンッ
魔王「ここか」
城門を一睨みして、魔王は歩き出した。
よく“魔王”の外見を思い浮かべるとき、人間が考えがちなマントはない。
そのため一見すると、真っ黒な出で立ちの青年が城へ歩いているように見えなくもない。
魔王「……」
夜風が彼の髪を荒らす。
もうじき月が真上にかかるだろう。
胸元の真珠に気づいて魔王は苦笑をもらす。
魔王「まだ返してなかったな」
それきり表情を消し去って、彼は闇へ消えた。
765:
1:2012/08/20 22:58:01.05 ID:f/AiJ6RAO
だが。
彼は多くの騒ぎの中で失念していた。
“魔王”は無敵だ。どんな傷もたちどころに治す。
そんな治癒効果すら、もっといえば“魔王”そのものの力を
封じ込めてしまう代物があることを頭の隅に置きっぱなしにしていた。
それが今入った城にある。
これから会うことにある大臣がそれを持っている。
――魔王が“勇者”と一度でも斬り結んでいれば。
それ専用の対策をとっていただろう。
だが彼は若すぎたのだ。“魔王”として。
すなわち、その名は。
766:
1:2012/08/20 22:58:49.51 ID:f/AiJ6RAO
―――『勇者の剣』
767:
1:2012/08/20 23:01:10.51 ID:f/AiJ6RAO
…
蝙蝠「ハッ」パチ
蝙蝠「チョットショウゲキガ、ツヨカッタヨ」
蝙蝠「アレ。マオウサマ、イッチャッタノカナ?」
蝙蝠「オイカケナクチャ。ボク、コノアタリシラナイシ」
蝙蝠「スッカリヨルダネ。ヨルハ、スキ」パタパタ
蝙蝠「マオウサマー」パタパタ
775:
1:2012/08/21 22:26:59.00 ID:H1rROV4AO
――酒場
僧侶「……と、いうわけなんです」
マスター「なるほど」
僧侶「信じていただけるのですか?」
マスター「先ほどの奴等を締め上げたら同じ事を言っていたからね」
僧侶「締め上げた?」
剣士「気にしなくていい。マスターと仲良くなりたいなら」
僧侶「は、はぁ」
剣士「にしても大臣はなにをしようとしているのやら」
僧侶「それはわかりません。力を…とにかく、強い力が欲しいようでした」
マスター「力ねぇ」
777:
1:2012/08/21 22:40:00.03 ID:H1rROV4AO
「国王とかやばいやん」
「魔王も狙われてるんだろ?すげーな」
「早くなんとかしないと」
剣士「表だって何もされてないんじゃ手の出しようがない」
マスター「だな。しらばっくれられたらそこまでだ」
「目つけられるかもだしな」
「大人ってめんどくさい」
ザワザワ
剣士「あ、じゃあこうしよう」
僧侶「?」
剣士「魔物が城を襲おうとしているって偽の情報を言えばいい」
マスター「ほう」
剣士「そのために警備してるんです→内部探りという感じで」
778:
1:2012/08/21 22:50:08.99 ID:H1rROV4AO
マスター「うまくできるかどうかは分からないが…やってみる価値はある」
「なんたって国王が危機だしな」
「王女さん大丈夫かな」
僧侶「で、でもそれだと魔物の怒りを…」
マスター「なんなら話せばいいさ、さっきの話を」
僧侶「聞いてくれるでしょうか…」
剣士「賭けだな。魔王も大臣に侮辱されたも当然だから攻撃ぐらいはするかも」
マスター「ついでにこちらの被害も未知数、と……」
僧侶「……」
剣士「とりあえず、ありったけの兵力を集めよう。明日の朝までにだ!いいな!」
779:
1:2012/08/21 22:54:53.58 ID:H1rROV4AO
「おう!」
「連絡してくる」
「憲兵隊にも」
剣士「表向きは『魔物に攻められそうだから』な。誰が密告するか分からないから」
剣士「武器の手入れと食料もだ。いつ何がおこるか分からないぞ!」
「了解!」
「行くぞ!」
僧侶「…剣士さん、人望ありますね」
マスター「あれでも隊長候補だ。変に抜けているのが不安だがね」
僧侶「そうなんですか…」
僧侶(ちょっとかっこいいです、剣士さん)
僧侶(ところで魔法使いさんは今なにをしているのでしょうか…)
780:
1:2012/08/21 23:01:17.42 ID:H1rROV4AO
――城のそばの森
シュンッ
魔法使い「少し遠すぎたか」
魔法使い「ふむ……移動にてこずりそうだな。城につくまで何があるか」
魔法使い「戦士はどう思う?」
魔法使い「戦士?」
戦士「オロロロロロロロ」
魔法使い「なに吐いているんだ。武者震いならぬ武者吐きか」
戦士「ちげぇ!衝撃がやばすぎて気持ちわオロロ」
魔法使い「あのぐらい耐えろよ」
戦士「逆によく耐えられるな!毎日やったら死ぬわ!」
魔法使い「そうか、初心者にはきつかったか。私は耐性があるんだろうな」
781:
1:2012/08/21 23:07:30.79 ID:H1rROV4AO
戦士「移動は…確かにめんどいな。行くまでに襲撃されたら困る」
魔法使い「もう一度転移か」ガリガリ
戦士「待った、それで敵の中に放り込まれてもしばらく動けないぞ」
魔法使い「…そうか。無理矢理身体動かせと言っても、動かないもんは動かない」
戦士「地道に行くしかないな」
魔法使い「その前に」
戦士「ああ」
魔法使い「――周りを囲んでいる連中を始末しないとな」
戦士「そうだな」