Part18
664:
1:2012/08/14 22:36:05.64 ID:DibcIHbAO
――魔王城
人魚「――つまり、スパイがいたってこと?」
魔大臣「そう。人間側と、反魔王派のふたつだ」
ゴブリン「なんでスパイが今頃見つかったんだ?」
魔大臣「今頃、というより今まで泳がしていた」
側近「魔大臣と一応の検討はつけていたが、いかんせん証拠がなくてな」
魔大臣「証拠なしで疑惑なんかかけたら問題が起こる。だから手を出せなかったんだ」
トロール「証拠がつかめたト」
魔大臣「そういうこと」
665:
1:2012/08/14 22:43:31.89 ID:DibcIHbAO
ミノタウロス「ってことは自分からゲロったと」
魔大臣「うーん…当たらずとも遠からず…だな」
側近「自分からゲロらせた、というべきかなんなのか…」
ミノタウロス「?」
側近「本人からのほうが話が早いだろうな。いつまでそこで盗み聞きしてるんだ」
サキュバス「えへへ☆入り時を見失っちゃってた☆」ガチャ
人魚「」イラッ
サキュバス「なんと、サキュバスちゃんのお手柄なんですっ!」バ-ン
ゴブリン「は?」
トロール「どういうこト?」
666:
1:2012/08/14 22:48:14.23 ID:DibcIHbAO
魔大臣「サキュバスといったらアレしかないだろ…」
側近「ここまで自分を武器にするとは恐れ入った…」
ゴブリン「ま、まさか」
サキュバス「そっ☆スパイくんたちを片っ端からベッドに呼んで――」
サキュバス「情報と精、搾り取っちゃったよ☆」ツヤツヤ
ミノタウロス「スパイは…どうなったんです?」
ゴブリン「なぜ敬語」
サキュバス「あたし達が本気出したら死んじゃうからね☆一歩手前で止めたよ☆」
トロール「ご愁傷様だネ」
ゴブリン「まったくだ」
667:
1:2012/08/14 22:55:54.99 ID:DibcIHbAO
サキュバス「ところで魔王さまは?」
側近「資料を見に行っている」
サキュバス「残念☆魔王さまと遊びたかったなぁ。性的な意味で」
側近「!?」
ゴブリン「ぶぅーっ!?」
人魚「あ、あんた、まさか魔王さまと寝る気!?許さんわ!」
サキュバス「あれれ〜おばちゃん、嫉妬〜?」
人魚「だ、れ、が、おばちゃんよ!!」バッシャーーン
ゴブリン「ぎゃああぁぁぁぁびっしょびっしょぉぉぉぉぉぉ!!」
魔大臣「真面目に会議できないのかな…」
側近「無理っぽいな」
668:
1:2012/08/14 23:00:06.84 ID:DibcIHbAO
――資料室
魔王「」パラッ
司書「……魔王さまが、ここになんて珍しいですね……」
魔王「司書か。気になることがあってな」
司書「……お調べ物ならなんなりと……」
魔王「じゃあ聞くが、全く魔力のない人間に魔法を使わせる薬はあるのか?」
司書「……“人魚”の時の件ですか……」
魔王「よく知っているな」
司書「……情報を集めるのが我の仕事ですから……」
司書「……あるには、あります……」
魔王「どんな?」
669:
1:2012/08/14 23:06:16.82 ID:DibcIHbAO
司書「……いくつか入手の難しい薬草を、ややこしい調合で混ぜ作るんです……」
魔王「ふむ。そう簡単にはできないってことか」
司書「……はい……」
魔王「副作用はないのか?」
司書「……すぐにはありません。しかし……」
司書「……服用すると短命に…飲んでから十年生きられるかどうか……」
魔王「…無理矢理に魔力をつくる代償が寿命か」
司書「……はい……」
魔王「なるほどな。礼を言う、参考になった」
司書「……勿体なきお言葉……」
670:
1:2012/08/14 23:15:29.25 ID:DibcIHbAO
――街の近く
戦士「久しぶりだな、魔法使い」
魔法使い「何故ここに。牢に入れられたと聞いたが」
戦士「牢から出してもらったんだよ。お前を倒すためにな」
魔法使い「誰に!」
戦士「誰でもいいじゃないかよ……挨拶はここまでだ。行くぞ」ブォン
魔法使い「魔法――!?戦士、お前、薬を飲んだのか!」
戦士「じゃないと勝てないからな。なんにでもすがるさ」
魔法使い「戦士…自分の力で敵に勝つんじゃなかったのか」
戦士「……」
671:
1:2012/08/14 23:21:31.83 ID:DibcIHbAO
魔法使い「鍛錬し、己を磨き、最強を目指すんじゃなかったのか」
戦士「……」
魔法使い「あれらはすべて嘘だったのか!」
戦士「もうあの頃のオレじゃないんだよッ!」
魔法使い「……っ」
戦士「勇者を殺し、盗賊を殺し、僧侶を傷つけ、剣士を騙したオレは――」
戦士「そんな、そんな夢なんて語れる身分じゃないんだよ」
魔法使い「……」
戦士「オレは目的を見失った。狂ったオレ残ったものは――お前への恐怖」
魔法使い「私への……」
672:
1:2012/08/14 23:27:34.53 ID:DibcIHbAO
戦士「だから、殺り合おうぜ。魔法使い」
魔法使い「……」
戦士「オレはお前を殺して、恐怖を殺して、それから生きる目的を探す」
魔法使い「とんでもなく自己中心的だな」
戦士「なんとでも言え――なぁ、お前はオレを殺したらどうするんだ?」
魔法使い「殺さない。せまい牢に生きて、罪に苦しめ」
戦士「ははっ……相変わらずキツい奴だな」グッ
魔法使い「……」
戦士「覚悟しろ――混血っ!」
魔法使い「……っ、来いよ!我が侭に付き合ってやるよ、戦士!!」
681:
1:2012/08/16 22:41:35.39 ID:AFiSOtZAO
顔に打たれるギリギリでくるりと魔法使いは回避した。
魔法使い「っ!」
逃げてもまた追ってきて今度は蹴りを食らいそうになる。
体力は並みの人間より上とはいえ、早めに対処をとらなければいけない。
戦士「逃げてばっかりか!そんなに軟弱なのか!」
魔法使い「安い挑発だな」
魔法陣を戦士の足元に展開させ、爆発させた。
容赦はしない。
そしてこの程度では死なないだろうとも思っている。
戦士「だぁっ!!」
魔法使い「…やっぱりな」
682:
1:2012/08/16 22:51:15.51 ID:AFiSOtZAO
ぴんぴんの姿で砂ぼこりの中から姿を現した。
戦士は目の前に魔法陣を展開させ、それに向かって勢いよく拳を叩きつけた。
それは空気を圧縮させた凶器となり魔法使いに迫る。
が、手を払っただけであっさりと消え失せた。
そもそも基礎が違う。
強い魔力をもち十年も修行に明け暮れた魔法使いと、
薬を飲んでわずかな期間で魔法を使う練習をした戦士。
勝敗は明らかだった。
魔法使い(ま、それも魔力だけならな――)
魔法使い(あっちは身体が武器だから)
683:
1:2012/08/16 23:01:01.19 ID:AFiSOtZAO
一瞬でも油断すれば重い拳の犠牲になるだろう。
よろめいたらそこで終わりだ。抵抗する間もなくひたすら殴られる。
魔法使い(それは、やだなぁ…)
魔法使い(魔物化をすれば一発で倒せるとは思うが)
それは嫌だった。
間違えて戦士を殺してしまう可能性もある。
魔法使い(あと、通行人も巻き添え、に、………ん?)
違和感。
戦士が動きをとめた魔法使いに今がチャンスと殴りかかってきたが撥ね飛ばした。
周りを見回す。
684:
1:2012/08/16 23:04:37.88 ID:AFiSOtZAO
誰もいない。
―――誰も、いない。
魔法使い(戦士にばかり気を取られていたが――これは…)
魔法使い「おい、戦士」
戦士「あ?」
魔法使い「お前は人払いを出来るのか?」
戦士「んなもんするぐらいならもっと技磨いてらぁ」
魔法使い「だよな…そこまで頭が回るほど賢くないよな…」
戦士「なんだとコラ」
うるさいので再び足元を爆発させる。三連発。
魔法使いは熟考し、そして
魔法使い「逃げるぞ、戦士」
685:
1:2012/08/16 23:09:20.77 ID:AFiSOtZAO
戦士「は?」
魔法使い「周りの気配を探ってみろ。武器を持った人間が二十名」
戦士「……マジか」
魔法使い「しかも人払いをかけられているのに、だ。嵌められたな」
戦士「嵌められた?つまり…」
魔法使い「どちらかが勝っても、結局は奴等に殺される」
戦士「待てよ、意味わかんねぇよ」
魔法使い「お前は誰から薬を貰ったんだ?正直に言ってくれ」
戦士「……大臣さまだ」
魔法使い「ふん。じゃあ確実に私を殺しにきたか」
戦士「オレは?特に殺される理由ねぇぞ」
686:
1:2012/08/16 23:24:38.14 ID:AFiSOtZAO
魔法使い「なにいってんだ」
切羽詰まってきてなんだか笑えてきた。
ひきつった笑みに戦士が引いた。
魔法使い「捨てゴマに決まってんじゃないか」
戦士「………」
怒るかな、と魔法使いは身構えたがそうでもない。
ただ静かに立ち尽くしているだけだ。
戦士「じゃあ」
魔法使い「なんだ」
戦士「オレを捨てゴマ扱いしてる奴らをぶっ殺してから、お前も殺す」
魔法使い「勝手にしろ」
戦士「逃げるか」
魔法使い「そうだな」
杖で上に向かって大きく弧を描く。
周りが大爆発していくつかの悲鳴が生まれた。
687:
1:2012/08/16 23:33:38.71 ID:AFiSOtZAO
――魔王城
魔王「あ」
司書「……魔王さま?……」
魔王「いや、ちょっと遠くで誰かが危険なことにあっている気がしてな」
司書(……電波?……)
側近「魔王さま!」バサッ
魔王「どうした」
側近「反魔王派が城内で暴動を起こしているそうです」
魔王「ふむ。分かった」
司書「……我も行きますか……」
魔王「いや。お前はここを守れ、いいな?」
司書「……はい……」ドキドキ
側近(天然タラシ…か…)
706:
1:2012/08/18 20:39:24.96 ID:cBmhwRSAO
――魔王城通路
魔王がついた時、すでに暴動は終わっていた。
魔王「ご苦労だったな」
ゴブリン「このぐらいなんでもありませんよ」
ゴブリンの持つ棍棒とトロールの拳にはどろりとした液体が付着していた。
壁や床がそこまで損傷していないところを見ると厳しい戦いではなかったようだ。
メイド達は慣れた手つきで速やかに掃除、補修をしていく。
魔王「生存者は?」
ゴブリン「ふたりです。あ、あと人魚がそろそろ来ます」
魔王「上々だ。いい部下を持った」
ゴブリン「褒めても何も出ませんって」
707:
1:2012/08/18 20:44:57.87 ID:cBmhwRSAO
トロールに押さえられている魔物を魔王は目を細めて見やる。
金色の目からは思考が伺えない。
ミノタウロス「魔王さま、来ていたんですね」
ミノタウロスの肩に乗せられて人魚が来た。
ゴブリン「…陸上げ」ボソッ
人魚「鼓膜破るわよ」
ゴブリン「それはやめて!」
ミノタウロス「暴れるな、落ちるから」
ゆっくりと人魚を暴動を起こした魔物の前に降ろす。
尾ひれで床をぱしぱし叩きながら人魚は問う。
人魚「分かってるわよね?覚悟は当然、してきたでしょ?」
708:
1:2012/08/18 20:51:30.46 ID:cBmhwRSAO
ふたりの魔物はそれには答えず、ただ恨みのこもった目で見返すだけ。
魔物α「……」
魔物β「……」
人魚はやれやれとため息をつき、こほんと咳払いをした。
白魚のような細い指が魔物αの頬を優しく、強く包み込んだ。
人魚「あなたが首謀者?」
鈴のような軽やかな声。
“人魚”の声は相手を惑わす。つまり、使い方によっては尋問時の武器となる。
それが彼女が魔王に直直に仕える理由だ。
人間のような足が生やせない代わりに声と魔法はずば抜けいる。
709:
1:2012/08/18 21:00:31.98 ID:cBmhwRSAO
魔物α「チガう」
人魚「じゃあ他にいるのね。誰かは分かる?」
魔物α「ダイジン」
人魚「それは誰?」
それに答えたのは意外な人物だった。
魔王「……そいつは人間だ」
人魚「え?」
ゴブリン「ん?」
トロール「なんで魔王さまガ?」
魔王「細かい事情は後だ。今は聞き出せるだけ聞いてくれ」
人魚「は、はい」
分かったことはふたつ。
その『大臣』は魔物と人間、両方を引き連れていること。
今、人間の国を掌握していること。
710:
1:2012/08/18 21:06:59.04 ID:cBmhwRSAO
魔王「人間のところまでか。なんだか糸が見えんな」
人魚「それは後で考えるとして……もういいですか?」
魔王「ああ」
魔物β「な、なにをするつもりだ!殺すなら早く――」ガタガタ
魔王「焦るなよ。お望み通りにしてやるから」
彼は暴君でもなければ慈悲深くもない。
功績を残した部下にはそれ相応の褒美をやるし、
逆に今回のようなことを起こした部下はしかるべき処置をする。
魔王「人魚」
人魚「はい」
ふたりの魔物以外は耳が聞こえなくなった。魔王が魔法をかけたのだ。
彼が頷くのを見て、人魚はすっと息を吸い、歌い出す。
崩壊の歌を。
711:
1:2012/08/18 21:17:52.20 ID:cBmhwRSAO
人魚「〜〜♪」
魔王「……」
人魚「〜♪……」コク
歌が終わった時、魔物αとβは口から泡を吹き、白目で死んでいた。
魔法を解く。
魔王「相変わらず、気持ち良さそうに歌うな」
人魚「私たちにとって歌は命ですもの。例えどんな内容でも」
ミノタウロス「それにしても、魔王さまならすぐに終わらせられたんじゃないんですか?」
魔王「おれは基本的に散らかるからな。メイドに申し訳ない」
メイド達「」オロオロ
ゴブリン(変なところで気遣いするんだよなぁこの方…)
712:
1:2012/08/18 21:32:39.20 ID:cBmhwRSAO
魔王「さてと。司書を呼んでくれるか」
ミノタウロス「了解っす……人魚?」
人魚「水、ミズをぉぉぉぉ……」ブルブル
ゴブリン「やばい禁断症状が!」
トロール「近くの水につけてこなくちャ」
バタバタ ワアワア
魔大臣「あれっ?」
側近「全部終わってた」
ゴブリン「今まで何してたん?」
魔大臣「警戒措置をとらせるために城内を手分けして走り回ってた」
ミノタウロス「うん、お疲れ」