Part16
594:
1:2012/08/11 20:26:00.45 ID:EGEVzyAAO
魔法使い「でもまあ、結果オーライか。これで対策も分かった」
兵「忌み子が……呪われてしまえ…」
魔法使い「呪い子がこれ以上呪われたらどうするんだよ」
兵「貴様らは…いないほうが、世のためなんだよ…!」
兵「この世界は、人間のものだっ!」
魔法使い「――言いたいことは、それだけか」
兵「はん……貴様なんかに殺されてたまるか」
皮膚を切り裂いた音と、液体が床に滴り落ちる音。
魔法使いはそれを黙って見届けて、目を伏せた。
彼女が少女を抱き抱えてそこを出たとき、生きている者はいなかった。
596:
1:2012/08/11 20:33:55.56 ID:EGEVzyAAO
……
魔法使い「ここまでくればいいか」パァァ
少女「ん……終わったの?」
魔法使い「終わった」
少女「あの人たちは?」
魔法使い「…ごめんなさいって、帰っていったよ」
少女「そうなんだ。なんか、すごい生臭かった気がする」
魔法使い「それは…」
真実は言えない。
魔法使い「みんなで魚捌いていたんだ」
少女「魚捌いていたの!?」
魔法使い「だから生臭かったんだと思う」
少女「え、そうなんだ…へぇ…」
自分で嘘をついといてなんだが、もう少し人を疑うべきだと思う。
魔法使い「ん、広い通路だな…ここ行ってみるか」
少女「うん!」
599:
1:2012/08/11 20:44:15.79 ID:EGEVzyAAO
――通路
魔王「魔法使いの近くに来ているな」
蝙蝠「ソウナノ?」
魔王「あいつの魔力が強くなってきている」
蝙蝠「フゥン。ネェネェ、マオウサマ!」
魔王「なんだ」
蝙蝠「マホウツカイッテヒト、ドウオモッテル?」
魔王「ふむ…そうだな。見所のあるやつだと思う」
蝙蝠「ソレダケ?」
魔王「それと、質問から離れるがあいつを考えると胸が苦しい」
蝙蝠「ビョウキ?」
魔王「だとしたら嫌だな」
蝙蝠はまだ子供で、魔王は色恋とは離れて暮らしていたために発言の重大さを分かっていない。
恐らく側近あたりが聞いたら身悶える話を魔物たちはしばらくしていた。
600:
1:2012/08/11 21:06:20.26 ID:EGEVzyAAO
魔王「誰か来たか」
直進か左右かの分かれ道。
右から足音が聞こえた。間隔からして走っている。
女「…っはぁ、見つけ…あれ?」
女(回りこんだはず…まさか途中で曲がった?)
魔王「なんだお前は」
女「あんたこそ誰よ…みたことない顔だけど」
魔王「だろうな。少し人探しをしている」
女「……男装した混血のこと?」
魔王「それだな。知っているのか」
女「知っているもなにも、用があるんだよね」
魔王「ほう。どんな?」
女「その前にちょっと覗かせてね!」
話している相手が誰かもしれず、ただ恨みでここまで動いていた女は
いつものように敵の弱点を汲み取ろうとした。
601:
1:2012/08/11 21:12:01.91 ID:EGEVzyAAO
山積みの書類。
会議。
廊下がひび割れているとの報告。
西で魔物と人間が
“人魚”
女(――?)
承認
真珠
シェフがまた激マズメニューを
門番が暴れて
女(…こんな浅い悩みじゃなくて……もっと深くに――)
深く
深く
深く
602:
VIPにかわりましてNIPPER...:2012/08/11 21:20:41.29 ID:EGEVzyAAO
『お前に王位を譲る。今からお前が王だ』
女(あ、トラウマの記憶かな?さっさと掘り出して……)
女(王ってどこの――あれ、そういえば)
『何故ですか父上。ぼくはまだ未熟です』
『……』
女(角がある――飾りとかじゃないのかな)
『見てみろ、周りを』
ひび割れた地面。
血。
死体。死体。死体。死体。
静か。
『敵も味方も引っくるめて始末したお前に――もう俺は勝てない』
『ぼくは、父上を殺しませんが』
『お前はそうだろう。だがな――俺は、』
603:
VIPにかわりましてNIPPER...:2012/08/11 21:28:42.82 ID:EGEVzyAAO
『―――怖いんだ、お前のことが』
それから記憶が溢れ出るように女の脳内になだれ込む。
制御できない。
人為的に作られた魔翌力は暴走を始めていた。
いや。
数倍以上長生きをしている者を相手にしてしまった反動か。
小さなコップにバケツの水が全て入りきらないのと同じように
女の脳の本来の容量を越えた膨大な記憶。
二十わずかしか生きていない人間に対策ができるわけもなく。
ぶつん。
その音を最後に女の脳は機能を停止した。
604:
1:2012/08/11 21:37:26.68 ID:EGEVzyAAO
魔王「……少し固まったと思ったらいきなり倒れたんだが」
蝙蝠「ナンデ?」
魔王「知らん。おい」ユサユサ
蝙蝠「オキナイネ。オネボウサン」
魔王「……」
蝙蝠「?」
魔王「死んでる」
蝙蝠「マオウサマ、ヤッツケタノ?」
魔王「まさか。一体なんだったんだ、微弱ながら魔力を使ったみたいだが」
蝙蝠「マオウサマノ、ココロ、ミヨウトシタトカ」
魔王「そんなアホらしい理由なら笑うがな。生きている年月が違うんだから」
蝙蝠「パンク、パンク!」
魔王「謎だな。ほら、置いてくぞ」
609:
1:2012/08/12 19:00:34.94 ID:kbEZEcFAO
――別の通路
追っ手たち「待ちやがれーー!!」
魔法使い「ああぁぁぁもうっ!」ダダダ
少女「わ、わ、わ、」ダッコ
魔法使い「なんで次から次へと人が出てくるんだ!アホか!」
少女「天使さん、飛ばないの?」
魔法使い「……しばらく飛んでないからな…いけるか分からない」
少女(飛んだら楽そうだけどなぁ)
魔法使いの首に抱きつきながら目と鼻の先にある翼を眺めた。
走らないものは余裕である。
魔法使い「行き止まりか!?いや、ドアがあるな!」
蹴破るようにしてドアを開き中へ侵入する。
610:
1:2012/08/12 19:06:55.23 ID:kbEZEcFAO
魔法使い「え、水槽…?」
少女「大きい水槽…」
魔法使い(そういえば“人魚”とか言っていたような)
商人「全く――手間をかけさせないで下さい」ザッ
魔法使い「悪かったな」
商人「どうやら、だいぶ部下を始末されたみたいですし」
魔法使い「……」
商人「まぁ、『魔女』として国に渡せば報酬が貰えるでしょうが」
魔法使い「部下より金か」
商人「当たり前です」
魔法使い「へぇ。ま、そちらさんの事情に首は突っ込まないが」
商人「賢明ですね。貴女は頭が良さそうだ」
魔法使い「そりゃどうも」
魔法使い「しかし、これで――どちらも、相手を始末しなければいけない状況になったんだな」
611:
1:2012/08/12 20:15:22.75 ID:kbEZEcFAO
商人「そうですね。だから」
ザザザ
魔法使い「…そういえば、なぜ兵がいる?」
商人「お借りしたんですよ。あなたみたいな輩がいるから」
魔法使い「…誰に?」
商人「大臣さまに」
魔法使い「やっぱあいつか……!」
商人「もういいでしょう。死んでください」
商人「身体の方はこちらで預かりますから――」
魔法使い「そんな気遣いいらな――えっ」
目にはいったのは先端にに火がつけられた矢。
防いだ場合の被害を考えて一瞬思考が止まる。
それを待ってくれるほど優しくはなかった。
612:
1:2012/08/12 20:20:38.67 ID:kbEZEcFAO
タン タタン
魔法使い「〜〜!」
痛みと熱さで意識が飛びかけた。
商人「自慢の翼が焼けてしまいましたね」
少女が無事なのは良かったが、このままでは焼死確定だ。
魔法使い「魔女にふさわしい死に方だな…だが」
手に魔力を集め、そばにあった水槽のガラスを叩き割った。
水が勢いよく流れ出し、またたくまに火を消した。
ついでに流されたが死ななかっただけ良かったと思いたい。
魔法使い「…い、生きてる?」
少女「うん…」
なおも矢を向けてくるのでそちらの方向に軽く爆発を起こした。
613:
1:2012/08/12 20:38:59.62 ID:kbEZEcFAO
魔法使い「頼む、抜いてくれないか。表に刺さってるから自分じゃ届かなくて」
少女「い、痛いよ?絶対痛いよ?」
魔法使い「大丈夫」
少女「いくよ……えいっ」
魔法使い「づっ!いっ……たく、ないし」
少女「それやせ我慢だよ…」
わりと容赦なく抜かれる間に、爆発に飲み込まれなかった数人がこちらへ来た。
今度はナイフまで構えている。しくじりはしないということか。
魔法使い「この世にお別れは済んだか?」
商人「あなたこそ。――今の気持ちは?」
魔法使い「は?」
614:
1:2012/08/12 20:43:15.87 ID:kbEZEcFAO
視界の隅。
何かが腕を振り上げた。
魔法使い「っ!?」
少女が、手をあげたまま虚ろな目で魔法使いを捉える。
握りしめるは、取り出したばかりの矢。
魔法使い「くそっ、操ったのか!」
商人「利用しない手はありませんから。やってしまえ」
少女「はい」
凶器はまっすぐに魔法使いの胸へ吸い込まれ――
先ほどよりも大きい爆発が起きた。
615:
1:2012/08/12 20:49:20.77 ID:kbEZEcFAO
少女「あいたっ!」コテン
魔法使い「またなにが!?」
少女「あれ――天使さん、あたし、今何を」
魔法使い「一人で怪しげな踊りしていたかもしれない!」
少女「ええっ!?」
適当に返事をして砂ぼこり舞う部屋の中へ目を凝らした。
魔法使い(瓦礫まで吹っ飛んでるし…)
魔法使い(向こう、穴が開いてる?誰かが突き破ってきたのか)
ガラッ
魔法使い(誰か来る……ん?)ギュッ
少女「て、天使さん…そんな強く」カァァ
魔法使い(この魔力、まさか)
616:
1:2012/08/12 20:59:00.60 ID:kbEZEcFAO
側近「――む?部屋間違えたか?」シュンッ
魔法使い「あ、側近さん」
少女「おっきい鳥さんだ!」
側近「小娘!探したのだぞ…ってなんでまたお前はボロボロに」
魔法使い「深い事情は後です。そちらこそ一体何を」
側近「“人魚”を送り届けていた。話に時間がかかってな」
側近「魔王さまは…そばにいるか」
魔法使い「ええ、そうですね」
スタスタ
魔王「お、いた。会いたかったぞ、魔法使い」
魔法使い「こちらこそ、魔王」
側近(すごく仲良しそうな会話!だか、なんかもどかしい会話!)
蝙蝠「?」
少女「?」
617:
1:2012/08/12 21:08:33.10 ID:kbEZEcFAO
魔王「さてと、こんな騒ぎの首謀者は始末しないとな」
魔法使い「…子供がいるからもっと柔らかい言い方で頼む」
少女「?」ミミガード
蝙蝠「シマツ、シマツ!」
側近「やめろ」
魔王「それで一体どこに隠れたんだろうな?恐れをなして逃亡か」
魔法使い「んーと……爆発が起きて、瓦礫が飛んで…」
魔法使い「かなり大きい瓦礫も目の前を通過し……て?」
側近「どうした?」
魔法使い「…魔王が乗ってる瓦礫の下、見てくれませんか」
側近「下か?」ヒョイ
蝙蝠「ナンカ、アル?」
618:
1:2012/08/12 21:15:08.66 ID:kbEZEcFAO
魔王「退くか」スッ
側近「ありがとうございます」グイッ
持ち上げて、黙った。
蝙蝠「エグイネ!」
側近「ここの、てっぺん頭の特徴はあるか?」
魔法使い「ハゲでチビです」
側近「……」
元に戻して、魔王たちをぐるりと見回した。
側近「帰りましょうか」
魔王「そうか」
魔法使い「はい」
蝙蝠「ウン」
少女「?」
619:
1:2012/08/12 21:36:12.86 ID:kbEZEcFAO
――城
部下「大臣さま、報告を」
大臣「なんだ」
部下「数日前に、南の海に近い街で商人が」
大臣「ああ、薬を渡したやつか。どうかしたのか」
部下「死んだそうです。どうやら、襲撃されて」
大臣「なに?」
部下「薬や矢の資料はあらかじめまとめてありましたが――」バサッ
大臣「本人には用はなかったしな。これだけ手に入っただけでも良い」
大臣「だが、なんだ?誰に襲撃された?」
部下「それはまだ不明ですが……」
620:
1:2012/08/12 21:41:25.29 ID:kbEZEcFAO
大臣「言いにくそうだな」
部下「生き残った兵によると、『羽が生えていた』と」
大臣「!」
部下「あとは女性だとか男性だとか色々と意見が別れてまして」
大臣「ふむ……」ギリッ
大臣「女も死んだのか」
部下「はい」
大臣「死因は?」
部下「それが…脳が焼ききれていたとか」
大臣「は?」
部下「商人のほうは瓦礫に押し潰されて圧死とのことです」
大臣「……不思議な死に方をするんだな」
部下「そうですね」
大臣「はぁ…そろそろ頃合いだな。動くか」
621:
1:2012/08/12 21:45:44.03 ID:kbEZEcFAO
部下「いよいよですか」
大臣「薬を飲む人間によって使う魔法が違う法則も今回で分かった」
大臣「兵も魔物も集まった」
大臣「いつでも出せるようにしておけ」
部下「はい、仰せのままに」
大臣「それに、あいつもここに呼べ」
部下「大丈夫でしょうか」
大臣「経過は良好だ。やはり人間、恨む人間がいると使いやすいな」
部下「はあ。では、失礼します」
ガチャン
625:
1 ありがとう:2012/08/12 21:55:38.36 ID:kbEZEcFAO
――同時刻、宿
ガチャ
魔法使い「あ」
青年「動けるようになったか」
魔法使い「ああ。さっきどこにいってたんだ?」
青年「“人魚”のところに行ってた」
魔法使い「結局私は最後まで関われなかったな…」
青年「別に無理矢理関わる必要もなかろうに」
魔法使い「それはそうなんだが……」
青年「ああ、あの少女も見かけたが、元気そうだった」
魔法使い「それは良かった」
青年「黙っておくように言ったんだな」
魔法使い「そりゃな…大変だったんだから。『また会いたいから誰にも言わないでね☆』って」
青年「ぶっ」