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魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」
Part11


369:1:2012/07/16 00:31:10.68 ID:cP0PnHIAO
魔法使い「なんか見たのか。――真珠が苦手とか」
青年「当たらずとも遠からず。ほれ」ピン
魔法使い「わっ……真珠?買ったのか?」
青年「元から持っていたやつだ。売るなりなんなり好きにしろ」
魔法使い「なんで突然…」
青年「あれ見て思い出した。――これはあれとは違って自分の意思で作られたやつだ」
魔法使い「は?」
青年「部屋が埋まらないうちにとっておけ。おれは行くところがある」
魔法使い「ちょっ」
青年「安心しろ。今日はなにもやらない」スタスタ

370:1:2012/07/16 00:36:59.70 ID:cP0PnHIAO
魔法使い「…どうしたんだいったい」
バサッバサッ
魔法使い(あの人…あの鷹?も魔王を追いかけていったみたいだ)
魔法使い「不思議なやつ」
魔法使い「……」
魔法使い(この真珠、ちょっと水色かかっててきれい)
少女「…お兄さん」スッ
魔法使い「わぁっ!?」ササッ
少女「あ、ごめんなさい…」
魔法使い「い、いや、いいんだ。私も驚いただけだし」

376:1:2012/07/16 23:14:38.07 ID:cP0PnHIAO
少女「あれ、もう一人のお兄さんは…?」キョロ
魔法使い「急な用事ができたみたいでどっか行ってしまったよ」
少女「帰ってくる?」
魔法使い「多分ね。それで、君は私たちに何か用事があるのかな」
少女「お兄さんたち、あそこで何も買わなかったね」
魔法使い「ああ、あの掘っ立て小屋のこと?うん、買わなかったけど」
少女「なんで?」
魔法使い「なんでって…いらないから」
少女「欲しくなかったの?」ズイ
魔法使い「あ、ああ…」

377:1:2012/07/16 23:22:58.64 ID:cP0PnHIAO
少女「どうして?」
魔法使い「どうしてって言われても。君こそどうしてそんな質問を…」
少女「あそこで売るものはね、魔法がかかっているの」
魔法使い「…魔法?」
少女「売ってるものが、すごーく、すごぉーく欲しくなる魔法」
魔法使い「続けて」
少女「買うのが女の人だけー、とか、男の人だけーとかの日もあるけど」
少女「なんでだか知らないけど、欲しくなっちゃうんだって」

378:1:2012/07/16 23:27:03.65 ID:cP0PnHIAO
魔法使い「君は?」
少女「ぜんぜん。友達も欲しくならないみたい」
魔法使い「それって大人だけに効いてるってこと?」
少女「かも。だからね、あの売ってる人は悪い“魔法使い”なんだよ」
魔法使い「……悪い、ね」
少女「みんなを騙して大儲けしてるの!だから倒さないといけないんだよ」
魔法使い「それで、何故私たちのところに?」
少女「やっつけて」
魔法使い「………………ん?」
少女「お兄さんは買わなかった。魔法が効かなかった」
少女「それに知ってるよ。お兄さんの杖、“魔法使い”が使うやつでしょ?」

379:1:2012/07/16 23:39:07.71 ID:cP0PnHIAO
魔法使い「うん」
魔法使い(フェイクだけどね)
少女「だから、戦えるよ。魔法を使えるお兄さんたちなら!」
魔法使い「私の意見も聞いてくれお嬢ちゃん」
少女「……ダメなの?」
魔法使い「『オッケー叩きのめす』って即答するやつは余程お人好しか脳筋だけだと思う」
少女「…のうきん?」
魔法使い「いや、こっちの話だ。…深刻な状態なのかい?」
少女「……」
魔法使い「君自身に直接ではないとはいえ――なにか、あの店がらみであったんだろう?」
少女「…うん」

380:1:2012/07/16 23:43:18.81 ID:cP0PnHIAO
魔法使い「だろうね。話し方が切羽詰まってる」
少女「…あのね」
魔法使い「ああ」
少女「あそこで何かかわないと、落ち着かなくなるんだって」
魔法使い「……」
少女「パパもママも、いらないのに買ってきてはケンカしてる」
魔法使い「捨てたりとかはできるのかな?」
少女「できるよ。でも…お金かかったから、かんたんに捨てられないって」
魔法使い(物品そのものに魔法はかかってない、ということか)
魔法使い(ならあの売人か誰かが洗脳に近い魔法をかけていると…)

383:1:2012/07/17 10:56:46.02 ID:mEO/dMPAO
魔法使い「……ふむ」
少女「……」
魔法使い「分かった。調べて――できる限りのことはやってみる」
少女「ほんと!?」パァ
魔法使い「ああ」
魔法使い「もう日も暮れる。私はここら辺に止まるから、また明日会わないか?」
少女「うん!」
魔法使い「あそこの街灯の下にでも。じゃあ明日」
少女「また明日、お兄さん!絶対だよ!」フリフリ
魔法使い「ん」フリフリ
魔法使い(私も私で、お人好し…だなぁ)
魔法使い(あ、手紙…これも明日でいいか)

384:1:2012/07/17 11:12:03.08 ID:mEO/dMPAO
――掘っ立て小屋付近
青年「……」
鷹「…思うところが、ありますか」
青年「ある。――あの真珠は“人魚”の涙だ」
鷹「と、すると」
青年「人間が“人魚”たちに何かをしているのは確定ということだ」
鷹「そのようですね」
青年「昔、人魚がおれに教えてくれたんだけどな」
青年「桜色の真珠は歓喜。黒色は恨み。水色は同情」
青年「あの真珠の色は、無色…白だったな」
鷹「はい」
青年「悲しみの時の色だ」
鷹「……悲しんでいる“人魚”がいると」
青年「それも大勢な」

385:1:2012/07/17 11:25:12.63 ID:mEO/dMPAO
青年「真珠をあれほど人間が持っている時点でおかしいんだけどな」
鷹「ええ」
青年「しかもあの金額。おれはあまり値段に詳しくはないが…安い」
鷹「……」
青年「一度あの商人の巣を調べてみる。疑問が多すぎる」
鷹「そうですね」
青年(…あとは、魔法使いにも聞かないと分からないことがある)

388:1:2012/07/17 22:08:32.15 ID:mEO/dMPAO
――宿
ザパーン
魔法使い(個室に風呂とは珍しいな…時代が変わっている)
魔法使い(警戒しながら入らなくていいのは良いけど)ザパッ
魔法使い「ふぅ」
ガラッ
青年「ほう、湯の間か」
魔法使い「」
青年「どうした?」
魔法使い「わ、わ、私!」
青年「?」
魔法使い「私は今、裸だ!!」
青年「困るものでもあるまい」
魔法使い「私が困る!ちょっと出てろ!!」ブンッ

389:1:2012/07/17 22:09:30.31 ID:mEO/dMPAO
青年「その投げた桶で隠せばいいものを。馬鹿か」スッ
魔法使い「とりあえず一回閉めろ!閉めてくれ!」
青年「分かったよ。それにしてもお前」
魔法使い「え?」
青年「脱いでも小さ――ぐぉ」スパコーン
鷹(あのまんまじゃダメだな……)

390:1:2012/07/17 22:14:32.05 ID:mEO/dMPAO
……
魔法使い「あのな、怒鳴ったのは悪かったよ。まさか裸でいるとは予想がつかないだろうから」
青年「ああ」
魔法使い「だが、小さいと言ったのは許さん。撤回しろ」
青年「事実は曲げられん」
魔法使い「その誇らしげな顔やめろ。腹立つ」
青年「しかしそれ、成長が遅いだけなのか止まったのか分からないな」
魔法使い「いや、遅いんだ。発展途上だ」
青年「でもその容姿だからもう止まった可能性もあるな。まあ落ち込むな」
魔法使い「よし、よく分かった。戦争だ」
鷹(好きな子にちょっかい出したい年頃…か…)

391:1:2012/07/17 22:19:54.00 ID:mEO/dMPAO
魔法使い「それで。何か見つけたのか」
青年「いまいち。それで聞きたいことがあるんだが」
魔法使い「ん」
青年「あの商人から、魔力を感じはしなかったか?」
魔法使い「……同じようなことを考えていたみたいだな」
青年「そうか」
魔法使い「私はわからなかった。女だからかもしれんが」
青年「どういう意味だ?」
魔法使い「どうも売りたい相手――性別にしか効かない魔法を使っている説が」
青年「面白い。今日売りたい相手だったのは男だけだったわけか」
魔法使い「そう考えると、あなたはどうだった?」

392:1:2012/07/17 22:23:49.10 ID:mEO/dMPAO
青年「そういうちゃっちい魔法は無意識に跳ねるからな」
魔法使い「ズルいだろそれ…」
青年「おれの特権だ。ま、ある程度強いやつならダメージは食らうが」
魔法使い「催眠術系にはかからないと…」
青年「相手が一般人ならなおさらかかりやすいだろう」
鷹「それに、魔法なんか使わなくても、雰囲気で買いたくなることもあるそうだ」バサッ
魔法使い「雰囲気?」
鷹「周りが欲しい欲しいと言っていると、自分も欲しくなる。そういう現象があるらしい」

393:1:2012/07/18 00:03:46.81 ID:7JyL7mcAO
青年「そんなのがあるのか」
鷹「又聞きですので詳しくは存じませんが」
青年「ほう…魔法だけではなく、心理にも商売を持ちかけているのか」
魔法使い「じゃあ売れるわけだな…はふ」
青年「眠いのか」
魔法使い「ああ…もう私は寝るよ…」ゴソゴソ
青年「……」
魔法使い「……」
青年「……」
魔法使い「…あなたは寝ないのか?」
青年「魔物はあまり睡眠とらなくてもいい種族だからな」
魔法使い「夜どう過ごすんだよ…」
青年「お前でも眺めていようか」
魔法使い「やめろ」
青年「おやすみからおはようまで見つめ続けてやる」
魔法使い「嫌がらせかよ!」

401:1:2012/07/18 21:32:27.29 ID:7JyL7mcAO
――人間の城、地下牢
大臣「私だ」
兵士「大臣さま?ここはいくらあなたさまであろうと通れな――」
大臣「<従え>」ギュインッ
兵士「――どうぞ。夜遅くにご苦労様です」ガチャッ キィ…
大臣「戦士のところまで案内してくれ」
兵士「はい」
コツコツ
大臣「――どうだ、やつの様子は」
兵士「はい。一日中、ずっとあんな感じです」
戦士「……」ガリガリ
大臣「堕ちたものだな――下がれ」
兵士「分かりました。用事がすみましたらお呼びください」ススッ

402:1:2012/07/18 21:36:31.14 ID:7JyL7mcAO
戦士「……」ガリガリ
大臣「何を壁に彫っている?」
戦士「……」ガリガリ
大臣「…人の言葉が通じないか」
戦士「……の……」ガリガリ
大臣「なんと?」
戦士「ばけもの……」ガリガリ
大臣「……」
戦士「ひとじゃない……まものじゃない……」ガリガリ
大臣「…やはり魔法使いか…」
大臣(あの力は身近な邪魔者の中でも強すぎる――消しとくべきだろう)
戦士「……」ガリガリ
大臣「その翼の生えた人間は、お前のいう化物か」
戦士「……」コク

403:1:2012/07/18 21:41:37.54 ID:7JyL7mcAO
大臣(人間の姿のまま魔物化する、ということか)
大臣(なら都合がいい)
大臣「なあ、戦士」
戦士「……」ガリガリ
大臣「力が欲しくないか」
戦士「…ちから…?」ガリ…
大臣「魔法使いに負けない力だ。お前の望みを叶える強さだ」
戦士「……」
大臣「欲しいのなら、その薄暗い地下牢から手を伸ばせ、戦士」
大臣「――これを飲みさえすれば、お前は強くなれる」チャプ
戦士「……ぁ」
大臣「お前は完全には狂っていないぞ――まだ戦えるのだ」

404:1:2012/07/18 21:48:36.10 ID:7JyL7mcAO
戦士「……」
大臣「ほら――」スッ
戦士「……」
大臣「何をためらう?」
大臣「お前は――魔物を倒す“勇者”となりたくないか?」
戦士「……」
ゴクッ

405:1:2012/07/18 21:58:57.14 ID:7JyL7mcAO
――宿
青年「!」
魔法使い「……」スースー
青年(どこかで微弱で歪ながら、魔力が生まれたな――)
青年(ふむ。新たな子の誕生にしてはおかしすぎる)
魔法使い「む……」ゴソ
青年(しかも人間の国、城の近くからなんとなく感じる)
青年(知らないところで何か動き出しているのか…?)
魔法使い「………うぅ…」モゾモゾ
青年「魔法使い?起きたのか」
魔法使い「……ひとりに…しない…で……」

406:1:2012/07/18 22:05:18.70 ID:7JyL7mcAO
青年(夢をみているのか)
魔法使い「……やだ……みんな…」
青年(鷲一族は……一気に皆殺しされたんだったな)
魔法使い「……やめ…」
青年「」ナデナデ
魔法使い「…さみし…い……」
青年「今はおれがいるだろ」ナデナデ
魔法使い「……」パチリ
青年(起きた?)
魔法使い「置いて…いかない、で……」
青年「ああ」
魔法使い「……」スー
青年「……」ナデナデ

407:1:2012/07/18 22:14:34.10 ID:7JyL7mcAO
バサッ
鷹「まお……」
青年「……」ナデナデ
魔法使い「……」スースー
鷹「」
青年「側近か。どうだった」
鷹「海に異常はなし――あの掘っ立て小屋にも人影はありませんでした」
青年「“人魚”には会えたか?」
鷹「いえ。“人魚”は警戒して海上付近にはいませんでした」
青年「おれが行くべきかもな」ナデナデ
鷹「…それより、今、なにをなさっているんです?」
青年「こいつがうなされていたのでな」ナデナデ
青年「ミノタウロスが言っていた『泣いてる子は抱き締めて撫でろ』を実践中だ」
鷹「」
青年「まあ今は寝ているから抱き締められないけどな」

408:1:2012/07/18 22:18:34.85 ID:7JyL7mcAO
鷹「」
青年「もういいか」スッ…
魔法使い「……」スースー
鷹「」
青年「側近?」
鷹「あ、ちょっとお花畑に行っていました」
鷹(今度ミノタウロスに会ったら『変な知識植え付けんな』と言わなくては…)