Part10
336:
1:2012/07/13 22:37:29.20 ID:hdWwU/PAO
――国外れの家
師匠「これでよし」ポン
師匠「魔法使いよ、翼の封印は前回より軽くしておいた」
魔法使い「何故ですか?」
師匠「こういう類いのものは解けるとき激痛を伴うからの」
魔法使い「…確かに」
師匠「敵の目の前で行動不可になったら困るだろう?」
魔法使い「そうですね」
師匠「……こんなことせずとも、普段から出し入れ可能にしてもよいのに」
魔法使い「私の翼はタンスの服ですか」
師匠「ちょっとうまいなその例え」
337:
1:2012/07/13 22:43:25.29 ID:hdWwU/PAO
魔法使い「どうやら私の感情の高ぶりで翼が出るみたいですから」
師匠「封印無しではどんな弾みで翼が広がるか分からないと」
魔法使い「はい。あと翼の自制の仕方がいまいち良く分からないので…」
魔法使い(前回は魔王がやってくれて助かったけど)
師匠「ふむ…。まあそれは自ら学んでいくしかあるまい」
魔法使い「あと…私は、人間として生きたいのです」
師匠「魔物としては駄目なのか?」
338:
1:2012/07/13 22:50:50.47 ID:hdWwU/PAO
魔法使い「私は、魔物化すると人間を殺したくなってしまうんです」
師匠「血が騒ぐ、というやつか」
魔法使い「それに、今まで人間として生きてきましたから」
師匠「難しい問題だの。しかしそれはおまえの問題だ、おまえが解くしかない」
魔法使い「はい」
師匠「そうだ、旅に出るなら南の街に寄ってくれ。――知り合いへ、手紙を届けてほしい」スッ
魔法使い「師匠のお知り合いに?分かりました」
師匠「さぁ――行ってこい、弟子」
魔法使い「行ってきます、師匠」
師匠「死ぬなよ」
魔法使い「もちろんです」
339:
1:2012/07/13 23:01:53.33 ID:hdWwU/PAO
――森の入り口
魔法使い「さて」
魔法使い(南の街に行くには、まずこの森を抜けなければいけない)
魔法使い(魔物がわんさかいるという噂だ)
魔法使い(かなり遠回りとはいえ北の街から行った方が安全だが――)
魔法使い(手紙を無くすのはいやだから早めに届けに行こう)
魔法使い「……」スタスタ
魔王「ほう、杖を新調したのか」
魔法使い「!?」ビク
側近「……」
魔法使い「!?」ビビク
340:
1:2012/07/13 23:10:34.22 ID:hdWwU/PAO
魔王「何を驚く」
魔法使い「そりゃあ驚くだろう!いつからいた!?」
魔王「今だ」
側近「今ですね」
魔法使い「……そうか」
魔王「そうだ」
魔法使い「短い別れだったな…」
魔王「ふん。まあそうだな」
魔法使い「それで、なんでふたりはここに?」
魔王「この森の主に挨拶をしていたらたまたまお前が来たからな」
魔法使い「挨拶?」
側近「森の管理は大変だから、たまに魔王さまが労いの言葉をかけに行くのだ」
魔法使い「へぇ…」
魔王「魔法使いこそなんだ。旅でもするのか?」
342:
1:2012/07/14 23:13:58.73 ID:hyT1vDIUAO
魔法使い「まあな。修行の旅というか、自分探しの旅というか」
魔王「自分探しの旅ってたいてい自分が見つからないまま終わらないか」
魔法使い「…細かいことはいいんだよ」
魔王「ふん、そうか」
魔王「ここを通るということは――南へ行くんだな?」
魔法使い「ああ、そうだな。用事もあるし」
魔王「そうか。じゃあ――」
343:
1:2012/07/14 23:14:26.55 ID:hyT1vDIUAO
魔王「おれと旅をしろ」
魔法使い「断る」
344:
1:2012/07/14 23:18:30.37 ID:hyT1vDIUAO
魔王「解せん」
魔法使い「なんだよ旅って!魔王が旅って!」
魔王「駄目か」
魔法使い「駄目というか、普通“魔王”は王座に座ってるもんじゃないのか?」
魔王「思い込みもはなはだしいな。普段は会議室の椅子に座っている」
魔法使い「……」
魔王「勇者が来たときぐらいだな。あの部屋使うの」
魔法使い「使い分けているのか…」
魔王「お前、山となった書類の中で戦いたいか?」
魔法使い「それはなんか嫌だな」
345:
1:2012/07/14 23:22:21.41 ID:hyT1vDIUAO
魔王「ああ、ちゃんと外出許可ももらっているぞ」
魔法使い「子供か…」
側近「小娘のほうが子供だろう!」ザクッ
魔法使い「うぅぎゃああああぁぁぁあ!!」
魔王「それと、今回は観光でも暇つぶしでもないんだよ」
魔法使い「は?」
魔王「――ちょっと人間を痛い目に遭わせないといけない用事が、な」
346:
1:2012/07/14 23:26:27.57 ID:hyT1vDIUAO
魔法使い「……」
魔王「微妙な顔をしているな」
魔法使い「南の方で、人間がなにかをしたのか?」
魔王「ああ。魔物と人間の間にある境界を越えるようなことをだ」
魔法使い「……」
魔王「なぜ暗い顔をする?」
魔法使い「……私は、人間の――味方、だから」
347:
1:2012/07/14 23:38:06.98 ID:hyT1vDIUAO
魔法使い「……」
魔王「微妙な顔をしているな」
魔法使い「南の方で、人間がなにかをしたのか?」
魔王「ああ。魔物と人間の間にある境界を越えるようなことをだ」
魔法使い「……」
魔王「なぜ暗い顔をする?」
魔法使い「私は、人間の――味方だ」
魔王「ふむ。理由は?」
魔法使い「今まで人間として生きてきたから」
魔法使い「だから私は、人間があなたに傷つけられるなら…一応の手は打たなくてはいけない」
348:
1:2012/07/14 23:43:32.54 ID:hyT1vDIUAO
魔王「面白い。おれと戦うか」
魔法使い「いいや、それは勘弁だ。どう考えても魔王のほうが圧倒的すぎる」
魔王「ならばどうする?」
魔法使い「ペンは剣より強し、というだろう?話し合いだよ」
魔王「ほう」
魔法使い「それで、人間達が何をしているんだ?」
魔王「聞いてどうする」
魔法使い「――それを止めさせる。それなら文句はないだろ」
魔王「おれとではなく、人間とか。なるほど、原因を無くそうと」
魔法使い「そうだ。…もちろんお前とも話さなくてはいけなさそうだがな」
350:
1:2012/07/14 23:51:41.96 ID:hyT1vDIUAO
魔王「はは、まさか城の外でおれと話し合いをしようとするやつがいるなんてな」
魔法使い「……」
魔王「だがな、魔法使い。お前が守ろうとした人間に手のひらを返されることだってあるぞ」
魔王「“魔女”という存在にはかなりの金額がかかっていると聞いたが」
魔法使い「…そうだな。半年は遊べる位の」
魔王「それがバレてしまったらどうするんだ?感謝もなにもせずお前を火に焼くぞ?」
魔法使い「……」
魔王「分かっているならいいが」
356:
1:2012/07/15 21:02:02.25 ID:IX9kxiuAO
魔法使い「……正直さ、分からないんだ」
魔王「ふむ」
魔法使い「人間は私のような混血を忌み嫌っている」
魔法使い「混血や“魔女”を捕まえたならすぐさまあなたの言った通り、火炙りにする」
魔王「それはなんでだ?」
魔法使い「汚れたものがこの世界に長くいないように」
側近「……」
魔法使い「だから…そういうことが――私の存在を否定するような人間がいる限り」
魔法使い「完璧には人間の味方にはなれないんだろう」
魔法使い「それに私には魔物の血も流れている。だから、完全に魔物を敵にできない」
357:
1:2012/07/15 21:14:15.33 ID:IX9kxiuAO
魔王「宙ぶらりんって感じなのか」
魔法使い「だろうな。結局、私は人間側に必死にしがみついてるだけ」
魔法使い「……どちらにもなれないんだ」
側近「それじゃ駄目なのか。小娘は小娘では駄目なのか」
魔法使い「え」
側近「…なんでもない。魔王さま、わたくしは空から付いてゆきます」バサッ
魔王「分かった」
魔法使い「なんなんだ…?」
魔王「あいつもあいつなりに考えてやったんだよ」
魔法使い「ふぅん…」
魔王「で、我に返ったときに恥ずかしくなったんだろ」
魔法使い「それ言っちゃうか」
魔王(あの表は素っ気ない態度で裏ではかなり相手を大事にしていることを何と言うのだろうな)
359:
ごめん別のことしてた 1[sag...:2012/07/15 23:10:39.95 ID:IX9kxiuAO
魔法使い「…ところで何の話をしていたんだっけ」
魔王「おれが人間を絞め上げる云々から発展していったな」
魔法使い「なんかさっきより言葉が過激になってないか」
魔王「気のせいだろう」
魔法使い「……絶対気のせいじゃない」
魔王「じゃ、お前がおれといかないなら先に行ってるぞ」スタスタ
魔法使い「あっ」
魔王「」スタスタ
魔法使い「…!あの野郎…」
360:
1:2012/07/15 23:16:03.73 ID:IX9kxiuAO
魔法使い「待て」タタッ
魔王「おやおや、何か用かな」
魔法使い「棒読みもはなはだしいな。――行けばいいんだろ、行けば」
魔王「おやおや、なんでそうなったのかな」
魔法使い「…あなたから目を離して何かされたら堪ったもんじゃないから」
魔法使い「なら、あなたが変なことしないように私が見張ってればいい」
魔王「ふん」
魔法使い「……というか、元から私に追わせるつもりだっただろ」
魔王「おやおや、根拠は?」
361:
1:2012/07/15 23:22:22.94 ID:IX9kxiuAO
魔法使い「あなたは転移魔法使えるくせに歩くか、普通」
魔王「それにあえて引っかかったお前もお前だけどな」
魔法使い「それは…まあ…なんというか…」
魔王「ま、いいだろう。人間をおれの餌食にしたくないなら、このままおれに付いてくることだな」
魔法使い「やっぱり表現が過激になってきているぞ」
魔王「気にするな」
魔法使い「はぁ……いったい私が何をしたんだろうな」
362:
1:2012/07/15 23:33:07.31 ID:IX9kxiuAO
――南の街
ガヤガヤ
青年「南の街は他より賑わっているな」
魔法使い「だな。海に近いから貿易が盛んなんだ」
青年「あー、海の向こうのものを取り扱ってるから客も多くなるのか」
魔法使い「その通り」
青年「果物に、工芸品……たしかに物珍しいものが多い」
魔法使い「お前のところはどうなんだ?」
青年「文化も技術も、あまり発展していないしする必要もない」
青年「そもそもこういうものを飾る家本体がないからな」
魔法使い「へぇ」
363:
1:2012/07/15 23:53:11.52 ID:IX9kxiuAO
町人A「今日は来てるってさ!」
町人B「マジかよ!ついてるなおい!」
ワイワイ
魔法使い「?」
青年「なにやら始まるみたいだな」
魔法使い「そうっぽいな」
青年「行ってみるか」
魔法使い「いや、私はまず手紙を……」ゾク
魔法使い(後ろの木から殺気が……!また頭をつつかれる!)
魔法使い「…行くか」
青年「ああ」
魔法使い(わぁい殺気がやんだ…)
364:
1:2012/07/16 00:03:33.38 ID:cP0PnHIAO
ガヤガヤ
青年「ここか」
魔法使い「掘っ立て小屋…なんだか怪しげだ」
商人「さあさあみなさんお集まりかな?」
町人C「オヤジ!今日はなんだよ!」
町人D「もったいぶるなよ!」
魔法使い「へぇ。今までもなにか支持を得るものを売っていたようだな」
青年「ほう。だからここまで期待をしているのか」
魔法使い「多分」
商人「今回は男性向けじゃあないんだな」
エーナンダヨー ヒッコメ ジャアダレヨウダヨ
ブーブー
商人「女なら誰もが好きな光り物!今日はそれを格安で売りに来た!」
365:
1:2012/07/16 00:08:24.39 ID:cP0PnHIAO
青年「女はそういうものなのか、魔法使い」ボソ
魔法使い「あなたは私の立場を考えろ」ボソ
青年「ふん。――女はそういうものが好きだというが、どうなんだろうな」
魔法使い「さぁな、人によりけりだろ。興味があまりないのもいる」
青年「なるほど」
町人C「宝石?なぁ、宝石?」
町人A「宝石なんか格安で買えるもんじゃねーよ」
商人「慌てるな慌てるな。――これだ」ドン
ドヨッ
青年「!」
魔法使い「……大量の真珠…あんなにたくさんどうやって」
366:
1:2012/07/16 00:14:31.48 ID:cP0PnHIAO
魔法使い(二枚貝ひとつから一個しかできない貴重なものと聞いていたが…)
魔法使い(それに養殖も未だ上手くいかなくて人工ですら非常に高いとか)
商人「そして値段は――」
ドヨヨッ
魔法使い(……安い。かなり、とは言えないが…あんなに大量に、そしてこの値段)
魔法使い「…なぁ、何かおかし――」ビクッ
青年「……」
魔法使い「おい?」
青年「……」
魔法使い(無表情で――ずっと真珠を睨んでる)
青年「…魔法使い」
魔法使い「ど、どうした?」
367:
1:2012/07/16 00:18:47.59 ID:cP0PnHIAO
青年「害虫を見つけたら――どうする?」
魔法使い「いきなりなんだ。面白い答えはないぞ」
青年「いいから。答えろ」
魔法使い「その場で潰す、かな」
青年「じゃあ害虫に巣があると知っている場合は?」
魔法使い「泳がせといて、巣を見つけて、壊す…と思う」
青年「だよな」スタスタ
魔法使い「おい、何があったんだよ」
商人「そこのお兄ちゃんはいいのかー?」
魔法使い「あ、はい。ごめんなさい、大丈夫です」
少女「……」
368:
1:2012/07/16 00:25:51.86 ID:cP0PnHIAO
――裏路地
魔法使い「おい、魔王ったら!」
青年「青年だ」
魔法使い「…青年。どうしたんだよいきなり」
青年「別に」
魔法使い「……」
青年「魔法使い、部屋はどうする。別々か、一緒か」
魔法使い「…別々だったら怪しまれるだろう」
青年「じゃあ部屋をとってくれないか。残念ながらあまり得意ではなくてな」
魔法使い「それはいいけど…」
青年「金は出す。しばらく滞在すると思うが、お前は?」
魔法使い「…私も留まる。あなたが何もやらかさないように」
青年「ふん。そうだったな」