Part34
695 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:05:16.16 ID:
iQzL7yso
まぶたに触れていたくすぐったい前髪がなくなったのが心地
よいのか、紅鳩の顔が穏やかに微笑むような寝顔を見せる。聞
き取れないようなむにゃむにゃという軽い呟きと共に、紅鳩は
俺にしがみついて来る。
俺は子守の経験なんか無いんだぞ。
まったく面倒くさいことを俺のところに持ち込んでくれるな
よ。
それにしても小さいな。120あるのか、ないのか。軽く膝を曲
げて、俺に抱きついてきているので、その華奢な身体の小ささ
が嫌でも判る。
まいったな。俺自身には自覚は無いのだが、もし俺の寝相が悪
かったらどうしよう?
寝返りを打ったときに、紅鳩に体重をかけてしまったら潰して
しまうのじゃなかろうか?
いや、さすがに潰れるというのは無いだろうが、変な体勢で挟
み込んだら腕の一本や二本は骨折させてしまうかもしれないぞ。
そんな感想を持ってしまうほど、紅鳩の身体は華奢で軽やかなも
のだったのだ。
だが、俺の悩みをよそに、紅鳩はすぴーすぴーと可愛らしいリ
ズムで寝息を立てている。俺もまた、そのリズムを微笑ましい気
持ちで聞いてるうちに、いつしか眠りに落ちていったのだった。
696 :
パー速民がお送りします: [] 2009/04/02(木) 06:11:55.79 ID:
iQzL7yso
//4
「次はお魚です〜」
紅鳩が見るからに赤い魚の切り身を俺の小皿に取り分ける。
もうこの城へ着て半年以上、帝国風の礼儀は身につけたのだが、
浅黒い肌と異国風の金の髪、さらにはその幼い容姿のせいで、
どうも人形じみた印象がぬぐえない。
おまけにこうやって食事の世話を焼かれている様は、まるで
おままごとだ。
くすくすと笑う女官をぎろりと一瞥して、俺は口をへの字に
魚をほうばる。
うん。美味い。
美味いが、辛いな。おまけに熱い。
俺は水を飲みつつ魚をもう一口。
辛味の中にいろんな野菜の味が隠れていて、なかなか美味だ。
この料理は紅鳩の故郷のものだという。今日は朝から厨房に
こもって、膳司の料理人と一緒にこれを作っていたらしい。給
仕を引き連れて俺の昼食に現れると、俺の隣にべったりとくっ
ついて世話をしているのだった。
「なかなか美味い。これは好きだな」
「れいせぇ様に好きになってもらえて、嬉し〜」
俺の言葉に無邪気に微笑む。
697 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:12:10.45 ID:
iQzL7yso
紅鳩は必死になって料理の説明をしてくれるのだが、そちら
に素養の無い俺にはどうもぴんと来ない。南域の知識が欠けて
いるせいではなく、そもそもも料理に関する知識が俺には圧倒
的に欠けているのだ。
だが紅鳩がこの料理を作るのに掛けた手間はなんとなく伝わっ
た。
「ありがとうな」
「はぁう?」
首をかしげる紅鳩。すぐに微笑んで、今度は小さな肉団子を
浮かべたスープを勧めてくる。そのスープはさわやかな味で、
なかなかに美味かった。
「まだまだ沢山あるの。れいせぇ様、いっぱい食べてね」
「うう。いや、さすがに昼からこの量は」
パーティーでも開けそうな量に、やはり壁際で控えている女
官どもからくすくす笑いが起きる。料理は悪くないが、全体と
しては晒し者だ。
「はぁう……」
その言葉にちょっとだけしょぼんとした紅鳩は、すぐに気を
取り直すと、持ち前の輝くような微笑を浮かべる。
「じゃぁ、でざーと!」
698 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:12:24.87 ID:
iQzL7yso
取り出したのは、白と黄色が層を作った水菓子だった。夕焼
けより濃い赤色のソースがとろりと載っていて、見た目も鮮や
かでひんやりした感じだ。
「美味そうだな。……これはワイルドベリーか?」
俺は尋ねる。腹はいっぱいで、正直はちきれそうなのだが、
この水菓子の一個や二個なら余裕だろう。
「わィるべる?」
聴きなれぬ言葉だったのか、紅鳩は小首をかしげる。
「いや、いいんだ。早速頂こうかな」
正直俺だって素材当てなんか自信は無い。ワイルドベリーと
いうのだって、たまたま俺が幼いころ散々つまみ食いしてお腹
を壊したせいで覚えた小さくて赤い果実の名前なだけだ。一緒
にお腹を壊した相手は、今はもう笑いかけてもくれないが。
俺は視界の隅でスプーンを構えて瞳を輝かせる紅鳩を意識的
に無視して、デザート用のスプーンを探す。俺のスプーンはど
こだ?
「れいせぇ様っ」
見当たらないな。
699 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:12:40.79 ID:
iQzL7yso
「れいせぇ様っ」
「なぁ、俺のデザート用のスプーンはどこだ?」
「れいせぇ様っ」
「……」
「あーん」
「……なぁ、俺のデザート用のスプーンは」
「れいせぇ様っ」
「……」
「あーん♪」
侍女や女官の視線が痛い。
晒しモノだなんて考えが甘かった。これじゃ公開羞恥刑だ。
針のむしろだ。
俺は救いを求めて見渡す。くそ、内侍長のヤツめ、巧みに俺
の視線を避けやがって。
「れいせぇ様、あーん♪ だよ」
だから子供は嫌いなんだっ!
期待が裏切られるなんて露ほども思わないで安心しきった笑
顔で見つめやがって。俺はもう自分の死刑判決に署名するよう
な気持ちで口をあける。目は空ろに彷徨っていたと思う。
俺はこれでも東宮なんだ。未来の帝だぞ! こんなんじゃ歴
史上かつて無いほど威厳の無い支配者になりそうだ。
700 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:12:56.21 ID:
iQzL7yso
「え、あっ!? ぐぎゃらばでりばげどばぁっ!!??」
しかし俺のそういった思考は熱量を伴った口内爆発によって
断ち切られた。
な、なんだこれは!? 眩暈がする。視界が歪む。なんだ、
俺は泣いているのか!? 誰の襲撃だ!?
「ぎゃ、ぎゃぶっ!?」
口を押さえてのた打ち回る俺を紅鳩は心配そうに覗き込む。
「びゅいずっ! びゅいずをぅっ(水、水をっ)!!」
「れいせぇ様。はぁう? あ、もうひとくち?」
「ぢびゃうっ、ぢびゃうっれ(違う、違うって!)」
「ぐぎりばげどばぁっ!!??」
紅鳩がとろりとした水菓子を俺の口に流し込むと再び悶絶し
てしまう。視界が白くなっていく。思考が蒸発していく音が聞
こえるほどだ。
天に召されるほどの辛さ。この世にそんなものがあるとは想
像もしなかったほどの辛さ。もはや辛さ以外の味覚の存在を許
さない辛さ。神聖なほどの純粋性を持った辛さが俺を貫く。
「クウルウナナイロトウガラシなの♪」
なんだその一子相伝の必殺拳のような物騒な名前の唐辛子は!?
その後なんと三回もその危険なデザートを投入された俺は、
ドクターストップの希望もむなしくノックダウンされるまでサ
ンドバックのようにいたぶられ続けたのだった。
701 :
パー速民がお送りします: [] 2009/04/02(木) 06:16:39.50 ID:
iQzL7yso
//5
「うふふふ」
優雅なしぐさで冷たい茶を差し出した内侍長は、小さな笑い
を漏らす。
「それ以上笑うな」
俺はふて腐れた声でぼやく。まったくひどい目にあった。
夕食も風呂も終えて、もうそろそろ寝る時間だというのに、
まだ唇が腫れて三倍の厚さを持ったように感じられる。
今日一日の間、喋るたびに不明瞭になった自分の声とずきず
きする唇がダメージが、信じられないほどの辛さを再確認させ
てくれたのだ。
冷たいデザートにあそこまでの辛さを持たせるとは、まった
く恐ろしい技術だ。料理だと説明されなければ、ある種の生物
兵器の線を疑うところだよ。
「いえ、でも」
ひとしきりくすくす笑いを漏らした内侍長は眼鏡の奥の瞳を
ほころばせて小首をかしげる。
「可愛らしいじゃありませんか。健気で」
俺はその言葉には答えない。ただ、肩をすくめる。
702 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:16:56.97 ID:
iQzL7yso
「あんなに可愛らしいお姫様ですもの。鴒星様も慕われて悪い
気はしないのでしょう?」
年上らしいしっとりした声の響き。
理解は出来るが、些細な棘が素直に頷かせてはくれない。
「……」
その微妙な空気に目を細めていた内侍長は柔らかく微笑む。
「それでは、御用がないようでしたら、私はこれで下がらせて
いただきます」
「ん。遅くまで済まなかった。下がってくれ」
俺は退出する内侍長を見送ってから、ベッドに身体を投げ出
す。
鬱屈としたものが胸にわだかまる。
遠くから響く嫋々たる音に耳を澄ます。蒼羽宮のどこからか、
かすかに笙の音がするのだ。
その雅だがどこか物悲しい響きに心を乗せる。
確かに悪い気はしないさ。
子供は嫌いだが、紅鳩は悪い娘じゃない。たしかに今日の料
理の件のような常識はずれなこともするけれど、それらは悪気
があってしている訳じゃない。
懐いてくれれば可愛いし、慕ってくれれば構いたくもなる。
それはその通りさ。
703 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:17:10.75 ID:
iQzL7yso
だが、本当に慕われているのかな?
苦いものが胸に満ちる。
紅鳩は南域最大の有力部族の族長の娘だ。南域は一応は帝国
の版図となっているが、実質は帝国のコントロールを受けてい
るとは言いがたい。独自の文化を独自の方針で維持している。
それは彼らが強力な力を持っているからというよりは、帝国中
枢部からの空間的な距離と交通の不便さのために長い間放置を
受けていたからだ。
しかし技術の進歩や人口増加によりその傾向も徐々に変わり
始めた。
今回の隣国内乱に端を発する難民問題も根は同一だ。
南域は不安定な時代を迎えている。部族間の利権衝突や騒乱
も起きるだろう。現にそういった報告も軍部からは受けている。
そんな時代の流れの中で、帝国の跡継ぎである俺に召し上げ
られた紅鳩はいわば供物。人質、そして献上品だ。
不快な苛立ちが手足の先を冷たくする。
懐きもするだろう。
この宮殿に紅鳩は一人だ。南域からは身の回りの世話をする
侍女を数人しか同行を許されていない。それさえも、人質の紅
鳩を見張る部族からの監視員を兼ねているのだろう。
704 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:17:29.94 ID:
iQzL7yso
そしてそれ以外の全て、身の回りの全ては帝国の人間なのだ。
この宮廷は、紅鳩が慣れ親しんだ故郷の森ではない。
ここには紅鳩の繋がるべき頼りは、俺しかいない。
俺がいなければ、俺に嫌われれば、紅鳩はまるで大海原に何
の助けもなく放り出された小さい木の葉のようなものだろう。
紅鳩は一人で何も出来ず、誰の気にも掛けられず、この冷たい
宮廷の中でやがて陽の光から遮られた花のように萎むだろう。
それならば頼りにするし、懐くし、慕いもするだろう。
だってそれ以外にどうしようがあるというのだ?
華美な包装で包まれていても、紅鳩は献上品だ。
その政治的意図や効果は次期皇帝としては理解できる。
名案だとさえ思う。
今まで蔑視の対象となっていた『南蛮』出身の姫を正妃の一
人として迎えれば、これ以上はない公平な姿勢として帝国の市
民に受け入れられるだろう。南域の諸部族にも、帝国の一員と
しての安心感と責任を感じてもらえる。
南域を軽んじていた貴族や豪商の視線を南域開発に向けるきっ
かけにもなるだろう。帝国百年の礎になる婚儀と云える計画だっ
た。
そんなことは政に少しでも関われば判ること。俺だってちゃ
んと理解できている。
705 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:17:43.24 ID:
iQzL7yso
だけど。
そう「だけど」。
俺は未熟者なのだ。
紅鳩は不憫だと思う。可愛そうだと思う。何とかしてやりた
いとは思う。
でも、思えば思うほど、それは俺には果てしなく高いハード
ルなのだ。
俺しか選択肢が無い紅鳩に、俺は結局選択肢を与えることは
出来ない。自由をあげることは出来ないのだ。
自分と自分の部族を守るための必死のままごとに付き合うこ
としか、俺にはしてやれない。東宮とはなんと力の無い存在か。
そして、その苛立ちを隠すことの出来ない俺はなんと言う未
熟者か。
まったく。
我ながら
「かっこわりぃ……」
706 :
パー速民がお送りします: [] 2009/04/02(木) 06:20:40.25 ID:
iQzL7yso
//6
「ここだよっ! れいせぇ様ぁ」
髪に引っかかった薔薇の小枝、服のあちこちに絡みつく蜘蛛
の巣。
俺は植え込みと生垣の狭い隙間を苦労して抜ける。
まったくとんだ探検行だな。
案内人を務める紅鳩はその小さな体格の利点を生かし、まる
で野生のリスのようなすばしこさで先へ先へと俺を導く。
なるほど、これでは護衛もついてはいけないはずだ。
いつの間に宮殿のこんな裏道まで知り尽くしたのだろう?
翡翠広場の噴水を抜けて、十八螺旋坂を斜めによぎる。荒れ
た緑青林を駆けると薔薇の生垣へ。楽しげな笑い声。精霊かと
見まごうような身軽さ。
狭く窮屈な穴倉のような薔薇の茂みの中を潜り抜けると、そ
こは街を見下ろす絶景だった。帝有森林の上に突き出したよう
な崖の一角。蒼羽宮の尖塔さえも眼下に見える。
いつの間にこんなにも上ってきたのだろう。
だが確かに紅鳩の云ったとおり、いやそれ以上の眺めだった。
707 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:20:51.40 ID:
iQzL7yso
「ここなのぉ〜!」
くるくると舞いながら微笑む紅鳩。小さな探検に息を切らす
こともなく、すっかり満足の様子だった。日差しをはじく金色
の髪が、まるで白い焔のように踊っている。
「ああ、すごいな」
俺は紅鳩の頭を撫でる。
その場所はまるで地上と空が口付けを交わす場所のように突
き立った崖。俺達二人に強い風が吹いていた。
空を白い雲が翔る。
千切れて飛んでゆくその様は千変万化して見ている人の心を
捉える。
「れいせぇ様ぁ」
見上げてくる紅鳩の無邪気な笑顔。俺は半ば無意識に紅鳩を
捕まえる。強い風とはいえ、まさか吹き飛ばされるほどではな
かっただろうが、少し心配だったのだ。
俺は紅鳩を包の胸元へ抱える。紅鳩は従順に俺に寄りかかり、
俺が見ている空を同じように見上げる。
西の空にある純白の綿菓子が、風にちぎられるように、一切
れ、また一切れと渦巻きながら流されてゆくのだ。
708 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:21:06.96 ID:
iQzL7yso
「れいせぇ様、お空見てるの?」
「ああ。すごいな」
俺は見上げたままつぶやいた。
最近公務が忙しくてこんな風にただ空を見上げるなんてなかっ
たことだ。ただ雲が流れていくだけの光景が、それだけで美し
くて心に染みる。
俺と紅鳩は、千切れては流れてゆく雲を飽きることなく眺め
続ける。
高く青い空。駆けてゆくのは白い雲。
「馬群が草原を駆け抜ける如き様だな」「お馬さんのかけっこ
でいっぱいなのぉ」
俺と紅鳩は同時に同じ事を云う。
腕の中を見下ろす俺。
腕の中から俺を見上げる紅鳩。
思わずこぼれた笑いが二人を結ぶ。
「れいせぇ様と同じ〜」
「ああ、同じだな」
俺たちは笑いながら空を見上げた。少し肌寒いほどだったが、
腕の中に抱えた紅鳩は温かく、楽しそうに小さく動く仔熊耳が
好奇心をあらわしていて、俺には可愛らしく見えたのだ。
709 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:21:27.13 ID:
iQzL7yso
「れいせぇ様っ。あの子、早いねぇ〜」
紅鳩が一片の雲のはぎれを指差して言う。その雲は上空の強
い風に流されているのか、渦巻くように形を変えて東へと駆け
てゆく。
「ああ、早い。あいつは名馬だな」
「うん、うんっ! 駆けっこなら一等賞だね〜」
そんな他愛ない言葉を交わす。強い風と、白い雲。緑の木々
と、足元に広がる帝都。他には何もいらない。強い風の中、寄
り添う体温だけでわくわくする様なそんな時間だった。
やがて陽はゆっくりと傾く。
空は輝くような薔薇色と桜色のマーブルを見せる。
「……紅鳩」
「はぁう?」
その色に照らされて、帝都も優しく染まってゆく。蒼羽宮、
凱旋通り、西クタル河、大鐘楼、七つの橋と、七つの丘。俺は
腕の中の紅鳩を感じながら尋ねる。
710 :
パー速民がお送りします: [sage] 2009/04/02(木) 06:21:41.73 ID:
iQzL7yso
「紅鳩は、ここ、好きか?」
「……はいっ」
明るい声。
「みんな優しくしてくれるの。ご本も沢山あるし、お布団ふか
ふかだし。雪加(セッカ)様も瑠璃鶲(ルリビタキ)様もキレ
イだよぅ。あとね、あとね。はちみつケーキっ」
俺の腕の中で弾むような幼い身体が歌うように答えてくれる。
「そか」
抱きしめる腕にちょっとだけ力を込める。
その腕に、紅鳩の子供っぽいぷにぷにした頬がこすりつけら
れる。喉をこすりつける猫のような仕草。その柔らかい感触が
切なくて、少しだけ痛い。
「れいせぇ様?」
「うん、ああ」
紅鳩の問いかける声。
薔薇色の夕暮れはフィナーレを迎えていた。地平線に去った
馬の群れは金色の残照を運び去り、すみれ色のカーテンが藍色
の夜をつれてくる。
「寒くなってくる。……帰るぞ、紅鳩」
「はいなのっ」
じゃれ付くように腕にぶら下がってくる紅鳩。俺たちは東へ
と去った雲の旅団と別れて蒼羽宮へと戻っていった。