Part3
59 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 12:19:59.58 ID:
KmqRKDbT0
――夜。ふたりの襲の中
黒髪娘「温かいな。これはなかなか新規な経験だ」
男「あー。おう。その、さ」
黒髪娘「?」
男「菓子食うか?」
黒髪娘「いただこう」
男「……」
黒髪娘「……ふむ」
男(漢詩に夢中なのな)
黒髪娘「ん?」 くるっ
男「っ! なんだよ」
黒髪娘「いや、不思議そうにうなっていたから」
男「別になんでもない。ほら、食え」
黒髪娘「んっ。美味しいぞ」
男「そっか。ふぅ」
60 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 12:27:41.59 ID:
KmqRKDbT0
――。――ほぅ。
男「あれは?」
黒髪娘「?」
――ほぅ。――ほぅ。
黒髪娘「夜啼き鳥だろう」
男「そうか」
黒髪娘「まさか怖いのか? 怨霊は最近出るとは聞かないぞ」
男「いや、怖い訳じゃない。ちょっと緊張してるだけ」
黒髪娘「ふふふっ」 かさり
男「漢詩は良いのか?」
黒髪娘「あれは逃げない。少し男殿と話そう」
男「そうか。……何を話すんだ?」
黒髪娘「何でも良いぞ」
男「んー。そうだなぁ。こないだの音楽の話を聞かせてくれよ」
61 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 12:31:22.75 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「あれに興味があるのか。あれは笙の笛だったかな」
男「笛か」
黒髪娘「この間は内裏で出世するのに学識が必要だと云ったが
やはり学識だけというわけには行かない」
男「ふむふむ」
黒髪娘「おおざっぱに言って、まず身分。次に学識。
さらには技芸……音楽などの雅ごとだな。
そして人柄が必要となる」
男「その辺は、何となく判ってた」
黒髪娘「正直に告白すると、わたしは技芸がさっぱりでな」
男「そうなのか?」
黒髪娘「声が細くて高すぎる」
男「綺麗な声だと思うけどな。透明感があって可愛いじゃないか」
黒髪娘「ふふふっ。有り難いが、世辞には及ばないのだ」
男(世辞でもないんだけどな)
黒髪娘「黒髪は、なんで引きこもりなんだ?」
男「……」
62 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 12:35:20.62 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「――」
男「黒髪?」
黒髪娘「何でだろうな。
改めて考えると引きこもりたいわけではなくて」
男「うん」
黒髪娘「帰るところが、なくなってしまったのだ」
男「よく判らないな」
黒髪娘「……説明しても、これは難しいやも知れぬ」
男「そうなのか?」
黒髪娘「わたしは……何と言えばいいのかな。
憧れてしまったんだ。憧れて、頑張ってしまった。
それは言葉にすれば、博士とか云うものかも知れない。
あんまりにも薄っぺらに聞こえるのだけれど」
男「博士……って。博士のことか?」
黒髪娘「ああ。文章博士でも明法博士でも良いんだけれど。
いや、陰陽博士でも……つまり、博士そのものではなく
学んで、その至る所に憧れたのだと思う」
男「うん」
黒髪娘「でも、それにはなれない」
男「なんで?」
63 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 12:38:11.40 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「女はなれぬのだ」
男「――あ」
黒髪娘「でも、わたしはもうそちらに
歩き始めてしまったから、今さら別の夢は見れない。
どうも、わたしは少しとろかったんだな。
もっと早く気が付いておくべきだったのに、気が付き損ねた。
あるいはもう少し賢ければ、器用に方向転換できたかも知れない」
男「……」
黒髪娘「それに、祖父君に出会ってしまった。
未来からやってきて、わたしに学問を授けてくださる
祖父君をわたしは長い間、観音菩薩かと思っていた」 くすくすっ
男「そんなに良い爺ちゃんじゃねぇよ」
黒髪娘「尊敬申し上げている」にこっ
男「いいけどさっ」
黒髪娘「そんなわけで、女にしては知恵をつけすぎたけれど
男になることも出来ない半端者として引きこもっているのだ。
幸い尚侍の処のほうも、私のことを物狂いの姫として
遠ざけていてくれる。わたしがいなくても、仕事は回っている」
男「そっか」
黒髪娘「大臣家の娘が、
名前だけでも入っていれば都合がよいのだ」
男「うん……」
64 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 12:41:45.97 ID:Uols3fCW0
>>61
節子、引きこもりの件は黒髪娘の台詞ちゃう男のや
66 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 12:43:57.16 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「今度は、男のことを聞かせてくれ」
男「俺か? うーん」
黒髪娘「ここに居座って平気なのか?」
男「ああ、時間の流れがずれて居るみたいだし。
大学生は暇な時は暇なんだよ。
むしろこっちの方が勉強するには良い環境だしな」
黒髪娘「いくらでも居てくれ。歓迎する」
男「いいのかな」
黒髪娘「もちろんだ。男殿と話してると、安らぐ」
男(うわっ。……津か、あんな事言われたせいで
すげー可愛い女の子に見えるぞ。これで嫁ぎ遅れかよ)
黒髪娘「同じ学究の徒だからかな」
男「え?」
黒髪娘「祖父君のお引き合わせかな」
男「えー」
黒髪娘「こうしてくっついているのも、何とも心楽しいことだ」
男「え゛〜っ」
67 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 13:05:21.77 ID:
KmqRKDbT0
うし、一回ここできゅうけいー。
ジブンノシュミバカリデゴメンナサイ
76 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 18:17:22.27 ID:WeQg+lrUO
男がかわいいって思うなら、黒髪娘は不細工なんだな
78 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 19:43:45.88 ID:zyXoUuviP
>>76
そうなんだろうなぁ……
82 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 20:56:12.43 ID:+UOJCFoZ0
男も爺ちゃんも現代人だよな?
じゃあ黒髪女は普通に可愛いじゃないか
83 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 20:58:51.75 ID:Co4cbcEQ0
黒髪娘の時代の感覚だとふくよかな女性が美人という風潮なので
現代の美少女は不細工扱いだとかなんとか
84 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 21:15:08.93 ID:+UOJCFoZ0
そういうことか
人滅多に来ないなら影武者用意して男の世界に連れていけば全部解決だよね!
86 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 21:33:48.47 ID:VEYOnJ+dP
Dion規制解除されたんだな
相変わらずのお手前で支援
87 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 21:35:12.19 ID:Bh6ckJLdO
夢を壊すようで悪いが
平安ってまともな風呂がなくて貴族は基本的に沐浴をしてたらしい
だから体臭がきついんでお香を焚いてまぐわったりしてたそうな
何を言いたいかと言うと黒髪の風呂シーンを(ry
95 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 00:41:03.59 ID:
2rbnko+MP
>>86
そうなのだ。やってみたらスレ立ってしまったので
夜中にぽちぽち書いてる。総叩きわらったw
でも、もうちょいがんばってみるさー。
97 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/20(水) 00:44:08.74 ID:ioMh/yOwP
>>95
俺は好きだぜ
幸せにしてやってください (あの時代で)美人じゃないのはかわいそうだ
99 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:07:48.92 ID:
2rbnko+MP
――黒髪の四阿
黒髪娘「んぅー」
男「どうした?」
黒髪娘「いや。ん。ちょっと肩が痛くなった」
男「根を詰めすぎだろ」
黒髪娘「そうは云ってもな。
……確かに半日筆写してしまったか」
男「ああ」
黒髪娘「男殿は?」
男「あー。俺の方は一段落。てか、かなり進んだ」
黒髪娘「それは良きことだな」
男「三食つきで勉強三昧ならそりゃ捗るよ」
黒髪娘「そうか……」ぷらぷら
男「何してるの?」
黒髪娘「手が疲れているので、振っているのだ」
男「そか」
101 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/20(水) 01:12:42.78 ID:4cZyVY/RP
前スレとかあんの?
102 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/20(水) 01:12:54.72 ID:DyN/sBN5P
なんで寝ようと思った矢先に再開するの馬鹿なの
支援
103 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:12:55.97 ID:
2rbnko+MP
男「……」ぷらぷら
黒髪娘「?」
男「いや、俺も振ってみてる」
黒髪娘「殿方はそのようなことをする物ではない」
男「そうなのか?」
黒髪娘「格に関わる。こっちへ来てくれ」
男「いいけど」 もそもそ
黒髪娘「指の間がだるいのだろう?」
男「ずっと書いたりキー打ったりだったしな」
黒髪娘「こうして、先の方から」
ぺと、きゅ
男「うぁ」
黒髪娘「指圧していくのだ。ぎゅ、ぎゅっとな」
男「いいよ。悪いよ」
黒髪娘「気にすることはない」
104 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:17:05.10 ID:
2rbnko+MP
黒髪娘「……ん」 きゅ、きゅ
男「ほっそい指だなぁ」
黒髪娘「そうか……嬉しいな。私の数少ない長所だ」
男「そなのか?」
黒髪娘「うん。器量が悪いのだ」
男「へ?」
黒髪娘「何度も言わせるな。私は、その……
生まれつき器量が悪くてな。それでも、幼子は愛らしい。
また賢ければそれだけで清らかなどと云われるだろうが
この歳になっては良い訳は何もつかぬ」
男「美人なのに」
黒髪娘 ぴきっ
男「?」
黒髪娘「そんな事はないっ。それは男殿の世辞だ」
男「そんな事ないんだけどなぁ」
黒髪娘「――では、おそらく価値観だろう」
男「あー。それはあるかもな」
105 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:19:26.54 ID:
2rbnko+MP
>>101
ないよ。このスレが最初だよ。
夜中に再開してごめんなさいごめんなさい。
107 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:25:01.39 ID:
2rbnko+MP
黒髪娘「……」 きゅ、きゅ
男「ちなみにさ、この時代だと美人はどんな感じ?」
黒髪娘「んー」じろっ
男「いや、不愉快な話題なら良いんだけどさ」
黒髪娘「ふぅ……。いや、良い。
知識を共有するのは善だ。
そうだなぁ。瓜実と云う言葉があるが、
顔はふっくら目がよいそうだ」
男「黒髪だってふっくらじゃないか」
黒髪娘「足りてないのだ。あとは、黒髪だな」
男「それは合格か」
黒髪娘「うむ。これは最大と云って良い自慢だろうな」
男(それで褒められた時に照れていたのか……)
黒髪娘「顔の造作については、まぁ好みもあるだろうから
細かいことは私はよく判らない。
ただ私は化粧なんて殆どしないから」
男「そだな」
黒髪娘「あとは、雰囲気と体型だな」
男「ふむ」
108 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:31:54.81 ID:
2rbnko+MP
黒髪娘「まず、雰囲気だがこれはもはや決定的で
かそけき風情が無いとダメだ」
男「かそけきってなんだ?」
黒髪娘「え? 判らないのか。うーむ。
儚げというか、日を当てたら消えてしまいそうな
弱々しい感じだとか、たおやかで女性らしい様子だ」
男「あー」
(つまり線の細い病弱美少女で従順系ね……。
そんで13で結婚ってどんだけロリコン天国だよっ!?)
黒髪娘「わたしは、ほら」
男「?」
黒髪娘「言葉遣いがきっぱりしてしまっているし、
変に漢詩や明法を学んでしまっているし。
そういうたおやかは雰囲気が全くないんだ」
男(そういや、凛々しい美少女系だもんな……。
時代のニーズにはまったく合ってないか)
黒髪娘「和歌や大和歌を女性が学ぶのは良い。
むしろ推奨されるけれど、漢詩はなかなか珍しいしな」
男「そっか」
黒髪娘「それに」 きゅ、きゅ
男「どした?」
黒髪娘「あ、いや。……うん」 かぁっ
男「?」
109 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/20(水) 01:32:07.28 ID:4cZyVY/RP
>>105 夜中なのは構わんが>>95は何だ?
110 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:39:58.28 ID:
2rbnko+MP
>>109
いや、Dionはこの間まで規制が入っててスレ立てができなかったんだよ。
で、スレが立てられなかったからしばらくSS書いてなかった。
でも昨日やったらなんかあっさりスレが立ってしまった。
で、頑張るぜーと云う話で。前スレがあるとかではないんだぜ。
まぁ、夜だしママレード饅頭でもくっていってくれろ。
113 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:48:34.74 ID:
2rbnko+MP
黒髪娘「ほら。さっきの話の続きの、体型だ」
男「あ、ああ」
黒髪娘「もう判っていると思うが、
雰囲気の麗質がそうだから、美人の条件って云うのは
儚げな雰囲気なんだ。具体的に云うと、
首筋がほっそりしていて全体的に細くて
む、むねとか……。無ければ無いほどよくて……」
男(無乳最強世界っ!?)
黒髪娘「わたしは、その。けっこう、太ってる」
男(ふとってないふとってない! 俺基準で十分小柄っ!)
黒髪娘「あちこち出っ張ってて不格好だ」
男(その出っ張りを捨てるなんて、とんでもないっ!)
黒髪娘「こほんっ」 きゅ、きゅっ
男「おう」
黒髪娘「そう言うことなのだっ」
男「そ、そっか」
黒髪娘「まぁ……。本質はそこじゃないのだが」
男「?」
116 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 01:53:30.12 ID:
2rbnko+MP
黒髪娘「この時代では、男女は顔を合わせないで
恋をするのが普通なのだ。祖父君が教えてくれたが
そちらの時代では違うのだろう?」
男「ああ、そうだな」
黒髪娘「この時代では、女性は几帳や御簾ごしに
声を掛けるのが常識だ。初めは直接声を掛けもせずに
目の前に相手が居ても女房に伝言を頼むほどだ。
まぁ、これは先ほど云ったかそけき風情とかに
関係あるのだがな」
男「ふぅん」
黒髪娘「だから男女間において、容姿はさほど重要ではない。
まぁ、少なくとも貴族の間ではそう聞いている。
私はなにぶん経験に乏しいのだが……。
むしろ第一印象は、文のやりとりだ」
男「文か〜」
黒髪娘「うむ。和歌でも短信でも何でも良いのだが」
男「ふむふむ」
黒髪娘「この時代の恋は、その殆どの部分が
文のやりとりだ。
上手に文で恋の気持ちを盛り上げて、盛り上げて、
盛り上げて後は怒濤のようにそのぅ……」 ごにょごにょ
男「?」
118 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 02:02:08.66 ID:
2rbnko+MP
黒髪娘「とにかくっ。
最期は一気に燃え上がるのが
基本であり完成度の高い恋の形であると云うことになっている。
会えなければ会えないほど
あなたの顔が浮かんで恋い焦がれる……とか。
そういう世界の話……らしい。
わたしなど、会ったこともない相手の顔が浮かんでくるなど
酒にでも酔って居るのではないかと思うのだけれど」
男「あはははっ」
黒髪娘「笑わないでくれ。
まぁ、そんな事情だから、本当はそこまで姿形や容姿が
重要なわけではないのだ」
男「そうだよなぁ。容姿にびっくりした時って、
要するに手遅れなんだろ? あははっ」
黒髪娘「うむ」 きゅ、きゅっ
男「そんで?」
黒髪娘「だから、要は文のやりとりの中で、
相手が望むような線が細くて弱々しい、
でも一身に相手に恋い焦がれるような女性を演じられれば
それは“美人”といっても良いかと思う」
男「ああー。うん。納得したぜ」
(つか、それってネット美人とかネカマの論理じゃね?)
119 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/20(水) 02:09:46.26 ID:uS5ZLk6q0
ママレモンは理屈屋で生き遅れた子が好きなんだろうと予想しつつ支援
120 :
VIPがお送りします [] :2010/01/20(水) 02:10:42.99 ID:
2rbnko+MP
黒髪娘「でも、ほら。私は性格も不器用だから」
男「……」
黒髪娘「相手を騙すような歌は、読めない」
男「歌は得意だろう?
あれだって学問の大きな分野だって聞いたぜ?」
黒髪娘「嘘をつくのは苦手だ。
嘘をつけるくらいなら、きっと引きこもりなんてやってない」
男「――そっか」
黒髪娘「でも、この世界では、恋は嘘を基本にしてる。
最初から相手はこうだと決めてかからないとだめなんだ」
きゅ、きゅっ
男「……」
黒髪娘「反対」
男「?」
黒髪娘「反対の手もしよう」
男「え? あ。すごい! 手が軽くなった!」ぶんぶんっ
黒髪娘「そうであろう?」 にこっ