Part23
865 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:35:18.48 ID:
RCnXttEo
それは……
ど、どうしたのだ、姫はっ。
二の姫「姫……」
右大臣「どうしたのだというのだ。黒髪、黒髪よっ」
下の兄「父上、ここはどうか落ち着いて」
右大臣「これが落ち着いていられようか!
このような席で別離の哀しみの歌などをっ。
触れえずとはなにごとだ、触れるとはっ!」
さぁぁぁぁぁ……。
雨? ああ、晴れているのに小雨が……。
これはどうしたことだ……。
「そりゃ、さらってゆくということだ」
黒髪娘 ばっ
二の姫「姫っ!?」
男「潜入成功っ」
黒髪娘「お、おっ。男殿っ!!??」
右大臣「な、なっ!? 何者だ貴様っ! 面妖な!!」
下の兄「道士さまっ」
右大臣「道士だぁ!?」
男「狐狸の方かも知れないんだけどな」
黒髪娘「男殿。男殿っ。男殿っっ!!!」 ぎゅうぅっ
男「待たせてわるかった」
黒髪娘「火傷だらけではないかっ!!」
男「“あっち”ではまだ火事から一日もたってないんだよっ」
866 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:36:17.18 ID:
RCnXttEo
右大臣「何を言っているのだっ」
男「初めましてのご挨拶がこんな風になって
申し訳ないけど、結婚の申し込みと
結婚の許可願いと、娘姫の受け取りにやってきました。
えーっと……お、お義父さん?」
右大臣「父だとっ!? お前のような
どこの馬の骨とも判らぬ輩、知りもせぬわっ!」
黒髪娘 しゅるん! ばさっ
二の姫「姫、なにをっ」
黒髪娘「十二単など、不便きわまりない」
男「黒髪っ」 黒髪娘「男殿っ」 ぎゅっ
右大臣「黒髪っ!? 黒髪だとっ。
我が娘呼び捨てではないかっ!
黒髪も黒髪だ、何をしているっ!
ええい、衛士! 召し捕れ、こやつを捕縛せよっ!」
ずだんっ! 抵抗するなっ!
男「いや、ちょっ。まだこっちは身体がっ。
って、なんで抜刀するっ!!」
下の兄「ええい!! 静まれっ!
この方を傷つけること、相成らんっ!!」
男「助かる、下兄っ」
下の兄「お気になさらずに。
……そのために売った恩でしょう?」
867 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:37:19.06 ID:
RCnXttEo
右大臣「ええい、何をしている! 早く召し捕れっ」
下の兄「動くことはならんっ。行かせるのだっ」
右大臣「下のっ! お前は何を考えている。
いったいどちらの味方なのだっ!?」
下の兄「ぼくは右大臣家の味方なのです。
あの道士さまには、ずいぶんと助けられましたからね」 にこっ
だだだだだっ。がたん!
ま、待てぇ! 姫、姫ぇ、お待ち下さいっ
黒髪娘「待たぬっ」
男「ていっ!」 踏みっ
うわぁ!? ひ、姫がっ
だれか、縄を持って参れ。
傷つけることなく賊を捕縛するのだっ!!
ばたんっ!
上の兄「おい、黒髪っ! お前、何考えてるんだっ!?」
黒髪娘「兄上っ」
上の兄「事と次第によっちゃぁ、
そこの男とともに切り捨てるっ」 ずらぁっ。
黒髪娘「上の兄上。黒髪は……っ。
お慕いする殿方の元に、自ら参りますっ。
右大臣家の名、宮中の義務あれど
報償のようにやりとりされる女の真似など、出来ませんっ」
868 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:39:05.52 ID:
RCnXttEo
上の兄「――」ぎろっ
男「おれはさらう方だから言い訳はしない。
でも、黒髪のことは一生大切にする」ぐいっ
上の兄「ふんっ! ……そりゃ、悪くねぇ」
黒髪娘「それではっ」 ぱぁっ
上の兄「親父の娘離れには丁度いいや。
行けッ。どうせそのナリだ。
顔見せにも来られないような所に嫁ぐんだろうが
……くそっ。
そんな顔で笑ってたら、何にも云えねぇだろうがよっ!!」
黒髪娘「ありがとう、上の兄上っ!」
男「下兄にもよろしく伝えてくれっ!!」
黒髪娘「黒髪は、気鬱の病で死んだとでもっ!」
上の兄「良いから、もう行きゃーがれっ!」
だだだだだっ。がたん……だだだ、だだだだ……。
さぁぁぁぁ……。
上の兄「云いだしたら、聞きやしない。
……気鬱の病で?
何を言っていやがる。
晴れたる陽に傘がかかり、小雨降る。
そういうのは――狐の嫁入りっていうんだよ」
869 :
パー速民がお送りします [] :2010/01/27(水) 14:41:54.31 ID:vpciy6U0
ぬおおおおおおおおおおおおおおお
870 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:42:13.39 ID:7V7ACdso
魚おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
871 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:43:52.74 ID:
RCnXttEo
――右大臣家、裏門
右大臣「ええい、どけっ! とまれぇ!!」
黒髪娘「父上っ!」
右大臣「どこの異人かはしらぬが、
黒髪を許すわけには行かんっ」
黒髪娘「心が痛むが、許しは要らない。
許しが無くとも結ばれる国へ行くのだっ。
父上、お怒りは受けます。黒髪を行かせてくださいっ」
右大臣「何を言うのだ、黒髪っ!?」
男「取り込み中悪いけど……」
友女房「男様、お支度が調いましたっ!」
黒髪娘「友っ!?」
友女房「ええ、姫! 友でございますよっ!
この友がたかがお役目を解かれたくらいで
姫への忠義を忘れることがありましょうか!
さぁ、男さま」」
男「おっけー、ばっちり。でかした友っ!」
がらがらがらがら、どっがっしゃぁん!!
牛車!? 植え込みと塀がっ!!
男「宜陽殿に収められたていた東西の書三百余巻っ。
俺から、右大臣家への結納として納めるっ」
872 :
パー速民がお送りします [] :2010/01/27(水) 14:44:32.84 ID:vWaGiADO
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
873 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:45:16.59 ID:BapHEzIo
おおおおおおおおおおおおおおおっしゃあああああああああああああああああああああああああ
875 :
パー速民がお送りします [] :2010/01/27(水) 14:45:52.89 ID:Kn/EamEo
あつい、あつい、あつい、あつい
あついぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
879 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:48:36.44 ID:
RCnXttEo
黒髪娘「男殿……。これらを救って……。
そういえば! 男殿はどうやってあの炎を逃れたのだ!?」
友女房「“花鳥文螺鈿作り黒檀長櫃”ですよ。
宜陽殿にはそれが納められていたのです。
姫の庵にある“月花文螺鈿作り白檀長櫃”と対になる。
もともとは唐から贈られたもので、
双つで一対のものだったそうです。
その片方が右大臣家に下賜されて……」
男「探してみたら、納戸にもう一つあるんだもんよ」
右大臣「なっ、なっ! なにをっ!!」
二の姫「黒髪の姫っ」
右大臣「ええい、離さぬかっ!」
二の姫「いいえ、離しませんよ。……これ、お前達。
構いませんからいま少しの間、大殿をお止めするのです」
友女房「姫、急ぎませんと宮中の衛士が」
黒髪娘「うむ」
二の姫「お嫁きなさい、姫」にこっ
黒髪娘「二の姫……」
二の姫「お友達ですもの。お別れは要りませんわ」
黒髪娘「……二の姫」 ぐすっ
880 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:50:10.44 ID:
RCnXttEo
二の姫「さぁ、涙をお拭きになって。
余りにも不器量だとお慕いする殿方の恋が冷めますわよ?」
黒髪娘「男殿の趣味は、変わっているのだ」 ぐすっ
男「俺はノーマルなんだ!
誰も信じちゃくれねえけど、
ロリコンじゃないだよっ!」
二の姫「ふふふっ。たしかに好みは
変わっているやも知れませんね。
こんな強情で、たおやかさの欠片もない
意地っ張りで甘えん坊の黒髪の姫を娶るなんて。
――でも、見る眼は確かですわ。
わたしの友達を選んだのですから。
さぁ、行ってください。
須弥山でも高天原にでも!」
男「恩に着るっ!」 だっ
黒髪娘「姫っ! 姫っ、友達って……」
二の姫「あんなにも学ぶのが好きな貴女なら
どこへ行ってもやっていけますわっ!
行って! わたしはこの都で詠いましょう!
別離の歌ではなく、慕わしき歌を。
だから貴女も――遠くで――を――」
黒髪娘「二の姫。……ありがとう!!」
881 :
パー速民がお送りします [] :2010/01/27(水) 14:52:07.53 ID:Iq9msADO
え〜 なんだろ
この頬を伝わるものは
この胸の高鳴りは
882 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:52:34.93 ID:7V7ACdso
二のおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああ
883 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:53:53.54 ID:0jLDu2DO
二の姫が良い女過ぎて泣ける。
884 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:54:25.03 ID:
RCnXttEo
――エピローグ
「初めて筆を執り、文をしたためる
親愛なる二の姫へ。
わたしが男殿の元へと嫁いでそちらでいえば
もう半年がたとうかと思う。
文も出さなかったわたしをどうか叱って欲しい。
こちらへ来て眼の回る忙しさの中にわたしはいる。
まだ一月しかたっていないような心地がする。
心地がする、と云うか、経っていないのだが……。
それは横に置こう。
わたしは男殿の祖父君の家に転がり込み
(その祖父君はすでに身罷られていて、
男殿はご当主の地位に当たるのだ)
こちらでの生活を始めた。
こちらで見聞きすることは全て新奇で
とてものこと、文では書こうとも書ききれぬ。
異国、遠地というのはとかく異なる風習を持つものゆえ
わたしが生まれてこの方過ごしてきた京のやりかた
右大臣家の名前などは通じぬ。
何をするにしても初めてのことで、
戸惑うばかりだ。
886 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:56:07.57 ID:
RCnXttEo
昨日は、男殿のために魚を焼こうとしたのだが
(こちらでは下人などはいないのだ)
がすこんろなる道具を誤って用い炭にしてしまった。
男殿は笑って許してくださるが、
わたしにも矜持というものがある。
学ぶことに費やした我が半生に賭けて
食事の支度程度、あっという間に身につけてみせると
意気込みを新たにしたところだ。
悔しいことに共にやってきた友女房は
あっさりとこちらの風俗に馴染み、
気楽にれんじなる道具やがすこんろを使いこなす。
あまつさえ、京より便利だなどというのだ。
わたしがいままで学識ある、衆に優れた知恵をもつなどと
褒めそやされてきたのは、いっそのこと皆でお世辞を
言っていたのではないかと疑う毎日だ。
友は男殿の姉御とわたしに色々教え込んでくれるのだが
わたしは自分で思っていたのよりも、不器用らしい。
先が思いやられることもある。
だが、そうは言っても
わたしは落ち込んでいるわけでも悲嘆しているわけでもない。
こちらに来て色々と変わった珍奇なるものを見聞きして
わたしの知を好む心も学問を追究する心も
いまや燃え上がらんばかりだ。
ここには学ぶこと、知るべき事がそれこそ限りなくある。
888 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:58:27.95 ID:BapHEzIo
男は4P三昧か・・・ウラヤマシス
889 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:58:34.45 ID:
RCnXttEo
毎日知ったことを紙にしたため
(墨をすらずとも書ける筆さえあるのだ!)
一つ一つ出来ること、出来ぬこと
知っていること、知らぬ事をより分けて
尋ね、調べ、あるいは悩み、考えるのは
まさしく、新しく生まれ出でた幼子であるかのように心躍る。
そして、傍らには(いつもではないが)男殿がいてくれる。
わたしは、その……。
やはり一五としては奥手だったようなのだが
男殿としてはもっと奥手でも良いと仰せなのだ。
そんなに奥手同士だと切なく寂しくなってしまう故に
時には、触れあうことも大切だと口論をした。
わたしが頑強に言い張って
やっと口づけを済ませることが出来たのだ。
このように甘やかなものだとはわたしは知りもしなかった。
恋が流行るのも頷けるというものだ。
しかしこれはこれで……熱が出てしまうので、
厳しく自制をしようと考えている。
元尚侍としても、対面というべきものがあるのだ。
それ以上――つまり口づけより先――
については、男殿は瞳を逸らして
おいおいで構わない、仰られている。
姉御殿は興がられて男殿と長い話をされていたが
内容については判らぬ。男殿は泣いていたようだ。
男殿も姉御殿もわたしには優しくして頂いて
感謝の言葉もない。
890 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 14:59:37.25 ID:/KPD0DQo
姉ひでぇwwwwwwwwww
891 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 15:03:44.92 ID:
RCnXttEo
先日、男殿が書を一冊見せてくださり
そのなかに二の姫の歌を見つけた。
遠い便りを頂いたかのように胸が熱くなった。
それゆえ、このような便りをしたためる。
上手く届くと良いのだが……。
同梱したものは、しゅくりいむなる菓子である。
これは男殿とわたしにとっては思い出の品なのだ。
甘くてとろけるような味わいである。
もし食べるのならば、少し冷やすと良いだろう。
(水につけてはいけない。器に入れて、
器ごと井戸水に浮かべると良いかも知れない)
ともあれ、わたしは幸せだ。
どれほど幸せかを記すならば、
京中の巻物を集めても紙幅が足りぬ。
それもこれも、二の姫。貴女との友誼を始め
わたしを救ってくれたみんなの好意によるものと心得る。
こう呼んで良ければ。
わたしの友達の。
出来るならばまた文を出す。
お健やかにお過ごしあれ。
黒髪」
黒髪娘「――これでよい。
あとは、上手く兄上のどちらかに
言付けられればよいのだが。
宮中はまだ騒がしいのだろうか……」
894 :
パー速民がお送りします [sage] :2010/01/27(水) 15:05:36.11 ID:
RCnXttEo
とっとっとっ。からり
男「おーい! 黒髪〜!! プリンあるぞー?」
黒髪娘「んぅ。男殿っ」 ぎゅぅっ
男「どうした?」
黒髪娘「男殿の腕の中が恋しかっただけだ」 すりすりっ
男「そっか。……くくくっ。でもプリンあるんだぜ?
プリンとどっちが恋しい?」 にやにや
黒髪娘「むぅ……」
男「悩むのかよっ!?」
黒髪娘「両方では駄目なのか?」 しょぼん
男「……まぁ、いいけどさ。なんだよ。
そんな顔しちゃってさ。ずりぃな黒髪は」
黒髪娘「いいや。なんでもない。
ただ幸せで……歌が胸からあふれ出そうなだけだ」
――愛しきは真珠を抱きし真珠貝
百万遍のうたよこのむねに咲け
//KUROKAMI MONOGATARI.
//End of log
//Automatic description macro "Marmalade" is over.