Part2
31 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 08:57:46.78 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「殿上人にとって学識は、とても重要なんだ」
男「あれ?」
黒髪娘「?」
男「でもさ。黒髪ってさ」
黒髪娘「うむ」
男「なんだっけ、その。典侍(ないしのすけ)だっけ?」
黒髪娘「そうだ、従四位となる」
男「数字が小さい方が偉いんだろう?」
黒髪娘「そうだな」
男「じゃ、もうすでに偉いんじゃないか」
黒髪娘「……そうかもしれない」
男「じゃぁ、勉強する必要なくないか?」
黒髪娘「ああ。……うん。そうかもしれない。
でも……わたしは女だからな。
そもそも、この従四位も
学識で手に入れたものでもなければ、
自分で手に入れたものでもないのだ」
男「?」
32 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 09:01:08.85 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「いや、よそ事をいった」
男「う、うん」
ことことこと
黒髪娘「もう一杯いかがだろうか?」
男「お、もらう」
黒髪娘「煎れよう」
男「えっとさ」
黒髪娘「ん?」
男「次は、サラダせんべい行っておくか?」
黒髪娘「開けさせてくれるのか?」 にこっ
男「ああ、いいぞっ」
黒髪娘「嬉しいぞ。かたじけない、男殿」
男(なんだか、中学生なのになぁ……。
年相応なんだか、大人びちゃってるんだかわからねぇ)
黒髪娘「〜♪」
男(あんな表情も出来るのになぁ……)
33 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 09:02:41.49 ID:KUk4U0wK0
黒髪カワユス支援
34 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 09:27:24.57 ID:
KmqRKDbT0
――男の実家
姉「あら、あんたどこ行ってたの?」
男「あ? 爺ちゃんの家」
姉「ああ。あそこ、どう?」
男「んー。荒れ果ててないよ。何日か掃除したけどさ。
わりと良いな、あそこ。
俺バイクあるし、あそこ済もうかな」
姉「そうねぇ。人がいないと荒れ果てるって云うしねぇ」
男「なんか、結構愛着あるかも。俺」
姉「あんた子供の時はあそこの庭で
相当やんちゃだったからね」
男「そう?」
姉「まったくよぉ。心配で心配で母さん育児放棄よ」
男「心配してねぇじゃん」
姉「まぁ、お爺ちゃんも、すぐ取り壊したり
売られちゃったりしたら寂しいだろうしねぇ」
男「そうだなー」
35 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 09:34:00.23 ID:
KmqRKDbT0
姉「夜は?」
男「もちろん食うよ」
姉「父さんも母さんも遅いみたいだか、先食べちゃおっか」
男「うん。何食うの?」
姉「メンチと煮物」
男「む。良いね。庶民って物がわかってるね」
姉「あったり前よ。わたしクラスになるとね。
足の爪先から黄金の庶民オーラが出て
髪の毛金色で逆立つわけ」
男「すげぇな」
姉「サイバイマンくらいなら鼻歌交じりで倒せるのよ。
んっ。ほら、運んで」
男「へいへーい」
姉「あんたちゃんとやってんの?」
男「やってる」 こくこく
姉「ならいいけど」
男「さすがに、中学生に後ろから煽られると
勉強する気に多少なるわ」
36 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 10:06:20.67 ID:
KmqRKDbT0
――黒髪の四阿
がつんっ。すたっ
男 きょろきょろ
しーん
男「おーい、黒髪? いるかー?」
男「いないのかな。おーい?」
ぱたぱたぱたっ
友女房「お、男様っ」
男「!?」
友女房「男様でございますね。ほ、本日はっ。
はぁ、はぁっ」
男「いや、一つ落ち着いて」
友女房「は、はいっ」
男(なんか面白い女の人だな)
37 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 10:09:14.87 ID:
KmqRKDbT0
友女房「済みません。取り乱しました。
……黒髪の姫はご実家の方に向かっておられまして。
本日のところは、この友っ。
黒髪姫の腹心の女房、友女房がお相手いたします」
男「はぁ」
友女房「お疑いですか? 男様の件は姫より聞いています。
祖父君とも面識がありますし、そのぅ……」
男「あの、爺ちゃんさ。もしかして失礼なコトしなかった?」
友女房「……」
男「その、えーっと。ね?」
友女房「そ、それは……その。
めいどおっぱいとか云いまして」 ごにょごにょ
男「良し、合格。面識があるのは判った」
友女房「ほっといたしました」
男「苦労してるんだね」 ほろり
友女房「そう言ってくださると幸いです」
男「そっか、黒髪、居ないのか」
友女房「ええ。申し訳ありません」
38 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 10:33:04.50 ID:
KmqRKDbT0
男「まぁ、それはしかたないよ。
ケイタイで様子聞いてから来るわけにも行かないし」
友女房「ケイタイ?」
男「いや、こっちの話」
友女房「姫より、もし男様が来られるようならば
お相手をしてくつろいでいただけと
仰せつかっております」
男「そっか、どうしようかな」
友女房「?」
男「……。ん、いいや、 んじゃしばらく
お邪魔させてもらう。ってか、俺ここにしばらく居て良いの?」
友女房「ええ、ここは姫の引きこもりの砦ですから。
滅多に客人も来ません。少なくとも奥までは。
安心してくださって大丈夫ですよ」
男「ありがとう。ああ、女房さん、だっけ?」
友女房「友女とお呼びください」
男「友女さん。女房さんって結構人数居るんでしょ?」
友女房「この四阿には数人ですね」
男「じゃ、このお菓子、みんなで分けて食べてよ」
39 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 10:35:13.99 ID:
KmqRKDbT0
――四阿の一室
友女房「お茶を……あら、書ですか?」
男「ああ、うん。俺も勉強しようと思って」
友女房「そちらの書ですか? ずいぶん厚いですね」
男「面倒なんだわ、それ」
友女房「どうぞ」 ことり
男「ありがとう」
友女房「……」
男「……」
カリカリカリ
友女房「えーっと、その。男様」
男「ん?」
友女房「宜しければ、お召し替えをなさいませんか?」
男「なんで?」
友女房「実は前回いらっしゃった時も思ったのですが
男様は見た目はわたし達とたいして変わりませんから
狩衣でも着て頂ければ、もし誰かに見かけられた場合も」
男「ああ。あんまり不審に思われないで済む、と」
40 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 10:44:13.17 ID:
KmqRKDbT0
友女房「ええ、そうです」
男「いいですけど。そういう服ってあるんですか?」
友女房「ございますよ。僭越ながら用意させて頂きました」
男「申し訳ないです。じゃ、着ちゃった方がいいかな」
――着替え中
友女房「いえ、それは後ろ前が逆です」
男「え? え?」
友女房「紐を先に締めてから」
男「こうです?」
友女房「あら。意外に……」
男「うわぁぁん。見るなぁ!!」
友女房「ご立派ですよ? 男様」
男「生温かい励ましは要りません。
でも結構温かいですね。見た目よりは」
友女房「外歩き用の衣装ですからね」
男「はぁ」
友女房「太刀でも佩けばご立派な公達でございますよ」
41 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 10:52:44.06 ID:
KmqRKDbT0
そよそよそそよ
友女房「良い風でございますねぇ」
男「静かだなぁ。こんなに静かなの?」
友女房「もう夕暮れでございますから」
男「?」
友女房「内裏に出仕……勤めにいらっしゃる方は、
夜明け前にはいらっしゃいます。
昼には勤務を終えて帰られるのが普通ですよ」
男「そうなの?」
友女房「ええ、灯りがありませんから。
祖父君も驚いていらっしゃいましたが」
男「そっか」
そよそよそそよ
友女房「ささでもお持ちしましょうか?」
男「ささ?」
友女房「お酒ですよ」
男「え。あ。いや……。きゅるる」
友女房「むしろお食事ですね」くすっ
男「面目ない」
42 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 11:01:26.00 ID:
KmqRKDbT0
――四阿の一室
友女房「たいしたお持てなしも出来ませんが」
男「いえいえ。温かい匂いします。ご馳走の雰囲気!」
ことん、かちん
友女房「こちらは瓜の漬け、ササゲ豆の煮物、
赤魚の醤付けの干物です。あとは豆飯と
酒(ささ)を――」
男「あ、どうも」
とぷとぷとぷ
友女房「どうぞ」
男「頂きます」
友女房「……」にこっ
男「友さんは飲みませんか?」
友女房「わたしは女房ですからね」
男「……んー。頂きます」
友女房「召上がれ」
男「あ。美味いです! 魚すげー美味いっ!」
友女房「それは良かった」
男「いや、ほんと……ん。美味いです」
43 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 11:04:26.91 ID:
KmqRKDbT0
友女房「……男様は、姫様を普通に扱ってくださいますね」
男「へ? 普通って?」
友女房「いえ」
男「んー。俺は爺ちゃんと違って学が足りてないんで、
まだ色々と判って無いんですよね。多分」
友女房「ええ、まぁ……」
男「?」
友女房「我が姫にこんなことを言うのも何ですが、
姫は皆からは……
妖憑きのキチガイ姫だと云われておりまして」
男「なんでまた?」
友女房「まぁ、もう14ですし?」
男「――?」
友女房「14ですし」
男「よく判らないです」
友女房「14でまだ嫁いでも居ないわけでして。
もう時間の問題で15です。完全な嫁き遅れです。
それなのに宴にも出ず引きこもりで、お恥ずかしい」
男「!?」
44 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 11:11:37.99 ID:
KmqRKDbT0
友女房「なんですか、うちの姫は」
男(目が座ってる……)
友女房「幼い頃はそれはそれは清らかな心優しく
学問に優れた、それはそれは聡明な姫だったのですが」
男(いまでも勉強好きなのじゃないか?)
友女房「そのうち勉学にどっぷりつかってしまい
時間さえあれば、やれ漢詩がどうのこうの、
天文が巡ってどうのこうのと」
男(あー)
友女房「私どもがお世話をしない限り
碌に髪もとかさぬような出不精のダメ人間に」
男(あー)
友女房「届かれる恋文にも、漢詩で返事を……
しかも痛烈なのを送りつける始末。
和歌ならばともかく、あんなに堅い漢詩で
議論をふっかけられてしまっては返答できるのは、
いまは亡き道真様くらいにちがいなく」
男(あー)
45 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 11:17:32.05 ID:
KmqRKDbT0
友女房「わたし達も頑張ったんですけれどね。
すごく頑張って色々可愛い襲(衣服)を集めたり
年頃の女性の好む絵巻物をみせたり。
そんなものにはまったく興味もなく、
それでも身分だけは高いものですから
内侍司(ないしのつかさ)入りが決まって
これでなんとか普通になるかと思えば……」
男「?」
友女房「こんな秘密の離れを造って引きこもり三昧」がくり
男「はぁ……。もぐもぐ」
友女房「いえ、姫は悪い訳じゃないんですよ。
悪い姫じゃないんです。
……下々に至るまで優しいですし」
男「はぁ」
友女房「それにしたって、学問に操を捧げるとは
あんまりにもお労しいと……」
男「だってまだ14でしょ?」
友女房「もうすでに残念なことに14なんです」
男「はぁ」
47 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 11:21:11.53 ID:
KmqRKDbT0
友女房「ですから、せめて男様には姫のお心を
こう、軽やかに、出来れば浮き立った感じに
して頂きたいとか思うんですが」
男「それは本人のつもりがないとあんまり意味がないかと」
友女房「ダメですか」
男「ダメでしょ……もぐもぐ」
友女房「……」 がくり
男(つか、嫁き遅れなのか……)
友女房「なぁ、運も色々なかったんですが」
男「そうなんです?」
友女房「右大臣家のご息女ともなりますと。
お相手にも不足いたしますし……。
当代の東宮はまだ八つにしかなりませんしね。
本来であれば尚侍として後宮に権勢を振るうことも
いえ、我が姫には、似合いもしませんが……」
男「よく判らないけど。身分の高い姫が学問没頭で
婿捜しも放り出して恋愛音痴で婚期を逃したと。
そんな感じ?」
友女房「そうです」 こくり
男(つまり婚活放置で賞味期限間近の腐女子?)
友女房「どこでこうなっちゃったんでしょうか」
男「それは俺に聞かれてもなぁ」
48 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 11:23:29.25 ID:WdgTnUu2O
これ読んでると黒髪がむぅとしか思えんね
49 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 11:25:27.28 ID:
KmqRKDbT0
さらさらさらさら
男「ごちそうさまでした」
友女房「お粗末様でした。ささは?」
男「いえ、もう結構です」
友女房「はい。では灯明はこちらに」
男「はい。もう少しレポートを薦めます」
友女房「レポート……勉学ですね?」
男「ええ、なぁ。こっちでやると捗るんで」
友女房「さようですか。姫からくれぐれも粗相の
無いようにと申し使っております。ご存分に」
男「ありがとうございます」
友女房「では……」
男「ふぅ」
男(まぁ、こっちの方が時間の流れが遅いみたいだし。
こっちで三日くらい勉強して帰っても
向こうでは数時間だしな。レポートあげるには都合がいいや)
52 :
VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 11:43:14.61 ID:1PUPTiXhO
おじいちゃん平安時代の人って男も平安時代か鎌倉じゃねぇか
あと従三位って相当位高いぞ
内大臣クラスじゃね
53 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 11:50:10.64 ID:
KmqRKDbT0
――四阿。夜
こつん。かたん。
男「……?」
こつん。……きぃ。……きぃ。
男(だれだ? 泥棒?)
黒髪娘「……」こそっ
男「黒髪じゃん」
黒髪娘 びくっ。くるっ
男「あ。俺。お邪魔してる」
黒髪娘「男か。まだ起きていたか」
男「来てるの、知ってた?」
黒髪娘「ああ。女房が知らせてくれた」
男「どうしたんだ? こんな時間に」
黒髪娘「父様の説教がうるさくて、逃げてきた」
男「そうか」
55 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 11:56:56.00 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「ん。ん」
男「どした?」
黒髪娘「火鉢を、かき混ぜて欲しい」
男「判ったよ。寒いのか?」
黒髪娘「こっそり牛車で帰ってきたのだ」
男「そうか」
がさごそ。……がさがさ。……ぽぅ。
黒髪娘「かたじけない」
男「いやいや。飯食わせてもらったぞ?」
黒髪娘「ああ。出来ればわたしが一緒にいて
世話を出来れば良かったのだが」
男「黒髪はずいぶん身分が高いらしいじゃないか」
黒髪娘「聞いたのか。友女だな。
……でも、身分なんて当てになるものではない。
わたしの物ではなくて、家のものだ」
男「そんなものか?」
黒髪娘 ふいっ
男(機嫌悪くしちゃったかな)
56 :
VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 12:00:26.22 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「男殿は、なぜ学生に?」
男「んーっと。それは進学ってことか?
やっぱし、就職。いや、何となくもあったかなぁ」
黒髪娘「そうか……」
男「寒いのか?」
黒髪娘「いや……。うむ。少し寒いな」
男「えっと、ごめん。ここ姫の部屋なんだよな?」
黒髪娘「部屋というかなんというか。
この時間では女房も起きていないだろう。
すまないが、その記帳を動かすのを手伝ってもらえぬか?」
男「ああ。これか? 間仕切りか」
ずり、ずりっ
黒髪娘「ん。これで多少は良いだろう」
男「えっと」
黒髪娘「そういえば」 くるっ
男「なに?」
黒髪娘「狩衣は似合っているな。始め誰だか判らなかった」
男「そうか。ははっ」
57 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 12:03:44.69 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「ほら」
男「?」
黒髪娘「襲だ。それだけでは寒かろう?」
男「女物じゃん」
黒髪娘「蒲団のようにも使うのだ」
男「そうなのか?」
黒髪娘「わたしを信じろ。ほら、そこに座って」
男「ん」
すとん、ふわり
黒髪娘「こうすれば温かいだろう?」
男「あ。あ」
黒髪娘「?」
男「あったかいけど、近くない?」
黒髪娘「夜中に話すのだから、仕方ない」
男「そか」
58 :
VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 12:06:49.64 ID:
KmqRKDbT0
黒髪娘「何をしていたのだ?」
男「レポート……あー。つまり、その。書き物だ」
黒髪娘「手紙か?」
男「いや、手紙ではなく、報告書みたいなものだな」
黒髪娘「そか。……うん、読んでも判らぬ」
男「あー。英文だから。つまり、唐じゃないところの詩だ」
黒髪娘「そうか。……これは?」
男「あ。お土産だ」
黒髪娘「漢詩ではないか!」
男「そうだよ。ほら、前回紙をもらってっただろ?
あれにな。図書館で漢詩を書き写してきたぞ。
マイナ処そろえたけど、どうよ?」
黒髪娘「……ふむ。……半分ぐらいは見覚えがあるな」
男「うわ。だめか」
黒髪娘「いや、とんでもない。
これだけ新しい漢詩をもらえるなんて、感激だ」
男「よかったよ」 にこっ