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黒髪娘「そんなにじろじろ見るものではないぞ」
Part1


1 :VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 05:17:50.63 ID:KmqRKDbT0
男「あー」
黒髪娘「きょろきょろするな」
男「うん」
黒髪娘「やれやれ。茶はどうだ?」
男「いただき、ます。はい」
黒髪娘「しばしまて」
ことん
男「……熱ッ」
黒髪娘「猫舌なのか。ふふふっ」
男「悪いですかよ」
黒髪娘「いいや。似ているな、と」

2 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 05:21:12.88 ID:KmqRKDbT0
さらさらさらさら……
男「……」
黒髪娘「ずいぶん落ち着いているのだな」
男「いや、結構一杯一杯」
黒髪娘「そうか」
男「質問は可?」
黒髪娘「もちろん」
男「ここはどこで、あなたは誰?」
黒髪娘「ここは温明殿(うんめいでん)と梨壺の間の
 あたりにある小さな東屋の一つだ。
 おおむねわたしの住処と云って良いだろうな。
 と、云っても質問の答えには不十分か。
 おそらく、質問の正答は、こうだ。
 ――ここは平安時代とよばれている」
男「……マジすか」

3 :VIPがお送りします [] :2010/01/19(火) 05:21:27.88 ID:BGZ32etY0
よっ!未来の大人気作家!!

4 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 05:23:24.49 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「私は尚侍(ないしのかみ)だ。
 内侍司(ないしのつかさ)を掌握する役目を
 承っている。従三位となるな」
男「……なにそれ?」
黒髪娘「判らなければ、そのままでよいと思う。
 まぁ、政どころの女性の役人だ」
男(官僚なのか……)
黒髪娘「そちらの方は……」
男「あー。男です。多分、助けてくれたんでしょ?
 ありがとうね。これも」
黒髪娘「ああ、その塗り薬は……。うむ。
 傷によく効く生薬なのだ」
男「もう平気。かすり傷だし」
黒髪娘「ずいぶんと、落ち着いているのだな」
男「まぁねー」

5 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 05:25:46.85 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「聞いて良ければ、なぜ?」
男「あー。ないしのかみ……さん? が」
黒髪娘「黒髪でよい」
男「ああ、んじゃ。黒髪が、さっき『似ている』って。
 云ったじゃね? だから、もうちょっと詳しい事情も
 知っているんだろうな、と。
 その説明を聞くまでは仕方ないじゃん?」
黒髪娘「察しも良いのだな。敬服する」
男「そんなことは、ないけど」
黒髪娘「わたしは、その。……その方の」
男「俺も同じだ。男でいいよ」
黒髪娘「感謝する。男殿の、祖父君とは知己であってな」
男「爺ちゃん?」
黒髪娘「うむ、茶飲み友達というか。生徒というか」
男「……あ。ああっ!」

6 :VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 05:29:08.82 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「?」
男(あな。そうだ。俺、爺ちゃんの家、掃除してた
 納戸の奥の長びつのうち側が真っ黒で、
 俺はその中に“落ち”て……)
黒髪娘「……我が東屋に唐突に現われたので、
 祖父君との知り合いか親族だと考えていたのだ。
 幸い祖父君から男殿の容姿は聞き及んでいた」
男「そっか……」
黒髪娘「祖父君は何度もこの東屋を訪れてくれた。
 わたしに色々と教えてくれたのだ」
男「爺ちゃんは、小学校の先生だったんだよ。
 引退した後もちゃんと先生だったんだな……」
黒髪娘「尊敬申し上げている」
男「……」
黒髪娘「祖父君は……」
男「うん」

7 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 05:37:49.46 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「やはり……身罷られたのか」
男「……うん。癌」
黒髪娘「病か」
男「うん」
黒髪娘「何とはなしにそんな気がしていた。
 痩せていったし、疲れやすくなっていた。
 返せそうもないほどの恩を受けている。
 最期の様子を聞いても良いだろうか?
男「病院で、家族に囲まれて。最期まで冗談言ってたよ。
 俺には優しくてさ。おれ、ほら。
 名前の一文字は、爺ちゃんからもらったから。
 二束三文だろうけれど、爺ちゃんの家も俺がもらった。
 山の麓だし、古い平屋だけど。庭が綺麗だからって。
 その二話で、小さい頃は良く爺ちゃんに遊んでもらった」
黒髪娘「祖父君は磊落な方だった」
男「うん。あんなシモネタばっかり
 小学校で云ってたのかよってな」
黒髪娘「ははははっ」 くすっ

8 :VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 05:51:13.56 ID:KmqRKDbT0
男「納戸の掃除をしていて、あの長びつに……」
黒髪娘「判っている。それと対になるのが、
 あちらの奥部屋に置いてある長びつなのだ。
 唐渡りのものらしいが」
男「そっか。帰れるんだな」
黒髪娘「もちろんだ」
男「よかったぜー。ほっとしたよ。
 大学だってバイトだってあるって云うのにさぁ」
黒髪娘「ふふふっ」
 すっ
男「うわぅ」
黒髪娘「何を頓狂な声を」きょとん
男「急に触ろうとするから」
黒髪娘「なんだ。別に私は怪物じゃないぞ」
男(つか、近くで見るとすげぇ美人じゃんかよ。
 人形みたいっていうか、すげぇ美少女って云うか。
 いきなりひんやりした指で触わるな。慌てるだろがっ)
男「び、びっくりしただけ」
黒髪娘「ふむ。――まぁ、礼を逸していたか。すまぬ」

10 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 05:52:41.96 ID:UtXhu8IF0
腹筋しに来たのになんか将来有望作家が居た

11 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 05:57:50.33 ID:KmqRKDbT0
男「いや、そのっ」
黒髪娘「?」
男「ご、豪華で綺麗だからっ。びっくりした」
黒髪娘「? ああ。これか」
さらり
男「つか、すごい格好なんですけれど」
黒髪娘「萌葱の襲だ。普段着だな」
男「ハイスペック過ぎでしょ。
 それ、和服……なの? めちゃくちゃ刺繍はいって
 あれ、刺繍じゃないの?」
黒髪娘「こういう浮織なのだ」
男「すげぇなぁ」
黒髪娘「まぁ。尚侍ともなればな。これくらいは」
男「それに、その髪、すごいな!
 真っ黒で、サラサラで、ろうそくの光できらきらで。
 滝みたいに豪華だよなぁ!」

12 :VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 06:08:51.57 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「それはっ……。褒めて頂いたのか? そうなのか?」
男「そうだけど?」
黒髪娘「そうか。ありがとう。――そうか」
男「なんか悪い事言った?」
黒髪娘「いや、嬉しかっただけだ。
 そう言ってくれる人は、多くはないから」
男「そうなのか? ものすごく豪華なのに」
黒髪娘「ふふふっ。わたしは変わり者で……。
 ああ、そうだな。ヒキコモリなのだ」
男「引きこもり?」
黒髪娘「そうだ。祖父君に聞いたのだが。
 家に籠もって読書三昧の日々を過ごす
 放蕩者を言うらしいではないか」
男「えー、っと。まぁ……間違ってはいないか」
黒髪娘「それゆえ、女房以外、余り人と会うこともなくてな」
男「そか(……美人なのに、もったいない話だなぁ)」
黒髪娘「しかし、夜も更けた」
男「あぁ、そうかも」

13 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 06:15:12.36 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「男殿のお陰で、祖父君の最期を聞くことも出来た」
男「ん? そだな」
黒髪娘「感謝に堪えない」 ふかぶか
男「そんなに頭下げることないじゃん。
 正座とか、土下座っぽくて怖いよっ」
黒髪娘「いや、気にかかっていたのだ。
 お見舞いに行くことも出来ないゆえ。
 物忌みはしていたのだが……」
男「いいっていいって。爺ちゃんの生徒さんじゃん」
黒髪娘「……あの長びつに入れば戻れる。
 酒でも飲んで忘れてしまうと良い」
男「?」
黒髪娘「こんな気持ち悪い話は、
 一夜の夢として忘れてしまった方が良い。
 手間を取らせて本当に申し訳なかった」
男「へ?」
黒髪娘「時を超えて漂流するなど、出来の悪い戯作の
 ような物語だろう? 祖父君は哀れみ深くわたしの
 我が儘に付き合ってくださったが、普通に考えて
 気持ちの悪い話だ」

14 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 06:26:52.20 ID:KmqRKDbT0
男「それは……そなのかな」
黒髪娘「男殿には、大きな感謝を」
男「あのさ」
黒髪娘「なんだろう?」
男「黒髪は、いくつ?」
黒髪娘「歳か? 15になった」
男「中学生じゃんよっ!」
黒髪娘「はぅわっ」びくっ
男「なんでそんなに落ち着いちゃっているわけ?」
黒髪娘「びっくりするではないか。
 ――ごく普通かと思うが」
男「……」
黒髪娘「何か、まずかったのだろうか?」
男「……なんでもないけど」

15 :VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 06:29:24.90 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「礼節を失うのは人として恥ずべきだ」
男「そりゃそうだけど」
黒髪娘「恩人の孫でもあり、また恩人の消息を伝えてくれた
 この上なき恩人でもある。その男殿の平安を祈念したいのだ」
男「それはもう判ったけどよ」
黒髪娘「そうか」 ほっ
男「なんで、爺さんが何度も来たのかも判る気がするな」
黒髪娘「?」
男「俺も、また来るから」
黒髪娘「……良いのか? 気持ち悪くないのか?」
男「爺さんが出来たんだし、俺に出来ないわけがねぇ。
 それに、爺さんが『あの家を頼む』って云った意味が
 これじゃないかって云う気もする」
黒髪娘「よく判らないが」
男「また来っから」
黒髪娘「あの、それはっ」
男「また来っからな!」
ざくっ、ばたんっ

17 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 07:32:19.26 ID:KmqRKDbT0
――祖父の平屋。納戸
どてっ。ごろっ
男「……って、ってって。脚! 小指! ぶっけたっ!!」
男「くはぁ痛ってぇ……。って」
男「どうやら」
男(戻れたか。……してみると、最初のは、
 頭から落ちたせいで気絶したのか。
 普通に足から入れば、ちょっと飛び降りるような
 感覚なのかね……)
男「ま、いっか。安全に往復できるって判れば」
……良いのか? 気持ち悪くないのか?
男「なんか、物わかりの云い中学生とか気持ちわりぃっつの」
男「ったく。ヒッキーなめんな」

18 :VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 07:43:19.06 ID:KmqRKDbT0
――数日後、典侍の東屋
ぼて。がたっ
男「おーい! 黒髪〜」
からから
黒髪娘「男殿ではないか。本当に来てくれたんだなっ」
男「ちゃんとそう言ったじゃねぇか」
黒髪娘「いや、あれは。その……。
 社交辞令というか、虚ろ言かと」
男「なんでそう思うかなぁ」
黒髪娘「それは、女房達がそういう風に」
男「女房ってなに?」
黒髪娘「ああ。それは、ん……。侍女? 召使い?
 そのような存在だ。生活を補佐してくれる」
男「ああ。うん(そか、こいつかなり偉いんだもんな)」
黒髪娘「男性の去り際の言葉は信じるものではない、と」
男「なんだかなぁ。すげぇ耳年増な」
黒髪娘「そ、そうか? すまない」 しゅん

19 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 07:49:52.05 ID:KmqRKDbT0
男「まぁ、いいや。黒髪はヒッキーなんだろう?」
黒髪娘「うむ、ヒキコモリだぞ」
男「まぁ、そんなわけで色々もってきたわけだ」
黒髪娘「?」
男「まずはー。びゃーん。シュークリームっ!」
黒髪娘「お、おおっ!!」
男「お、すげぇ反応」
黒髪娘「それは知っている!!」
男「なんと!」
黒髪娘「祖父君に頂いたことがあるっ」
男(熱い視線だ。ふふんっ。やはりな。作戦成功だ)
黒髪娘「頂けるのか」
男「うむ」
黒髪娘「感謝する」 ふかぶか、ぺとり
男「だからいきなり土下座はやめれっ」

20 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 07:55:43.68 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「そう言うことならば、一席設けよう」
男「一席って?」
黒髪娘「飲むものくらい欲しいのではないか?」
男「ああ、うん」
黒髪娘「茶を入れる」
男「ああ。そう言えば前ももらったっけ。茶、あるんだ」
黒髪娘「うむ、飲むのは貴族だけだが。
 祖父君も好きだったゆえこの庵でも沸かすことが出来る」
男「そかそか」
黒髪娘「ぬるめがよいのであろう?」 にこっ
男「あ。……うん」
黒髪娘「?」
男(不意打ちで笑われるとびっくりするな。
 やべぇやべぇ。こっちも引きこもり同然だと見破られちまう)
黒髪娘「しばし待っていてくれ」
男「おーけー。この部屋にいればいいのか?」
黒髪娘「うむ、準備をしてくる」

21 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 08:00:26.75 ID:KmqRKDbT0
男「ふぅむ。なんか、すかすかした部屋の作りだなぁ」
男(これは……箱? ああ、本か。和綴じの)
ぺらぺら
男「うへぇ。古典だ。あいつ古文読めるのか?
 ってあたりまえか。これがあいつらの現代語か。
 ……これは植物か、薬草かな?
 こっちのは、なんだろう。
 オカルトか? こっちは漢文か
 毎日本を読んでいるとか云ったもんな。
 結構あるなぁ」
ぺらぺら
男「ってか、多いな。おいおい。こっちのは天文に見えるな」
男「……よく分かんないけど、平安の中学生って
 こんなに勉強するのか? どんだけやってんだ?」
からん
男「お」
黒髪娘「待たせたな」
男「いやいや」

22 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 08:02:53.39 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「冷ましてある」
男「ありがとう。ほら、これ、シュークリームだろ」
黒髪娘「わぁ」
男「で。これが堅焼ポテチ。
 こっちは俺の好きなサラダせんべい。
 で、カントリーマァムと、
 抹茶ポッキーと、羊羹と……」
黒髪娘「なんだ、それらは」
男「おやつだよ」
黒髪娘「菓子……なのか?」
男「そうだね」
黒髪娘「こんなにか?」
男「うん、何が気に入るか判らなかったしさ」
黒髪娘「……」そわそわ
男「もしかして、結構気になっている?」
黒髪娘「そんなに不作法ではない」

23 :VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 08:18:51.97 ID:KmqRKDbT0
男「これ、ちょと開けてみ?」
黒髪娘「?」
男「これは包装って云って、まぁ、包む紙みたいなもの」
黒髪娘「うむ」
男「ここを引っ張って」
ぺりぺり
黒髪娘「良い香りが」
男「で、あとはこの内側の小さな包装も」 ペリペリ
黒髪娘「! このように愛らしい菓子が出てきたぞ」
男「食べて」
黒髪娘「頂く……」ちらっ
男「いいよ、どうぞどうぞ」
黒髪娘「甘いっ! これは美味しい」 にこっ
男「そうかそうか」

24 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 08:25:47.47 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「こちらも美味しいな」
男「うん。……爺ちゃんはあんまりもってこなかったの?」
黒髪娘「うむ。あ、いや。理屈は判っているのだ。
 このような物は、本来手に入るはずもないわけで。
 もし何らかの手違いでこの時代に残しては
 大問題になってしまう、と」
男(ああ、そうか。……プラスチックやビニールが
 遺跡から出土したら大変だもんな)
黒髪娘「そう考えれば、これらも……」
男「ああ、いいよ。そんなにしょんぼりしないで。
 要するにばれなきゃ良いんだろう?
 俺は爺ちゃんとはちょっと考えも違うしさ。
 食い終わったら、残った包装紙とかは
 全部きれいにこのコンビニ袋に入れてさ。
 俺が持って帰れば、問題なしって訳だ」
黒髪娘「そうしてもらえるか?」
男「ああ。もちろんだ」
黒髪娘「しかし、このように高価な土産を頂いても
 わたしには返せる物が余りにもないのだが……」

25 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 08:30:16.08 ID:KmqRKDbT0
男「いやいや。構わないよ。
 こっちって俺から見たら知らない国だからさ。
 来てみると、どきどきして楽しいし」
黒髪娘「はははっ。祖父君も、あれは何か、これは何かと
 いくつもいくつも問いを重ねてきたなぁ」
男「俺も聞いちゃうと思うけれど、ごめんな」
黒髪娘「かまわない。……その、男殿は、先生?
 ……それとも卜筮官や陰陽師なのか?」
男「へ?」
黒髪娘「いや、だから。祖父君は、子弟に学問全般を
 指南する事を生業にしていたと聞く。
 で、あるから、家系的に男殿もそうなのかと」
男「いや、俺は違うよ。まだ学生だよ。
 教育いこうかどうかは、悩んでるなー」
黒髪娘「学生とは? 祖父君の言う生徒とは違うのか?」
男「あー。似たようなもの。ちょっと年が上になって
 専門的なことを学んだり研究したり……」
黒髪娘「ふむ」

26 :VIPがお送りします [age] :2010/01/19(火) 08:42:07.22 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「よければ……」
男「?」
黒髪娘「わたしに祖父君に続いて、
 学問の手ほどきをしてくれないか?」
男「えーっ。俺はそこまでの学識はねぇよ」
黒髪娘「そうなのか? 先ほどから話していても
 知恵深く、賢者を感じるのだが」
男(そりゃ時代による格差だよ)
黒髪娘「……」
男「そんなにしょんぼりしないでくれ」
黒髪娘「していない」
男(表情に出ないけど、なんか判っちまうんだよな)
黒髪娘「していないのだぞ?」
男「何を勉強しているんだ?」
黒髪娘「それは、色々と」
男「ふむ。どんな?」

28 :VIPがお送りします [sage] :2010/01/19(火) 08:54:03.76 ID:KmqRKDbT0
黒髪娘「大きく、文章、明経、明法、算だな。
 他にも本草、天文、暦法なども調べている」
男「ちょっと聞きたいな」
黒髪娘「まず、文章(もんじょう)は、唐の歴史と漢文だ。
 唐は我が国から見ても隣国だし文化も花開いている。
 我が国は唐を手本にして居るから、それを知るのは重要だ」
男(歴史と漢文って事ね。この場合漢文ってのは
 大学の一般教養で英語やるくらい必須って訳だ)
黒髪娘「明経は儒学を教える。この世の理と礼節についてだな。
 明法は律令についてだ。法……律というのか? あれだ。
 この辺は実学なので、位をえるためにはどうしたって必要だ。
 算は算術だ。えっと、祖父君によれば、算数? だそうだ」
男「ああ、うん。だいたいは判った。
 えっと、学ぶとどうなるんだ?」
黒髪娘「学ぶと?」
男「ほら。位がどうとか」
黒髪娘「ああ。大学寮というのがあって」
男「大学あるのか!?」
黒髪娘「もちろんあるぞ? 大学寮は式部省の一部なんだ。
 ここは将来の有力な文官や武官を育てるところで、
 陰陽寮とともに、この国の学問の頂点だ。
 例えば明経道を教える大学博士ともなると正六位下
 という非常に高い位階をえることが出来る」
男「そうなのかぁ。結構きっちりとした機構なんだな」