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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part99


532 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 00:26:46.67 ID:fsI5836P
青年商人「あー」ちらっ
  中年商人「こんどこそ“出て行ってくれ”のサインじゃないか?」
  辣腕会計「そのようですね」しらっ
火竜公女「どのような意図なのですか。商人殿」ぎらり
青年商人「説明しましょう。
 これは高度に政治的判断に基づく先行投資とでも呼べる行動で、
 将来のあり得る行動オプションの幅を確保するための
 自衛的な防御策です」
火竜公女「妾の家に贈り物をするのが?」
青年商人「あー。そうですね、結果的にそうなります」
火竜公女「妾との婚姻をお望みでしょうか?」
  中年商人「ド直球だな」
  辣腕会計「姫ですから」
青年商人「いや、決してそう言うわけではありません」
火竜公女「では結婚するつもりは全くないと」
青年商人「そのように取られても困ります。
 未来は、全周囲的に広がっているわけですからね。
 特定の契約において将来的な契約の幅を狭めるのは
 感心できない取引手法です」
火竜公女「どうあってもしらを切るつもりでありまするか」
青年商人「それは心外です。わたしは誠実な取引相手です」
火竜公女「曖昧な態度は商人殿の器量の底を策見せまする」
青年商人「機に臨んで応変なんです」

534 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 00:29:52.65 ID:fsI5836P
火竜公女「……」
辣腕会計「……」
火竜公女「判りました」
青年商人「判って頂けましたか、感謝いたします」
火竜公女「この二人と父上では、証人が足りないと仰せなのですね」
青年商人「そのようなことは云っていませんっ。
 だいたいのところ、開門都市を助ける算段の中で、
 商人ゆえ兵力がないという話だったではありませんか。
 兵力はないが兵力になりそうな物資の話に及んだから
 その存在をお教えしただけで、
 どうして話がそこまでこじれるのですか」
火竜公女「こじれるもなにも、商人殿が逃げ回っているのです」
青年商人「逃げていません」
火竜公女「では、開門都市を救ってください」
青年商人「わたしはただの商人ですっ」
火竜公女「違います。勇者、もしくは魔王です」
  辣腕会計「は?」
火竜公女「妾は黒騎士殿と約しました。幸せになると。
 はっきり言います。黒騎士殿を振りました。
 振られたのかも知れませぬ。
 あれは魔王殿のものですから」
青年商人「知っています。いまさらですが
 ……気が付きましたからね」
火竜公女「ですから、妾は幸せになる必要がありまする。
 黒騎士殿が悔し涙を流すほどに。
 ですから、妾と添い遂げる殿御は勇者もしくは魔王に
 準じるほどのお方でないと約束を違えます」
  中年商人「むちゃくちゃな話だ」
  辣腕会計「剛速球も良いところですね。
   言いがかりじゃないですか」
火竜大公「はーっはっはっはっ。
 わしもどうせ嫁にくれてやるなら相手は
 その程度の大器であって欲しいものと思うておった」

538 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 00:32:28.58 ID:fsI5836P
青年商人「二人で何を無茶なことを言っているんですか!?」
火竜公女「商人殿が魔王になってくださるのならば、
 この件での追求は取りやめましょう」
  中年商人「おいおい」
  辣腕会計「委員がこんなに追い詰められているのは始めてみましたよ」
火竜公女「いかがかや?」
青年商人「いったいなんですか。論理が捻れているではないですか。
 なぜわたしが魔王にならなければならないのですか!?」
火竜公女「魔王であれば、妾も幸せになれますし
 あの都市を救ってくれるはずであるまする」
青年商人「それは間尺に合いませんよ。
 魔王になれば、仮に、ですよ。
 仮に魔王になればあの都市を救えるかも知れない。
 でも、実際救うかどうかは別でしょう?
 取引をするのであれば“魔王になる”か
 “あの都市を救う努力をしてみる”かのどっちかですよ!
 それが等価交換というものです。
 1つの弱みで無限に譲歩を引き出すとはどんな悪辣なやり口ですか。
 商人としての仁義にもとりますよっ」
火竜公女「では、商人殿はどちらなら引き受けるのです?」
青年商人「どちらかと云えば……」
  中年商人「二重拘束だ」
  辣腕会計「は?」
  中年商人「無茶な選択肢を2つ突きつけて選ばされてる。
   選んでいるようで、追い詰められてるだけだ」
  辣腕会計「ずいぶん交渉術を覚えましたね」
青年商人「選びませんからね。そもそも魔王は一人でしょう?
 こんな茶番には意味なんて無い。
 名乗ったからって実力がつくわけもない」
火竜公女「いえ、選んでくれまする」
青年商人「……」
火竜公女「妾は確信しておりまする」じぃ

541 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 00:39:33.26 ID:fsI5836P
青年商人「はぁぁぁ……。失着手でした」
火竜公女「お選びください」
青年商人「判りました。魔王の方で。しかし良いですね、
 こんなのはお遊びに過ぎませんからね。
 わたしが魔王を名乗ったところで、現実には何一つ変わらない。
 なんの実力がついたわけでもないし、それと開門都市を救う
 とか云うのは全くの別問題なんですからね?」
火竜大公「くくくっ。はーっはっはっはっは!
 未だかつてこのような場所で、これほど安易に
 魔王を名乗った男などいなかったであろうになっ。
 はっはっはっはっは!!」
火竜公女「承知しておりまする。では妾が勇者ですね」
青年商人「は?」
火竜公女「残り物ですが、それも縁起がよいと申しまする」
  中年商人「何を言ってるんだ、姫は」
  辣腕会計「わたしに判るわけが無いじゃないですか」
火竜公女「確認いたしまするが、魔王になられたからには
 あの都市を救う力があるのですよね?」
青年商人「それは判りませんが、もしその必要があれば
 微力を尽くしましょう。
 おそらくは、あの都市はわたしが考えていたよりも、
 大きな意味合いを持っているのでしょうから。
 しかし、わたしはあの都市のために何かをすると
 決めたわけではありません。
 貴女の詭弁に乗って見ただけに過ぎませんからね」
火竜公女「ええ、商人殿。この件では永久に感謝しましょう。
 さて、父上。しなければならぬお願いがありまする」
火竜大公「申すが良い」
火竜公女「忽鄰塔開催を。その権利は魔王のものなれど
 父上は魔王の権威を議長として預かったはず。
 で、あれば魔王殿に変わり忽鄰塔を招集することも可能でしょう」
火竜大公「忽鄰塔を?」
火竜公女「そうです。魔界の全部族をあの地に。
 忽鄰塔であれば、魔王殿の力を存分に発揮できるはず。
 ましてや二人もいるのであれば。
 ――妾とて望みを叶えるためにならばどのような
 あがきもして見せまする」

612 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 20:03:11.25 ID:fsI5836P
――11年前、冬、深い森の広場、木の根もと
勇者「おい、じじー」
老賢者「……」
勇者「林檎持ってきたぞ」
老賢者「……うむ」
勇者「……」
老賢者「……」
勇者「何を見てるんだ」
老賢者「……星を」
勇者「星?」
老賢者「あれは、なんだろうな」
勇者「星だろう?」
老賢者「星とは、なんだろう」
勇者「……うーん」
老賢者「不思議だ」
勇者「そうかなぁ?」
老賢者「……歳を降るごとに不思議が増える」
勇者「うーん」
老賢者「……」
勇者「……」

613 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 20:04:09.72 ID:fsI5836P
勇者「じじーは、最近静かだ」
老賢者「……うむ」
勇者「林檎、食べないのか?」
老賢者「うむ」
勇者「食べちゃうぞ?」
老賢者「食べるが良い」
勇者「……。むしゃ」
老賢者「……」
勇者「……むしゃ」
老賢者「……」
勇者「なぁ、じじい」
老賢者「……」
勇者「食べようぜ? 林檎」
老賢者「――勇者」
勇者「ん?」
老賢者「わしには、もういらないのじゃ」
勇者「……」
老賢者「……」
勇者「……やだな」
老賢者「どうした?」
勇者「そんなのは、いやだな。
 ……なんか変じゃん。間違ってるよ」
老賢者「自然なことだ」
勇者「そんなことないっ」
老賢者「時が来たのだよ」
勇者「嘘だっ」

616 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 20:05:32.55 ID:fsI5836P
老賢者「勇者」
勇者「っ」
老賢者「こうして耳を澄ましておると、
 世界の至る所にある小さな呟きやさざめきがきこえる。
 清澄さを増した闇の中を、遠い遠い音信のように伝わる。
 この世界は豊かだ。
 小さな者どもの、睦言がさざ波のように波紋を広げている」
勇者「判らないよ」
老賢者「……わるくない。そう言ったのだ」
勇者「余計わからないよ……」
老賢者「勇者」
勇者「……」ぎゅっ
老賢者「期待をするのは、馬鹿のやる事よ」
勇者「うん」
老賢者「しかし、期待することを諦めるのは唾棄すべき所行だ」
勇者「――」
老賢者「期待せよ」
勇者「なんで、いまさら。そんなっ」
老賢者「そなたには、その力がついたのだから」
勇者「勇者の力なんて欲しがった事、一度もないっ」
老賢者「それは勇者の力とは別だよ」
勇者「判らないって云ってるじゃんっ!」
老賢者「……上手くは、教えて、やれぬなぁ」にこり
勇者「――っ」

618 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 20:08:00.68 ID:fsI5836P
老賢者「期待せよ。
 ……いつか始まるお前の物語に。
 そしていつか出会うお前の友に。
 お前は馬鹿だが、けして臆病ではない。
 だから、いつかは“あたりくじ”を引くことも出来ようさ。
 暇があるのならば、守ってやってくれ。
 人々を。――彼らは、馬鹿ではなく、無知で臆病なのだ」
勇者「なんでそんな事言うんだよっ」
老賢者「他に何をお前に云ってやれる?」
勇者「そう言うのは良いから、林檎食おうよ。魚だってさっ。
 肉だって自分で取れるようになった!
 街への買い物だって今なら一時も掛けずに行って帰ってこれる。
 おれ、じじーに恩を返せるようになったんだよっ。
 見てくれよっ」
老賢者「見えておるよ……」
勇者「そうじゃなくてっ」
ぽろぽろ
老賢者「ちゃんと、見ておるよ……」
勇者「そういうんじゃ、なくてさぁ……」
ぽろぽろ、ぽろぽろ
老賢者「……なぁ、勇者。若者よ」
勇者「……うん」
老賢者「わしは、わしで良かったな。
 悔恨と失意に満ちた人生だったが、
 最後になってやっと帳尻があった。
 お前がいて、楽しかったよ。
 ……わしはどうやら、時を得たようだ」
勇者「いやだってば、そんなのいらないってばっ!!」ぎゅうっ
老賢者「はははは。……甘えてばかりでは、ダメだ。
 ねだっても、与えられはしない。
 勇者、最後の教えだ。
 期待は、するな。
 しかし、与えて、勝ち取れ。
 おまえの友を。お前の大事な人々を。
 与えられた時間を有意義に使うが良い。
 ――やがて行く闇の中には
 思い出の他には何も持って行くことは出来ないのだから」

626 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 20:38:18.39 ID:fsI5836P
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線
  「急げ! 王弟元帥閣下の指示だっ」「切り出し運びました」
  「ノコギリのヤスリはどこだっ!」「大天幕を持ってこーい!」
 バサリッ!
参謀軍師「どの位置だ?」
斥候兵「このライン、距離にして、すでに4里に迫っております」
聖王国将官「4里……」
参謀軍師「馬ならば2時間もかかりませんね」
王弟元帥「ふふふっ」
参謀軍師「元帥閣下。迫ってくるのが、南部連合軍と聞いても
 あまり驚かれていないようですね」
王弟元帥「その程度の事は起きるさ。
 これだけの戦だ。
 それにあの娘が“次は戦争だ”と云ったのだ。
 ――ならば援軍ぐらいは現われるだろう」
参謀軍師「……」
聖王国将官「準備は現在の方向で宜しいでしょうか?」
王弟元帥「よい。まずは馬防策だ。
 南部連合となれば、予想される主兵力は歩兵だが、
 騎馬兵力も過小評価すべきではないだろう。
 問題なのは、率いているのが誰か、と云うことだな」
参謀軍師「冬寂王が軍中にあれば、南部連合は完全に本気。
 この一戦に連合の命運をかけているといえるでしょう。
 総司令に鉄腕王、もしくは南部連合のしかるべき王を
 据えているのであれば、これも相当な入れ込みです。
 負けるつもりはさらさらない。
 どこかの将軍であるか、騎士隊長あたりが
 率いているのであれば、とりあえずの出兵。
 防備軍の寄せ集めであれば言い訳のための出兵、
 と云うあたりでしょうか」
聖王国将官「その辺の報告はないのか?」
斥候兵「いえ、斥候ではそこまでは……。
 それに、4里接近の報せを最後に、多くの斥候部隊との
 連絡が途絶しております」

627 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 20:40:34.08 ID:fsI5836P
王弟元帥「いつか見た、あの女騎士将軍である可能性もあるな。
 彼女は湖畔修道会を率いる英雄でもあるという……」
参謀軍師「あれが”鬼面の騎士”、”極光島の白薔薇”ですか」
聖王国将官「確かに非凡な用兵でしたね」
王弟元帥「まぁ良い。監視を……、いや、違うな。
 斥候班を撤収させよ。撤収した斥候からは綿密な聞き取りをいたせ」
斥候兵「はっ! 失礼します」
ばさっ!
参謀軍師「ふむ……。今回の戦は、待ちですか?」
王弟元帥「攻守考えてはいるが、
 我ら後方防備軍3万と都市攻略軍15万。
 この間隙を突くのが奴らの基本戦略だろう。
 奴らの数は3万にすぎぬ。
 全てを相手にするとは悪夢の光景だろうさ」
参謀軍師「そうですね」
王弟元帥「で、ある以上、我らが突出をしすぎて、
 本陣との距離が空けば空くほど、奴らには余裕が生じる。
 実際に本陣から兵が派兵されることはなくとも、
 その圧力を奴らに掛けつつ戦うためには、引きつける必要がある。
 奴らに小細工や攪乱工作を用いらせないためにもな」
参謀軍師「それにしても、3万とは」
聖王国将官「ふざけた数字だ」
王弟元帥「いや、彼らは彼らの国力を精査した上で
 判断したのだろう。
 結成したての南部連合で、大規模な派兵は、
 連合内部の不協和音に繋がりかねない。
 また、本国に兵を残すことで、大陸の国家に対する圧力を
 掛けることも出来る。現実的な判断であるとは思うが
 果たしてその3万で、聖鍵遠征軍に何をしようと思うのか」
参謀軍師「考えが読めませんな」
王弟元帥「矛を交えれば、伝わってくるだろう」

630 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 21:12:43.96 ID:fsI5836P
――遠征軍、奇岩荒野、湖畔修道会自由軍
湖畔騎士団「以上でありますっ!」
女騎士「来たな」
副官「はい。しかも予想以上に早く」
執事「しかし、三万。ですか……」
女騎士「仕方がないさ」
獣牙双剣兵「なんの。三万の援軍があれば、
 十万の兵でも打ち破れもうす」
湖畔騎士団「剛毅だな。お前達は。はははっ」
副官「俗に攻城三倍などといいます。あの開門都市には、
 現在おおむね二万程度の戦闘可能な兵力が残っていますから」
執事「その人数で10万あまりを支えているのですから、
 まさに五倍ですな。お見事という他ありません」
女騎士「さて、どうするか。だな」
副官「後方の南部連合軍と合流するのでは?」
執事「……」
女騎士「今わたし達のもつ7000あまりを加えれば、
 確かに南部連合軍にとっては大きな力になるだろうが
 それでも聖鍵遠征軍全ては十五万を越えている。
 合流してさえもばかばかしい戦力差だ。
 南部連合軍三万。
 都市内部の魔族軍二万。
 我ら七千。
 全て加えても五万七千。
 三倍にもおよび、しかもマスケットを装備した聖鍵遠征軍を
 相手にするにはまだまだ絶望的な状況が続いている」

631 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 21:14:10.31 ID:fsI5836P
副官「……」
執事「それにですな」
女騎士「うん」獣牙双剣兵「あの陣か」
執事「さようです。聖鍵遠征軍後方守備のあの陣地。
 二重に引いた馬防柵は、細いがしなりやすい灌木の枝を
 利用したもの。騎士の突撃は受け止められるでしょう。
 そこにマスケットの銃撃を浴びせかける魂胆かと」
湖畔騎士団「なぜあの防御戦は波打ってるんでしょうね」
副官「それは判りませんが」
女騎士「おそらくは、密を作り出すためだ」
湖畔騎士団「密とは?」
女騎士「あの陣地に突撃をする場合、一定数以上の兵力で
 突撃をすれば、陣の突出部分と後退部分のどちらにも
 兵が入り込むことになる。
 突出部分に性格に突撃した兵は、前方の敵に集中すればよいが
 へこんだ部分に入り込んだ兵は、前方に半円状の敵陣地を
 持つことになる」
獣牙双剣兵「ふむ」
女騎士「あのへこんだ陣は、マスケットを生かすための殺戮部分だ。
 へこんだ部分には、マスケットの射撃線が交わるように
 設定されているのだろう。
 こちらが密集隊形になればそれだけで命中率は跳ね上がる。
 多数方向から銃撃を浴びせかけて、火力を一点集中させる工夫だ」
湖畔騎士団「そんな……」
副官「初めて見る戦法ですね」
執事「ではやはり……」
女騎士「うむ。この間の遊軍合流は、王弟元帥。
 そしてその王弟元帥本人が、対南部連合を意識して、
 後方防御軍の指揮に回ったのだろうな」

632 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 21:16:20.70 ID:fsI5836P
副官「王弟元帥、ですか」
執事「聖鍵遠征軍最大の軍事的才能でしょう」
女騎士「中央諸国家をまとめ、今回の遠征軍成立を働きかけた、
 その張本人でもある」
獣牙双剣兵「敵の首魁か?」
湖畔騎士団「首魁というのとは違うだろうな。
 だが、最大の将軍。もっとも力ある司令官と見て良い」
副官「……なぜか、切迫感を与える陣容ですね」
執事「その感覚は覚えておかれた方が良い。
 司令官自身の気迫が全軍に伝わり、
 緊張感を持った前線となっているのです。
 あの陣地を突破するのためには生半可な手法では間に合いますまい」
女騎士「そうだな」
獣牙双剣兵「しかし、ずいぶん防御的だぞ?」
女騎士「それはおそらく、本陣と引きはなされるのを
 嫌っているのだ。20万に迫る巨大兵力で十分に
 可能だとは言え、聖鍵遠征軍は現在開門都市の攻略と
 後方部隊への対処という、いわば二正面作戦に近しい状態にある。
 これは軍事的に云えば、
 消耗の大きい、あまり褒められない状況だ。
 後方守備軍が突出しすぎれば、数にもよるだろうが
 我が軍に取り囲まれ壊滅の危険もある」
獣牙双剣兵「ふぅむ」
湖畔騎士団「では、まさにおびき出せば!」
執事「それに乗ってくれるような男ではありませぬ。
 あれで目から鼻へと抜けるような才気。
 幼い頃から周囲の風景さえ違って見えたほどで」

633 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/12(月) 21:17:38.51 ID:fsI5836P
女騎士「そうなると――。情報戦か」
副官「とは?」
女騎士「現在どちらも決定打に欠ける。
 こちらから突っかかってゆけばマスケットの餌食だが
 向こうも本陣からは離れたくないだろう。
 と、なると、互いに相手の手の内を読み合う戦闘が始まる。
 こちらの手を隠し、相手の手の内を読む。
 そのためには情報が必要だ。
 おそらく、契機は2つ」
副官 こくり
女騎士「1つは、開門都市の防壁がどれほど
 持ちこたえられるのか? この情報だ。
 我らは今、都市の内側と連絡を取ることが出来ない。
 しかし援軍の接近を知らせて彼らの士気を高める必要がある」
副官「その通りです」
女騎士「もう一つは、聖鍵遠征軍内部の物資の量だ。
 主に食料と、火薬だな。
 この2つの量次第で遠征軍の戦術は大きな制約を受けざるを得ない。
 いくら王弟元帥であっても空中から補給を取り出すことは
 出来ないだろうからな」
執事「確かに」
女騎士「この2つの情報を手に入れる必要がある。
 と、同時に、敵の情報を遮断する必要があるな」
湖畔騎士団「斥候の対処ですね」
副官「それならば、我らが適任ですね」
女騎士「頼めるだろうか?」