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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part96


10 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:29:48.18 ID:ilMrMHoP
青年商人「して、支払いはいつ?」
王室付き高司祭「ここは聖王国だ。
 本日城の帰りにでも教会へ寄り、持っていくが良い」
聖国王「これでよいか? 青年商人」
青年商人「確かに。確約いたしましょう」
王室付き高司祭「では話は終わりだ」
青年商人「金額の方は、金貨にして33億枚ほどになります」
王室付き高司祭「なっ」
国務大臣「!?」
青年商人「まず、証書の額面ですが金貨にしておおよそ2億7500万枚。
 損害率である8を掛けますと」
王室付き高司祭「何故そのような数字が出てくるのだっ!?」
青年商人「現在の木炭の価格をご存じでしょう?
 我ら同盟のメインの取引先である梢の国で購入して
 湖の国の湖上交通を利用して運びますと、
 仕入額のおおよそ16倍の価格になります。
 二国間の関税の額は、いやはや我ら商人の悪夢ですよ。
  全てがこのような消費に回されるわけではありませんので
 その半分の数字8を採用してみましたが、詳しい計算を行なえば
 10を越えることになります。よろしいですか?」
王室付き高司祭「くっ……。好きにしろっ!」
青年商人「では10のほうで……」
王室付き高司祭「8で良いと云っているのだっ!!」
青年商人「はい。では2億7500万枚8を掛けましてに22億枚。
 これに信用毀損の賠償金50%を加えまして金貨33億枚となります」

19 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:33:19.04 ID:ilMrMHoP
王室付き高司祭「きっ、貴様……」
青年商人「もちろん、金貨33億枚を本日中に
 お支払い頂けないとあらば、それに対する損害も発生しますゆえ
 先ほどの計算をもう一度繰り返すことになります。
 すると……
 今度は金貨495億枚になりますね。いやいや、計算が難しい。
 念のために確認しますと、その次は5940億枚ですよ?」
王室付き高司祭「……っ!!」
聖国王「あははははははっ!」
王室付き高司祭「国王陛下っ!」
聖国王「良いのか? 聖王都の教会の資金をかき集めぬと
 2、3日のうちに負債はもっとふくれあがってしまうぞ?」
王室付き高司祭「こっ。これで失礼するっ! 国務大臣っ!!」
国務大臣「……え?」
王室付き高司祭「資金のことで相談がある、付き合って欲しい」
国務大臣「は、はいっ。陛下っ。では私もしばし離席を」
どっどっどっ。
  がちゃんっ!!
聖国王「ははははっ! 見ろ。
 尻に矢が刺さったアナグマのようではないか!!」
青年商人「はははは。そうですね」にこっ
聖国王「ははははっ。おかしいな。
 ここまで笑ったのは少年の時以来だった気さえする」
青年商人「それはよかった。
 わたしもそうやって笑わせてもらったことがあるのですよ」

27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:36:27.04 ID:ilMrMHoP
聖国王「さて、商人殿の手腕は判った」
青年商人「は」
聖国王「あの者達を、追い払いたかったのであろう?」
青年商人「いえいえ。あの者達は聖王陛下に
 無礼な態度を取っていましたからね。
 ちょっとお灸を据えてやろうかと思っただけですよ」
聖国王「あれ達は忠実なのだ。……余にではないがな」
青年商人「ふむ」
聖国王「教会に、欲望に、正義に。あらゆる権威に。
 そこには余が含まれていない。それだけのことだ」
青年商人「……」
聖国王「出来る弟を持った凡庸な王とは
 こういうものだよ。商人殿。
 なかなかゆったりして悪くない暮らしさ」
青年商人「それでも、わたしには陛下が必要なのです」
聖国王「わたしが? 勅書、と云っていたな。
 何でも書かなくてはならないだろうな、借金のカタだ」
青年商人「借金?」
聖国王「はははっ。先ほどの国務大臣を見ただろう?
 高司祭は本日中になんとしてでも金貨33億枚を
 支払うつもりなのだ。
 金貨33億枚も途方もない額だが500億枚となれば、
 これは大陸の小麦全ての数年分の金額。
 破滅以外にはない金額だ。金貨33億枚であれば、
 聖都の教会全てと、我が王宮の国庫を空にすれば
 なんとか払える額だろうな」
青年商人「国庫? よろしかったのですか?」

32 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:38:55.78 ID:ilMrMHoP
聖国王「なにがだ?」
青年商人「そのような支払いをお命じになって」
聖国王「なに。二人にはよい薬さ。
 薬効が強すぎてあの二人が首をつっても仕方ない。
 それはまさに身から出た錆。
 ばれないと思っているだろうが
 そもそも国庫にわたしの許可無く手を触れれば死罪なのだ。
 もっとも、処刑人でさえ、今やわたしの声に従うか判らぬが」
青年商人「……」
聖国王「元帥がまぶしすぎるのだろうな」
青年商人「そのようなことはないかと存じます。
 聖王陛下は、私のペテンを見抜いておられた。
 生まれるべきところを間違えただけでしょうし、
 まだ遅いとは思われません」
聖国王「そうかな」
青年商人「はい」
聖国王「で、あれば。その言葉を信じて、
 あの情けない二人を救ってみるとしようか」にこり
青年商人「どのように?」
聖国王「商人殿。
 商人殿は、たったいま、金貨33億枚を手に入れた。
 これを取り戻し国庫を充填せねば、
 あの二人は死罪相当の罪だろうな」
青年商人「はい」

34 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:41:53.94 ID:ilMrMHoP
聖国王「あれらの主として、余は部下の失態の責任を取って
 その33億枚を商人殿から取り戻したく思う」
青年商人「ほほう。良い提案です」にこり
聖国王「商人殿は大金を手にされて浮かれているかもしれん」
青年商人「ふむ、そうかも知れませんね」
聖国王「で、あればその隙をつこう」
青年商人「ほほう」
聖国王「そして、何らかの勅書が欲しいらしい」
青年商人「はい」こくり
聖国王「せいぜい足元を見させて頂く」
青年商人「わかりました」
聖国王「では、望みは? 商人殿」
青年商人「聖王都に湖畔修道会を建築する許可を」
聖国王「……っ」
青年商人「加えて、その修道院の内側で行なわれる取引
 および売買には税を掛けないという、聖光教会にたいして
 為されるのと同じ免税特権をお与えください」
聖国王「それは……」
青年商人「聖光教会と決別を求めているわけではありません。
 両立、平行でよいではありませんか。王家の皆様があの
 古い伝統ある教会に帰依しているのも理解しております」
聖国王「……っ」
青年商人「ここだけの話。じつは、為替証ですけどね」
聖国王「まだ何かあるのかっ!?」
青年商人「本日持参したものは、我が同盟とその友好的な
 商人のもの。もちろん、この大陸中にある為替証は
 そのような少ないものではありませんよね。
 本日の取引、……8倍の1.5倍。つまり12倍。
 この情報が流出した場合、おそらくさきほどの10倍、
 いや50倍では効かない請求が詰めかけましょう。
 聖光教会を助ける選択肢は、
 いまや、勅書をいただけることです」にこり

46 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:51:26.54 ID:ilMrMHoP
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、風の鳴る丘
 びゅおおおおーっ。びゅぉぉぉ……
王弟元帥「学士殿」
メイド姉「はい」
王弟元帥「この勝負の一旦の勝敗は、学士殿に譲ろう」
メイド姉「退いて頂けますか?」
王弟元帥「うむ。どうやら後方が騒がしいようでな。
 おちおち細かい交渉をしている暇はなくなったようだな。
 ここは、貴公の勝ちだ」
生き残り傭兵(この姉ちゃんやりやがったっ!!)
参謀軍師「しかし、食料850台および、医薬品の約束は」
メイド姉「もちろん我が師の名誉に誓って」
王弟元帥「……」メイド姉「……」
 びゅおおおおーっ。びゅぉぉぉ……
王弟元帥「勇者に感謝するのだな。これは学士殿一人の力ではない」
メイド姉「はい、それは初めから」
勇者「はははっ! 昔から、俺をこき使うもんな。
 あの演説の時だってさ!」
メイド姉「それは謝ったではありませんか」くすっ
王弟元帥「これで終わりではあるまい?」
メイド姉「はい、所用を済ませたのち、
 わたしも開門都市にゆきます」

49 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:56:02.23 ID:ilMrMHoP
王弟元帥「それはぜひ歓迎しないといけないな。
 しかしその時は勇者の影には……」
メイド姉「はい。勇者様にも邪魔はさせません。
 次は、王弟元帥さま。……わたしとあなたで争いましょう」
参謀軍師「っ!?」
生き残り傭兵「ばっ! 何を言いやがるっ!?」
勇者「あはははっ。すげぇぞ。なぁ……魔王」
メイド姉「それから、訂正します。元帥さま」ぺこり
王弟元帥「なにをだ?」
メイド姉「旅の学士、と名乗ったことです。
 もちろんそれは嘘ではありません。
 わたしは学問を学びましたし、旅もしていましたから。
 実をいえば、聖王国へも行ったことがあるんですよ」
王弟元帥「ほう」
メイド姉「でも、旅の学士か、と尋ねられれば
 やはり微妙な気分です。自信もありませんし、
 なんだか、当主様に恐れ多くて……」
王弟元帥「?」
メイド姉「ですから、わたしは王弟元帥さまと聖王国の方々
 そして勇者様と、わたしの仲間の前で名乗りましょう。
  わたしは冬の国に生まれた貧しくてみすぼらしい農奴の娘」
聖王国将官「農奴だって!?」
メイド姉「はい。そして、また。
 ただ人間であることのみを望む無力な一人の娘です。
 しかし、今日、今、このときより名乗りましょう。
  わたしは、今一人の勇者。
 この世界を救おうと決意する、
 あの細い道を歩み始めた大勢のうちの一人です」

400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/11(日) 19:17:35.95 ID:8sofY9MP
――15年前、春
勇者「おいじじー」
老賢者「なんじゃ小僧」
勇者「さかな取ってきたぞ」
老賢者「焼けばー? 食えばー?」
勇者「なんてつめたいじじーだ」
老賢者「これも修行なのじゃ」
勇者「しゅぎょーっていえば、何でも良いと思ってるだろ」
老賢者「修行なんて言い訳つけなくても、
 何を言っても許される。それが賢者クオリティじゃ」
勇者「……おにじじーっ」
老賢者「むっしゃむっしゃ」
勇者「あ! 魚!?」
老賢者「美味しいのぅ。美味しいのぅ」
勇者「ううう。おれのさかな……」
老賢者「まだ残ってるじゃろうが。くかかか」
勇者「うー。“小火炎”っ!」ぼひっ
老賢者「真っ黒焦げじゃな。かーっかっかっか!」
勇者「……あう」
老賢者「どれこうやるんじゃ。貸してみろ」
勇者「うん」
老賢者「まず塩をふるじゃろ?」
勇者「うんっ」

401 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/11(日) 19:19:28.66 ID:8sofY9MP
老賢者「そうしたら、後で熱くなっても持てるように、
 木の串にさしてじゃな……」
勇者「うん……」ぐーきゅるる
老賢者「そうしたら、こんな感じで手を離して、
 最初は弱い火力で“炎熱呪”……ほーら、熱くなってきた。
 “火炎”ではなく、“炎熱”で炙るのがコツじゃな」
勇者「なぁ、じじー。なんでおれ、“術”とか“術式”とか
 つかっちゃだめなんだ? “呪”は詠唱無くてむずかしいぞ」
老賢者「戦闘中に詠唱しておるようなぽんぽこぴーの
 一般人に媚びてどうするんじゃ。最初っから無詠唱。
 これが大賢者と勇者の歩む道じゃ」
勇者「そうなのか」くんくん
老賢者「犬のように鼻を鳴らすのではないわ」
勇者「だって良い匂いしてきたぞ?」
老賢者「まだじゃ。ここで焦っては事をし損じる。
 決して魔力を揺るがせず、集中力にて制御する。
 そうすれば、皮の部分がぱりぱりの焼き魚に仕上がるのじゃ」
勇者「そうなのか! もう出来るか?」
老賢者「うむ、完成じゃ」
勇者「美味そうだなぁ!」
老賢者「美味いぞう! むっしゃむっしゃむっしゃ」
勇者「え?」ぽかーん
老賢者「デリィシャスじゃ!」ぐっ!

402 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/11(日) 19:21:03.17 ID:8sofY9MP
勇者「えぅ」うるうる
老賢者「泣けば済むと思ったら大間違いじゃぞ!
 はーっはっはっは! この世は弱肉強食、食卓弱者差別なのじゃ」
勇者「……」きゅるるるぅ
老賢者「ふんっ。ほれ、焼いたパンとベーコンじゃ。
 食っておくが良いわっ。へたれ勇者くーん。れろれろれろ」
勇者「やた!」 がつがつがつがつっ
老賢者「獣じゃのう、まったく」
勇者「……」がつがつ 「美味ぁ〜い♪」
老賢者「そーか。今度また買ってきてやるわい」
勇者「俺も街に行きたい。色んなご馳走食べたいぞ」老賢者「止めておくんじゃな」
勇者「どして?」きょとん
老賢者「勇者は、街には住めぬよ」
勇者「なんで?」
老賢者「羊の群に、狼は住めぬだろう?」
勇者「おれ悪さなんてしないよ? 悪いことすると、
 じじーすごく怒るじゃん。鉄の杖で叩きやがって。
 俺の頭が悪くなったら、じじーのせいだぞ」 むぅ
老賢者「それでもじゃ」
勇者「わかんないよ」
老賢者「羊を食わない狼であっても、狼が羊の巣にいれば
 羊は怯えよう? 怯えた羊は狼に当たるだろう。
 羊の食える狼だったら羊を黙らせれば済むが
 食えない狼は、さぞや切ない思いをするだろうな……」
勇者「難しくて、よくわかんないよ」
老賢者「それでいいのだよ」

406 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/11(日) 19:23:07.44 ID:8sofY9MP
勇者「飯食ったら何するんだ、じじー」
老賢者「“飛行呪”と“遅滞呪”をつかって、
 低速飛行の訓練じゃ」
勇者「苦手だ」老賢者「出来るようになれ」
勇者「出来るようになったら、偉いか?」
老賢者「偉くはないが、桃を食っても良い」
勇者「そうか! がんばるぞ!」
老賢者「うむ」
勇者「……“遅滞呪”っ! “遅滞呪”っ!」
老賢者「……なんで2回云うのじゃ」
勇者「これおわったら、チチハハのところへ行って良いか?」
老賢者「お前も、あそこが好きなのだなぁ」
勇者「悪いか。じじー。子供は親をだいじにするものだぞ」
老賢者「あれは、中身のない石塚じゃよ」
勇者「いいか? 行っても」
老賢者「良いぞ」
勇者「やった。――“飛行呪”っ!」
老賢者「1回で成功したのぉ」
勇者「馴れた」
老賢者「そうか。もう15の基礎呪文は全て覚えたか」
勇者「おれ、てんさいだもん」
老賢者「天才とはもう少し品がある人物を指すな」
勇者「むぅ」老賢者「ほれ。早く行かないと夕暮れが来るぞ。
 7つの梢のリボンを全て別の枝に結び終えてくるのだ。
 ただし、決して手を使ってはならぬぞ」
勇者「わかったよー。じゃ、いってくるぞ、じじー。いってきます」
老賢者「“いってらっしゃい”。小僧」

416 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/11(日) 20:02:19.01 ID:8sofY9MP
――遠征軍、奇岩荒野、湖畔修道会自由軍
副官「では、南部連合の援軍もこちらに向かっているとっ?」
執事「や、それは判りません」
女騎士「いや、ここは向かっているとしておこう。
 伝言は残してきたから、おそらく手配してくれるだろう」
副官「伝言?」
女騎士「“食料とか援軍とか、適当に頼む”と」
副官(っ!? こ、この人はこれで南部の英雄、姫将軍なのか!?
 うちの大将もいい加減だけど、もうちょっとは考えているぞ!?)
獣牙双剣兵「なんにせよ、有り難い。助かった」
女騎士「副官殿はどうしてここに?」
副官「はっ。最初からお話しします。
 先日、と云ってももはや一週間前になりますが
 紋様族および鬼呼族を中心とした魔族連合軍は、
 開門都市を直前とした平野にて、聖鍵遠征軍と激突しました。
 聖鍵遠征軍15万にたいして、魔族軍6万をもってあたり
 ……壊滅を」
女騎士「壊滅……」
副官「魔族軍は遠征軍のマスケット射撃によって、
 その半数3万を失いました。
 撤退戦は熾烈を極めたのですが、
 その戦いのさなか我が主、魔王殿、銀虎公が帰還し
 からくも全滅を免れることが出来ました。
 しかし、銀虎公は魔王殿をかばって戦死され。
 残された軍にも大きな被害が出ました」
執事「銀虎公……」
湖畔騎士団「あの勇猛と聞こえた将軍が」
女騎士「状況は理解した」

417 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/11(日) 20:05:27.31 ID:8sofY9MP
副官「わたしがここにいるのは、砦将の命令です。
 魔族軍が撤退し、都市に引き上げた次の瞬間に下された命令が、
 故銀虎公の残された精鋭部隊5000を率いて
 開門都市から出撃せよ、とのものでした。
 敵の数は膨大で、今や開門都市は
 完全に包囲されているかと思います。
 少人数で抜け出すならともかく
 軍を出撃させることは不可能になる。
 そのことを察した将軍はわたしを臨時の前線指揮官として、
 この部隊を率い、まだ包囲されていなかった
 西の城門から逃しました。
 聖鍵遠征軍がおそらく作り上げている補給路を断つためにです」
獣牙双剣兵「うむ」
女騎士「そうだったのか。
 ……その判断が出来る司令官。名将だな」
執事「“草原の鷹”と云えば、
 傭兵時代から有名な隊長でしたからね」
副官「しかし、やはり多勢に無勢。
 飛び道具もなく、消耗戦は避けられないところでした。
 ご助勢に感謝します」
女騎士「いや、こちらも状況が
 まだつかみ切れていないところだった。ありがたい」
副官「あの武器はなんだったのですか?」
女騎士「ライフル。と云うらしい。
 マスケットの高性能なモノだと思えば良い。
 グリスを塗ったドングリ状の弾丸を飛ばすんだ。
 射程だけで云えば、マスケットよりも3倍はある」
副官「3倍!?」
女騎士「連射性能はそこまで良くないし、
 扱いも手入れもデリケートだ。
 おまけに50丁しかないと来ている。
 だが、相手は戦に不慣れな足跡の兵士達だからな。
 指揮官を落としてゆけば、判断能力が下がって
 パニックになったり動けなくなったりする。
 そういう意味では、有用な武器だな」

418 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/11(日) 20:07:37.31 ID:8sofY9MP
執事「そしてこちらは、湖畔騎士団」
湖畔騎士団「湖畔修道会の聖騎士です。
 隊長である女騎士様に従って、
 地の果てまでお供する所存であります」
副官「こちらは、獣牙軍。故銀虎公の残された精鋭部隊だ」
獣牙双剣兵「よろしく頼むぞ、女戦士どの」
女騎士「しかし、われらが合流しても、良いところ七千少しか」
執事「この数で、開門都市奪還というのはさすがに
 少々厳しいですな」
湖畔騎士団「そうですね」
女騎士「双肩遠征軍の様子はどうなのだ?
 被害状況や軍様は。そして指揮や運用はどうなっている?」
副官「指揮は無慈悲なほど的確なものでした。
 先ほども云いましたが、その数は15万」
女騎士「ん? 少なくないか?」
副官「もちろん後方陣地として、
 先ほど我らが襲ったような宿営地を
 何個も残しているというのもありますが、
 どうやら別働隊を動かしたようなのです」
女騎士「別働隊? 規模と司令官は?」
副官「司令官はおそらく王弟元帥、規模はおおよそ三万。
 しかし、その行方となりますと、こちらでも会戦が
 始まってしまったためにつかみ切れていません」
獣牙双剣兵「だが、斥候の報せだと、その出発の様子から
 精鋭兵の部隊だったのではないかと察せられる」
執事「……ふむ。じつは、この魔界には、我らより先んじて
 潜入した軍があります」

419 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/11(日) 20:09:37.67 ID:8sofY9MP
副官「それは?」
女騎士「ああ、そうだったな」
執事「氷の国の貴族子弟殿とメイド姉が率いる傭兵部隊100名です」
副官「100、ですか」
女騎士「少ないが、彼らは我らにはない大きな武器を持っている」
獣牙双剣兵「それはなんだ?」
女騎士「時間だよ。我らよりも二ヶ月。
 聖鍵遠征軍がこの魔界へと入るよりもそのさらに前から、
 彼らは活動を開始しているはずだ。
 あるいは情報だけで云うのならば、
 聖鍵遠征軍よりも持っているだろう」
執事「諜報部に接触できれば、その行方も判るかも知れませんが」
湖畔騎士団「開門都市に入り込むのは、当面難しいでしょうね」
副官「ええ、我らもそこまで確認している暇はありませんでしたが、
 おそらく開門都市は、
 現在、聖鍵遠征軍の激しい砲撃に晒されているかと思います。
 開門都市は防壁の建築を急いでいましたが、
 どこまで持ちこたえることが出来るかはわかりません」
獣牙双剣兵「……一刻も早く戻らねば」
女騎士「保つさ」
副官「え?」
女騎士「魔王が都市に入ることに成功したのならば
 おめおめと落ちるなんてありえない。
 今は開門都市の無事を祈って、我らは我らの勤めを
 果たすべきだな」
副官 こくり
女騎士「よし、副官殿。軍を合流させ、補給基地を
 壊滅させてゆこう。援軍が送られぬうちに電撃作戦で
 最低後4つの陣地を落としたい」