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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part95


916 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 23:36:21.63 ID:7lABGacP
――闇の中の子供
魔王「ふんっ。くだらないな。
 モデル化などといって
 数字パズルをいじくり回して何が楽しいのやら。
 そのような物を使わないと未来予測も出来ないとは」
あの頃のわたしは、寒く孤独な研究室と図書館の中で
自らを構成する要素をとりまとめるだけに精一杯で。
自分の小さなプライドを守るためだけに必死に学んでいたのだ。
魔王「そもそも希少性ある経済資源を再分配するだけのことなのに、
 どれだけ非合理的な欲求を変数として扱わねばならんのだ」
世界の全てを敵に回して
たった一人で孤独な戦いを挑んでいた。
魔王「どだい人間の道徳や欲求などを含んだ行動を
 モデル化したところで、そのモデルは教育程度によって
 変化してしまうではないか。
 そして教育の程度は経済の規模や文化程度、
 すなわち個々の要素を含むゲシュタルトによって成り立っている。
 そうである以上、両者の関係は再帰的に成らざるを得ない」
小さくて惨めな、自分を必死守って
毎日歯を食いしばり学んで、
広い世界の人々を見下すことでしか
自分自身を正当化できなかった幼いわたし。

918 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 23:37:43.46 ID:7lABGacP
図書館が全てだった。
外の世界を憎んでいた。
羨ましくて、ねたましくて、気が狂いそうだったから。
誰も見たことがない未来を望んでいたのに
そんなものはこの世界のどこにも有りはしないと
自分自身を諦めさせるために経済学を学んでいたわたしの
冷たく寂しい冬の尽きせぬ夜のような闇の中に――
魔王「このような、あちらもこちらも再帰するような
 関数モデルを、結局は統計的な手法を元に丸めてゆくのが
 数学的な手法だというのなら、
 その根本なるものは雲の中にあるようなものに過ぎないのに」
――世界を救う人を、勇者と呼ぶ。
そんなおとぎ話みたいな儚い声を、
どうやって信じれば良いんだろう。
こんなに学んでも学んでも、世界は真っ暗なのに。
そんな人がいるのだろうか?
わたしはこんなに寂しいのに。
そんな場所があるのだろうか?
この閉塞したモデルの他にわたし達の住まう場所なんて。
魔王「――くだらないじゃないかっ」
期待して良いのだろうか。
わたしが夢見ることを許してもらえるだなんて。
夢見ても良いのだろうか。
そんなおとぎ話に出会えるだなんて。

919 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 23:38:55.81 ID:7lABGacP
――開門都市、庁舎、魔王の寝室
魔王「……んぅ」
魔王「夢……か……」こしこし
魔王「夢とは言え、痛むんだな」
           ……ォォン!
           ……ドォォーン!
魔王「……」
魔王「会いたいな。勇者に」
魔王「私はがんばってるぞ、勇者」
魔王「絶対この都市は落とさせない。
 この都市が落ちたら、きっと魔族も人間も退くに退けなくなる。
  だから、勇者は来ない方がいいんだ。
 ……ここに来たら、あの祭壇を見てしまう。
 わたしは勇者と戦いたくなんて無い。
  勇者と戦うくらいなら
 ――いい。
 勇者がいなくても、
 我慢する」
魔王「……」ぽろっ
魔王「好きなんだな、わたし」
魔王「……」
魔王「会いたいぞ……」

927 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 00:10:34.74 ID:ilMrMHoP
――開門都市、城壁を囲む聖鍵遠征軍、豪奢な天幕
    ……ドォォーン! ……ォォン!
        ……ゴォォン! ……ズドォォン!
大主教「続けよ」
従軍司祭「はっ、はい。豚二千五百頭、小麦馬車8台、
 甜菜樽七つ、果物および香辛料、馬車二台。
 毛布、および防寒具、馬車四台……」
ガサッ
光の兵士「しっ、失礼しますっ」
従軍司祭長「なんだ。伝令か?」
光の兵士「はっ」おろおろ
従軍司祭長「話すが良い」
光の兵士「は、はいっ。我らが大空洞との間に築いてきた
 宿営地のうち一つが、正体不明の軍に襲撃を受けたとのことっ」
従軍司祭「なっ!?」
従軍司祭長「なんだと、詳しく話せっ」
光の兵士「はっ。これも避難してきた兵からの話ですが……
 魔族の精悍な歩兵軍の襲撃があり、
 糧食や武器が奪われたそうでありますっ!」

929 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 00:11:36.47 ID:ilMrMHoP
従軍司祭長「被害はそれだけか?」
光の兵士「はい。幸いにして死者、負傷者はきわめて少なく、
 ただし馬などは散らされたために、
 徒歩にて本陣へと合流をしている最中」
大主教「取るに足りぬ」
光の兵士「は?」
大主教「取るに足りぬ。攻撃を続行させよ」
従軍司祭長「……。良い、下がれっ」
光の兵士「はっ! はい、かしこまりましたっ!」
大主教「防壁の様子はどうなのだ」
ころり。ころり。
従軍司祭長「はい。昨日からは補修の動きも鈍くなり、
 都市側の資材もかなり困窮してきたと見えます。
 一部の防壁には、ほころびも見栄、おそらくあと4、5日の
 うちには何らかの進展が見られるかと」
大主教「なまぬるいな。突撃をさせるのだ」
従軍司祭長「し、しかしっ……」
大主教「精霊は求めたもう」
従軍司祭長「……っ」
大主教「ゆけ、光の園へ。
 あの都市の住民に恐怖を刻み込んでやるのだ」

930 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 00:12:44.42 ID:ilMrMHoP
――開門都市、防壁を囲む聖鍵遠征軍、遠征軍陣地
    ひゅるるる……どぉぉーん!!
      ひゅるるる……どぉぉーん!!
光の信徒「聞いたか?」
光の銃兵「ああ」
光の槍兵「何をだ?」
光の信徒「どうやら、2つめと3つめの集積地も落とされたらしい」
光の槍兵「そうなのか!?」
  従軍靴職人 とぼとぼ
  荷馬車の御者「うううぅ、水をくれ」
光の信徒「ああ、見ろ。ここ数日で人が増えているだろう?
 食料も武器も奪われて、荒野を旅してここまで
 たどり着いたらしいんだ」
光の銃兵「そうだったのか。なんにせよ、命があるのは行幸だ」
カノーネ兵「果たしてそうかな?」
光の銃兵「それはどういう事だ?」
カノーネ兵「考えても見ろ。
 奴らは後方の補給線を守って食料を蓄えていたんだぞ。
 そいつらが食料を奪われたばかりか、
 この前線に押しかけてくるって事は、食料は増えていないのに
 その食料を食う口は増えているって云うことだ」
      ひゅるるる……どぉぉーん!!
光の信徒「……っ」
光の銃兵「しかし、同じ光の仲間じゃないかっ!」
光の槍兵「だといいがな」

931 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 00:13:57.95 ID:ilMrMHoP
光の信徒「ともあれ、あの都市を落とせば、
 食料も水も物資も手に入るはずなんだ!」
光の槍兵「……」ふいっ
光の銃兵「どうしたんだ?」
光の槍兵「いや、考えても見ろ。
 俺たちが砲撃を加え始めてから、明日でもう十日だぞ?
 貴族や司令部は、あの都市さえ落とせば
 食料も財宝もたっぷり手に入るって云っているけれど
 本当に食料なんてあるのか?
 つまり、あの都市には魔族が沢山いるんだろう?
 魔族であってもメシを食うんだろうから
 あの都市の食料を、食い尽くすことだってあるんじゃないのか?」
光の信徒「……」
光の銃兵「それは……」
光の槍兵「そうなったら、俺たちはこの荒野の中で、
 食料も無しで放置されちまう」
光の騎兵「いや、それはないさ。いま王弟元帥閣下がいないのは
 まさにそのためなんだからな」
光の銃兵「へ?」
光の騎兵「王弟元帥閣下と勇者どのは、
 魔族の領土に食料と物資の補給に出ているんだ。
 おそらくそろそろ帰ってくるはずだ。だから大丈夫さ」
光の槍兵「そうだったのか! 勇者さまもかっ!」
カノーネ兵「それで前線には王弟元帥閣下が
 いらっしゃらなかったんだな!?」
光の騎兵「そうさ。王弟元帥閣下さえ帰ってくれば、
 あんな防壁なんて一撃の下に破壊して、
 俺たちはこの戦に勝利が出来る事は間違いないからな」

945 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 00:48:16.33 ID:ilMrMHoP
――遠征軍、奇岩荒野、物資集積地
がさ、がさりっ
副官「どうだ?」
獣牙双剣兵「おう。見える……。
 明かりが多い。警戒しているようだ」
獣牙投槍兵「すでに襲うのも4カ所目だ、警戒もしているだろう」
獣牙槌矛兵「ぬぅ」
副官「ここからは、奇襲でけりをつけるわけにも行かないか」
獣牙双剣兵「奇襲ばかりではつまらぬだろう」
獣牙投槍兵「本当の戦はこれからよ」
副官(そうはいくか。こっちの数は5000を割ってる。
 奇襲しないでマスケットを喰らえば倒れていくしかない。
 兵の補充が望めない以上、減らすわけにはいかない。
 ……けれど、集積地を襲っていくしか開門都市を
 援護する手段はないと来ている)
獣牙双剣兵「司令よ」
副官「ん、ああ」
獣牙双剣兵「大事にしてくれるのは判るが、
 我らは獣牙の精兵。あの人間界への遠征をも乗り越えた
 銀虎公の部隊なのだ。暴れさせてくれ」
獣牙投槍兵「そうだそうだ。俺の槍はマスケットなどには負けぬ」
獣牙槌矛兵「我ら五千には銀虎公の魂が宿っている。
 負けはせぬ! そんなはずがないっ!」
副官「……」
獣牙双剣兵「ためらっても他に手段などあるまい?」
副官「判った。奇襲を敢行する。出来るだけ広域に散開し
 三日月状の陣形で一気に集積地に接近、マスケット兵を倒すぞ」
獣牙兵「おうっ!」

948 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 00:48:57.10 ID:ilMrMHoP
ピィィィィッ!!
副官「良し、行くぞっ! 突撃っ!!」
獣牙双剣兵「おおっ!」
獣牙投槍兵「我ら獣牙の力を見せつけてやるっ」
獣牙槌矛兵「我らの魂に力をっ!!」
光の防御部隊長「きっ! 来た。本当に来たっ!?」
光の信徒「ど、どっ!?」
光の歩兵「お、おちつけ!」
光の防御部隊長「そうだ。マスケット部隊! 構えぃ!!」
光の銃兵「はっ!」 がちゃ! じゃき! がちゃっ!!
光の防御部隊長「引き寄せよ、一兵たりとも近づけるな」
光の信徒「ううう、や、槍兵も準備せよ」
光の歩兵「はぁ!」 ザシャ!
副官(読まれていたかっ!? まずいっ)
獣牙双剣兵「左右へ散開しながら前進っ!!」
獣牙投槍兵「行くぞぉ!」
ゴウゥゥン!! ゴォォン!
  ゴウゥゥン!! ゴォォン!
獣牙槌矛兵「かはっ!?」
  「ぐはぁっ!!」 「うぐっ!?」 ばたっ 「ぎゃぁ!」
光の防御部隊長「第二射装填、そっ」
光の信徒「?」
ズギュゥゥーーンッ!
  ばたり
ズギュゥゥーーンッ! ズギュゥゥーーンッ!

954 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 00:53:10.00 ID:ilMrMHoP
――遠征軍、奇岩荒野、物資集積地近辺の灌木の茂み
女騎士「落ち着け。敵はこちらの位置を把握はしていないぞ」
ライフル兵「はっ!」
女騎士「望遠鏡による光学観測を続けろ。
 パートナーに警告と指示を忘れるな。
 狙撃手と騎士は必ず二人一組で行動だ。
  槍兵は後回しで良い、相手は寄せ集めの軍隊だ。
 指揮官と聖職者をまずは狙え!
 その後は指揮を引き継いで立ち上がったやつから狙撃だ」
ライフル兵「了解っ」
湖畔騎士団「たき火の明かりの中に棒立ちです。右ッ!」
女騎士「落とせ」
ライフル兵「行きます」
ズギュゥゥーーンッ!
湖畔騎士団「命中。次の目標を」
女騎士「悪くない命中率だな」
執事「にょっほっほっほ。わたし直伝ですからね」
女騎士「だからその動きはやめろ」
執事「ふふふっ。では、わたしは少々」
女騎士「どうするんだ?」
執事「向こう側から突出してきた魔族の皆さんの被害を減らす
 ために、少々攪乱してこようかと思います」
女騎士「一人で良いのか? 変態老師」
執事「なんですかそれはっ!?」
女騎士「いや。あのパンツを見た結果、
 中間的な呼称に落ち着いたのだ。……わたしも行こうか?」
執事「いえいえ。大勢で行っては、狙撃の時に不便でしょう。
 わたしなら隠密行動で攪乱できます。お任せあれ」にょりゅん
女騎士「……ふっ。よし、マスケット兵達を押さえつけたならば、
 前進して制圧に移るぞ! 騎士団、準備を開始っ!」

977 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:14:36.74 ID:ilMrMHoP
――聖王都、八角宮殿、冬薔薇の庭園
カッカッカッ ガチャ
 ざわざわ……ざわざわ……
  「商人風情がもっとも由緒正しいこの宮廷に何を」「ああいやだ」
侍女「こちらへ」
青年商人「はい」
カッカッカッ ガチャ
 ざわざわ……ざわざわ……
  「あれが、ほら『同盟』とやらの」「優男ではないか」
青年商人(さすがに豪華絢爛だな。
 たかが廊下にここまで装飾を懲らすとはね)
侍女「この奥でございます。国王陛下はすでにお待ちでございます」
青年商人「了解。飴でも要ります?」
侍女「は?」
青年商人「ただの冗談ですよ。こほんっ」
侍女「では、失礼させて頂きます」
がちゃん。
 〜〜♪  〜〜〜♪
触れ係「『同盟』所属、湖の国商館より、
  青年商人様がいらっしゃいました」

978 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:16:36.40 ID:ilMrMHoP
青年商人「はじめまして、ご挨拶させて頂きます。
 私は湖の国を中心に広く商いをさせて貰っております
 青年商人と申します。以後、お見知りおきを」
国務大臣「うぉっほん。わしが国務大臣だ。そして」
王室付き高司祭「わたしはこの聖王国の王室付きを勤める高司祭」
国務大臣「こちらにいらっしゃるのは、
 精霊の恩寵厚き、我らが16代国王、聖国王様でいらっしゃる」
聖国王 くるり
国務大臣「そちの謁見を許す、との仰っている」
青年商人(これはこれは……。このおつきどもは面倒くさいな。
 多少荒療治も必要か。だが、この王は……)
聖国王「良く来てくれた。経済と商業の立場から
 この王国への提案があるそうだな?
 周囲は止めたのだがな。余とて世相を知らぬ訳ではない。
 今日の話は、密かに楽しみにしておったのだ」
国務大臣「……ふんっ」
青年商人「ありがとうございます。
 本日は色々お話があるのですが……。
 そうですね、まずはお願いがございまして……」
聖国王「申してみよ」
青年商人「私ども『同盟』は商人の間の互助組織でございます。
 一人一人旅商人のようなささやかな商いをしております商人や、
 何代にもわたる一家を作り上げた商人が参加しております
 組織でして、大陸のあちこちの都市に商館を築いております」

980 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:18:23.88 ID:ilMrMHoP
聖国王「ふむ」
青年商人「この度、この『同盟』の商館の一部で
 為替を取り扱う業務を始めまして。
 おかげさまで好評を頂いております」
王室付き高司祭 ぎりっ
聖国王「為替か。うむ、判るぞ」
青年商人「こちらの為替業務に関する許可および、
 勅書を頂けましたならばありがたく思います」
王室付き高司祭「殿下、私は反対させて頂きますっ」
聖国王「なぜだ?」
王室付き高司祭「元々為替なる仕事は我ら教会の業務。
 全国に散らばる光の信徒の相互の互助のために
 興した事業でございます。
 そもそも金銭を扱うのは高度な信用が必要。
 この場合、信用とは資産であります。
 お金を払う約束、貸す約束、どちらの約束にしろそれを
 実行するだけの信用がなければ成り立ちませぬ。
 新興の商業組合にこのような仕事を許可すること自体が
 間違いであったのです」
青年商人「恐れながら国務大臣閣下。この国の方にて、
 為替業務の許可が必要だとの項目はございましたか?」
国務大臣「……それは……無いようですが」
王室付き高司祭「……っ」
青年商人「許可を頂きたいと云ったのは、
 これはもはや純粋な礼儀上のことでございます」

984 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:20:44.33 ID:ilMrMHoP
王室付き高司祭「では、私は聖なる光教会を代表いたしまして
 陛下に求めます。そもそのような法がなかったのは、
 我ら教会以外がその人を全うできなどというのが、
 自明だったゆえのこと。
 すぐさま法を改正し、いや、国王命令でもって教会以外の
 為替業務を停止すべきです。
 これを聖なる光教会として、強く要請いたします」
聖国王「……」
青年商人「さて、高司祭どの」
王室付き高司祭「なんですか、商人“どの”。
 わたしが陛下と話をしているのですよ」
青年商人「じつは、我ら『同盟』でも、
 教会の為替を利用していましてね」
王室付き高司祭「ふん、やはりそうではないか」
青年商人「為替証を現金にしてもらおうと思い、
 西海岸の自由都市にいったのですが、現金化を断られました」
王室付き高司祭「それはっ」
聖国王「それは事実なのか?」
青年商人「困ったわたしは、その隣の都市にも行ったのですが、
 そこでも断られまして」
王室付き高司祭「……っ」
青年商人「じつは5カ所で断られていまして。
 為替証とは公正証書の一種であるはずですよね?
 金を預かりはしたが、契約したにもかかわらず、
 返すことは出来ない。教会はそう仰るのですね?
 西海岸の商人は現在大混乱、いえ、大恐慌です」

4 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:24:04.47 ID:ilMrMHoP
聖国王「そのような事実はあるのか、高司祭」
王室付き高司祭「そ、それは……。一時的な……」
青年商人「実は本日陛下にお目にかかったのは、
 一部にはこれも理由でして。
 西海岸を中心とする商人5千人からの嘆願書でございます。
 教会に預けた金が、返ってこない、と」
王室付き高司祭「証書は必ず現金化するっ」
青年商人「そのような問題ではございません。
 わたし達商人は毎日を血の流れぬ戦場で過ごしております。
 我らが麦を運ばねば、飢えて死ぬ地方がいくつもあるのです。
  証書を現金化できなくて麦が買えなかった商家をご存じか?
 それでもその商家の麦を載せるはずだった船は出るのですよ。
 それが契約ですからね。
 何も乗せていない船が海を南北に動く。
 その損害をいかがお考えか?
  教会の信用? そのような物があるのであれば
 その教会に信用を傷つけられた
 我ら商人の信用はいかがすればよいのですか?」
王室付き高司祭「全ての損害を賠償しようっ」
青年商人「信用が金で買えると?
 ではわたし達も金で買いましょう。
 先ほど仰っていた教会の信用は金貨でいくらになるので?」
王室付き高司祭「そのような物が売れるわけが無かろうっ!
 恥を知れ、この背教者めっ!!」
聖国王「そこらで矛を収めよ」

6 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/09(金) 01:27:22.11 ID:ilMrMHoP
青年商人「失礼いたしました」
王室付き高司祭「はんっ。破落戸が」
聖国王「どうしたものか」
国務大臣「国王陛下は司法の長でもあります。
 ここは国王陛下のご判断を仰ぐのが早道かと存じますが?」
聖国王「そうだな。ふーむ。……高司祭よ、
 さきほど損害分は全て払うと云っておったな」
王室付き高司祭「はい」
聖国王「さらに、西海岸の商人の信用を傷つけたことも認めるな?」
王室付き高司祭「商人などという生き物に人間なみの信用があれば、
 でございますが。ええ、認めましょう」
聖国王「損害全てのほかに、その信用をあがなうための
 賠償金の支払いが妥当だろう。どの程度を支払えばよい?
 高司祭、そちはどう思う?」
王室付き高司祭「金貨で10万枚で宜しいでしょう。過ぎた額だ」
聖国王「うむ、そちはどう思う、青年商人?」
青年商人「わたしのみの信用であれば、多額に過ぎる額です。
 さすが聖なる光教会の司祭様の見識、感服いたしました」
王室付き高司祭「所詮金か。卑しい男よ」
青年商人「しかし、先ほど申し上げましたとおり、
 この嘆願書には五千名からの商人が名を連ねております。
 そのため私一人の話では済みません。
 私が責任を持ってまとめますので、彼らの損害額の50%を
 賠償金として上乗せする、と云うことで納得して頂けませんか?」
王室付き高司祭「よかろう」