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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part93


651 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 23:33:01.65 ID:UGv5Hk.P
魔王「無理はして欲しくない。
 わたしは、二人目の銀虎公を見たくはないのだ」
副官「……」
鬼呼の姫巫女「……」
魔王「砦長。頼まれてくれるか?」
東の砦長「おうっ」
魔王「では、この都市の防衛総司令、および迎撃を任せる」
東の砦長「その命、承った」
魔王「鬼呼の姫巫女よ」
鬼呼の姫巫女「はっ」
魔王「都市内部の統制と、内務の全てを見てはくれぬか?
 自治委員会の方々よ。姫巫女は、鬼呼一族を掌握されていた
 希代の名君だ。姫巫女に力を貸し、その手足となって動いて欲しい」
鬼呼の姫巫女「承りましたっ」
魔王「この都市を落とされるわけにはいかない。
 それは我ら魔族のためでもあるし、
 ある意味では人間族のためでもある。
 この都市が再び陥落し戦火に踏みにじられれば、
 その怨嗟の声は千年にわたる呪いとなって
 魔族のみならず、人間族の未来をも
 黒い鎖で縛り付けるだろう。
 我らは争うために生まれてきたのではない。
 しかし、なんのために生まれてきたかを証したてるためにも
 今日を生き延びねばならぬ。
 この戦を、開門都市で食い止めるのだっ!!」

660 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 23:46:08.36 ID:UGv5Hk.P
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、王弟軍
王弟元帥「軍使、だと?」
斥候兵「はっ。前方半里ほどの丘の上に、
 白旗を立てて待っております。
 その……人間であります」
参謀軍師「人間……」
聖王国将官「どういうことでしょう?」
王弟元帥「どれくらいの人数なのだ?」
斥候兵「おおよそ10名ほどかと見ましたが、
 丘の麓から向こうは魔界の原生林が広がっておりますので
 兵が伏せてある可能性は否定できません」
王弟元帥「人間か……」
聖王国将官「いかがされますか? 元帥閣下」
王弟元帥「面白い、会おう」
参謀軍師「ふむ」
王弟元帥「こちらからも十人ほどを連れて、
 その丘まで出向くのが礼儀であろうな。
 無用な戦闘を望んでいるわけではないと示すためにも」
参謀軍師「そこまで下手に出る必要がありますか?」
王弟元帥「相手の正体が判らぬ以上な」
斥候兵「いえ、会って頂けるのならば、
 こちらの陣営まで来ると先方は云っております」
王弟元帥「はははっ。度胸がいい男ではないか」
斥候兵「それが、先方は女性でして……」

670 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:00:43.59 ID:7lABGacP
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部
がやがや
  同盟職員「はい、はい。そうですっ」
  同盟職員娘「資金不足発生。西の海岸自由都市三つです」
本部部長「来ましたね」
青年商人「崩壊線を超えそうなのは?」
ばさっ
本部部長「噂の進行は、どうも西部ほど早いようです。
 波頭の国、この付近三つの都市では真っ先に火が付くかと」
青年商人「判りました。では、同盟が保有する為替の65%を
 三都市に集中させてください。不安が最大化した時点で
 これらの為替を、意図的に同時に現金化する」
同盟職員「はいっ」
青年商人「その一撃で、三都市の教会の持っている現金は
 全て蒸発するでしょう。
 商人たちは、為替を現金化したくても
 出来ないという悪夢を経験することになる。
 そうすれば、早馬を使ってでも隣の都市で、
 つまりまだ現金のある都市で現金化をしようと動くでしょうね。
 現金が蒸発する教会は、こうして次々と広がって行く。
 ――噂の現実化現象です。
 パニックになった領主から為替を買い取る作戦はどうですか?」
同盟職員娘「『同盟』の買い付け部隊には手配済みです。
 額面の70%であるならば押さえろと指示を出しておきました」
本部部長「一刻も早い現金化を望む領主は投げ売りに走るかも
 知れませんからね。そこを買うということですか」

671 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:02:41.60 ID:7lABGacP
青年商人「今回の作戦は、安全弁が存在しない。
 一度事態が始まったら『同盟』の制御も効かない可能性がある。
 そのため、開始時期の制御および事態の収拾には
 細心の注意が必要です。
 必要以上のパニックは我々の望むところではありません」
本部部長「了解っ」
青年商人「三都市でのタイミングが初めの決め手になる。
 本部長、行ってもらえますか?」
本部部長「わたしがですか? 委員自らが手を下されるのかと」
青年商人「こちらはこの作戦の仕上げがあります」
同盟職員「仕上げ、ですか?」
本部部長「……ふむ」
青年商人「この作戦はタイミングが命です。
 聖光教会にとって1/10税は大事な収入源ですから
 このトラブルに対処をしないと云うことはあり得ない。
 たとえ、それは教会の中心たる大司教がいなくても、です。
 トラブルが発生してから情報が伝わり、対応策を決めて、
 おおよそ一月。年が変わってしばらくたてば今回の騒ぎは
 誤解だったと云うことで鎮火するでしょう。
  仕上げをするためにはそのタイミングを外すわけにはいかない。
 わたしは現場にいるわけにはいかないんです」
同盟職員「……?」
本部部長「判りました。わたしが現場で指揮を執りましょう」
青年商人「ええ、お願いします。必要であれば、
 今回買い切った全ての為替、および本部の流動資産を
 使い切っても構いません。
 我々に現在必要なのは、制御されたパニックと『同盟』の勝利。
  ある意味この作戦は、反則といかさまです。
 一瞬の幻惑のうちに、目的を果たす必要がある」
本部部長「理解しました。安心して行ってきてください。
 この大陸でもっとも固い扉の奥へ」

681 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:16:24.23 ID:7lABGacP
――開門都市、城壁を囲む聖鍵遠征軍、豪奢な天幕
           ……ォォン!
           ……ドォォーン!
大主教「攻めよ! 攻めるのだ、あの都市を」
従軍司祭長「はっ。灰青王の話では昼夜を分かたぬ砲撃にも
 良く耐えているそうですが、なに。人の心とはそのように
 強き物ではありません。
 一月もたたぬうちに希望の根底もへし折れ、
 頭を垂れて降伏をしてくるでしょう」
大主教「手ぬるい」
従軍司祭長「は?」
大主教「手ぬるいのだ。銃兵を鼓舞せよ。
 あの城門へと突撃させよ。
 何をしている、それが精霊の望みなのだ」
従軍司祭長「そ、それは。流石にっ」
大主教「流石に、なんだ」
従軍司祭長「あの防壁はマスケットや槍程度では
 いかんともしがたく。
 あの都市には火砲はないと確認しておりますが
 それでも投石機や弓矢、防衛兵器は十二分に備えてありましょう。
 歩兵を突撃させるのは、まさしく無謀かと」
大主教「それは、軍の理屈。精霊の理ではない」
従軍司祭長「そ、その……」
大主教「百合騎士団隊長」
百合騎士団隊長「はっ」

684 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:18:02.82 ID:7lABGacP
大主教「汝が鼓舞をせよ。農奴兵を煽り立て、
 あの都市へ突撃されるのだ」
百合騎士団隊長「はいっ。猊下のお心のままにっ」
大主教「ふふふふっ」
従軍司祭長「な、なにゆえに……」
大主教「魔族がいくら死んでも、勇者は現われぬ」
ころり。ころり。
従軍司祭長「は、は?」
大主教「だが、人間の苦鳴に耳を塞ぐことが出来るものかな。
 ……くっくっくっ。鍵は魔王でも、勇者でも良い。
 しかし、戦場で討ち取りやすいのは、勇者。
 我らが精霊の子である以上、勇者は我らを憎めぬ」
従軍司祭長「な、なにを仰っているのか」
大主教「判らずとも良い。……そうであろう?」
百合騎士団隊長「そうです。我らは理解する必要はありませぬ。
 猊下のお言葉と、戦場に溢れる阿鼻の蜜月、
 叫喚の睦言さえあれば他には何もいらぬでしょう?」 とろり
大主教「ふふふっ」
従軍司祭長 ガクガクッ
百合騎士団隊長「出陣いたします、猊下」
大主教「任せよう」

696 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:33:48.35 ID:7lABGacP
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、王弟軍
ばさり
メイド姉「お招きくださり、ありがとうございます」にこり
貴族子弟「これは勇壮な軍ですね」きょろきょろ
生き残り傭兵「……」むすっ
王弟元帥(この少女は……。何者だ?)
参謀軍師「では、こちらから名乗らせて頂きましょう。
 我らは聖鍵遠征軍別動部隊。
 こちらは聖王国の王弟元帥閣下です。
 わたしは参謀軍師。お見知りおきを」
聖王国将官「わたしは聖王国将官」
王弟元帥「王弟元帥だ。そちらの身分、および目的を聞こう」
メイド姉「はい。わたしはメイド姉と申します。
 身分は……旅の学士です。
 現在はこの軍を率いる司令官を務めさせて頂いています」
参謀軍師「軍だと……?」
貴族子弟「わたしは貴族子弟」
メイド姉「こちらは傭兵隊長どの。わたしの護衛部隊を
 率いてくれています。強いですよ」
生き残り傭兵「ふんっ。忘れてくれて一向にかまわねぇ」
王弟元帥「して、目的はなんなのだ?」
メイド姉「一つ確認したいのですが、
 この部隊は現在、旧蒼魔族の首都を目指して進軍中ですね?」
聖王国将官「そんな事は見れば判るだろう」
メイド姉「では、兵を引き上げて頂きたく思います」

699 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:38:41.51 ID:7lABGacP
生き残り傭兵「流石に馴れては来たけどよぉ」
王弟元帥「ふふっ。少女よ。いや、司令官だったか。
 いったいどのような権利を持ってそのようなことを云うのだ」
メイド姉「はい。わたしは、現在あの領地を占領しています」
参謀軍師「なっ!?」
聖王国将官「なんだとっ!?」
メイド姉「あの領地を魔王よりあずかっている機怪族は
 我が軍との平和的な交渉の結果、
 領地の支配権を我が軍に全面的に譲渡しました。
 こちらはその書面の写しになっています」
参謀軍師 ばっ! 「……っ。まさかっ」
メイド姉「現在のこの領地の領主として、貴軍に要請します。
 貴軍は現在、旧蒼魔族領地にすでに侵入しています。
 交戦の意図なくば至急軍を返し、領地外に出て行って頂きたい」
聖王国将官「交戦の意図なくばっ!? ふざけるな、我々はっ」
メイド姉「人間の治める国に侵略するのですか?」きょとん
王弟元帥「……っ」
参謀軍師「なんという……」
メイド姉「我が軍はその構成員の全てを人間で編成しています。
 現在、旧蒼魔軍領土は、人間の治める人間の領地」
参謀軍師「そのような寝言をっ。何が平和裏なのだっ。
 軍を持って、兵力の少ない領地を占領したに過ぎないではないか。
 他国の領土に攻め入った上におこがましいっ」
メイド姉「そのお言葉、そっくり御身に返るかと思います」

706 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:43:07.43 ID:7lABGacP
参謀軍師(どうするのだ?
 いくら何でも大規模な軍が魔界へ入っていたとは考えがたい……。
 どのように多く見積もっても1万から2万。
 ひと思いにかたづけられない数ではないが……)
参謀軍師 ちらっ
貴族子弟「それで足りないならば、そうですね。
 ぼかぁ、じつは氷の国に籍を置いている
 外交特使というやつでして」
聖王国将官「氷の国っ!?」
参謀軍師「南部連合が、こんなところにまでっ」
貴族子弟「はい。旧蒼魔族領地ですか。
 この領地は現在我が軍の統治下にありますが、
 自治政府として再生を図っている途上でもあるわけです。
 もちろん南部連合入りを前提としてですね」
参謀軍師(なんだと……。こ、この男。
 それが真実だとすれば、南部連合との全面戦争を
 引き起こしかねない。
 いずれぶつかるのは確実にしても
 いまこの状態でぶつかれば、無防備な聖王国本国が灰燼に帰す。
 奴らは、自分たちの懐が痛まない魔界の一地方を切っ掛けに
 大陸全土を掌握するつもりだと云うことかっ!?)
王弟元帥「貴公の話が事実だという証拠は?」
貴族子弟「もちろん、いくらでも氷の国に照会を
 取って頂いて結構ですよ。
 ただし、嘘だという証拠も無いわけですよね。
 この場を押し通るおつもりであれば、
 これはもう、氷の国としても大変に遺憾であるとしか
 言い様がない痛恨事だと思います」
生き残り傭兵(おったまげるな、この二人……)

707 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:45:29.92 ID:7lABGacP
参謀軍師「……閣下」
王弟元帥「それは知らなかったこととは言え、失礼なことをした。
 全ては情報の遅れと行き違いだ。謝罪をしよう」
聖王国将官「……っ」
メイド姉 こくり
王弟元帥「とはいえ我ら兵を退くわけには行かぬ。
 この進軍は聖鍵遠征軍として大主教猊下の命令の下
 行なっているもの。ひいては、光の精霊の意志。
  中央の国家と南部の連合の間にはなんのわだかまりもないが
 聖光教会は南部連合諸国家を異端の罪で告発している。
 ご承知だろうが、聖鍵遠征軍と南部連合は
 目下交戦状態にあるのだ。
 そのことをお忘れではあるまい?」
メイド姉 じぃっ
参謀軍師(閣下! それでは、それでは戦争が始まります。
 みすみす南部連合を我ら聖王国に進軍させる
 口実を与える結果になってしまいます。
 どうかっ。それだけは!)
王弟元帥「しかし、我ら聖王国を始め中央の諸国家は
 その事態に関して遺憾に思うことがあるのも事実だ。
 何と言ってもわれらは同じ人間。
 魔族の脅威に剣と槍を並べ、戦った仲ではある。
  その同じ人間に対して、数万のマスケットを向けねばならぬとは
 一人の武将として悲痛な思いだ。
 たとえ聖鍵遠征軍とは交戦状態にある南部連合であろうと
 中央国家の武将の一人としては、けして戦を望むわけではない」
貴族子弟(へぇ……。そういうレトリックも使えるわけだ。
 戦争は教会の意志なので、聖王国に罪はない、と。
 さすが聖鍵遠征軍の頭脳、その中心。才気溢れていますねぇ)

711 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:48:15.89 ID:7lABGacP
メイド姉「そうですね、我ら人間同士が争って
 益のあることは何もありません」にこり
生き残り傭兵(痺れるな……。
 こっちは手のひらが汗でぐっしょりだぜ)
王弟元帥「われらは、大主教からこの地を奪い、
 ぜひ補給線を確立させよとの命を受けている。
 この命に背くことは出来ない。光の子として」
メイド姉「わたしも光の子です。
 いっそ湖畔修道会はいかがですか?
 湖畔修道会は、王弟元帥。
 あなた個人も聖王国も、どちらの参加も歓迎しますよ」
貴族子弟(〜♪ 云いますね。さすが住み込み弟子だ)
王弟元帥「ははははっ。お申し出は有り難いが
 それを受け入れるわけにも行くまい。
 我ら聖王国は大陸諸国家の長兄として秩序を護る義務がある」
メイド姉「秩序、とは?」
王弟元帥「安心だ。人々が安心して日々を送る事が
 出来るのは何故だと考える?
 それは、昨日と同じ今日が、今日と同じ明日が続くからだ。
 なぜ夜眠れる? それは朝になれば目覚めると判っているからだ。
 もし寝ている間に死ぬかも知れなければ、
 恐怖で眠ることは出来ぬだろう。
 しかし、我らは経験的に、朝になれば目覚めると知っている。
 それが繰り返しであり、秩序というものだ。
  もちろん、中には不幸な例もある。
 あるいは病で、あるいは押し込み強盗に殺されて
 朝になっても目覚める事はないと云うことがな。
 これは繰り返しが壊れるという意味において、
 秩序の破壊であり、混沌だ。
  我ら聖王国は秩序の守護者として、民草の安寧を得るためにも
 昨日と同じ今日、今日と同じ明日を護らねばならぬ」
メイド姉「いままで聖光教会に従ってきたので、
 そしていままで農奴制度を確立してきたので、
 さらに貴族社会と王権の絡み合ったその構造を護るため、
 ……いまさら変われぬと?」
王弟元帥「早い話が、そうだ。そして民もそれが幸せなのだ」

715 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 00:51:53.00 ID:7lABGacP
メイド姉 きっ
貴族子弟(……敵ながら、肝の据わった男だ。
 この男は欲もあるのだろうが、それ以上の部分がやっかいだな)
メイド姉「では、結論としては?」
王弟元帥「補給線は確立せねばならぬ。
 しかし争いはけして望むところではない。
 大主教の宣言があり、交戦状態ではあるが
 今日このとき、この場所で出会ったことはこちらにとっても
 不測の事態であったのだ。そしてここは魔界。
 お互い人間の軍として、その軍勢を消耗することは
 なんとしてでも避けるべきではないだろうか?
 そこでわたしは提案しよう。
  食料馬車四千台分、および硝石馬車千台分の供出をして貰いたい。
 代金は支払おう。新王国の金貨で、そうだな600枚でどうだろう」
生き残り傭兵(馬鹿云うなっ。そんなはした金じゃ
 武具ひとそろいも買えないだろうが!)
貴族子弟「お断りした場合は?」
王弟元帥「両軍にとって痛ましい事態。
 強制的な補給線の確立と云うことになるだろう」
貴族子弟「南部連合に侵攻すると云うことですね?」
王弟元帥「それは聖光教会の意志だ。
 われら中央国家は、もちろんこの事態に深く心を痛める」
生き残り傭兵「けっ。つまりはドンパチやりたいのか」
参謀軍師「侮辱しようというのか、貴殿っ」
ばさりっ。
   ざっ。
勇者「いや、俺も聞きたいな。ドンパチやりたいのか?
 王弟元帥は。……人間同士の軍で、ドンパチをさ」

822 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 20:05:07.47 ID:7lABGacP
――魔界、南部、旧蒼魔族領地辺境部、王弟軍
ばさりっ
参謀軍師「このようなところで軍を停止させざる得ないとは……」
聖王国将官「確かに」
とさっ
王弟元帥「勇者よ」
勇者「ほいよ」
王弟元帥「勇者はあの少女と顔見知りなのか?」
勇者「多少はね」
王弟元帥「あの少女はいったい何者なのだ?」
勇者「んー。聖王国や教会が“紅の学士”と呼ぶ女。
 ……の片割れだよ。
 南部連合に農奴開放運動を巻き起こした張本人とも云える」
王弟元帥「――」
参謀軍師「あの少女が?」
聖王国将官「まさか。まだほんの娘ではないか」
勇者「俺もびっくりしてるよ」
王弟元帥「そうか。それであの弁舌、か。ふふふっ」
参謀軍師「元帥閣下……」

824 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 20:07:11.69 ID:7lABGacP
王弟元帥「勇者はどう思うのだ?」
勇者「何を?」
王弟元帥「この戦についてだ。
 ここまで同行してきてくれた事については
 深い感謝の意を持っている。
 だが、そちらも散々にはぐらかしてきたのは事実だろう?
 そろそろ聞かせて貰おう、勇者の本音を」
勇者「俺の本音は最初から一つだ。この世界を守る」
王弟元帥「我ら人間の世界をか。
 では、人間同士の軍の衝突はどう考えているのだ?」
勇者「ケツの穴のちいせーことを言うなよ。
 王弟元帥。地上最大の英雄のくせに。
 ここまで歩いてきたんだろう?
 この世界つったらこの世界だよ。
 歩いていけるたった一つのこの世界に人間も魔族もあるものか」
参謀軍師「っ!! なんですとっ」 がたっ
聖王国将官「それは異端だっ!!」
勇者「最初っから聖光教会になんか参加してねぇし
 光の精霊なんか信仰してねぇよ。
 俺は個人的に光の精霊に頼まれて、
 その願いを聞こうかなって思っているだけ。
 俺のは信仰じゃないんだよ」
王弟元帥「ふふふふっ。はははははっ!!!」
勇者「おかしなことを言ったか?」
王弟元帥「いいや、まったく。……たいしたものだ。
 まったく筋が通っている。
 やっと腹蔵無くはなせそうだな。勇者。
 そうだ、初めて話をするような気さえする」
参謀軍師「そんなっ」

826 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/08(木) 20:10:21.36 ID:7lABGacP
王弟元帥「では、勇者は
 いま眼前にある紅の学士と我らとの争いも、
 魔族と聖鍵遠征軍の争いも
 どちらも等しく嫌悪すると。それでよいのだな?」
勇者「そうだよ」
王弟元帥「どうあっても?」
勇者「どうあっても」
王弟元帥「では、眼前にその事態が発生したらどうするのだ」
勇者「王弟元帥こそ止める気はないのか?」
王弟元帥「無いな――。
 勇者よ。聞いただろう?
 我は民草の秩序と安寧のために戦っている。
 そもそも農奴開放がこの世界に何をもたらしたのだ?
 結局は混乱をもたらしているだけではないか。
 貧しくて飢えた不毛な南の地を釣り得に新しい支配者が
 新しい奴隷を、別の名称で募集したに過ぎない。
 そのような偽りな希望をぶら下げるよりは、
 安定した今までの機構を維持する方がどれだけ有意義かも知れぬ。
 歴史がある、というのは
 今までそれでやってこれたことを示すのだ。
 新しいこと全てが正しいなど、どこの寝言だ。
 違うか、勇者?」
勇者「聖王国の利益を保護しているように聞こえるな」
王弟元帥「そうだ。それが何故いけない?
 自らの利益を追い求める王は悪であるなどとは
 所詮は持たざる者どもの僻みの声でしかない。
 王は富んで良いのだ。国を富ませさえすれば。
 聖王国の利益を求めることと、
 民に秩序と安寧をもたらすことは決して相反することではない。
 我はどちらも最大限に大きくする方向を目指して
 進んでいるだけに過ぎないのだ」