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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part91


459 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 00:59:46.01 ID:UGv5Hk.P
    ゴウゥゥン!! ゴォォン!
ダカダッ! ダカダッ!!
 ダカダッ! ダカダッ!!
魔王(それにしてもなんという数だ。20万? 30万?
 そんな数字を聞いても判りはしない。
 この軍勢を見るまではわたしにも判らなかった。
 まずい。
 まずいぞ……。
 これだけの数のマスケットと大軍勢は、上手く運用さえすれば
 魔族を一人残らず殺すことも可能かも知れない)
ゾ クッ
魔王(なっ。何を馬鹿なっ。
 そのような非効率的、非現実的な妄想などあるものかっ。
 ……だが。
 この悪魔的な破壊力、殲滅力。おびただしい血の量はどうだ。
 戦が始まってからまだ半日もたっていないはずなのに
 大地はおびただしい血を吸って黒くぬめったような
 異様な光景になりはてている……。
 これが火薬の作り出す地獄なのだとすれば……。
 わたしは……。わたしはっ)
ダカダッ! ダカダッ!!
東の砦将「魔王っ! 伏せろっ!」
ゴウゥゥン!
百合騎士「死ねぇっ!」
魔王「っ!!」
ズドンっ! ぽたっ、ぽたっ
銀虎公「くふっ。ふはっ」
魔王「銀虎公っ!!」

463 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 01:02:28.14 ID:UGv5Hk.P
銀虎公「ふふっ。ふははははっ!
 遠からん者は音にも聞けっ、近くは寄って目にも見よっ。
 魔界に氏族数多あれど、武勇の誉れ叩きは
 我が獣牙っ。白虎の眷属にして、導きの長。
 戦場に誉れ高き七つ矛の主っ。
  我こそは、魔界に轟き右府将軍っ!
 名は隗、字は草雲、黒眼雪髪、銀虎公と称す。
  その方らのような雑兵に、やられる俺ではないわぁっ!」
獣牙双剣兵「っ!」
魔王「ぎ、銀虎公?」
百合騎士「死ねぇっ!」 ズギュゥゥン!!
百合騎士「化け物めっ! 倒れろっ! 倒れろぉっ!!」
ゴウゥゥン!! ゴォォン!
ドゥゥン!! ズドォォン!
魔王「ぎっ、銀虎公ーっ」
東の砦将「ダメだっ! 魔王っ! 行くんだっ!」
 獣牙双剣兵「うわぁっ!!」
 獣牙短槍兵「突撃ぃぃぃ!!」
銀虎公「ふははははっ! ははははははっ!!
 愉快、痛快っ!! それ、木っ端騎士めっ!
 我が大薙刀を受けきるかっ! せいやぁぁっ!!」
ドゴォォーン!!!
魔王「銀虎公っー! 銀虎公っー!!」
東の砦将「行かせないっ。魔王っ!!」
ダカダッ! ダカダッ!!

468 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 01:05:51.95 ID:UGv5Hk.P
銀虎公「ははははっ!!
 戦場こそ我ら獣牙の故郷っ!
 楽しい戦だったぞ、魔王殿っ!!
 そして、夢のような日々であった。
 心が軽くなり、何を話しても、何をしても楽しかった。
 そーっれっ! せいやっ!!
  ――約束は少しは守れただろうかっ。
 我ら獣牙は戦の民。
 しかし、粗にして野でも、卑にはあらず。
 魔王殿っ。魔王殿に誓った忠誠は、その報恩は
 未だ尽きてはいないぞっ!
 はははははっ!」
魔王「銀虎公ーっ」
東の砦将「……っ」
ダカダッ! ダカダッ!!
銀虎公「はははっ! 人間の勇士よ! 砦将よっ。
 礼を言うぞ。そして出来れば頼みたいっ。
 我は三度の約束のうち、二度は果たしたが、
 最後の一度をお返しする前に果てるようだ。はははははっ」
百合騎士「化け物めっ!」 ゴォォン!
銀虎公「五月蠅いわぁっーっ!!」
ズザーン!! ザパァッ!!
銀虎公「魔王殿はか弱いっ。か弱くて、
 弱く、頼りなく、転んだだけで死にそうなほど情けない方だっ。
 だが、その細い肩にはこの魔界がのっておるっ。
 砦将よっ。我を認めてくれた人間よっ!
 気の良い男よっ。酒を酌み交わした戦友よっ。
 頼んで良いだろうか」
ダカダッ! ダカダッ!!
東の砦将「――っ」ぎゅぅっ
銀虎公「我亡き後、できれば最後まで……
 魔王殿を……支えて……」
魔王「銀虎公ーっ!!」
    ゴウゥゥン!! ゴォォン!

558 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 20:05:41.44 ID:Oxb903Uo
――魔界、南部、風強き荒れ地、宿営地の天幕
王弟元帥「……ん?」
参謀軍師「どうされました? 閣下」
王弟元帥「いや。今頃は、総攻撃かと思ってな」
参謀軍師「ふむ。そうですな」
聖王国将官「どうなるでしょうね」
王弟元帥「ふふっ」
参謀軍師「?」
聖王国将官「どうされたのです?」
王弟元帥「いいや。荒野での決戦が上手く行くにせよ、
 行かぬにせよ、さほど大勢に影響はないだろうさ」
聖王国将官「そうなのですか?」
王弟元帥「もちろん、失敗すれば魔界攻略は
 大きく後退するだろうが、失敗とはこの場合、何をさす?
 確かに残した15万をまるまる失えば、それは失敗だろうが
 7万も残れば、取り返しはつくのだ」
参謀軍師「7万では魔界の全土制圧は不可能です」
王弟元帥「だが、それがどうした?
 開門都市を落とすには、その7万と我らが率いる
 精鋭3万で十分ではないか。
 開門都市を落としそこに駐留軍を置いて我らは大陸に帰る。
 ――何も失ってはいない」
聖王国将官「失っては、いない?」

559 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 20:06:45.37 ID:Oxb903Uo
王弟元帥「もとよりここは異境の地なのだ。
 我らの大陸ではない。
 兵を失っても領地が失われる訳ではない。
 我らは帰り、数年後には再び同じ数の軍勢をそろえて
 攻めあがることが可能だろう。
 その時はより高性能なフリントロックを用いて、だ」
参謀軍師「たしかに」
王弟元帥「そもそも我らの最低限の課題は、
 人間の持つ地上の大陸を死守し、
 そこに千年王国を打ち立てること。
  大陸中央部にある我ら聖王国を中心とした政治体制の確立だ
  その計画の異分子としての魔族があり、戦いがあった。
 結果として我らの結束を高める効果があり、
 この戦いは消して無益ではなかったといえる。
 そして今、魔界という存在が明白となり、
 共通の脅威として存在する以上、
 実際の戦闘の有無にはかかわらず、
 我が大陸のにおける聖王国の求心力は高まっていると云えよう。
  その意味では、魔族の領土はなにも制覇の必要はない。
 いや、制覇し、統治することによって聖王国が世界の中心から
 外れるとなれば、これは残すべきなのだ。
  本来、優先順位が高いのは南部連合の処理だった。
 しかし南部連合の処理をするためには、魔界を叩き
 教会の支持を強固にする必要があっただけのこと」
参謀軍師「教会、ですか」
聖王国将官「近頃の彼らの横車は目に余るものがあります」
王弟元帥「確かにな」
聖王国将官「元帥閣下はいかがお考えなのですか?」

562 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 20:13:22.19 ID:Oxb903Uo
王弟元帥「ふむ。……我ら聖王国、中央諸国、いや
 あの大陸全ての民は、光の精霊信仰のもと繋がっている。
 我らが集団的な能力を持っているのもそれによるところが大きい。
 今回の聖鍵遠征軍にしてからが、そうだ。
  マスケットの威力や、その修練速度、つまり農奴の兵としての
 コストの安さが戦場の様相を一変させたが、
 それも実は教会への信仰あってのこと。
 単一の教えがここまで根付いていなければ、
 国家を横断した“自由意志を装った徴兵”などという
 乱暴な手段は機能しなかっただろう。
  教会は必要不可欠で、我らの生活には欠くことが出来ぬ」
聖王国将官「教会は正義ですか……」
王弟元帥「正義? そんなものとは関係ない。石と同じさ」
聖王国将官「石?」
王弟元帥「路傍の石でも、皆で頭を下げれば崇拝の対象だ。
 磨けば光るだろうし、刻めば人の姿も取るだろう。
 そんな事はどこでも見られること。
 ……本質的なのは“期間”だよ」
参謀軍師「期間とは?」
王弟元帥「祈りの長さ、とでもいうかな。
 教会千数百年の歴史が教会に正当性と権威を与えているのだ。
 正義とは、表面的な戦闘力と事の帰趨を別にすれば
 正当性に過ぎない。
 では正当性の源泉はどこからもたらされる? と問うならば、
 それは“期間”だ。歴史と言い換えても良い。
 現在という視点に限れば、より古いものこそが正義と云える。
 教会の歴史は長い。長いからこそ、正当なのだ。
 そしてその正当を護ることが、
 我ら聖王国の利益と正当性にも繋がる。
  ……千年王国は理想郷への憧れではない。
 いつか正当性を手に掴むためのきわめて現実的な方針なのさ」

568 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 20:42:35.26 ID:Oxb903Uo
――魔界、南部、風強き荒れ地、勇者の天幕
夢魔鶫「昨晩夕刻に開門都市軍は都市防壁に撤収。
 しかしその被害は甚大で、3万に迫るとのこと」
勇者「3万……っ!?」
夢魔鶫「……」
勇者「半壊……か」
夢魔鶫「御意」
勇者(半壊、かよ。
 魔王……は、まだ人間界か。
 だとすれば、副官。紋様の長、火竜大公、鬼呼の姫さん。
 無事でいてくれ……。
 なんで俺はそこにいれないんだよっ。
 ……また。
 また同じかよ、爺さん。魔法使い。
 これで良いのかよ。俺は勇者なんだぞっ。
 勇者なのに人も救えないで、何が勇者だよっ)
ぎりぎりっ
夢魔鶫「主上」
勇者「……ん」
夢魔鶫「御身が傷つきます」
勇者「ん? ああ」
夢魔鶫「……」
勇者「戦場は、すさまじい有様だったろうな」
夢魔鶫「大地は血を吸い、ぬかるみに変わったと」
勇者「そう……か」
夢魔鶫「……」
勇者「転移も禁止、上級呪文以上は全部禁止。
 勇者剣技も禁止で、移動速度は馬の三倍まで……って。
 どんな罰ゲームだよ、魔法使いよぅ」

571 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 20:45:20.20 ID:Oxb903Uo
勇者「こんなのじゃ何も出来ないじゃねぇか。
 それで聖鍵遠征軍に入り込む意味なんてあるのかよっ。
 見てるだけなら木偶人形でも出来る。
 こんなになんにも出来ないで、無力で、みっともなくてっ。
 何が勇者だってんだよっ!!」
夢魔鶫「……」
勇者「ふざけんなよっ!」
 どんっ
夢魔鶫「恐れながら、主上」
勇者「なんだ」
夢魔鶫「ヒトは、人間も魔族も、みなそうです」
勇者「……?」
夢魔鶫「ヒトは主上のような魔法も戦闘力も、
 移動力も、無限に思える頑強さや活力も、持ちません。
 ヒトは今の主上よりさえも、数十倍も無力です」
勇者「あ……」
夢魔鶫「しかしヒトはけして木偶人形ではありません」
勇者「すまん。
 俺は……。
 ……心ないことを云った」
夢魔鶫「……」
勇者「引き続き、監視を頼む」
夢魔鶫「御身がために」
しゅんっ! ひゅばっ

579 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 21:05:24.98 ID:Oxb903Uo
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部
がやがや
  同盟職員娘「買いです。買い取ってくださいっ」
  同盟職員「良いから買いだ。手数料として色をつけても良い。
   ただし『同盟』の存在は気取られぬなっ」
  同盟職員娘「そうです、為替証の買い取りです」
  早馬番「早馬、三騎あきました」
  同盟職員「自由貿易都市に送り出せ、ばらばらにだ。
   『同盟』の商館に回状を回せ!」
  同盟職員娘「波頭の国の財務官に接触できました。
   このまま交渉を続行します」
青年商人「こちらはどうです?」
本部部長「徐々に浸透はしてきていますが」
青年商人「着火点の見切りが全てですね」
本部部長「この策、上手く行きますかね」
青年商人「“ひとは、真実であって欲しい。
 もしくは、真実であって欲しくないという理由で噂を信じる”。
 “二つの真実に、一つの嘘を混ぜよ。そうすれば、鴨は
 その餌を丸ごと飲み込む”」
本部部長「ふっ。『同盟』の格言ですな」
青年商人「……まず、湖畔修道会が天然痘の予防策を完成し
 これを理由に湖畔修道会に同調する自治都市が増え始めている。
 また、難民が天然痘を恐れて南部連合への流入している。
 これは、事実です」
本部部長「はい」

580 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 21:08:29.16 ID:Oxb903Uo
青年商人「第二に、来年の春小麦も豊作か不作かは別に
 戦地へ送るためにすでに高価な買い取りが開始されている。
 教会の税収士がその権利を押さえて、価格の高騰は避けられない。
 また、各地の教会では鉄の差し押さえが始まり、
 武器へと鋳直すために教会の鐘さえ次々と取り外されている。
 これも、事実です」
本部部長「そうですね」
青年商人「……そして、だから、そのために。
 実は聖光教会の財政は非常に切迫しており、
 もはや為替事業の破綻は目前である」
本部部長「……それが、嘘」
青年商人「嘘ですが、この嘘は“ただの嘘”ではないわけです」
同盟職員娘「へ? なんか違うんですか?」
青年商人「為替証とは、商人が教会にお金を預けて発行してもらう。
 手数料として1/10は払わねばなりませんけれどね。
 たとえば、金貨100枚をあずければ
 “金貨90枚を払ってもらえる為替証”を発行してもらえる。
 金は目減りしますが、この為替証は
 基本的にどの教会支部でも現金化出来るわけです。
 現金で取引をするリスクを減らすことが出来る。
  しかし、発行された為替証全てが
 即座に現金化されるわけではない。
 たとえば“金貨90枚を払ってもらえる為替証”は
 最終的には金貨90枚と同価値を持つわけですし、
 金貨を持ち運ぶよりも遙かに安全に持ち歩くことが出来る。
 ですから、商取引の中で金貨90枚が必要であり、
 為替を相手もしくは自分が持っているのであれば、
 この為替で支払ったり、もしくは代金として
 受け取る事もあり得ますよね?」
同盟職員娘「ええ、よくある光景ですね」

581 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 21:10:54.68 ID:Oxb903Uo
青年商人「つまり、この世界には“現金化されていない為替証”
 がかなりの数に上って存在するはずです。
 視点を変えれば、これは教会が商人たちから金を借りている、
 とも云えますよね?
 商人たちが一斉に為替の現金化を始めれば、
 教会は現金を支払う義務がある。
  もし、教会の財政が危険だと判ればどうします?」
同盟職員娘「あっ」
青年商人「そうです。手元の為替証を、現金化するでしょうね。
 本当に教会が危なかった場合、その為替証はゴミになってしまう
 可能性がある。その危機感と行動が、教会を真実追い詰める」
同盟職員娘「本当に教会は倒れるんですか?」
青年商人「まさか! 教会の財政がいくら逼迫しているとは言え、
 そこまで軟弱なわけがありませんよ。
 農民や国からの寄付、独自の税金、産業、
 免罪符などの商品を考えれば、
 教会はこの『同盟』と比べてさえ、莫大です。
 云うならば天文学的な資産を持っていると云える。
 この程度のことで転覆するなんてあり得ません。
  しかし、聖光教会が総体としては無尽蔵の資金が
 あったとしても、意味はありません」
本部部長「そうですね」
同盟職員娘「?」
同盟職員「すべての支部が無尽蔵に資金を持っている
 訳じゃないと云うことさ。忘れたのか?
 金貨を運ぶって云うのは、それはそれでリスクもあれば
 時間もかかる、手間もね。
 たとえば、聖王国の首都の教会にお金があったとしても、
 末端まで金が行き渡っているわけではない。
 それに気が付いたところで、事は手遅れだ」

590 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 21:38:41.04 ID:Oxb903Uo
――鉄の国、宮廷、大会議室
氷雪の女王「――以上のように、議論は出尽くしましたかな」
赤馬武王「そうだな」
葦の老王「うむ」
湖の女王「まことに」
梢の君主「同意しましょう」
自由都市の領主「とはいえ。ううむ……」
冬寂王「では、各々がたの思うところを述べて頂くとしよう。
 魔界へと向かった遠征軍は、総勢三十万。その兵力は強大無比。
 もちろん戦の勝敗は数のみよるとは云えないながらも、
 恐ろしい災厄として魔界は暴虐の嵐に巻き込まれていよう」
執事「さようですなぁ」
商人子弟「……」ちらっ
軍人師弟「……」
赤馬武王「だがしかし、我らが行ったところで何が出来るか」
梢の君主「そもそも、今は停戦し平和条約が結ばれたとは言え
 それは防衛条約でもなければ共同戦線を約した物でもない。
 我らが何らかの援助をしなければならないという
 根拠は何一つ無いのです」
湖の女王「それはその通りでしょう」
自由都市の領主「しかし、魔界との条約により、
 明らかに通商の活性化が為されたことはすでに報告差し上げた」
氷雪の女王「無視できませんね」
梢の君主「そもそもその報告自体の真実性に疑問がある」

591 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 21:39:57.24 ID:Oxb903Uo
自由都市の領主「聞き捨てなりませんな。
 我ら自由都市の統計と調査が信用できないとっ!?」
梢の君主「そうは云っていない。
 しかし、その交易の税の増加が
 他の要因に端を発するものではないと何故云えるのか?
 たしかに税の増収と魔界との通商開始時期はかさなっている。
 それは我が国でも確認された。
 しかし、同時期に聖鍵遠征軍が黄泉の準備を行なっていたことも
 確かなのだ。この税収の上昇、すなわち商業の活性化は
 戦争の影響によるものだという推測も十分に成り立つ」
自由都市の領主「それはっ……」
葦の老王「うーむ。戦争により、商いが活性化するとは……。
 古来よりもよく言われるところ。梢の君主の説にも
 説得力がありますな……」
湖の女王「……」
商人子弟「王よ」こくり
冬寂王「ふむ。我が国の財務長からの報告があるそうだ」
氷雪の女王「ふむ」
商人子弟「各国の代表者の方々に、財務、商業の専門家の
 立場から申し上げられることは
 それは“戦争により経済が活性化する”という言葉の欺瞞性です。
 大局的に云って、そのような事象は存在しません」
赤馬武王「まさか? 実際古来より云われてきたことではないか」
葦の老王「何を言い出すのだ」

593 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/07(水) 21:43:38.74 ID:Oxb903Uo
商人子弟「もちろん、限定的、かつ局所的にそのような
 事象は発生します。しかし、冷静に考えてください。
 戦争はありとあらゆる物資を必要とします。
 食料や武器、衣類や、防寒具、移動のための様々な乗り物
 燃料、生活消耗品、そして今回のマスケットの登場で
 弾薬までもが消費されるようになりました。
 マスケットの銃弾は鉄です。
 鋳造には鉄鉱石とその二倍の木炭を必要とする。
 我がほうの試算によれば、この銃弾2発で金貨1枚の計算です」
梢の君主「だからこそ、商業が活性化するのではないか。
 それだけの物資を必要とするならば、供給せねばならない」
商人子弟「ですからそれは限定的な解なのです。
 大局的に見れば、これらの社会財を消耗しながら
 戦争は新たなどういう富を作り出しますか?
 例えば4頭の豚を買ってくれば、翌年には8頭になる。
 それが富が増えると云うことでしょう。
 あるいは、5人で小麦を作った結果、10人が養える。
 そう言ったことでも良い。
  それらと比べた時、戦争が本当に富を生み出すと思えますか?
 そのようなことはあり得ない。
  戦争によって豚が殺される。死んだ豚が子を産みますか?
 兵によって畑が焼かれる。焼け野原が小麦を実らせますか?
 戦争は巨大な消費である一方、富を生み出すための
 施設や機能の破壊でもあるのです。
 で、ある以上、戦争が総体として富を生み出すなどと
 云うことはない。それどころか巨大な浪費と云えるでしょう。
  同じだけの投資を、例えば開墾や牧畜の振興に回したら
 どれほどの未来が約束されるかを考えればそれは明らかです。
  戦争によって、かろうじてあると云えるのは、
 局所的な富の移動だけです」
氷雪の女王「それは例えば、どのようなことなのです?」