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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part89


349 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 20:18:16.53 ID:bGZgmCoP
――火焔山脈、その麓
ヒヒィーン、ブルブルブル
生き残り傭兵「どう、どう」
ちび助傭兵「どうだった」
傭兵弓士「うん、この先がどうやら火焔山脈だな。
 山門には“焔璃天”と書かれていた。
 この山道の先が火竜一族の城と云うことで間違いないらしい」
メイド姉「助かりましたね。比較的あっさり見つかって」
傭兵弓士「いいや、問題はここからだろう。
 山門には衛兵が詰めていたが、どれも一騎当千といった印象で、
 微塵の油断もなかったぞ。数十の手勢で突破できるような
 場所じゃない」
ちび助傭兵「まさか! そんなあほな!
 突破なんてしていたら命がいくつあっても足りない」
傭兵弓士「どうするんだ?」
メイド姉「ここに限ってはどうにかなる策があるんですが」
生き残り傭兵「ふむ。いけそうなのか?」
メイド姉「おそらく」
生き残り傭兵「聞こうじゃないか」
メイド姉「いえ、聞かせるような策でもないんですけれど……」
生き残り傭兵「?」

351 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 20:20:47.94 ID:bGZgmCoP
――火焔山脈、山門
竜族衛士「止まれっ!」
竜族衛士「汝ら、何者だ! 名を名乗れっ」
メイド姉「あー。こほん。わたしだ」
竜族衛士「まっ!? 魔王様っ!!」
竜族衛士「なんだって!?」
竜族衛士「間違いない。魔王様だ。
 俺は忽鄰塔でお目にかかっているんだっ」
  傭兵弓士「魔王って云ってるよ。本当に魔王に化けられるのか」
  生き残り傭兵「ちょ……。あの姿、なんだってんだ」
  ちび助傭兵「魔法使いだったのか!? 代行はよっ」
  若造傭兵「驚かない。俺は何が起きても驚かない」
メイド姉「火竜大公に取り次いでくれないか。
 内密、かつ急ぎの用件だと云って貰えば良い」
竜族衛士「しかし、この人間達は……?」
メイド姉「彼らは人間界から一緒に旅をしてきたわたしの護衛だ。
 出来れば別館で馬の世話を見てもらえぬか。
 長旅で蹄鉄などがすり減っているやも知れぬからな。
 我らの旅は、これからも長い。
 ねぎらってやってくれると助かる」
竜族衛士「はっ。判りましたっ。
 おい、至急大公に取り次ぐんだ。
 それから、おつきの方々は衛士宮にお望みの施設がありますゆえ」
メイド姉「頼む」
生き残り傭兵「良いんですかい、お嬢……魔王どの」
メイド姉「“心配ない”」
竜族衛士「では、おつきの方々はこちらへ」
メイド姉「話し合いで片がつく。で、無ければあがいても意味はない」

357 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 20:31:46.34 ID:bGZgmCoP
――火焔山脈、紅玉神殿、応接室
竜族衛士「こちらでございます」
メイド姉「ありがとう」
竜族衛士「大公様! 火竜大公様! 魔王様をお連れしました」
  火竜大公「入って下され」
メイド姉「ここからは内密の話だ。下がっていてくれ」
竜族衛士「はっ。承知しました」
がちゃり
メイド姉「……ふぅ」
火竜大公「ぬ」ぼうっ
メイド姉「お初にお目にかかります」ぺこり
火竜大公「お前は何者だ? その姿は確かに魔王殿だが
 人間の匂いがするな……」
メイド姉「はい。人間です。わたしはメイド姉と申します」
 きらきらきら……
火竜大公「幻術の指輪か……」
メイド姉「はい」ひゅるんっ
火竜大公「ここに忍び込んだのは、どのような用件だ」
メイド姉「まずは、このように訪れたことをお詫びいたします」ぺこり
火竜大公「ふんっ」
メイド姉「……あまり驚かれないし、お怒りになられないのですね」
火竜大公「この数年で無礼な闖入者には馴れたわ。
 勇者を皮切りにどいつもこいつも人間と来ておる」ぼうっ

359 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 20:34:56.01 ID:bGZgmCoP
メイド姉「申し訳ありません」
火竜大公「その礼の尽くしかたは、メイド長に学んだか」
メイド姉「はい。わたしの先生です」
火竜大公「そうか」
メイド姉「わたしはメイド長さまと魔王様に学びました。
 生徒、と云うか師弟……のようなものですね。
 もっともわたしは正規のそれではなくて、
 魔王様のお世話をさせて頂きながら、
 聞きかじりをしたに過ぎないのですが……」
火竜大公「ふむ」
メイド姉「と、言っておいて申し訳ないのですが、
 今回伺わせて頂いたのは魔王様の命令や伝言、あるいは
 書状を携えて参ったわけではありません。
 現在わたしは魔王様のもとを離れて活動しています」
火竜大公「誰か、もしくは何らかの組織の指示を受けているのか?」
メイド姉「いえ。わたしの意志です」
火竜大公「ならばよかろう。ふはは」ぼうっ
メイド姉「?」
火竜大公「腐ってもこの火竜大公。魔界の大氏族、四竜が長。
 使いごときと問答する口は持ち合わせぬ」
メイド姉「ありがとうございます」
火竜大公「礼には及ばぬ。気に入らぬ事をさえずるならば
 そのそっ首を食いちぎれば済むだけゆえ
 話をさせているに過ぎぬ。
 魔王の姿まで借りてここに来た用件を言うが良い」
メイド姉「竜族に伝わる宝をお借りしに参りました。
 いえ、返せない可能性もあるので、
 お譲り頂けると嬉しいのですが……」
火竜大公「何が望みだ? “ふぶきのつるぎ”か?
 それとも“女神の指輪”か?」
メイド姉「“ひかりのたま”です」
火竜大公「っ!?」

362 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 20:58:36.65 ID:bGZgmCoP
火竜大公「何故その名を人間であるお前が口にするっ」
メイド姉「……」
火竜大公「答えよ。それは我が竜族の秘事に関することぞっ。
 なんとなれば、それこそは我らが竜族永遠の宝。
 魔王との最初の契約にまで遡る、伝承の礎。
  我ら竜族が何故魔族の中でもっとも古く、
 もっとも偉大でもあり、最も高く重要な位置を占めているのか。
 それは、“ひかりのたま”が伝えられているからなのだ。
  伝説は伝える。
 “ひかりのたま”を失った我らが一族の王が
 如何にして狂い、歪んだかを。
 如何にして死んだかを。
 その宝を貸す事さえ慮外であるのに、
 与えて欲しいとは何を言うっ」 ごぉぉっ
メイド姉「それでもお願いします」
火竜大公「答えよ、何故その名を知るっ!? 人間」
メイド姉「……夢で見ました」
火竜大公「夢で?」
メイド姉「おそらく」
火竜大公「雲を掴むような話ではないか」
メイド姉「遙か時の彼方、古の昔……」火竜大公「――」
メイド姉「精霊に五つの氏族有り。後の世に云う五大家。
 全ての魔族は祖先を辿れば、精霊に行き着くと云いますね。
 精霊は争いのない理想郷に住む祝福された存在でした。
 何故それが魔族としてこの地へおりることになったか。
 それは五大家の一つ、土の家に汚れしものが生まれ、
 炎のカリクティス家との激しい争いを行なったから。
 その憎しみは精霊の世界を汚染して、
 世界は叩きつけられた水晶球のように無数の破片に砕けた」

363 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 20:59:28.93 ID:bGZgmCoP
メイド姉「炎の宗家に生まれた一人の娘は、
 その命を、哀れな民を救うことに捧げ、天に召されます。
 彼女は光の精霊になることによって精霊の民の生き残りを救い、
 世界には人々という種子がまかれた。
  “ひかりのたま”は彼女の残した贈り物の一つ。
 でも、なぜ?
  なぜ彼女は人間の世界で信仰を集め、
 この魔界では知られていないのでしょう?
  それなのに何故、地上の教会にも魔界と同じ物語の
 痕跡が残っているのでしょう?
  あの人はあの青い海の中でそれを教えてくれた。
 わたしは人間として最初からそれを知っていた。
  わたしたち人間は、理想郷を滅ぼした土の氏族の末裔だから。
 そして魔族は光の精霊が救おうとした、理想郷の末裔だから。
  あなたたちの先祖は彼女が神ではない事を知っていた。
 彼女は勇気はあったけれど全能とはほど遠い存在だと
 知っていた……。
 ただ人々の救済を願った一人のか弱い精霊だと知っていたから。
 だから魔族は彼女を崇めなかった。
 ただ尽きせぬ感謝を込めて伝説へと……物語へと残した
  わたし達の先祖は耐えられなかった。
 自分たちがあんなにも胸焦がすほど愛していた理想郷を
 打ち砕く切っ掛けになってしまったことにも耐えられなかった。
 そしてそれを全能でも全知でもない一人の少女が
 命を捨てることによって救ったことにも耐えられなかったから。
 だから彼女を神としてまつることしかできなかった。
  しかし時は流れ、わたし達は長い旅路の果てに起源を忘れる。
 雪にふりこめられ自分の足跡を見失うように。
 後悔と贖罪の気持ちは同じだったはずなのに、
 耐えられなかった痛みを忘れ、永久の感謝を忘れる。
  誰も悪いわけではないけれど
 何を間違えたわけでもないけれど
 それでも道を違えた地上と地下は、遠く遠くすれ違う」

365 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 21:01:05.33 ID:bGZgmCoP
火竜大公「そのような話聞いたこともないっ」
メイド姉「はい」
火竜大公「お前は詩人の絵空事を信じよと云うのか」
メイド姉「出来れば。でも、信じて頂きたいのは
 “ひかりのたま”を貸して頂きたいからではありません」
火竜大公「ではなぜだ?」
メイド姉「一人の胸に納めるには悲しいお話ですから」
火竜大公「お前は怖くはないのか、命が惜しくはないのかっ」
メイド姉「怖いです。恐ろしいです。
 ……わたしは貧しい生まれです。死が首筋を撫でるのを
 感じたことが何回もあります。雪の夜に膝を抱え、
 夜が明けるまでわたしは生きられるだろうかと
 何万回も問う夜を過ごしたこともあります。
 ……でも、それでも、死よりも恐ろしいものがある」
火竜大公「それはなんだ」
メイド姉「死よりももっとひどいこと。です。
 何もしなければ、わたしの大事な人も大事な場所も
 大事な思い出さえも砕かれ、踏みにじられ、虚無に沈む。
 その確信があるから。いまは怯えている暇は、ありません」
火竜大公「それゆえ、竜の宝を欲すると?」
メイド姉「……“ひかりのたま”は
 彼女の残した思いでだとわたしは思います。
 竜の氏族に託された宝物ではあるけれど、
 同時にそれは、ありてあるものの一つに過ぎません。
 永遠ではないものです。
  本当はご存じのはずです。
 永遠でないものは、永遠ではないんです。
 それを用いて何を為すかを試されるために
 あらかじめ与えられた物。
  ですから、それをお与え下さい。わたしが使うために。
 地上のみんなに思い出して貰うためには
 “ひかりのたま”が必要だと思うんです。
 みんなが“自分の分”の血を流すために」

366 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 21:02:41.45 ID:bGZgmCoP
火竜大公「……汝の言葉は、あるいは正しいやもしれぬ」
メイド姉「……」
火竜大公「しかし、汝が汝の言葉の正しさを
 貫くだけの力があるかどうかどうして我に判ろうっ。
 ここは竜の領域、われは竜族の束ね、火竜大公。
 歴史ある氏族を司る者として
 汝を信用するわけには行かぬ。
 魔族として汝は何ら証を立ててはいないのだ」
メイド姉「……ですがっ」
火竜大公「今や魔界へと人間の軍が侵略の手を伸ばしてきた
 汝もそれは知るであろう?」
メイド姉「はい」
火竜大公「その細腕で、平和を望むのか?」
メイド姉「はい」
火竜大公「どいつもこいつも、途方もない夢を語る」
メイド姉「この胸に芽生えた声なき声のせいです」
火竜大公「では、証明して見せろ」
メイド姉「証明……?」
火竜大公「あの軍勢のどれだけでもよい。
 汝が退かせて見せよ。
  我ら魔族は、行動を持ってそのものの勇を見定め
 信おけるかどうかを判断する。
  その一事を持って、汝が宝玉を持つ資格ある者と認めよう。
 欲に駆られて血走り濁った瞳を持つ餓狼の群。
 その前に一人立ちはだかり、何が出来る?
  女に身である汝には無理だ。諦めるが良い」

367 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 21:04:25.31 ID:bGZgmCoP
メイド姉「やりましょう」
火竜大公「ふんっ!! 汝が死んでも
 我のあずかり知るところではないっ。
 強がりを言うたとて意味はないぞ」
メイド姉「証明を終えて、もう一度お伺いします」
火竜大公「我は一切の兵は貸さぬ。汝が汝の持つ力と仲間とやら
 その力だけを持って、一軍を退かせるのだ」
メイド姉「お心遣いに感謝します」
火竜大公「……」ぎろりっ
メイド姉「“退かせろ”とおっしゃってくれたことに。
 “殺せ”であったならば、わたしはもし仮にそれに成功しても
 その後みんなに語るべき言葉を失ってしまうところでした」
火竜大公「そのよう寝言は、条件を果たしてから云うが良い」
メイド姉「はい」にこり
火竜大公「なぜ笑える」
メイド姉「それが先生の教えですから」
火竜大公「お前のような娘と話すと目がくらむ。
 魔王殿も、良く飽きもせずこのような知己や仲間を
 次々と作りなさるか。この老骨、もはや目の回る思いよ」
メイド姉「もう一人の師匠は云っていました。
 “弱気が兆してきたらそれ以上考えるのはやめることだ。
 確かに頭は弱くなるかも知れないが、
 大抵はそれで上手く行く”と。
 わたしのこの胸には宝物が溢れています。
 その輝きを曇らせないために、この足を止めるわけには参りません」

379 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 21:43:19.16 ID:bGZgmCoP
――開門都市、南門近く、臨時兵舎大会議室
副官「現在聖鍵遠征軍はこの開門都市から12里の地点におり
 早ければ明後日にでも襲いかかってくるかと思われます。
 あまりにも膨大な量の軍なのでしかとした把握は出来ませんが
 20万に迫る軍を抱えております」
鬼呼の姫巫女「20万……」
鬼呼執政「改めて聞くと気が遠くなりますな」
獣人軍人「しかし、幾つかの斥候の報告では、
 隊を二分する動きもあるなどとありますが、
 あまりにも膨大、その宿営地の大きさもともすれば
 この都市に匹敵するほどのサイズになり把握しがたいようです」
紋様の長「しかし、手をこまねくわけにも行かないだろう」
鬼呼の姫巫女「そうだの」
副官「……申し訳ありません。長がた」
鬼呼の姫巫女「この開門都市は魔界の至宝。礼を言うに及ばぬ」
紋様の長「この都市が攻略されれば、後は川沿いの
 交易都市をいくつか落とすだけで、人魔の領土は蹂躙されよう。
 これは我らが我らを護るための戦いでもある」
文官「ただいま、竜族の重装甲部隊到着いたしましたっ」
副官「判った。休んでいただけっ」
鬼呼の姫巫女「しかし、かき集めたとは言え……」
紋様の長「我らは総数6万に過ぎぬな」
副官「族長不在の今、これだけの獣人の一族が参戦してくれるとは
 思ってもいませんでしたが、それでも数の上ではまだ圧倒的に
 及びません」

381 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 21:44:23.21 ID:bGZgmCoP
鬼呼の姫巫女「もはや云っても仕方ないだろう。
 少なくとも我らには豊富な糧食と地の利がある」
鬼呼執政「そうですな」
紋様の長「やはり、討って出るべきだろうな」
副官「ふむ……」
鬼呼の姫巫女「で、あろう。
 この都市に新しい防壁が完成しかけておるとは聞いておるが、
 一度も実戦に用いたことがない防壁を
 どこまで信じて良いかは判らぬ。
 それに報告によれば、人間の遠征軍の大半は正規の軍人ではない。
 特に緒戦においては士気に乱れがあるだろう。
 そこをつき、野戦にて出来るだけの数をそぐ」
紋様の長「紋様一族から魔術に秀でた者を集め、
 魔術部隊を編制しました。
 人間界の者は魔術に対する防御がお粗末なのは
 前回の戦役で証明済みです。
 その弱点を突き、混乱させて、数を減らす」
副官「それしかありませんか……」
鬼呼の姫巫女「副官殿の気持ちも判らないではないが
 これだけの数ともなると、手加減することは出来ぬ」
鬼呼執政「いえ、これだけの手段を講じてさえ、
 結果どうなるかは請け合えぬのです。
 我らはマスケットなる新武器の威力を知っているわけでは
 無いのですから……」
獣人軍人 こくり
紋様の長「布陣については如何様に考える?」
副官「そうですね……」

383 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 21:46:35.39 ID:bGZgmCoP
副官「ここに、私たちが以前使っていた東の砦があります。
 砦の内側に隠れるというわけには行きませんが
 この周辺の地形は護るに易く、幾つかの塹壕も掘ってあります。
 砦を中核として伏兵を配します。
 人魔族およびその魔術部隊にお願いをしたいと考えます」
紋様の長「ふむ」
副官「一方、この南大門から出陣した本隊は、
 中央部を鬼呼の軍にまかせ、右翼を獣人の一族、
 左翼を竜族、人間、巨人族などの混成軍とします。
 都市から1里半ほどの地点に布陣を行ない、
 敵の突進を柔らかく受け止める」
鬼呼の姫巫女「柔らかく?」
副官「中央部を後退させるようにです。
 今回の敵の弱点は、部隊としてはあまりにも多数過ぎることです。
 指揮も行き届きませんし、
 必ずやその兵の質にはばらつきがあります。
 そのように受け止めれば、敵の軍は中央部が突出し
 長く伸びるでしょう。
  そこを魔術部隊で最前線の公武に後部を仕掛け、混乱を誘います。
 敵の伸びきった最前部を“噛みちぎる”。
 この方法で敵の数を減らしましょう。
 もし何らかのトラブルが発生した場合や、
 敵の勢力が大きかった場合は後退して城門の中に入る。
  獣人軍人さん」
獣人軍人「はっ」
副官「市の防衛部隊を中心に民間人からも義勇兵を募り、
 義勇軍を組織して下さい。もし撤退する場合は防壁からの
 援護射撃も必要になる。
 義勇兵を前線に出すのは馬鹿げていますしね」
獣人軍人「了解」

385 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 21:47:27.63 ID:bGZgmCoP
副官「このような形でどうでしょう?」
鬼呼執政「何とかなりそうですな」
紋様の長「ええ、一万ほども噛みちぎれば、
 人間の遠征軍も頭が冷えるでしょう」
鬼呼の姫巫女「事はそこまで簡単に行くか、どうか」
獣人軍人「……」
紋様の長「だが、退く道はない」
副官「はい」
鬼呼の姫巫女「うむ」
副官「決戦はおそらく、明後日になるでしょう。
 今このときも魔界の各地に伝令が走り回っているはずです。
 人間界へと渡っている魔王殿も、銀虎公も
 それにあの生き汚いうちの大将も、
 手をこまねいているわけがない」
鬼呼の姫巫女「そうだの」
紋様の長 こくり
副官「今は目の前の戦いを生き延びることを考えましょう」
鬼呼の姫巫女「任せるが良い」
紋様の長「開門都市は、鬼呼と人魔の氏族が護ろう」

395 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 22:22:27.36 ID:bGZgmCoP
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部
がやがや
同盟職員「調査はほぼ終了しました」
青年商人「どうですか?」
同盟職員「やはり、全域をカバーするのは到底不可能ですね。
 こっちに図を作ってみたんですが……。
 主要な隊商道や航路の3割くらいをなんとか、と云うところです」
同盟職員娘「やはり聖光教会の寺院の数は桁外れですね」
本部部長「我らの商館の全てに銀行を作ったとしても、
 その数の開きは十倍では効かないな」
青年商人「数の違いはこの際度外視しましょう。
 こちらの銀行同士で、仮に為替取引を行ない始めた場合
 構成できるラインはどれくらいになりますか?」
同盟職員「えー。38ルートですね」
青年商人「やはり主要な交易路に集中していますね」
同盟職員「もともと『同盟』の商館は主要な交易都市や
 物資の資源国に集中しているわけですから、
 その商館同士をラインでつなげば、主要な交易路と
 重なるのは当たり前なんですけれどね」
青年商人「問題は、このルートのシェア、
 つまり為替取引の全てをこちら側に奪えたならば、
 教会にどれだけのダメージを与えられるか、です」
同盟職員「……うーむ」
青年商人「どうですか? 本部長」

397 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/06(火) 22:24:48.44 ID:bGZgmCoP
本部部長「本当に概算にしかなりませんが、
 我ら『同盟』の年間の利益のうち、
 これらの主要な交易路からあがるものは15%ほどでしょうね。
 しかし、それ以外の交易ルートも、これら主要な交易ルートに
 ぶら下がっていると云う可能性は大いにあり得る」
同盟職員娘「ぶら下がっているとは?」
同盟職員「たとえば麦で云えば、
 交易都市から、海辺の領地を通って村に至るルート。
 ……こんな感じだな。
 この地方ルートは主要交易路とは関係がない。
 今回の為替網を作るという企画とも無関係だけれど
 そもそもこの関係ないルートの起点にある交易都市は
 主要なルートに含まれているだろう?
 で、あれば、この小麦は、主要交易ルートを通って
 どこか別の場所から運ばれてきた小麦である可能性も
 あるって事だ。
 主要じゃない末端の交易ルートも、こういった形で
 主要ルートの恩恵を受けている可能性は十二分にある」
同盟職員娘「なるほど……」
本部部長「そう言ったことを考え合わせると、
 教会が得ている為替による利益全体のなかで、
 これら38ルートの利益はおおよそ20〜30%に
 なるのではないかと推測されますな」
青年商人「30%か……それでは、この38ルート全てを
 得たとしても買ったとは言いきれませんね」
本部部長「どれほど必要ですか?」
青年商人「泥仕合を避けたいのならば、60%」
本部部長「ふむ……」
同盟職員「うーん」
青年商人「どうしました?」