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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part87


124 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 18:25:21.70 ID:O8aL4rAP
王弟元帥「それはそうだ。勇者の戦闘能力は脅威だしな」
参謀軍師「それに話を信じるのならば、
 魔王もまた健在と云うことでしょう。
 勇者の傷が癒えて魔王の傷だけが癒えぬと考えるのは
 都合の良い考えですから」
聖王国将官「そうですね」
王弟元帥「対魔王のためにも、勇者は飼っておく必要がある」
参謀軍師 こくり
聖王国将官「しかし、あれだけの脅威は危険ではありませんか」
王弟元帥「居所のわからぬ脅威よりは判る脅威のほうが
 まだ対処のしようがあるというものだ。
 そのためにも手元に置いておいた方が良いだろう。
 しばらくはわたしが勇者の相手をしよう。
 ふふっ。わたしと同じく、あれもまだ若い男に過ぎない。
 人はそこまでおのれ自身から自由になることは出来ぬ。
 いずれ何らかの尻尾を出すだろうさ」
参謀軍師「そう仰られるのであれば、私からは何も」
聖王国将官「ええ、王弟閣下の御心のままに」
王弟元帥「あと数日もあれば極大陸に到着する。
 そのあとは雪中行軍になるだろう。
 船の座礁などがないように十分な警戒を呼びかけろ」
参謀軍師「はっ、承知いたしました」
王弟元帥(勇者、か。……確かに得体が知れないが
 強力なカードが手に入ったものだ。
 このカード、使い方によっては民衆の信仰を一手に引き受ける
 教会に匹敵するほどの影響力さえ持つやも知れぬ。
 大主教、それがお解りか? ふふふふっ)

135 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 19:41:08.48 ID:O8aL4rAP
――開門都市、九つの丘、防壁建築現場
土木師弟「じゃぁ、説明したとおりだ。
 今日から北側の防壁にかかる。
 チーム制でかかるので頑張ってくれ」
蒼魔族中年作業員「判りました。配置につけ」
蒼魔族作業員「「「「はい」」」」 ざっざっざっ
ざわざわ
中年商人「どうだい調子は?」
土木師弟「商人さん。随分進んでましたよ。作業は加速しています」
中年商人「やっぱり予算かい?」
土木師弟「予算が付いたのは有り難いですね。
 作業員に給料が払えます。日当で払えると進みますね」
ざっざっ
火竜公女「そうかそうか。弁舌を振るった甲斐があった」
副官「そうですね、これはいずれ必要になる物ですから」
土木師弟「お姫さま」
中年商人「姫さんも来てたのか」
火竜公女「姫はよして欲しいと云っておりましょう」
副官「ははははっ」
土木師弟「それにしても、こんなに予算を
 つけて貰っても良いんですか?」
副官「ええ、かまいませんよ。
 この防壁作成で人が集まっていますからね。
 彼らが食料を買ったり、生活すれば物資もどんどんと
 運び込まれて、それだけ税収も上がる計算です」

136 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 19:42:29.76 ID:O8aL4rAP
土木師弟「そういうものなのか?」
中年商人「まぁ、自治委員会と俺たちでは立場が違う」
副官「自治委員は商人ではないですからね。
 儲けなくても良いんですよ。逆に大もうけするとまずいです」
土木師弟「ふむ……」
火竜公女「それよりも、あれに見えるは蒼魔族かや?」
土木師弟「ええ。今週から参加しているんですよ。
 300人ほどです。氏族会議の紹介状でやってきましてね」
副官「どうですか?」
土木師弟「働き者ですね。規律正しいかなぁ。
 集団で何かをすると云うことに非常に馴れているし、
 簡単な指示でも勝手に手順を決めてこなしますよね」
中年商人「ふーむ」
副官「ああ、やっぱりねぇ」
土木師弟「でも、その反面、やはりプライドは高いですよ。
 昔から云いますからね。蒼魔族の誇りの高さは雪豹山脈を
 越えるほど、って。他の種族の人には負けたくないって
 思ってるみたいですね。ま、来週からはその辺も加味して
 ばらして混ぜて作業かな、なんて思うんですが」
中年商人「現場監督ってのも難しいんだな」
土木師弟「まったくですよ。
 一介の設計士には荷が重いって云うのに」
火竜公女「それも修行ゆえ、頑張ってください」ころころっ
副官「早いところ大将が帰ってきてくれれば良いんですけどねぇ」

137 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 19:44:06.02 ID:O8aL4rAP
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部
がやがや
同盟職員「速報が入りました。遠征軍、白夜王国を進発!
 目標極大陸、魔界侵攻。採集へ委員数、24万。総数33万。
 大型船1000隻以上の大船団です」
本部部長「動きましたな」
青年商人「こちらは?」
同盟職員娘「大陸中央部に流通する木炭の価格は前年比320%
 流通量の70%に何らかの影響を行使できています。
 鉄鉱石が多少ふえています」
本部部長「情報が入っています。
 どうやら秘密工房の会計は、木炭を購入する資金を目当てに
 手元に置いていた鉄鉱石の一部を売りに出したようですな」
青年商人「買いたたいてしまって下さい」
本部部長「同じくこれは娼館経由の情報ですが、
 秘密工房および、銅の国の鉄工ギルドは王弟閣下の名前を使って
 夫君の国から木炭を供出させるように、嘆願書を送ったようです」
青年商人「嘆願書、ですか」
本部部長「体裁は嘆願書ですが、内容はかなり威圧的で
 実際問題としては要求書に近いものと思われます」
青年商人「手紙を書きましょう。……そうですね、これは。
 湖の国へ直接で構わないでしょう。
 同じく冬の国の商人子弟殿にも出します。
 片棒を担いで貰いますよ」

138 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 19:45:36.28 ID:O8aL4rAP
同盟職員「どうするんですか?」
青年商人「梢の国も湖の国も、もはや南部連合の一員でしょう。
 銅の国ごときの命令を受ける立場にはないはず。
 銅の国の工房に物資を送り込むためには、
 湖の国の湖上輸送を利用せざるを得ません。
  湖を渡る木炭輸送船に関税をかけてもらいます。
 冬の国では防御に用いられた策ですが、
 それが攻撃に用いられるとどうなるか、
 まだ中央の国々は知らなすぎる。
  関税をとりあえず、木炭馬車一台あたり金貨60枚あたりから
 始めましょうか」
同盟職員「60枚!? 木炭そのものよりも高額ですよ!」
青年商人「まだ買わないという選択があります。
 欲しくないのなら買わなければなんの問題もありません。
 輸送連絡路を押さえていないという意味がそれなんですからね」
同盟職員「了解っ」
本部部長「この後の動きですが、どうしますか」
青年商人「……」
本部部長「……」
青年商人「『同盟』で銀行が現在設置されている都市の数は?」
同盟職員娘「64です」
青年商人「南部連合を中心に増やしたとして、100前後ですか」
本部部長「何をお考えですか?」
青年商人「聖光教会の力の根源は数です」

139 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 19:47:50.33 ID:O8aL4rAP
同盟職員「信者のですか?」
青年商人「それもありますが、支部の数も大きい。
 支部というのはただの出先機関ではありますが、
 一定の数を越えることで、単体として以上の機能を持ち始める。
 あれは、網状機構です」
同盟職員「よく判りません」
青年商人「つまり、4つの教会寺院は、
 4つの建築物という以上の存在になるわけですね。
 実際のところ、1つの教会寺院よりも
 5倍か6倍の意味合いを持っている」
同盟職員「……ふむ」
青年商人「そのもっとも顕著な例が『為替』です」
本部部長「まさか、為替に手を出すおつもりですか!?」
青年商人「はい」
本部部長「それはリスクが大きすぎるのでは……」
青年商人「承知の上です」
同盟職員「リスクって?」
本部部長「……知っての通り、為替というのは、遠隔地に
 金を送るための機構の一種だ。
 現金を直接送る場合、気候の変動や、盗賊、事故などの
 リスクが存在する。金貨を積んだ馬車ほど野盗のよだれが垂れる
 得物は有りはしない。わが『同盟』でもどれだけの金が
 輸送商談の護衛費に払われているか考えてみれば良い。
 多量の金貨は馬車数台分になることすらある」
同盟職員娘「はい」
本部部長「為替の応用は様々にあるが、たとえばある都市で
 金貨100枚を証書に変える。別の街でその証書を金貨100枚に
 戻すことが出来る。……実際には税がひかれるが、
 これが為替だ。これを実行するためには、別の都市の間に
 同じ組織の支部があり、それなりの資金力を持っていて 信用がないと成立しない。
 ――そして現在それが可能なのは、小さな領土内以外では
 聖光教団だけだと云える」

140 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 19:49:49.79 ID:O8aL4rAP
青年商人「聖光教会はこの為替機構を用いて
 莫大な利益を上げています。
 それが教会の力の源泉の一つとなっている」
同盟職員「1/10税ですね?」
青年商人「そうです。為替を売買する場合、
 税として1/10が教会の懐に入る。
 確かに遠距離を護送するに当たって多量の
 傭兵を雇うよりは安くつきますが、
 それでも決して小さな金額ではない」
同盟職員娘「わたし達『同盟』はそれを嫌って
 独自の銀行組織を立ち上げるに至ったのだと理解していました」
本部部長「確かにその側面はある」
青年商人「為替業務は本来銀行の職分だとわたしは考えています。
 教会が主張するように税収の代行業務のオマケではないと
 思っていますからね」
本部部長「しかし、聖光教会の支部の数は莫大で
 これと正面からぶつかれば、いままで様々な商人や
 社会動静を隠れ蓑に使ってきたわたし達の存在が
 注目を集めることにもなりかねません」
青年商人「最大限配慮しましょう。
 しかし、考えても見て下さい。
 いま、この大陸は政治的にも軍事的にも文化的にも
 動乱のまっただ中にあり、
 様々な勢力が虎視眈々とおのれの領域を
 拡張するチャンスをうかがっている。
 そのなかで、聖光教会は指導者たる大主教がゲーム盤を
 離れているのですよ?
 礼節の問題としてすら、この勝負には激突の価値があります」
本部部長「勝機は?」
青年商人「もちろん」にやり「ありますよ」

195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 22:44:50.20 ID:O8aL4rAP
――魔界(地下世界)辺境部、赤の荒野
勇者「でやっ!」
ボンッ!!
光の兵士「す、すげぇ!!」
光の銃兵「鉄みたいな皮膚の犀の魔物を、一撃で!」
荷運びの作業員「ありがとうございました!」
勇者「なんのなんの。ここいらでは、あの種の魔物が多いのだ。
 歌いながら歩いた方がいいぞ。変に静かに進むより、むこうが
 さけてくれるし」
光の兵士「そうなのか?」
光の銃兵「勇者様、ありがとうございます」
勇者「はっはっは。しばらく一緒に行くぜ」
娼婦のお姉さん「勇者様ぁん♪ かわいい」
勇者「そっ、そういうことは、夜になってからですっ。
 えっちなのはいけないことだと思いますっ」
娼婦のお姉さん「ふふふっ。助けてもらったもの、
 サービスするわよん♪」
    従軍司祭「……」じぃっ
光の兵士「流石勇者様! おもてになる!」
勇者「はっはっは。ボクはそんな欲望のために戦っている
 わけじゃナいのだヨ。世界の平和のためサ」
荷運びの作業員「はっはっはっは!
 勇者様、無駄にハンサム顔になってるぞ、まったく!」

198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 22:46:30.01 ID:O8aL4rAP
王弟元帥「どうやら随分馴染んでいるようだな」
聖王国将官「ええ」
  光の銃兵「勇者様は銃は撃てないのか?」
  勇者「いーんだよ。おれは雷だせっから」
  光の銃兵「そうなんかぁ? 銃は強いぞ」
参謀軍師「聖百合騎士団から、勇者の身柄引き渡し
 要請があったというのは?」
王弟元帥「事実だ」
聖王国将官「え?」
王弟元帥「勇者は、光の精霊の使徒。
 そうである以上、その存在は精霊の恵みであり、
 教会が世話をするに相応しい、とな」
聖王国将官「何を考えているんでしょう」
参謀軍師「勇者の象徴としての力ですか?」
王弟元帥「教会も気が付いてはいると見える」
  荷運びの作業員「それにしても、重いな」
  勇者「馬どうしたのよ?」
  荷運びの作業員「あの雪の中連れてくるのは大変なんだ。
   可愛い馬っ子は沢山倒れちまった」
  蹄鉄職人「無事な馬は、みんな貴族様の騎馬に持ってかれたしな」
  勇者「そうなのかぁ」
聖王国将官「どうご返答されたんですか?」
王弟元帥「勇者本人の意志による、と答えておいたよ」
聖王国将官「では……」
王弟元帥「どこかで下らぬ夕食会、だろうな。戦場なのに」
参謀軍師「そこで、勇者自身の言葉を聞くと?」
王弟元帥「大主教殿も見極めたいのであろうよ、勇者を」

201 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 23:29:20.29 ID:O8aL4rAP
――開門都市、庁舎、自治委員会
副官「出来ればそうでなければ良いとは思っていましたが
 人間の軍が近づいてきています」
人間職人長「そうなのか……」
人魔商人「人間? 軍?」
獣人軍人「状況は俺から報告しよう。人間の軍は総勢約三十万」
人間長老「さんじゅうまんっ!?」
魔族娘「ご、ごめんなさいっ」
火竜公女「これこれ。何でも謝ればいいと云うものではありませぬ」
魔族娘「大きい声で、びくっとしちゃって……ご、ごめんなさい」
人間長老「いや、すまぬ」
火竜公女「つづきを」
獣人軍人「約三十万の軍勢だ。これはこの都市の人口の
 おおよそ5倍から6倍に達する」
人間長老「なんと」
副官「彼らは聖鍵遠征軍です。
 つまり、1回はこの街を征服したあの人間の軍ですね」
人魔商人「また人間か! 何回この街を滅ぼせば気が済むっ!」
魔族娘「うううっ」

204 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 23:30:34.75 ID:O8aL4rAP
火竜公女「我らはここで意見を一つにせねばならぬかと思う」
副官「はい」
人間職人長「意見、とは」
人魔商人「市中の人間族の動向だろう」
獣人軍人「そうだな」
魔族娘「……?」
人間長老「この自治委員会にも何人かの人間が参加している。
 街の人口も、約1/3が人間だ。
 この情報が広まれば、戦火を避けて聖鍵遠征軍に
 投降を考える人間も出てこよう」
火竜公女「そうですね」
人魔商人「つまりは、裏切り者と云うことだな」
獣人軍人「……」
火竜公女「この街は魔王殿の直轄領。
 そもそもこの都市の人間たちは魔族の奴隷として
 この街にいるのではなく自由意志で
 この都市にいるのではありませぬかや?」
副官「……」
人魔商人「……」
火竜公女「で、あれば投降が裏切りとは云えぬのでは?」
獣人軍人「しかし結果としてこちらの情報が
 筒抜けになるやも知れぬ」
副官「話が先走りすぎです、一度戻りましょう。
 そもそも聖鍵遠征軍の現在位置は?」

205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 23:32:57.32 ID:O8aL4rAP
獣人軍人「大空洞とこの都市の間に広がる赤き荒れ地。
 奇岩荒野をゆっくりと前進中だ」
副官「速度は?」
獣人軍人「一日に3里がせいぜいだろう」
人間長老「そのままの速度で12、3日ですか」
火竜公女「都市を目の前にすれば、速度も上がりましょうが」
副官「しかし、その位置では、まだこの都市に目標が
 定まったとは言いきれないでしょう。
 進路変更もあり得る場所だ。
 まずは、紋様族、鬼呼族、および旧蒼魔族領地の機怪族に
 警告を発するべきです。異存のある方は?」
人間職人長「……ありませんな」
人魔商人「即座に発するべきだろう」
副官「では、これを決定とします。書き取ってくれ」
魔族娘「は、はい」かきかき
火竜公女「しかし、やはり最大の目的地はこの都市でありましょう」
副官「ええ。現実的に考えればそれ以外にはないでしょうね。
 この都市は近郊最大の物資集積所にして
 交通の要にもなっています。
 いまや、第二次聖鍵遠征の時よりもさらに栄えている」
人間職人長「……」
人魔商人「たわわに実った果物と云うことか」
獣人軍人「この都市の兵力は少ない。
 同規模の都市に比べても少ないのだ。
 ましてやいまは治安維持のための警備軍1500を残すのみ。
 とてもではないが、抵抗はままならない」
魔族娘「うぅ……」

206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 23:35:27.25 ID:O8aL4rAP
副官「……いまは、主力騎士はうちの大将が
 連れていってしまってますしね」
人間職人長「……」
火竜公女「まずは、人間の長老どの。
 市民の気持ちのほうを聞かせて頂きたく思いまする。
 都市に住む人間族の住民の声はどうなのかや?」
人間長老「そうですな。……ふぅむ。
 旅商人などを除き、我ら人間の多くは、
 もはや故郷に帰れるなどとは思ってはいませんでした。
 魔族になりきった、などと云うつもりはありませんが、
 少なくともこの都市の住民でいる自覚はあったのです。
  正直に申せば、今さら……という気持ちが強いですな。
 聖鍵遠征軍が“人間の捕虜を救いに来た”というのであれば
 それはまさに今さらでもあるし、そもそものところ
 そこまで非道な扱いを受けているわけでもない。
 救うくらいなら捨てなければ良いではないか、と」
火竜公女「……」
人間長老「逆に一方、人間族の裏切り者として告発を
 受けるのであれば、それこそ噴飯もの。
 こう言っては何ですが、この都市に取り残された人間は
 あの司令官に対する恨みがことのほか強いのです。
  我ら街の住民には一言も告げずに出て行った司令官にね。
 司令官の一存で取り残され、
 この街で暮らしていくしか生きるすべとてなくなった我らを
 今さら裏切り者として告発するのであれば、
 もはや人間界に対する情も枯れ果てる。
  そう考える人間が多数でしょう」
副官「……」

207 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 23:38:03.43 ID:O8aL4rAP
人間職人長「だがその一方で、
 やっと人間界との連絡が取れ初めてもいた。
 通商といっては云いすぎですが、わずかなやりとりが
 復活しつつあったのも事実です。
 徐々にですが、月に一つ、二つの隊商が行き交うようになり
 これからという時だったのですよ。
  それこそ、この都市を気に入り、
 これならばと家族や子供達に手紙を出そう
 そして、もし良ければ招き寄せてこの都市に骨を
 埋めようではないか。
 そう決意した職人や商店主も数多くいました。
 このわたしにしてからがそうなのですからね。
  魔族と人間が共同して暮らし、活気溢れ、学問が新興しつつある
 この都市でならば、骨を埋めて商売を行なうのも良い。
 そう考える市民も数多くいたのです。
 我らの本音を言えば、戦争なんてまっぴらだ。
 そちらから捨てたのだからほうって置いてくれれば良いというのが
 もっとも本音になってしまうのではないでしょうか」
人魔商人「それはこちらとしても同じ事。
 前回であっても同じであっただろう。
 この都市は別に人間界に攻め込もうと考えたことも
 何かを奪おうと考えたこともなかったのだ。
 かつて栄えた神殿の都は、交易都市として再生を
 遂げようとしている。
 ほうって置いてくれればこれに勝る親切はない」
獣人軍人「しかし」
火竜公女「“しかし”なのでしょうね。
 そのようにして興った貿易の富に引きつけられてくる者は多い。
 かつて魔族の間に血で血を洗う戦乱があったように。
 今度は人間が引き寄せられたのでありましょう」

208 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 23:39:54.36 ID:O8aL4rAP
魔族娘「あのぉ」
人間長老「なんじゃ?」
魔族娘「ご、ごめんなさいっ」
火竜公女「はっきりと伝えねばなりませぬよ」
魔族娘「……やはり、負けてしまいます…よね?」
獣人軍人「常識的に考えてみて、1500対30万では話にならない」
魔族娘「そ、そうですよね……」しょんぼり
人魔商人「……お前は、抗戦を主張したいのか?」
魔族娘「いっ。いえ、そんな。意見なんて滅相もないですっ。
 ……で、でも」
火竜公女「……」ぽむぽむ
魔族娘「その、……わたくしごとなのですが。
 ……わたし、ほら。何族だかも判らないではないですか。
 蒼魔族っぽい肌ですけれど、竜族みたいに角もあるし
 でも猫目族みたいな瞳でもあるし……雑種って云うんですか。
 血混じりっていうんでしょうか……。
 その」
人魔商人「何を言いたいのだ?」
魔族娘「いえ、すいません。ごめんなさいっ。
 ただ、衛門の一族って、なんかすごく嬉しかったので……」
人間長老「……」
魔族娘「故郷というか、自分の家みたいに思えてきて。
 この街が……、なんだかすごく大切で」
人間長老「ふぅむ」