Part86
45 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 00:35:46.18 ID:O8aL4rAP
――鉄の国、兵舎、執務室
軍人師弟「次の書類が欲しいでござる」
鉄国少尉「はっ」しゅたっ
軍人師弟「ふむふむ……。これはよしっと」 ぺたん
鉄国少尉「確認済みですね」
軍人師弟「うむ。みんな真面目に警備を続けているでござるね」
鉄国少尉「ですね。前回の戦いで国境警備の重要性も判りましたし」
軍人師弟「連絡手段も重要でござるね」
鉄国少尉「通信塔の建築、早く済むと良いですね」
軍人師弟「あれはやはり来年まではかかるでござろう。
秋の間に大まかな測量が終わって、着工は来年でござるよ」
鉄国少尉「はい」
かりかりかり
かりかりかり
軍人師弟「ん……」
鉄国少尉「どうされました」
軍人師弟「旧白夜王国に放った密偵からでござる」
鉄国少尉「ふむ」
軍人師弟「……やはり治安に問題が生じているようでござるね。
それからしきりに練兵を繰り返しているようでござる」
鉄国少尉「練兵ですか……」
軍人師弟「他にやることもないのでござろう」
46 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 00:37:05.71 ID:O8aL4rAP
軍人師弟「次を」
鉄国少尉「こちらです」 しゅたっ
軍人師弟「これは、護岸卿に回して欲しいでござる」
鉄国少尉「了解しました」
軍人師弟「閲兵および、行軍訓練の指揮指導は第一大隊長に
任せるでござるよ。そろそろ出来るでござろう?」
鉄国少尉「はい、通達いたします」
軍人師弟「それから、開拓村の収支の報告書は」がさがさ
鉄国少尉「こちらです」すっ
軍人師弟「司書を呼んで、これの複製を二つ作って
欲しいでござる、かたほうは冬の国の商人子弟宛に。
拙者が手紙をそえるでござる。
一つは王へと報告書と共に出すでござる」
鉄国少尉「すでに複製もありますよ」
軍人師弟「助かるでござるよー」 かきかき
鉄国少尉「……」じー
軍人師弟「それから、少尉には近衛の訓練と」
鉄国少尉「お断りします」
軍人師弟「へ?」
鉄国少尉「そんなに仕事を振りまくって何を考えているんですか?」
軍人師弟「あ、いや。そろそろ皆、自分の仕事を……」
鉄国少尉「違いますよね」
軍人師弟「……」
鉄国少尉「わたしは一緒に行きますからね」
軍人師弟「……そう、でござるか」
鉄国少尉「はいっ」
54 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 00:45:52.01 ID:O8aL4rAP
――魔界(地下世界)の荒野、傭兵騎士団の旅
器用な少年「うっわ、すげぇな」
生き残り傭兵「見渡すばかり赤い土、あっちに見えるのは、森か?」
ちび助傭兵「視界が良すぎるな」
若造傭兵 こくり
傭兵弓士「さぁって、あの大空洞を抜けたは良いが」
貴族子弟「しばらくは北西だねー」
器用な少年「なんだよ。あんちゃんはこっちも詳しいのか?」
貴族子弟「あんちゃんって呼ばないでくれないか?
いい加減温厚な僕でも盗癖のある子供の調理法を
考え始めてしまうよ?」
器用な少年「な、なんだよっ。やんのかよっ」
生き残り傭兵「暴れるなよ。馬が驚く」
ちび助傭兵「このあたりもまだ寒いな」
若造傭兵「ああ」
貴族子弟「来ました」
器用な少年「え?」
ふっ
冬国諜報部員 ぺこり
貴族子弟「しばらく世話になりますよ」
冬国諜報部員「いえ、上から支持を受けております。
如何様にでもお使い下さい」
55 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 00:48:44.87 ID:O8aL4rAP
生き残り傭兵「隠密かっ?」
貴族子弟「ええ。流石にこのあたりの様子がわからないのも
心配ですしね。わたしも腕っ節には自身がないですし」
メイド姉「手紙でお願いしたものは、揃いそうですか?」
冬国諜報部員「はい、しかし、宜しいのでしょうか?
情報だけでよいという話でしたが」
メイド姉「ありがとうございます」ぺこり
冬国諜報部員 すっ
メイド姉「……。ん……。距離よりも、山道のほうが
やっかいですね。ここからだと、一月はかかるでしょうか?」
冬国諜報部員「20日ほどでしょうか」
生き残り傭兵「ずいぶんな距離だな」
貴族子弟「開門都市の状況は?」
冬国諜報部員「現在は、防壁などが作られたり、
物資が運び込まれたりしています。
相変わらず人の出入りはルーズですが、
聖王国側の人間が入った様子は今のところありません」
貴族子弟「そっちの警戒心はゆるそうですからね。
そのへんは冬国さんのほうで見てあげて下さいますよね?」
冬国諜報部員「はい、局長の指示ですから。
暗殺にだけはくれぐれも用心しろと……」
貴族子弟「食えない爺さんだなぁー」
57 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 00:50:30.12 ID:O8aL4rAP
メイド姉 ぺらっ、ぺらっ
冬国諜報部員「いかがです?」
メイド姉「把握しました、ありがとうございます」
冬国諜報部員「いえいえ。あ、宜しいですよ、それは」
メイド姉「いえ。トラブルの元ですし、全て覚えました」
冬国諜報部員「了解」
生き残り傭兵「で? 代行。これからどっちに行くので?」
ちび助傭兵「こうなれば、ヤケクソだな。どこまでもいくさ」
若造傭兵 こくり
傭兵弓士「どちらにしろ、移動しよう」
貴族子弟「メイド姉くん。僕は、しばらく別れて良いかな?」
メイド姉「はい。お願いします」
生き残り傭兵「おろ、旦那は?」
貴族子弟「僕は根っからの都会ものだしね。
そろそろ都会の空気が恋しいよ。それに仕事にも好都合だ。
開門都市へ向かう」
傭兵弓士「じゃぁ、俺たちは代行と? どこへ向かうんだ?」
メイド姉「竜の領域へ。この魔界でももっとも古くから栄える
大氏族、竜の一族の本拠地のある、火焔山脈です」
生き残り傭兵「火焔山脈……?」
メイド姉「ええ。竜一族、一万年の宝を借り受けないといけません」
102 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 17:21:29.44 ID:O8aL4rAP
――新生・白夜直轄領、王宮、執務室
王弟元帥「ここが限界点だな」
参謀軍師「……」
聖王国将官「そのようですね」
灰青王「意見の一致を見たわけだ。結構」
聖王国将官「食料の残量、砲弾の備蓄、装備の普及。
これ以上時間をかけても、おそらく人数が増えてはゆくが
補給の関係でよりアンバランスな、
非戦力の増加を招くだけでしょうね」
灰青王「逆に言えば、この数字が、現在の中央国家群の
基盤的な限界点ということになる」
従軍司祭長「と、なれば躊躇うことなく一刻も早い出発を」
王弟元帥「軍の規模を報告せよ」
参謀軍師「総勢は約24万と3千。
農奴による新規編制歩兵部隊は20万強となります。
うち、マスケット部隊は10万。新型銃フリントロック部隊は250。
残りの14万は槍兵、および大盾部隊。
貴族軍3万と5千、騎馬戦力1万となっています。
またこれ以外にも非軍事参加者8万」
聖王国将官「非軍事参加者と云うのが気に食いませんな」
王弟元帥「そういうな。彼らは職人や飯炊き女、娼婦、
それに商人なのだ。彼ら無しでは、いくら輜重隊を整備しようが、
軍そのものが機能しなくなる」
103 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 17:24:13.01 ID:O8aL4rAP
参謀軍師「最終的には、マスケットと槍兵の比率は
ほぼ同数の混成部隊となりました」
灰青王「それは運用でどうとでもなるだろう」
王弟元帥「中核歩兵部隊20万、か」
参謀軍師「これ以上この地に留まりましても、
食糧備蓄の低下を招くだけ。また、これ以上時をおきますと
本格的な氷雪の季節の到来となります」
王弟元帥「よかろう。……出陣だっ」
参謀軍師「はっ!」
聖王国将官「はっ!」
灰青王「腕が鳴るな、ふふふっ」
従軍司祭長「精霊様もことのほかお喜びでしょう」
王弟元帥「残存部隊5000を残す。この港および都市は重要な
補給中継点だ。残存部隊は落葉の国の管理に一任し、
ただし槍兵4000を与えよ」
参謀軍師「承りました」
王弟元帥「大主教猊下は?」
従軍司祭長「もちろん同道いたします。猊下は王弟閣下に
全幅の信頼を置いておいでになる。
道中であっても、その安全はいささかも損じられることはない。
そう考えて宜しいですね」
王弟元帥「もちろんだ」
参謀軍師「早速部隊への通達に取りかかります」
灰青王「搬入および連絡も急がせるとしよう」
104 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 17:26:45.75 ID:O8aL4rAP
――冬の王宮、謁見室
タッタッタッタッ
将官「王! 王! 冬寂王っ!」
冬寂王「何事だ」
将官「白夜の国に駐留していた聖鍵遠征軍が
とうとう動き始めました!
船団を活発化させて極大陸の前哨地に、
次々と兵を送り込んでいます」
執事「始まりましたな」
冬寂王「やはり魔界への侵攻を優先させたか」
執事「まぁ、こちらに攻めて来るとなると、
相当の消耗を覚悟しなければなりませんし。
そもそも南部連合となった現在、南部の我ら三ヶ国をつぶす間に
湖の国が聖王国中枢部を破壊するなどと云うことも
考えられますからな」
冬寂王「うむ。……誰ぞ伝令はおらぬか!」
伝令「は、ここに!」
冬寂王「至急、氏族会議の領事館にお知らせせよ!」
将官「随分と情勢が変わりますね」
執事「無関係というわけには行きますまい……」
冬寂王「われらも南部連合会議を開催し、対応策を協議するのだ」
105 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 17:28:06.27 ID:O8aL4rAP
――氷の国、紫の応接間
氷雪の女王「目の回るような忙しさですね。これだけの書状とは!」
参事官「ええ、しかしなんとか目を通してしまわないと」
氷雪の女王「この手紙は……
“我が領内には天然痘の患者があふれかえり、
その有様はまさに煉獄の門が開いたかのようです。
氷の国におかれましては、同じ人間としての公徳心を持って、
どうか我が領土に薬を寄付して頂けることを願います”」
参事官「はぁ……。寄付ですか」
氷雪の女王「銅の国なのよ。腹立たしいわねぇ。
この間まで人の国の人間をマスケットで
ばんばん撃ち殺しておいたくせに、
公徳心なんてどんな顔をしていたら、云えるのでしょう?」
参事官「肖像画が確かありましたよ。
吟遊詩人に命じて各国首脳の肖像画は
なるべくそろえさせておりますからね」
氷雪の女王「いいわ、見ないでも。
思い出したわ。
カエルに似てるけれど、カエルの側も
縁を切りたいような顔だったわね」
参事官「さようで」
氷雪の女王「はぁ、これ全部そうなのかしらねぇ」
参事官「さようですなぁ」
107 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 17:29:14.30 ID:O8aL4rAP
氷雪の女王「出来れば助けてあげたいのだけれど」
参事官「だからこそ、書状も検討しておきませんと」
氷雪の女王「これの山は?」
参事官「そちらの山も似たようなものですが、
比較的小さな村からの嘆願の手紙ですよ」
氷雪の女王「何故封筒が二重なのかしら」
参事官「湖の国や梢の国に送られたものも、
全てこちらに回して貰っているからですな」
氷雪の女王「え?」参事官「こういった仕事は、女王の得意とされることですので
ぜひ情報を一元化するように貴族子弟様が手配されまして」
氷雪の女王「この仕事全部をあの昼行灯に押しつけてやりたいわ」
参事官「さようですか」
氷雪の女王「ええっと……。
“じょおうさまこんにちは ぼくたちのむらは
おとなのひとが、てんねんとーで みんなたおれて
くろくなって、たべるものも ないです
たすけてください。
おねがいします”」
参事官「ふぅむ。これは潮の王国の辺境の村からですね」
氷雪の女王「すぐにでも接種の薬と修道士を送らなければ」
参事官「いや、少し待って下さい」
109 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 17:32:37.47 ID:O8aL4rAP
氷雪の女王「どうして?」
参事官「これと同様の手紙も数多くきております」
氷雪の女王「でも、小さな村であれば種痘の量も
それほどには必要ないだろうし、
第一、この幼い子供達自身はなんの罪も咎もないはず。
出来るのであれば力を貸してあげたいって、
修道院の教えにもそうでしょう?」
参事官「いえ、同様の手紙24通は、全て同じ書式で、
潮の国鱒の港の商館を経由して郵送されてきたわけです」
氷雪の女王「え……?」
参事官「鱒の港の商館といえば、潮の国の王の伯母が、
王族の免税特権を用いて巨額の利益を稼ぎ出している裕福な
貴族商人ですからね」
氷雪の女王「……」
参事官「いかがいたしましょう?」
氷雪の女王「至急人をやって真偽を確かめさせて!」
参事官「はぁ。……かなり真っ黒だとは思いますが」
氷雪の女王「もうっ。こっちは?」
参事官「ふむふむ、これは猪首の国からですな」
氷雪の女王「えーっと
“精霊の恵みたる治療薬を貴公ら南部連合なる
蛮夷の国にて独占するとは言語道断。
我が勇猛なる教会僧兵百万の狼牙棒の餌食になりたくなくば
速やかなる慈悲を請い、全ての医の秘密を
つまびらかに明かし、我が国に服従を誓え”」
参事官「……空気が読めていませんな。
100万の兵ってどこのお花畑で遊んでいるんでしょうか」
氷雪の女王「これは捨てちゃいましょう」
110 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 17:34:54.20 ID:O8aL4rAP
氷雪の女王「はぁ、それにしてもねぇ。殆どゴミね」
参事官「ええ」
氷雪の女王「検討する気になるのは、わずか5通とは」
参事官「どうにも外交する気がないとしか思えませんな」
氷雪の女王「どうした物かしらねぇ」
参事官「鵲の魔術ギルド、これはどういたします?」
氷雪の女王「候補に残しては見たけれど、パスね」
参事官「で、ございますか」
氷雪の女王「ええ。研究目的で売ってくれという話でしょう?
この種痘でお金儲けをするつもりはないし、
金儲けの意図が透けて見えすぎるわ」
参事官「と、なりますと……。稲穂の国の支援と、
自由貿易都市でございますか」
氷雪の女王「自由貿易都市の件は、『同盟』の商館に依頼をして
高炉に組み込めるかどうか、黒い噂がないかどうかを
見て貰いましょう」
参事官「さようでございますね」さらさら
氷雪の女王「稲穂の国の支援については、
わたしの一存では決めがたいわね。
これは連合の会議ではかってみます。保留にしましょう」
参事官「承知いたしました」
氷雪の女王「天然痘の対処方法の情報は、ずいぶんな衝撃を
各国に与えたようね……。取り扱いに注意しなくては」
116 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 18:17:22.88 ID:O8aL4rAP
――聖鍵遠征軍、旗艦『勇壮』の貴賓室
王弟元帥「はっはっはっ! 随分すさまじい経験をしてきたのだな」
勇者「やー。まぁ、でも、美味いんだってば!
魔界の猪はさー。尻のところなんかぷりっとした感じなんだよ」
王弟元帥「そうなのか?」
勇者「ああ。捕まえるのはちょっと大変だけどね。
あいつら、特にゲートに近い場所では、気が荒くなるんだよ。
いまはゲートが無くて大空洞だけどね」
王弟元帥「そうだと聞いたな。勇者は何か知ってるのか?」
勇者「なにかって? もっぎゅ、もっぎゅ」
王弟元帥「ゲートが消失した顛末についてだよ」
勇者「ああ。1回蒼魔族が攻めてきた事件があってね」
王弟元帥「ああ。白夜王国の時か?」
勇者「いや、それよりずっと前にさ。
その時、ちょっとした必要があって広域殲滅呪文で
穴を掘ったんだ。穴掘るのは魔法でも大変だな。
ゲートが壊れちゃったのはもったいなかったけれど
結果として魔界へと通じる穴が空いたから、
同じと云えば同じだよね」
王弟元帥「そうだな。すごい景色だと聞いている」
勇者「うん、見物だよ。……むしゃむしゃ。
あ、これも食べて良い?」
王弟元帥「おお。たっぷりと食べてくれ」
勇者「ありがとうなっ」
参謀軍師「……何が起きているんだ」
聖王国将官「……判らない」
119 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 18:19:08.18 ID:O8aL4rAP
勇者「んでまぁ。機怪族ってのはさ、全体的に板金鎧を着た騎士に
似ているんだけど、中身もぎっしりだから相当重いわけだな。
重さで云うと、同じ大きさの騎士の1.5倍くらいはあると思うぞ。
でも、防御力は二倍あると思った方がいい」
王弟元帥「ほほう、そうか。さすが勇者だ。
魔界のありとあらゆる事に精通しているのだな」
勇者「旅暮らしが長いからね」
参謀軍師「あの……閣下?」
聖王国将官「こちらは……?」
王弟元帥「おお、紹介しよう。一時行方不明と噂されていた勇者だ」
勇者「おじゃましています。勇者です」
参謀軍師「いえ、その……。お姿は見たことがありますが」
聖王国将官「生きていらっしゃったのですね!」
王弟元帥「うむ、やはり魔王と戦ったそうだ」
勇者「そうそう。痛み分けだ。
やぁ、ぶっちゃけ前評判はあてにならないよ。
弱い弱いなんて云っても魔王だね。
あの圧倒的な(胸の)オーラ。決着をつけることは出来なかった」
参謀軍師「そうだったのですか……。魔王は?」
聖王国将官「では噂どおり」
王弟元帥「うむ、一命を取り留めたそうだ」
勇者「実は俺も深手を負って、仮死状態だったんだ。
目覚めたのはつい最近でね」
王弟元帥「聖鍵遠征軍の噂を聞き、やってきてくれたのだ」
120 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 18:20:30.68 ID:O8aL4rAP
勇者「うん、しばらくやっかいになろうかと
思うんだが、良いかい?」
参謀軍師「それは……」
聖王国将官 ちらっ
王弟元帥「もちろんだとも勇者。
覚えていてくれるだろうか?
そなたが魔王征伐を決意し、
教会の祝福を一身に受けて旅立ったあの日、
わたしも他の王族に入り交じりバルコニーから
熱い思いで見つめていたのだ。
勇者の鎧を光に輝かせ旅立つそなたは、この歳になったとはいえ
男子の胸の中にある高潔な騎士道と冒険の心を刺激せずには
置かないまさに一幅の英雄の肖像だったよ」
勇者「そう言われると照れるな。でへへぇ」
参謀軍師(勇者の戦闘能力は一人で重武装の騎士数千に
匹敵すると云われていた。
その戦闘能力は、マスケットであっても大隊規模。
さらに勇者には長い魔界での冒険により地形や文化、
魔族の知識がある。懐柔するメリットは十分にある、
と云うことか……)
聖王国将官「ではしばらくご一緒ですね」
王弟元帥「おお、そうなるな。
どこかに快適な部屋を用意してくれ」
勇者「ああ、気を遣わなくて良いよ。おれはさ。
水浸しでなけりゃ船底でも相部屋でもなんでも良いから。
メシさえ美味ければそれでさ」
参謀軍師「至急、整えさせましょう」
王弟元帥「そして食料をたっぷりとな! 勇者は病み上がりだ。
身体を癒すためには美味い食事と酒がなければ始まらぬだろう」
勇者「いや、ごっつぁんです!」
122 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/05(月) 18:22:45.71 ID:O8aL4rAP
――聖鍵遠征軍、旗艦『勇壮』の執務室
がちゃり
参謀軍師「勇者の部屋は整え、ご案内してきました」
王弟元帥「ふむ……」
参謀軍師「どのような目論見でしょう、勇者は」
聖王国将官「目論見があるのでしょうか?」
王弟元帥「どういうことだ?」
聖王国将官「いえ、旅に出る以前。
つまりもう4、5年は前になりますが
勇者についてわたしが聞いた話ですと、
豪放磊落と云えば聞こえは良いですが、
強大な戦闘力にまかせた行動をする
多少子供じみた正義感を持つ冒険者だったと。
そう聞いています」
王弟元帥「わたしもそう聞いたな。
しかし、今日の印象はかなり違う。
確かに損得抜きで動きそうな熱みたいな物は感じたが、
それとは別に、世界に損得勘定があること自体は
理解していると思わされた。
なんの考えも無しに来たわけでも無かろう」
参謀軍師「とりあえずの口上はどのようなものだったのですか」
王弟元帥「魔界の魔物は強い。人間界の猛獣に比べてもさらに
凶暴な種類も少なくはないし、独特の生態や毒を持つものも多い。
これだけ大人数で魔界へと渡ると、その犠牲者も多くなる。
勇者として、一般人の犠牲はなかなか見過ごしがたい。
ちょっとしたガイドを務めるためにやってきたが、
勇者である自分を雇わないか、と」
参謀軍師「ふむ」
聖王国将官「話をそのまま信じるならば、
雇わない手はありませんね」