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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part82


600 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/02(金) 23:35:13.39 ID:iOYUExkP
巨人伯「……そうか」
碧鋼大将「ふむ」
鬼呼の姫巫女「いや、それ以上だろう。
 もし、その七つの氏族を中立に出来なければ、
 攻め込んでくる軍勢の数が増えるばかりか
 その軍勢は背後の敵を気にせずに向かってこれる。
  南部連合とやらが魔族と停戦をしたからには、
 聖鍵遠征軍とやらは南部連合の動きにも
 注意を払わねばならぬのが道理だ。
  銀虎公、そして衛門の族長。
 何より魔王殿は戦うことなく10万の敵を討ったに
 等しい働きをされたと思うぞ」
火竜大公「その通りだな」
副官(魔族でも族長ともなれば、
 なんて早い飲み込みをするんだ……)
巨人伯「だが……それでも……20万……」
碧鋼大将「戦になるというのは確実なのか?」
副官「それはわたしには判りません。
 おそらくそうならないように魔王様は
 お残りになっているのかと思うのですが」

601 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/02(金) 23:36:54.91 ID:iOYUExkP
巨人伯「どうすれば……よい……?」
碧鋼大将「ふむ」
紋様の長「どう思う、副官殿は」
副官「それがしは一介の副官に過ぎませんが……。
  この書状には、その聖鍵遠征軍の持つ新しい武器
 マスケットなるものについても書かれて居ます。
 詳しくはまた説明してくださるとも思いますが
 強力な新兵器だとか。やはり、ここは戦争の
 対策を練らざるをえないでしょう。
 当面は軍の再確認と装備などの補充、練兵、
 指揮系統の確認。
 その後戦場となる可能性のある地域の測量、
 および連絡体制の強化。物資の貯蓄量の確認ですか。
  その後のことについては、魔王様が戻ってくると思います」
鬼呼の姫巫女「戦場となる可能性のある地域、か」
火竜大公「おおよそ大空洞の近くであろうな。
 殆どは荒れ地だが、候補となると……
 わが竜族の領域、開門都市、鬼呼族の辺境、
 そして旧蒼魔族の領域か」
巨人伯「……監視」
碧鋼大将「そうですな。監視網を引き続き充実させるべきです」
紋様の長「妖精の一族の女王は地上におられますが、
 妖精族は引き続き監視を行なってくれています。
 伝令も我が一族が受け持つでしょう」
鬼呼の姫巫女「では当面はそう言った雑事を片付けるとしよう」
火竜大公「うむ。おのおの方も気付いたことあれば
 すぐにでも知らせて欲しく思う」

606 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/02(金) 23:47:06.63 ID:iOYUExkP
――霧の国、地方都市、閑散とした市場
ざわざわ……
咳き込む乞食「げふっ。旦那様……。旦那様……。
 道過去の哀れな乞食に、パンの一切れを……」
痩せた市民「……」カッカッカッ
咳き込む乞食「奥様……奥様……。げふっ、げふっ
 どうか……もう四日もなにも食べていないのです……」
中年の婦人「おおいやだ! 疱瘡もちじゃないか。
 近寄らないでおくれよっ!!」
咳き込む乞食「げふっ、げふっ。どうか……どうか……」
ざわざわ……
  痩せた市民「では、新金貨10枚でどうだい?」
  旅の商人「それでは、半袋がいい所ですね。旦那」
  痩せた市民「なんて値段だ! うちには6人の子供が
   いるって云うのに」
  旅の商人「うちにだってメシを待ってる子供がいるんでね」
ざわざわ……
穀類商人「入荷〜! 入荷〜! うずら豆にエンドウ豆!
 つやつや張ったまめが入ったよぉ!」
中年の婦人「エンドウ豆、一袋でいくらだい?」
穀類商人「へぇ、金貨6枚と半分で」

607 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/02(金) 23:47:58.61 ID:iOYUExkP
中年の婦人「相変わらず高いね」
穀類商人「このご時世、何処も値段が高くって。
 仕方がありませんや。お買い上げで?」
中年の婦人「はぁ……。一袋。綺麗なまめを
 取り分けておくれよ。病人に食べさせるんだから」
穀類商人「へぇ」
中年の婦人「困ったもんだねぇ。おや、もう日暮れだ」
穀類商人「そうでございますよ」
中年の婦人「教会の鐘は鳴ったかい?」
穀類商人「ご存じないんで?」
中年の婦人「なにをだい?」
痩せた市民「ああ、鐘の話だろう?」
穀類商人「教会塔の鐘は、召し上げられちまって
 融かされちまったんでさぁ」
中年の婦人「融かされた?」
穀類商人「ええ、中央教会にね。精霊のお心に
 叶うためには、今は一つでも多くの武器が必要だって
 云うんで、金は溶けて、魔族を討つ武器になったって
 話ですよ」
中年の婦人「魔族ねぇ……。
 そんなもの、見たこともありやしない」
痩せた市民「どうにかして腹一杯食べさせてくれる。
 精霊さまもそんな恵みを下されればいいのに」

645 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 14:13:44.50 ID:F.ztGjEP
――蔓穂ヶ原にほど近い、森の中、擬装騎士団
生き残り傭兵「たいまつが接近していく。
 俺たちはまだ砦にいると思い込んでいるな。
 距離はおおよそ四半里」
ちび助傭兵「まだまだ引き寄せられる」
メイド姉「いいえ、無用です。火矢をお願いします」
生き残り傭兵「いいのか? 一網打尽に出来るぜ」
貴族子弟「……」
メイド姉「その場合は生き残りが少なく、
 厳しく事情を聞かれてしまうと思います。
 詮索が厳しくなって、目的に沿いません。
 ……それに、大打撃を与えたいわけでもないですし、
 五百人、千人倒した所で戦争が終わるわけでもないですから」
生き残り傭兵「……」
メイド姉「お願いします」
生き残り傭兵「よし、やろう。弓士!」
ぎりぎりぎり
傭兵弓士「ていッ!」 ひゅるひゅるひゅる……ぼっ
生き残り傭兵「着火確認ッ!」

646 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 14:15:41.48 ID:F.ztGjEP
ちび助傭兵「いくか?」
貴族子弟「ええ、離れるとしましょう」
メイド姉「はい」
器用な少年「なんでぇ、見ていかなくていいのかよお?」
貴族子弟「まぁまぁ。少年離れますよ」
がさがさ
生き残り傭兵「これで大丈夫なのか?」
メイド姉「硫黄、硝石、木炭です。はい」
生き残り傭兵「硫黄と木炭はあんなもんで良かったのか?」
メイド姉「当主さまの話によれば、
 原材料の重量比で云う七割五分は硝石ですし、
 そこまで攻撃力を求めているわけでも有りませんから。
 極端に云えば、騒ぎを起こして
 硝石を“使い切る”事ができれば良いわけです」
ちび助傭兵「でも、遅いな。もう燃えたかな」
若造傭兵「燃えてるんじゃないか?」
傭兵弓士「油と藁に着火するのは確認した」
器用な少年「なんでぇ。
 俺っち、あの敵の武器みたいに派手な音が
 するのかと思ってたぜ」
メイド姉「すると思います」
器用な少年「え?」
メイド姉「すると思いますよ。早く離れましょう」

648 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 14:18:04.79 ID:F.ztGjEP
生き残り傭兵「でけぇ音がするとなると
 途端に見たい気持ちが湧いてくるなぁ」
ちび助傭兵「いいや、離れるべきだろう。
 中央の聖鍵遠征軍小部隊の間もつまってきている。
 俺たちの人数じゃ、早めに行動しないと発見される」
若造傭兵 こくり
傭兵弓士「そういうこったな」
器用な少年「ちぇーっ」
貴族子弟「あんまりがっかりしないで済むと思うよー」
メイド姉「はい」こくり
生き残り傭兵「?」
ゴッコォォォオオオオオォォォォオオオオオン!!!!
ちび助傭兵「!!」 若造傭兵「っ!」
傭兵弓士「!?」
器用な少年「なっ、なっ、なっ」
貴族子弟「いたた。耳痛いな」
メイド姉「はい」キーン
器用な少年「なんじゃそらぁぁ!! べっくらこくわぼけぇ!」
貴族子弟「騒がしいよ、少年」

649 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 14:20:10.36 ID:F.ztGjEP
生き残り傭兵「おったまげたな、ありゃなんだ」
ちび助傭兵「耳がうまく聞こえない」
メイド姉「これで、認めてくれますか?」
   ドォォーン……  ドン、ドドォーン
生き残り傭兵「……」
メイド姉「わたしを、代行だと認めてくれますか?
 わたしはどうしても自分の脚で
 行かなきゃならない場所があるんです。
 そこにたどり着くために越えなければならない障害は多い」
生き残り傭兵「……」
ちび助傭兵「……はぁ」
若造傭兵「俺は認める」
傭兵弓士「仕方ないな」
器用な少年「おいおい」
生き残り傭兵「心意気に感じるってのが、
 俺たちが隊長から受け継いだ大事な宝もんだ。
 そりゃぁ、しかたねぇ。これだけ派手にこなしてくれる
 お嬢さんだ。代行だってつとまるだろう」
メイド姉「それじゃぁ」ぱぁっ
生き残り傭兵「ああ」
ちび助傭兵「仕方ない。よっしゃ、光のなんちゃらとやらの
 装備を引っぺがすぞ! そんでもって白夜国へ潜入だ。
 そうなんだろう? 代行」
メイド姉「ええ。そうして情報を集めて、
 そのあとは。……船をぶんどりましょう」にこりっ

658 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 14:50:16.83 ID:F.ztGjEP
――魔界(地下世界)、辺境部、銀砂河
ひゅいんっ!
魔王「よし、ここだ」
メイド長「ええ、まおー様」
勇者「こんなところで良いのか?」
魔王「うん。ばっちりだ。ここからならさほど遠くない」
メイド長「ここまでで結構ですよ、勇者様」
勇者「そっか」
魔王「悪いな。別に秘密というわけでもないんだが」
勇者「図書館、か」
メイド長「はい」
魔王「我が一族の本拠地は一族以外は入れなくてな」
メイド長「まぁ、よろしいでしょう? 乙女の私室にはいるのは
 いま少し経験を積まれてからの方が」くすくす
勇者「そんな良い場所なのか?」
魔王「あー。大したことはないな」
メイド長「本が沢山あるだけです」
勇者「そっか」
魔王「連絡が取れなくなってしまうが、適当に迎えに来てくれ」
勇者「適当って?」

659 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 14:51:18.56 ID:F.ztGjEP
魔王「おそらく調べ物に三日ほどかかるだろう。
 わたしの情報開示レベルだとその程度で済むと思う」
勇者「ふむ」
魔王「もし調べ物が早く終わったら、
 この場所あたりまで歩いてきているし、付近を探してくれ。
 三日目にいなかったら、五日目だ」
メイド長「そうですね」
勇者「ん。判った。何を調べるんだ?」
魔王「冶金技術と、工学系だな。今回は技術的な問題に的を絞る」
勇者「魔王にも判らないことがあるのか」
魔王「判らないことだらけだよ。今回は専門でもないしな。
 本は持ち出せないから、資料作成もしなければならない。
 鋳造で作れるような形状ではないし、確か随分高度な
 加工になったと思うんだが……」
勇者「いいのか?」
魔王「今回の場合はな。あまり高度な技術は伝播しても
 広まらないが、今回は世界全体に
 影響を与えるのが目的ではない。
 かえって伝播しなくても良いかも知れない。
 もっともボルトやナットの原型がある以上、
 いずれは発明されるのだろうが」
勇者「よく判らないが、そっちは任せた」
魔王「わたしのいない間、頼むぞ」
勇者「おう!」
メイド長「では参りましょう。まおー様」
勇者「おー! メイド長もお役目頼むなー!」
魔王「いってくる」
メイド長 ぺこり

668 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 15:27:22.55 ID:F.ztGjEP
――冬越しの村、厨房
勇者「じゃーん!」
勇者「本日の勇者クッキングの時間がやって参りました!」
しーん
勇者「まずはー! パンを切ります」
ぎこぎこ
勇者「斜めになっちまったけど、まぁいいや」
勇者「ここに、チーズを切って塩をふって挟みます!」
勇者「チーズパン完成ー!! どんどんぱふぱふー!」
もそもそ
勇者「……もそもそする」
もそもそ
勇者「しょっぱい気分になって参りましたっ!
 さぁて、次のレシピはなんだこんちきしょー!
 メイド長のやつ俺を見くびってるんじゃあーりませんかー!?」
女騎士「いや、正当な評価だろ」

669 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 15:29:23.77 ID:F.ztGjEP
勇者「っ!? いつから居たんだ、お前!?」
女騎士「“どんどんぱぷぱふー”くらいからだぞ?」
勇者「……負けた」がくり
女騎士「よしよし」なでなで
勇者「……」ぴきっ
女騎士「びっくりさせたか。
 ……そうか、突然さわるのもだめなんだな。
 そう言えば当たり前か」
勇者「この間から、なんだか女騎士がおかしい」
女騎士「そんなことはない。全て順調だ」
勇者「この落ち着きがおかしい」
女騎士「これ持ってきてやったぞ?」
勇者「……くんくん」
女騎士「ベーコンとキャベツとあばら肉の、壺煮シチューだ」
勇者「おおっ!!」
女騎士「まだ火はあるだろう?」
勇者「いや……。メイド長が火を使う料理は作るなって」
女騎士「何処の子供だっ。勇者は!」

675 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 15:36:05.15 ID:F.ztGjEP
勇者「いや、おれだって頑張ったんだ。
 頑張ったんだよ! ちっきしょー!!」
女騎士「無駄に青春風味になってるなぁ」
勇者「暖かいものが食いたい」
女騎士「うん。……ほら、手のひらに小さく火炎出せ」
勇者「“小火炎呪”」
女騎士「でかい」
勇者「“半分小火炎呪”」
女騎士「で、この壺もって、しばらく我慢」
ほわぁ〜♪
勇者「うっわ、いい匂いだぞ!」
女騎士「葡萄酒で煮込んだからな。
 妹には敵わないがなかなか悪くないと思うぞ?」
勇者「いやいや。ありがとうな」
女騎士「もういいだろう。ほら、食べろ?」
かぽっ。とろーり。
勇者「おうっ! もっきゅもっきゅ」女騎士「……」
勇者「お前は食わないのか?」
女騎士「ん? ああ。じゃ、一口だけ」
勇者「いっぱい食べればいいのに」
女騎士「修道院で食べてきたからな」
勇者「そっか。……ああ、美味いなぁ♪」
女騎士「ご機嫌か?」
勇者「ご機嫌だぞ」

709 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 19:44:53.65 ID:F.ztGjEP
女騎士(そうか。……世間の女子が料理を重んずるのは
 このように餌付けを行なうためだったのか……。
 なんて簡単なことを見落としていたんだ、わたしはっ)
勇者「……ふぅ。ひとここちついたわ」
女騎士「よく食べるな」
勇者「俺は燃費悪いんだよ」
女騎士「あれだけ魔力持ってるから仕方ないのかな」
勇者「うーん、そうかもな」
女騎士「どれ。レシピをよこせ」
勇者「へ?」
女騎士「メイド長からもらってるんだろう? 食料とレシピ」
勇者「うん」
女騎士「魔王とメイド長が居ない間は面倒を見る」
勇者「いいのか?」
女騎士「今更遠慮するな」
勇者「そうか? これだ」
女騎士「……パンと水。
 チーズサンドと水。
 キャベツの酢漬けとパンと水。
 薄切りのハムとパンと水。
 パンを買いに行く。
 買いだしたパンとハムと水。
 チーズサンドと水……」
勇者「……」
女騎士「……」

710 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 19:47:30.30 ID:F.ztGjEP
勇者「なんか横暴だよな!?」ガクガクガクッ
女騎士「横暴というか、なんというか……」
勇者「つか、素直に居酒屋で食ってきて
 良いって言えばいいじゃんな!!」
女騎士「まぁ、その通りなんだけど……」
勇者「このあいだ魔王と2人で食い歩きに行ったのを、
 メイド長は根に持ってるんだ」
女騎士「そうなのか?」
勇者「そうに違いない」
女騎士「そうなのかなぁ……」
勇者「だから、なんか作ってくれ」
女騎士「まぁ、いいけれど。
 すごく上手な料理は期待するなよ?」
勇者「おう! チーズサンドじゃなきゃ何でもいいよ……」
女騎士(そんなに寂しかったのか……)
勇者「食った食った!」
女騎士「よし、休憩したら剣でもやるかー」
勇者「へ?」
女騎士「食事を作った代金だ。
 少し稽古を付けてくれても良いだろう?」
勇者「それくらいなら、かまわないけど」
女騎士「終わったらブラシしてやるからな」

717 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 20:02:55.52 ID:F.ztGjEP
――銅の国、農村部
痩せた老人「……ふぅ」
飢えた農奴「腹が減ったなぁ……」
農奴の女性「秋なのに、なんで小麦も大麦も食えないの?」
作付け頭「そりゃ、兵隊さん達に送らなければ」
痩せた老人「兵隊か、この村もすっかり人がいなくなって」
飢えた農奴「これじゃ秋まき小麦の世話もおぼつかないよ」
農奴の女性「でも、やらなけりゃ春に飢えてしまうわ」
作付け頭「ほーら、手を動かせ」
痩せた老人「へぇへぇ……はぁ」
飢えた農奴「力が出ないな」
農奴の女性「ああ……。もう気の滅入る匂い」
作付け頭「ん?」
農奴の女性「荼毘の煙よ」
作付け頭「ああ。南の小屋ごと燃やしているんだ。
 あそこの疱瘡にかかった一家が腐り始めてしまうからな」
痩せた老人「天然痘か……」
飢えた農奴「おお、怖い」
農奴の女性「そんな事を云うのはおよしよ。
 あたしらだって何時かかってしまうか判ったものじゃない」
作付け頭「まったくだ、うちの息子だって」
飢えた農奴「そんな事言うなら、どの村だって疱瘡には
 やられちまっているってこったよ」

718 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/03(土) 20:04:54.17 ID:F.ztGjEP
片腕の農奴「いや、そうでも無いさ」
飢えた農奴「え?」
片腕の農奴「俺は片腕を失って帰ってくるまでにずいぶん
 歩いたけれど、葦の国では疱瘡の薬があるって話だ」
農奴の女性「クスリ?……。治るのかい!? 疱瘡が!?」
作付け頭「まさか、そんな話は聞いたことがないっ!」
片腕の農奴「その話が広がっちまうと、
 農奴が逃げ出すから伏せてあるのさ。
 だが本当のことだ。
 まぁ、薬と云っても、治るという話じゃないらしい。
 疱瘡にかからなくなるんだと。
 それに梢の国では疱瘡にかかった人は修道院の人が
 世話をしてくれるって話だ」
痩せた老人「そんなクスリが……」
飢えた農奴「修道院で世話? そんな話があるのか!?」
片腕の農奴「俺だって家族がいなければ、
 居着いてしまおうかと思ったよ」
農奴の女性「……」
作付け頭「葦の国かぁ。遠いのかねぇ。
 なんとか薬を分けてはもらえないだろうか」
飢えた農奴「薬だなんて。兵隊と金儲けに関係ないことに
 貴族が金を出すわけがねぇさ」
痩せた老人「……そりゃそうだ。……はぁ。
 わしらを哀れんでくだせぇ、光の精霊様……」