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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part8


605 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:44:54.63 ID:5kaffl9OP
妖精女王「魔王様の命令に背き、人間をさらっては
 無益な殺生と玩弄を繰り返す魔狼族を粛正されに
 きたのですね」うるうるっ
勇者「いや、ついカっとなっ」
羽妖精「……」じー
勇者「ごほん。そうである。魔狼族の横暴、目に余る。
 人間族に慈悲を掛けるわけではないが、魔王の
 命令は絶対である。逆らうことは許されない」
妖精女王「元は人間族でしょうに。何という忠誠心でしょう」
勇者「ふははは。我は黒騎士。絶対不破の魔王の剣」
妖精女王「魔王様の仰せの通りに」ふかぶかっ
勇者(なんか気分良いな! 魔王の部下も!!)
羽妖精「女王サマー」
妖精女王「何です?」
羽妖精「人捜シー」

606 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:48:53.70 ID:5kaffl9OP
妖精女王「人捜し?」
勇者「ああ。そういえばそうだった。
 あーあー。
 魔王の命令により、我は1人の人間をさがすものなり」
羽妖精「女王サマノトコロニ来テタ人間女ー」
妖精女王「ああ。あの術士ですか……」
勇者「いまは何処に?」
妖精女王「素晴らしい魔法の素質を秘めていましたからね。
 彼女は妖精族の魔法を学ぶと、さらなる奥義を求めると
 云って旅に出ました」
勇者「旅? どこへ」
妖精女王「それは判りませんが……」
勇者「一体何処まで努力すれば気が済むんだ、
 あの無表情小娘。いまでも人間界最強のクセに」
妖精女王「そういえば……」

608 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:53:16.00 ID:5kaffl9OP
勇者「そういえば?」
羽妖精「魔界の果て、時の砂の滝が落ちる滝壺に
 一つの古いベンチがあると。そのベンチに座った
 旅人は星の最果て、『外なる図書館』へ行くことが
 出来ると云われています。
 ――彼女は熱心にその伝承を調べていました」
勇者「『外なる図書館』だな? 判った」
妖精女王「しかしそれは伝説の場所。
 詳しい場所やたどり着く方法は妖精族でも知りません」
勇者「そのようなことは問題ではない。
 魔王の命にしたがいどのような場所であろうと
 必ず見つけ出す」
羽妖精「カッコイー!」
妖精女王「ご無事をお祈りいたします」
勇者「妖精族は元の領地に戻り、いままでと同じく
 その民を治めて暮らすようにとの魔王の仰せだ」
妖精女王「魔界を治める魔王様の治世に幸いあれ」

610 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 15:57:46.97 ID:5kaffl9OP
勇者「えー、こほんこほん。
 魔狼族の生き残りにはきつく申し渡しておく。
 元来魔狼族は誇り高い自由不羈の民のはず。
 穏健派を中心に魔王の民として、その誇りを
 まもるような生き方にするが良いだろう」
妖精女王「妖精族は魔狼族からの迫害さえなければ
 異存はありませぬ。遺恨は伝えぬと誓約しましょう」
勇者「……その寛容、魔王に伝えよう。
 では、時間だ。我は探索の旅に戻らなければ
 ならない。縁があればまた逢おう」
妖精女王「このご恩、けして忘れません」
しゅんっ!!
羽妖精「カッコイー!」
妖精女王「妖精族は救われましたね。
 魔王様にあのような部下がいるとは……。
 ただのお飾り、柔弱で無能な王と云われてきましたが
 何かが変わり始めているのかも知れません。
 魔王様と云えば――あっ」

612 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:01:44.28 ID:5kaffl9OP
羽妖精「ドシタノー?」
妖精女王「魔王様といえば……」
(時の砂の滝が落ちる滝壺――
 一つの古いベンチ
 星の最果て――
 『外なる図書館』――)
妖精女王「『外なる図書館』……」
羽妖精「?」
妖精女王「『外なる図書館』に引きこもる、
 魔族の中でも変わり者の一族がいると……。
 その一族は知識を求め、過去と未来を幻視し
 『外なる智慧』を身につけて、憧れに魂を燃やすと……」
羽妖精「?」
妖精女王「魔王様って、魔王って……
 何なのでしょうか……」

616 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:11:56.87 ID:5kaffl9OP
――南氷海巨大湾岸都市、商業会館
青年商人「ふふぅん、こいつはたまげた。
 全く度肝を抜かれた、まいったな」
中年商人「よう。どうした、呼び出して」
辣腕会計「まだ夕食には早いでしょう?
 どうしたんです?
 湖の国のワインでも暴落しましたか?
 それとも聖王都の為替変動ですか?」
青年商人「まぁ、こいつをみてくれ。
 午前中に届いて、やっと組み立てたんだな、これが」
中年商人「――ッ!!」
辣腕会計「こ、これは……」
青年商人「まぁ、一目でわかるか」
中年商人「これは羅針盤だな? 見たことのない形状だが」
辣腕会計「ですが、見ただけで判ります」

617 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:16:42.64 ID:5kaffl9OP
青年商人「何処のどいつの工夫だかは判らないが
 こいつはたいしたものだ。恐ろしいもんだ」
中年商人「ああ、頭を大石で殴られた気分だ」
辣腕会計「これは……二つの円環で、どんな場所に
 置いても水平が保たれるのですね? さらに
 この重りで安定させるわけですか……」
青年商人「ああ。理屈は見れば判る。
 特別な装置が使ってあるわけでもないが、すごい発明だ」
中年商人「これを見せれば、銅の国の技術士ならば
 もっと小型にも出来るだろう。やったな! おい!
 何処でこんな物手に入れたんだ。
 この功績の価値は、幹部候補生、いや、10人委員会に
 入るのも夢じゃないぞ、お前!」
辣腕会計「ええ、この発明は『同盟』に巨大な利益を
 もたらすでしょう、同志よ!」
青年商人「こいつは世界を変えるな」
中年商人「ああ、世界を変えてしまうだろうな」

620 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:24:36.89 ID:5kaffl9OP
青年商人「さぁて、なかなか」
中年商人「ふむ、たしかに」
辣腕会計「どうしたんです?」
青年商人「いや、なに。これがここにある、
 その意味合いをな」
中年商人「確かに巨大な利益は目の前だ。
 酒樽一杯の蒸留酒のような物。嬉しくてたまらんわな。
 しかし、その酒樽にはもう蒸留酒はのこっていないのかな?
 あるいは罠の可能性は?
 俺たちは商人だ。酔っぱらいじゃぁ、無い。
 そこんところを頭を使わないとな」
辣腕会計「そうですね、ふむ」
青年商人「まず、第一にこれを発明したのは俺じゃない。
 俺にこれをとどけた人間がいるんだ。
 そいつの思惑を考えなければいけないだろうな」

622 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:28:46.83 ID:5kaffl9OP
中年商人「身元はわかっているのか?」
青年商人「まぁ、本人からの手紙にはな。
 『紅の学士』とある。送り主は南部諸王国の西の外れ
 冬越し村というところだ」
中年商人「小さな寒村だな」
辣腕会計「目立った特産品はなかったと記憶していますが。
 ――いや、まてよ」  
がさごそ
青年商人「どうした?」
辣腕会計「確か、報告にその名前が……。
 ああ、ありました。この夏に、湖畔修道会の修道院が
 その村に建築されたようです」
中年商人「湖畔修道会? 湖の国の?
 もうそんな辺境まで勢力を広げたのか?」
辣腕会計「いえ、勢力範囲から遠く離れた場所に突然
 修道院をつくったようです。教化も進んでいないでしょう。
 ですから報告書に特記されていたのでしょうが……」

623 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:32:33.94 ID:5kaffl9OP
青年商人「ふむ。黒だ」
中年商人「関係があると睨んで良いだろうな」
辣腕会計「接触ですか?」
青年商人「それはどうあれ、その必要があるだろう。
 『同盟』がこの羅針盤から得られる利益を
 最大化するためには、この工夫を独占しなければならない」
中年商人「だが、この工夫は、一目見ただけで
 その革新性が判る。革新性が判りやすいってのは
 売る時にはまたとない武器だが、
 真似して作るのも簡単だって云う弱点があるな」
辣腕会計「そのとおりですね」
青年商人「『同盟』がこの羅針盤を部外秘として
 『同盟』所属の船舶だけに装備し、交易優位性を
 あげるにしろ、全中央大陸国家に販売して利益を
 上げるにしろ。発明元のこの学士と交渉する必要がある」
辣腕会計「真似はできても、あちらが他の様々な
 組織や国家に同様の売り込みをしないとも限らない。
 ……そうですね?」
中年商人「場合によっては……」
青年商人「そう言うことにはならんで欲しいな。
 我らは商人なのだから」

625 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:39:19.13 ID:5kaffl9OP
――冬越しの村、夏
小さな村人「ほーぅい、ほーぅい」
痩せた村人「ほーぅい」
小さな村人「なんて良い天気なんだろう」
痩せた村人「まったくだなや、大麦さんもそだっとるよ」
小さな村人「修道院が出来てから、色々教えてもらえるしなや」
痩せた村人「おや、修道士さんだべさ」
修道士「こんにちは、精が出ますね」
小さな村人「こんにちは」ぺこり
痩せた村人「こんにちはだなや」ぺこり
修道士「今日はどうされています?」
小さな村人「わしは川でマスを釣ってきただぁよ」
痩せた村人「わしは薪をつくってただぁ」
修道士「それは良かった」
小さな村人「修道士さんは?」

627 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:42:35.55 ID:5kaffl9OP
修道士「ははは、実はですね。
 試しに作っていた作物が、早くも二回目の  収穫を迎えたんですよ!」
小さな村人「なんだか、修道士さんも嬉しそうだなや!」
修道士「ええ、嬉しいです。大地が恵んでくださった。
 これは光の精霊様が頑張れとおっしゃってくれて
 いるわけですよ。それで、この収穫の報告に
 学士様への所へ行こうかと思いましてね」
小さな村人「そうかそうか、そうだったんだべ」
修道士「ええ。この作物、馬鈴薯というのですが
 甘くてほくほくして大層美味しいのですよ」
小さな村人「そうかぁ、一度食べてみたいだなやー」
痩せた村人「どんな味なんだろう」
魔王「招待するぞ?」
修道士「ああ、これは学士様!」
小さな村人「学士様、こんにちはですだよ」
痩せた村人「こんにちは、学士様。良い天気ですだ」

629 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:44:34.64 ID:5kaffl9OP
修道士「いま、ご報告にうかがおうかと」
魔王「ああ、ありがとう。そろそろかと思っていたのだ」
メイド姉妹 ぺこり
修道士「計画通りに取れました。いやいや、好調ですね。
 荷車二台分はたっぷりと取れたかと思います」
魔王「土壌採集は?」
修道士「指示通り、六カ所でそれぞれ
 樽一杯分づつを保存してあります。それにしても
 我が修道会も農業技術の集積は進めてきましたが
 前代未聞の方法ですね」
魔王「結果が出てくれれば嬉しいのだがな。
 ふむ、これか」
修道士「ええ、良く育っています」
魔王「よし、振る舞いをしよう」
修道士「振る舞い、ですか?」
魔王「こいつを広めるためには、何はともあれ、
 皆に食べてもらわねば始まるまい?
 それには、宴でも開いて振る舞うのが一番だ」

630 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:47:57.94 ID:5kaffl9OP
小さな村人「ほんとうですか? 学士様」
痩せた村人「良いのでございますか」
修道士「どうです?」
魔王「もちろん本当だ。修道士どの、いかがだろう?
 修道院の前庭を借りることが出来ようか?」
修道士「もちろんですよ。でも、この馬鈴薯は売って
 資金に充てるのかと思っていましたよ」
魔王「金はもちろん欲しいが、独り占めするつもりはない。
 飢えなく、皆が豊かになる方法を考えないと、
 先が続かない。そのためには村の皆の手助けが必要だ」
小さな村人「うわぁ、食べてみたいですだ学士様」
痩せた村人「おらのところの畑でも作れるようになるですだ?」
修道士「ああ。もちろんさ。
 作ってみたが、小麦と比べて世話が大変と云うこともない。
 もちろんいくつか気をつけなければならないことは
 あるけれど、それは修道会で教えてあげることが出来る」

632 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 16:52:32.61 ID:5kaffl9OP
小さな村人「さっそく家内におしえてやらにゃぁ!」
魔王「おお、そうだ。宴の支度に手が足りないかも知れぬ。
 奥方の手が空いていれば来ていただけると助かると
 思うぞ。なあ、修道士殿」
小さな村人「あーれ。学士様。奥方なんて照れるだよ。
 うちのはただの母ちゃんだよ。でも、そう云われると
 なんだか母ちゃんも悪い気はせんかもなぁ。
 こっぱずかしいな。でも直ぐに行かせるから!」
修道士「そうですね、ご報告もしたということにして
 私も帰って他の修道士、騎士院長にも伝えて参ります。
 ああ、そうだ。その、料理はどうすればよいでしょう」
魔王「心配ない。いってくれるな?」
メイド姉「はい」ぺこり
メイド妹「いきまーっす」
修道士「それは助かります。まだこの馬鈴薯の調理方法を
 研究した訳じゃありませんからね」
魔王「あー。くれぐれも云っておくが、
 揚げ馬鈴薯だけは必ず作るのだぞ?」

675 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:18:50.82 ID:5kaffl9OP
――冬の国、王宮
王子「じぃ、じぃ〜」
執事「なんでございましょう、若」
王子「若はやめろ。俺はもう二十歳だ」
執事「どうしたのでございます?」
王子「じぃは馬鈴薯なる物を知ってるか?」
執事「ははぁん。若も馬鈴薯を食べたので?」
王子「ああ、食べた。美味いな!」
執事「何でも旅の学者がこの地へもたらしたとか」
王子「うまいうえに、俺たちの貧しい国でも
 もっぎゅもっぎゅ……栽培できるらしいな」
執事「さようでございますなぁ」
王子「情報はあるのか?」
執事「ございますとも」

678 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:24:10.25 ID:5kaffl9OP
王子「ふむふむ」
執事「こちらの書類は関連項目でございます」
ぺらり
王子「では、湖畔修道会が主導で栽培を
 推し進めているのだな?」
執事「そうなりますな。また、この湖畔修道会は
 合わせて様々な改良を施しているようで」
王子「ふむ、どのような?」
執事「まずは、四輪作といわれるものですな。触れ込みに
 よれば大地の恵みを目減りさせずに、四年周期で麦作を
 行なう手法です。以前の三輪作にくらべて、小麦はもと
 より豚や羊などを安定して供給できるようですな」
王子「冬のあいだにもか?」
執事「冬のあいだには、家畜にカブを食べさせるそうです」

680 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:30:04.11 ID:5kaffl9OP
執事「それから、えー。農機具の改良、修道学院の設立」
王子「学舎か、ふむ」
執事「さらにこの度作られたのが、『風車』です」
王子「それはなんだ?」
執事「『水車』に似たものですが、川の流れではなく
 風の流れをくみとって、動力にしているようですな。
 修道会が雇い入れた船大工の一派が工夫して作った
 そうですが。我が国北部の高地には、充分な水源が
 ありませんから、普及すれば便利でしょう」
王子「……ふむ」
執事「お気になりますか?」
王子「まぁな。税収が上がっているのは嬉しいが……。
 まぁ、それで戦争を終わらせられるわけでなし。
 しょせんイモでは我が国を救うことも出来ないが
 ……まぁ、なんでも目は通しておかんとな」
執事「そうですね。税収は荘園ごと、村ごとに納め
 させますから、一概にどのくらいの効果があるかは
 判りませんが、修道会が関与すると5%ほど税収が
 上がるようですな」
王子「大きいな」
執事「小さく考えてはいけませんよ。1年足らずの
 あいだにそれだけの改革を見せたわけですから
 来年以降どうなるか判りません」

682 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:35:40.50 ID:5kaffl9OP
王子「冬小麦の収穫はこれからであるしな」
執事「その馬鈴薯なる食物は、年に数回収穫できる
 そうですな」
王子「そうなのか?」
執事「驚きですが、事実のようです」
王子「ふむ」
執事「税収の形には表れないものの、農民の暮らしには
 大いなる恩恵を与えていると云って良いでしょうな」
王子「じぃの云うことならば信じぬ訳にはいかないな」
執事「ありがたいことですなぁ」
王子「何らかの施策をするべきだろうか?」
執事「そうですなぁ。まだ始まったばかりのようですから
 傍観していても良いのではないでしょうか」
王子「ふむふむ」 執事「修道会はこの運動で、我が国を始め、南部諸王国に
 確固たる地盤を築く狙いがあると思います。
 運動の結果を出せれば、向こうから王宮に接触を
 持ってくるかと思いますな」

683 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:41:15.79 ID:5kaffl9OP
王子「そうか。修道会の指導者は……」
執事「女騎士ですな」
王子「挨拶くらいしなくて良いのか? 顔見知りではないか」
執事「まぁ、向こうは現役の時から思い込んだら
 動かない高潔なる気位の持ち主でしたからなぁ。
 私も恨みに思われているでしょうな。
 いわば裏切り者ですから」
王子「そうか……。すまない」
執事「もったいないお言葉ですな、若」
王子「今年は魔族の動きが鈍い」
執事「おそらく、勇者の噂は真実でしょう」
王子「その勇者を、手を下したわけではないとは云え
 死地に追いやったのは我々だ……。
 勇者が生還したという情報はないのか?」
執事「ございませんな」
王子「この戦争、終わるわけには行かぬのか」
執事「いま戦争を終えれば、真っ先に消滅するのは
 我が国でしょう」

687 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:46:23.82 ID:5kaffl9OP
王子「……」
執事「この冬の国、それをいえばおなじ南部諸王国である
 氷の国、白夜の国、鉄の国はそれぞれ気候も厳しく、
 充分な食料も取れません。最下層の国々です。
 いま現在は魔族との大戦争の前線として
 中央大陸全土からの資金援助と食料援助がとどいている。
 中央大陸の盾と云えば聞こえは良いですが
 詰まるところ走狗になっているに過ぎません。
 援助がとどこおれば、人々は全て飢えて死ぬでしょうな」
王子「しかし、それを知らせず、兵をただ消耗させるのは
 兵達に対する裏切り行為だ。茶番ではないか」
執事「ええ、茶番ですとも。
 しかし茶番をする存在が、王族です」
王子「……戦場で雄々しく散るのは良い。
 それは氷海の戦士の直系たる我が血にふさわしい。
 だが民を欺き、その命を代価にして生を購うのは……」
執事「若、辛抱ください。
 どうか、民を見捨てずにいてください」

689 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 20:55:15.92 ID:5kaffl9OP
――魔界、紅玉神殿
勇者「……うー。疲れた。だるい。腹減った」
火竜大公「や、やるな。黒騎士よ」
勇者「いい加減タフだな、火竜大公」
火竜大公「……退くわけには、行かぬっ」
勇者「おまえ、十回くらいしっぽも腕も切られてるじゃん」
火竜大公「何度でも生やすまでだ!」
勇者「うぁー。どうすれば良いんだよぅ、この変態」
火竜大公「我が命を絶てば良かろう。
 その実力を持っているクセに何を悠長なことをしておる!」
勇者「別に殺したくてやってるわけじゃない。
 編成中の軍勢を退かせてくれれば済む話だろう」
火竜大公「それは出来ぬ。火竜の勇士によって
 『開門都市』は奪還する必要があるのだ」
勇者「あー。やっぱしそれかよぉ」