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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part76


153 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:08:43.16 ID:o0eNIb.P
商人子弟「でも、それは減って当たり前だろう?
 説明に出てきたとおり、水分が抜けるんだから」
従僕「ええ、そうなんですけれど、
 どれくらい減るかですよね。
 いろいろ聞いてみたんですけれど、
 ミルクを鍋に10杯用意すれば、
 1杯分のチーズが出来るみたいです」
商人子弟「1/10か」
従僕「でも、市価で言うと、
 チーズは同じ重さのミルクの30倍くらいの
 値段で売れているんです。
 1/10なら、値段は10倍で良いはずでしょう?」
商人子弟「ふぅむ、つまりその余剰部分は、
 人件費とか、他の材料費とか何だろうな。運送費とか」
従僕「えーっと、それもあるんですけれど、
 大きいのは熟成にかかる費用なんです」
商人子弟「熟成……」
従僕「つまり、チーズは冷暗所で熟成させなければ
 ならないでしょう?
 農家の人から見るとミルクを仕入れてチーズを作っても、
 すぐにはお金にはならないんです。
 お金になるのは、半年から二年ほどたったあと。
 しかも、そのころまでチーズが無事かどうかは
 判らないし、チーズの値段が上がっているか
 下がっているかも判らないんです」
商人子弟「ふむ」

155 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:11:46.49 ID:o0eNIb.P
従僕「ぼくの調べたところ、チーズを作るって言うのは、
 ずいぶん、なんていえばいいのか……。
 宝くじを買うようなものみたいなんです。
 だから大きくいっぱい作るわけには、行かないみたいな」
商人子弟「ふむ。で?」
従僕「で、考えたのはこれです」
ごそごそ
商人子弟「ふむふむ」
従僕「この紙に書いたんですけれど……」
商人子弟「これは、保管所だな?」
従僕「です。……えっと、えっと。
 塩水につけてあとは塾生を待つだけのチーズを、
 “販売後の価格の6割”を基準に買い取るんです。
 そうすれば、チーズを作った人はチーズを作った
 次の週には現金を受け取ることが出来ますよね?」
商人子弟「そうなるな」
従僕「で、この保管所の人は、一定期間、チーズを
 裏返したりして管理して、出荷時期が来たら販売するんです。
 この保管所のお店にはいつでもチーズが並ぶことになるし、
 材料調達や製造のための人手や道具、技術は必要ないです。
 どちらかというと、管理業務に近いです」

158 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:18:03.27 ID:o0eNIb.P
商人子弟「でも、管理の途中で虫食いが発生したりして
 トラブルが起きたら、チーズはダメになっちゃうだろう?」
従僕「ですです。だから6割で買い取りなんです。
 4割は、利益率と考えるのがおかしくて、
 これは、危機とか、保険とか……」
商人子弟「リスク?」
従僕「です。そのりすくの、費用です。
 ポイントは、数です。
  つまり、何ヵ所かの保管所を作ってチーズを熟成のあいだ
 保存することによって、そのりすくを低下させるんです。
 一個一個のチーズはダメかも知れないし、
 無事出来るかも知れないし、美味しくできるかも
 知れないでしょ?
  小さな農家のおじさんは、チーズが四つ続けて失敗したら
 次にミルクを買うお金もなくなっちゃうんです。
  でも、一杯チーズを扱っていれば、全体の1/10が
 失敗しても、それは他の成功部分で吸収できますよね。
 だから、ここではチーズを中間の価格で買い取って
 売れた儲けで、平均化しようって言う考えなんです。
  ……あの、変なこと言ってますか?」
商人子弟「いいや、いいぞ。続けて」

159 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:19:03.93 ID:o0eNIb.P
従僕「この買い取り価格は、いまとりあえずで6割って
 決めてありますけれど、
 これはこの数式にいままでの市場価格を代入した
 だいたいの数字です。もし、チーズが沢山ダメになるなら
 この買い取り価格の割合を下げればいいし、
 成功率が高いのなら上げればいいですよね?
 えと、これはですね……んっと」
 
商人子弟「代替え的な意味で、金利なんだな」
従僕「はいです! で、もっとあるんです。
 今後はこの価格を元に、納入してくれる農家さんの
 チーズのおいしさとか、売れ具合とか、
 その年のチーズの多さとか少なさを入れて
 細かく買い取り価格を分けてゆくと良いと思うんです」
商人子弟「ふむ、そのこころは?」にこり
従僕「だって、美味しいって褒めてもらえたら
 それで“チーズ一等賞まーく”とかもらえたら
 頑張ってもっと美味しいチーズを作るでしょう?」
商人子弟「よーし。良くできたぞ」くしゃくしゃ
従僕「ふふふーん」にこにこ
商人子弟「なかなか優秀になったじゃないか!」
従僕「ですか? ですか? ご褒美ですか♪」
商人子弟「ご褒美は次の課題だ」
従僕「……」ピシッ
商人子弟「次も難問。……そう。長靴だな」

175 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:51:14.88 ID:o0eNIb.P
――開門都市、改築された酒場
ちりんちりーん♪
勇者「おぃーっす」
魔王「おい。いいのか?」
勇者「いいんだ、気安い店なんだ」
有角娘「いらっしゃいませー♪」
酒場の主人「おー。これはこれは、黒騎士の旦那じゃ
 ありやせんか。さぁさぁ、こっちへどうぞ!」
勇者「な? 顔なじみなんだよ」
有角娘「何を飲みますかー?」
魔王「あー」
勇者「冷たいエール二杯ね」
 がやがやがや
 
魔王「わたし決めていないぞ」
勇者「これがお約束なの」
魔王「そうなのか。……わたしは、その。
 この種の酒場には初めて入ったぞ」
勇者「そうなの?」
魔王「必要がなかったからな」
有角娘「おまちどうさまー!」 ドドンッ!

176 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:52:57.95 ID:o0eNIb.P
魔王「あ、ありがとう」
勇者「さぁ飲むかっ! 今日は飲みまくるぞ」
魔王「う、うん。代金は良いのか?」
勇者「あとでまとめて払うんだよ。
 ……メイド長いないと、ほんっとに常識的なことは
 判らないんだなぁ、魔王は」
魔王「すまん」
勇者「しょげるなよ。せっかく旨い物くいにきたんだし」
魔王「そうだな」
勇者「かんぱーい!」
魔王「かんぱい」
 がやがやがや
   人間商人「おーい! こっちに葡萄酒くれ! ビンで!」
   魔族商人「それから羊の焼き串を二本だ!」
勇者「何食おうか?」魔王「わたしは何を食べればいいのだ?」きょときょと
勇者「おっちゃーん、何があるの?」
酒場の主人「なんでもあるが、今日はパンを焼いたぞ。
 馬鈴薯もあるし、羊も潰したな。卵は新鮮なのがあって
 キャベツの漬け物もあるし、ベーコンもソーセージもある。
 ソーセージは最近人気の、呼称と軟骨の入ったヤツだ」
勇者「じゃぁ、それ。それから、チーズな。
 んで、岩塩振った羊肉の軟らかいところと、
 野菜の壺煮に、リンゴも」

179 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:54:31.80 ID:o0eNIb.P
酒場の主人「あいよう! 順番は適当でいいよな」
勇者「任せるよ〜」
魔王「な、なんだ。勇者、手慣れているではないか」
勇者「そりゃ勇者だもの。あちこち旅してるから」
 がやがやがや
魔王「そうか……。混んでいるな」
勇者「ああ、この店は結構人気があるんだ。
 開門都市が人間に攻略する前からの老舗だし、
 商売は堅実で、料理の味は良いときてる」
酒場の主人「おうおう、褒めてくれてるじゃねぇか。
 おらよぅ、まずはチーズと、ソーセージだ。
 たっぷり盛っておいたからな」
魔王「ありがとう……」
勇者「何かしこまってるんだ?」
酒場の主人「はははっ! しかたあるめぇ!
 きっと、このお嬢様はこういう下品な店には
 慣れてねぇんだよ。この童貞小僧っ! がはははっ!
 デートの店くらいは選びやがれってんだ!」
勇者「そんなに自分の店をこき下ろして
 泣きたくならないのかよ、おやっさんはよっ」
酒場の主人「こきゃぁがれ。この店は、下品でいいんだよ。
 街で働いているそう言う連中が酒と旨いメシを目当てに来る。
 そう言う店なんだからよ」

181 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:56:16.42 ID:o0eNIb.P
魔王「……」もぐもぐ
勇者「どうよ、最近」
酒場の主人「あー。いい感じだよ。
 どうだい? 広くなったろ。区画整理とやらで
 道が一本つぶれて、その分店を少し建てましたんだ。
 金を借りることも出来たし、
 最近じゃ、食料も安く入ってくるようになった。
 人が増えてるんだな、日々の稼ぎも何とかだ」
勇者「そっか。なら良かったよ」
酒場の主人「黒騎士さまのお陰って感謝もしてるんだぜ?」
勇者「よせやい」
有角娘「お代わりいかがですかー?」
酒場の主人「だ、そうだ。どうだい?」
勇者「おい、次は何を飲む?」
魔王「えーっと、その」
有角娘「葡萄酒とかいかがですか?」
魔王「じゃぁ、それ」
勇者「二つ頼むよ」
有角娘「うけたまわりましたぁ♪」
酒場の主人「まあ、ゆっくりしていってくれ!
 羊が焼けたら運んできてやるよっ」

184 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 23:01:41.33 ID:o0eNIb.P
 がやがやがや
  人間商人「塩はどんなあんばいだ」
  魔族商人「儲かるって言えば儲かるが、安定してきたし
   以前のように金塊を運ぶって感じではないな」
  紋様店主「いやいやいや、大変ですよ。あははは」
  旅の傭兵「そう言うこともあるかも知れぬなぁ!」
 がやがやがや
魔王「――」きょろきょろ
勇者「どうした? ぽやんとして」
魔王「え、あ」
勇者「?」
魔王「う、うん」
勇者「もしかして、不味かったか?」
魔王「違うぞ。このソーセージはすごく美味しい」
勇者「じゃぁ、こういう店は苦手か? ごめんな」
魔王「いやっ。そんなことはないっ。ただ、その。
 はじめてで。こんな風に賑やかで、楽しそうで。
 そうではないかと思っていたが、やはりわたしは
 世間知らずなんだな」
勇者「そっか」

187 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 23:03:44.98 ID:o0eNIb.P
  獣人狩人「今年の毛皮はよく売れた。これで土産が買える」
  人間商人「では碧玉なんてどうです?
   気になる娘さんに上げれば、2人の仲も進むこと
   間違いなしですよ。あるいは鉄の鍋などは?
   足がついていてどんな所でも使えますしね」
 がやがやがや
魔王「――」
勇者「ん?」
魔王「あれらは、何を話しているのだろう?」
勇者「いろーんなことだよ。
 ほら、あそこにいる獣牙の男は森から毛皮を売りに来たんだ。
 彼はよい年頃だから、そろそろ独り立ちの時期なんだろう。
 剣の鞘もまだ新品同然だし、随分ほっとしているな。
 多分1人で街に毛皮を売りに来たのは
 初めてなんじゃないかな? 良い値段で売れたんだろうな。
 俺はあんまり詳しくないけれど、彼はこれで儲けをもって
 集落に帰れば、一人前だ。結婚も認められるようになる」
魔王「そうか。……わたしは獣牙の政治や経済規模や
 人口統計や支配者には詳しい。
 文化だって一通りは知っているつもりだ。
 だからそうやって説明されている通過儀礼としての
 行商だって知ってはいるけれど、見たのは初めてだ」
勇者「うん」
有角娘「野菜の壺煮ですよ〜♪ どうぞ」
魔王「暖かそうだ」
有角娘「暖かくて美味しいですよ! 召し上がれ」にこっ

188 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 23:05:49.61 ID:o0eNIb.P
勇者「あんがとさんっ!」
有角娘「いえいえっ」
魔王「……」こくっ、こくっ
勇者「美味いなぁ! もきゅもきゅ」
魔王「うん」
勇者「?」
魔王「いや、美味しいな。……それに」
勇者「……」
 がやがやがや
  水竜娘「あははははっ。お上手です」
  旅の詩人「いえいえ、真心のみですよ」
魔王「みんな、楽しそうだ」
勇者「そうだな」
魔王「顔を真っ赤に火照らせて、笑っている」
勇者「酒場だし、そんなもんだよ」
魔王「そうなのか? でも」
勇者「もぐもぐ」
魔王「なんだか、すごいなぁ……。
 胸の内側が、思いであふれそうな気分だ」
勇者「もきゅもきゅ」

191 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 23:08:23.23 ID:o0eNIb.P
酒場の主人「ほいきた! こんどは子羊の網焼き、
 岩塩とハーブ、タマネギ添えだ。
 ――ん、どうした?」
魔王「ご主人。ここの料理は美味しい」
勇者「へ?」
酒場の主人「おやおや、どうしたってんだ、
 美人のお嬢さんに褒められちまったよ。こりゃまいるな!」
魔王「いや、嘘偽りのない気持ちだ」
勇者「そりゃ、茹で馬鈴薯10連発のあとならなー」
酒場の主人「ま、いいやな! よし、葡萄酒をもってこい!
 この2人に一杯ずつ注ぐんだ!
 この方は魔王様直属の黒騎士殿なんだぞ!
 考えてみれば、童貞でこれはすごいことだ!」
勇者「やかましいわっ!」
酒場の主人「我が店の最も栄誉ある常連様だ。
 なんたって、あの解放作戦を
 この店で計画してくだすったんだからな!」
魔王「そうなのか?」
勇者「まぁ」
獣人狩人「そうなのか? 黒騎士殿なのか!?」
人間商人「なんてこったい!
 こんなところでお目にかかるとは!」
魔族商人「魔王様は大丈夫なんですけぇ?
 なんでも大会議でお倒れになったと聞きましたが」
紋様店主「おかげさまで、私たちは商いを続けさせて
 もらってますよ! 魔王様には感謝してるんです」

196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 23:12:00.20 ID:o0eNIb.P
魔王「え、あ……。あっと」
勇者「……よし」 ガタン!
有角娘「え? え!?」
酒場の主人「ほほう!」
勇者「あー! 聞いてくれ諸君っ!!
 確かに俺は魔王直属の騎士、魔界の剣、黒騎士だっ!
 心配には及ばぬ。確かに狂賊の一矢に魔王は倒れたが
 その傷もすっかり癒えて、今日も魔王城からこの魔界
 全ての平安の繁栄を祈っている!!
  この魔王直轄地、開門都市を見ろっ!
 人間と魔族が互いに杯を干し、喧嘩をしながらも
 仲良くやっている。様々なものを売り買いしてなっ!
  おやじぃ!」
酒場の主人「あいよぅ!!」
勇者「全員に好きなものを注いでくれっ!
 最初の一杯の上がりは俺が持つぜ!
 さぁみんな、杯を掲げろっ! 魔王様に乾杯だ!
 あの方は喧嘩は弱いが、皆を気にかけることでは
 並ぶものがないぞ! その一杯が魔王の力となることを
 願って杯を干してくれっ!」
有角娘「あわあわ」ぱたぱた「どうぞ、こっちもどうぞ」
「「我らが魔王に栄えあれ! この地に永久の平安あれっ」」

202 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 23:23:36.96 ID:o0eNIb.P
――蔓穂ヶ原にほど近い廃砦
器用な少年「ほれ、これで、こうやって、こうよ」
ガチャリ!
貴族子弟「ほほう。見事です」
傭兵の生き残り「うまいもんだ」
器用な少年「へっへーん!」
貴族子弟「いや、誰にでも取り柄があるものですね」
傭兵の生き残り「ははは」
器用な少年「くそぅ! お前ら今に見てろよ」
貴族子弟「褒めているのに」
傭兵の生き残り「いいじゃねぇか。坊主。
 暖かい服も買ってもらったし、
 メシも食わせてもらってるんだろう」
器用な少年「これは正統な報酬ってヤツだ!」
貴族子弟「そうそう。報酬です。貸し借りはない」
器用な少年「なっ。こう言っている」
貴族子弟「ただし。故郷の敵討ちのチャンスを
 与えられたという意味で、まともな道義心のある少年ならば
 当然のように感謝をするでしょうがね」
器用な少年「……それは、してる」

203 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 23:25:24.32 ID:o0eNIb.P
貴族子弟「よろしいでしょう。
 しかし、はぁ……。こりゃしつけは大変だ」
器用な少年「はぁー!?」
貴族子弟「いえいえ、こちらのことですよ。少年」
傭兵の生き残り「俺たちも良いんですかい?
 隊長もいなくなっちまったのに」
貴族子弟「あなた方の隊長はわたしの依頼を
 一分の隙無く果たしてくれました。
 今度はこちらが契約を守る番です」
傭兵の生き残り「ならありがたいけどな」
器用な少年「よー。あんちゃん。こんな場所で良いのかよ?」
貴族子弟「ええ、逆に私たちの国に運び込んだら
 きっと発見されてしまいますよ。監視されていると
 思って間違いないでしょう。敵も馬鹿じゃない。
 それに……。ずいぶんな量でしたからね」
傭兵の生き残り「そうですな。へとへとだ」
器用な少年「ところで、あれはなんだったの?」
貴族子弟「硝石です」
傭兵の生き残り「……宝石にしては汚かったな」
器用な少年「ただのくず石じゃねぇの?」
貴族子弟「ただのくずでで終わって欲しいですね」

222 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 23:59:02.59 ID:o0eNIb.P
――開門都市近郊、虹の降る丘
さくっさくっ
魔王「……」
勇者「……」
魔王「……うー」
勇者「起きたか?」
魔王「……起きた」
勇者「大丈夫か? そろそろ転移できるけど」
魔王「ダメだ」
勇者「は?」
魔王「いま転移したら終わってしまう」
勇者「ええと」
魔王「魔王の威厳も乙女のイメージも勇者との関係も終わりだ」
勇者「またまたぁ」
魔王「ううっー。とにかく今はダメだ」
勇者「わぁったよ。降ろそうか?」
魔王「うん」
勇者「ほい。……平気か?」

223 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/10/01(木) 00:00:15.32 ID:chcZF3wP
魔王「割とダメだ」
勇者「あー」
魔王「お水あるかな」
勇者「持たせてくれたけど。親父は手回しいいなぁ」
魔王「……こくん、こくんっ」
勇者「……」
魔王「ううう。頭がぐらぐらするぞ」
勇者「相当飲んだものな」
魔王「魔王にあるまじきていたらく。
 今なら理解できそうだ。
 三軸以外の戦闘機動というものを。
 ああ。世界は他にも次元があるのだなぁ」
勇者「何を言っているんだ」
魔王「首から上がデフレで、首から下はインフレなんだ」
勇者「なんだか良く判らないけれど、
 凄まじい状態だって事は判った」
魔王「勇者に掴まってないと、世界から落ちる」
勇者「思うぞんぶん掴まっててくれ」
魔王「助かる、勇者」
勇者「酔っぱらいの開放くらいだぞ、俺が感謝されるのって」