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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part75


864 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/29(火) 19:26:07.61 ID:1eGbtUQP
女騎士「戦っていると、疑問に想う。
 今流れている血は何のためなのかと。
 その血に相応しい代価を我々は得られるのだろうかと。
 時に無為な犠牲なのではないかと疑う」
魔王「無くても良い犠牲だったんだ。
 少なくとも今日の数千は。
 わたしがもっと注意をもって扱っていたら、
 無くても済んだはずの……」
女騎士「……」
魔王「……」
勇者「おい」
女騎士「?」
勇者「魔王、女騎士。……大事な話があるんだよ」
女騎士「なんだ?」 魔王「こんな時に」
勇者「朝露に濡れた葉を踏んで、草原を歩く。
 空にはバラ色の朝焼け。世界はあらゆる方向に
 繋がっているけれど、自分に判るのは、今まで歩いてきた道だけ。
 担いでいるのは小さな荷物。どこにでも行けるけれど
 どこに行けとも命令はされていない」
女騎士「……?」
魔王「――」

865 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/29(火) 19:27:12.91 ID:1eGbtUQP
勇者「あの丘の向こうに何があるんだろう?
 そう思ったことはないか」
女騎士「何を言っているんだ?」
魔王「――」ぎゅっ
勇者「ただ単純にさ。あの向こうはどうなってるんだろう?
 そんな気分で旅に出る気はないかって話だよ。
 もしかしたらすごく困難で、丘にたどり着かないかも
 知れないけれど……。
 でもそんなもんだろう? どっちを目指すにしたって。
  街道は曲がりくねりながら谷に続いているように見える。
 丘に登るには朝露に濡れたこの斜面を登らなければならない
 でも、登ったら何か見たことがないものが見えるかも知れない」
女騎士「……それって」
魔王「朝露じゃなくて、それは血かも知れない」
勇者「それでもさ」
女騎士「――」
勇者「だって、俺たち歩かないわけにはいかないじゃん。
 歩かないように頑張ったって、勝手に背景のほうで
 流れていくじゃん。……仕方ないじゃん。
 だったら、やっぱり見たことがないものがみたいよ。
 俺はずっと壊し屋だったから、
 そうじゃないものが見てみたいよ」
女騎士「勇者……」
魔王「……勇者」

866 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/29(火) 19:29:12.22 ID:1eGbtUQP
勇者「なー。あのさ」
ひゅるるる〜
勇者「一緒に、行かないか?」
女騎士「――」 魔王「――」
勇者「恥ずかしい話だけど、
 一人だと挫けちゃいそうなんだよ。
 それに、丘の上に立った時、
 一緒にそこから眺める相手が欲しいんだ」
女騎士 ちらっ
魔王 こくり
勇者「どうだい」
女騎士「よかろう。いや、むしろ今度おいていったら承知しないぞ」
魔王「勇者のほうがわたしの物なのだ。
 置いていくならわたしが放置する。留守番が勇者だ」
勇者「うん。……うんっ」
女騎士「剣の主は心配性だ。自分だってへこんでいるくせに」
魔王「それが勇者の良いところだ。意地っ張りで愛おしい」
女騎士「愛おしい!? 抜け駆けは無しにしてもらおう、魔王!」
魔王「自分の持ち物を何と言っても構わないではないか!」がうがう
勇者「ううう」
女騎士「勇者。早速だがわたしと色んな契りを交わそう。
 その方がいい。長期のお出かけには支度が肝心だ」
魔王「それが抜け駆けでなくてなんだというのだっ」
女騎士「湖畔修道会の宗教的な儀式だ」
魔王「自分の欲望のままに教義を改ざんするなど、恥を知れっ!」
勇者「いや、その……。仲良くね?」

872 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/29(火) 19:39:02.00 ID:1eGbtUQP
――白夜王国、宮殿の最も豪華な一室
大主教「……黒騎士は……取り逃がしたか」
百合騎士団隊長「申し訳ありませぬ。あの飛び込んできた
 薄汚い傭兵さえいなければ、必ずや捕縛した物をっ」
大主教「……良い……であろうかと。……思っていた。
 その……ハエは……どうした?」
百合騎士団隊長「その場で斬首いたしました」
大主教「くふっ。身の程を知らぬ……。ことよ」
 カチャン
従軍司祭長「大主教様」
大主教「……どうだ?」
従軍司祭長「こちらは、しかと」
大主教「……ふふ、ふふふ、ふふふふふ」
百合騎士団隊長「それは?」
従軍司祭長「この二つは聖別した……いわば宝石」
百合騎士団隊長 ゴクリ
大主教「はやく……早く、我が手に……」
従軍司祭長「ははぁ」 すっ
大主教「我が手に来たか……ふふっ……待ちかねたぞ
 この輝き……そこに満ちる雄々しき魔力……
 瑞々しき不滅の輝き……」
百合騎士団隊長 ガタガタガタガタ
大主教「……刻印の二つの眼球よ」

105 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:01:11.20 ID:o0eNIb.P
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部
同盟職員「早馬の知らせですっ!
 南部で、南部の諸国と中央の聖鍵遠征軍のあいだに
 軍事衝突が発生したと!」
同盟職員娘「っ!」
留守部長「……出遅れたな」
同盟職員「はい」
同盟職員娘「間に合わなかったんですね……」
留守部長「鉄を抑える速度が遅かった。
 静粛性を優先した結果でもあるし、
 おそらく以前から備蓄をしていたんだろう……。
 そうでなければ鉄の値段が揺れても、
 反応が無いのがおかしすぎる」
同盟職員「これでは武器製造への圧力として機能していません」
同盟職員娘「このままでは、資金的な傷口が広がります。
 撤退時期を探るべきでは?」
留守部長「……」
同盟職員「すみません。もうちょっと実態把握さえ早ければ」
留守部長「いや。これは開始時期の見切りの問題だった。
 やはり商圏の拡大と共に目が行き届いていない部分が
 広がりつつあるんだな」
がちゃり
青年商人「……いあいや。まだこれから、といきましょう」

107 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:02:47.48 ID:o0eNIb.P
同盟職員「委員っ!」
留守部長「いつお戻りに?」
青年商人「たった今です。開門都市は任せてきました」
女魔法使い「……」ぽやー
同盟職員「えっと、その方は?」
青年商人「ああ。ここまで運んでくれたんです。
 とびきりの食事と甘い物を用意してください」
女魔法使い「……」こくこく
青年商人「さて。……状況報告を」
同盟職員「たった今はいった情報ですが、
 南部諸国と中央の遠征軍のあいだに
 軍事衝突が発生した模様です。
 ……中央の新型武器が使用されたとのこと」
青年商人「それがマスケットですか?」
女魔法使い「……そう」
青年商人「より詳しい状況をお願いしていいですかね?」
女魔法使い「……当初、南部諸王国は
 白夜国を制圧した蒼魔族との戦闘を想定していた。
 女騎士は司令官として鉄の国と白夜国の国境付近、
 蔓穂ヶ原に約1万数千人をもって布陣。
 蒼魔族約2万を迎撃、丸一日にわたる戦闘を耐えきる。
 しかし、ここに後背から約4万の聖鍵遠征軍が強襲」

108 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:04:57.52 ID:o0eNIb.P
女魔法使い「……聖鍵遠征軍は蒼魔族を中心としながらも、
 ほぼ無差別に南部諸王国をも攻撃。
 その攻撃の中心となったのが、聖鍵遠征軍の新兵装。
 マスケット銃と、その部隊。
  女騎士率いる南部諸王国軍は、当初蒼魔族に使用する
 予定だった火炎の罠を持って蔓穂ヶ原を退却。
 聖鍵遠征軍も約5時間の激突を充分と見たのか、
 兵を引き上げ、蒼魔族から奪還した白夜王国を
 本拠と定め、掃討の後、駐留。
 ……現在は軍事的な緊張はあるものの、
 一時的な平穏状態にある。
  なお、この戦闘において、蒼魔族約2万はほぼ完全に壊滅。
 南部諸王国軍は兵3500あまりを、
 聖鍵遠征軍は6000名程度を失う。
  ただし、これらを損耗率の観点から見ると、
 南部諸王国軍は参加した兵の30%、全軍の12%。
 聖鍵遠征軍においては会戦参加兵員の15%、
 3%程度に過ぎないと推測される」
青年商人「では聖鍵遠征軍の現在規模は……」
女魔法使い「訓練度を度外視するならば20数万に達する」
青年商人「南部諸王国は、滅亡寸前ですか……」

109 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:07:18.28 ID:o0eNIb.P
女魔法使い「そうとも言い切れない。理由は二つある。
 まず、ひとつ目は聖鍵遠征軍は南部諸王国攻略よりも
 魔界侵攻を優先事項として決定したようだから」
青年商人「ふむ。……たしかに教会が大きな発言権を持つ
 聖鍵遠征軍ですから、その決定は理解できなくもないですが
 南部諸王国軍を放置するというのも解せませんね」
女魔法使い「……これは推測だが、おそらく聖鍵遠征軍は
 その強大な軍事力の1/3程度でも動員すれば南部の王国を
 殲滅できる。つまり、挟撃などといった策略を恐れないで
 済むという事情によるものと思われる」
同盟職員「20万の軍勢があればそれも可能なのか……」
青年商人「もう一点は?」
女魔法使い「開戦直後、南部三ヶ国通商同盟はその名称を破棄。
 あらたに湖の国、梢の国、葦風の国、赤馬の国および
 自由通商の独立都市七つを加え
 『南部連合』の樹立を宣言した」
留守部長「とうとう、ですね」
青年商人「ここ以外にはないというタイミングです。
 そう言うことでしたか。
 20万の兵力動員は、確かに素晴らしい攻撃力を
 教会勢力にもたらしましたが、その分、貴族や領主、
 多くの国の地元は防御力の殆どを失っているはずだ。
  もちろん、それらの国々全ては、聖光教会の指導下にあり
 一斉に攻撃能力も防御能力も失う。そう言う前提で軍が
 国元を離れたわけですが、『南部連合』の樹立は
 その前提条件を大きく揺るがした」

110 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:08:58.04 ID:o0eNIb.P
同盟職員娘「いま、聖鍵遠征軍が南部連合を攻撃した場合、
 より自分たちの内側に近い国――たとえば、湖の国や
 梢の国が、防衛軍不在の中央国家群を蹂躙するかも知れない。
 農民を中心に編成された聖鍵遠征軍であっても、
 支援物資や指揮系統は、やはり貴族の力が欠かせない。
 政治的な均衡状態が訪れているのですね」
留守部長「どちら側も、相手を人質に取った形か……」
同盟職員「そうですね。聖鍵遠征軍は、
 その強大な武力で南部連合の中枢部を人質に取っている。
 南部連合は、その新しく広がった友邦で、無防備となった
 中央諸国を人質に取っている」
青年商人「それだけじゃありませんけどね。
 ……これは相当に複雑になってきました」くすっ
同盟職員娘「?」
青年商人「何から何まで相似形になってきましたね。
 民衆に自由という武器を与えたゆえ、
 民衆の支持を失うような政策をとれない南部連合。
 民衆にマスケットという武器を与えたゆえに
 民衆の怒りが自分に向いたら破滅する中央国家群……。
  どちらも難しい舵取りになってきたようです。
 我が『同盟』、『魔族会議』、『魔界』……」
同盟職員「勝てますか?」
青年商人「保養は出来ませんけれどね。
 ですが、ただの力勝負では知恵を働かせる隙がない。
 ある程度状況が複雑でないと、商人は勝機を見いだせません。
 その意味ではまだチャンスは去っていない。
 プレイヤーが多数参加した乱戦こそが商人の
 活躍できる戦場です」

111 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:14:21.64 ID:o0eNIb.P
同盟職員「しかし、現に軍事衝突は……」
青年商人「ええ、起きてしまっています。
 だが、まだ手遅れと決まったわけではない。
 向こうに専門のスタッフがいなければチャンスは広がる」
同盟職員「専門……?」
青年商人「物資調達の、ですよ。
 ……中央の秘密製鉄工房の所在地は突き止めましたか?」
同盟職員「はい、それは。銅の国です。合計三カ所」
青年商人「良いでしょう。本部長、三カ所に出店の準備を」
留守部長「出店?」
青年商人「酒場と娼館ですよ。……耳目を忍び込ませないとね」
留守部長「了解です」にやっ
青年商人「聖鍵遠征軍に配置されているマスケットの量を
 算定してください。
 いくら何でも20万の兵に20万の
 マスケットが配置されているとは思えない。
 それにマスケットは機械です。
 呼称もすれば、予備部品も必要のはず。
 そして弾薬がいるんですよね?」
女魔法使い「……そう。運用中の補給が常に必要」
同盟職員「とはいえ、鉄鉱石は相当量の備蓄が
 聖王国にあると推測されるんです……。
 すでに一定数のマスケットが配備されている以上、
 これ以上圧力を加えても意味がないのでは?」

113 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:16:36.08 ID:o0eNIb.P
青年商人「いいえ。意味はあります。相手は中央国家群。
 その巨大さは武器ですが、弱点でもある。
 末端の壊死が中央に認識されるまでのタイムラグがね」
同盟職員「え?」
青年商人「鉄製品の最終的な製造原価の内訳を
 考えてください。そこから今回は攻めます」
同盟職員「……加工費?
 しかし、加工費はすなわち人件費です。
 今回の集約工場では、多くの職人を丸ごと抱えて、
 殆ど監禁のような状況で生産のピッチを上げているはず」
青年商人「加工費はそれだけに留まりませんよ」
留守部長「そうかっ!」ぱしんっ
青年商人「ええ。木炭です。
 製鉄を行なうためには鉄鉱石の二倍から三倍の量の
 木炭を必要とする。石炭の採鉱権は?」
留守部長「そちらはぬかりなく押さえています」
青年商人「で、あれば風向きは良い。
 聖王国周辺でもっとも木炭を多く算出する
 梢の国は、南部連合に参入したとのこと。
 であれば、木炭の量をコントロールしていくのは、
 さほど困難な話ではない」
同盟職員娘「資金はどうします?」
青年商人「その中央諸国からいただくとしましょう。
 白夜王国へと移動した20万人、
 それを丸ごと食べさせるには大量の食料が必要です。
 この食料を、海上輸送。自由貿易都市の港から、
 白夜王国の港へと運び、その差益を得ます」
同盟職員「了解っ! 手配を行ないますっ」

114 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:17:51.58 ID:o0eNIb.P
青年商人「取りかかってください」
同盟職員娘「はいっ」
留守部長「承知っ」 たったったっ
青年商人「ふぅ。……間に合いますかね」
女魔法使い「……終わった?」
青年商人「ええ、なんとか」
女魔法使い「……」
青年商人「食い物ですか?」
女魔法使い こくり
青年商人「判りました、用意させましょう。
 貴女の助けがなければ、手遅れになったかも知れない。
 伝説の魔法使いに感謝しますよ」
女魔法使い「……こっちの都合」
青年商人「しかし転移魔法ですか……。
 もうちょっと敷居が低ければ普及間違いないんですけどね」
女魔法使い「……もどる?」
青年商人「いえ、しばらくここで指揮を執るべきでしょう」
女魔法使い「……」じぃ
青年商人「開門都市ですか?
 あっちには公女がいます。あれで聡い人ですから。
 騙されて言いようにされるって事はないでしょう。
 会計さんもいますしね」
女魔法使い「……相方?」
青年商人「よしてください。
 ……そんなものじゃありませんよ。
 取引相手ってのは、もっと神聖なものです」

123 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:38:00.61 ID:o0eNIb.P
――冬越し村、魔王の屋敷、食堂
もそもそ
魔王「……」
勇者「……魔王、塩とって」
魔王「判った」とん
ぱらぱら、もそもそ
勇者「……もぐもぐ」
魔王「なぁ、勇者」
勇者「ん?」
もそもそ
魔王「昨日の夜って何を食べただろう」
勇者「茹でた馬鈴薯に塩振ったのだろう?」
魔王「一昨日は?」
勇者「茹でた馬鈴薯に塩振ったの」
もそもそ
魔王「……」
勇者「……」
魔王「何でこんな事になっているのだっ!」うがぁ

124 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:39:13.51 ID:o0eNIb.P
勇者「だって仕方ないじゃん!
 メイド長は魔王城の手入れをするために突発出張中だし、
 メイド妹は冬の国へと料理修行中だしっ」
魔王「それにしたって三食茹で馬鈴薯はないと思う」
勇者「だってこれは魔王が作ったんだろう?」
魔王「それくらいしかまともに作れる気がしなかったのだ」
勇者「じゃぁ、納得して食うべきだ」
魔王「勇者が作った昼食だって同じだったではないか」
勇者「それしか作れないんだ仕方ないだろうっ」
もそもそ
魔王「……負ける」
勇者「は?」
魔王「このままでは負ける。確実に。魔界は滅びる」
勇者「何言ってるんだ?」
魔王「そんな予感がする」
勇者「……うわっ。暗いぞ、表情が」

128 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 21:42:54.49 ID:o0eNIb.P
もそもそ
魔王「そうだ」
勇者「どうした? もっぎゅもっぎゅ」
魔王「ジャムくらいならあるであろう?
 あれを馬鈴薯に落とせばきっと甘くて美味しいはずだ!」
勇者「おい、早まるなっ」
ぽとっ。ぬりぬり。もしゃもしゃ
魔王「……負けた。魔界は滅びた。
 勇者、私はもうダメだ。そして三千年の時が流れた」
勇者「早いよ、いくら何でもっ」
がたり
魔王「書を捨て街に出よう」
勇者「はぁ?」
魔王「私の職業は魔王なのだ」
勇者「どうしたの?」
魔王「正直煮詰まっているのだ」どよーん
勇者「判らないじゃないけれど」
魔王「どうにかしてくれないか、勇者」
勇者「どうにかしたいのは山々だけどさぁ。
 ……はぁ。仕方ないなぁ」

149 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:04:50.33 ID:o0eNIb.P
――冬の国、王宮、予算編成室
商人子弟「んぅ〜。こいつぁ……」
従僕「商人さまぁ!」ぱたぱたっ
商人子弟「なかなかどうして、侮れないなぁ」
従僕「商人さまっ!!」
商人子弟「おう。どうしたわんこ」
従僕「わんこじゃありません!」
商人子弟「しっぽ揺れてるぞ?」
従僕「えっ? ――生えてるわけ無いじゃないですかっ」
商人子弟「で、どうしたんだ?」
従僕「そうでしたっ」えへん
商人子弟「?」
従僕「課題が出来ましたっ!」
商人子弟「課題?」
従僕「チーズですっ!」
商人子弟「なんだっけそれ?」
従僕「えーっと、チーズを安定して低価格に市場に
 供給するために考えてきました!」

151 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/30(水) 22:06:30.55 ID:o0eNIb.P
商人子弟「おお。そう言えばそんな課題も
 出してたな。よーし、わんこ。聞かせてくれ」
従僕「まず、チーズの作り方を勉強しましたっ」
商人子弟「ふむ、基本は大事だな」
従僕「簡単に云うと、チーズは乳製品です。
 乳を暖めて、かき回し、これに触媒を加えます。
 触媒って言うのは薊の花から作るんですって。
 こうすると、固まり初めて水分が出てきます。
 加熱しながら水分を飛ばして、
 型に入れたら生チーズの完成です。
 でも、ちゃんとしたチーズはこれからが本番で
 この生チーズを塩水につけて、味を調えてから
 冷暗所に数ヶ月から数年のあいだ保存して、
 熟成って云うのをさせないと、完成しません……。
 時間がかかるんですね。で、出来上がりです」
商人子弟「なかなか手間がかかるんだな」
従僕「ですです! でも美味しいですよね。
 ぼく勉強ついでに一杯味見しました」にへらぁ
商人子弟「これ。ほっぺた緩んでるぞ!」
従僕「わわわっ」
商人子弟「で、基礎知識はそれでいいとして、
 そこから何をどう考えたんだ?」
従僕「えっと、最初に考えたのは。
 ミルクからチーズを作ると量が減っちゃうので
 寂しいということです」
商人子弟「ふむ」