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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part70


344 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 00:22:15.85 ID:L1AOl7sP
――蔓穂ヶ原、尾根道を下った周縁地域
蒼魔上級将軍「陣形を整えよ。ここを後詰めとするぞ」
蒼魔近衛兵「はっ! 方陣形っ!」
ザッザッザッ!!
蒼魔軍歩兵「15番隊まで、整列完了しましたっ!」
蒼魔軍軽騎兵「軽騎兵完了」
蒼魔軍弓兵「弓兵、配置よしっ」
蒼魔上級将軍「さて、敵はどうだ?」
斥候部隊「報告位置より動いてはおりません。
 中央部丘陵地帯に前衛陣地を置き、待ち受ける構え」
蒼魔上級将軍「どうやらあの部分が
 最も足場がしっかりしていて、
 敵の騎兵も使いやすいのであろうな」
蒼魔近衛兵「しかし、それはこちらも同じこと」
蒼魔上級将軍「それゆえ、あそこにたどり着く前に
 弓矢でこちらの戦力を出来る限り減らすのが
 きゃつらの作戦だろう」
蒼魔軍歩兵隊長「だが予想済みでございます。
 矢よけの大盾を装備すれば、接近前の矢など何ほどのこともなく。
 人間などの思うとおりにはさせませぬ」
蒼魔上級将軍「いいや。ここはその心根を砕くとしよう。
 だれぞあるっ!! 督戦隊をよべっ!!」
ばさっ!
蒼魔督戦隊長「ここにっ!」がばっ
蒼魔上級将軍「そのほうに先鋒を申しつける!
 中央の丘陵地帯への突破口を開き、
 我が蒼魔族の騎馬部隊を導き入れよっ!!」

345 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 00:24:16.72 ID:L1AOl7sP
――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、前衛陣地
冬国軽騎兵「霧が出てきたな」
冬国槍兵士「ああ……」
冬国弓兵士「蒼魔族接近っ! 目視できますっ!」
女騎士「まだだっ。まだ撃つなっ。引きつけるぞっ!」
冬国仕官「全軍射撃準備っ」
冬国弓兵士 すっ
女騎士「……」
冬国仕官「まだか」
冬国槍兵士「有効射程の外ですが、こちらでも目視確認っ」
冬国弓兵士「思ったよりも大盾の装備は少ない様子。
 臨時の装備だったようですね。
 これならばこちらの弓矢でも効果は十分だ」
女騎士「……っ。まさか」ぎりぎりっ
冬国弓兵士「距離よしっ。姫将軍、号令をっ!!」
女騎士「……っ」
冬国弓兵士「接近します、どうか号令をっ」
女騎士「……構わんっ。撃てぇぇっ!!!」
びゅんびゅんびゅん! びゅんびゅん!
   びゅんびゅんびゅん! びゅんびゅんびゅんっ!

346 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 00:26:28.46 ID:L1AOl7sP
――蔓穂ヶ原、中央部、接近中の蒼魔軍先鋒
奴隷歩兵「ぎゃぁぁぁ!!」
蒼魔督戦隊「進め! 進めっ!」
奴隷歩兵「ダメだっ! 弓矢が壁みたいにっ!」
蒼魔督戦隊「貴様らは敗北者の兵だろう! 奴隷なのだ!」
奴隷歩兵「俺たちは人間だっ。人間に剣を向けるなんてっ」
蒼魔督戦隊「はんっ! この間まで鉄の国と白夜国は
 戦争をしていたと云うじゃないか! どの口がほざくっ!
 さぁ、立て! 立って戦えっ!」
奴隷歩兵「いやだぁ! 俺は死にたくないんだぁ」
蒼魔督戦隊「では死ね」
ドスッ!
奴隷歩兵「あ、ああっー!?」
蒼魔督戦隊「貴様らの背中はこの督戦隊が
 狙っていることを忘れるなっ!
 怖じけずいて逃亡しようとした奴らは、
 この督戦隊がすぐさま射殺してくれるっ!」
奴隷歩兵「な、なんで。なんでこんなっ!」
蒼魔督戦隊「槍を拾え! 突っ込め! あの丘を奪うのだっ!」

353 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 00:33:10.13 ID:L1AOl7sP
――蔓穂ヶ原、森林部、待機場所
ぶるるるっ
軍人子弟「馬に藁を咬ませるでござる。静かに」
鉄国歩兵「はっ」
軍人子弟「……」
              わぁぁ キン、キン
鉄国少尉「開戦したようですね」
鉄国歩兵「……」ぎゅっ
軍人子弟「拙者達の役目はこちらでござるよ。
 心配でござるが、我が師ならきっと持ちこたえるでござる」
鉄国少尉「はい」
軍人子弟「あと3時間も持ちこたえれば、
 きっと勝機が来るでござる。それまでは……」
鉄国少尉「そうですね。わが護民卿の策です」
軍人子弟「はははっ。女騎士殿の考えでござるよ」
鉄国少尉「でも、殆ど同じコトを考えていましたね」
軍人子弟「我が師でござるからね」
鉄国少尉「俺……あー、わたしも。きっと護民卿に
 師事して、その力を学ばせて貰いたいと考えています、ハイ」
軍人子弟「助けて貰っているでござるよ」
鉄国少尉「いえいえ、そんな」
斥候「将軍っ」

357 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 00:34:39.59 ID:L1AOl7sP
軍人子弟「何でござるか」
斥候「後方から未確認の部隊接近」
軍人子弟「後方っ!? どうやって」
斥候「いや、大陸街道やら森の中からです。
 しかし、魔族じゃありません。人間です」
軍人子弟「援軍でござるか? この時期に現われそうな
 援軍は思いつかないでござるが……」
鉄国少尉「とりあえず伝令を出して所属を確かめませんと」
軍人子弟「そうでござるな。工兵の防御のためにも、
 我が隊はここを離れるわけには行かないでござる。
 斥候、済まないが、その部隊に確認を――」
     ドゥゥゥーーン!!!
鉄国少尉「っ!?」
鉄国歩兵「な、なんだ……」
  ドゥゥゥーーン!!!
軍人子弟「これは……」
鉄国歩兵「将軍っ! 将軍っ!!」
軍人子弟「落ち着くでござるっ!」
鉄国歩兵「我が軍の後方部隊、および開拓兵が
 謎の軍と接触! 攻撃を受けていますっ!
 謎の軍は轟音を発する射撃武器にて我が軍を蹂躙っ!!」
軍人子弟「なっ!?」

424 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 17:47:08.54 ID:L1AOl7sP
――鉄の国、王宮、大広間
勇者「よっしゃ。いくか」
妖精女王「ええ、いつでも」ごくり
羽妖精侍女「チョット怖イ」
勇者「任せとけ。いざとなっても逃げるところまでは保証する。
 それにさ、人間だっていつでも剣を振り回している
 奴らばかりじゃないよ」
妖精女王「しっかりなさい。わたし達は魔王様に任されて
 ここにいるんですよ。期待に応えないと」
羽妖精侍女「ハイ……」
勇者「おっし。行くぜ」
ガチャリ
勇者「冬寂王。それにお二方。お待たせ」
鉄腕王「おお。勇者どの。どうした、こんな早朝に」
冬寂王「何か変事でも?」
氷雪の女王「まだ明け方は冷えるでしょう?
 さぁ、暖炉のそばにいらっしゃいませ」
勇者「えー。コホン。本日は遠来からの客人を同道しててな。
 それで紹介しなきゃならないと思って。――うん、来たんだ」
妖精女王「初めまして」
羽妖精侍女「初メマシテ」ペコリ

425 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 17:49:25.10 ID:L1AOl7sP
鉄腕王 ゴシゴシ
冬寂王「……」
氷雪の女王「え?」
勇者「えーっと。あっちは右から、鉄腕王。鉄の国の王様だ。
 いまお邪魔しているこの宮殿と国の主。
 蒼魔族と戦争の真っ最中の当事者だ。
  中央にいるのが冬寂王。冬の国の王だ。
 一応このあたりをとりまとめる
 三ヶ国通商の盟主と云うことになっている。
  左にいる女性は氷の国の女王だ。
 氷の国は吟遊詩人のふるさととも云われている。
 鉄の国と冬の国にはさまれた小国だが外交や文化は進んでいるな」
妖精女王「はい」
鉄腕王「え?」
勇者「で、こちらは。こほん。
 魔界において、魔族大会議、忽鄰塔を構成する
 九つの氏族のうちひとつ、
 森に住む者、
 夜明けと黄昏のはかなき者たち、
 妖精族の長、妖精女王だ。おつきの侍女は羽妖精」
妖精女王「ご紹介預かりました、妖精女王と申します」
羽妖精侍女 ぺこり
冬寂王「……」
勇者「と、まぁ、魔界の中でも有力者なんだが、
 今回はそういう意味で尋ねて来た訳じゃない。
 彼女は忽鄰塔、つまり魔界の最高会議だな。
 そこの代表者、特使としてきている。
 会議だけではなく、この使者は魔王の意志でもある」

427 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 17:49:58.38 ID:L1AOl7sP
鉄腕王「勇者殿、これはいったいどういう冗談」
冬寂王「冗談では、無かろう」
勇者「うん、さっぱり本気」
妖精女王「……」ぎゅっ
鉄腕王「魔族……」
氷雪の女王 がくがく
冬寂王「妖精女王よ。
 よくぞ遠いところはるばるいらっしゃった。
 まずは暖炉の側へどうぞ。
 我らの間には深い溝があるが
 炎を分かち合えないほどではないだろう」
鉄腕王「何を言うのだっ」
冬寂王「彼女は魔界での身分からすれば王族に当たる。
 たとえ、敵対する国家であっても王族には王族の扱いがある。
 そして、彼女は物見遊山に来たわけではない。
 見ろ。あのひ弱そうな侍女以外誰一人として連れていない。
 彼女は我らの信を得るために、わざわざ丸腰で来たのだ」
氷雪の女王「しかし……」
冬寂王「それに勇者が連れてきたのだ。彼を信ぜよ」
鉄腕王「それは確かに、そうだな。
 ふんっ。鉄腕王ともあろう者が
 女に怯えて話も聞けないとあっては末代までの笑いものだ」
勇者「何とか聞いてもらえるみたいでほっとしたよ」
妖精女王「ありがとうございます」

429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 17:52:43.55 ID:L1AOl7sP
メラメラ、パチパチッ
冬寂王「聞こう」
妖精女王「沢山のお話があります。
 まず、わたし達九氏族、いて……。
 いまやまたもや八氏族となってしまいましたが、
 わたし達は、人間世界の通行許可を求めています。
 ……現実にはこのようなギリギリになってしまいましたが、
 人間世界を旅するに当たって承諾を求めています」
鉄腕王「また人間の領土に攻め込もうってのか?」
冬寂王「……」
勇者「いや、まぁ。最初っから話さなきゃ判らないだろう」
冬寂王「それをいうならば、何故勇者が魔族を伴って
 現われたのだ? 勇者は魔族と通じているのか?」
勇者「そのほうが正しいと思えば誰とでも話すさ」
氷雪の女王「それは異端ですよっ」
冬寂王「氷雪の女王。それを言うならば、
 我らは皆すでに全員が異端なのだ」
氷雪の女王「……そうでした。しかし」
勇者「事の始まりは……そうだな。
 どこまでも過去にはさかのぼれるけれど、
 今回のことの始まりは魔王の長きにわたる怪我の療養。
 そして忽鄰塔だった」
鉄腕王「くりるたい?」
妖精女王「ええ。忽鄰塔は魔族の大会議。
 魔王様によって招集された、魔族の大きな氏族八つが出席し、
 そのほかにも無数の氏族が集う最高の意志決定の場です」

431 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 17:57:14.10 ID:L1AOl7sP
妖精女王「魔界は基本的には魔王の名と統治の元に動いていますが、
 実際には多くの領民を抱える氏族の発言力が強く、
 各氏族が覇を競って相争うような状態が
 100年以上続いてきました。
  しかし、魔界は未曾有の緊張、
 つまり人間界からの侵攻を受けていたために
 魔族同士の戦乱はこの15年の間は沈静化していたのです」
鉄腕王「侵攻? そちらから戦争を仕掛けてきたのに」
妖精女王「いいえ、ゲートの封印を解除し戦闘を
 仕掛けてきたのはそちらです」
冬寂王「やはり……」
氷雪の女王「ええ」
鉄腕王「なんだ? どういうことだ?」
冬寂王「いや。以前から疑問には思っていたのだ。
 なぜ、教会が派遣したただの調査隊があれほどの
 武装をしていたのか?
 その調査隊が『聖鍵遠征軍』と呼ばれていたのか」
氷雪の女王「……」
妖精女王「今回は、その件について
 話をしに来たわけではありません。
 魔界は人間界との交戦状態に入った。
 魔族は結束して……とは云えませんが、
 各々が力を尽くして戦いました。
 結果はご存じの通りでしょうが、我ら魔界は人間界の版図から
 極光島を奪うことに成功しました。
 しかし、その代わりに、我らが聖地である開門都市を
 失うことになったのです」

433 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 17:58:49.31 ID:L1AOl7sP
メラメラ、パチパチッ
妖精女王「戦線は膠着したかに見えましたが、
 その実は違いました。人間は戦略を変えたようでした。
 勇者と名乗る少数の戦士集団の名前が魔界のあちこちで
 囁かれるようになりました。
 勇者達は魔界の様々な軍事拠点や古代の神殿を巡り
 強力な魔法の武具を集めては、
 我ら魔族の軍を撃破してゆきました。
  彼らはあまりにも少人数で、それゆえに捕捉が難しく
 魔族はいつも後手後手に回らざるを得ませんでした。
  本来個体の能力では人間に勝っていると自負していた魔族は
 次第に勇者という名前に畏怖と戦慄を覚えるようになって
 ゆきました……。
 そしてある時とうとう、勇者は魔王様と一騎打ちとなり
 両者は負傷、姿を消した。
 ……その噂が魔界へと広まりました」
鉄腕王 ごくり
勇者「――」
妖精女王「魔王様は死んではいない。それはすぐに判りました。
 なぜならば、人間の方々には説明しても
 判ってもらえないかとも思うのですが、
 魔界にとって魔王様は不滅の存在なのです。
 もし魔王様が倒れればすぐにでも次期魔王選出が始まるはずです。
 それが始まらない以上、魔王様は死んで射るはずがない。
  しかし、現在の魔王様には一つの憶測というが
 良くない評判がありました。それは戦闘が不得手で虚弱だ、
 と云うことです。
 もちろん魔王様は溢れる知謀で我らを導いてくれています。
 わたし個人はいまの魔王様を歴代のどなたよりも
 深く尊敬いたしていますが、当時はそのような評判もあり
 氏族の長からは軽んじられていたと云うことは否定できません。
  ですから“魔王は深い傷手を負って治療をしている”
 噂は事実だったわけですがその期間は思いのほか長く続きました」

444 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 18:33:59.66 ID:L1AOl7sP
氷雪の女王「そして一時の静寂が訪れたのですね?」
妖精女王「ええ、そうです。それから3年がたちました。
 その間に人間界は、その版図である極光島を取り戻し
 わたしたち魔族は開門都市を回復しましたが、
 それ以外の部分ではおおむね静寂が続きました。
 勇者による各地の魔族被害も途絶えました。
  もちろん人間界との戦争が終結したわけではありませんが
 魔王様の指示を欠いたわたし達は決定的な団結を得られず
 人間界への反抗作戦を立ち上げることが出来ませんでした。
  誤解して欲しくないのは、魔界の全てがこの戦争に
 賛成というわけでもないと云うことです」
冬寂王「と、おっしゃると?」
妖精女王「魔界は、人間界のように一人の神を崇めると
 云うことがありません。
 様々な氏族に、様々な教えもあり、様々な文化があります。
  わたしを見てどう思われますか? この羽を。
 蒼魔族とは似ていないでしょう?
  これだけ姿形が違うと共通の文化や意識は持ちにくいのです。
 魔界は氏族という集団に分かれて暮らす、
 無数の魔族によって構成された世界です。
  当然、氏族ごとに様々な意見があり、
 戦争に対してもそれは同様でした」

445 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 18:35:16.96 ID:L1AOl7sP
妖精女王「もっとも、三年前のあの時期は、
 魔族の中でもいくつもの神々の聖地とされた開門都市が
 人間に奪われたことに不満を持たない魔族は少なかったでしょう。
 それはいまも残っています。
 多くの魔族は人間に反感を持っています。
  そんな三年が過ぎ、魔王様は復活を宣言されました。
 そして忽鄰塔を招集なさったのです」
冬寂王(……爺の報告とも符合するか)
鉄腕王「そうだったのか」
妖精女王「会議の話題は当然、人間との戦争をどのように
 展開するか、になるはずでした。
 少なくとも多くの魔族はそう考えていました。
  しかし、中にはわたし達妖精族のように、戦争をしたくない。
 そう考える者たちも少なくはありませんでした。
 なぜならば、わたし達のような弱い氏族にとって
 戦争とは常に巨大な災厄でしかなかったからです。
  我ら八大氏族の長と魔王様は長い話し合いを行いました。
 魔王様の意志は、どうやら停戦のようでした」
鉄腕王「停戦っ!? それは本当なのかっ!?」
冬寂王「……」
妖精女王「しかし、魔族の中でも有力な幾つかの氏族の意志は、
 徹底抗戦でした。人間に対する反感もあったでしょうし、
 人間界に溢れる領土や、魔界では取れぬ財宝を目当てにする
 欲望もあったでしょう。十分に力のある魔族の目にとって
 人間界は熟れた果実のように写っていたのです」

446 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 18:38:11.42 ID:L1AOl7sP
妖精女王「会議は長い間続きました。
 長い長い間、おおよそ一月にもわたって続きました。
 魔王様の説得が功を奏し、忽鄰塔全体が停戦で合意を
 しようとした時に事件は起こりました。
  蒼魔族が陰謀を巡らし、魔王様を攻撃したのです。
 その陰謀のせいで、八大氏族は真っ二つに割れ、
 人間との戦争は愚か魔族同士でも戦う戦乱の世が
 再来しようかとも思われました。
 しかし、幾人かの勇気と知恵溢れる長の活躍により
 最悪の事態は回避されました。ですが結果として
 蒼魔族は忽鄰塔、ひいては全魔界氏族の輪を離れ、
 たった1氏族のみで独自の道を行く選択をしたのです。
  蒼魔族は確かに戦闘に長けていて、
 魔界でも有数の有力氏族ですが、獣人、竜族、鬼呼族などの
 他の有力部族の連合軍を打破するほどの力はありません。
  わたし達は蒼魔族に降伏と、忽鄰塔復帰を求めました。
 蒼魔族はもはや自領土内に籠もって、自らの過ちを認めるか
 全滅を覚悟しての戦を行なうかしかないのではないかと
 魔界の氏族達は思っていました。
  ですが」
冬寂王「蒼魔族は活路を人間界に求めた?」
妖精女王「その通りです。
 蒼魔族は突如電撃の早さで人間の世界に侵攻し、
 白夜と呼ばれる国を征服したと聞きます」

447 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 18:40:12.51 ID:L1AOl7sP
鉄腕王「結局は、とばっちりってことか。気に食わんっ」
妖精女王「鉄腕王、銅の腕を持つ戦士殿のいうとおりです。
 眼前の事態は我ら魔族の内輪もめの迷惑を人間界にかけた
 形です、この件において、我ら魔界の者はその責を
 負っていることを認めます」
鉄腕王「まったくだ」
氷雪の女王「いいえ、それはちがうでしょう。
 逆に言えばそのような展開になったのは、
 勇者が魔王を負傷させて長い間魔界の統治を不十分な
 ままにさせたせいとも云えるでしょう」
鉄腕王「だがそれは魔族が人間界を攻めたせいで」
冬寂王「後先の話をするのならば、我らが先の可能性もあるのだ」
氷雪の女王 こくり
妖精女王「我ら忽鄰塔の八大氏族は」
氷雪の女王「おまちください。
 蒼魔族は忽鄰塔を脱退したのでしょう? では七氏族では?」
勇者「あー」
妖精女王「はい。話の本筋には関係ないかと思い省きましたが。
 魔王様を蒼魔族の陰謀から救うに当たり重要な役割を
 果たしたもう一つの新しい氏族が、
 忽鄰塔大会議に加わったのです。
  その名も衛門族。人間が率いる魔界唯一の氏族です」
鉄腕王「人間が率いるっ!?」

448 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 18:42:38.68 ID:L1AOl7sP
勇者「それについては、俺が説明すべきなんだろうな。
 冬寂王。開門都市にはさ、ほら2万からの
 遠征軍駐留部隊がいただろう?」
冬寂王「そうだな」
勇者「それが、極光島の時にぴぃぴぃ逃げてきたじゃん?」
冬寂王「ああ。裏切りだとか、魔族の大反抗が開始されたとか。
 それで部下の多くを失い、民間人も全滅し、
 戦略価値が無くなったとかで極光島へと救援に
 駆けつけたのだろう? 何の意味もなかったが」
勇者「やっぱり、どうも情報がずたずたになってるんだよなぁ」
冬寂王「しかし、その後の諜報で、開門都市が人間の住む
 都市となっているのは知っている」
勇者「正確には、自治政府の治める自由都市だ」
氷雪の女王「それは人間世界で云うところの自由都市と
 似たようなものですか?」
勇者「うん、同じだ。領主じゃなく、自治委員会が
 治めているところだけが違うけれどな。
 まぁ、開門都市が開放された事件で、駐留軍団は人間界に
 撤退したわけだけど、その時民間人は全て置き去りにされたんだ。
 そういった殆どの民間人は死んでないよ。
 それは事故なんかで数人は死んだかも知れないけれど、
 1万人以上の人間商人や、個人商店の持ち主が残っている。
 開門都市は、人間と魔族が入り交じって暮らす街となって
 生まれ変わったんだ。
  そして、その都市の自治委員会は、
 自分たちを魔界の氏族であると宣言した」