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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part69


259 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:47:14.17 ID:34eUyEEP
女騎士「な、な、なにを」ばたばた
軍人子弟「拙者、密かに女騎士将軍の指揮の下
 戦える日を夢見てござった」
鉄国少尉「そ。そうですよ! 三ヶ国の兵は皆、騎士将軍に
 憧れの気持ちを持っているんですよ」
冬国士官「それは事実ですなぁ。
 なんだ鉄の国の連中も判っているじゃないか」
女騎士「お前達まで、何をっ」
軍人子弟「いやいや、謙遜なさることはござらん。
 もはやこれは、全軍の偽らざる気持ちというものでござろう?
 で、ござるよな! 皆の衆」
鉄国少尉・冬国士官 こくこく
軍人子弟「いぇーい! 女騎士将軍ばんざーい!」
鉄国少尉・冬国士官「ばんざーい!」
女騎士「ちょ、お前達っ」
軍人子弟「いぇーい! 少女めいた華奢な首筋ばんざーい!」
鉄国少尉・冬国士官「ばんざーい!」
女騎士「な、やめろ。お、怒るぞっ!」かぁっ
軍人子弟「こほん。万歳ついでに、餌を」
女騎士「え?」
軍人子弟「蒼魔族のよだれを垂らす美味しい餌は、
 女騎士将軍をおいて他にはいないでござるよ!」にぱっ

278 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 22:19:44.73 ID:34eUyEEP
――大陸街道南部、羊飼いの草原
めぇぇぇーー。めぇぇぇぇー。
羊飼いの男「なんだ、ありゃ?」
羊飼いの娘「地面が動いてるの? ……いえ、あれは」
羊飼いの男「人だ。すげぇ人だ!」
羊飼いの娘「何が起きてるの!?」
めぇぇぇー。めぇぇぇぇー。
 ザッザッザッ
 
 ――精霊はこれを欲し給う
 ――精霊はこれを欲し給う
羊飼いの男「すごい数の人だ。いや、兵隊達だ」
羊飼いの娘「でもこんな人数、領主様の軍だって。
 ううん、どんな王様の軍だって想像できないよ……」
やつれた旅商人「なんだあんた達、聞いていないのか?」
羊飼いの男「旅人さんじゃないか」
羊飼いの娘「これはなんなの? 何が起きているの?」
やつれた旅商人「大主教さまが、第三次聖鍵遠征軍を
 招集なさったんだよ」
羊飼いの男「聖鍵……」
羊飼いの娘「遠征軍?」
やつれた旅商人「ああ、そうさ」

281 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 22:23:54.59 ID:34eUyEEP
 ザッザッザッ
 
 ――精霊はこれを欲し給う
 ――精霊はこれを欲し給う
やつれた旅商人「俺たちの光の精霊様を侮辱していたって云う
 魔族の連中を倒すために、大主教さまが広く兵を
 募集なさったんだ」
羊飼いの男「広くって、貴族だけじゃないのか?」
やつれた旅商人「ああ、農奴も市民も参加しているって話だよ」
羊飼いの男「それでこんなに……」
 ザッザッザッ
羊飼いの娘「とんでもないわ。世界の終わりみたい……」
やつれた旅商人「俺は北西の方から旅をしてきたんだけど
 これと同じ景色が、あっちには何日も続いている。
 どこにこんなに人数がいたんだろうってくらいだ」
羊飼いの男「もしかしたら、羊も買ってくれるかな?」
やつれた旅商人「ああ、買ってくれるんじゃないか?
 後から後から参加する連中や、娼婦や、物乞いまでも
 一緒にずるずるとくっついて行っているよ」
羊飼いの男「ちょっといってみるかな」
羊飼いの娘「なんだか怖いよ。離れていた方が良くない?」
やつれた旅商人「俺も興味はないね」
羊飼いの男「でも儲かるかも知れない。俺は行ってみるよっ」
羊飼いの娘「まってよ、わたしもついて行くってば!」

287 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 22:45:57.01 ID:34eUyEEP
――蔓穂ヶ原、尾根部分
パチッ。パキリ……
蒼魔軍斥候隊長「どうだ?」
騎馬弓兵「この辺り一帯が該当区域ですね」
蒼魔軍斥候「かなり広大な平野部だな」
蒼魔軍斥候隊長「うむ。地図上でも差し渡し15里はあるようだ」
騎馬弓兵「どのように調べましょう?」
蒼魔軍斥候隊長「まずは、この尾根道の調査を、斥候隊」
蒼魔軍斥候「はいっ」
蒼魔軍斥候隊長「つぶさに行うのだ。2万の軍が
 何列で進めるかも含めて詳細な見取り図を作成せよ」
蒼魔軍斥候「はっ」
蒼魔軍斥候隊長「平原の地勢はどうだ?」
騎馬弓兵「穏やかなうねりを伴った草原が殆どですが
 幾つかの場所において湿地や、ぬかるみ滑りやすい泥が
 むき出しになった地形が存在するようです」
蒼魔軍斥候隊長「ふぅむ」
騎馬弓兵「いかがいたしましょう?」

291 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 22:50:40.65 ID:34eUyEEP
蒼魔軍斥候隊長「騎兵の運用はどうだ?」
騎馬弓兵「軽騎兵はいけるでしょうが、
 重装騎兵は難しいかも知れません。
 馬が足をくじいたら身動きも取れなくなるでしょうし。
 ただしそれは沼沢部分で、草地を上手く使えば
 あるいは可能かも知れませんが……」
蒼魔軍斥候「しかし、沼沢地方では重装歩兵すら運用が
 難しい場所も存在するようです」
蒼魔軍斥候隊長「“見た目より狭い”ということか。
 使える場所が限られている地形のようだな」
騎馬弓兵「手強い地形ですね」
蒼魔軍斥候隊長「騎馬弓兵は馬を下りて、
 ここより平野中心部にかけての地形を調査せよ。
 判る限りの沼沢部分、平地部分、丘陵部分を事細かく記録せよ。
 平原の周辺部については沼沢の割合が大きいようだ。
 戦場とするのは不適当に過ぎる。
 中心部を重点的に測量、また敵にあった場合交戦は避けて
 諜報と斥候に勤めるように」
騎馬弓兵「了解いたしましたっ」
グシャッ
蒼魔軍斥候「は?」
蒼魔軍斥候隊長「蔓穂の花よ。ふっ。人間の国など、
 我ら蒼魔の勇者がこの花のように踏みにじってくれようぞ」

297 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:09:58.40 ID:34eUyEEP
――冬の国辺境、人里離れた深い森の中
ホーウ、ホーウ
 バサバサバサッ!
器用な少年 びくっ!メイド妹「あれは、フクロウさんだよー?」
器用な少年「判ってるよっ!!」
ギャーッギャッギャッギャ
 バサバサバサッ!
器用な少年「っ!?」
貴族子弟「ほらほら、少年。少年がびびってるから
 鳥たちも飛び立つんですよ。サクサク歩くっ」
メイド妹「遅いよぉ」
器用な少年「お前らの荷物も俺が持ってるからだろうっ!」
貴族子弟「だってねぇ?」
メイド妹「うん」
貴族子弟「ぼかぁ、ほら。線の細い貴族ですし」
メイド妹「わたし女の子だもん」
器用な少年「どんだけ荷物持たせるんだよっ!?」

300 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:11:55.32 ID:34eUyEEP
貴族子弟「命を救ってあげたじゃないですか」
メイド妹 うんうん
器用な少年「奴隷にされただけだっ!」
貴族子弟「生意気ばっかり云ってると、このレイピアちゃんで
 首の横から食事できるようにしちゃいますよ?」
メイド妹「それじゃ味が分かんなくなっちゃうよぉ!」ぷんすか
貴族子弟「まずいか。じゃお尻の穴を増やしましょうか?」
メイド妹「それならいいよ♪」
器用な少年「ひっ。わ、判ったよ。運ぶ、運ぶよっ」
ザッザッザッ
貴族子弟「ほらほら、君は荷物運びじゃないんですから」
メイド妹「先頭歩かないと」
器用な少年「俺だって正確な場所が判るわけじゃねぇって」
貴族子弟「でも、この辺の森は詳しいでしょ」
メイド妹「うんうん」
器用な少年「たぶん、砦の廃墟に……それらしい人が」
ザッザッザッ
貴族子弟「ああ。あっちかな」
メイド妹「ん。これは……。まめのスープの匂いだ」
器用な少年「あれでいいのか?」
貴族子弟「ええ、あれが目的地のようですね」

301 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:13:27.19 ID:34eUyEEP
器用な少年「じゃぁ、俺はここで良いだろう?
 あの連中はやばいんだって。俺は行きたくねぇよ」
貴族子弟「あははは。だってそれじゃ荷物運べないじゃないですか」
器用な少年「そんな事言ったって、
 俺に持たせる前は二人で背負ってたじゃねぇかよぉ!!」
貴族子弟「?」
メイド妹「?」
器用な少年「言葉が分かんないような困った顔するなよっ!!」
貴族子弟「まったく楽しい少年ですね」
メイド妹「きっとお腹がすいてるんだよ」
器用な少年「なぁ、頼むよ! あそこにいるのは傭兵崩れなんだ。
 ただの野盗といっしょにしちゃまずいんだよ!
 人殺しに馴れている本当のプロなんだってば!!」
貴族子弟「だからわざわざ来たんじゃないですか」
器用な少年「判ってねぇよ!」
貴族子弟「判ってますよ。だいたいプロの人が、もう明かりも
 見えるような距離に侵入者の僕らが踏み込んでいて」
ガサッ
屈強な傭兵「動くなっ。武器に手を触れるなよっ」
貴族子弟「気が付かないわけがないでしょう?」

313 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:23:35.83 ID:34eUyEEP
――冬の国辺境、人里離れた深い森の中、砦の廃墟
めらめら、パチパチっ
傭兵隊長「で、お前ら何なんだ? あん」
傭兵槍騎兵「返答次第じゃ生きては帰さねぇぞ」
器用な少年「お、おいらはちんけなこそ泥で
 まったく全然無関係なんだっ。
 勘弁してくれよ、隊長さんっ」
貴族子弟「多少は気合いを入れて意地を張らないと
 何時までも負け犬だよ? 少年くん」
メイド妹「お姉ちゃんに笑われちゃうよー?」
傭兵隊長「で、そっちの貴族様は?」
貴族子弟「ぼくの名は貴族子弟。優雅なワルツと花の香り
 酒の甘さと淑女を愛する雅の信奉者といったところかな」
メイド妹「わたしはメイド妹です。招来の宮廷料理長だよ♪」
傭兵隊長「ふんっ。で、その貴族様が何だって?」
貴族子弟「いや、この森にね。
 このあたりで最も屈強な傭兵団崩れがいるって
 聞いてね、やってきたんだ」
傭兵隊長「ほう……」ギラッ
傭兵槍騎兵「隊長」ジャギッ
貴族子弟「武器をちらつかせるのは止めてくれよ。
 自慢じゃないが僕は弱いんだ。
 失禁したらお洒落なズボンが濡れるだろう?」
メイド妹「それ格好良くないよ、お兄ちゃん……」

314 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:24:32.07 ID:34eUyEEP
傭兵隊長「そうかい? 俺は戦場暮らしが長くてね。
 あんたは、そこらのぼんくら騎士より、
 よっぽど使うって俺の勘が告げているんだがね」
貴族子弟「たかだかぼんぼんの庭先剣法さ。
 だいたいのところ、よしんば僕がどれだけ手練れだったとしても
 この砦にいる数百人から逃げられるわけもない。
 あの塔」すっ
器用な少年「へ?」きょろきょろ
貴族子弟「――からは、石弓でだって狙ってるんだろう?」
傭兵隊長「お見通しかい。へへへっ。
 で、あんたはどんな用なんだい? あんたも金をくれるって?
 どっちからなんだい?」
貴族子弟「……」
器用な少年「ど、ど、どっちって?」
傭兵隊長「“冬の国から奪って欲しい”のか
 “冬の国を勘弁して欲しいのか”ってことさ。
 俺たちは野盗だからよ。金をくれた方に着くぜ?」
貴族子弟「ふぅむ、そうなのか?
 そんな理由で今まで金を受け取らないでいたのかい」
傭兵隊長「……他に何があるんだ?」
貴族子弟「いや、他にも何かあるんじゃないかと思ってきたんだが」
傭兵槍騎兵「貴様、生意気な口をっ」
器用な少年「ひっ!!」

315 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:25:43.07 ID:34eUyEEP
傭兵隊長「何が言いたいんだ」
貴族子弟「いや。手入れの良い軍馬だな、と思って」
傭兵隊長「……」
貴族子弟「ただ草をはませてるだけじゃない。
 毎日拭いてやって世話をしてやらないと、
 こういう毛づやにはならない。
 それに武具だってくたびれてはいても、どれも丁寧に
 修理してあるし、愛用のものなんだろう?
 砦の使い方も規律があって、野盗のそれじゃない」
傭兵隊長「何が云いてぇ」
貴族子弟「実を言えば、雇用に来てね」
傭兵隊長「ほぉらみろ、やっぱりそうじゃねぇか」
貴族子弟「いやいや、意味も雇用条件も目的もまったく別さ」
傭兵隊長「何だってんだ、云ってみろよ」
貴族子弟「実は知っているかも知れないけれど、
 鉄の国ってあるだろう? ここからはさほど遠くない」
傭兵隊長「ああ」
傭兵槍騎兵「ちっ。何だってんだおまえ」
貴族子弟「そこの首都が魔族に落とされていてね」
傭兵隊長「……はん。腐れ貴族がっ。最低限自分の国を
 護ることも出来ねぇのかよ。笑わせるぜっ」
貴族子弟「で、だ。そこの首都を救って欲しいんだ」

317 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:27:06.27 ID:34eUyEEP
器用な少年「へ?」
傭兵槍騎兵「はぁぁ!? 何を言ってるんだお前」
貴族子弟「そんなに変な雇用かな?」
傭兵槍騎兵「ったりまえだ!
 何で俺たちが魔族に突っ込まなきゃ行けねぇんだ!
 しかも貴族様のケツを拭くなんて何で俺らがそんな事を」
傭兵隊長「――おい、黙っとけ。
 で、貴族の兄ちゃんよ。生きているうちに
 云いたいことはそれだけか?」
貴族子弟「べつに、尻ぬぐいをしろなんて云ってやしない。
 そもそも白夜国は滅びたよ。
 王も死んだし、政府だって残っちゃいない。
 あそこは“かつて白夜と云われた土地”ってだけだ。
 尻ぬぐいの相手なんかいない。その必要もない」
器用な少年「……おいらの国だ」
貴族子弟「あそこにいるのは、ただひたすらに飢えて
 酷使される農奴以下の奴隷となった国民達。
 ――それだけだ」
メイド妹「うん……」
傭兵隊長「で?」
貴族子弟「だから、あそこでは大変需要があるんだよ。
 そう、ヒーローってやつにね」
傭兵隊長「っ」
貴族子弟「どうだい。ここは一つ、
 解放軍とやらになってみる気はないかい?」

318 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:29:21.46 ID:34eUyEEP
貴族子弟「ああ、いたって正気さ。
 どうにも我が学院は、正気になれば正気になるほど
 周囲から見て狂気に見えるという忌まわしい伝統が
 あるようなのだよ。困ったもんだ。
 軍人子弟しかり、メイド姉君しかり。
 そもそも師からして正気とは言い難い。
 陰陽としか言えない胸のサイズだ。
 きわめて正気なのに。悲しいことだなぁ」
傭兵隊長「……」
貴族子弟「隊長は知っていると思うけれど、
 今あそこを支配している魔族は近々、
 隣国である鉄の国に攻め込むはずなんだよ。
 どれくらいの兵力で攻め込むかは判らないけれど
 殆ど全軍を率いて出発すると僕の兄弟弟子は見ている。
 すると、白夜国には殆ど兵力は残らないはずだ。
  君ほどの統率力があれば、周辺に散在している
 幾つかの武装集団もまとめることが出来るだろう?
  ……翡翠の国の辺境戦争と警備軍のことは聞いている」
傭兵隊長「貴様、どこでそれを……っ」
貴族子弟「貴族の社交界というのは思ったより広いんだよ」
傭兵隊長「……っ」
貴族子弟「だが、貴方ほどの指導力があれば
 この周辺の武装集団を組織化することも出来るだろう?
 主力の出はらった白夜の国を開放することも不可能とは云えない」

320 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:30:34.68 ID:34eUyEEP
傭兵隊長「報酬は何だ?」
貴族子弟「おい、少年」
器用な少年「なんだってんだよっ!?」
貴族子弟「荷物を降ろして良いぞ」
傭兵槍騎兵「なんだ? 金ごと持ってきてるのか?
 奪って欲しいとしか思えねぇ、馬鹿か、お前」
器用な少年「判ったよ、降ろすっ」
傭兵槍騎兵「開けますぜ隊長? ……なんだこりゃ」
器用な少年「これは……。なんだ」
メイド妹「ベーコンとジャガイモの、ホワイトクリームパイだよ」
傭兵隊長「なんでこんなもん……」
貴族子弟「食べろ」
傭兵隊長「何言ってるんだ、お前!?」
貴族子弟「良いから、黙って食え。それでなくても
 開いたらどんどん冷めて行くんだ。早いところ食え」
傭兵槍騎兵「隊長……。良い匂いですが。毒ってことも」
メイド妹「ちがうもんっ! わたしはそんなモノ作らないもんっ」
傭兵隊長「一個よこせ」
傭兵槍騎兵「でも」
傭兵隊長「良いからよこせ。……ふん。むっしゃ、むっしゃ」
傭兵槍騎兵「じゃ、おれも……」
傭兵弓士「お、おいらも」おずおず
傭兵剣士「俺も腹が減ってるんだ」

322 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:32:38.25 ID:34eUyEEP
傭兵隊長「……美味ぇな」ぽつり
メイド妹「うん! 頑張って美味しく作ったよっ!」
傭兵隊長「ああ、美味い。たいしたもんだ。
 嬢ちゃんなのか? すげぇな。美味いよ。
 ちっせぇのに。
 ああ、なんだろう、こいつは。
 なんだか応えるほどに――美味いなぁ」
貴族子弟「どうだ、すごいだろう?」
器用な少年「なんでこの兄ちゃんが威張るんだ」
貴族子弟「白夜国を救うと、こう言うのがずっと食えるようになる」
傭兵隊長「は?」
貴族子弟「ずっと食えるようになる」こくり
傭兵隊長「何言ってるんだ?」
貴族子弟「解放軍として、仕官しないか?
 冬の国でも良いし、再興するなら白夜でも良い。
 自分たちを地獄から救ってくれた英雄だ。
 民は感謝するぞ。
  “ありがとう”って云うぞ。
 そういうふうにならないか? ただの野盗になるつもりなら
 何で馬具の手入れを欠かさない? 何故武具を磨く?
  君たちは、野盗じゃない。傭兵団だ。
 しかも、いずれ故郷にたどり着く、希望を持った傭兵団だ」
傭兵隊長「本気なのか? 俺は戦場であんたらの所の
 女将軍と追っかけ合ったこともあるんだぜ?」

326 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 23:34:43.94 ID:34eUyEEP
貴族子弟「この僕が責任を持とう。
 僕は氷の国の氷雪女王の特使として、
 また三ヶ国通商同盟の全権委任大使として
 あなたに依頼する。
  当面の費用は氷の国が責任を持つ。
 この森の中で自分の納得行く規模の師団を編制して
 白夜の国辺境に潜伏。機を見て、その民を解放してくれ。
 魔族を撃退してくれとは頼まない。
 出来る限りの民を救い出してくれるだけで良い」
メイド妹「お願いしますっ」
傭兵隊長「……」
傭兵槍騎兵「隊長……」
傭兵弓士「お頭……」
貴族子弟「……」
傭兵隊長「もう一個貰っても良いかな」
メイド妹「うんっ。これはね、豚の脂身を入れてから
 焼くんだよっ。熱いと、何倍も美味しいんだよっ」
傭兵隊長「へぇ。むっしゃ、むっしゃ。
 へっ。美味ぇや。たいしたもんだよ。ああっ、たいしたもんだ。
 はん。――いいだろうっ!!」
貴族子弟 にこり
傭兵隊長「こんなに美味ぇ前金受け取ったら働くっきゃねぇだろ!
 おい、お前ら! 付近の頭だった連中に渡りをつけろっ!
 俺たちの戦が始まるぞっ。どうせどっかでのたれ死ぬのが
 傭兵の運命だ。死ぬ前に1回、その“ありがとう”とか
 いうやつを拝んでやろうじゃねぇか!」

343 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/28(月) 00:20:17.56 ID:L1AOl7sP
――蔓穂ヶ原、中央部丘陵地帯、前衛陣地
斥候「来ましたっ!」
女騎士「構成は?」
斥候「中央に歩兵。我が軍に照らせば軽装ですが、
 巨大な木製の盾を保持している模様っ」
冬国仕官「弓矢対策か」
斥候「さらに左右に軽騎兵および重装騎兵。
 厚みのある陣容です。
 前方突出部分だけで一万を超えている模様」
冬国軽騎兵「いち……まん……」
女騎士「ひるむなっ! よしんば敵が二万いようと
 こちらも7000はいるのだ! 一人三人の敵を倒せば済むっ」
冬国軽騎兵「はっ!」
女騎士「距離はどの程度だ」
斥候「尾根を下りきった地点。おそらく正午頃には会敵しますっ」
冬国仕官「指揮官は……」
女騎士「おそらく蒼魔の将軍だろう。
 刻印の王が出てきたら全軍撤退だ。武器も放り出して逃げろ」
冬国仕官「……了解」