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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part68


210 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 19:51:54.23 ID:34eUyEEP
鉄腕王「しかし、そのためには今少しの時間が必要だ」
氷雪の女王「そうですね」
冬寂王 こくり
鉄腕王「国境の防備は、今ある男に任せている。
 若いがなかなかの気骨ある司令官だ。
 護民卿を名乗らせてはいるが、いずれ我が国の大将軍として
 柱石となってくれるだろう」
冬国士官「どの程度の軍を配置しているのですか?」
鉄腕王「3500にすぎん」
女騎士「よしっ。わたしが率いてきた騎馬部隊、
 冬寂王の部隊、そして冬の国からの歩兵部隊で2000は揃う。
 おっつけ冬の国から二次編制部隊3000も届くだろう。
 それを合わせれば5000だ。
 鉄の国でも二次部隊の編制を頼みたい」
冬寂王「心得た。それでも……約8500か」
氷雪の女王「我が国はいかがしましょう?」
女騎士「こう言っては何だが、氷の国の兵士は指揮系統が弱い。
 鉄の国国境付近まで出て哨戒をお願いしたい」
氷雪の女王「わかりました。……もう、あの風来坊は
 どこをほっつき歩いているのだか」
女騎士「わたしが出る。お歴々の方々、異論は?」
冬寂王「頼む」
鉄腕王「騎士将軍は我が三カ国最強の将軍ゆえな。
 ここで頼むのは、おぬししか居ないであろうな」

211 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 19:53:06.95 ID:34eUyEEP
氷雪の女王「しかし敵の数は二倍。
 いつぞやの中央連合のように貴族の寄せ集めでもなく
 若く残忍な王に率いられた精鋭軍人の集まりとなると……」
女騎士「勝つのは難しく、最善であっても苦戦は
 避けられぬだろう」
冬国士官「……」
冬寂王「戦の帰趨はどうなる」
女騎士「負けるつもりはないが、予断は許さぬ。
 ……と云うよりも、むしろ判断がつきかねる、
 わたしが知る限り、魔界へと進んだ聖鍵遠征軍も、
 前回の極光島奪還作戦もそうだが、
 魔族には人間世界の戦の常識やルールが通用しない。
 かといってそれは常識やルールがないというわけではなく
 彼らは彼らなりの都合や身分制度、戦術の中で動いている
 印象を持っている。
 こちらがこちらの都合でそうだろうと決めつけていると
 痛い目を見る。
  実を言えば、わたしは蒼魔族の若き刻印王をこの目で
 見たことがある」
冬国士官「えっ!?」
冬寂王「なんと……」
女騎士「その強さは無類だ。わたしの及ぶところではない」
氷雪の女王「そんな……」

214 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 19:55:13.43 ID:34eUyEEP
女騎士「だが、しかし、戦は一個人の技量だけで
 決着がつく物ではない。ましてや……勇者もいる。
 希望を捨てるには早すぎる。まだ接触さえしていないのだ。
 だが、だからといって勝つとも云えぬ。
  勘だけで云わせて貰えば、相当分が悪い賭けだろう」
冬国士官「……」
冬寂王「最大限の支援が必要だと云うことだな」
鉄腕王「武具の生産と後方部隊、二次編制を急がせる」
氷雪の女王「我が国も何らかの手が打てないかと考えてみます」
女騎士「戦場の事は面倒を見よう。
 その……。王の方々よ。
 ……わたしは一介の騎士に過ぎないが」
冬寂王「何を言うか、全軍を預かって頂く将軍ともあろう人が!」
鉄腕王「そのとおりだ、それに麗しい騎士でもある」にやり
氷雪の女王「その通りですわ」
女騎士「……出来ればその時が訪れた時に、
 各々がたが曇り無き心で判断してくれることを、願う」
冬国士官「……?」
鉄腕王「そいつはなんのことだ?」
氷雪の女王「何を仰っているのですか?」
女騎士「――。
 わたしは戦場に向かおう。
 一刻も早く現地の地形の把握が必要だ。
 鉄の国の領内ゆえ、白夜の蒼魔軍よりも
 早く入れるとは言え、敵の行軍速度が判らない」
冬寂王「うむ、たのんだぞ。総司令将軍」
女騎士「引き受けたっ」

223 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 20:38:44.65 ID:34eUyEEP
――聖王国、南部平原
王弟元帥「光の精霊の尊き御名の元に集いし
 汝ら光の子らよ、選ばれし戦士達よっ!!
 我らが旅立ちの時が来たっ!!
  我らは長い間この地にあり、精霊の導きの元
 大地から作物を獲て、四方を治め暮らしてきた。
 我らは精霊の子、光によってえらばれし民である。
  しかし昼短く闇深き南方の果てには魔界があり、
 そこでは今なお野蛮な風習を色濃く残す魔族なるものが
 威を振るい君臨している。
 我らは我らが大地を護るため、盾と矛を取り
 この脅威に応戦をしてきた。
 その筆頭となったのが南部の諸王国である。
 而して南部の王国はいつの間にか魔族の侵攻を受け、
 その王も軍も闇の者どもの手先となってしまった」
 ざわざわざわ……
王弟元帥「それは何故か!!
 今こそ語ろう、『聖骸』の秘密を!
 それは我らが救い主、光の精霊の遺骸。世にふたつと無き至宝!
 遙かな古の昔、魔族はその宝を我らがえらばれし民より
 奪い去り、魔界へとかくしたのだ!!
  南部の諸王たちはその輝きに見せられ、我ら人間と
 精霊の慈悲を裏切ったのである。
  見よ、南部の地を!!
 そこには、異端の食物が溢れ人々は享楽を欲しいままにしている。
 それらはすべて魔族の奸計、
 遙か古に裏切りし魔族の歪んだ血のなせるわざなのだ!!」

224 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 20:39:51.22 ID:34eUyEEP
王弟元帥「中央諸国の光の教徒たちよっ!
 高きも低きも、富める者も貧しき者も
 南方の同胞の救援に進めっ!
  彼らは闇に目隠しをされた盲人なのであるっ。
 彼らを自由などという世迷いごと、その退廃から救いだし
 この世界のあるべき秩序に戻すためには
 我ら光の戦士の雄々しき腕による救済こそが今必要なのだっ!
  我と共に旅立つ光の教徒たちよ!
 今こそ大儀のために立ち上がれ!!
  光の精霊は我らを導き給うであろう。
 正義のための戦いに倒れた者には罪の赦しが与えられよう。
  この地では人々は貧しく惨めだが、
 彼の地では富み、喜び、神のまことの友となろう。
 なんとなれば、そこには真の精霊の宝『聖骸』があるからである。
 我らは『開門都市』と『聖なる鍵』を手に入れ、
 我らが奪われし永遠の宝、『聖骸』を奪還せねばならない。
  いまやためらっているべき時は過ぎ去った。
 光の導きのもとに、いまこそ出陣の時であるのだっ!!」
うわああぁぁぁぁ!!
   うわああぁぁぁぁ!!
光の兵士「精霊はこれを欲し給うっ!!」
光の兵士「精霊はこれを欲し給うっ!!」
光の兵士「精霊はこれを欲し給うっ!!」
王弟元帥「精霊の旗のもとっ!! いざ、南へっ!!!!」

226 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 20:42:14.06 ID:34eUyEEP
うわああぁぁぁぁ!!
 ざっざっ!
   ざっざっ!
     ざっざっ!
司教「すさまじい人数ですな。王弟殿下は演説もお上手だ」
聖王国将官「この草原に集まっただけで2万。10大隊ですな。
 同様の大隊が四つほど進軍中です」
司教「10万ですか。それは希有壮大な……」
聖王国将官「元帥の構想ではこれらを中核とし、
 最終的には40万の軍勢をもってして魔界へ入るとのこと」
司教「ふはははっ。圧倒的ではないですか」
ザッザッザッ
王弟元帥「司教殿」
司教「王弟殿下、見事な演説でございました」
王弟元帥「この軍は元々は教会のためではありませんか」
司教「ふふふっ。猊下もことのほかお喜びのご様子」
王弟元帥「では、例の布告も?」
司教「はっ。猊下のご裁断はすでに頂き、発布しております。
 “聖鍵遠征軍は精霊の意志の元に行われる奪還運動である。
 聖鍵遠征軍に参加する貴族や領主の全ては、借金や借入物の
 支払いを一時的に免除される”と」
王弟元帥「ふふっ。それでこそ、どの貴族もこぞって
 第三次聖鍵遠征軍へとその身を投じるでしょう。
 その動きにつられ、食い詰めた農奴や開拓民も遠征軍に加わる……」

229 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 20:43:20.20 ID:34eUyEEP
聖王国将官「40万は決して非現実的な数字では
 なくなってきましたね」
司教「これも精霊のお導き。恩寵ですな。はっはっはっ」
王弟元帥「その布告は“借金を待って貰いたいのならば教会に従え”
 でしかないのに、それに気が付く貴族が何人いることやら」
司教「はははっ! 仕方ありますまい。そもそもが身から出た錆」
王弟元帥「魔界を手に入れれば、その領土、豊かさは
 我らが大陸の数倍にも達する。新たな領土も豊かさも思いのまま」
司教「我ら教会は『聖骸』と、永遠の第一教会の地位さえあれば
 世俗のことは貴方にお任せいたしましょう。王弟殿下」
王弟元帥「我は忠実な精霊の僕の一人」
司教「その通り、わたし達は皆そうです」
王弟元帥「だからこそ、上手くやっていきたいものですな」
司教「まったく! まったくですよ。あははははっ」
王弟元帥「猊下は?」
司教「猊下は聖王国大教会から、近く出立されるご予定です」
王弟元帥「十分な警備をお願いしますよ」
司教「教会騎士団は清廉にして無敵の百合、
 ご心配には及びませぬ。それより南部の邪魔者どもを」
王弟元帥「心得ていますぞ。お任せあれ」にやり

244 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:10:53.36 ID:34eUyEEP
――白夜国首都、白亜の凍結宮
参謀軍師「ふふっ。この度は御戦勝、おめでとうございます」
蒼魔上級将軍「それもこれも、情報の精度のお陰よ。
 今回の力添え、蒼魔族を代表してお礼申し上げると
 王弟殿下へと伝えられよ」
参謀軍師「うけたまわりました。……刻印王は?
 古い王を廃されて、いよいよ名実をもって貴方の主が、
 蒼魔族を率いるようになったと聞きましたが?」
蒼魔上級将軍「王は力を蓄えるための眠りについておる」
参謀軍師「そうですか……」
蒼魔上級将軍「王としても、聖王国の手引きには
 感謝を示されていた。
 もっともそれもそちらの都合あってのことであろう?
 我らが魔族に、白夜を討たせたい都合が」
参謀軍師「それはまぁ、ははは」
蒼魔上級将軍「利害の一致。責めようと云うつもりはない」
参謀軍師「有り難い限りですな」
蒼魔上級将軍「さて、取引だな」
参謀軍師「はい」
蒼魔上級将軍「まずは、白夜を落とした見返りを頂きたい」
参謀軍師「蒼魔族は地上に新しい領土を獲た。
 ……それでは不十分すかな?」
蒼魔上級将軍「それは我らが実力で勝ち取ったものであろう?
 聖王国は何も失っておらぬ。それでは取引にはならぬ」

245 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:11:51.04 ID:34eUyEEP
参謀軍師「さよう云われましても……。
 では、かねてより依頼してありました、
 あちらのほうで対価に色をつけようではありませんか」
蒼魔上級将軍「ああ。依頼されたとおり、最大限の量を
 国元より運び出してきた。あれの運び出しのために、
 我が軍の輜重部隊の積載量は大幅に圧迫され、
 食料や武器などにもすでに悪影響が出ているのだぞ?」
参謀軍師「そちらを高額で買い取る、ということで
 この際いかがでしょう? 取引とはなりませぬか?」
蒼魔上級将軍「あのようなものを、本当に欲するのか」
参謀軍師「いくつかの産業で入り用でしてな」
蒼魔上級将軍「ふむ」
参謀軍師「どれくらいの量を用意されているのですか?」
蒼魔上級将軍「馬車にして、900台といったところだろう」
参謀軍師「そうですか。……ではそれら全てを3倍の量の
 食料および、替えの武具4000人分でいかがですか?」
蒼魔上級将軍「硝石とは随分貴重な物のようだな。
 5倍の食料およびそのままの数の武具と交換して貰おう」
参謀軍師「っ。……判りました」
蒼魔上級将軍「引き渡す硝石は半分だ。少なくとも我らが
 隣国を落とすまではな」
参謀軍師「……宜しいでしょう」

247 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/27(日) 21:14:42.25 ID:34eUyEEP
蒼魔上級将軍「補給食料はいつ用意できる?」
参謀軍師「このようなことになると考えていましたし、
 半分であればさほど時をおかずに用意できるでしょう」
蒼魔上級将軍「では早速搬入を初めて貰おう。
 我らはすでに隣国攻略作戦の情報収集段階にはいっている」
参謀軍師「流石勇猛をもってなる蒼魔族」
ザッザッザッ
蒼魔近衛兵「報告でありますっ!」ちらっ
蒼魔上級将軍「構わぬ」
蒼魔近衛兵「測量騎兵隊準備終了しました。
 これより出発いたしますっ!!」
蒼魔上級将軍「急げ。王の瞑想終了には間に合わせよ」
蒼魔近衛兵「はっ!!」
参謀軍師「鉄の国、ですか」
蒼魔上級将軍「多少は歯ごたえがあればよいのだが」
参謀軍師「南部三カ国の中ではもっとも兵の充実した国です。
 噛み応えはあるでしょう。安心為されて宜しいかと」
蒼魔上級将軍「そうだとよいが……。ん?」
ふわり
参謀軍師「どうなされた?」
蒼魔上級将軍「いや、何でもないようだ」

249 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:37:03.97 ID:34eUyEEP
――蔓穂ヶ原の外れ、鉄国後方陣地
ザックッザックザック……
女騎士「良く整えられた陣営だな」
冬国士官「そのようですね。1500にしては規模が大きいような」
女騎士「増えることを見越してあるのだろう」
冬国士官「そうですね」
バサッ
軍人子弟「騎士殿!!」
女騎士「軍人子弟っ!」
軍人子弟「はははははっ! お久しぶりでござる!
 ずっとお会いもできませんでござった!
 しかしきっといらっしゃると思っていたでござるよっ!」
鉄国少尉「こちらは、まさか!?」
軍人子弟「そう! かつて勇者を支えた三人の英傑の一人にして
 湖畔修道委員会の指導者、そして我が三カ国同盟の誇る常勝将軍!
 ”鬼面の騎士”にして”怪力皇女”! “絶壁つるつる行進曲”!
 我が師、女騎士殿でござぐぇぇぇっ」
女騎士「お前は成長しないのか」 チャキンッ
冬国士官「ふははは」
鉄国少尉「あははははっ」
女騎士「恥ずかしいところを見せてしまったな。
 わたしは女騎士。新任の将軍にして、この戦の司令官だ。
 貴君ら鉄の国の国境防衛部隊は、我が傘下に組み込まれる」
鉄国少尉「お話は伺っております! どうぞ天幕へっ!」
軍人子弟「ぐっ。……拙者だって上官なのに」

250 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:38:32.54 ID:34eUyEEP
――蔓穂ヶ原の外れ、鉄国後方陣地、仮設兵舎
女騎士「それで、軍人子弟はここが戦場になると読んだのか?」
軍人子弟「そうでござらんが。おい、地形図を」
鉄国少尉「はっ」
ばさり!
女騎士「ふむ」
軍人子弟「ここは鉄の国と氷の国を流れる紫涙河の源流付近。
 山岳からやってきた清水は森林の中に大小合わせれば
 無数としか言い様のないくぼみを作り、
 こちらの蔓穂ヶ原は湿原地帯となっているでござる」
冬国士官「ふぅむ」
軍人子弟「水量の豊かなこの地は、
 いずれ干拓や潅漑が進めば
 豊かな農地へとなるかも知れないでござるが、
 現在の所は水はけの悪い草原、湿地帯、泥炭地の混合地形。
  しかしながら付近では大規模な軍を運用できる土地は
 他にはござらん。また、この場所に軍の集積地をおけば、
 白夜国から鉄の国へとやってくる峠道や迂回路のほぼ全てを
 2日以内の地点で監視する体制を作れるでござる」
女騎士「哨戒はどうなってる?」
軍人子弟「半日ごとに偵察を切り替えながら、
 常時監視を行っているでござるよ」
女騎士「まずは及第点だ」
軍人子弟 ふぅ
鉄国少尉「護民卿、顔色蒼いですよ」
軍人子弟「今までの色んな記憶のせいで
 やたらと緊張するのでござるよ」

251 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:39:38.49 ID:34eUyEEP
女騎士「さぁって、ここからは本番だな」
軍人子弟 こくり
女騎士「こっちはいま2000連れてきた。騎馬500に歩兵1500。
 どちらも訓練度は高い正規軍人で、実戦経験もある」
軍人子弟「この陣地および周辺に展開中なのは3500名。
 全て正規軍人で、訓練度には多少ばらつきがござるが
 最終的には拙者が全員を指導いたしました」
鉄国少尉「あわせて、5500名でございますね。
 早速少量備蓄と配給を再計算しなくては」
女騎士「敵は最大25000の蒼魔族。
 戦力、兵装、戦術は不明だが
 騎馬部隊、弓兵部隊の存在は確認している。
 騎馬は槍を装備して、他には小剣と盾を持った歩兵もいたな」
軍人子弟「弓兵は長弓でござるか?」
女騎士「長弓と云うには多少小降りだったな。
 だが威力はなかなかだった」
軍人子弟「ふむ。比率は不明、と」女騎士「そうだ」
軍人子弟「威力偵察に迫ってきた兵達は騎馬部隊でござった。
 騎馬には板金の馬鎧をつけてござったな」
女騎士「重騎兵か……」
軍人子弟「まず第一に云えるのは」
女騎士「聞こう」

252 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:41:04.87 ID:34eUyEEP
軍人子弟「敵の司令官は馬鹿でもなければ
 油断も慢心もしていないと云うことでござる。
 さらにいえば、その蒼魔族なる魔族は武装が良くて
 統制も取れ、訓練も行き届いていると云うこと」
女騎士「同感だ」
軍人子弟「そして二倍の数がいることから考え合わせると、
 通常の戦闘をする限り、
 拙者達の運命は敗北以外にはないと云うことでござる」
女騎士「その通り」
軍人子弟「ではどのように機略を用いるかと云うことでござるが、
 その前に確認したいことはこの戦争の最終的な目標でござる。
 目標が与えられない限り、戦術は構築出来ないでござる」
女騎士「良く覚えてるな」
軍人子弟「戦術授業だけは真面目に受けたでござるよ」
女騎士「お前も護民卿になったんだろう?
 目標設定もしてみるべきだな」
軍人子弟「民を護ることでござる」
女騎士「“どこ”の?」
軍人子弟「もちろん、白夜の国を含めて」
女騎士「では目標はただ一つ。蒼魔族を打ち破り、
 白夜の国も開放すべきだ」

255 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:43:19.62 ID:34eUyEEP
冬国士官「まっ。待ってくださいよ。今わたし達は
 自分たちが生きるか死ぬか、国が滅びるか、
 滅びないかの瀬戸際なんですよっ!?」
鉄国少尉「そうですよっ! 裏切り者の白夜なんて
 構っている場合じゃないですよっ」
女騎士「と、云っているが?」
軍人子弟「どうにもならなければ、
 作戦目標を変更することもあるでござるが、
 最初から引き分け狙いで勝てるほど甘い相手ではないでござろ?
 “完全”を求める者にこそ、
 それでやっと“半分”が与えられるでござるよ」
鉄国少尉「……っ」
女騎士「さぁて、随分骨のある課題になったな」
軍人子弟「そうでござるね。まずは、数の差を埋めるでござるよ」
女騎士「おおっと、そっちからいくか」
軍人子弟「これでもこき使われたでござるからね。
 戦略によって戦闘資源を確保できるならば、
 その方が王道でござる。騎士殿はお土産はないのでござるか?」
女騎士「氷の国の兵は断った。
 冬の国からは歩兵3000が一週間後には届くだろう」
冬国士官「はい、連絡を絶やさないようにしております」
軍人子弟「拙者のほうでは開拓兵に声をかけるでござる」
女騎士「何に使う?」
軍人子弟「工兵としてならば期待できるでござる」

257 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/27(日) 21:45:41.50 ID:34eUyEEP
女騎士「と、やはり地形か」
軍人子弟「地形でござるね」
女騎士「だが、さっき聞いたが敵も馬鹿じゃないんだろう?
 重装騎兵を持っている将軍が、沼沢地方での決戦に応じるか?
 こちらの地形情報がなければそれもあり得るだろうが
 斥候も測量もださないってのは流石にないだろう」
軍人子弟「餌が必要でござろうね」
女騎士「餌、か」
軍人子弟「騎士師匠」きりっ
女騎士「何だよ改まって。気持ち悪いな」
軍人子弟「拙者、前々から思っていたのでござるが
 騎士師匠は実に端正な横顔をしているでござる。
 桑折推奨のような鮮やかな瞳にバラ色の唇、細くて豊かな髪。
 馬上にて指揮する姿は全軍の視線を集める戦の女神でござるよ」
鉄国少尉「えっと」
冬国士官「そのように云われると、我が将軍ながら照れますね」
女騎士「なっ、何を言ってるんだよ」
軍人子弟「いやいや、もうこれはお世辞ではござらんのですよ。
 その上我らが南部三ヶ国通商の誇る常勝将軍にして
 勝利の約束、生きる伝説でもある姫将軍でもあるわけです」
鉄国少尉「えー」
軍人子弟(小声)「褒めるでござる」
鉄国少尉「へ?」
軍人子弟(小声)「褒めちぎるでござる。
 ちぎってちぎってちぎりまくるでござるよ」