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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part66


36 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 21:58:41.52 ID:pLtZgbkP
メイド姉「それは、まぁ。ある意味仕方ないかも知れませんね」
奏楽子弟「そうなの?」
メイド姉「聖光教会。中央教会ともいいますが、
 これはもう非常に強力なのです。
 普通、ただ単純に“教会”といえば、
 この宗派を指すぐらいに最大派閥なんですよ。
  この大陸にいる光の精霊信者の半分以上は、
 この中央教会の影響下にあると思います。
 実際の人々は、色んな国や貴族の領地に暮らしていますけれど
 その殆どが教会にも所属しているわけですから
 彼らの生活の全てを補佐していたり、影響力を持っています。
  ここまで大きくなると、国であっても無視できないし、
 むしろ気にしながらでないと、民を治めることなんて出来ません。
 教会が一言“背教者”と名指しにしただけで、
 自分の領地の領民がその日のうちに貴族を血祭りに上げたり
 しかねませんからね」
奏楽子弟「結構物騒なんだね」
メイド姉「ええ、そんなわけで、教会。
 とくに聖光教会は強大な権力を持っています。
 その権力が正しく働けば、横暴な貴族や王族から
 民を護る盾のようにもなるでしょうけれど
 現実には、貴族や王族と癒着して、農奴や開拓者を
 苦しめてしまうこともありますね。
 また、そうやって大きな力をもっていますし、
 知識や技術などの集積もしていますから、
 ……んー。自分たちを優れたものだと考える
 聖職者の方もいらっしゃるようなのです」
奏楽子弟「それでああいう横柄な態度になるわけだ」
メイド姉「そうですね……」

37 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 21:59:49.46 ID:pLtZgbkP
奏楽子弟「どうしよっか。
 あの態度は、ちょっとやそっと粘ったくらいで
 どうにかなる感じじゃなかったね」
メイド姉「そうですね。わたしもちょっと甘く見ていました」
奏楽子弟「うん、びびった」
メイド姉「すごいですね」
奏楽子弟「すンごいね」
メイド姉「ええ」こくり
奏楽子弟「金ぴかじゃない」
メイド姉「お城よりも豪華でしたよ」
奏楽子弟「お城なんて行ったことあるの?」
メイド姉「あ、いや。見た目だけ」
奏楽子弟「彫刻のない柱なんて無かったね」
メイド姉「目がくらくらしますよ。どれだけ広いんですか」
奏楽子弟「ざっと見た感じ、短い辺が千歩ってとこだったね。
 本体は石造、漆喰、伽藍はフレスコ、彫刻した柱は総大理石。
 金箔に象眼。絵画に植樹、人工庭園。
 あれは当代一の建築家に芸術家に技術者動員しても20年がかりの
 仕事だね!」
メイド姉「詳しいんですね! 詩人さん」
奏楽子弟「ま。腐れ縁に土木野郎がいるからねっ」
メイド姉「わたしはもっと、広いだけで質素な、煉瓦造りの
 大きな集会場みたいなものを想像しちゃっていましたよ」
奏楽子弟「わたしも。そういう教会、多かったしね」
メイド姉「ええ」

38 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 22:02:48.68 ID:pLtZgbkP
奏楽子弟「どうしよっか」
メイド姉「仕方ありませんね」
奏楽子弟「やっぱり諦めるしかないよねぇ。ここまで来たのになぁ」
メイド姉「潜入しましょう」
奏楽子弟「え?」
メイド姉「こっそり入りましょう。黒っぽい服あったかな」
奏楽子弟「ええっ!?」
メイド姉「はい?」
奏楽子弟「ほんとにっ!?」
メイド姉「はい」
奏楽子弟「何でそう思い切りが良いの、メイド姉さんはっ」
メイド姉「なんででしょう……。勇者様の悪影響なのかな」
奏楽子弟「?」
メイド姉「いえ、身近に行動力が突出した人が多くて」
奏楽子弟「もうちょっと、慎重にさ」
メイド姉「ええ、慎重に潜入計画を立てないといけないですよね」
奏楽子弟「そう。こういう事には準備がね。
 できれば簡単な内部見取り図とか、巡回の把握とか、
 目標地点の確認とかもしないと」
メイド姉「しばらく路銀を稼ぎながら情報収集ですね。
 ありがとうございます。詩人さんはやはり頼りになりますね」
奏楽子弟「……あれ? いつの間にか潜入することになってる?」
メイド姉「なんだか胸騒ぎがするんです」
奏楽子弟「そう?」
メイド姉「空気がざわざわしているような……」

42 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 22:20:54.42 ID:pLtZgbkP
――白夜国首都、白亜の凍結宮
蒼魔の刻印王「ふむ。それで引き上げてきたか」
蒼魔上級将軍「どのような罰をお与えになりますか?」
蒼魔の刻印王「いいやかまわん。
 どちらにしろ騎馬隊の任務は偵察だったのだ。
 鉄の国が峠道を一本つぶしてでも交戦を避けた。
 その情報にも意味がある。
 多少遠回りにはなるが、より太い街道が何本かあっただろう?」
蒼魔上級将軍「おいっ。ここいらの地図を持ってこい」
蒼魔軍兵士「はっ!」
ばさぁっ!
蒼魔の刻印王「これは、山か。そして森林だな。
 この地方の森林は深いのか?」
捕虜の文官「……ぐっ。深い……。原生林だ」
蒼魔上級将軍「軍の動きは著しく制限を受けますな」
蒼魔軍兵士「恐れながら、刻印王様のお力で、敵軍ごと
 焼き払うわけには行かぬのでしょうか?」
蒼魔の刻印王「もちろん出来るとも。
 お前が勇者の相手をしてくれるのならば
 喜んでそうしよう」
蒼魔軍兵士「しっ、失礼を申し上げましたっ!」
蒼魔上級将軍「――と、なりますと」

44 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 22:25:10.55 ID:pLtZgbkP
蒼魔の刻印王「この街道を通り、蒼魔騎兵部隊および
 歩兵部隊を進める。
 重装蒼魔兵部隊を中核に据えるとしてどの程度かかる?」
蒼魔上級将軍「10日から12日、と云うところでしょうか。
 こちらの世界は地下と比べて山脈が険しいようですが、
 街路の状況は悪くありませんな」
蒼魔の刻印王「騎行部隊を編制せよ。
 周辺の地形を探索させるのだ。
 人間の民間人に出会った場合は殺せ。
 足跡を残すのも面倒ごとになる」
蒼魔上級将軍「決戦は、この平野ですな」
蒼魔の刻印王「蔓穂ヶ原か。――おい、蔓穂とは何なのだ」
蒼魔上級将軍「お答えせんか」
ビシィッ!
捕虜の文官「……蔓穂は、草花だ。白から濃い紫の。
 花が咲く……その平野は……開発の手が着いていない……」
蒼魔の刻印王「紫か」
蒼魔上級将軍「吉兆ですな。我らが蒼魔の色」
蒼魔の刻印王「我は勇者との戦いに備えて瞑想に入らねばならぬ」
蒼魔上級将軍「はっ!」
蒼魔の刻印王「後は判っておろうな。この国の掌握に
 兵は2000も残せば十分であろう。督戦隊を組織せよ。
 例の策を使うのだ」
蒼魔上級将軍「はっ。仰せのままにっ!」

50 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:01:16.04 ID:pLtZgbkP
――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場
銀虎公「これはっ」がたっ
碧鋼大将「ご回復ですかっ」
鬼呼の姫巫女「ご回復おめでとうございますな」にやっ
紋様の長「ご本復誠に喜ばしい限り」
魔王「え、あ。いや……。その、世話をかけた」
メイド長「さ、まおー様。座ってください」
銀虎公「よっし、魔王殿もこれで回復だ」
碧鋼大将「うむ」
火竜大公「これで肩の荷が下りますかな」ぼうっ
魔王「まず最初にこの場にいる知恵深き長がたに
 われ三十四代魔王“紅玉の瞳”は深くお礼申し上げる。
 我が不徳から長き間そのつとめを離れたことを
 申し訳なく思うと共に、その間のつとめを我に代わって
 果たしてくれた長がたの深い知恵と行動を嬉しく思う。
  我のいない間の長がたの問題認識とその決断に
 至るまでの経緯、重ねた議論については、
 これなる黒騎士にして勇者から聞いている。
  長がたの下した決断で、
 我のほうから不服や不足がある点は一つもない。
 どれも熟慮と配慮ある決断であったと考える。
  銀虎公、碧鋼大将、妖精女王、衛門の長、
 鬼呼の姫巫女、紋様の長、巨人伯。
 深くお礼申し上げる。
 特に火竜大公には意見のとりまとめをして頂いた。
 見事であったというほかない」

51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:02:15.25 ID:pLtZgbkP
銀虎公「いや、そんな頭を下げられるような」
鬼呼の姫巫女「我らは、為すべき所を為したまで」
巨人伯「そうだ……まおう……治って良かった」
火竜大公「はははっ。魔王殿にそう言われて、
 我ら一同、胸のわだかまりも労苦も解けて
 流れていくようですな」
妖精女王「はいっ」
東の砦将「怪我の具合を聞いても良いかい?」
メイド長「代わってお答えします。
 包帯のほうも取れまして、食事の制限も通常に戻っています。
 予後治療としてあと一ヶ月程度の治癒術を予定していますが、
 戦闘などはともかく、ごく普通の政務であれば問題ないと
 考えております」
魔王「と、いうことだ」
メイド長 ぺこり
銀虎公「で、あるならばもはや何の問題もないな」
碧鋼大将「うむ」
火竜大公「魔王殿、ではこの会議はその役目を終え
 魔王殿に全権をお返しする、と云うことで宜しいか?」
魔王「いや、それは保留としよう。
 現在は問題の規模が大きくなり、
 事件と事件の間の距離が開きすぎている」
妖精女王「蒼魔族、ですか」

52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:05:20.71 ID:pLtZgbkP
魔王「今回の事件に対応するためには、
 この会議の力がまだ必要だと思えるのだ」
火竜大公「……ふむ」
紋様の長「魔王殿は今回の蒼魔族の人間界侵攻、
 どのような対応をすべきとお考えか?」
魔王「そうだな。ふむ……。
 衛門の長よ。あなたは人間界、魔界の事情の両方に
 明るかろう。またその経験から軍事にも秀でておる。
 現在の状況について思うところを聞かせてくれ」
東の砦将「ふぅむ」 ぽりぽり
副官「しっかりしてくださいね」
東の砦将「まず、最近色々聞きかじったところに寄れば、
 蒼魔族の領地には約16万人の蒼魔族が取り残されたようだな。
 キツイ言い方になりますが、こいつらは捨てられた。
 ……そういう事になるんだろう」
碧鋼大将「哀れな。捨てられたる哀しみも知らず」
鬼呼の姫巫女「そうであろうな」
紋様の長「ふぅむ」
妖精女王「あくまで隠密裏にですが偵察した結果、
 多くの食料は軍が糧食として徴収していったようですね。
 また砂金や軍需物資の持ち出しも確認されています」
鬼呼の姫巫女「蒼魔族の領土内には鉱山も多く、
 中には魔界最大の金山もあったはず」
妖精女王「どれくらいの持ち出しが為されたかは、
 偵察のみではとても把握できませんが」

53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:06:58.65 ID:pLtZgbkP
東の砦将「次に蒼魔族の軍部の行動についてだ。
 これは明白だろうな。
 手詰まりになる前に討って出たということだろう。
 現状魔界の全軍を相手に押し切るのは難しい。
 ……まぁ、おそらく勇者の存在も効いたんでしょうな。
  あの場で魔王を殺し自分が即位してしまえば
 逆らう族長は粛正して恐怖政治にて魔界を支配できる
 可能性もあったと云える。
  その目論見が外れて、しかも蒼魔族以外が団結してしまった。
 これがたとえば獣人族や機怪族を巻き込んで、
 魔界を二分する大戦にでも出来ていれば、
 まだいろいろやりようもあったんだろうが、
 この状況になってしまった以上、戦ったところで、
 早い遅いの差はあれじり貧だ。
  現にこの会議だって、どのような決着にするかについては
 考えていたが、負けた場合の事なんて考えてはいない。
 蒼魔族の命運は尽きた、その前提での話だったわけだ」
銀虎公 こくり
碧鋼大将「人間界に討って出るとは……」
東の砦将「そのとおり。
 蒼魔族そこで人間界に討って出た。
 結果から考えると、これはなかなか悪い手ではない。
 もちろん蒼魔族にとっては、と云う意味だがな。
 小耳にはさんだ話じゃ、蒼魔族は地上に侵攻早々、
 白夜国という国の都を落として掌握したって聞く」
火竜大公「一国を?」
妖精女王「そこまでの力を備えていたのですか」

54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:08:32.87 ID:pLtZgbkP
東の砦将「ああ、南部諸王国と呼ばれた4国のうち一つ。
 様々な理由で立ち後れ、周囲に戦争を仕掛けては
 返り討ちに遭い、国力も兵力も衰えていた国がある。
 それが白夜国だ。
 そんな国に運悪く蒼魔族が現われた。
  城は一日も持たなかったそうだ。
  結果として、蒼魔は地上に足がかりを作ったことになる。
 地上では、魔界とは違った形だが、戦争の気配がってな。
 南部の王国と中央が争っている。
 正直に言えば、今は魔族の相手などはしていたくはないはず。
  その隙を狙って、一番落としやすそうな所を落とした。
 その上そう言う案配の地上だもんだから、
 全員が一致協力して、この蒼魔族を撃つかどうかは判らない。
 何せ蒼魔と戦い始めた瞬間、背後から同じ人間に
 攻められるかも知れないわけだからな」
勇者「……」
魔王「……」
東の砦将「現状の把握はこんな所だろう。
 またこのさきについて多少考えるならば、
 おそらく蒼魔族は地上で版図を広げるつもりなのだろう。
 魔界の領土を捨てた以上それ以外に残された道はない。
 いずれ魔界へと帰るにしろ、その時は、
 何らかの事態の変遷を経て、
 魔界と自分たちの戦力差が縮まった時となる」

59 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:38:47.39 ID:pLtZgbkP
勇者「正確な分析だろうな」
魔王「考えなければならないのは、内通だな」
紋様の長「内通?」
銀虎公「どういう事だ?」
東の砦将「あまりにも地上の情報に通じている、ってことだ。
 白夜国は、度重なる失策で疲弊もしていたし、
 何と言えばいいかな。
 国家、こちらで云うところの氏族か。
 その組織としての輪郭が、あまりにもぼやけていた。
 隅々まで統制は行き渡っていなかったし
 なんというか、負け犬のような根性になっていたんだろうな。
 そこを鮮やかにつかれた。奇襲としては完璧だ。
  だが、魔界の氏族に、そのような地上の知識や機微が
 どこまであるのか? また狙いをさだめたとしても、
 2万からの軍を動かすとなれば地理や気候などを
 無視して上手く行くものではない」
火竜大公「人間の中に、蒼魔族に手を貸したものがいる、と?」
東の砦将「そうだ」
魔王「まぁ、そのような内通者などどこにでもいる。
 ここにいる族長の方々も程度の差こそあれ、
 人間界の事情は何くれとなく気にかけているであろう?
  今回の内通とはその規模ではなく、
 もし、地上界のどこかの国家が、蒼魔族を援軍として
 呼び込んだのだとしたら……。
 そこが懸念だ」

60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:41:01.01 ID:pLtZgbkP
銀虎公「地上の争いか……」
火竜大公「ふぅむ」
魔王「わたしの把握している情報だと、その可能性が
 もっとも高そうなのが、白夜国自身だ」
妖精女王「どういうことですか?」
魔王「つまりその場合は、人間界での自分たちの領土や
 権益の回復を目指し魔界と手を結ぼうとしたが
 逆に蒼魔に隙を突かれて自滅した。という形だな」
銀虎公「ふぅむ。なんていうか、そこまで落ちぶれた
 氏族だったのか? 白夜族というのは?」
東の砦将「あー。そうかもなぁ」
魔王「このパターンは哀れな話ではあるが
 ある意味自業自得ではあるし、
 この先の問題点は少ないと云えよう。
 つまり、蒼魔族は白夜国を滅ぼしたことで、
 人間界での案内人を失ったわけだからな」
鬼呼の姫巫女「ふむ」
魔王「わたしが恐れているのは、もう一つの想定だ。
 人間界での戦は、単純化すれば『南部』と『中央』との
 戦いだと云える。その片方が蒼魔族を招いた場合だな」
銀虎公「そいつらはどんな理由で争っているんだ?」
勇者「はじめはそこまで争っていなかったんだ。
 だが『南部』の国は魔界との戦いの最前線だった。
 それにたいして、『中央』の国々は後方の安全な場所から
 戦争に賛成していたんだな。この辺の意識の違いから
 だんだんと溝が深まっていった」

61 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:42:25.97 ID:pLtZgbkP
魔王「だが今となってはそう言った始まりの原因よりも、
 様々な点で国としての方針が合わなくなって
 しまったことが大きいな。
  『中央』の国々は、魔界との全面戦争を望んでいる。
 しかし、それには大空洞に近い『南部』の国を従えるか
 制圧しなければならない。そもそも『中央』の国々は
 プライドが高く、『南部』が従うのを望んでいる。
  しかし、経済や交易などで力をつけた『南部』の発言力は
 だんだんと『中央』の制御から離れていった。
  現在決定的な意見の相違は二点だ。
 『南部』は奴隷を解放したが、『中央』は奴隷を認めている。
 『南部』は魔界との停戦を模索しているが
 『中央』は魔界との全面戦争、少なくとも遠征を意図している」
銀虎公「面倒だな」
火竜大公「蓋を開けてみれば、より複雑なのであろう」
魔王「それはどこの世界でも一緒だ。多くの人が生きていれば
 意見の違いもある。一筋縄では行かぬ」
鬼呼の姫巫女「しかし、そうなると、
 蒼魔は人間界にとっても大きな転機になりうるな」
魔王「その通りだ」
銀虎公「人間が最初に魔界に攻め込んだんだ。
 人間全部が魔界の富に釣られているって事じゃないのか?」
東の砦将「富の部分は否定しないがね。
 まぁ、この件は教会の影響力も大きかった」

62 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:43:40.44 ID:pLtZgbkP
鬼呼の姫巫女「教会とは、神殿の仲間であろう?」
東の砦将「そうだな。魔界の神殿組織よりも、
 地上世界の教会のほうがずっと組織として整備されているし、
 発言力も強大だが、根底は似ている。
 教会は国家、つまり氏族の枠に縛られない。
 実際問題、人間界ではただ一人の神が信じられているんだ」
巨人伯「一人!?」
勇者「ああ、そうだ。光の精霊という」
魔王「――炎の娘だ」
東の砦将「それで、まぁ、その教会が宣言しちまったのさ。
 “魔界は悪だ、殺すべきだ!”ってな。
 一応、誤解の無いように言っておくが
  魔界に住む魔物の多くは、地上世界の動物よりもずっと
 戦闘力が高くて危険なんだ。
 その性質は地上に出ると余計に強化される。
 つまり凶暴化するんだな」
鬼呼の姫巫女「魔物と魔族を一緒にするでない」
東の砦将「その意見は判るが、
 そこは頭の悪い野蛮人だと思って我慢してくれ。
 ゲートが開放された時に出た被害者や拡散した魔物、
 それから教会の伝えた報告により、地上の大部分の人間は
 魔界の実態も知らないままに恐怖した。それも事実なんだ」
紋様の長「ふむ……」

63 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:45:06.72 ID:pLtZgbkP
魔王「そんな状況下で、蒼魔族が地上で暴れた場合
 魔界と人間界の間の関係に決定的な影響を
 及ぼしてしまう可能性が高い」
碧鋼大将「人間界が、再び魔界侵攻をすると?」
東の砦将「……」
魔王「魔界侵攻そのものは問題ではない。
 いや、それはそれで憂慮すべき事だが、一つの結果だ。
 むしろ問題は、人間界に住む人々に大規模に魔界の
 恐怖がきざまれてしまい、もはや共存の可能性が
 無くなってしまうことだ」
銀虎公「……ぐるるるる」
碧鋼大将「……」
妖精女王「それは困ります」
東の砦将「そうだなぁ」
魔王「ここにいる長の方々
 全てが共存に賛成な訳ではないのも判っている。
 しかし、考えてみて欲しい。
 地上と地下、二つの領域があったのだ。
 人間界の戦力が我らよりも小さい可能性はもちろんある。
 だが同様に我らと等しい可能性も、我らよりも大きい
 可能性もあるのだ。
 そうだろう? 相手が我らよりも劣っているなどと
 判断できる理由はどこにもないのだ。
  魔王としてこれだけは断言する。
 勝てたとしても、負けたとしてもその戦争は
 最低でも100年は続くだろう」

65 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 23:47:34.94 ID:pLtZgbkP
紋様の長「逆に聞きますが、
 その全面戦争を回避できる策はありますか?」
魔王「確実な策はない」
妖精女王「ないんですか……」
東の砦将「……」
魔王「実際問題、我らは違いすぎる。
 肌の色も、姿形も。生活習慣や信じる神、食べている物。
 服装や、社会規範から、尊い思う礼節まで。
 戦争にならないほうが不思議だ。
 自然のままであるのならば、いずれ争いになるだろう」
碧鋼大将「……」
銀虎公「……」ぎりっ
魔王「だがしかし、わたしはやはり回避できるのならば
 戦争は回避すべきだと考える。
 別に人間族を恐れているからではない。
 戦えば、勝つ。勝つための努力をする。
 それが魔王だからな。
 ――しかし、それでいいのか? 長老方。
 わたしには他にも出来る何かがあるような気がする」
勇者「銀虎公」
メイド長「?」
勇者「何か言いたいことがあるんじゃないのか?
 云っちまった方がいいと思うぜ。会議なんだから」