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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part64


806 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 18:17:42.97 ID:W1zfwn6P
鬼呼族の姫巫女「とは?」
鬼呼執政「送られたる計画をつぶさに調べたところ、
 九本の道路それぞれに別種の債符が割り当てられております」
鬼呼族の姫巫女「ほう」
鬼呼執政「たとえば巨人族の都へと繋がる道の債符は
 そこを使用する商人しか買わないでしょうが、
 鬼呼族のそれは多くの商人が必要とするでしょう。
 より多くの人が必要とするのならば、
 債符は多く売れ、工事は早く完成いたしまする」
鬼呼族の姫巫女「ふむ」
鬼呼執政「また言えば、鬼呼の地でおのれをもてあましたる
 若者や兵士として職にあぶれていた者は、
 他国へと出稼ぎに行っても道路を造る仕事がありましょう。
 蒼魔族との戦闘が気になるのならば、
 先にそれより離れたる、例えば機怪の地への街道を整えれば
 良いわけです。
  われら鬼呼は治水や潅漑などの技に生来優れております。
 おそらくどのような国でも歓迎されるでしょう」
鬼呼族の姫巫女「……うむ」
鬼呼執政「いかがでしょう」
鬼呼族の姫巫女「普請の教え長を呼べ。彼ならば、家造りの
 匠を良く心得ておろう。
 100人班を編制して、普請組として立ち上げよう。
 会議に諮って、我が鬼呼の技、高く買ってくれるところへ
 売りつけようぞ」
鬼呼執政「ふぅむ。工事の傭兵でございますな?」
鬼呼族の姫巫女「血の香のせぬ、な。
 これならば民も納得して、
 わが鬼呼の力を魔界に見せつけてくれるだろう」

812 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 19:09:03.20 ID:W1zfwn6P
――湖の国、首都近郊、さびれた文書館
ガチャガチャ……。ギィイイィィィイイ。
修道院司書「こちらでございます」
メイド姉「ありがとうございます」
奏楽子弟「すみません」
修道院司書「ここにあるのは古い時代のものばかり。
 退光しますゆえ直接光に当てませんよう」
メイド姉「判りました」
奏楽子弟「すごい量と埃ね」
修道院司書「ご用がお済みの際には守衛室にお寄りください。
 温かい茶など入れましょう。修道院長の話など
 お聞かせ願えれば、幸いです」
メイド姉「はい、是非に」
修道院司書「それではこれにて……」
ギィイイィィィイイ。コッコッコッコッ。
奏楽子弟「えっと、メイドさんってすごいんだね」
メイド姉「どうしてです?」
奏楽子弟「いや、修道院長って随分偉い人なんでしょう?
 そんな人の紹介状を持ってるなんて」
メイド姉「以前お世話になったんですよ。それに、それは
 女騎士さんがすごいのであってわたしなんて全然」
奏楽子弟「そうかなー」

813 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 19:10:21.96 ID:W1zfwn6P
メイド姉「結構な量がありますね」
奏楽子弟「2、300冊? 巻物が多いね」
メイド姉「旧いと云ってましたしね」
奏楽子弟「わたしの目的は『聖骸』だけど、
 そっちは何なのかな? お互い見かけ合ったら
 相手に教えた方が効率が良いよね」
メイド姉「そうですね」
奏楽子弟「何を探しているの?」
シュルシュル、パラっ
メイド姉「それが、判らないんです」
奏楽子弟「へ?」
メイド姉「上手く言葉に出来ないんですが『源流』を。
 古い古い話を見たいんです。
 知っている中で、もっとも古い話はここにありそうだったので
 ここを目指してやってきたんですよ。
 別に古い話が目的ではないんですが、
 新しくスタートをするのなら、
 そもそもの最初の地点を探し出さないといけないと思って」
シュルン、パラリ
奏楽子弟「ふぅん、几帳面なんだね」
メイド姉「要領が悪いんですよ」くすっ
パラッ
奏楽子弟「何だろう。古い羊皮紙ほど上質だね」
メイド姉「どうしてでしょうね」

814 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 19:11:15.10 ID:W1zfwn6P
パラッ
奏楽子弟「どう?」
メイド姉「いえ。『聖骸』も、それ以外も……」
奏楽子弟「こっちも、子供向けのお説教や、麦の収穫量の話だね」
パラッ
メイド姉「貴重なものなのでしょうが」
奏楽子弟「うん。――ああ、これは賛美歌集だ。
 こんなのは始めてみる……。メロディが判らないなぁ」
メイド姉「古いものですか?」
奏楽子弟「どうだろう」
メイド姉「こっちも古いですね」
奏楽子弟「なに?」
メイド姉「古い古い物語のようです。大地……精霊?」
奏楽子弟「ん? ちょっと見ても良い?」
メイド姉「ええ、どうぞ」
パラッ
奏楽子弟「……うーん」

815 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 19:12:53.81 ID:W1zfwn6P
――崩れ去り書けた羊皮紙の詩
 かつてありし光あふるる理想郷
 其は精霊住みし失われた大地。
 大地にありて輝くは五つの星。
 森、水、大地、黄金、そして炎。
 あい和合し時には乱れ、7の7乗の7乗倍、歳月を重ねる。
 見よ炎に生まれし娘有り。
 かつて無きその聡き額に見えない王冠はかがやき
 幼き頃からその慈愛遍く万物を照らす。
 見よ大地に生まれし少年有り。
 異境より訪れし女と精霊の間に生まれた忌み子。
 大地の魔峰を黒く汚し災いをもたらさん。
 ふれあいし指先はやがて絡められ
 幼き約束は胸焦がす誓いとなる
 希望が解き放ち罪の名と大いなる翼の庇護の下
 二つの魂は結ばれん。
 もって神世は崩れ去り、理想郷は終焉す。
 しかし少女は眠らずにその慈愛、遍く世を照らす
 罪の名を知る人々の足下を。

816 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 19:14:14.94 ID:W1zfwn6P
――湖の国、首都近郊、さびれた文書館
メイド姉「精霊の話……? 初めて目にしますが」
奏楽子弟「これ……。五大家?」
メイド姉「え?」
奏楽子弟「精霊の五大家の話だ。
 こんなに古いのはわたしも見たことはないけれど」
メイド姉「どういう事ですか?」
奏楽子弟「まか……いや。あたしの故郷では。
 えーっと。
 大地に住む人々は全て。
 何と言えばいいのかな……。
 そう、伝説だね。
 伝説の、その五大精霊家の血を引いているという
 言い伝えがあるんだ。
 例えばわたしの家だと、森の精霊家の血を引いている。
 真実かどうかは判らないよ?
 本気で信じている人だってもうあんまりいやしない。
 でも、そう言うことになっているんだよ」
メイド姉「……」
奏楽子弟「でも、だからって、何でこんな所に……」
メイド姉「聖なる光教会……」
奏楽子弟「え?」

817 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 19:15:35.69 ID:W1zfwn6P
メイド姉「聖光教会。その本拠地、教皇のお膝元、
 大礼拝堂の地下図書館には、ここよりももっと多くの
 書籍や古文書が眠っていると聞いたことがあります」
奏楽子弟「え? え?」
メイド姉「行ってみましょう」
奏楽子弟「そうはいっても、そこの紹介状も持っているの?」
メイド姉「いいえ」きっぱり
奏楽子弟「入れるの?」
メイド姉「普通は入れません」
奏楽子弟「どうするのよ〜」
メイド姉「どちらにしろ、大礼拝堂があるのは
 聖王国の中心部聖王都です。
 噂を集めるにも、何かを見つけるにしろ
 避けて通れる場所ではないと思いますし」
奏楽子弟「それも、そうか……」
メイド姉「わたしは脚を伸ばしますが、詩人さんはどうしますか?」
奏楽子弟「んぅー」
メイド姉「1人でも向かいますが」
奏楽子弟「乗りかかった船だ。行く。行きます。
 『聖骸』についても、そっちのほうが詳しい情報が
 わかりそうだし。わたしも興味が出てきた」
メイド姉「はい、よろしくお願いします」にこっ

829 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 20:16:21.74 ID:W1zfwn6P
――紋様族の館、果樹園
猫目の急使「長っ!! 長っ!!」
紋様族の長「何事です?」
猫目の急使「蒼魔族が動きましたっ!」
紋様族の長「っ!!」
猫目の急使「その数は、約二万五千っ! 氏族全てでは
 ありませんが、おそらく戦いうる全ての成人戦士と
 大型の眷属を引き連れ進軍中。
 帰途ほどではありませんがその速度はかなりのものになります。
 蒼魔族の領土内を静粛に進めていたため、発見が遅れ、
 感知した時はすでに領土の境界付近でしたっ」
紋様族の長「かまわんっ! 行く先は?
 鬼呼族の領土か、無人荒野、まさか火竜山脈か?
 それとも、開門都市を狙う腹づもりかっ!?」
猫目の急使「そのいずれでもありませぬっ」
紋様族の長「言えッ!」
猫目の急使「蒼魔族の目的地は、おそらくゲート跡地!
 大空洞と呼ばれ始めた通路、すなわちっ!」
紋様族の長「……」ぎりっ
猫目の急使「人間界ですっ!!!」

834 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 20:25:58.86 ID:W1zfwn6P
――白夜国首都、白亜の凍結宮
白夜王「ヒィィギィ!? ギヒィィ!!」
近衛兵「護れ! 王を護るのだっ!」
人間衛兵「せやぁぁ!!」
人間衛兵「さ、下がれ魔族っ!!」
蒼魔の刻印王「ふぅむ。なにをしている?
 そのようなことをするとお前達の王とやらに」
ザシュゥ!
蒼魔の刻印王「当たってしまうぞ?」
白夜王「ヒギっ! ギャァァァッ!」
蒼魔上級将軍「はははっ。絞め殺される豚のように泣きますな」
白夜王「ギャ、ギャァップ! わ、我の腕がっ」
人間衛兵「王よっ!」
人間衛兵「貴様ぁ!!」
蒼魔の刻印王「……“捕縛術”」
ビキィッ!人間衛兵「……ッ!!」 近衛兵「……ぐ!!」
蒼魔上級将軍「滑稽な。手足をもがれた
 その様はまさに芋虫のごとき醜態。人間とはこのようなもの」

835 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/25(金) 20:27:40.87 ID:W1zfwn6P
蒼魔の刻印王「フハハハッ」
白夜王「や、やめよっ。な、なにが望みなのだ魔族っ!」
蒼魔の刻印王「喋るのを止めよ。お前のような者が同じ言葉を
 話すとあっては、羞恥でこの身が焼けそうだ」
白夜王「我はこの国の王なのだ……ガボッ」
人間衛兵「……ッ!!」
蒼魔の刻印王「そら、お前の手だぞ?
 片方ではバランスが悪いか? なるほど、人間も王となると
 知恵が回るな。その方の言い分、よく判る」
ザシュ
白夜王「〜ッ!! 〜ッ!! グブゥ!!」
蒼魔の刻印王「ははははっ! これで両側の重さが釣り合うな!
 いい顔色だぞ、王よ。……芋虫だったかな?」
蒼魔上級将軍「あはははは」
白夜王「〜ッ!!」
蒼魔の刻印王「随分色白になったではないか暖めてやろう
 ほんの少しだけだ。安心しろ。……“燐焔招来術”」
ゴウゥウン!!
白夜王「〜ッ!! グブッ! ギャァァアアアア!!!」
蒼魔の刻印王「良いぞ、王よ。必死になれば
 踊りも出来るではないかっ! まるで弾けるマメのようだっ!」

836 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 20:29:00.62 ID:W1zfwn6P
カッカッカッ! バタン!
蒼魔騎兵「上級将軍っ! 城内の反抗勢力の掃討、
 終了いたしましたっ!」
蒼魔上級将軍「続いて都市制圧に合流せよ!
 人間どもは建物に押し込めろ。後で奴隷にする大事な財産だ。
 ただし反抗するのならかまわん。見せしめとして処刑せよ!」
蒼魔騎兵「ハッ!」
蒼魔の刻印王「ふんっ」
蒼魔上級将軍「どうされました? 刻印王よ」
蒼魔の刻印王「退屈だ。人間とはこんなにも弱いのか」
蒼魔上級将軍「もっとも弱い部分を着くのが
 戦の常道ではありませんか」
蒼魔の刻印王「ふむ。それもそうだな。
 ……ここは人間界。得物はいくらでもいるのであったな。
 まずは足場を整え、それからゆるり、という具合にゆくか」
蒼魔上級将軍「はっ」
蒼魔の刻印王「協約の相手は?」
蒼魔上級将軍「地上界最大の氏族、聖王国と、
 その背後にある教会組織でございます」
蒼魔の刻印王「今しばらく一般兵には伏せよ。死にものぐるいに
 なって貰えば、戦の展開が楽というものだ」
蒼魔上級将軍「はっ」
蒼魔の刻印王「隣国は鉄の国と云ったな?
 この国の掌握が終わり次第、時を移さず攻略に移るぞっ」
蒼魔上級将軍「御意にございますっ」

924 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 14:12:40.92 ID:pLtZgbkP
――椚の国、街道沿いの農地
奏楽子弟「……ひどいね」
メイド姉「ええ」
ぎゃぁっ! ぎゃぁっ!
奏楽子弟「鴉があんなに。あれは……」
メイド姉「荼毘です」
奏楽子弟「え?」
メイド姉「葬儀通報人が立っていませんから、
 おそらく農奴なのでしょう……。 家族だけで葬っているんです」
奏楽子弟「農奴って?」
メイド姉「農作業を行わせるための、奴隷に似た存在ですね」
奏楽子弟「この世界は奴隷がいるのっ!?」
メイド姉「そうです。……今まで通ってきた村や畑にいた
 殆どの人間がそうですよ? 事に北のほうでは開拓民が
 少ないですから、余計に割合が多いんです」
奏楽子弟「……っ」
メイド姉「怒らないでください。詩人さん」
奏楽子弟「なんで……っ」
メイド姉「怒ってもあの人達は救われない。
 わたし達は誰も幸せにならないんですから」

926 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 14:14:38.60 ID:pLtZgbkP
奏楽子弟「でもっ」
メイド姉「怒っちゃダメですよ」
奏楽子弟「……」
メイド姉「わたしも農奴の家に生まれて、農奴でした」
奏楽子弟「え?」
メイド姉「わたしと妹は逃げ出して、運が良く……
 本当に奇跡に近いほど恵まれた幸運で、
 助けてくれる当主様に拾われました。
 当主様の家で仕事を覚え、読み書きや算術も教えて頂きました。
 わたしの生まれは、本当はとても卑しいんです。
 お父さんもお爺ちゃんも名字なんてありません。
 わたしが名乗ってるのだって、当主様がくれた名前ですもの」
奏楽子弟「……」
メイド姉「詩人さんが怒ってくれているのは
 わたしや他のみんなのため。
 代わりに怒ってくれているんですよね。
 それは嬉しいのですが、多くの人々にはそれも判らないんですよ。
 農奴って云うのはやはり奴隷だって事や
 それがどんなに悲しいことか判らないんです。
 だって生まれた時から農奴なんですから。
 それ以外のことを何にも知らないで過ごしてきたんですから」
奏楽子弟「そんなの、ないよ……」
メイド姉「でも、現実はそうなんです」
奏楽子弟「……」

927 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/26(土) 14:16:23.11 ID:pLtZgbkP
メイド姉「泣きそうな顔をしないで下さい」
奏楽子弟「うん……」
メイド姉「詩人さん」
奏楽子弟「ん……」
メイド姉「歩きながら歌える、格好良い曲を教えてくださいよ」
奏楽子弟「……どうして?」
メイド姉「せっかく旅の道連れになったんですもの。
 歌の一つや二つは覚えたいです。
 それに、この人達は本当に日々の楽しみがないんです。
 どうせなら悲しい曲じゃなくて、逞しい歌がよいです」
奏楽子弟「うん……」
メイド姉「怒る代わりに、彼らに一曲プレゼントしてください」
奏楽子弟「わかった。――これはね。
 獣……を使うのが上手な、荒野の戦士の一族の、
 お酒の歌なんだよ。
 暴れ者のくせに涙もろい連中の歌なの。
  〜♪
 酒をめぐりて相逢へる
 親しき友のよろこびと
 恋され恋する若人の
 互いに寄り添ふよろこびよ。
 ああ、あまつさへ時は春、
 華の王なる春なれば
 花は紅、葉は緑、
 世はいみじくも薫りたり。
 いざ奮ひたて、すこやかに、
 葡萄の酒を乾す者よ、
 今ぞこの地は天の国
 香も馨はしき水の流るる」

928 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 14:17:58.21 ID:pLtZgbkP
メイド姉「花は紅、葉は緑――」
奏楽子弟「うん」
メイド姉「素敵な歌ですね。わたしは大好きです。
 大地は、こんなにも綺麗ですもの」
奏楽子弟「酔っぱらった良い大人がわんわん泣いたりしてね」
メイド姉「ふふふっ」
奏楽子弟「春なのにね」
メイド姉「ここはなかなかに貧しいところなんです。
 春には小麦が収穫できるはずですが、
 今年はさほど出来が悪かったわけでもないのに、
 様々な要因で一向に値段が下がりません。
  今はよいです。
 春ですから、最悪森に入ればキノコでも野草でもありますし、
 キャベツやにんじん、豆もあります。
 でも、食料を保存しなければ飢える秋までこのままだと
 この冬は多くの餓死者が出るかも知れませんね」
奏楽子弟「……なんだか、辛いね」
メイド姉「ええ」
奏楽子弟「何でこんなに辛いのかな」
メイド姉「……」
奏楽子弟(何でわたしはこんなに胸の内が、
 どろどろでぐつぐつとしているんだろう……)
メイド姉「市門が見えてきましたよ」

930 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 14:34:59.07 ID:pLtZgbkP
――椚の国、街道沿いの中都市
門衛「騒ぎはおこすなよ」
奏楽子弟「はい、もちろん」にこっ
メイド姉「ありがとうございます」
とっとっと……
メイド姉 じぃっ
奏楽子弟「どうしたんだ?」
メイド姉「いえ、こう言う時は本当に
 旅慣れていらっしゃるな、と思って」
奏楽子弟「あ、それはね。
 そりゃこの地方の知識は少ないけれど、
 詩人と云えば旅だよ。旅歩いて詩想をえないと。
 だから馴れてるのよ」
メイド姉「そうですよね」にこっ
奏楽子弟「今晩はこの街で?」
メイド姉「えーっと。まだ昼前ですよね。
 少しお金を稼ぎたいと思うんですけれど……」
奏楽子弟「どうやって?」
メイド姉「代書をしようかと思います」
奏楽子弟「代書って何?」
メイド姉「代わりに書くんですよ。……文字を書ける人は
 あんまりいませんからね。それから、文字を書くついでに
 相談事にも乗ります」

931 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/26(土) 14:40:14.09 ID:pLtZgbkP
奏楽子弟「相談事って?」
メイド姉「代書屋が書くのは主に手紙や書類なんですけれど
 そういうのって、普段みんなの生活にはあまり縁が
 深くないんです。
 たとえば、領主様へのお願い事を書面で出したい時に、
 もちろんお願いしたいことは
 依頼してくる人が考えるんですけれど、
 どうやって書けばお願いを聞いてくれそうか
 相談に乗ったりするんですよ。
  息子さんが兵隊で、遠くからやってきた手紙を読んで欲しい
 おばあさんと、返事の内容を考えたり。
  時には浪漫的な恋文の代筆をしたりもします」
奏楽子弟「そういうのは、わたしも得意ね!」
メイド姉「そう言う時には一緒に書きましょう」
奏楽子弟「そうだね! でも、代書って随分いろんな
 専門的な知識がいるのではないの? 良くできるね」
メイド姉「なんとなく。あはっ。旅に出てから覚えたんです」
奏楽子弟「そっか。でも、出来るなら良いよね。
 それってどうやればいいの?」
メイド姉「どこかで教会を探して、
 その敷地内でやらせて貰うんですよ。
 ……ああ、あそこに見えますね。ほどよい大きさの教会です」
奏楽子弟「あんまり大きくないけれど、良いの?」
メイド姉「大きすぎると、この街に住んでいる代書屋の人と
 仕事がかち合ってしまいますからね。
 あれくらいが丁度良いと思います」
奏楽子弟「ふぅん」