Part63
735 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 14:47:55.48 ID:W1zfwn6P
勇者「機嫌を直してくれ、魔王」
魔王「機嫌など最初から曲げてはいない」
勇者「そうかなぁ……」
魔王「もう一度耳に触れるのだ」
勇者「うん……」
魔王「んぅ」ひくんっ
勇者「うー」
魔王「もう一回」
勇者 なでなで
魔王 くたぁ
勇者「えっと、魔王?」
魔王「……んぅ?」
勇者「眠そう」
魔王「眠いわけではない」
勇者「そっか……。あのだな」
コンコンッ
メイド長「まおー様〜。カスタードシューが出来たそうですよ」
バッ魔王「そうか! あれは美味いな。頂こうっ」
勇者「ううー」
メイド長「勇者様、どうかなさったので?」
760 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 16:27:34.36 ID:W1zfwn6P
――葦の国、その都、市場の外れ
〜♪ 〜〜♪
奏楽子弟「〜〜♪
春の喜ばしい気配が近づいてくる。
春が勝利し、厳しい冬は逃げ去った♪
春の精霊が麗しくやってきて、
森の小鳥たちは祝いさえずる♪」
街の市民「素晴らしい!」
奏楽子弟「〜〜♪
恵みの太陽は笑いを与え、花々は咲き誇る。
麦の香り運ぶ西風は甘美な吐息もて芳香を放ち、
人間は愛のため、この恋歌のもと駆け回る♪
森の兎が歌い、小夜啼鳥が甘く囀る。
花々は咲き乱れ、森には生命溢れ、
喜び満ちた乙女らの輪舞の輪が広がる♪」
女性市民「なんて演奏家なのかしら!」
農夫「はいなぁ! 大麦を半袋でございますね!」
農夫の娘「ありがとうございましたぁ!」
街の市民「俺も貰おう、にんじんを一袋だ」
農夫の娘「はいっ!」
奏楽子弟「ありがとうございます!」
女性市民「いえいえ、久しぶりよ、
こんな楽しくて綺麗な曲を聴いたのは!」
761 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 16:30:15.50 ID:W1zfwn6P
裕福そうな市民「まったくだ、どこぞの宮廷にでも登れば
高い身分も与えられるかも知れないのに」
奏楽子弟「いえいえ、わたしはこうやって
街角で演奏しているのが一番好きなんですよ」
街の市民「また来てね、待っているわ」
農夫の娘「ありがとうございました〜♪」
――。
奏楽子弟「ふぅ、忙しかったですね」
農夫「いやはや、とんでもない。なんてお礼を言えばいいのか!」
農夫の娘「一杯売れたよ、いつもよりも高く売れたの!」
奏楽子弟「よかったね」にこっ
農夫「ありがとうございます。これは少ねぇけど」
奏楽子弟「いいのいいのっ! あ、いやいいんですっ。
美味しいパンをわけて貰ったから!」
農夫「しかし……」
農夫の娘「お姉ちゃん。じゃぁ、パンあげるね」
奏楽子弟「ありがとうねっ! またねっ!」
農夫の娘「また葦笛吹こうね!」 ぶんぶんっ
奏楽子弟「またあえたら一緒に吹こうね〜♪」
765 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 16:57:52.10 ID:W1zfwn6P
――開門都市、『同盟』の新商館、大執務室
青年商人「お役目、ご苦労様でした」
辣腕会計「お疲れ様でした。……冷えた紅壬茶ですよ」
火竜公女「ありがたい」
青年商人「どうでした? 会議のほうは」
火竜公女「流石に一回で決定というわけにはまりませぬが
かなり良い手応えかと感じました」
青年商人「通りそうですか?」
火竜公女「おそらくは」
青年商人「この計画が通らないと、通商や他の諸々も
なかなか通りませんからね。まずは道路、そして潅漑、水利」
辣腕会計「今回は随分と迂遠ですけどね」
火竜公女「この地下世界には、商売のための機構がなさ過ぎるゆえ」
青年商人「何より、余剰貨幣がなさ過ぎるのが問題です」
辣腕会計「ですね」
火竜公女「余剰貨幣?」
766 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 16:58:59.46 ID:W1zfwn6P
青年商人「理屈は簡単です。
例えば、塩を二つ持っている人がいる。
さらに肉を二つ持っている人がいる。
塩と肉を一つずつ交換し合えば、二人は同じように
塩と肉を一つずつ持っていることになる。
これを食べて暮らせばいいわけですね。
この物々交換を行っている限り、貨幣は必要ありません。
地下世界では貨幣も用いられていますが、砂金での取引や
物々交換も盛んです。特に大規模な商取引は氏族の長や
指導者が中に立っての物々交換が多い。
余剰貨幣が生まれにくい構造なのです」
火竜公女「そうでありますな」
青年商人「しかし、我ら商人からすると、
もっと貨幣が出回り、様々な物資を貨幣で
売り買いできた方が商売の幅が広がる。
新しい仕事も作りやすくなる」
火竜公女「それは地上でも見てきましたゆえ。
金銭や貨幣は確かに弊害も多くみえまする。
しかし貨幣を用いた仕事は、行動が早い。
政治や氏族間の付き合いに流されやすい民の流れに比べて、
金銭は情が絡まず“流れやすい”性質があるように思えまする。
行き来が自在で、分割できる方が、時として安全で強力な
味方となりうると」
青年商人「言葉はわからずとも中身は判っているようですね」
辣腕会計「……ふむ」
青年商人「そこで、債を興す」
767 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:00:56.71 ID:W1zfwn6P
火竜公女「今回の企画かや?」
青年商人「今回のは特別に色々と工夫を凝らしましたが
債とは、ある種の借金のための仕組みです。
“後で一定の金銭を返すので、これだけの金銭を欲しい”
そういう取り決めの、書面化ですね」
火竜公女「それが余剰貨幣を生み出すのかや」
青年商人「単純な例で考えてみましょう。
“金貨100枚をかえすので、金貨100枚を貸してくれ”
この債券を作ったとします。この債券が無事に買われると
わたしの手元には金貨100枚がやってきますね?
そして相手の手元には“将来金貨100枚になる紙”が
あることになる。
ほら、合計で金貨が200枚分の価値に増えたでしょう?
擬似的に貨幣が増えたことになる」
火竜公女「それはそれで、詐欺のような理屈に思えまする。
そもそも一定の期間のあとに、その金貨100枚は
かえさなければならない、つまり消えるが理屈。
それを“増えた”とはおかしくありませぬか?」
青年商人「それはそれでもっともですが、
公女だって前回の小麦買い占めを見たでしょう?
大きな資金が手元にあれば、それだけ商売のチャンスは広がる。
我らはこの金貨100枚を、返すまでに150枚に増やせばよい。
そうすれば、元での費用は無しで金貨50枚の儲けです。
資金無しではそうはいかないでしょう?」
火竜公女「それはそうでありますが」
768 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:02:28.15 ID:W1zfwn6P
青年商人「これが本来の金貸しの機能です。
金貸しは、相手の信用を運用できる資金に変換しているんですよ。
この魔界ではまだ銀行という形ので組織は
成立しないようです。
魔王殿にも一旦の再考を求められましたしね。
そこで今回は、ちょっと迂回した方法で
開門都市にも参加して貰って、資金集めをしたわけです」
火竜公女「……」
青年商人「そう睨まないでください。
この件はこの都市にも魔族にも魔界にも一切の損害は
もたらすつもりはありませんよ。
そもそも、これは勝ち負けではないですからね。
『同盟』が儲ければ、誰かが損をするというような
種類の活動ではないのですから」
火竜公女「ここは信用しておきまする」
青年商人「有り難き幸せ」くすっ
火竜公女「商人殿は、開門都市と衛門一族、さらには
竜一族が長である火竜大公、その娘の妾の立場を利用して
その信用を資金に変えた。
そのように理解しましたが、いかがか?」
青年商人「……さて」
火竜公女「商人殿は云いましたね。
“財貨としての金と、道具としての金はまったく違う。
後者を美しく思う人間こそ商人を名乗れる”と」
769 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:04:40.03 ID:W1zfwn6P
青年商人「ええ、云いました」
火竜公女「では、妾の信用をもって得た財貨で
どれほどのことを成し遂げてくれるか、
とくと見させていきましょう。
それくらいは許されるのでしょう?
妾は信用の貸し主ですゆえ」にこっ
青年商人「仰せ、誠にごもっとも」
火竜公女「楽しみにしていまする」
青年商人「やれやれ」
辣腕会計「はははっ。委員もたじたじですな」
火竜公女「妾だって負けっ放しでは、火竜一族の名折れですゆえ」
青年商人「さて、では事業の計画でも仕上げますか。……だれか」
辣腕会計「ああ、わたしが用意してきましょう。
紙にペンにインクに、壺いっぱいの濃いお茶。
資料は公女の集めていらしたもので良いのでしたね?
この時間では職員も帰り支度でしょうし、
わたしの方が早く集められる」
青年商人「そうですか? たのみます」
辣腕会計「お任せあれ」
とっとっとっ、バタン
火竜公女「……」
青年商人「ふぅ」
火竜公女「商人殿」
770 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:06:56.93 ID:W1zfwn6P
青年商人「はい?」
火竜公女「……」
青年商人「どうしました?」
火竜公女「――もし妾が恐ろしい敵に捉えられ、
このままでは明日の朝日も浴びれぬ、となったらいかがいたす?」
青年商人「見捨てます」
火竜公女「……」
青年商人「というのは冗談ですが。……助ける見返りは何です?」
火竜公女「見返り抜きで」
青年商人「……それは新手の難問ですか?」
火竜公女「やもしれぬ」
青年商人「……」
火竜公女「……」
青年商人「“見返り抜き”という見返りでお助けしましょう」
火竜公女「え?」きょとん
青年商人「商人は報酬無しでは動きません」
火竜公女「……」
青年商人「しかし、あなたは機転が利くし、理解も早い。
何より冷静だし公平だ。取引相手としては不足がない」
火竜公女「それは……、一生?」
青年商人「云ったでしょう? 商人の戦いに終わりはないんです」
778 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:36:42.39 ID:W1zfwn6P
――湖の国、湖の畔の国境の森、小さな街の宿屋
ザァァァァアア!
奏楽子弟「すごい雨ね……。
下じゃぁこんな天気見たことがない。
にわか雨に、季節の雨くらいなのに。
それに、こちらは春なのに随分寒かったりするのね……」
カキカキ……
奏楽子弟「ん。こんなもん、かな。
随分メモもたまっちゃったな。
――『聖骸』についての噂も随分聞いたけれど、
やっぱり詳しいことは判らないか……。
うーん、知り合いが一人もいないって云うのは結構大変だなぁ。
どうしたものかしらねぇ」
ザァァァァアア!
奏楽子弟(……路銀はまだあるけど、節約しないと。
うーん。湖の国って云うことだし、
首都の方を回ってみるべきなのかな。
人が多いと、多少お金も稼げるみたいだし。
場合によってはどこかの大きな酒場で一ヶ月くらい
雇って貰うのも悪くないかも。
その方がうわさ話も集めやすいかな……)
こんこんっ
奏楽子弟「はい?」
宿屋の店主「申し訳ねぇこってす、お客さん」
奏楽子弟「どうしたんですか?」
780 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:38:31.77 ID:W1zfwn6P
宿屋の店主「この大雨で、どうも渡しの船が
流されちまったみたいで。
昼過ぎに出たお客さん達が戻ってきたんですよ。
それで部屋が足りなくなっちまって。
良かったら相部屋をお願いしても良いですかね?」
奏楽子弟「相部屋?」
宿屋の店主「ええ、相手は女の人ですから。
男連中は男連中で別の相部屋にしますからね。
どうかお願いしますよ。
みんな足止めを喰らってしまってるんで。
宿代の方は勉強させて貰いますから」
奏楽子弟「もちろんいいですよ」にこっ
メイド姉「すみません」
奏楽子弟「いえいえ、お互い様ですものね。
ずぶ濡れじゃない。早く着替えないと」
メイド姉「ええ、じゃぁ、失礼して」
宿屋の店主「んじゃ、小僧に言いつけて
湯と毛布を届けさせますからね。
お客さん、相部屋ありがとうございました」
奏楽子弟「はーい」
メイド姉「よくして下さって、ありがとうございます」
奏楽子弟「拭くものはあるの? えーっと」
メイド姉「メイド姉です。はじめまして。
ええ、ちゃんとあります。着替えてしまいますね」
奏楽子弟「わたしは奏楽子弟。
見ての通りの旅の吟遊詩人。というか、旅人ね。よろしくね」
782 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:39:43.26 ID:W1zfwn6P
ザァァァァアア!
奏楽子弟「すごい雨ね」
メイド姉「ですね……。えっと、お茶を飲みます?」
奏楽子弟「え? うん。あれば有り難いけれど」
メイド姉「では入れますね」
奏楽子弟「でも、ここなにもないよ?」
メイド姉「お茶とカップくらいはあります。真鍮ですけれどね」
奏楽子弟「わ。本当だ。……すごいね。
お嬢様風なのに、旅慣れているって云うか」
メイド姉「お嬢様だなんてとんでもない。
南の果ての農家の娘ですよ」
とぽとぽ……
奏楽子弟「ふぅん。……温かい」
メイド姉「お湯がもらえて良かったです」にこっ
奏楽子弟「ああ、あたし。堅焼きクッキーあるよ」
メイド姉「いいんですか?」
奏楽子弟「うん、半分こしようよ」
メイド姉「ありがとうございます」
ザァァァァアア!
奏楽子弟「あなたはどこへ行くの?」
メイド姉「とりあえず、湖の国の都へ」
奏楽子弟「どうして? 聞いて良ければだけれど」
783 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:41:11.47 ID:W1zfwn6P
メイド姉「そこに湖畔修道院のかつて使っていた
文書館があるんですよ。いくつか気になることもありますし。
……それはそれとしても、諸国を旅している最中なんです」
奏楽子弟「へぇ!」
メイド姉「色々見なきゃいけないものがあるんじゃないかって。
それで国を飛び出してきたんですけれど。どこも大変ですね」
奏楽子弟「うん、そうだね。……物価も高いし人も倒れているし。
北に行けば行くほどひどくなるような気がする」
メイド姉「はい……」
奏楽子弟「わたしの故郷じゃ戦争はあっても、
飢え死にって云うのはあんまり見なかったから……。
ああいうのは、見てるだけで辛いね」
メイド姉「そうですね……。詩人さんはどこから?」
奏楽子弟「ああ。えへへっ。もうね、すんごい遠いところから」
メイド姉「そうですか」
ザァァァァアア!
奏楽子弟「あのさ」
メイド姉「はい?」
奏楽子弟「その、文書館っていうのは、光の精霊の?」
メイド姉「ええ、そうですよ。修道院付属の記録が
収められていると聞いています」
奏楽子弟「わたしも、その。ついて行って良いかな?」
785 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 17:42:37.00 ID:W1zfwn6P
メイド姉「?」
奏楽子弟「実はわたしは、詩も戯作も書くんだ。
もちろん楽器も一通りこなす。舞台の脚本も書く。
それらは一緒のものだからね。
……それで、どうしても興味が引かれて
『聖骸』についての噂を追って旅をしているんだ」
メイド姉「そうだったんですか」
奏楽子弟「詩想がね、迫ってくるような気がするんだ。
もうそこまで来ているような気もするんだけど……。
いやはや。
訳判らないよね」
メイド姉「良いですよ」
奏楽子弟「えっ?」
メイド姉「一緒に行きましょう」にこり
奏楽子弟「いいの? その……。わたしは旅人だし、
わたしが言うのも何だけど、あんまり簡単に人を信じると、
若い身空で事件に巻き込まれたりするよ?」
メイド姉「人間は生まれた時から世界に巻き込まれてるんです」
奏楽子弟「そりゃそうだけど。
――ん。その言い回し良いな。メモしておこう」
メイド姉「ふふふっ」
奏楽子弟「え? ああ。ごめんごめん。職業病で」
メイド姉「いいんです。1人より2人のほうが
心細くないでしょう?」
802 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 18:14:12.05 ID:W1zfwn6P
――大陸中央、霧の国、領主の館
ガシャーン!!
家令「ひっ! ひぇっ!?」
肥満領主「こっ、こっ、このたわけがっ!!!」
少女メイド「ヒッ」
肥満領主「聖光教会め! こ、こ、このようなことがっ!」
家令「どうされましたのでっ」
肥満領主「っ!!」 グシャグシャグシャ、ポイッ!
家令「これは……」
肥満領主「“小麦引き渡し証書”がいつの間にか聖光教会に
渡っておったのだ! これでは言い逃れも踏み倒しも
出来ないではないかっ! あの若造めぇっ!!」
ダダダダ、ガシャっ!!
役人頭「大変でございます! 領主さまっ!!」
肥満領主「ええい、どうしたというのだっ!」
役人頭「そ、それが! 実は城下や領内の村に、
教会の徴収使どもがあらわれましてっ!」
肥満領主「徴収使……?」
役人頭「そやつらめが、収穫したばかりの麦をどんどんと
取り上げて運び出しているのですっ!!」
803 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 18:15:37.72 ID:W1zfwn6P
ドンッ!
少女メイド「ヒッ!」
肥満領主「教会めぇ、そうであったか……。
よもやとは思ったがあの商人と結託し、
我ら地方領主の力をそぐのが狙いかっ」
役人頭「いかがいたしましょう?」
肥満領主「金はあるのだっ! 教会との交渉を開始する。
“小麦引き渡し証書”を買い戻すのだ。
すぐさまインク壺と羊皮紙を持て!」
家令「ははぁっ!」
肥満領主「くっ。何という屈辱だっ。
8代にわたりこの領土を完全に治めてきたこの男爵家が
何故このような奸計により、
誇り高き我が額を教会などに下げねばならぬのだっ
およそ商売など貴族のすることではないわっ!」
役人頭「えー。そのぅ」
肥満領主「とっととその徴収使とやらを見張らんかっ!
麦の一粒でも多く持ち出すようであるならば、
たとえ教会の使いとは言え、打ち払えっ。
ええい、そうもいかんっ!
引き取って頂くのだ。ただし丁重になっ!」
役人頭「そっ、そんなっ」
肥満領主「とっとと行かんか! その頭を首の上に
くっつけておきたいのならば、命じたことをするが良いっ!」
役人頭「は、はいぃいい!!」
肥満領主「このままでは……済まさんぞっ!」
805 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/25(金) 18:16:29.57 ID:W1zfwn6P
――鬼呼族の族長の館、青畳の書斎
鬼呼の忍者「――以上相違ありません」
鬼呼族の姫巫女「ふむ」
鬼呼執政「考えていたより、事態は深刻ですな」
鬼呼族の姫巫女「戦乱が長かったゆえ、か。
民の間にもここまで不満や欲求がくすぶっているとは」
鬼呼執政「ええ」
鬼呼族の姫巫女「魔族の血やもしれぬな」
鬼呼執政「悪いことばかりとも申せませぬ」
鬼呼族の姫巫女「うむ、目標があれば燃え、
それを見失えば失意と不満をくすぶらせる。
我らにしてからがこれなのだ。
獣牙の一族などいかばかりに血をたぎらせておるか」
鬼呼執政「で、あるからこそ、戦以外の目標を立てるべきです」
鬼呼族の姫巫女「――」
鬼呼執政「このたびの衛門族長からの提案、
わたくしから見ると悪くないように思えます」
鬼呼族の姫巫女「それはそうであろうが、
その工事が無駄に蒼魔族を刺激せぬとも限らぬゆえな」
鬼呼執政「場所を選んで着工すれば宜しいでしょう」
鬼呼族の姫巫女「場所、か」
鬼呼執政「こたびの債符なるもの、なかなかに面白い試み」