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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part59


414 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 00:27:55.40 ID:jeE4iYgP
王弟元帥「例外は傭兵だが、
 彼らのまた“戦争を前提に人生を送っている”と云う点では
 いささかも代わりがない。
  何故こうなってしまったかという点については
 いくつもの理由があるが、大きな理由の一つが、
 戦闘の技術を身につけるには
 非常に長い時間が掛かると云うことだ。
  将官、それを言えばわたしもそうだが、まともに剣を
 振れるようになるまでどれくらい掛かった?」
聖王国将官「さぁ。わたくしも騎士の息子と生まれまして、
 物心ついた時はすでに教えを受けていましたから……」
王弟元帥「そうだ。それが中央の国家群の現実なのだ」
聖王国将官「……」
王弟元帥「剣一本でもそのありさま。馬術もそうだ。
 ただ乗るだけならともかく、乗りながら戦うなどと云う
 技を身につけるのに何年かかる?
  弓も同様だ。
 確かに熟練の長弓兵は、このマスケットの10倍の速度に
 匹敵する連射と2倍の射程を持つが、
 それには長年にわたる修練が必要だ。
  さらに云えば、戦闘ではそれなりの体格が必要になる。
 長弓であったところで、膂力の強い方がより強い弓を引け
 破壊力も飛距離も出るのは常識と云えよう。
 しかし、ブラックパウダーの爆発力で弾丸を飛ばす銃は
 女であろうが子供であろうが、同じ攻撃力を期待できる。
  魔法兵団? 論外だ。彼ら一人を育てるのに20年は
 優に掛かるのだ」

415 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 00:29:54.82 ID:jeE4iYgP
聖王国将官「それは、まさにそうです」
王弟元帥「人間を武器の一種だと見立てた時に、
 この中央の国家群の現実は、その人間を鍛える時間が
 莫大であると云うことに尽きる。
 騎士を一人育てるのには15年。従士ですら10年。
 魔術師であれば20年かかる。
 傭兵は騎士よりも戦場で過ごす時間が長い。
 戦争から戦争へと渡り歩くから、5年もあれば一人前になるが
 一人前になるまでに死んでしまうものが殆どだ。
  鍛えるのに掛かる時間は、そのまま維持する金額に繋がる。
 つまり、その高価な騎士を使うがために、
 我々国家は人数の多い軍を組織できない。
 この聖王国でさえ、直属の騎士は2500をわずかに越えるのみ。
 それ以上の兵力を動員したければ貴族に招集状を
 発令せざるをえない。
  そのようにして集めた軍隊は貴族同士の意見の違いで
 容易く動きが凍り付き、また兵糧が切れれば国元へと
 帰ってしまう脆さを持っている」
参謀軍師「その通りです。それが先の征伐軍敗退の真相」
聖王国将官「理解できます」
王弟元帥「このマスケットは」
ジャキッ
聖王国将官「その役割としては、弓よりも石弓と比すべきものだ。
 よく手入れされたマスケットは石弓よりも命中精度に優れ
 轟音を発し、目標に命中すれば、鉄の鎧を打ち抜く。
 そして、その訓練期間は驚くほど短い。
 凡庸な農夫であっても数ヶ月の訓練で、銃兵として戦場へ
 出ることが出来るだろう」

417 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 00:32:20.79 ID:jeE4iYgP
聖王国将官「訓練期間……」
王弟元帥「そうだ。それが唯一と言って良いほどの利点で
 全てを変える鍵なのだ。
  このマスケット銃は、
 “兵士という戦争に不可欠な資源の限りなく安くする”
 事が出来る。マスケット銃と適度な訓練さえあれば
 戦争の様相は一変する。
  何せ、無尽蔵とも云える農奴を戦場に投入できるのだ。
 むしろ歩兵としてであるならば、
 彼らのように貧しい暮らしに堪える事が出来、
 毎日長い距離を歩ける健脚の持ち主の方が、
 貴族よりもずっと望ましいと云えるだろう。
  長弓の方が速射に優れる?
 そんなものは、長弓兵の10倍の数の銃兵を用意すれば事足りる。
 騎兵の方が突破力に優れる?
 そんなものは、騎兵の10倍の数の銃兵を用意すれば事足りる。
 貴族の方が勇猛さに優れる?
 そんなものは、貴族の10倍の数の銃兵を用意すれば事足りる。
  マスケットはそれを可能にするのだ。
 しかも、敵を一人殺せば、同じだけの技量を持った兵士を
 用意するのに敵は5年から10年は掛かる。
 こちらは兵を殺されたとしても
 数ヶ月の訓練で同じ質の兵士を補充が出来るのだ」
参謀軍師「しかし、別の欠点もございますが」
王弟元帥「火薬の補給については、軍師殿に一任しよう」
参謀軍師「お任せ下さい」
聖王国将官「聞けば納得できますが。
 これは恐ろしい発明品なのですね。何と言えばいいのやら」

421 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 00:35:42.51 ID:jeE4iYgP
王弟元帥「しかし欠点が多い武器であるのは確かだ。
 人数を増やせばよいとは云っても、
 食料を多く食いつぶすというのはそれだけで致命傷たり得る」
参謀軍師「はい」
王弟元帥「また戦場では、1回の射撃が終わった後に、
 弾を込めるための時間が掛かるのも問題だな。
 その間の防御力が無いに等しくなってしまう」
参謀軍師「そうですな」
王弟元帥「そのあたりの問題を片づけられる前線指揮官
 さえいれば、マスケット銃兵団は大陸最強の戦力と
 なるのは間違いないのだがな」
参謀軍師「黒点将軍さえいれば……」
王弟元帥「死んだ男をねだったところで仕方があるまい。
 あの頑迷な老将は宮廷醜聞に巻き込まれて消えたのだ」
聖王国将官「七里防衛の英雄ですか?」
王弟元帥「昔の話だ」
参謀軍師「霧の国の灰青王が雪辱に燃えております。
 適切な助言をすれば、必ずや結果を出すでしょう」
王弟元帥「ふむ。やつを前線で用い、いざとなれば
 わたし自らが指揮を執ることも考えねばな」
参謀軍師「ふふふっ。夏が待ち遠しいですな」
聖王国将官「『光の子の村』建設を急がせます」
王弟元帥「頼むぞ。大陸を手にするのは、このわたしなのだっ」

437 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 01:07:05.55 ID:jeE4iYgP
――冬越しの村、魔王の屋敷、深夜の中庭
(――世界は広大で、果てがない。
 そこには無数の魂持つ者がいて
 残酷で汚らしく醜く歪んだ、でも暖かく穏やかで美しい
 ありとあらゆる関係と存在をつくっています)
ビュッ!
メイド姉「っ!」
ビュッ! バッ! ビョウッ!
メイド姉「〜っ!!」
ヒュバッ! シュキンッ!
メイド姉「せあっ!」
ビュッ!
メイド姉「……はぁっ。……はぁっ」
ビュッ!
メイド姉「せいっ!!」
コトン
メイド姉「っ!」
女騎士「あー。わたしだ」

439 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 01:08:04.72 ID:jeE4iYgP
メイド姉「……女騎士さま」
女騎士「驚かせて済まない」
メイド姉「あ。いえ」ささっ
女騎士「それは、むかし軍人子弟が使っていた剣だろう?
 メイド姉には重すぎると思うよ」
メイド姉「でも、馴れてしまったので……」
女騎士「そうか。手慣れていたものな。――いつから?」
メイド姉「去年の秋からです」
女騎士「一年か」
メイド姉「……」
女騎士「手を見せて」
メイド姉「はい」おずおず
女騎士「……」じぃっ
メイド姉「……」
女騎士「そんなに困った顔はしない。誰にも云わない」
メイド姉「はい……」
女騎士「こんなご時世だもの。身を守る技術は誰にだって必要だ」
メイド姉「ええ」
女騎士「でも、メイド姉には膂力がない。
 もっと脚を使わなければ駄目だ。
 遠心力で剣を振り回せば破壊力は上がるけれど、
 身体も反対方向に振り回される。その状態では
 敵の攻撃をよけられないよ」

440 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 01:09:18.50 ID:jeE4iYgP
メイド姉「そう……なんですか……?」
女騎士「うん」
メイド姉「脚を使う……って」
女騎士「もうちょっと膝を曲げて……。うん、そう」
メイド姉「はい……。こう……かな」
女騎士「身体をねじって、自分の剣の影に隠れる。
 相手の首を狙って、剣先で威嚇するんだ。
 常に相手と自分の間に剣をおくようにする。
 そのままで前後左右、動けるように練習する。
 腕の力は、今程度で十分。
 どうせ鎧を貫くほどの力はメイド姉にはないし
 裸の喉なら今のままでも切り裂ける」
メイド姉「はい……」
女騎士「自分の呼吸の音も聞いて、かかとに体重を乗せない」
メイド姉「……ふっ。……はっ!」
ひゅぅんっ!!
女騎士「そう」
メイド姉「はいっ」
女騎士「変わったことをする必要はない。跳んだり跳ねたり
 光ったり光線を出したりするのは勇者クラスになってから。
 身体を上下に揺らさない、無駄に跳ねちゃ駄目だ。
 何より落ち着くこと」
メイド姉「はいっ」

444 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 01:10:59.37 ID:jeE4iYgP
女騎士「さぁ、やって」
ヒュバッ! シュキンッ!
メイド姉「せあっ!」
女騎士「……」
ビュッ! ざざっ!
メイド姉「……はぁっ。……はぁっ」
女騎士「そんなものだろう。腕を伸ばして」
メイド姉「……」
女騎士「胸をゆるめて、呼吸をゆっくりにね」
メイド姉「はい……」
女騎士「……ん」
メイド姉「あの……。聞かないんですか」
女騎士「何を?」
メイド姉「平民が、剣なんかをもって……その」
女騎士「そういう面倒なことは、湖畔修道会では考えない。
 必要だと思ったのでしょ?」
メイド姉「……はい」
女騎士「見られたくないなら、修道院へいらっしゃい。
 午後なら練習を見よう」
メイド姉「はいっ」
女騎士「もう遅いから。……良い夢をね。メイド姉」
メイド姉「ありがとうございますっ」

533 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 17:55:49.32 ID:jeE4iYgP
――大陸南部、名も無き開拓村の酒場
〜♪ 〜〜♪
奏楽子弟「〜♪ ……♪」
年配の開拓民「……」じわぁ
酔った村人「……いやぁ、良かっただよ!」
酒場の娘「なんて上手いんでしょう」
酒場の主人「おお、姉ちゃん。良い曲だったぜ。
 さぁ一杯やってくれ。そして気が向いたら
 もう一曲やっておくれよ!」
奏楽子弟「ええ、もちろんっ!」
年配の開拓民「楽士さん、ここいらでは見ない楽器だぁね」
奏楽子弟「これは竜頭琴っていうの。甘い音色がするでしょう?」
年配の開拓民「うんだぁ。なんだか優しい音だなぁ」
酔った村人「ここいらにも吟遊詩人は来るけんど、
 大概は立ち寄るだけであんまり曲を聴かせてはくれないんだよ」
酒場の主人「そうだなぁ」
奏楽子弟「へぇ、それはなんで?」
年配の開拓民「姉ちゃんはここらの人ではないんかい?
 綺麗な金枯れ葉色の髪だけんど」
酔った村人「ふたっこ隣に氷の国っていうとこがあって
 そこは吟遊詩人のふるさと、って云われてるんだよ。
 王宮は詩人に優しいし、城下町には音楽ホールがある。
 冬には音楽祭もあるから、旅の吟遊詩人は冬を越すために
 氷の国へと訪れるんだぁ」

535 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 17:57:26.13 ID:jeE4iYgP
酒場の主人「登録した吟遊詩人は、一定の腕前を認められれば
 恩給が出るんだよ。恩給が出れば、年を取っても食えるし
 だから、街に住み着く吟遊詩人もいるし、音楽を教えるように
 なるものもいる。だから吟遊詩人が多く住み着くし
 それで“ふるさと”って云われているわけだ。
 ここまでやってくる吟遊詩人は、氷の国へ急ぐ最中が多くて
 演奏は気もそぞろなのさ」
奏楽子弟「へぇ! わたしは遠きところから旅をしてきたんですよ。
 その吟遊詩人のふるさと以外に、この辺の音楽や楽器で有名って
 云ったらどこでしょう?」
年配の開拓民「うーん。どこだろうねぇ」
酔った村人「そうだなぁ」
酒場の主人「音楽っつったら、まぁ、ふたっつだねぇ」
奏楽子弟「二つ?」
酒場の主人「まずは今云った吟遊詩人の音楽だぁ。
 俺の姪っ子が氷の国に行ってるから、これはそこそこ詳しいよ」
奏楽子弟「ありがたいです。わたしは音楽や、詩作、戯曲の
 話を集めるために旅をしているんです!」
酒場の主人「そうかいそうかい! じゃぁ、話してあげるよ。
 でもその代わり、今晩はこの宿に泊まっておゆき。
 安くしておくからさ。
 そしてたっぷりと異国の音を客に聞かせてやっておくれ」
奏楽子弟「はい!」

537 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 17:59:02.04 ID:jeE4iYgP
酒場の主人「そうだなぁ、まずはさっき云った吟遊詩人の音楽だ。
 酒場や祭り……っていっても祠や道ばたやらで演奏するな。
 気軽で楽しくて騒がしい音楽だよ。俺は大好きだ。
 流行歌は吟遊詩人が諸国を旅して伝えてくれる」
奏楽子弟「声楽なんですか?」
年配の開拓民「声楽って何だい?」
奏楽子弟「ああ、えっと。歌ですか?」
酒場の主人「ああ、楽器を弾きながら一人で歌う。
 たまぁに二人連れなんて云うのもいるけれど、
 そんなのは滅多にみれない幸運だ。
 楽器はそうだなぁ。
 お嬢さんの持っている竜頭琴なんてのはみたことがないね。
 一番多いのは、リュート。それから、レベックに
 ギターン、ライアー。そんな楽器だね」
奏楽子弟「ふぅむ。見てみたいですね」
酒場の主人「そして、もう一つの音楽と云ったら、
 それは何と言っても教会音楽だよ」
奏楽子弟「ふむ」
酒場の主人「教会では精霊様を慰めたり称えたりするために
 毎日のように歌と音楽が捧げているんだよ。。
 こっちは声を出して歌うのがほとんどだ。
 こんな小さな村の修道会にはめったにないけれど
 大きな街の教会には聖歌隊っていうのがあるというよ」

539 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 18:00:08.72 ID:jeE4iYgP
奏楽子弟「聖歌隊、ですか?」
酒場の主人「そうさ。近隣の信者の中から
 歌の上手い人をあつめてね。
 多くは小さい男の子や女の子だ。
 子供の声は清らかだと云うからね。
 それで合唱をするんだよ。
 旅の吟遊詩人から聞くには随分と荘厳な音楽だという話だ。
 教会の音楽は、吟遊詩人のようにあちらこちらに出掛ける
 必要がないから、大きな楽器を使うこともあるらしい。
 時には納屋のように大きな楽器も作られるそうだ」
酒場の娘「納屋!?」
奏楽子弟「納屋って、あの農具を入れておく?」
酒場の主人「そうさ、小さな家ほどもある
 大きな楽器だってあるそうだよ」
酒場の娘「へぇぇ!!」
奏楽子弟「びっくりするような話ですね」
年配の開拓民「たまげた話だなぁ」
酒場の主人「それに吟遊詩人は、大抵一人で旅をするから
 口を使う楽器は好まない。歌えなくなるからね」
酒場の娘「そういえば、笛を吹く人はあまり見ないわねぇ」
奏楽子弟「なるほど」
酒場の主人「ファイフやミュゼットなんかは笛の仲間で、
 教会での音楽にも使用されるって聞くね。
 もちろん吟遊詩人でも頼めば演奏できる人は多いよ」

540 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 18:04:04.31 ID:jeE4iYgP
奏楽子弟「ファイフは判ります……。えっと」
 ごそごそ
奏楽子弟「これですよね?」
年配の開拓民「ああ、これは見たことあるなぁ」
酔った村人「おう、うちの爺さんも祭りでは吹くぞ」
酒場の主人「そうそう。これはちょっと変わった形を
 しているがファイフだね。これも吹けるのかい?」
奏楽子弟「もちろん」
酔った村人「一曲聴きたいぞ、お嬢さん!」
酒場の主人「お願いできるかい?」
奏楽子弟「ええ、おやすいご用です」
〜♪ 〜〜♪
奏楽子弟「〜♪ ……♪」
年配の開拓民「ああ、良い音色だねぇ」
酔った村人「まったくだ」
酒場の主人「これだけ上手な吟遊詩人さんは初めてだ」
酒場の娘「ええ、夢で聞いた音のようです」

551 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 18:30:25.84 ID:jeE4iYgP
――冬の国、王宮、予算編纂室
商人子弟「おーい。おーい」
従僕「はいぃ」ぱたたたたっ
商人子弟「なにしてたんだ?」
従僕「帳簿の整理と、清書をしてました」
商人子弟「よし、えらいぞ」ぐりぐり
従僕「えへへへぇ」
商人子弟「何人か新入りも入れたけど、みんな辞めてっちまうなぁ」
従僕「お仕事が大変だからですよ」
商人子弟「そんなに大変か? 一日中座ってられるぞ」
従僕「座ってるのが大変なんです。
 この国では、そんな仕事の人は滅多にいませんでしたから」
商人子弟「そういうもんか?」
従僕「はいです」
商人子弟「お前は見かけの割には気合い入ってるな」
従僕「他に行くところがありませんから」
商人子弟「そうかそうか」
従僕「えへへ〜」
商人子弟「じゃぁ、念入りに仕込んでやろう」
従僕「ひぇっ!?」
商人子弟「なぁに、安心しろ。カエルは熱湯に入れると
 すぐ死ぬが、水に入れてから徐々に加熱すると
 随分長い間生きているらしいぞ?」
従僕「も、もしかして、ひどいこと考えてますか?」
商人子弟「ううん、ぜんぜん」 ふるふる

552 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 18:31:39.14 ID:jeE4iYgP
従僕「ううううっ」
商人子弟「そう半べそになるな。
 とりあえずは、お茶を入れてくれ」
従僕「はーい」
とぼとぼっ
商人子弟「さぁって、あいつの仕事ぶりでも見てみるか。
 どれどれ。綺麗に清書してあるじゃないか。
 こっちのメモは……ははーん。
 判らなかった部分をまとめてあるんだな。
 後で質問するために。よく授業中にやったなぁ。
 懐かしい。
 がんばっているじゃないか、あのわんこ」
ぺらっぺらっ
商人子弟「ふむ」
“馬鈴薯はとても美味しいです。
 美味しすぎてもう一個食べてしまいたくなるので、
 とても悲しいです。
 だから馬鈴薯はもっと作るべきだと思います”
商人子弟「……なに考えてるんだ? あいつ」
“今日は、侍女のお姉さんから、タマゴのお菓子をもらいました。
 お姉さんがお庭でお昼ご飯食べようと誘ってくれたんだけど
 怖くて逃げちゃいました。ごめんなさい”
商人子弟「……あんまり真面目でもないな」

553 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 18:33:07.96 ID:jeE4iYgP
従僕「お茶入りましたぁ」 ぱたたたっ
商人子弟「ご苦労!」
従僕「はい、お注ぎします!」
とぽとぽとぽ
商人子弟「うん、美味いぞ」
従僕「ありがとうございます」
商人子弟「さて、里戸制度と戸籍の方も順調のようだな」
従僕「えっと、はい。今週分の追加戸籍も、清書しました」
商人子弟「いいぞ。これで何とかやっと予算が組めそうだ」
従僕「予算……?」
商人子弟「ん、ああ。お金を使う予定のことだな」
従僕「お小遣いですね」
商人子弟「似たようなものだ。
 この冬の国では、国家の収益は主に税から
 成り立っているだろう?
 大まかに云って、税金や作物による直接納税になる。
 これが大体年に二回程度はいってくる。春と、秋だな。
 つまり、そこでお金があるわけだけど、
 これを無計画に使うと、他の季節にお金が無くなって、
 お腹が減る。
 使う予定をちゃんと立てましょうって事だ。
 大事だろう?」
従僕「大事です。……けど、大事だから
 今までだってやっていたのでしょう?」
商人子弟「規模が小さかったんだ。
 それこそ、商人一家の財布感覚さ」