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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part58


313 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 20:12:09.56 ID:OGIpmW2P
青年商人「それに考えても下さい。
 あの“小麦引き渡し証書”は確かに強力な武器ですが、
 それは相手が取り立てを恐れている間のこと。
 騎士や軍を持っている領主達が一斉に踏み倒すと決めたならば、
 武器を持たない我ら『同盟』は取り立てる手段がありません。
 もちろん経済攻撃などで多大な損害を与えることは可能ですが
 ダメージを与えるためにもお金が必要です。
 ここいらが引き際ですよ」
火竜公女「誰に売ったのだ?」
青年商人「教会ですよ。中央の」
火竜公女「なっ」
青年商人「貴族が寄ってたかっても
 絶対に踏み倒せない相手です。
 もちろん、三ヶ国になびきそうな国には、
 わたし達に小麦を売った国そのものに売り直して
 あげましたけれどね。
 そうでない国は、結局は聖光教会の言いなりなのですから
 多少仲を冷えさせておくのも良いでしょう」
辣腕会計「良い取引が出来ました」
火竜公女「そうなのか?」
青年商人「今回の件でもっとも大きな動きだったのは、
 旧金貨から新金貨への乗り換えです。
 我が『同盟』は、この乗り換え時期、その資産のほぼ全てを
 小麦などの物資の現物と、“小麦引き渡し証書”に変えて
 保持していました。つまり、価値の無くなった旧金貨を
 持ってはいなかった」

314 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 20:13:59.91 ID:OGIpmW2P
辣腕会計「そして、今度の“小麦引き渡し証書”売却で、
 大量の新金貨を得ることが出来ました。
 この新金貨のお陰で『同盟』の資産は元の量を回復。
 いや増大さえしました。
 また、“小麦引き渡し証書”を高値で買い取った教会は、
 結局は小麦の値段を高く推移させざるを得ない。
 それだけの新金貨を失ったのですからね。
 回収するためには、高く売らざるを得ないでしょう。
 しかし、それでも売らないと自領の民が飢えることになる。
 小麦の取り立ては、教会に任せましょう」
火竜公女「……悪辣じゃのぉ」
青年商人「褒め言葉と取っておきましょう」
辣腕会計「詳細な資産把握はもはや不可能ですが、
 概算ではこのような結果になったようです」
青年商人「ふむ……」ぺらっ
火竜公女「どれくらい儲かったのだ?」
青年商人「それは云わぬが華でしょうね。
 ……聖王国は旧金貨と新金貨の交換を、
 おおよそ1/3〜1/4で行いました。
 『同盟』はこの交換を、“小麦引き渡し証書”を通して
 1/1.5〜1/2程度の間で行ったことになりますか」
火竜公女「では……。およそ2倍の資産になったのかや!?」
青年商人「そこまでは行きませんよ。覚えておいででしょうが
 小麦の大量輸送や、保管にだってお金はかかります。
 途中でジャガイモを大量購入したり、
 三ヶ国通商に肩入れしたりで、随分資金は溶けていますしね」
辣腕会計「そうですね……。仕込みに随分お金を使ってるんですよ」

315 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 20:15:20.50 ID:OGIpmW2P
火竜公女「すると、儲けはないのかや?」
青年商人「しょんぼりしないでくださいよ」
辣腕会計「ははは。利益の話を聞いてがっかりするあたり、
 姫様はすっかり、我らが『同盟』と商人の流儀が
 身についたようですね」
火竜公女「そのようなことはない。
 妾はただ、磨いた手中の玉が二束三文で
 売れてしまったかのような
 寂しい気持ちになっただけゆえ」むっ
青年商人「まぁ、2倍とは行きませんが、
 少なくない儲けを出すことが出来ました。
 『同盟』が過去4年で築いたのとほぼ同額の富です」
火竜公女「十分ではないかっ」
辣腕会計「しかし、今回得た本当の宝は
 金貨ではありませんからね。金貨は道具に過ぎません」
青年商人「ええ、もちろん。
 その過程で金貨では買えない貴重なコネや機会、
 新しい商売のチャンスを手に入れました。
 今回の戦は『同盟』の勝ちだと云えるでしょうね。
 しかし商売の戦に終わりはないんですよ」
火竜公女「次は何を狙うのじゃ?」
青年商人「それについては祝杯を挙げながら、策を練りますか」
火竜公女「ふふふっ。それならば是非お供をせねばならぬなっ」

372 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 22:38:02.16 ID:OGIpmW2P
――冬越し村、魔王の屋敷
(――お節介かも知れないけれど、
 “そこ”にいつまでも隠れているわけにも行かないだろう?)
メイド姉「……」
メイド妹「おねえちゃーん」
メイド姉「……」
メイド妹「お姉ちゃんっ!、お姉ちゃんってばぁ!」
メイド姉「あ、うんっ」
メイド妹「もう、お姉ちゃんぼうっとしてる」
メイド姉「ごめんね、なんだっけ?」
メイド妹「客室に風通して、リネン取り替えないと」
メイド姉「うん、そうだね。やっちゃおう!」
メイド妹「うんっ! らんらんらん♪」
メイド姉「ね、妹……」
メイド妹「なぁに?」
メイド姉「楽しい?」
メイド妹「うんっ! 毎日楽しいよ。お仕事大好き!」
メイド姉「そか」

374 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 22:39:58.57 ID:OGIpmW2P
メイド妹「暖かいし、お布団は柔らかいし。毎日ちゃんと
 ご飯食べられるし、当主のお姉ちゃんも眼鏡のお姉ちゃんも
 勇者のお兄ちゃんも好きだよ」
メイド姉「そう……だよね」
メイド妹「うんっ!」
メイド姉「……らんらんらん♪」
メイド妹「お姉ちゃんはそっちの端っこもってね」
メイド姉「うん」
メイド妹「ぱりぱりシーツをひきましょー!」
メイド姉「よいよー」
ぱんっ!
メイド妹「完成!」
メイド姉「良く出来ました」なでなで
メイド妹「えへへ〜。あ!」
メイド姉「なに?」
メイド妹「お姉ちゃんも大好きだよ。お姉ちゃんが一番好き」ぎゅ
メイド姉「うん。妹のこと、好きよ」
メイド妹「よかったぁ」
メイド姉「じゃぁ、洗濯の続きやっちゃおっか」
メイド妹「うん!」

382 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:06:49.15 ID:OGIpmW2P
――氷の宮廷、謁見の間
コンコンッ!
貴族子弟「こんにちはー」のこのこ
氷雪の女王「こら。どこの世界に謁見の間に
 のこのこ入ってくる宮廷官吏がいるのですか」
貴族子弟「いやいや。女王様、ごきげん麗しく。
 あんまり格式張っていない方が良いかと思いまして」
氷雪の女王「とは?」
カチャリ
外交特使「お初にお目に掛かります」
貴族子弟「こちら赤馬の国の戦爵。
 中央風に云うと、侯爵位ですね。今宵のお客人です。
 こちらは我が氷の国の誇る女王陛下」
氷雪の女王「はじめまして、戦爵。無礼な臣下で申し訳ありません」
外交特使「いえいえ。子弟殿は我が国に、勇猛な王子と
 花のように美しい姫を取り戻してくださいました恩人です」
氷雪の女王「おや」
外交特使「我が君主、赤馬王はそのため、
 わたしを氷の国への特使として派遣されました。
 この感謝の意を伝えるためでございます。
 誠にありがとうございました」

383 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:08:16.88 ID:OGIpmW2P
氷雪の女王「ふふっ。ちゃんと働いたようですね」
貴族子弟「いえいえ、脇役の道化踊りでございますよ。陛下」
氷雪の女王「寒かったでしょう、特使殿。
 我が国の林檎の風味を効かせた、熱いリキュールなどを
 入れさせましょう」
外交特使「かたじけありません」
貴族子弟「まぁ、あまり儀礼張らずに。進む話も進みませんから」
氷雪の女王「そうですね。我が国は南の辺境。
 中央のような典雅な礼儀にも欠ける素朴な国ですから」
外交特使「いえいえ、そんな事はありません。
 貴族子弟殿は中央の名門家をも凌ぐ学識と見識の持ち主と
 お見受けいたしました」
貴族子弟「常に慇懃無礼なのはかえって礼節を欠くってだけです」
氷雪の女王「この若者はひねくれ者ですからね。ほほほっ」
外交特使「これはまた。ははっ」
とくとくとく。
貴族子弟「さ、どうぞ。暖まりますよ」
外交特使「これはどうも。……うむ、甘くて良い香りですな」
貴族子弟「女王はこの酒がことのほかお好みでして」
氷雪の女王「長い冬の無聊を慰めてくれるのです」
外交特使「我らの国にもよい果実酒がございます。
 近日中にでも届けさせましょう」

384 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:09:21.81 ID:OGIpmW2P
氷雪の女王「では!」
外交特使「はい」
貴族子弟「やれやれ」
氷雪の女王「条約に署名して頂けるのですね」
外交特使「はっ。陛下はご決断されました。
 このたびの大きな転回点を越え、
 国家としての信義に照らすところを冷静に判断した結果、
 氷雪の女王陛下に仲立ちしていただき、三ヶ国通商同盟に
 参加させて頂きたいとのことでございます。
 これは、赤馬の国の公式な意思表示と取って頂いて構いません」
氷雪の女王「ありがとうございます。百万の味方を得たような
 思いです。これで近隣国家のいくつかも、さらなる交渉へと
 一歩踏み出せるでしょう」
外交特使「今回の決断に当たっては、貴族子弟殿と湖の国の
 修道院が手配してくださった、天然痘の治療班の働きが
 特に大きかった、と。
 陛下自らの感謝の言葉をお伝えせよと申し使っております」
貴族子弟「うんうん」
氷雪の女王「そんな事を?」
貴族子弟「手を回しておきましたけど。いけなかったですか?」
氷雪の女王「いいえ、もちろん良いことです。
 でもあなたはもうちょっとびっくりさせないようにしなさい」
外交特使「あはははっ」

385 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:11:22.44 ID:OGIpmW2P
貴族子弟「とはいえ、治療法のある病気ではないんですよ。
 あの修道士達は『予防』を受けていたから、天然痘末期の
 患者の看病を出来たと云うことだけで」
外交特使「いいえ、それだけでも十分です。
 また、我が国だけでも数千人、数万人いる天然痘患者が
 今後どれだけその命を救われるのか。その可能性を示して
 下さったのはまさに福音としか言い様がありません」
貴族子弟「やっと効果が実感できる段階まで来ましたね」
氷雪の女王「ええ、修道院や学士殿には感謝をせねば」
外交特使「その件ですよ」
貴族子弟「?」
氷雪の女王「どういう事でしょう」
外交特使「いいえ、馬鈴薯もそうですし、
 此度の天然痘の治療――予防ですか? もそうですが、
 湖畔修道会は常に我らの命を救おうとしてくださる。
 聖教会は湖畔修道会を敵とさだめ、
 その命脈を絶とうとするに対して、
 湖畔修道会はただひたすらに命を救おうとなさる。
 故に我が国は、どちらが真の精霊の教えかという点について
 割れた国論がまとまったのです」
氷雪の女王「……そう、でしたか」
貴族子弟「……」
氷雪の女王「子弟?」
貴族子弟「はい」
氷雪の女王「あの少女を気にかけてやってね」
貴族子弟「はい。我らの妹弟子ですからね」

392 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:34:18.13 ID:OGIpmW2P
――冬越しの村、魔王の屋敷
勇者「おーい。おーい。到着したぞー!」
メイド長「さ、まおー様。つきましたよ」
魔王「わかっている。情けないな。
 転移先からわずか20分ほど歩いただけで、脚が痛む」
女騎士「普段から運動不足だから、
 ちょっと寝付いたくらいで身体が萎えるのね」
メイド姉「お帰りなさいませ、当主様。メイド長さま」
メイド妹「お帰りなさい、当主のお姉ちゃん、眼鏡のお姉ちゃん!
 それから、お兄ちゃんと騎士のお姉ちゃん!」
魔王「ああ、ただいま。二人ともかわりはなかったか?」
勇者「悪いな、ドア開けてくれ。まずは……」
魔王「ベッドはイヤだ」
メイド長「あらあら、まぁまぁ。談話室は暖まっている?」
メイド姉「はい、暖めてあります」
魔王「では、そちらに行こう」
メイド妹「うんっ。膝掛け持ってくるね!」ぱたぱたぱたっ
女騎士「張り切っているな」くすっ
メイド姉「待ち遠しかったんですよ。
 昨日からおかしくなっちゃったのかってくらい大はしゃぎで
 料理の下ごしらえなんかして。この屋敷に二人は、やはり
 寂しいですから」

393 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:35:59.31 ID:OGIpmW2P
――冬越しの村、魔王の屋敷、談話室
コッコッコッ、ガチャ
勇者「そっか。二人だもんな」
魔王「留守中心配をかけたな」
メイド長「後で仕事ぶりを見ますよ?」
メイド姉「はいっ」
魔王「ふぅ」 とさっ 「やはり外はまだ冷えるな」
女騎士「部屋着だからだ」
魔王「仕方ないではないか。まだ少し不自由なのだ」
メイド妹「膝掛け持ってきたよ。当主のお姉ちゃん」
魔王「ありがとう、妹よ」にこっ
勇者「ふぅ〜。着いたなぁ」
魔王「やはりこの屋敷は落ち着くな。
 あちらの城の方が長く過ごしていたはずなのに、
 この部屋はずっと暖かい気がする」
勇者「騒がしい二人娘もいるしな」
メイド長「ふふふっ」
メイド姉「当主様、書類をごらんになられますか?」
魔王「うん、目を通そう」
勇者「おいおい大丈夫か? 執務室まで行くのか?」
メイド姉「いえ、執務室ではなくこちらで見ることが出来るよう
 抜粋や統計をまとめてあります」
魔王「ありがたいな」

394 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:37:21.21 ID:OGIpmW2P
メイド姉「はい、ただいまお持ちします」パタタッ
メイド妹「じゃ。お茶を入れるね? それから
 夕食はご馳走だからね? お腹減らしていてね?」
魔王「楽しみにしておるぞ」
メイド妹「えへへ〜」にぱぁ
女騎士「ふぅむ。では、わたしは夕食まで、
 一回修道院の建物の方に顔を出してくる。
 ちょくちょく帰っていたが、やはり一週間ぶりだしな」
魔王「済まなかったな、女騎士」
女騎士「気にすることはない。
 しかし、もうちょっと体力をつけた方がいいな」
魔王「善処する」
勇者「……」
メイド長「どうなさいました? 勇者様」
勇者「いや、何か妙に仲が良いな。って思って」
魔王「別にわたし達は最初から仲が悪かったわけではない」
女騎士「そうだ。別に仲が悪くはないぞ」
勇者「そうなのか?」
メイド長「殿方はあまり思い悩まない方が良いと思いますわ」
勇者「そ、そか。んじゃそうする」
女騎士「勇者、修道院までちょっと付き合え」

398 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:50:35.79 ID:OGIpmW2P
――冬越しの村、春の道
さくっさくっ
女騎士「ん。白詰草が咲いている」
勇者「ああ、良い陽気だな。まだ風は冷たいが
 太陽がだんだんと暖かくなってくる」
女騎士「春だな。わたしはこの雪国の春が大好きだ」
勇者「そうだなぁ、訳もなく幸せな気分になるなぁ」
女騎士「……」
勇者「……」
さくっさくっ
女騎士「……」
勇者「で。どうしたんだ? 女騎士」
女騎士「え?」
勇者「いや、付き合えだなんて云うから。何かあるんだろう?」
女騎士「いいや」ふるふる
勇者「……」
女騎士「何にもないぞ」
勇者「えー!?」
女騎士「ただ二人で歩きたかっただけだ。そんなに変か?」
勇者「変じゃないけれど」

399 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:51:51.55 ID:OGIpmW2P
女騎士「あれから立て込んでいたからな。
 我が剣の主人と共に歩きたかっただけだ」
勇者「……う」
女騎士「そんなに身構えられると哀しくなるな」
勇者「う、うん……」
さくっさくっ
女騎士「別に何をしようって云うわけでもないんだ。
 ただ修道院まで、この木立の道を歩いてみたかっただけだ」
勇者「うん」
さくっさくっ
女騎士「……」
勇者「……」
女騎士「なぁ、主人」
勇者「っ!」
女騎士「何だ、その顔は」
勇者「いや。その“主人”っていうの、やめないか?
 心臓に悪い。止まりそうになる」
女騎士「そうか。二人の時はよいかと思ったんだが」
勇者「勘弁してくれ」
さくっさくっ
女騎士「じゃぁ、勇者」
勇者「なんだよ」
女騎士「……あー」
勇者「?」

400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 23:53:53.69 ID:OGIpmW2P
女騎士「なんでもない」
勇者「なんだよってば」
女騎士「……」
勇者「……」
さくっさくっ
女騎士「その……。褒めて貰って良いか?」
勇者「へ?」
女騎士「ほら、今回は治癒とか随分頑張ったじゃないか。
 わたしは今、いい気になりたい気分なんだ」
勇者「え? いい気って」
女騎士「頼む」
勇者「うん。そんな事頼まれないでもさ。本当に感謝してるのに。
 女騎士には世話になった。今回はすごく助かった。感謝してる」
女騎士「そういうのではなくて、もっと単純なので」
さくっさくっ
勇者「……そんな事言われてもな」
女騎士「ん」
さくっ。
勇者「……えーっと。……っと。……えらいぞ」ぽむぽむ
女騎士「――あははぁ」にこっ
勇者「なんだよ、変なやつだな」
女騎士「いやいや主人」
勇者「それやめろよっ」
女騎士「これからの御命を守るため、我は我が剣の主人の
 忠実な盾となり鎧となって御身をまもろう。
 いま、誓いを新たにしたのだ」えへんっ

411 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 00:24:24.64 ID:jeE4iYgP
――聖王都、八角宮殿
バサァッバサァッ!!
聖王国将官「こちらの地図に示した点が
 新しく造営中の『光の子の村』になります」
王弟元帥「ふむ」
参謀軍師「目標数のおおよそ八割を達成ですな」
聖王国将官「しかし、だんだんと噂も広がってしまっております」
王弟元帥「それも計算の内だ。無理に広める必要はないが
 噂はそのまま放置しておけ。その方が人の興味は引かれるものだ」
聖王国将官「はっ」
王弟元帥「ふむ……。しかし、そうなると火薬の作成量か」
参謀軍師「硝石、でございますな」
王弟元帥「銅の国の鉱山を急がせろ」
参謀軍師「はっ。手の者をすでに向かわせております」
聖王国将官「しかし、このマスケットなる武器を
 そこまで重視して良いのでしょうか?
 わたしが見たところ、連射速度も遅く、
 射程距離もそこまで長いというわけでもなく、
 破壊力もずば抜けている訳でもないような。
  たとえば、これであれば魔術兵団の方が遙かに
 攻撃力があるのではないでしょうか?」
王弟元帥「ふふふっ。はははっ」
聖王国将官「王弟殿下……?」

413 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/24(木) 00:26:28.16 ID:jeE4iYgP
王弟元帥「いやいや、おぬしの考えは正しいよ。
 この武器は、そこまで強力な武器ではない。
 まったくその通りだ。
 しかし、それは戦争を戦場だけのものとして考えた場合だ」
参謀軍師「ですな」
聖王国将官「……戦場以外の、戦争?」
王弟元帥「考えてもみるのだ。
 そしてこの中央の国家群を見よ。
 いざ戦おうと思えば貴族どもはどうする?
 まずは、部下の騎士達に召集令状を回す。
 騎士はもし存在すれば配下の騎士、親戚や郎党などに
 さらに召集令状をだす。そうして下から順々にあつまって
 軍団が形成されるのだ。
 より強い貴族、または王族が戦を望んだとしても同じ事。
 王族は貴族に召集令状をだし、貴族が騎士を集める。
 多少規模は違っても、そこで起きることはまったく同じだ。
  つまりこれは機構の問題なのだ。
 招集で集まるのは、戦闘を前提に人生の大部分を
 過ごしてきた人間だろう。
 当たり前だ。馬に乗るというのはあれはあれで
 なかなかに特殊技術でもあり、
 赤馬の国のような馬の名産地でもない限り
 農夫が軍馬に乗るなどと云うことはない。
  つまり、この中央の国家群においては
 “戦闘を前提にしたもの=馬に乗れるもの=
 裕福で戦闘訓練を受けたもの=騎士以上の家系、
 もしくはその関係者”だといえるのだ」
王弟元帥「は、はい」