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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part57


265 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 18:34:13.12 ID:OGIpmW2P
――魔王城、深部、魔王の居住空間
コンコンッ
勇者「……あれれ」
コンコンッ
勇者「寝てるのかな」
カチャ
魔王「……すぅ。……すぅ」
勇者「寝てらぁ」
魔王「むー」くてん
勇者「寝てる時まで賢そうな顔しちゃって、まぁ」
魔王「……すぅ」
勇者「仕方ないなぁ。せっかくなのに」
魔王「……すぅ」
勇者「……」
魔王「……くふぅ」
勇者「髪の毛、細いな」

266 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/23(水) 18:35:09.04 ID:OGIpmW2P
勇者「相当美人だと思うんだけど、自覚ないんだろうな」
魔王「……むぅ」
勇者 ちょん
魔王「……ふにゅ。……すぅ」
勇者「まおー」
魔王「……? ……んぅ」
勇者「起きたか?」
魔王「……うう」
勇者「……」
魔王 きょろきょろ
勇者「おはよう」
魔王「……おはようだ」
勇者「ぼけぼけ?」
魔王「茶が欲しい」
勇者「判った。メイド長かな、用意してあるみたいだ」
魔王「ありがたい」
とぽとぽとぽ
勇者「ただいま、魔王」
魔王「おかえり、勇者」
勇者「胸は平気か?」
魔王「うん、もう痛みはない。呼吸も正常だ」

270 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 18:36:55.86 ID:OGIpmW2P
勇者「そろそろベッドからは出られるかな」
魔王「いい加減にして欲しい。退屈すぎる」
勇者「よし、んじゃ今日はお土産が沢山あるぞ」
魔王「なんだ?」
勇者「まずは、これだ。できたてだぞ?
 妹新作のカスタードプディングだ」
魔王「?」
勇者「まぁ、食えば判るよ」
魔王「ふむ……。こっ! これは!!」
勇者「すごくないか?」
魔王「甘いではないか! 冷たくと、とろぉりとして、
 初めて食べる味だ。なんだこれは?
 このとろりとしたものは果樹の蜜か? まったく新しい」
勇者「卵と砂糖で作るらしい」
魔王「なんと……。ちょっと目を離した隙に、
 どんどん技術を身につけ、新しい料理をつくりだすな」
勇者「うん、こればっかりは俺もびっくりだ」
魔王「すさまじい美味しさだなっ。メイド長も云っていたぞ。
 “料理はメイドの必須技能の一つですが、あの子のご馳走に
 かける執念は時には上級魔族を越えた気迫を感じる”ってな」
勇者「はははっ! 違いない」
魔王「これは本当に美味しいなぁ」
勇者「他にもあるぞ」
魔王「ん?」

272 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 18:38:46.85 ID:OGIpmW2P
勇者「まずはこいつは、砦将経由で預かったものだ」
魔王「うむ、封書か……。ナイフを」
勇者「ほいよ」
サクッ。ぴぃっ。――がさっ。
魔王「……うむ。青年商人殿からだ。これは、ふむ。
 開門都市に商館を作ったらしい」
勇者「はやいなぁ」
魔王「そう言えば面識があるのだったな」
勇者「腐れ縁でな、あ。そうそう」
魔王「なんだ?」
勇者「結構前の話だったけど、あいつには開門都市の
 交易勅書出しちゃったぞ? 魔王の直轄地だから、
 別に良いかなぁーって」
魔王「ああ、ここにも書いてある。お礼の言葉と共に
 確認をな。今回は問題ないとは思うが、軽はずみなことを。
 そこらの木っ端商人にこんな無制限な交易許可を与えたら
 面倒この上ないことになるぞ」
勇者「面倒って?」
魔王「勅書の転売とかまた貸しとかだ」
勇者「ああ、そっか」
魔王「そっか、ではない。まぁ、青年商人殿ならばそんな
 足下を見られるような、信用を損なう真似はしないだろうが」
勇者「で、あいつなんだって?」

274 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 18:41:51.18 ID:OGIpmW2P
魔王「ふむ、羊、牛など家畜の導入。銀行と貨幣経済の
 導入などを進めたい、としているな」
勇者「何だ、こっちには金貨はないのか? 普通に使ってたけれど」
魔王「使えることは使えるが、
 砂金での取引も通常に行われているな。
 人間の住む地上に手をつける前、つまりは勇者と出会う前には、
 この魔界の改革にも手をつけていたのだが、
 あの頃はまだ試行錯誤もあってな」
勇者「ふぅん」
魔王「魔界は、大地の恵みという意味では、
 地上よりも恵まれている。極端に寒い場所は多くはないしな。
 しかし、領土により荒れ地は多かったから
 激しい戦乱は起きていたんだ。
 魔界には人間界よりも、どちらかというと
 潅漑や治水といった土木技術や、音楽や物語などの文化的
 技術が必要で、だからそう言う意味でも――あ」
勇者「どうした?」
魔王「いや、そういえば……。魔界でも育てかけていた
 弟子がいたのだが」
勇者「はぁ?」
魔王「勇者がやってきたので放置してしまっていた」
勇者「おいおい」
魔王「まぁ、彼らも良い若者だ。
 のたれ死んでいると云うことはあるまいが」
勇者「結構放任主義だなぁ」
魔王「技能は現場でないと最終的には身につかないものだよ」

277 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:01:20.50 ID:OGIpmW2P
魔王「まぁ、そんな魔界側の事情もあってな。
 そもそも魔界は氏族による領地の運営が通常で、
 その意味では横断的な土木工事の必要がなかったんだ。
 家と畑が作れれば、それで済む程度には豊かだった。
 金貨による経済や食糧事情を改善は現状で機能している
 地下世界では随分と後回しになっていたのだ」
勇者「そうなのか。では、青年商人の件はどうする?」
魔王「銀行については、しばらく保留だな。
 まだ時期尚早ということもあるが、両界の銀行を
 一者の手に握らせるのも良くないだろう。
 これについては事情を説明する返事を書こう。
 羊と牛については止めようもないし、有り難いことでもある」
勇者「考えてみたら、あいつ、学士が魔王だって知らないんだ」
魔王「そうなのか?」
勇者「魔族だって云うのは明かしたけれど、魔王だとは思ってない」
魔王「それで魔王宛の丁寧な手紙なのか。
 回りくどい文章だと思ったぞ」
勇者「どうする?」
魔王「まぁ、そのままでもよかろう。いずれ自然に判る。
 後で返事を書いておくとしよう」
勇者「そっか。んじゃ、次だ」
魔王「次は何だ?」
勇者「今度はメイド姉からの手紙だよ。結構重いぜ?」
トサッ
魔王「ほほう」

278 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:02:31.18 ID:OGIpmW2P
ガサガサッ
勇者「なんだっていうんだ?」
魔王「これは……。ふむ、馬鈴薯の栽培報告だな。
 それに冬越し村の日誌。
 こちらには冬の国の税収に関する報告書。
 ああ、商人子弟に聞き取りをしたんだな?
 財務諸表もつけてあるではないか!」
勇者「面白いものなのか?」
魔王「ああ、これは面白いぞ。
 すごいな、このGDPの伸びは。予想どおりだ。
 南部諸王国は恒常的な戦争という重しを取りのけてやれば、
 これだけ伸びる自力を持っていたはずだったんだ」
勇者「三ヶ国はここ最近は、流入してくる逃亡農奴や開拓民の
 対応に追われているらしい。商人子弟も軍人子弟も相当に
 煮詰まっているらしいな」
魔王「ああ、メイド姉の手紙にも書いてある。……ふむ」
勇者「どうだ?」
魔王「どちらも国の特徴を生かして対応しているみたいだな。
 どういった成果が出るかはまだまだ判らないが、
 鉄の国の軍の工兵科を大拡充という発想は面白い。
 民兵の発想を逆にしたわけだな。インカムと釣り合えば
 国民公社的組織の礎となるだろうが、最大の問題点は生産性か」
勇者「生産性ってなんだ?」
魔王「経済の用語でな。……うーん、云ってしまえば、
 “ものを作る時どれくらい効率がよいか”ってことだ」
勇者「ふむふむ」

281 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:08:46.29 ID:OGIpmW2P
魔王「軍人子弟のアイデアでは、流入してくる難民や
 開拓民をとりあえず全部軍が雇用してしまうわけだ。
 これは、治安維持や当面の問題解決に大きな効果を発揮する。
 また開拓や道路の整備などの公共財の充実にも効果がある」
勇者「ああ、そういう目的らしいな」
魔王「だが、この体制を続けた場合、農業を営む雇用される側にも
 甘えというか油断が生じるんだ。だってそうだろう?
 がんばって馬鈴薯を沢山作っても、少ししか作らなくても
 国からもらえる給料や食料は一緒だ。軍人なんだからな」
勇者「ああ。……云われてみればそうだな」
魔王「そう。だから、こういった環境では『生産性』は
 下がってゆくんだ。腐敗した役人や硬直した組織にも
 見られる問題だな。努力や結果が評価されないから
 どんどん腐ってゆく」
勇者「じゃぁ、これは愚策なのか? 止めさせた方がいいのか?」
魔王「いや、そういうことじゃない。
 さっき云ったように、目の前の問題の特効薬としては
 有用なのも事実だ。
 特に今この瞬間は、これだけの難民が一挙に入ってきても、
 実際耕す地面がない。それではみんなが飢えてしまう。
 耕作するためには開拓しなければならないんだからな。
 この開拓を、軍という集団の力で実行してしまえるのは大きい」
勇者「ふむ……」
魔王「軍人してはその辺も考えて、退役を五年後と
 さだめているみたいだ。工夫のあとが伺える。
 わたし達が上からだめ出ししなくても、
 多少失敗するかも知れないが上手く対応してゆくさ」

283 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:10:53.53 ID:OGIpmW2P
勇者「魔王はさ」
魔王「ん?」
勇者「決して先生が向いてない訳じゃないと思うぞ。
 自分では苦手だとか、むしゃくしゃするなんて云っていたけれど」
魔王「そんなことはない。話を聞かない生徒を見ていると
 本当に口の中にブラックパウダーを詰め込んでやりたくなる」
勇者「でも、子弟達の話をする時はすごく楽しそうだ」
魔王「そうかな。そんな事はないだろう」
勇者「いーや、あるって」にやにや
魔王「むぅ」
勇者「おーい」
魔王「ん?」
勇者「ほれ」ちょん
魔王「なんだ? なんだ?」
勇者「カスタードクリームつけっぱなしだ」
魔王「そうだったのか。……うむ、あれは美味しい」
勇者「もう一個食べるか?」
魔王「あるのか? 食べよう」
勇者「即答だな」
魔王「温くなっては味が損なわれる」

284 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:12:49.19 ID:OGIpmW2P
勇者「もきゅ……美味いな」
魔王「うん。本当にとろっとしてて最高だ」
勇者「半分こだぞ?」
魔王「そうなのか?」
勇者「女騎士とかメイド長さんの分まで食ったら悪いだろ」
魔王「そうか。……しかし、こんな半分こなら悪くないな」
勇者「……? ああ。うん、そうだな」
魔王「勇者」
勇者「ん?」
魔王「勇者も唇についてるぞ。――ほら」
勇者「魔王だって、端っこについてる。へたくそめ」
魔王「しょうがない。まだ右腕じゃ美味く食べれないんだ」
勇者「しかたないな、ほれ。あーん」
魔王「いいのか? や、やるではないか。偉いぞわたし。
 やれば出来るではないか! 待望のシーンだぞ!?」
勇者「食わないのか?」
魔王「いやっ! 食べる。食べるぞ!
 誰が何と言おうが断固として徹底的に食べる!」
勇者「どんだけいやしんぼなんだよ」
魔王「……食べさせてくれ」
勇者「お、おう」
魔王「……ん。あむっ……、ん」こくん

287 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:14:38.45 ID:OGIpmW2P
勇者「あ。ううう……。えっと、その……美味いか?」
魔王「うん、甘いぞ」にこっ
勇者「そ、そか。ほら、ついてる」
魔王「あ、だめだぞ。勇者っ!」
勇者「なんだよ」
魔王「その指ですくったのもわたしの分だ」 ぺろっ
勇者「〜っ!?」
魔王「半分こだと行ったら半分にすべきだぞ。
 契約を守らないのは信義に悖る行為だ」
勇者「あ。う、うん」
魔王「美味しいな。今度行ったらまた頼んでくれ」にこっ
勇者「わ、わかった……」
魔王「?」
勇者「なんでもねーよっ!」ばむばむっ
魔王「そうなのか? わたしは満足だ。美味しかった!」
勇者「はいはい」
魔王「やはりあーんは勇者からされるべきだ。
 親友には悪いが、このドキドキにはかえられない」
勇者「ううう」
魔王「どうした勇者?」
勇者「なんでもない。――メイド長にプディング届けてくるっ」
がちゃん!
魔王「変な勇者だなぁ」

301 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:52:44.57 ID:OGIpmW2P
――開門都市、『同盟』の新商館、大執務室
火竜公女「すまぬ、ありがとう」
同盟職員「いえいえ、おやすいご用で」
火竜公女「帰ったぞよ」
辣腕会計「お帰りなさい。どうでした?」
火竜公女「やはり、大通りの整備は必須という結論になった」
同盟職員「インフラですか」
中年商人「おう! 竜の嬢さんだ!」
火竜公女「お久しぶりでありまする。商人どの」
中年商人「なんだい。ちょっと見ないうちにすっかり、
 板についたじゃないですかい。
 その服もブラウスも、地上のだろう」
火竜公女「こちらの方が活動的で、商談には便利ゆえ。
 竜族の衣装はおちつくが、インクを使うと袖が汚れてしまって
 なんとも困ってしまうのでありまする」
同盟職員「ははは。お似合いですよ、姫様!」
中年商人「おおっ? 姫様なんて呼ばれてるのか?」
辣腕会計「あははは! お帰りなさい、中年商人殿。公女様」
火竜公女「ただいま帰えりました。
 あれは、職員のみんなが冗談半分に口にしているだけゆえ」
辣腕会計「公女様ですからね。姫様と云ったって
 ちっともおかしくはないでしょう?」

303 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:55:51.01 ID:OGIpmW2P
火竜公女「ふんっ。からかっておるだけじゃ」
同盟職員「それより、頼まれていたリストが出来ていますよ」
火竜公女「ありがたい。……ふむ」ぺらっ
中年商人「そいつは?」
火竜公女「最近の人夫の人件費と、生活環境の調査でありまする。
 ギルドによる機構がないせいで人材の流動性が高すぎる、
 商人殿の云われるとおりかや……」
コッコッコッ……がちゃん
青年商人「おお。お二人ともお帰りなさい」
辣腕会計「委員もお疲れ様です」
火竜公女「良いところに来た」
中年商人「こっちもだ」
青年商人「早速話ですか。せっかちですね」
中年商人「はははっ。せっかちなのは商人にとっては美徳だ」
青年商人「お茶を頼みます」
同盟職員「はいっ」
火竜公女「では、商人殿からどうぞ」
中年商人「うん。まずは報告だな。大空洞の橋の初期工事の方は
 工期を短縮して進行中だ。具体的には、人夫を増やして対応する
 ことにより今週いっぱいで、木造の橋は全て建築を終える」
青年商人「良かった。これで時間に多少の余裕が出来る」
中年商人「で、その後の相談なんだがね」
青年商人「ええ、話にあがっていた大規模のしっかりとした
 ルートの敷設、と云う話ですよね」

304 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:57:27.18 ID:OGIpmW2P
中年商人「ああ、どうだ?」
青年商人「もちろん行いたい気持ちはあります。
 しかし、8年という歳月と総工費を考えた時、
 『同盟』だけで負担すべきかどうかと云いますと、
 これは難しいですね」
中年商人「それについて新しい提案があってやってきたんだ」
青年商人「提案?」
中年商人「こいつを見てくれ。
 これは、今あの大空洞現場の監督をやっている
 掘り出し物が書いた図面なんだがな」
青年商人「これは、なんですか? 水路? 水道橋?」
中年商人「いや、どっちかって云うと、井戸、のようなものらしい」
青年商人「ふむ」
中年商人「つまり、あの通路を人の行き来する街道として
 認識することも可能だが、
 ちょっと特別な巨大な『穴』として見ることももちろん可能だと、
 その設計士は云うんだな」
青年商人「ふむふむ」
中年商人「で、この滑り台にも似た井戸だ。こいつはもちろん
 壊れやすいものは無理だが、しっかり梱包した荷物を
 “落とす”事が出来る」
青年商人「え?」
中年商人「落とすんだよ。紐をくくりつけた専用の台に入れて」

305 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 19:58:45.20 ID:OGIpmW2P
青年商人「あの長い距離を!?
 どんな梱包をしたところで、全て粉々になってしまいますよ」
中年商人「いや、そうはならないと云うんだ。
 あそこ前にも話した“引力”が反転する地点があるだろう。
 その場所を利用すれば、重さが実際には無くなる。
 いや、無くなるんじゃなくて“無いかのようになる”?
 詳しいことは俺にも判らないが。
 それどころか反転した地点の逆側の引力を使って
 滑らかに勢いを停止させることも出来ると云うんだ。
 えーっと、“引力”を錘と動滑車をつかって、なんちゃらとか」
青年商人「ふむ」
中年商人「で、反対側からは、水車の水を汲み上げる装置の
 応用で荷物を引き上げてゆく。合図には磨いた鉄をつかった
 反射鏡を用いる」
青年商人「具体的には、どのような効果が見込めますか?」
中年商人「効率のアップだな。大空洞のあちらとこちら、
 それから中継点にもそれなりの人数を配置する必要がある。
 勤務体制は鉱山に似るだろうと設計者は云っている。
 その費用はそれなりに掛かるだろうが、
 いくつかの難所のルートにこの装置を設置するだけで、
 毎日馬車二十台分の荷物を安全に“送る”事が出来る」
青年商人「検討に入ってください」
中年商人「調査には実費が発生するが?」
青年商人「商人殿の裁量で認めて構いません」
中年商人「あんたは話が早くて助かるよ」

308 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 20:00:40.28 ID:OGIpmW2P
青年商人「お願いします」
中年商人「よっし、早速とりはからおう。俺はこれで行く」
青年商人「はい」
火竜公女「また会いましょうぞ。商人殿っ!」
中年商人「おう、姫様。今度は夕食でも一緒にしようや」
火竜公女「姫ではないというのにっ」ぷぅ
中年商人「ははははっ! ではっ!」
タッタッタ、ガチャン!
辣腕会計「彼はあの橋やインフラに入れ込んでいますね」
青年商人「元々旅商人だと云っていたからな。得がたい人材を得た」
火竜公女「あの調子であれば、すぐにでも立派な街道が復活しよう。
 交易の発展にとって街道はなくてはならぬゆえな」
青年商人「そうですね。そちらの案配はどうです?」
火竜公女「やはり北の門を中心に不便さが募りまする。
 あの一帯は以前の攻防戦で大きく破壊されました。
 そろそろ復興に手をつけるべきだというのが、
 自治委員会の意見でありまする」
青年商人「何か計画はあるんでしょうかね」
火竜公女「このままで行けば、商業区か居住区と
 云うことになるだろうが」
青年商人「ふむ……」

309 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 20:01:52.23 ID:OGIpmW2P
火竜公女「板バネ式馬車の方はどうじゃ?」
辣腕会計「あれは素晴らしい発明ですね」
火竜公女「機怪族からの技術供与と部品提供らしい。
 自治委員会に申し出があり、その代わりに一部地域を
 機怪族へと貸し出しを行ったと」
青年商人「ほう」
火竜公女「機怪族は長い間迫害されてきた歴史がある。
 この世界へ自分たちを馴染ませるためには並ならぬ努力が
 必要なのだろうな……」
青年商人「こちらも新しい動きを始める時期でしょうね」
火竜公女 こくり
青年商人「“小麦引き渡し証書”は始末できましたか?」
辣腕会計「はい、全て売却しました」
火竜公女「“小麦引き渡し証書”?
 この春、もうじき取れる小麦の権利だろう?
 それを手放したのか?」
辣腕会計「ええ」
青年商人「売りましたよ」
火竜公女「なぜだ? 小麦を買い占めていた方が、
 三ヶ国同盟に都合がよいのではないか?」
青年商人「別にわたしは、あの通商同盟の守護者ではありませんし」