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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part55


193 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 14:44:25.10 ID:OGIpmW2P
――聖王国南部の開拓地、光の子の村
ざわざわ……。
開拓民「何が始まるんだ?」
痩せた農奴「しらねぇ」
小柄な平民「俺たちは、村の司祭様にここにいけって」
少年農民「ここに行けば、とりあえず一日二回は
 パンを食べさせてもらえるって聞いたのです」
開拓民「それは俺も聞いた」
痩せた農奴「ああ。俺はもう、
 パンさえ食えるなら、なんでも良いよ」
小柄な平民「おれもだ。何で麦を育てている俺たちが、
 パンの一つさえ食えないんだ……」
少年農民「ぼくも。僕が家にいたら、小さな二人の妹が、
 飢えて死んでしまうんです」
開拓民「……」
痩せた農奴「……今年の春は、麦はよく実ったけれど、
 値段はちっとも下がる気配がない」
小柄な平民「俺たちは、あれを食べていたよ」
少年農民「……あれ?」
開拓民「ああ……」
痩せた農奴「“悪魔の林檎”だよ」
小柄な平民 こくり
少年農民「だってあれは!」

194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 14:46:05.98 ID:OGIpmW2P
開拓民「……仕方ないじゃないか」
痩せた農奴「いくら異端の食べ物だって、
 俺たちはこのままじゃ死んでしまうって云うところまで
 追い詰められていたんだ。
 俺の村、いや俺の国で、一度もあれを食べていない農民なんて
 居ないのじゃないかと思うよ」
小柄な平民「そうだよな……」
少年農民「だ、大丈夫なんですか?」
開拓民「なにが?」
少年農民「だって、異端なんですよ?
 身体に悪魔の印が浮かび出るとか、
 手が山羊の蹄に変わるとか、狂い死にするとか」
痩せた農奴「俺の村ではそんなことはなかった」
小柄な平民「こっちでもだ……」
少年農民 ごきゅり
開拓民「馬鈴薯、美味かったよな……」
痩せた農奴「ああ、たっぷりの湯で茹でて、バターをかけてな」
小柄な平民「薄っぺらい土壁の中で食ったけれど、甘かった」
少年農民「そんな……」 ぐぅぅぅっ
開拓民「仕方ないさ。俺たちは結局」
痩せた農奴「ああ、上の云うことに従うしかないんだ」
小柄な平民「そうでなきゃ、なけなしの財産も
 仕事も食い物も、根こそぎ取られちまう」

195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 14:47:14.12 ID:OGIpmW2P
ざわざわ……。
開拓民「あ」
司教「……静まりなさい」
痩せた農奴「司教様だ……」
小柄な平民「初めてみた」
司教「この地に集った聖なる光の精霊の信徒に祝福を」
 がばっ、がばっ、がばっ
少年農民「し、司教様だっ! 司教様に祝福して頂いたっ!」
開拓民「なんてことだ。俺たちみたいな農民に司教さまがっ」
痩せた農奴「ありがてぇ、ありがてぇ」ぼろぼろ
しーん
司教「汝ら光の子がこの地に集められたのは、
 来るべき邪悪との戦いに備えるため。
 この村には畑があり、汝らを養うだけの
 食糧が備えられておる。
 また、汝ら悪魔との戦いを指導する教え手もある。
 汝らはこれから半年の間、この新しい村で生活し
 光の精霊の子としての奉仕をせねばならぬ」
開拓民「え……戦い?」
痩せた農奴「俺たちには、そんなことは無理だ」
小柄な平民「でも司教さまの言葉なんだし……」
がやがやがや……。

196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 14:48:46.76 ID:OGIpmW2P
司教「安心するがいい! 光の精霊の子らよ!」
しーん
司教「光の精霊は、汝ら光の子を嘉したもうっ。
 慈悲深き彼の精霊は、決して我が子を見捨てることはない。
 汝らには、汝らを脅かす魔族を倒す武器をお与えになった」
開拓民「……?」
痩せた農奴「武器?」
ガチャ、ガチャリ
司教「その鉄の杖を持つがよい。
 この鉄の杖こそ光の精霊が魔を討つためにお与えになった
 マスケットなる武器。
 この鉄の杖さえあれば、
 汝らであっても歴戦の古強者がごとく、
 戦場をかけることが出来るのだ。――みせよっ!」
精鋭銃兵「はっ!」 ちゃきっ! ジリジリっ!
 ダンッ!! バキンッ!!
小柄な平民「何だ、あれはっ!?」
少年農民「離れた鎧が!」
司教「この武器は50歩離れた鉄の鎧さえ打ち抜く力がある。
 この武器を使えば、相手の爪も牙も、剣も槍も届かない
 距離から敵を打ち倒すことが出来るのだ!
 汝らはこの武器に習熟することにより、この大陸随一の
 精兵となるであろうっ!!」

197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 14:50:58.11 ID:OGIpmW2P
司教「そして聞くが良い、精霊の子らよ! 祝福の使徒よ。
 大主教殿が今回、汝らに助けを求められたわけを」
痩せた農奴「だっ、大主教様っ!?」
小柄な平民「た、助けってどういうことだ?」
ざわざわ……。
司教「汝らも知るであろう、
 南の果て世界の凍える凍土に作られた監獄を!
 魔界と呼ばれる地は精霊に定められた幽閉の檻でもあるのだ。
 知るが良い。そこは教会の言葉に逆らう背教者が送られる
 凍てつく極寒の流刑地。
 魔族とはかつて精霊に逆らった罪人の裔なのだ」
開拓民「教会で何度も教えてもらってる話だ……」
少年農民「魔族はそれゆえ残虐な心しか持っていないのです」
司教「しかし、事もあろうにその背教者達は
 われらが光の子の宝を盗み、
 今の今まで謀り続けてきたのだっ!」
小柄な平民「へ?」
司教「それは、光の精霊様の聖なる遺骸。つまりは聖骸である!
 やつら教えに背いた者どもめらは、光の信徒の希望、復活の象徴
 聖骸を貶め辱めんがために、我らからそれを奪い、
 押し隠してきたのだっ!」
開拓民たち「っ!?」「せ、精霊様をっ!?」「まさかっ」
司教「大主教様は御自ら仰られた! このような過ちを
 我らは見過ごすわけには行かない。
 たとえ自らの命を掛けてであろうと聖骸を奪還すると!
 これは聖なる任務であるっ!
 光の子らよ! マスケットを持ち立ち上がれっ!!
 光の信徒の力を今こそ結集させるのだっ!!!」

204 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 15:21:24.70 ID:OGIpmW2P
――――鉄の国、新興の開拓村
巡回軍曹「さ、ここだ」
難民一家の父「ここですか!」
難民一家の母「寒いですね……」ぶるぶるっ
難民一家の娘「でも、ひろいよぉ!
 向こうの丘までずーっと道がまっすぐだよ!」
巡回軍曹「寒いのは仕方ない。南の国だからな。
 がんばって働けば汗も噴き出すさ!
 さぁさ、畑の方にいこう。誰かいるはずだ」
難民一家の父「はい!」
ぎぃっ、ぎぃっ
 ざっざっざっざ
難民一家の父「さぁ、馬よ。ボロ馬車だが頑張っておくれ。
 もう少しでたどり着くからね」
ぎぃっ、ぎぃっ
開拓民兵娘「おーうい! 軍曹さんじゃないかぁ」
巡回軍曹「おーうい! 調子はどうだい?」
開拓民兵「ぼちぼちですよ。
 今週中にも、この丘の根っこは全部掘り返せる」
開拓民兵娘「そうすれば、一面の馬鈴薯畑にできるよ」
巡回軍曹「そうかそうか!
 今日はまた新しい家族を案内してきたんだよ」
難民一家の父「川蝉の領地から来ました、よろしくお願いします
難民一家の母 ぺこり
難民一家の娘「よろしくなの!」

205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 15:22:54.75 ID:OGIpmW2P
開拓民兵「へぇ! 川蝉! あんな遠くからよくぞ」
開拓民兵娘「ねぇねぇ、奥さんかしら? 顔が真っ青だよ」
難民一家の母「いえ、ちょっと寒くて……」
巡回軍曹「ああ。調子が悪そうだから
 わたしが付き添って、ここまで送り届けに来たんだよ」
難民一家の父「出来れば、妻を休ませてやりたいんです。
 わたしが二人分働きますから、どうかお願いしますっ」
難民一家の母「そんな、あなた……」
開拓民兵「そうだなぁ、まずは集会所にでも」
開拓民兵娘「ったく! なに云ってるのよ! 見なさいよ。
 ねぇ、奥さん。もしかして……お子様が生まれるの?」
巡回軍曹「え?」
難民一家の父「そっ、そうなのかおまえ!?」
難民一家の母「ええ……。はっきりとはしないけれど、
 先月あたりからずっと。そんな気もするの、あなた……」
難民一家の娘「えー!? お母さん、ほんとっ!?」
開拓民兵娘「ほら見なさい! そんな時にこんな寒いところに
 立たせておくなんてとんでもない! ましてや集会所だなんて」
開拓民兵「そ、そういうもんなのか?」
開拓民兵娘「だからあんたはいつまでたっても
 嫁の一人も来ないのよっ!」
巡回軍曹「ど、どうすればいいんだ!?」おろおろ
開拓民兵「そうだよ大変じゃないかっ」おろおろ

206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 15:24:54.93 ID:OGIpmW2P
開拓民兵娘「これだから男なんてのは!」
開拓民兵「お前だって子供なんて産んだこともないくせにっ!」
開拓民兵娘「女には女の口伝、ってもんがあるのっ!
 ほら、奥様。まずこの上っ張りを羽織ってくださいな」
難民一家の母「そんな。……こんなにちゃんとしたものを
 お借りするわけにはいきませんっ」
開拓民兵娘「これだって、軍の支給品なんだよ。
 大丈夫、ちょっと貸すだけ。羊の毛だから暖かいよ?」
難民一家の父「ありがとうございます……」
開拓民兵娘「ね。村長の所までひとっ走りしてきてよ。
 このご家族は、わたしの家の隣を使わせて貰おう。
 薪と泥炭を運んでおくんだ」
開拓民兵「そ、そうだな! 俺はひとっ走り行ってくるよ」
開拓民兵娘「頼んだからね! それから、着るものと
 食べる物もね! 村長の奥さんにも来てもらうんだよっ」
巡回軍曹「任せても大丈夫かな」
開拓民兵娘「もちろん! さぁ、行きましょう。
 あんまり立派じゃないし小さいけれど、家があるんですよ。
 まとめて建てたばっかりだから、
 どれも同じ形で迷ってしまうけれど、
 何だったら後で何か植えて目印にすればいいです」
難民一家の父「い、いいんですか? こんなに良くして頂いて」
難民一家の母 こくこく
開拓民兵娘「何言ってるんですか。これから沢山沢山、
 この国の人も南の人もみんながおなかいっぱいになるまで
 ここで馬鈴薯を作ってもらう仲間じゃないですか」にこっ
巡回軍曹「鉄の国へようこそ! 開拓兵の一家の皆さん。
 我が国も、我が軍も、あなたたちを歓迎しますよっ!」

211 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 15:47:59.24 ID:OGIpmW2P
――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場
銀虎公「さて」
巨人伯「……集まった」
火竜大公「お集まりの族長方、ご足労に感謝する。
 さて魔王どのから一時でもその全権を預かった以上、
 その信頼に応えるためにも、一つの失敗もなく
 やり遂げなければならん。そうですな、黒騎士殿」
勇者「その件についてだが、
 俺は少数氏族の権利について以外はなるべく
 他の族長達の判断を優先し尊重するように釘を刺されている。
 いってみれば外様だしな」
妖精女王「そのようなことはありませぬが」
紋様の長「魔界の、いや地下世界のことは我らで面倒を見よ、
 と云う魔王殿の意志であろうな」
鬼呼族の姫巫女「うむ」
銀虎公「頼られて撥ね除けるは武人の名折れぞ」
碧鋼大将「今日は、何の話を?」
東の砦将「ふむ」
火竜大公「まず、各々の氏族の中のことは
 今までどおり氏族の中で決めてゆけばよいと思う。
 この会議の目的はあくまで今まで魔王殿が一人でやられて
 いたことの代行。つまり、我らが魔族および地下世界全てに
 関わる問題の解決や、氏族間の利害、意見調整。
 そして一つの氏族では解決できないような問題での協力の
 あり方についてであろう」

212 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 15:49:33.84 ID:OGIpmW2P
妖精女王「ええ、賛成です」
紋様の長「異議はない」
鬼呼族の姫巫女「妥当であろうな」
銀虎公「と、なると」
東の砦将「目下の問題は、蒼魔族についてですな」
巨人伯「……そうだ」
火竜大公「そのとおりだ。蒼魔族はすでにこの会議からも離れ、
 独自行動に移ったようだ。
 物見の報せに寄れば、蒼魔族の領地へと軍を返すために、
 すさまじい速度で進んでいるらしい」
妖精女王「もし仮に蒼魔族が魔族全体を敵に回し
 暴れ回るようなことがあれば、
 我ら妖精族などはひとたまりもありません」
鬼呼族の姫巫女「われら鬼呼族は抗し得るだろうが
 それでも甚大な被害は免れ得ぬであろう」
銀虎公「それは獣人族も同じ事」
勇者「いや、まってくれ」
巨人伯「……なぜ? ……黒騎士?」
火竜大公「何かご意見でも?」
勇者「俺は蒼魔の新王と戦った。あいつの力は半端じゃぁ、無い。
 いまの蒼魔族は強いぞ。おそらく想像以上に、だ」
紋様の長「ふむ……。先の乱世よりも
 その力は上がったと見るべき、ということでしょうな」

213 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 15:50:33.26 ID:OGIpmW2P
鬼呼族の姫巫女「黒騎士殿が云われるのならば、そうなのだろう」
火竜大公「で、あれば、蒼魔族については
 一層この会議で取り扱わなければならぬ問題と云えよう」
銀虎公「そうだな」
碧鋼大将「他にも問題はあるでしょうが、
 目下もっとも急を要するのはこの蒼魔族の問題でしょう」
巨人伯 こくり
紋様の長「ふむ、まずは問題を整理してみます、か」
鬼呼族の姫巫女「それはよい」
紋様の長「ひとつ。蒼魔族は新しい王を迎えた。
 ひとつ、その新王、および彼に率いられた軍は
 魔王に向かって弓を引き、忽鄰塔を離脱した。
 ひとつ、その新王、および彼に率いられた軍は
 現在、彼らが領土に向かっている。
 ひとつ、その数は約1万数千。
 ひとつ、蒼魔族の新王は魔王候補者の刻印を持ち
 その戦闘能力は極めて高い」
鬼呼族の姫巫女「そのような所じゃな」
碧鋼大将「きわめて的確な要約だ」
火竜大公「と、なると問題は」
妖精女王「蒼魔族全体の意志、ですね」
銀虎公「は? 蒼魔族は裏切り者だろうが?」

214 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 15:52:21.41 ID:OGIpmW2P
妖精女王「とはかぎりません。特に蒼魔族新王の即位は
 この忽鄰塔中に行われたきわめて異例かつ、急いだものでした。
 今考えると、何らかの陰謀がなかったとも云えないでしょう?」
紋様の長「うむ」
鬼呼族の姫巫女「ことによると、蒼魔族の本国は、
 新王が魔王を裏切ったことをまったく知らぬ可能性もある」
銀虎公「じゃぁ、いっそ蒼魔族の軍が、
 奴らの都に着く前に攻撃しちまえばどうだ?
 そうすれば、もし蒼魔族の都が白でも黒でも問題はない。
 白なら敵が減るし、黒でも敵軍の合流を避けられる」
碧鋼大将「それは名案だが、蒼魔族の行軍速度が速すぎる。
 今から追いかけてはとても間に合わぬ」
巨人伯「……白か……黒、か……」
火竜大公「それは、わしには明らかなように思われるな」
紋様の長「どういうことです? ご老公」
火竜大公「この行軍速度が語ってくれているであろう。
 つまり、蒼魔の軍は我らには是が非でも
 追いつかれたくはないのだ。
 戦闘になれば自らの領土から援軍が来るということならば
 ここまでがむしゃらに自らの都に急ぐ必要はあるまい。
 つまり、きゃつらも己の都を掌握は出来ていないのだ」
妖精女王「一理ありますね」

215 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 15:54:04.24 ID:OGIpmW2P
鬼呼族の姫巫女「と、なると我らが魔族全軍をもって
 蒼魔族の都を包囲するのも逆効果と云えるでしょうね」
銀虎公「なんでぇ。だめなのか?」
鬼呼族の姫巫女「我らが魔族全軍を率いるとなると、
 その数は5万を超えるだろう。
 そこまでの数をそろえてしまうと、蒼魔の一族には絶望が広がる。
 魔王に反逆をしたのが新王だろうと何だろうと、
 すでに自分たちは魔界を裏切ってしまったのだ、とな。
 となると、これは自暴自棄というか、
 もはや新王に協力するしかないであろう。
 蒼魔族は、全て袋の中に猛り狂った狼となり、血を見ずには済まぬ」
銀虎公「面倒くさいことになって来やがったな……」
碧鋼大将「そもそも蒼魔族は厳格な身分制度を持つ
 軍政を引く一族だ。このような事態もあり得る展開だった」
巨人伯「ふぅ……む……」
東の砦将(また一方、最悪の場合、
 蒼魔の新王が軍人以外の自らの氏族の命さえ人質に取る、
 などという展開もありえるってこったな。
 通常でならばとうてい想像さえ出来ぬような卑劣な手段も、
 毒殺、暗殺さえも決意した連中だ。
 追い詰めたならばあり得るかも知れねぇ。
 こいつはショックすぎて魔族の皆様には言えねぇが……)
火竜大公「まず、蒼魔の軍が自らの領地に帰り着くのは
 避けられまい。これはすでに過ぎたこととしよう」
妖精女王「はい」
紋様の長「そうですね」

221 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 16:17:02.35 ID:OGIpmW2P
火竜大公「そのうえで。で、あればこそ、
 蒼魔の軍から目を離してはならぬ。今もっとも恐ろしく
 こちらがして欲しくないことは、蒼魔の軍が蛇のように、
 この魔界の中を動き回り、哀れな犠牲者に噛みつくことだ」
鬼呼族の姫巫女「そうだな」
火竜大公「蒼魔一族の領域の外には偵察を張り巡らせ、
 蒼魔の軍の動きをいち早く監視する必要があるだろう」
妖精女王「では、その役目は我ら妖精の一族が受けましょう。
 我らは小さく力も弱いですが、夜の闇をも見通し、
 小さな音も聞き逃しません」
紋様の長「もし妖精の一族が何かを見つけたのなら、
 我ら人魔が一族がその情報をここまでとどけましょう。
 人魔一族は氏族の中でもっとも数が多い。
 古来よりこの魔界の中に伝令の“駅”をつくり
 換え馬による情報のやりとりをしてきました」
火竜大公「各々がた宜しいか?」
東の砦長 こくり
紋様の長 こくり
火竜大公「では、この件は妖精の一族と、
 人魔の一族に頼むとしよう。
 手助けできることあれば遠慮無く申し出て欲しい」
妖精女王「承りました」
紋様の長「お任せを」

222 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 16:18:27.41 ID:OGIpmW2P
火竜大公「さて、一方蒼魔族が軍を発してきた場合」
銀虎公「それも決めておかなければ始まらねぇな」
碧鋼大将「どうする?」
銀虎公「先鋒は俺たち獣牙だ」
巨人伯「……むぅ」
銀虎公「俺たちは今回の件では大きな不名誉をおった。
 是非先陣を務めさせて頂きたい」
火竜大公「よろしいか? 姫巫女どの」
鬼呼族の姫巫女「ふっ。……お見通しだな。
 よかろう、先陣はゆずるとしよう。
 しかし、蒼魔と一番長い国境を接しているのは、
 我らが鬼呼族の地。ゆえに我らが第二陣だ。
 また、蒼魔族が我らの地に突っかけてきたら
 先陣を保証することは出来ぬ。その時は諦めてくれ」
銀虎公「承知した」
火竜大公「獣人、鬼呼の二氏族ならばおさおさひけは取るまいが
 蒼魔族はなにやら得体が知れぬ。十分に気を引き締めて
 かかって欲しく思う」
紋様の長「心得た」
銀虎公「任せるが良い」
火竜大公「さて、我ら竜族も相応の義務を果たさねばなるまい。
 お役目をお願いした四氏族には、我ら竜族から食料や
 必需品を運ばせよう」
銀虎公「かたじけないなっ!」

224 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/23(水) 16:19:59.10 ID:OGIpmW2P
紋様の長「そのようなところ、ですか」
東の砦長「もう2点お願いしたいことがある」
火竜大公「なんだ? 衛門の族長よ」
東の砦長「そいつは流民のことだ。
 いっくら蒼魔族が他と交わらない、
 内部統制で上意下達の氏族だと云ったところで例外はあるだろう。
 あちこちの街に少数暮らしている連中がいるはずだ。
 そいつらの保護をお願いしたい」
銀虎公「何故そのような細々としたことを。
 たいした人数でもないではないか。
 形勢に影響を与えるとも思わん」
東の砦長「戦に関しちゃその通り。
 だが、こいつは戦が終わった後のためだ。
 俺たちの方が蒼魔族をよってたかって滅ぼしたのでは“無い”
 ってことを、誰かに証人になって貰わなきゃ困る」
巨人伯「……ふむ」
東の砦長「今回の戦にしたってそうだ。
 この世界から蒼魔族を一人残らず、女子供も皆殺しにするっ
 ていうのならそんな気を遣わないでも済むが、そうはいくまい?
 俺たちは皆殺しとは行かないが、そんな無法は通らないからな。
 だが残された蒼魔族は恨むぜ? 事と次第によっちゃぁ、
 “何もしていない蒼魔族を恐れた他の氏族が
 よってたかって蒼魔族を攻撃した”って子々孫々まで語り継ぐ」
鬼呼族の姫巫女「そのようなことも、無いとはいえんな」