Part53
815 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:07:14.87 ID:0Bi87sEP
銀虎公「瓶……!?」
執事「壊死の毒ですよ。
……この毒のせいで、追っ手に差し向けた
わたしの可愛い部下が五人もやられてしまった。
恐ろしい毒です。
既知の解毒方法では効果も望めない」
碧鋼大将「毒……まさか……」
巨人伯「暗殺……?」
蒼魔上級将軍「〜っ!!」
東の砦将「おう。なんで、魔王を殺したのと同じ毒使いが
蒼魔の陣中にいるってんだ? え?」
紋章官/暗殺者「離せしゅるっ! 離すのだ、じぃ!」
紋様の長「それについてはじっくりとこの暗殺者に問う
必要があるでしょうな……」
紋章官/暗殺者「貴様、爺っ! 俺を足蹴にっ!」 がばっ!
ザシュッ!!
紋章官/暗殺者「カハっ! あ、そ、そんな……。
ふしゅ、しゅる……しゅ……しゅ……」
蒼魔の刻印王「危ないところでしたな、ご老人」ちゃきん
東の砦将「貴様っ! 大事な手がかりをっ!
口封じのつもりか、蒼魔族のやり方はそうなのかっ!?」
817 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:08:09.14 ID:0Bi87sEP
蒼魔の刻印王「とんでもない、これはご老人を助けようと
しただけにすぎません」にこり
蒼魔上級将軍「ふっふっふっ」
東の砦将「そのような言い訳が通ると思っているのかっ!」
副官「重大な疑惑行為ですよっ!」
紋様の長「蒼魔の王よっ!
自らの口で、容疑者を捕縛し
詮議しなければならぬと云ったそばから、
重大な手がかりを握っているに違いないその者を
殺すとはいったい何事ですかっ!?」
銀虎公「そうだ、信義に悖るにもほどがあるぞっ!」
蒼魔の刻印王「ふっ」
こつんっ――ばさっ……
碧鋼大将「こ、これは……。仮面……?」
巨人伯「この、おどご……」
火竜大公「この暗殺者は……。蛇蠱族だったのか……」
副官「蛇蠱族……?」
銀虎公「そんな……。獣人の一族だと……?
……ちがうっ!
俺たちは違うっ! 確かに俺たちは力を発揮するための
戦場を望んでいたが、暗殺なんぞ力を貸したりはしないっ!
違うんだ、俺たちはこんな事はしないっ!!」
蒼魔上級将軍「誰が信じる、そのようなことっ」
819 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:09:23.38 ID:0Bi87sEP
碧鋼大将「それを言うならば、蒼魔族とて同じであろう!」
火竜大公「そうだ、その蛇蠱族を紋章官として
雇い入れていた蒼魔族も疑念を避けることは叶わぬっ!」
蒼魔の刻印王「何か勘違いをなさっているようですね」
鬼呼族の姫巫女「何っ!?」
蒼魔の刻印王「言い訳? 疑惑? ふふふっ」
副官 ぞくっ
蒼魔の刻印王「僕はね、魔王なんですよ?
言い訳などする必要はない。
疑念を晴らす必要などさらにない。
それが魔王。
唯一にして絶対。
至高にして無二。
魔界の全てを統べる者。
今さらそのようなご託を聞く耳はありません」
紋様の長「だが魔王は忽鄰塔において、
氏族の長の半数を持って廃位出来るっ!
このような状況下で魔王を続けられるわけがない!」
蒼魔の刻印王「僕は忽鄰塔の終了をここに宣言する。
そして、再び忽鄰塔の招集を出来るのは魔王だけだ」
碧鋼大将「っ!!」
妖精女王「そんなっ」
824 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:12:54.86 ID:0Bi87sEP
蒼魔の刻印王「宣言しますが、僕は二度と忽鄰塔など
開催しませんよ。
こんな会議は自分の意志を押し通す実力のない、
三流の魔王が頼る弱者の藁に過ぎない。
覇道を進む魔王は、絶対の支配者。
僕は、あの腐った女とは違う。
魔界の秩序とは我が身、この魔王のこと。
全ての法を越えた支配者が魔王っ。
判っていないのはあなたたちのほうだっ!
ふっ。これで詰み。……お仕舞いですよ、諸卿」
ざっ
「そのような考え方をこそ改めたかったんだがな」
蒼魔上級将軍「誰だっ」
魔王「誰だとは挨拶だな……。ごほっ」
メイド長「まおー様、ご無理は」
女騎士「まだ法術が不十分なんだ。戻ろう」
魔王「必要があるんだ、目をつぶってくれ」
火竜大公「魔王……どの……」
東の砦将「魔王さんよっぅ!!」
妖精女王「魔王さまぁっ!!」
827 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:14:15.82 ID:0Bi87sEP
蒼魔上級将軍「何故っ!! 何故貴様が生きているっ!」
魔王「ここで一度云っておく。
魔王の身でこんな事をいうのもなんだが
そもそもこの魔王というシステム自体が過渡期的性質を
持っているのだ。
たった一人の絶対者によって、その権威と武力と調整力によって、
氏族間の意見の相違やバランスの欠如を
全て吸収させようだなどという考えそのものが前時代きわまる。
良いか? 忠義だなどと云えば聞こえはよいかも知れないが
その内とちくるった魔王が出てきて、積み上げたものを
全て根こそぎおじゃんにするのが世のおちだ」
執事「学士殿……」
魔王「済まなかったな。疑った」
執事「しかし、信じてくださった」
魔王「勇者が真剣にいうからな。
“あの爺はD以上は絶対に殺さないんだ”って。
それに、毒を使うのは流儀に反するのであろう?」
執事「わたしは紳士で通っていますからね。にょほっほっほ」
勇者「――と、云うわけだ“候補止まり”くん。
俺の剣は魔王のもの。俺の剣は魔王の示したものを貫く刃」
蒼魔の刻印王「黒騎士、貴様ッ!!」
魔王「勇者っ!」
勇者「あいよぉっ!」
魔王「蒼魔の王を捉えよ! 出来れば生かしたまま。
だが手向かいするならそれはそれで構わんっ!」
830 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:17:01.32 ID:0Bi87sEP
蒼魔の刻印王「はぁ!! まだ終わらんっ!!」
ガギィィン!!!
勇者「っ!?」
女騎士「な、なんだ。あの異常な魔力はっ!?」
メイド長「あれは冥府殿の負の気っ!」
ヒュバンッ!
蒼魔の刻印王「はぁっ! せやっ! せぃやぁぁ!!」
勇者「こいつっ。桁外れだっ」
ギン! ギキン! ガギン!!
勇者「“加速呪”っ! “雷剣呪”っ! “被甲呪”っ!」
蒼魔の刻印王「“飛脚術”っ! “火炎鳴動術”っ!!!」
ギンッ!! ガッギギギギ!!
東の砦将「な、なんて奴らだっ!」
副官「銀光しかっ、見えないっ!?」
魔王「勇者っ!」
蒼魔上級将軍「いまだ! 黒騎士は我が君が押さえる。
今のうちに魔王を討ち取れっ! 魔王は軟弱だ!
ましてや今は毒で弱っている、どの将兵にでも討ち取れるぞ!!」
勇者「なっ! ちょ。まて、それはたんまっ!」
蒼魔の刻印王「死にたいのか、貴様っ!」
ヒュギンッ!!
勇者「まずいっ。こいつ……戦力だけで云えば真魔王かっ」
831 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:18:52.62 ID:0Bi87sEP
蒼魔上級将軍「行けぇ!!」
蒼魔騎兵「はいやっ!」「どうっ!」「突撃ぃぃぃ!!」
東の砦将「騎兵だって!? おい副官っ!」
副官「はっ!」
東の砦将「族長をまとめろ、天幕は役に立たない。
蹴倒して足跡の防塁を造れっ!」
碧鋼大将「どこにこれだけの兵をっ!?」
銀虎公「うぉぉぉ!! やられる訳にはいかぬぅ!」ズダーン!!
勇者「夢魔鶫っ! 行って魔王を護れっ!」
蒼魔の刻印王「死人鴉っ! 行かせるな!!」
ギン! ギキン! ガギン!!
巨人伯「おおん……魔王……まもる……」
魔王「このような身体が。……けふっ。げふっ。」
メイド長「まおー様!」
女騎士「寄るなっ! 寄らば斬るぞっ!!」
蒼魔上級将軍「弓兵隊っ! 構えぇぇぇーい!!」
蒼魔弓兵隊 ざしゃっ
東の砦将「ありゃまずいっ!」
メイド長「っ!?」
蒼魔上級将軍「近づくなっ! 矢の数で攻めよっ!
一斉射撃準備っ! 撃てぇぇーい!」
832 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:19:55.28 ID:0Bi87sEP
ヒュ………………ッ!!!!
蒼魔弓兵隊「え?」
ッカ
蒼魔弓兵隊「なんだ」
ッカ
蒼魔弓兵隊「なんで、おまえ。……弓を捨てて」
ッカ
蒼魔弓兵隊「首がっ! あいつの首がっ!?」
ッカ
蒼魔弓兵隊「どこだっ!? 何をされてるんだっ!?」
ッカ
蒼魔弓兵隊「見えないっ。俺の目がっ。目がぁ!!」
ッカ
蒼魔弓兵隊「うわぁぁぁああああ!!」
ッカ
執事「ふむ。二流の下というところですな」
835 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:21:48.25 ID:0Bi87sEP
東の砦将「あの爺さん、何やったんだ。あれは何なんだっ」
女騎士「射撃で倒したんだろう」
東の砦将「だって爺さん、何も持ってなかったじゃないかっ!」
女騎士「あの爺さんが何か持ってるところなんて見たことが無い」
東の砦将「あの爺さんは伝説の“弓兵”じゃないのかっ!?」
女騎士「そうだよ。でも、見たことはない」
東の砦将「なんで“弓兵”なんだよっ」
女騎士「相手は矢に刺されたように死ぬからだ」
勇者「行けぇ!! “上級雷撃呪”っ!」
蒼魔の刻印王「はじけっ! “凍結壁術”っ!」
ドッシャァァーーン! ビリビリビリッ!
蒼魔騎兵「いまぞ! 魔王を討ち取れっ!」
蒼魔騎兵「蒼魔に魔王を取り戻せっ!!」
ダカダッダカダッダカダッ
女騎士「っ! まずいっ。こっちは二日近く解毒に回復に、
もう体力も法力も限界なのに。数で押されるとは……」
メイド長「わたしが行きます」
魔王「だめだ……けふっ。お前だって」
蒼魔騎兵「我に続け! 魔王を討つぞっ!!」
ダカダッダカダッダカダッ
火竜大公「こわっぱどもがっ! 黙りんしゃいっ!!」
ゴオオオオッッゥッツ!!
836 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 15:24:27.51 ID:0Bi87sEP
蒼魔の刻印王「はぁっ! はぁっ……。
黒騎士よ、ここまでやるとは思わなかったぞ」
勇者「はっ……。はっ……。
それはこっちの台詞だ、“候補止まり”くん」
蒼魔の刻印王「だがここまでだ。受けてみろ!!
魔力充装っ“超高域炎撃死滅術式”っ!!」
メイド長「っ!?」
勇者「っ! 間に合えっ! 魔力結晶っ!
“超高域雷撃結界呪文”っ!!」
ヒュダァァアン! ガキィィィィン!!
東の砦将「空がっ! 燃えあがる!?」
魔王「勇者っ!」
蒼魔上級将軍「わが君っ!!」
ゴゴオオオン!!
勇者「……はぁっ。はぁっ」
蒼魔の刻印王「……はぁっ、はぁっ。くっ」
執事「勇者。このままでは、学士殿がっ!」
蒼魔の刻印王「わが君、ここはっ」
蒼魔の刻印王「……兵を引かせよっ! 退却だっ!!」
勇者「……」ぎろっ
蒼魔の刻印王「……ふっ。命拾いをしたな」
勇者「魔王は守った。俺の勝ちだ」
蒼魔の刻印王「これは新たな戦乱の始まりに過ぎぬわっ。
ふはーっはっはっはっは!!」
905 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 20:12:33.25 ID:0Bi87sEP
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、忽鄰塔の大天幕
――その夜
鬼呼族の姫巫女「それで、魔王殿の様態はいかがなのだ?」
紋様の長「それが心配だ」
勇者「一命は取り留めるだろうが、二週間は絶対安静だ。
その後も数ヶ月は不自由だろうな」
銀虎公「そうであったか……」
碧鋼大将「蒼魔族は?」
妖精女王「蒼魔族はどうやら付近に相当数の軍勢を
伏せていたようです。そちらと合流して、領土へと
帰還する進路を取っています」
東の砦将「……」
紋様の長「戦か」
碧鋼大将「蒼魔族の大会議に対する裏切りは明白だ」
巨人伯「……裏切り……よくない」
鬼呼族の姫巫女「きゃつらとの決着をつけるべき時が来たか」
勇者「現在魔王は病臥中だ。
その判断はいま少し待つべきかと思う。
今回の忽鄰塔にあたって、
蒼魔族は独自の予定や策謀を持って動いていたという印象を受けた」
906 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 20:14:00.91 ID:0Bi87sEP
火竜大公「それについては同感じゃな」ぼうっ
勇者「で、あれば現在の逃走も何らかの策謀である
可能性も否定できないだろう」
紋様の長「暗殺者についても詮議をしませんとね」
銀虎公「獣人族は無関係だっ。信じてくれ」
碧鋼大将「今さらそのような申し開きを!」
(その商人は、たしかに蒼魔族の人と会ってました……
えっと、背は副官さんくらいで……
でも、横幅は、細くて、フードかぶっていて……
なんか、その……呼吸音が、変で)
(漏れるような……蛇みたいな……)
東の砦将「いや、それについては、思い当たる節がないでもない」
火竜大公「なんだと?」
東の砦将「開門都市で“蛇のような呼吸音をさせる男”が
ある捜査線上に浮かんだことがあってな」
副官「ありましたね。結局捕まえることは出来ませんでしたが」
紋様の長「それが今回の暗殺者だと? しかしだとしても
銀虎公や獣人の一族が無関係という証拠にはなりません」
銀虎公「本当だ、信じてくれっ」
東の砦将「その捜査自体は四ヶ月もまえのことで、
当時はその男は人間だと思われていた。
確かに人間の商人として開門都市に入り込んだはずなんだ」
907 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 20:15:51.57 ID:0Bi87sEP
副官「砦将……。そのようなことを。人間に対する疑義を
いたずらに煽ってしまいかねません」
東の砦将「いいや。腹ぁ割っといたほうがいい。
俺たちゃどうあがいたって新参なんだ。
知恵を借りた方が良い結果もでらぁ」
紋様の長「……」
勇者「そうだよな……。うん。この兜ももういいだろう」
がちゃり
銀虎公「人間っ!」
碧鋼大将「まさかっ!?」
巨人伯「……その風貌」
勇者「ああ、俺も出身は人間だ。
今でも魔界に完全に定住しているとは言いがたい。
火竜大公の言葉を借りたとしても“半魔族”だな」
火竜大公「ふっ。はははっ。なるほど」
鬼呼族の姫巫女「人間が何故魔王の鎧を着ることに?」
勇者「俺はかつて人間に『勇者』と呼ばれていた男だ」
東の砦将「……云っちまうのかよ」
紋様の長「なっ!? 勇者ですって!」
銀虎公「魔族の宿敵、最強の人間!」
鬼呼族の姫巫女「やはりあの戦いの中、魔王殿が
叫んでいたあの言葉は聞き間違いではなかったのだな」
碧鋼大将「万機千刀の猛者、我が眷属千をたった一人で
屠ったというあの勇者かっ」
908 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 20:18:42.21 ID:0Bi87sEP
勇者「そうだ。……すまなかったな。
あれは戦争だった。綺麗事は言わない。
多くの魔族が俺に恨みを持つのは当然だ。
俺が倒した」
紋様の長「……っ」
銀虎公「あれほどの手練れ、どこの魔族が
隠れ潜んでいたのかと思ったが……っ」
火竜大公「ふぅむ。ふぅむ。得心がいったぞ」
鬼呼族の姫巫女「その勇者がなにゆえ、黒き鎧を着る?
その鎧はかつての旧き魔王が纏ったもの。
魔王の許し無くば触れることも出来ない、魔界の宝の一つぞ」
勇者「魔王に口説かれてな」
妖精女王「口説く……?」
勇者「――三年前の秋、俺は魔王城に忍び込んだ。
魔王を討つためだ。
人間は魔族と激しい戦争を続けていて。
その頃の俺は、魔族が人間にたいして宣戦布告をして
人間を虐殺していたと思い込んでいてな」
紋様の長「それは違う。攻め入ってきたのは人間だっ」
勇者「今は判っている。しかし、あれは戦争だったんだ。
そして戦争にはその種の思い込みや誤解も付きもの。
少なくとも人間世界ではそのように事実は喧伝されていた。
酷い言い方だが、どちらに原因があったかは
少なくとも俺にとっては重要ではなかった。
魔族が人間を殺していた。それで十分だった」
909 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 20:19:37.57 ID:0Bi87sEP
銀虎公「……」
勇者「ともかく、俺は魔王の城に忍び込んだ。
罠は仕掛けてあったが、それまで多くいた魔族の衛兵や
戦士は姿を見せなくなっていた。
俺は仲間とも別れて、一人で奥へ奥へと魔王の城の中を
進んでいった。
そこで魔王と出会ったんだ」
碧鋼大将「魔王殿と」
勇者「自分を殺しに来たこの俺を魔王はたった一人で迎えたよ。
皆にも云ったように魔王は弱い。
あった瞬間に判ったよ。
ああ、こいつ今まで出会った魔物よりも格段に弱いって。
でも、あいつはたった一人で俺を待ち構え、
たった一人で俺を迎撃した。必死で。
剣を交える以外のことをしようとした。
言葉をつくして、信念を、自分の全てを賭けた。
今なら何となく判る。あいつがあのとき死んでいたら、
魔界がどうなったかも。人間の世界がどうなっていたかもな」
鬼呼族の姫巫女「どうなる……とは?」
勇者「あいつの言葉に寄れば、
二つの世界は互いの存在に依存している。
互いに憎しみあい、争いながらも
互いの存在がなければ成立しないんだ」
914 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 20:36:46.36 ID:0Bi87sEP
東の砦将「……」
勇者「人間世界には疫病と飢餓という問題があってな。
……こちらから見れば、人間の世界は鉄やら塩やらがあって
豊かに見えるそうだが、実際暮らしている人間にとっては
そうでもない。食料が足りなかったりしてな。
人が飢えて死ぬ。それをまぁ、言葉は悪いが
ごまかすために魔族との戦争を決意した節がある」
副官「そう言われれば、頷ける節もあります」
勇者「一方魔界は血みどろの乱世だった。
俺が見た素直な感想を言えば、魔界には魔族が多すぎるんだ。
その上で居住可能な豊かな土地と、そうでない荒野の差が
激しすぎる。それが戦乱の本質的な原因じゃないか?
魔族同士を結束させ、まがりなりにも未来を見つめさせるために
人間との戦争は有用だった」
紋様の長「……」
銀虎公「それは……」
勇者「魔王はそれがイヤだったんだな。
こればっかりは理屈じゃない。
いや、理屈はどうとでもつけられるだろうさ。
本質をごまかした戦争は消耗戦にならざるを得ない。
それは文明都市族の全てを浪費する戦いでしかない。
とか。
じゃなければこのまま一進一退の攻防を繰り広げることは
乱世よりも甚大な人的被害を魔界にもたらす。
とかな」
915 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 20:38:19.42 ID:0Bi87sEP
勇者「でも、おそらく。そうじゃなかった。
ただ魔王は、イヤだったんだろう。
そんな非建設的なことをするのが。
魔族は――それを言うならば人間もだが、
とにかく自分たちが生まれてきた意味は、
そんなつぶし合いではなくて
もっと他にもあるんじゃないか、って。
そう信じたかったんだろう」
勇者「だから人間の勇者である俺に云った。
そんなことは止めよう。もっと別の結末を見に行こう。
そう云ったんだ」
勇者「俺は勇者だ。そう呼ばれてきた。人間を救う英雄だと。
そうおだてられて魔界へ攻め込んだただの殺し屋だったよ。
でも、魔王は違う。
魔王は真剣に考えてた。
自分に出来るどんな手でも使って魔界を救おうと考えていた。
魔王が……本当の勇者だよ」
妖精女王「魔王様が……そんな……ことを……」
東の砦将「……」
副官「……」
勇者「ああ、別にあいつは戦争も争いも否定した訳じゃないぜ?
ただなんて云うのかな、いまの『これ』は
あまりにも不自然だ。歪んでいる。どこにもたどり着かない。
そんなことが云いたかったんだと、今の俺は思ってる。
あいつはちょっと頭が良すぎて、
云ってることの半分も
俺には理解できないことが多いのだけれど。
あいつの考える『豊か』とか『平和』ってのは
決して争いのない楽園じゃないよ。
ただ、争いが自らを滅ぼさず未来へ繋がるって事なんだと思う」