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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part51


574 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 18:26:18.09 ID:2wq60CIP
   勇者「何だってんだこいつら」ぎりっ
   メイド長「落ち着いてくださいっ」
火竜大公「ふぅ……」
鬼呼族の姫巫女「魔王の廃位か。……して、新魔王は?」
蒼魔王「それは魔王が倒れた時と同じように、
 新しい星が魔王を選ぶだろう。
 候補者の中から魔王選定の武会を開催して決めればよい」
銀虎公「今度こそ、我が獣人から魔王を出すのだっ」
蒼魔王「これは頼もしいことですな。だがしかし、
 われら蒼魔族も忘れて貰っては困りますぞ。
 どちらにせよ、次代は雄々しい魔王をいただけるというわけだが」
巨人伯「我ら……巨人の子らに……栄光は……輝く……」
鬼呼族の姫巫女「……そのようなことを考えておったか」
魔王「……」
   メイド長「まおー様が、真っ青です……」
   勇者「魔王っ。どうにかならないのか」
   メイド長「まったく予定にないことですから……」
蒼魔王「では、決を採るとしましょう、各々がた」
火竜大公「いや、またれよ」
蒼魔王「は?」

575 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 18:28:46.55 ID:2wq60CIP
火竜大公「これはこれで、重大事。
 しばし協議の時間をいただきたい」
蒼魔王「何を話合う必要がある。
 この評決は全会一致を目指す訳でもない。
 己が信じるところの意思を表明すればそれで事足りるわ」
銀虎公「その通りだっ」
鬼呼族の姫巫女「いや、火竜大公の云うことももっとも。
 氏族への説明も無しに決めることは、出来ないこともあろう。
 それぞれがそれぞれの事情を抱えているのだ」
蒼魔王「ふんっ」
巨人伯「日没……来る……」
蒼魔王「良いでしょう。日没まで後二時間ほどだ。
 採決は日没に行いたい。
 そのために二時間を協議に当てると云うことで宜しかろうな」
火竜大公「……良かろう」
鬼呼族の姫巫女「心得た」
妖精女王「そんな……」
魔王「……では」
紋様の長「いや、これは魔王“紅玉の瞳”殿の進退を問う評決。
 魔王殿、あなたが発言することは重大な『典範』への
 挑戦となりましょう。二時間を、心安らかにお過ごしあれ。
 結果如何によっては、今宵、開戦の決が取れるやもしれませんぞ」

603 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 20:29:22.37 ID:2wq60CIP
魔王「やられたっ」どんっ
メイド長「まおー様……」
魔王「あんな手に出てくるとは、予想してなかった。
 こちらの読みが甘かった……。
 わたしも魔王の権威に頼っていたというのかっ」
勇者「……」
魔王「……すまぬ。良いところまで議論を
 追い詰めていたというのに。このままでは……」
勇者「いや、これは俺の責任だ」
メイド長「勇者様……?」
勇者「警告は受けていたんだ。――魔法使いから。
 『典範』を探して、調べろって。それを突き詰めなかった
 ――俺の責任だ」
メイド長「……」
魔王「いや、そうではない。
 結局は目先の停戦ばかりを追いかけて、魔族の中に信頼を
 育てることが出来なかったわたしの無為が招いた結果だ」
勇者「駄目なんて云うなよ」
メイド長「そうですよ、諦めるには早すぎます」
魔王「しかし、この二時間で打てる手がない。
 あそこまではっきりと釘を刺された以上、
 わたしが他の族長の説得をすると云うことは、
 保身以外の何者でも無かろう。
 残されるとすれば、採決の場にて魔王廃位に票を投じた長を」

604 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 20:31:12.87 ID:2wq60CIP
勇者「殺しちまう、ってやつか」
魔王「そうなる」
勇者「だが、この状況になっては意味がないな」
メイド長「そうですか?
 まおー様だって云ってたじゃありませんか。
 過去には言うことを聞かなかった
 長を消し炭にした魔王さえいるって。
 それこそ前例があります」
魔王「だが、しかしそれは1名だったのだ」
勇者「ああ。つまりは、全会一致のために、
 その1名を取り除く必要があったんだ。
 消し炭って云う過激な手段に目が行くけれど、
 結局魔王は他の7氏族の支持を受け代表して粛正したに等しい」
メイド長「……」
魔王「この状況で、たとえば4名の長がわたしの
 廃棄に票を入れたとする。
 その長を皆殺しにして決定を破棄させたとしても、
 “半数の氏族が魔王を支持していない”と云う事実は
 消えることがない」
メイド長「そんな……」
魔王「今までも支持をしていたわけではないだろうが、
 それでも魔王の名前が持つ権威に従ってくれていたのだ。
 蒼魔族は判っているのだろうか。
 わたしの廃位うんぬんではなく、
 ここで決定的な亀裂が起きてしまえば
 また魔族の内部分裂が始まる。
 乱世の再来を自分たちで招いていることに……」
勇者「……」
魔王「事は魔王が廃位する、と云うことより深刻なのに
 ただ見ているしかできないとは……」

607 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:06:12.56 ID:2wq60CIP
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、忽鄰塔の大天幕
蒼魔王「さて、時間だ」
魔王「……」
   勇者「大丈夫だ。いざとなれば力尽くでも」
   メイド長「でもそれじゃ」
   勇者「魔王を護る。そうすればまだチャンスはあるはずだ」
紋様の長「日が沈むな……」
蒼魔王「さよう。緑の太陽がその輝きを衰えさせる」
銀虎公「評決と行こうではないか、皆の衆」
碧鋼大将「良かろう」
巨人伯「……わがっだ」
火竜大公「……」
蒼魔王「では、動議を提出させて貰ったわたしから行こう。
 われら魔族が戦を望もうと望むまいと、
 現に今は戦時下である。人間が何時攻め込んでくるやもしれぬ。
 そのような時に、怯懦な魔王を頂くとは
 氏族の民に対する裏切りにも等しい。
 わが蒼魔は、現魔王の廃位に票を投じる」

609 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:08:21.73 ID:2wq60CIP
妖精女王「妖精族は現魔王の今までの業績を評価します。
 魔族同士の争いを止め、紙や土木技術などの面で
 魔界の文化に貢献なされました」
銀虎公「文化? ふんっ」
妖精女王「我らは小さきもの、かそけきもの。
 月光と森羅に住む妖精族は現魔王を支持します」
魔王「……」
銀虎公「わが獣人族にとって力が全て。力あるものに従い
 戦においては武功を立てて、平時にあっては力を蓄える。
 現魔王は1回の親征も行ってない故にその実力は未知数。
 わが獣人族は伝統に従い、力計れぬものに信頼は置けぬ。
 獣人族は、現魔王の廃位を求める」
鬼呼族の姫巫女「我らが戦に対する求めは
 先に話したとおりの現状維持。魔王を変えてなんとする。
 次に選ばれる魔王が、戦に狂った狂人でない保証はなく
 現魔王よりも力に溢れているという保証もない。
  我らは常に何時の世代であれ、
 配られた札での勝負を余儀されなくされてきた。
 それがこの世界の不文律。
 限られた選択肢の中で知恵をしぼる尊さを理解する故に、
 我ら鬼呼の民は現魔王を支持する」
碧鋼大将「地上に溢れる宝はやはり我が氏族に不可欠。
 その素晴らしさを教えてくれた現魔王には感謝するが
 やはり我らと人間はわかりあえぬ。
 魔族の中ですらその異形ゆえ、
 長い間権利も認められず機械人形の類として虐げられてきた我らは
 人間との交わりの中で、
 一度得た我らが権利が失われることをこそ恐れる。
 やはり人間と共には暮らせぬ。
 ――我らは、現魔王の退位を望む」

610 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:09:47.40 ID:2wq60CIP
紋様の長「我らが人魔一統は、この件に関しても中立を
 貫かせて頂く。つまり、棄権だ」
蒼魔王「ふんっ。その優柔不断がそのうち手ひどい
 火傷になって自らを焼かないように気をつけることですな」
巨人伯「……魔王は……ちいさ、すぎる……。
 俺たちは……小さいひとより……おおきな、ひとが、良い……
 ……いくさは。なくてもいい……が……
 魔王は……変わるなら……変わった、ほうが……
 良い……」
魔王「……っ」
   勇者「よっつだ……」
   メイド長「駄目――なのですか……」
銀虎公「魔王は廃位。これで次代の魔王が生まれるのだっ!」
碧鋼大将「新魔王、か」
蒼魔王「早速ふれを出さなければ。しかし、在位20年。
 長くはないが、けして短くはない。
 しかも、存命のまま魔王の座を降りることが出来るなど
 ある意味限りなく幸運なことと云えましょうな」
火竜大公「黙れ」
蒼魔王「は? なにを云っているのですか? 老公。
 もはや結果は出たのです。今さら何をかばう必要があります」
火竜大公「黙れ、と云ったのじゃ」 ごうっ!

619 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:24:51.07 ID:2wq60CIP
鬼呼族の姫巫女「……」
蒼魔王「では黙りましょう。ご老公。何か仰りたいことでも?」
火竜大公「我がまだ票を入れていない」
銀虎公「何を言っている、もう結果は出たのだ!」
蒼魔王「さよう。ご老公が現魔王を支持したとしても、
 結果は変わりませぬ。何を言い出すのです」
火竜大公「そのようなことを云っているのではない。
 我はこれでももっとも古くから魔界の氏族として
 成り立ってきた竜の一族、そのとりまとめたる火竜大公ぞ。
 何故その言葉を聞かれることもなく
 かような重大な決議を下されねばならぬっ!」
銀虎公「だから結果は変わらないと……」
火竜大公「黙らっしゃい!!
 我が一族を軽んじるのではない! そのように云っているっ!!」
鬼呼族の姫巫女「それは、もっともな仰りようではあるな」
紋様の長「確かに」
蒼魔王「ふむ。一理あるようだな。
 是非ご老公の判断も伺いたい。
 たとえその意見が結果にいささかも影響を
 与えられないとしても、ですがな」

620 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:25:55.06 ID:2wq60CIP
銀虎公「早く言って欲しいな、こちらは年寄りではないのだ」
火竜大公「……」
妖精女王「火竜大公、最後の意見を」
魔王「……」
紋様の長「ご老公、票を投じ為されませ」
火竜大公「……」
蒼魔王「ええい、何を押し黙っているのだ!
 みずから軽んじるな、発言を重んじろと云っておきながら
 沈黙を通すとは、いかなる了見か。応えて頂こうっ」
銀虎公「そうだ、ご老公。その態度はわれら八大氏族と
 忽鄰塔を愚弄することに他ならぬぞっ」
バサッ
東の砦将「遅れましたかい?」
副官 ぺこり
魔王「え?」
勇者「砦将……? なんで」

624 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:27:22.12 ID:2wq60CIP
火竜大公「では、我が竜の一族から申しあげよう。
 我が竜の一族は、ここに改めて、新しい氏族を紹介したい」
蒼魔王「なっ、何を言い出す! この危急の時にっ!」ダンッ
銀虎公「氏族だと!? 聞いたこともないっ!」
鬼呼族の姫巫女「説明して頂けるか? ご老公」
火竜大公「もちろんだ。
 だがひとまずは彼の者の口上を聞くのが宜しかろう」
東の砦将「あー。俺、じゃねぇや。
 えーっと。それがしは東の砦将と申す者。
 ここに忽鄰塔本会議すなわち大氏族会議への
 参加を求めてやってきた」
魔王「参加……?」
蒼魔王「何を言う! 忽鄰塔本会議は魔族のなかでも
 もっとも実力ある八大氏族と魔王が意志決定をする
 魔界の最高機関。
 貴様のような木っ端魔族が参加するような所ではないわっ!」
東の砦将「そいつぁどうも。俺は魔族でもない人間なもんで」
蒼魔王 がたっ!
銀虎公「人間だとっ!?」
巨人伯「に、人間……!」
蒼魔王「どういうつもりだ、火竜大公っ!!」
火竜大公「どういうつもりもこう言うつもりもない。
 そもそも魔族とはなんぞ? この地下世界、魔界へ住む
 ものの総称であろうがよ。この者は魔界に住んでいる。
 故に魔族だ。人間でもあるのだろうがな」

627 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:28:35.56 ID:2wq60CIP
銀虎公「そんな説明が納得できるかっ!」
火竜大公「『典範』のどこにも、人間を魔族と認めぬとは
 書いていないではないか」
鬼呼族の姫巫女「あははははは!!!」
紋様の長「その人間がこの会議に何用なのだっ!」
東の砦将「ええ、それをこれからご説明しますよ。
 俺、あー。それがしは、族長として」
蒼魔王「人間の次は族長だとっ!?」
東の砦将「そうですな。
 それがしは衛門族の族長として、氏族四万八千を背負い、
 この忽鄰塔大会議への参加を要求します」
銀虎公「……」
碧鋼大将「な、なんだ、それは……」
妖精女王「四万八千……?」
火竜大公「さよう。この忽鄰塔大会議は魔王と魔族の中の
 有力部族の長による会議。
 別に八大氏族などと決まっていたわけではない。
 思い出すが良かろう?
 そもそも機怪族が参入したのは、たかだか6代前ではないか」
碧鋼大将「我らはその権利を勝ち取った」
巨人伯「あれは……戦争の……結果……」
火竜大公「何も戦は必須ではない。4万を超える氏族と
 すでに会議に参加している二氏族の長からの推挙があれば
 それでよい」

635 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:30:35.71 ID:2wq60CIP
妖精女王「4万……?」
紋様の長「ばかな、それでは中小の氏族でさえ、
 大会議に参加できることになる」
蒼魔王「そうだ、そのような民の数で何故有力を名乗れる!」
火竜大公「そんなことは、わしのあずかり知ったことではないわ!
 前例があり、『典範』に記述がある。それだけよ」
副官「私から説明させて頂きます。
 えー。
 おそらくは前例の作られた時代による要因が
 大きいのではないでしょうか?
 つまり当時であれば、おそらく4万は十分な
 大氏族であったのかと考えます」
紋様の長「時代……だと……」
火竜大公「しかし、前例は前例だ。前例は絶対なのであろう?」
銀虎公「だ、だれが推挙するというのだっ!
 人間の治める氏族などっ!!」
東の砦将「頼むよ、爺さま」
火竜大公「我が後見に立とう。後1名は、そうじゃな……」
鬼呼族の姫巫女「あはははははっ! これは愉快、痛快じゃ。
 よかろう。わたしが立とう。妖精女王でも引き受けては
 くれようが、わたしもこの人間の言い様が気に入った」

644 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:33:49.52 ID:2wq60CIP
副官「こちらが氏族四万八千の連名書。
 および氏族の本拠地たる開門都市自治政府の信任状。
 ただいま後見を頂きました両氏族の長の言葉を持ちまして
 全ての条件を整えましてございます」
蒼魔王「我らの声はどうなるっ」
火竜大公「この前例は評決さえ必要とはせぬよ。
 手続きが終わった今よりこの男は衛門族の族長。
 この会議に参加し、発言する権利を完全に備えた参加者じゃ」
鬼呼族の姫巫女「はははっ! して、どうする」
魔王「っ!」
蒼魔王「……まっ、まさか」
東の砦将「問うまでも無きこと。我が衛門族が望むは平和と繁栄っ。
 すでに我が都市には多数の人間が暮らし、
 魔族と手を携えてやっておりますよ。
 もちろん面倒揉めごとはありやすがね。
 それでも何とかやっていけるもんでさぁ。
 俺たちゃべつにガキじゃねぇんだ。
 腹立ち紛れに殴り合うこともあれば、
 同じ釜の飯を食って肩をたたき合うこともある。
  人魔族、獣人族、妖精族に、竜族、蒼魔族、
 数は少ないが巨人族さんや機怪族、鬼呼族さんだって
 いらっしゃるんだ。
 ルールは一つだ。仲良くやって豊かになれ。
  俺たち……あー、なんだ面倒だな。
 それがしと衛門族は、現魔王を支持しますってことで」
火竜大公「さて。おぬし。半数は取れなんだようじゃの」

653 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:49:03.77 ID:2wq60CIP
勇者「砦将っ! 砦将っ! ば、馬鹿やろうっ!
 知らなかったぞ、俺はっ!!」
東の砦将「すまねぇな、勇……黒騎士さんよぅ。
 俺たちだって馬を何頭もつぶしてさっきついたばっかりなんだ。
 どうもその、二時間か? その間についちまったらしくて
 どうやっても魔王の天幕には近づけなくてな」
魔王「これだけのことを……。
 わたしはその恩に応えるほどの事もしていないだろうに。
 あの都市に砦将殿が残された遠因はわたしにもあるのに」
東の砦将「いいってことさ。あの馬鹿な司令官の
 煤払いをしてくれたんだって思えば有り難いくらいで。
 って、魔王さまだったな。
 えー、ありがたく思っているんです」
魔王「ふふふっ。普段どおりで良いのだ」
東の砦将「ほう。なんだよ、笑うじゃねぇか」
副官「ま、その辺は後ででも」
火竜大公「そうだの。卿の会議はこれ以上進むまい?」
鬼呼族の姫巫女「宜しかろうな、皆様方」
銀虎公「ちっ! 切り上げだ! 帰るぞっ!」
蒼魔王「不愉快だ。失礼するっ」ガタッ
紋様の長「あれが開門都市の……」がたり

654 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/20(日) 21:50:40.53 ID:2wq60CIP
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、忽鄰塔の大天幕前
魔王「そうか、それで馬を飛ばして……」
勇者「魔法使いが『典範』を届けてくれていたのか」
副官「そうなんですよ。でも、解読するのに時間が掛かって。
 それで、もしかして何か役に立てるかもと思って信任状を
 とったり慌ただしかったものです」
魔王「手間をかけたな。深く礼を言う」
勇者「魔王がこんなに感謝するのも珍しいぞ」
魔王「何を言う、わたしは恩知らずではないぞ!」
メイド長「あらあら、まぁまぁ」
勇者「まぁ、ともかく天幕で一息つこう」
東の砦将「喉もからからだし腹も減ったよ」
副官「そうですねぇ」
メイド長「とびっきりのお茶を入れますわ。
 ねぇ、魔王様。お祝いですから、紅葉色の深煎り茶でも」くるんっ
ヒュン! ヒュンヒュンヒュン!!
魔王「え」 トスっ
勇者「狙撃っ!? どこだっ!?」
東の砦将「弓矢かっ、伏せろッ!!」
副官「なんて威力だっ」
メイド長「魔王様っ!? 魔王様っっ!!!」
魔王「あ。……ん。……ゆう、しゃ」
勇者「魔王っ!!!!!」

755 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 12:21:22.12 ID:0Bi87sEP
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、魔王の天幕
バサッ!!
火竜大公「魔王殿が倒れたというのは真実かっ!」
東の砦将「……」
鬼呼族の姫巫女「そうだ」
火竜大公「何が起きたというのだ。説明せんかっ!」
副官「あの会議の後、わたし達は魔王様の天幕へと
 短い距離を談笑しながら移動していました……。
 何者かが、無防備な魔王様を弓矢による狙撃で……」
火竜大公「魔王殿は、魔王殿は無事なのであろうなっ」
紋様の長「今は遅延の紋様を施した奥の部屋にて」
火竜大公「遅延……とは?」
紋様の長「毒をお受けです。その効果をゆるめるために」
東の砦将「弓矢は、肺を貫いた。どうあっても相当な重傷だ。
 いや、本来即死でもおかしくはねぇ。
 それを黒騎士が尽きっきりで食い止めようとしている」
副官「……」
紋様の長「紋様の唱え師と鬼呼族の癒し手に
 祈呪をさせてはいますが、あまりにも傷が深すぎ
 毒性も強すぎる……」

756 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/21(月) 12:22:48.45 ID:0Bi87sEP
鬼呼族の姫巫女「なにゆえ……」
火竜大公「どこの誰がやったのだっ。
 このような時に、このような場所で。
 かつて忽鄰塔において魔王が討たれたことなど一度たりとて無いっ」
東の砦将「……っ」
鬼呼族の姫巫女「このようなやり方で魔王を討ってなんとする。
 そのような卑劣なやり口、
 我らが魔族において受け入れられると思うているのか。
 ――痴れ者がっ。
 卑劣な暗殺などで意を通そうとしても八大、
 いや九大氏族ことごとく背くことがなぜ判らぬ」
紋様の長「人間、ですか……」
副官「何を仰るんですっ!?」
紋様の長「このような方法で魔王を討ったとしても
 それは汚名になりこそすれ、武名とはなりません。
 魔族においてそれは判りきったこと。
 我ら族長を動かすことなど……。
 であれば、魔王を討つための人間の刺客を疑うのは必然」
火竜大公「……いや、さように考える我らたればこそ。
 ことさらに魔族かも知れぬ。
 討っ手が露見さえせねば汚名もまたかぶる必要がない。
 “障害が取り除かれた”。
 その一事を持ってよしと考える輩かも知れぬ」
鬼呼族の姫巫女「今は祈るしかないのか……」