2chまとめサイトモバイル
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part48


441 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 17:45:04.60 ID:GDf918.P
魔王「そういった魔物を使役する術も鬼呼族が得意とするものだ。
 彼らは彼らなりのやり方で世界を見る。
 彼らの傘下に収まっている小氏族も多いし、支配地域も広い。
 あまり発言力は強くないが、それは彼らが魔族にもあまり
 興味を抱いていないせいだな。
 詰まるところは自分たちでバランス良くやっているのだ。
 そのせいで、人間界侵攻には否定的。
 だがしかし、共存したいわけでもない。
 出来れば二つの世界は切り離したいという所であろう」
勇者「そうか。鬼呼族とは知り合いが居ないように思う」
魔王「開門都市のあたりには少ないだろうな」
メイド長「お酒が有名ですよ。それに米、ですね」
勇者「米?」
魔王「温暖で湿潤な地方で取れる農作物だ。麦に似ているが、はるかに生育条件の制約は厳しい。その代わり面積あたりの生産量は段違いに優れる」
勇者「そんな作物があるのか」
魔王「気候によるんだ。南部諸王国では芽さえでないだろうな」
勇者「で、ラストは俺でも判る。妖精族だ」
魔王「うむ。いまは妖精女王が治めるのが妖精族だ。
 元来は森に住む小さな魔族の総称だったが、時を経るごとに
 だんだんと融和し、今では妖精女王の治める宮殿を中心に
 協力して暮らしを営んでいるな」
勇者「妖精族は味方なんだろう?」
魔王「ああ、彼らは殆ど唯一と言っても良い
 人間族共存派だ。聖鍵遠征軍からの被害にも遭っていないし
 悪感情を持っていなかったんだろうな。
 姿形に美しい者が多いので、
 おそらく人間とも会話しやすいのだろう」
メイド長「妖精女王もなかなか英明な方のようですしね」

444 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 17:51:42.78 ID:GDf918.P
魔王「ま、あ妖精族は基本的には
 ちょっと悪戯好きだが、戦争嫌いの臆病な連中だ。
 と云うのも彼らは魔力こそそこそこ有るが戦闘能力が低くてな。
 魔族同士の戦乱の世ではまっ先に
 犠牲になっていたという歴史があるからだ」
勇者「そう言えば、以前、人間との戦争の前は
 魔族同士で争っていたって云ってただろう?
 あれはどんな感じだったんだ?」
メイド長「あれは乱世でしたね」
勇者「乱世……?」
魔王「基本は鬼呼族と蒼魔族の戦い、
 人魔族と獣人族の戦いの二つが同時に起こっていた。
 だがまぁ、至る所へ飛び火してな。
 魔界の中に無関係と云えるような氏族や場所の
 方が少なくなってしまった」
メイド長「血なまぐさい時代でしたね」
勇者「魔王は止めようとはしなかったのか?」
魔王「もちろんした。あのときも忽鄰塔を開こうとしていたのだ。
 人間との戦争が開始されなければ……。
 いや、それは云っても、仕方ないか」
メイド長「……」
勇者「まぁ、それはそれとしてもだな」
魔王「うむ」
勇者「やっぱり相当に辛そうだよな」
魔王「うーん」

445 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 17:53:30.73 ID:GDf918.P
勇者「だって、人間との共存を認めているのは
 妖精族だけなんだろう? 
 そんで、全会一致って事はそれ以外の氏族は
 全部説得して人間との共存を認めさせなきゃならない。
 7つの氏族をそれぞれに説得して回るってのは
 これは相当に難しい問題だろう。
 ちょっと方法の想像さえ付かないぞ」
魔王「人間との共存は目指さないよ」
勇者「へ?」
魔王「共存じゃなくても良いんだ。
 とりあえずの所は、戦争の停止だけで十分だ。
 なんだったら限定的な鎖界、とかでもいい」
メイド長「鎖界とはなんですか?」
魔王「界を閉ざす。交流を断つってことだな」
メイド長「出来るんですか? ゲートのない今」
魔王「そりゃ完全なことは出来ないだろうが、
 お題目としては有りだろう。
 もちろん鎖界が戦争に繋がっては意味がないから
 人間側の、まぁすくなくともいくつかの国とは
 停戦協定をした上での鎖界と云うことになるだろうが」
勇者「そんなのでいいのか?
 魔王は共存を目指してきたんだろう?」

446 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 17:56:29.74 ID:GDf918.P
魔王「それはそうだが、絵に描いた餅を眺めていても
 仕方ないだろう。
 目下は戦争を急いで停止することだ。
 今のところはわたしが怪我で負傷をしたと云うことで
 休戦状態にあるが、別に条約を交わしたわけでもなく
 “事実上の休戦”でしかない。
 人間とは現在戦争中なんだよ。
 この状況では、小さなきっかけからどこで火が付くか判らない。
 現にこのあいだ蒼魔族が人間界に単独侵攻したけれど
 あれだって戦時下だから、魔王とは言えわたしにも
 なにも云えない」
勇者「そうか。……そうだな」
魔王「とりあえず、停戦を目指す。
 平和とか交流は戦争を止めてから考えるしかない。
 地下世界と地上世界の交流にはそれだけの価値があると
 わたしは思うんだ。だから、心配はしていない。
 わたしは経済屋だしな」
勇者「交易で?」
メイド長「うん。地下世界から見れば、地上は宝の山だ。
 塩や鉄や麦、羊や魚。欲しいものが沢山ある。
 地上から見た地下も同様だ。香辛料や金、茶。
  平和が来さえすれば、たとえ鎖界していたとしても
 地下と地上は徐々に触れあってゆく。
 当たり前だ。もうゲートはないんだからな。
  人が行き来をすれば、感情的に行き違いがあっても
 少しずつ傷も癒える。一口に魔族や人間と云ったところで
 個人個人はいろんな存在がいるのだって判るようになる。
 共存も出来るようになるさ」

447 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 17:58:52.13 ID:GDf918.P
勇者「そっか。うん」
魔王「目指す結論が、一時的な停戦であれば
 氏族の意見も中立で十分だ。
 “共存はともかく、積極的に攻めなくても良い”程度でな。
 積極的な抗戦論を展開している氏族は、
 蒼魔族、獣人族、機怪族の3氏族だけだ。
 この三者を口説き落とすか、鬼呼族を交流賛成にまで
 もっていって説得の側面支援に回ってもらえれば、
 とりあえずの停戦は成り立つと思う」
勇者「そう考えれば……。さっきよりは無理じゃない気がしてきた」
魔王「であろう?」
勇者「そうだな。俺たちの代で全部やらなくても良いんだ」
魔王「なにをいうか。見届けるまでは……」
メイド長「まおー様」
魔王「あっ……」
勇者「……」
魔王「……」
勇者「まぁ、うん。とにかく随分目の前が開けたぜっ!」
魔王「……」
勇者「なんてツラしてんだよ。忽鄰塔を乗り切らなきゃ
 どっちみち明日も明後日もないんだぞっ。
 そのみっつの氏族を切り崩す準備はあるんだろうな?」
魔王「む。それは、明日からの交渉次第だな」
勇者「作戦は?」
魔王「まずは時間稼ぎだ」

452 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 18:17:37.17 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、中央の交易都市、酒場
執事「クリッタイ?」
魔族の旅人「忽鄰塔、だよ。クーリールーターイー」
執事「忽鄰塔ですか。ほむ」
魔族の旅人「どこの山から下りてきたんだい、爺さん」
執事「し、失敬な! 田舎者ではございませぬぞ」
魔族の旅人「いや、どこからどう見ても田舎者だよ」
執事「そうかもしれませんが」しょんぼり
魔族の旅人「まぁ、良いってことよ。
 暴漢から助けてもらったのは有り難かったしな!
 爺さん、あんた強いなぁ!」
執事「これでも昔はぶいぶいいわせてたのですよ」
魔族の旅人「昔はか?」
執事「いまもぶいぶいですぞ。主にこんな」ぎゅいんぎゅいん
魔族の旅人「わははは! 爺さん若いなぁ!」
執事「にょっほっほっほ」
魔族の旅人「まぁ、お陰で荷物も無事だったよ」
執事「ところで、その忽鄰塔なるものは賑やかなのですか?」
魔族の旅人「ああ、そうだよ。大会議って云うくらいだからな」
執事「ほむ」
魔族の旅人「どれくらい賑やかなのかは
 何十年に一度のものなんで行ってみなければ判らないが
 主立った氏族の族長全ての魔王様まで出席だし
 賑やかじゃないはずがないだろう」

453 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 18:19:02.00 ID:GDf918.P
執事「魔王、ですか」きらっ
魔族の旅人「魔王様だろっ、爺さん」
執事「そうでした! 魔王様魔王様。にょはは」ぎゅいんぎゅいん
魔族の旅人「俺もここらで玉蜀黍を仕入れたら
 忽鄰塔へと回ってみるつもりなのさ」
執事「おや、会議なのに今から向かっても間に合うのですか?」
魔族の旅人「忽鄰塔と云えば、一ヶ月は開かれているのが
 普通だって話だぜ。たとえ会議が早く終わっても、
 その場合は早く終わったことを記念して宴が開かれるはずさ。
 そうなれば玉蜀黍も捌けるだろうし、
 ああいう会合は東西から商人が集まるんだ。
 何か面白い荷が買い込めるかも知れない。どうせ一人旅だしな」
執事「そうですか、それは良いことですぞ」
魔族の旅人「ま、そんなわけで乾杯だ!」
執事「乾杯!」
魔族の旅人「乾杯!」
執事「にょっはっは。これは美味いですな!」
魔族の旅人「だろう、このあたりは玉蜀黍で酒をつくるのさ」
執事「にょっほっほ。いけますぞ!」
魔族の旅人「おうおう、どんといけ!」
執事(……忽鄰塔。魔王もその姿を現すという魔族の
 戦略会議……。情報の価値は無限に大きいでしょうな)

465 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 19:54:39.40 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、騎馬の背
青年商人「配役に手違いがある気がしませんか?」
火竜公女「約束は、約束ですゆえ」
青年商人「適材適所という言葉があると思うんですが」
火竜公女「契約を捨てるかや?」
青年商人「……」
火竜公女「反故にするかや?」
青年商人「判りました」
火竜公女「殿方はそうでなければ」
青年商人「どこで間違ったかは反省の余地がありますね」
火竜公女「明日の朝日をみれるのならば
 反省会には妾がとっくりと付き合って進ぜる」
青年商人「いや、そこでお酒を入れるのが間違いだと思うんです」
火竜公女「酒は百薬の長にして人生の友と云うゆえ」
青年商人「公女のそれは度を過ぎています」
火竜公女「“我が君”の言葉であれば聞きもしましょうが」ふいっ
青年商人「……はぁ」
火竜公女「殿御ぶりが下がりますよ」
青年商人「もう大暴落ですよ。中央金貨も真っ青です」
火竜公女「行ってらっしゃいませ」
青年商人「骨は適当に肥料にでもしてください」

466 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 19:56:09.22 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、竜族の天幕
さくり
火竜大公「誰ぞ?」
青年商人「こんばんは。お邪魔します」
火竜大公「何者だ? 近習、なにをしているっ」
近習「この男、公女殿下の紹介状を持っておりまして」
青年商人「よろしくおねがいします」
火竜大公「……良かろう。で、何者なのだ? 人間」
近習「にっ、人間っ!?」「人間ですって!?」
青年商人「判るものですか」
火竜大公「匂いが違うわ」
青年商人「ご慧眼ですね。竜族の長たる火竜大公。
 わたしは青年商人。人間の世界で商売を営むものです」
火竜大公「商売とは?」
青年商人「あらゆるものを売り買いしております」
火竜大公「ふむ。まぁよい。
 公女の紹介状ゆえ見逃そう。疾く去れ」
青年商人「そうはいきません」
火竜大公「何を言うのだ、人間風情が」ぼうっ
青年商人「いや、わたしだって去りたいんですけれどね」

467 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 19:57:39.38 ID:GDf918.P
火竜大公「消し炭にでもなりに来たのか」
青年商人「いや、消し炭にならなかった“ソレ”もいるでしょう?」
火竜大公「……っ」
青年商人「ええ、そうです。黒騎士です」
火竜大公「知っているのか」
青年商人「ほんのりと」
火竜大公「近習っ」
近習「「「はっ!」」」
火竜大公「さがっておれっ」
近習「たっ、ただいまっ!」
 ザッザッザツ
青年商人「……」
火竜大公「貴様、何者だ。何をしにきた?」
青年商人「実はさる契約がありまして。
 商業上の道義的な責任において、
 わたしはその契約に縛られているんです」
火竜大公「……」
青年商人「その契約者との約定に基づき、
 “火竜大公をこてんぱんにしてこい”と。このようなわけでして」
火竜大公「ふっ。商人風情が、そのようなこと出来るのか」
青年商人「出来ません」
火竜大公「ふっ。白旗か。……あの男に似た気配かと思えば」
青年商人「しかしながら降伏も出来ない案件で」
火竜大公「契約者には腹を捌いて詫びるのだな」

468 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 19:59:27.36 ID:GDf918.P
青年商人「いえいえ、そうも行きません」
火竜大公「なにゆえ?」
青年商人「契約を守られなかった契約者の鬱憤は
 その謝罪で多少は癒えるかも知れませんが、
 契約を守りたかったわたしの鬱憤は少しも癒えませんので」
火竜大公「大きな口を叩くではないか」
青年商人「そこでお願いがあるのですが、
 ……負けてはいただけませんか?」
火竜大公「何を言っているのだ。気でも狂ったか。
 いや、やはり消し炭になりたいものと見える。
 安心をしろ。一瞬で燃えかすまで焼き尽くしてくれようっ」
青年商人「塩を止めます」
火竜大公「は?」
青年商人「『開門都市』に流れている塩の流通量の95%を
 現在わたしが掌握しています。その塩を止めることも可能です」
火竜大公「……なっ。なにを」
青年商人「魔族豪商殿は竜一族でもっとも力のある商人ですね。
 彼の元へと卸される塩の蛇口を私どもが握っている。
 その事実を申し上げました」
火竜大公「卑劣なっ」
青年商人「今回ばかりは、正真正銘命がけですから」しれっ

469 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 20:01:48.47 ID:GDf918.P
火竜大公「……貴様」
青年商人「塩がこの地において貴重品であるとの認識は
 わたしも持っています。
 わたしとしても、依頼者としても竜族と事を
 無駄に荒げたくはない。
 いや、地下世界における交易において、
 竜族が新しいパートナーとしてもっとも相応しいと
 敬意を抱いております」
火竜大公「脅しておいて今さら世辞を言うつもりかっ」
青年商人「そこで買って頂きたいものがありまして」
火竜大公「……何を売りつけようというのだ」
青年商人「じつは、先年人間の軍に奪還された極光島。
 あの島を私どもは租借する結果となりました」火竜大公「租借?」
青年商人「ええ、島ごと借り上げた形です。
 現在旧来の設備に加えて、塩田を整備しています。
 その塩田からあがる塩を」
火竜大公「買い取れと云うのか?」
青年商人「いいえ」火竜大公「では、どういう用件なのだ」
青年商人「塩そのものではありません。
 この塩田から毎年採取される塩の、その総量の1/3を
 優先的に買い付けることの出来る権利。
 これを買って頂きたい」
火竜大公「権利、か」
青年商人「あくまで権利です。対価は毎年頂きましょう。
 しかし、価格については市場価格から両者が合意できる
 額を決定できるように取りはからいます」

471 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 20:04:41.44 ID:GDf918.P
青年商人「念のために申し上げれば、この“総量の1/3”は
 かつて魔族の軍は極光島を占領していた際、
 地下世界へ送っていた塩の量にほぼ匹敵します。
 塩田設備の差と、効率採集によるものだと考えてください」
火竜大公「……」
青年商人「……」じっ
火竜大公「強気じゃの」
青年商人「交渉は、それが可能なら強気で行うべきです」
火竜大公「ふんっ。……我が氏族にとってその塩は
 なければならぬもの。塩がなければ命を落とすものも出よう」
青年商人「……」
火竜大公「何が欲しいのだ。我の首かっ。商人っ!」ギロッ
青年商人「……」
火竜大公「……」
青年商人「“わたしと戦って負けた”と云うことにして頂ければ」
火竜大公「……何故かは知らんが、心底嫌そうだの」
青年商人「当たり前です。わたしは商人です。
 今回のような圧力をかけるような交渉だって
 けして好ましくはない。
 ましてや個人のプライドを対価に取るなど」
火竜大公「ふんっ。ここまで来て騎士道とやらか?」
青年商人「いえ、ただ利潤追求上、無意味であるばかりか
 不利益であるということです。
 将来的にパートナーになりうる可能性があるのならば、
 顔まで出して恨みを買う意味などどこにもない。
 同様の交渉は代理人や何枚かの壁を間に挟んでも
 出来たはずなのですが……」

473 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 20:06:12.66 ID:GDf918.P
火竜大公「出来なかった、と」
青年商人「ああ。面倒くさいですね。やめましたっ」
火竜大公「ぬっ?」
青年商人「さて、ここに極光島塩田開発の計画書および
 その生産量、塩の品質、輸送計画、コスト計算に関する
 資料、それらに基づいた事業計画書があります。
 われら『同盟』はとりあえず20年間、あの島を租借して
 塩田開発事業、およびその輸出事業の許可を受けている。
  本来は購入権利などでお茶を濁すべきかも知れないが
 それはわたしの商人としての勘もそろばんも矜持ですら
 “ぬるい”と告げている。
  直裁に申し上げる。
 我らはこの事業全体を“分割”する用意がある」
火竜大公「分割……?」
青年商人「そうです。この事業に出資して頂きたい。
 この事業全体は人間の金貨にして6000万の規模を持ちます。
 見返りとして、出資額に応じ、相応の割合の塩を
 毎年お届けしましょう。またそれとは別に塩を好きなだけ
 買い取って貰っても結構」
火竜大公「結局は塩の買い取りではないか」
青年商人「まったく違います」
火竜大公「……」
青年商人「これは一種の協定だと考えて頂きたい」

474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 20:07:48.55 ID:GDf918.P
火竜大公「協定とは?」
青年商人「この契約が存在する限り、
 わたしどもの組織『同盟』は、竜の一族に塩を供給します。
 この事業が発展すれば、地下世界で塩を扱うことにより
 竜の一族がより交易での繁栄を願うことも可能でしょう。
 同様に、竜の一族が健在で、この契約を守っていてくれる
 限りわたし達はこの事業から手数料や正当な利潤を経て
 着実な利益を上げることが可能となる」
火竜大公「……」
青年商人「お解りのはずです。
 これは、塩の交易を媒介とした安全保障条約です」
火竜大公「そのようなことを信ぜよと?」
青年商人「全ての情報はそこに書いてある通り。
 現地の視察をなさっても構わないし、
 魔族豪商どのに塩の運び入れ状況と品質について
 お尋ねになるのも構わないでしょう」
火竜大公「……」
青年商人「私どもはこの魔界に販路を持ちたく願っています」
火竜大公「販路、か」
青年商人「……」
火竜大公「依頼者は公女か?」
青年商人「守秘義務のためにお答えできません」

476 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/19(土) 20:10:10.36 ID:GDf918.P
火竜大公「良かろう、この話、検討しよう」
青年商人「……」
火竜大公「出資については追々詰めるべきであろうが、
 人間界の金貨は持ち合わせがない。
 砂金で払っても構わぬであろうな?」
青年商人「もちろん」
火竜大公「そちらの希望、および当方の事情からすれば
 出資金による金銭授受の他に、いくつかの物品について
 相互に物資をやりとりすることにより、空荷での
 交易を取りやめ利益を上げるべきかと思うが?」
青年商人「はい」
火竜大公「こちらから供出、輸出できる品目については、
 追ってリストを届けさせよう。これら取引の窓口は
 魔族豪商にて依存は?」
青年商人「ありません」
火竜大公「――覇は求めぬのか?」
青年商人「商人の手には余ります」
火竜大公「負けた。……公女にはそう言っておこう」
青年商人「……」
火竜大公「嫌そうな顔をするな。これは我のあずかり
 知らぬ事情なのだ。商人と依頼者の問題であろう?」
青年商人「はぁ……」
火竜大公「黒騎士殿に詫びる必要があるかどうかは
 じきに判るのであろうな。ふわーっはっはっはっは!」