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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part45


202 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 18:58:11.67 ID:LAEzTxgP
女騎士「愛情とか、貞節とか、誠意とかはどうなんだ」
魔王「そんな物はあっても当たり前だ。当たり前の物が
 あるだけではライバルに勝てないではないか」
女騎士「そうなのか?」
魔王「貞節については、地上の方が相当に厳しいと思うがな」
女騎士「ふむ……」
魔王「こちらでは、貞節は貞節で重要とされるが、
 それは精神的な関係においてだな。
 結婚に関してはまた少し別だ。
 特に身分が高い場合、子供を残すことも重要だからな」
女騎士「それは、地上の王族と似たような事情か?
 たしかに王族ともなれば、側室を多数かかえるしな」
魔王「その“側室”という言い方がこちら風に云えば
 愛情や誠意の部分で問題がある、と云うことなのだろうな。
 心の問題を正室、側室などと順番をつけるのは良くない、と」
女騎士「それで重婚するのか?」
魔王「重婚というとなにやら犯罪的だが、まぁそうだ。
 複数を相手とする婚姻関係は、さほど珍しい物ではないな。
 だがしかしその辺は氏族にもよる。
 蒼魔族などは純潔を重視するから、一対一以外認めようとしない。
 そのかわり兄妹で結婚することも一般的だ」
女騎士「魔界ってのはいろいろ有るんだなぁ」
女魔法使い「……人間だって、色々」
魔王「そういうことだな」

203 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 19:00:00.40 ID:LAEzTxgP
女騎士「それにしたって」ちらっ
魔王「はぅぅ……」 ばゆん
女騎士「……」 ちょいん
女魔法使い「……すぅ」 ぷにり
女騎士「身長だって大差がないのに、何でこんなに
 戦力差があるのだ。寡兵にもほどがあるぞ」
魔王「何を言っているのだ?」
女騎士「なんでもない」
女魔法使い「……すぅ。……すぅ」ごぼ
魔王「湯に入ると実感する。肩が凝るのはやはり
 これのせいなのだ。重しが取れて、すぅーっとするようだぞ」
女騎士「……愛剣・惨殺廻天さえあればっ」ぎりぎりっ
女魔法使い「……すぅ」ごぼごぼごぼ
魔王「魔法使い殿も、なかなか可愛らしい割には
 ボリュームもあるのだな。着やせというのか。
 ところで、なんで水面につっぷしているのだ?」
女魔法使い がぼがぼがぼがぼ
女騎士「その状況で何で寝続けられるんだっ!?」

217 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 19:24:10.46 ID:LAEzTxgP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”中庭
さらさらさら……
メイド姉「……」
  さらさらさら……
メイド長「良い風ですね」
メイド姉「あっ。はい……。メイド長」
メイド姉「……」
メイド長「……」
さらさらさら……
メイド長「やっぱり、ショックでしたか」
メイド姉「……」
メイド長「騙していたことになるのでしょうね」
メイド姉「それは、違います。ちょっとびっくりでしたけど。
 ……妹は本当にけろっとしていましたけどね。
 あの娘は本当に強いから」
メイド長「……」
メイド姉「――たとえ当主様が魔族でも、メイド長や
 勇者様が魔族でも、わたし達が救われたという事実には
 変わりありません。
 あのときの一晩の温かさと食事は、
 わたし達を死から救ってくれましたけれど、
 それだけではないもっと大事な物も救って貰ったんです」

219 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 19:27:30.57 ID:LAEzTxgP
メイド姉「でも、それとは別に、やっぱりショックです」
メイド長「……」
さらさらさら……
メイド姉「わたしは今まで、戦争という物については
 よく知らなくて、ただひたすらに恐ろしかった。
 鉄の国でわたしに剣を向けたのは、
 同じ南部諸王国の兵士の人でした……。
 その狂ったような眼差しが忘れられなくて
 いまでも夜中に飛び起きる事があるんです。
 だから戦争は恐ろしくて、狂っていて
 絶対にしてはいけないこと……そう思いました」
メイド長「……」
メイド姉「でも魔族は魔族だから……
 そんな風に考えて……。ううん、考えもせずに
 ただそういう風に納得していた自分がいました。
 “魔族との戦争は戦争じゃない”そう考えてるわたし。
 ショックを受けているのはその自分です。
 魔族は悪だからって信じていたから
 そうじゃないって判って、
 今まで自分の一部分だった古いわたしが
 ショックを受けているんです」
メイド長「魔族が善とは限りませんよ」
メイド姉「でも、悪ではない。
 わたしは当主様もメイド長さまも知っていますから、
 そんなことは判ります」
さらさらさら……
メイド姉「むかし、わたしは当主様に尋ねたことがあるんです」

220 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 19:30:56.16 ID:LAEzTxgP
メイド姉「“戦争って何ですか?”って」
メイド長「……」
  さらさらさら……
メイド姉「当主様は云いました。
 “村に2人の子供がいて、出会う。
 あの子は僕ではない。僕はあの子ではない。
 2人は別の存在だ。別の存在が出会う。
 そこで起こることの一部分が、争いなんだ。
 戦争は沢山の人が死ぬ。
 憎しみと悲しみと、愚かさと狂気が支配するのが戦争だ。
 経済的に見れば巨大消費で、歴史的に見れば損失だ。
 でも、そんな悲惨も、出会いの一部なんだ。
 知り合うための過程の一形態なんだよ”
 ――って」
メイド長「まおー様がそんなことを……」
メイド姉「とても、哀しそうでした」
メイド長「……」
メイド姉「あのときのわたしは、少しも判りませんでした。
 同じ人間なのに、偉い人の命令で戦っているだけだ。
 これは“出会い”なんかじゃない。
 そんなことを思いました。
 当主様が何を思ってそんなことを仰ったのか、
 少しも判らなかった」
メイド長「……」
メイド姉「今でも、正直に言えば、判ってはいません。
 どのような気持ちで、あんな表情をなされたのか。
 でも、判らなくてはならないと思うんです」

221 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 19:32:59.30 ID:LAEzTxgP
メイド長「強くなりましたね」
メイド姉「そんなことはありませんっ」
メイド長「あなたも、妹も……こほんっ」
メイド姉「はい?」
メイド長「自慢の弟子です」
メイド姉「あ……」
メイド長「……」
メイド姉「……」じわぁっ
  さらさらさら……
メイド長「入りましょう。身体が冷えますよ」
メイド姉「はい」
メイド長「メイド姉?」
メイド姉「はい」
メイド長「世界は広大で、果てがない。
 そこには無数の魂持つ者がいて
 残酷で汚らしく醜く歪んだ、でも暖かく穏やかで美しい
 ありとあらゆる関係と存在をつくっています。
  あなたにはすでに翼がついています。
 だからいつかそれらを見て理解できると思います。
  諦めなければ、きっと」
メイド姉「はい。――先生」

228 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 19:51:54.30 ID:LAEzTxgP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”エントランス
東の砦将「よーっし。荷物もまとまったぞ」
副官「たいした物はもってきませんでしたしね」
メイド姉「わたし達もまとまりました!」
メイド妹「お土産いっぱーい♪」
メイド長「まおー様、よろしいですか?」
魔王「ん。準備万端だ」
女騎士「移動時間がないというのは本当に便利だな」
勇者「一応ほら、奥義呪文だしな」
東の砦将「いやー。誰にも信用されないだろうな。
 魔王上で温泉に入ってきたとか云ったって」
副官「そうですねぇ、まぁいいじゃないですか」
女騎士「そういや、魔法使いは?」
東の砦将「ん? さっきそこらを歩いていたような」
とてててててっ
女魔法使い「……到着」
メイド長「では、帰りましょう」
魔王「勇者は砦将殿を先にお送りしてくれ。待ってるから」
女魔法使い「いい。わたしがする」
勇者「お、いいのか? 開門都市の場所、判るのか?」
女魔法使い こくり

230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 19:53:25.70 ID:LAEzTxgP
東の砦将「よっし、じゃぁ、魔法使い殿と行くかぁ」
副官「よろしくお願いします」
女魔法使い「……ごきげん」
しゅいんっ
メイド長「ではこちらも」
メイド妹「冬越し村に帰ろう〜♪」
魔王「勇者、頼むぞ」
勇者「ああ!」
女騎士「これ以上温泉につかっていると、
 色んな事を投げ出してしまいそうだからな」
魔王「帰れば山ほど仕事が待っているさ」
勇者「そうだな」
メイド長「またすぐ来ることになります」
魔王「うむ」
女騎士「え?」
魔王「月が開ければ、すぐにでも忽鄰塔だ」
勇者「情報を集めて、交換条件に使えそうなカードの交渉を
 すすめないとな。それから冬寂王や、中央の様子も心配だ」
女騎士「そうだな。帰ろう!」
勇者「任せとけ」
しゅわんっ!

231 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 20:00:28.24 ID:LAEzTxgP
――地下世界、大河沿いの街、郊外の庵
奏楽子弟「おーい! おーぅい!」
 ガキン! ドグチャ
奏楽子弟「なんてボロ屋なのよ、まったく。
 うっわ、こ、これ何っ!? た、食べ物っ!?
 ぐちゃぐちゃじゃないっ。
 おーうい!
 いるんでしょー? 起きてよー!」
土木子弟「なんだー」
奏楽子弟「帰ったわよ」
土木子弟「あれ? どこから?」
奏楽子弟「『開門都市』に行ってくるって云ったでしょ!」
土木子弟「そうだっけ? そう言えば、しばらく会ってなかったな」
奏楽子弟「二ヶ月も会ってないのよっ!
 ほら、これお土産っ! それに食事もしてないだろうから
 こっちは出来合の焼きめしっ。ほら、お茶もっ」
土木子弟「ありがとっ。ふわぁーあぁ」
奏楽子弟「ほっとくといつまでたってもやってるんだから」

232 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 20:01:56.53 ID:LAEzTxgP
土木子弟「仕方ない。工夫と設計、管理と運用。
 土木ってのは奥が深いんだ。
 師匠が残してくれた本だって完全に理解したと云えるのは
 1冊もない。治水からしてまだまだだ」
奏楽子弟「“テキストに溺れる事なかれ”って
 云われてるでしょう。
 いっくら学んだって実践しなきゃ意味なんて無いじゃないのよ」
土木子弟「そんなこと云われてもなぁ。
 そっちの音楽や叙述とちがって、土木ってのは馬鹿みたいに
 人でも金も必要なんだよ。一人でやるには限界がある」
奏楽子弟「兄妹弟子がこのていたらくとは、
 あたし情けないわよ……」
土木子弟「そういうなよ。やっとここの近くの村は
 一通りの潅漑指導が終わったんだ」
奏楽子弟「どうだった?」
土木子弟「ま、生産性は上がったんじゃないか?
 土木ってのはすぐには結果が出ないから、
 数年のオーダーで改良をしていくべきだと思うけれど、
 耕作可能面積は倍近く増えたはずだ。
 あとは河が肥料を運んでくれるのを待てば良いな」
奏楽子弟「へぇ、善行したじゃない」
土木子弟「まぁねー」
奏楽子弟「で、報酬は?」
土木子弟「ぼちぼちかな。ほらっ」

234 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 20:03:34.61 ID:LAEzTxgP
奏楽子弟「わぉ、すごっ!」
土木子弟「やるよ」
奏楽子弟「ええっ。いいよ、そんなのっ!」
土木子弟「俺の稼ぎがない時は、なんだかんだと
 面倒見てくれたじゃないか」
奏楽子弟「そりゃ、ほら。演奏ってのは日銭になるから」
土木子弟「こっちは長い時間かけて報酬が出る。
 山分けすれば、同じことさ」
奏楽子弟「そう? ……じゃ、預かっといたげる」
土木子弟「おう、頼んだ」
奏楽子弟「……」
土木子弟「……もぎゅもぎゅ」
奏楽子弟「ここの仕事は、一段落?」
土木子弟「ああ」
奏楽子弟「どうしよっか」
土木子弟「つってもなぁ。次の仕事は決まってないし。
 師匠はどこに行っちゃったのかまったく判らないし」
奏楽子弟「うん……」
土木子弟「もっと色んな工事をしてみたいけれど、大規模な
 潅漑や堤防の作成、水道や道路の敷設、築城なんてのは
 大氏族の族長でもないとやらないし。
 俺、平民だからそんなコネはないしさ」
奏楽子弟「まったく稼ぎにならない技術だなぁ」
土木子弟「何を言う。土木は技術の王様なんだぞ」

235 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 20:04:58.06 ID:LAEzTxgP
奏楽子弟「へー」
土木子弟「師匠が云ってたんだ」
奏楽子弟「師匠はあれはあれで浮世離れした人だから……」
土木子弟「天才だ」
奏楽子弟「浮世離れした乳だったからなぁ」
土木子弟「天才だ」
奏楽子弟「ま、それはいいとして。ほらっ」
土木子弟「え? なんだよ?」
奏楽子弟「出掛けるよ」
土木子弟「どこへ?」
奏楽子弟「仕事、無いんでしょう?
 『開門都市』は今すごく景気がよいみたいなのよ。
 城壁の修理とか道路の敷設とか、そんな話しもでているしさ。
 だんだん交易が戻ってきたから税収も上がってるんだって。
 おまけにあそこはどこの氏族にも支配されていない独立都市。
 わたし達みたいな妖精族と鬼呼族の若造でも
 何とか仕事にありつけるわよ」
土木子弟「そりゃ、いい話だな」
奏楽子弟「いける?」
土木子弟「師匠の本の他にはもっていく物もろくにない」
奏楽子弟「じゃぁ、旅立とう♪」
土木子弟「でかい仕事にありつきたいもんだ」
奏楽子弟「あたしだってサーガの一本も書き上げたいわよ」

258 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 22:01:59.48 ID:LAEzTxgP
――冬の王宮、執務室
執事「そうではなくて、お茶は濃いめ。砂糖は二つ」
宮殿女官「は、はぁ」
文官「生産物税の書類はどこに仕舞ってあるのでしょうか?」
執事「去年の分までは商人子弟殿の執務室。
 それ以前は文書館ですな」
宮殿女官「冬の女王への親書の文面が出来ました」
文官「それは若にお見せしてご裁可を頂くように」
ばたばた
  ばたばた
冬寂王「忙しそうだな」
執事「おお、若」
冬寂王「やはり大変か?」
執事「いえいえなんの。せっかくのお役目ですからな」
冬寂王「やはり少し心配だが」
執事「心配めさるな、若。これでも爺は若い頃は
 ちょっと無茶するダンディーでならしていたのですぞ」
冬寂王「余計に心配だ」
執事「とはいえ、このお役目、他にこなせる人もおりますまい?」
冬寂王「それはそうなのだが」

259 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 22:03:06.03 ID:LAEzTxgP
諜報局武官「局長。選抜隊準備整ってございます」
執事「よし、乙種兵装で待機」
諜報局武官「はっ」
冬寂王「魔界の奥となると連絡もままなるまいな」
執事「そうともいえますまい。何とか手立てを見つけます。
 潜入偵察とは腕が鳴りますなぁ。
 若い頃を思い出して、うきうき心が弾みまする」
冬寂王「くれぐれも若い娘に手を出さぬようにな」
執事「……」
冬寂王「しっかと申しつけたからな」
執事「はぁ……。しょんぼりでございますなぁ……」
冬寂王「爺の役目は調査と、和平の可能性の模索だ」
執事「畏まってございます」
冬寂王「出来れば、今魔族との間に戦争は起こしたくはない。
 国内が流入した民であふれかえり、産業が興っているこのとき
 中央との確執だけでも手一杯だ」
執事「はっ」
冬寂王「領民の反応を考えると、
 軽々な言質を与える事など出来るわけもないが
 わたしとしては、何らかの停戦協定なり
 秘密協定などを作ることも視野に入れている。
 いや、その方がどれだけ助かることかと思っている」
執事「さようでございますなぁ」

260 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 22:04:25.54 ID:LAEzTxgP
執事「魔界では、いや地下世界では活発な動きがあるようです。
 『開門都市』は魔族に奪還されたと云うことですが、
 皆殺しにされたと中央が弾劾していた、
 商人を中心とした民間人の人間が生き残っているようで」
冬寂王「ふむ……」
執事「どれくらい生き残っておるかは判りませぬが
 渡りがつけられれば情報のとっかかり程度にはなりましょう。
 魔界には何度も渡りましたが、姿形は人間と変わらぬ
 種族も沢山おります。
 変装をして偵察する分にはさほど怪しまれたりもせぬでしょう」
冬寂王「出来る限り情報を集めてくれ」
執事「命に代えましても」
冬寂王「いや、それは代えんで良い」
執事「もう歳なのですから格好つけさせてください、若」
冬寂王「爺がいうと冗談にしか聞こえぬ」
執事「にょっほっほっほっ」
冬寂王「それにしても……」
執事「はい」
冬寂王「魔族とは何なのか……。
 魔王とはどのような男なのか、最近よく考える……」
執事「ふむ」
冬寂王「世界を統べて、他と戦うとは、
 あの世界ではおそらく並び立つもののいない英雄、
 征服者と尊敬を受けているのだろうな」
執事「さようでございましょうな」

286 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 22:50:22.89 ID:LAEzTxgP
――氷の宮廷、小広間
貴族子弟「――と、そんなわけでして」
氷雪の女王「随分働いたようですね」
貴族子弟「いえいえ、食っては寝ての放蕩三昧でしたよ」
氷雪の女王「状況をとりまとめると、どうなりますか?」
貴族子弟「国の単位で三ヶ国通商への参加を希望しているのは、
 湖の国、梢の国、葦風の国。この3つですね」
氷雪の女王「ふむ……」
貴族子弟「もっとも、表だって参加を唱えられそうなのは
 湖の国だけ。他は“参加はしたいが教会は怖い”という 状況でしょう」
武官「やはり領土問題で?」
密使貴族「でしょうねー。赤馬の国をどうやっても無視できない」
氷雪の女王「もっともですね」
貴族子弟「逆に云えば、赤馬の国と……まぁ、あとはついでに
 白夜の国ですか。この二つを説得できれば“挟み撃ち”は
 無くなるわけですから、どの国も我が方へ参加を表明しや
 すくはなるんでしょうね」
氷雪の女王「農奴の件はどうなのですか?」
貴族子弟「それの前にまず、そのほかの領主のご説明をしましょう」
氷雪の女王「続けなさい」

287 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/18(金) 22:51:57.04 ID:LAEzTxgP
貴族子弟「えーっと、領主は。……どこにやったかな」
 ごそごそ
貴族子弟「ん。……こちらとの通商を望んでいるところは
 なんと! 24にものぼりますね。
 その多くは自治都市を預かっているいわゆる都市領主ですけどね」
氷雪の女王「やはりその立場ですと、交易が気になりますか」
貴族子弟「ええ。小麦を始め物資が高騰して
 “売れない”と云うのも確かに痛いのでしょうが、
 それよりなにより“荷が動かない”と云うのが痛いようで」
氷雪の女王「どういう事です?」
貴族子弟「物資の値段が高かろうと安かろうと、
 自治都市を預かっている領主にとっては
 直接影響が大きい訳じゃなかったんですよ。
 特に交易だけで考えた場合はですね。
 金貨2枚で買った物を3枚で売っても
 金貨5枚で買った物を6枚で売っても、儲けは同じ金貨1枚でしょ」
氷雪の女王「ふむ」
貴族子弟「しかし、今回の事件で、物資の値段が上がってしまった。
 あがったなりに売り買いがあれば良いんでしょうが、
 物が売れないから荷が動かない。
 荷が動かないと通行税も市門税も取れないんです。
 歌船河のほとりのある都市の領主は、
 河船税が去年の1/10になってしまったと嘆いていましたよ」
氷雪の女王「そういうことですか」