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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part39


675 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 13:42:32.34 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、魔王の屋敷、暖炉の暖める広間
魔王「〜♪」
勇者「……ん」
魔王「勇者の膝、気持ちが良いぞ」
勇者「おお、そりゃよかった。眠くなったら寝ても良いんだぞ?」
魔王「そうさせて貰うかも知れないが……」
勇者「ん?」
魔王「勇者は何を読んでおるのだ?」
勇者「新作」
魔王「は?」
勇者「いや、五巻目らしいんだ。『ごきげん殺人事件5 3回チェ
 ンジで温泉旅行殺人事件』なんだけど」
魔王「意味がわからない」
勇者「俺にだって判らないよ」
魔王「判らないものをどうして読んでおるのだ?」
勇者「友人が書いたんだ」
魔王「ほう」
勇者「ほら、女魔法使いだよ」
魔王「そうなのか? 彼女にそのような趣味が?」
勇者「ああ。あっ。これは秘密だぞ? そう言えば
 口止めされてたんだった」
魔王「判った……。だが知ってしまうと興味をそそられるな」
勇者「貸してやろうか? 1巻から読めば同時に読めるぞ」

680 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 13:46:05.74 ID:BJlDi/AP
魔王「……」ぺらっ
勇者「……」
 めらめら、ぱちぱち
魔王「くっ。……ウサりんご大佐め、なんて憎たらしいやつなのだ」
勇者「そいつムカつくよなぁ〜」
 ぺらっ、ぺらぺらっ
魔王「……」
勇者「……ほほう」
 ぺらっ
魔王「なっ!? 胃の中までカブ汁で満たすだと……?
 なっ、なんて猟奇的で残虐な発想なんだ。作者は正気かっ!?」
勇者「……いやぁ、どうかな」
 めらめら、ぱちぱち
魔王「ふぅーむ」
勇者「どうした?」
魔王「いや、意味はまったくわからないが面白いな」
勇者「面白いが読み終わってもあらすじを解説できないんだ」
魔王「新規な体験と云えよう」
勇者「珍奇な経験としか云えないと思うぜ」

684 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 13:48:53.17 ID:BJlDi/AP
 めらめら、ぱちぱち
魔王「ふぅー。堪能したぞ。1巻最大の見せ場は、ショーツを
 盗まれたすいか少年のあられもない必殺技だな」
勇者「……いや、それはうがちすぎた見方だろう?」
魔王「では何処が良いというのだ?」
勇者「やっぱり深夜の路上でゾンビの物まねをする村人が
 60ページに渡って描写される所じゃないか?」
魔王「震えが来るな」
勇者「まったくだ」
 めらめら、ぱちぱち
魔王「……」
勇者「……」
魔王「勇者と、こうして背中をくっつけあって本を読む日が
 くるなんて、わたしは想像もしていなかったよ」
勇者「俺だってしてなかったさ。魔王となんて」
魔王「背中……暖かいな」
勇者「うん」
魔王「わたしはずっと一人で本を読んできた。
 もちろん簡単な物から難しいことまで、
 それこそ気が遠くなるほどの勉強もしたけれど、
 それにもまして一人であれやこれや、
 他愛のないことを想像してきたよ。
 でも、勇者と背中をくっつけるなんて簡単なことも
 想像していなかった」
勇者「実物で手を打てば良いんじゃないか? 魔王」

704 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 14:31:00.16 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、魔王の屋敷、食堂
メイド妹「じゃーん! 今日はご馳走です!」
魔王「おお! 美味しそうだ」
勇者「家空けてたのに、良く食料があったな」
メイド長「ええ。村長と村の方達が、
 先ほどから何名もいらっしゃって。
 ご帰還のお祝いだと届けてくれるんです」
魔王「ああ、ありがたいな。
 それでは遠慮無くいただこうではないか」
勇者「おう」
メイド長「では、給仕を……」
魔王「ああ。良い。一緒に出してしまってくれないか?
 それに今日は、みんなで一緒に食べよう」
勇者「そうだな」
メイド長「ですが……」
魔王「習慣にする訳じゃない。今日だけだ。
 メイド長、ゆるしてくれ」
メイド長「主人の希望を叶えるのもメイドの仕事ですからね……」

705 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 14:32:17.41 ID:BJlDi/AP
魔王「では、頂きますだ」
勇者「いっただっきまーっす!」
メイド長「パンも焼きたてですね」
メイド姉「はい」にこっ
メイド妹「明日はレーズンの入ったのを作るよ。
 あ、お兄ちゃん。テーブルでの給仕はわたしがやるのっ」
勇者「いいじゃん。たまには楽すれば?
 スープくらい自分で出来るよ」
メイド妹「ちがうのっ。これはわたしの仕事なのっ。
 それにね、作った料理を盛りつけて、お届けして
 “美味しい〜”って顔を見るのは、お仕事だけど
 お仕事って云うよりもご褒美なんだよ?
 そこまでセットで料理人なのっ」
魔王「そのとおりだな。それはメイド妹の労働対価だろう?」
勇者「……そうなのか。判ったぞ。おねがいします」
メイド妹「は〜い♪ どうぞっ」
勇者「ん……」
メイド妹「どう?」
勇者「美味しいぞ。ベーコンも炒まって、馬鈴薯も最高だ」にこっ
メイド妹「わーい♪」

706 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 14:33:47.72 ID:BJlDi/AP
メイド長「こほん。妹」
メイド妹「はいっ」
メイド長「食事の場で腕を振り回す物ではありません」
メイド妹「ごめんなさい」
メイド長「でも、料理は腕を上げましたね」
メイド妹「は、はいっ」がたっ
勇者「――直立不動で敬礼してるし」
魔王「うむ、メイド長。良い掌握だ」
メイド長「これからも精進なさい」
メイド妹「はいっ♪」
勇者「美味いなぁ」
魔王「うん。この貝のバター焼きも良いな」
メイド長(小声)「ところで、まおー様」
魔王「どうした?」
メイド長(小声)「いかがでした?」
魔王「なにが?」
メイド長(小声)「お二人の時間ですよ」
魔王「ああ、楽しかったぞ。どきどきわくわくだ」

707 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 14:36:30.24 ID:BJlDi/AP
メイド長(小声)「おや。流石の童貞勇者も、では抱擁くらいは」
魔王「それにしても2巻でいきなり武器が砕けた上に
 自分たちが逮捕されるとは……」
メイド長(小声)「はい?」
魔王「“才能の無駄遣い”?
 ……いや“無駄遣いにしか使用できない才能”なのかな。
 世間の評価は判らぬが、ともあれ問題作ではあった」
メイド長(小声)「何を仰ってるのか、わたし……」
魔王「いや、『ごきげん殺人事件』だ。新しい形の物語で
 勇者と二人でずっと読んでいたんだ。面白かったぞ」
メイド長(小声)「ずっと?」
魔王「うん、ずっと」
メイド長「……」
魔王「?」
メイド長「勇者様ー?」
勇者「ん。なんだい、メイド長?」
メイド長「まおー様が、今晩の湯浴みでは背を流したいそうです」
勇者・魔王「えっ!?」
メイド姉「え、あ、わわわ」
メイド妹「一緒お風呂なの? いいなぁ〜」
メイド姉「わたし達は良いのっ」
勇者「何を言ってるんだっ。そ、そ、そんなのっ」
魔王「そうだぞっ。メイド長っ。横暴だぞっ」

708 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 14:37:46.80 ID:BJlDi/AP
メイド長「これは決定です」ぎろっ
勇者「お、おーぼーだぞー。ですよー?」
魔王「な、なんでそんなに怒っているのだ? 悪いことしたか?」
メイド長「まったく。時間というのは有限なのですよ」
勇者「その件は慎重に論議をしてだな」
魔王「そうだ、こういうのはムードとかタイミングが」
メイド長「お二方は何を聞き分けのない……。
 判りました。では、勇者様の背中はわたしがお流しします」
メイド妹「お、おねーちゃん?」
メイド姉「わたしたちには早すぎる話題だから、
 静かにしてようね、いもーと」
勇者「メイド長が……ふにふにほわぁん」
魔王「何を想像しているっ、勇者っ。
 そのようなこと許せるわけがないではないかっ」
女騎士「ふぅ。何で毎回こういう展開に出くわしてしまうのだ」
勇者「何時の間にっ」
女騎士「何度も声をかけたぞ。せっかく帰ってきたと聞いて
 たずねてみれば、灼熱開戦とはこのことだ」
魔王「女騎士ではないかっ! 無事に帰ったぞ!
 さぁ、座ってくれ。メイド妹、食事をもう一人分だ」
メイド妹「はーい!」

710 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 14:38:41.28 ID:BJlDi/AP
勇者「まぁ、とにかく風呂の話題は置いておいて」
魔王「う、うむ。ここは一時停止だ」
メイド長「判りました。二人ではともかく
 三人ではちょっと手狭ですしね」
勇者「そういう問題なのかよっ!?」
メイド長「主人のハーレムを整えるのもメイドの役目」
勇者「本当なのかよ、それ」
魔王「メイド長の“メイド道”は複雑怪奇なのだ」
女騎士「無事に帰って良かった。……これは修道院から
 くすねてきたワインだ。まぁ、控えめに飲んでくれ」
メイド長「有り難く頂きますわ」
魔王「話は簡単にだか聞いている。
 中央との戦を双方最小限の被害で食い止めてくれたとか、
 いくら礼を言っても足りない」
女騎士「相手は2万、こっちはその4分の1以下。
 いくらわたしでもまともにやったら死んでしまうよ。
 あれはああでなくては、わたしも困っていた」
勇者「悪いな、来てもらっちゃって。
 明日にでも挨拶に行くつもりだったんだけど」
女騎士「それが待てなかったのはこっちの都合だから。
 お帰りなさい、勇者」

723 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 15:32:34.88 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、魔王の屋敷、夜の執務室
魔王「ふぅ……。やれやれ、やっとおちついたか。
 これで報告書やら書類の整理やら……。
 おおっと、そうだ。
 頼まれていた土産も渡してやらぬとな。
 明日は村長の所にも顔を出さないと……んっ。
 土産の包みは何処へ……」
コンコン
魔王「開いている。どうぞー」
女騎士「いま、良いだろうか?」
魔王「ああ。女騎士か。済まないな、騒がしい夕食で」
女騎士「いや、いいんだ。楽しかった。
 修道院の夕食は、宗教的な制約で静かだから。
 こういう楽しい食事は、気持ちが和むよ」
魔王「それなら良いんだが」
女騎士「うん」
魔王「……」
女騎士「…………」
魔王「どうした?」
女騎士「ああ。その。今晩のうちに話したいことがあって」
魔王「聞こう」

724 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 15:34:32.03 ID:BJlDi/AP
女騎士「その、魔王がいない間に」
魔王「うん」
女騎士「勇者に、剣を捧げた」
魔王「……?」
女騎士「判らないか。そのぅ……。
 剣を捧げるというのは、騎士にとって重要な
 ……誓約の儀式なんだ。
 それをしないと一人前とは云えないと云うほどの」
魔王「ふむ」
女騎士「騎士は主人を持って、
 剣を捧げた主君を持って初めて一人前になる。
 剣を捧げるというのは騎士にとって
 主君に全てを委ねると云うことで、
 主君のために働き、戦場では武勲を立てる生き方の規範なんだ。
 主君のことを思い、主君のために尽くす。
 ……主君のものになると云うことなんだ」
魔王「……っ」
女騎士「その誓いを、勇者に捧げた」
魔王「……」
女騎士「魔王がいない間に許可も得ずに、内緒で、卑怯だと思う。
 それは判っている。それに、勇者に対しても
 もしかした無理強いをしたんじゃないかとも……思っている。
 その……。剣を捧げた後、わたしは戦場に行ってしまったし
 勇者は魔界に行ってしまったから、確認はしてないけど。
 困ったような表情は、させてしまった」

725 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 15:36:26.26 ID:BJlDi/AP
女騎士「だからといって取り消せない。
 それは誓いだから、絶対に取り消せないし、
 もし可能だとしても取り消したくはない。
 勇者に剣を捧げたいというのはわたしの魂の願いなんだ。
 ――でも、これは魔王に内緒にすべきではないと思った。
 魔王が勇者の持ち主だからって言うのもあるけれど」
魔王「……」
女騎士「友達だって云ってくれたから」
魔王「……」
女騎士「だから、告げに来た。
 罵ってくれて構わない。いや、そうされるために来たんだ。
 も、もちろんっ。
 わたしは勇者のものだけど、勇者はわたしのものじゃない。
 ――騎士の誓いとはそういう物じゃないんだ。
 だから勇者がわたしに触れなくてもわたしは一生我慢できる。
 魔王と勇者の仲を邪魔するつもりはなくて、
 それは魔王が正しくて……。
 勇者に触れて貰ったりもしてないぞ?
 いやそれは、何というか、そういう意味でと云うことだが」
魔王「ん」
女騎士「うん……」
魔王「そうか」
女騎士「うん……」

727 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 15:38:30.33 ID:BJlDi/AP
魔王「わたしは、図書館で育って。
 と、いっても普通の図書館とも違うのだけれど……。
 つまり、人とのふれ合いが少ない環境で育ったのだ。
 だから男女に限らず情愛には疎くてな」
女騎士「……」
魔王「女騎士は、嫉妬を感じたことがあるか?」
女騎士 こくり
魔王「それは、なんだか胸のあたりがちくちくといがらっぽく
 呼吸が苦しくなるような、
 平衡感覚が失われるようなものだろうか?
 相手を特定できないような無方位の怒りと苛立ち
 それから自己嫌悪と寂しさがミックスされたような感情なのか?」
女騎士「うん、そう」
魔王「ではわたしは嫉妬しているのだな……」
女騎士「……」
魔王「わたしがもし魔力に溢れる魔王であれば、
 漏れ出したそれだけで、床を焦がしてしまうやも知れない」
女騎士「うん……」
魔王「一番哀しいのは、どこかで惨めな気分になっている
 自分が存在することだ」
女騎士「え?」

729 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 15:41:41.92 ID:BJlDi/AP
魔王「やはり勇者は人間の娘のほうが好きなのだろうな。
 ――などと思う自分がいるのが、ただ、哀しい」
女騎士「魔王……」
魔王「いや、そんな弱気は全体から見ればほんの1%にも満たない。
 勇者はわたしのものだ、誰にも渡さない。
 あんな過去の魔王など指先さえも触れることは許さない。
 でも、それでも。
 人間である女騎士には負けてしまいそうな気持ちもある」
女騎士「……」
魔王「でも、やはりだめだ。騎士の誓いが譲れぬものであるように
 わたしの所有契約だって不破の約束。
 ずっと昔から勇者が会いに来てくれるのを待っていたのだ」
女騎士「うん」
魔王「……」
女騎士「……そう、だよね」
魔王「だが、仕方あるまい」
女騎士「え?」
魔王「わたしは“仕方ない”と云う言葉が嫌いでは、ないのだ。
 もちろんその言葉は、十分な努力もしていないものが
 己の安逸を求める言い訳に使うことが多い事も承知している。
 だが、時にその言葉は飲むに飲めない妥協へ飲み込んでも
 前へと進む言葉になってきた。
 辛く厳しい現実を受け入れてでも立ち上がる
 勇気に満ちた言葉だからだ」

730 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 15:45:30.84 ID:BJlDi/AP
女騎士「……」
魔王「だから、わたしが魔族なのは仕方ない。
 女騎士が、勇者に……想いを寄せたのも、仕方ない。
 いや、沢山の類似ケースを考えれば
 一番妥当で痛みのないケースかもしれないな。
 そもそも歴代魔王の中ではハーレムを持たない者の方が
 少ないくらいだ。勇者のことは知らないが、
 それくらいの規模は予想してしかるべきだった。
 でも、そんな時に勇者の隣に誰がはべろうが、
 その中でも、女騎士が、いちばん“仕方ない”。
 他の誰であるよりも、わたしは我慢が出来ると思う」
女騎士「……魔王」
魔王「だからといって譲るつもりも負けるつもりもないぞ?
 大体の所、騎士の誓いとは聞けば主従契約ではないか。
 つまり終身雇用だ。所有とは概念レベルで勝負にならぬ」
女騎士「わたしにだって、勇者と旅をしてきた歴史があるのだぞっ」
魔王「歴史? 歴史と云ったか、この図書館族のわたしに?
 歴史などという言葉は150年前に通過済みだ」ふっ
女騎士「意味不明だっ。わたしは勇者(の毒蛇に噛まれた傷口)に
 口づけをしたことだってあるんだぞっ!?」
魔王「〜っ!? な、な、なっ。
 過去の栄光にすがってどうする! わたしは勇者に膝枕を
 した上に、先ほどは二人で読書デートを決行したのだっ!」
女騎士「はっ。読書デート。それこそ子供のような」
魔王「云ったな、女騎士」 ごごごご

732 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 15:48:19.60 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、魔王の屋敷、談話室
 ドッゴォォォーン!!
  バキャァ!!
メイド姉「なんだか大きな音が……」
勇者「ああ、再会を祝ってるんだろう? 二人で。
 酒を入れるとみんな明るくなるよなぁ……」
メイド姉「当主様、飲んでいたかしら?」
メイド妹「ねーねー。お兄ちゃん、それはいいからー」
勇者「おう、そうだったなー。えーっと」ごそごそ
メイド妹「わくわく」
勇者「じゃーん、こいつがお土産だ! かさばったぞう!」
メイド姉「これは、なんです?」
勇者「まず、妹には緑柱石の髪飾りと“せいろ”だ」
メイド妹「せいろー? おっきいー。これ、かご?」
勇者「いや、これは鍋の上にのっけるんだ」
メイド妹「のっける?」
勇者「下でお湯を沸かして、湯気でものを暖めるんだよ。
 “蒸す”っていうんだけど。判るか?」
メイド妹「うわぁぁ! おもしろーい!!」

733 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 15:49:52.50 ID:BJlDi/AP
勇者「で、メイド姉には、こっちだ」
メイド姉「いただけるんですか?」
勇者「おう、あいつが選んだのはこの櫛。
 あいつも昔から使っているんだって。まか……じゃない。
 学士の故郷じゃ、娘が一人前の年齢になると、
 櫛を貰うんだってさ。美人度が上がって彼氏が出来るように」
メイド姉「綺麗です。宝石みたい……」
勇者「こっちは俺からだ」
メイド姉「これ……」
勇者「絹の朱子織だよ。ほら、なんかさー。
 服とかそういう洒落たものを買っていくと良いのかなって
 思ったけれど、そういう知識もないしさ。
 大きさが違うのもよく判らないし。
 だから、悪いけど、この布地で」
メイド姉「すごい……」
勇者「あ、やっぱだめだった? 手抜きだった? ごめんな」
メイド姉「いえ、いいんです。嬉しいですっ!
 こんな上等な。こんな綺麗な布地は見たことがありませんっ」
メイド妹「うん、すごーい! お姫様の衣装みたい」
勇者「そっか。学士が、姉なら仕立ても出来るって云ってたから」
メイド姉「はい、ありがとうございますっ」

746 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20:02:52.49 ID:BJlDi/AP
――地下世界(魔界)、辺境部の通商道
びゅぉぉぉぉっ
中年商人「うっぷ、すごい風だな」
犬頭の商人「季節風だよ」
歴戦傭兵「こいつぁ、参るな」
中年商人「おーい! 飛ばされんじゃねぇねぇぞ!
 しっかり荷の確認をしろーい」
キャラバンの一行「ほーぅい!」
犬頭の商人「逞しいな、あんたらは」
中年商人「商売って云ったら何処でも同じじだろう?
 逞しくなきゃやっていけやしないさ」
犬頭の商人「違いない」
歴戦傭兵「この辺の治安ってのはどうなんだい?」
犬頭の商人「良かったり、悪かったりだね」
歴戦傭兵「ふぅむ」
犬頭の商人「近頃は落ち着いているが、
 この開門都市ってのは古代からの聖地なんだ。
 何十もの神殿があってね。
 それらのお参りで人の出入りが激しい。
 人間世界と軍が行き来していた頃は主要な中継地にもなってた。
 知ってるように、あんたらと戦争してたからだ」
歴戦傭兵「ああ」