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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part38


538 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 19:06:23.61 ID:498vELIP
商人子弟「王……」
青年商人「……なにかございますか?」
冬寂王「いや、わたしも国がこのような状況でな。
 すっかり貧乏なのだよ。内帑金を用いて一つ新しい事業を
 興してみたいのだが、その銀行とやらは相談に乗ってくれるかね? いや、商人どの。そなたは共同経営に興味はないかな?」
青年商人「ほう、どのような事業で?」
冬寂王「三ヶ国内部、また賛意を示してくれる国全てに
 湖畔修道会の修道院を作ってゆく計画だ」
青年商人「重要な考えかと思います。中央聖教会に対応する
 ためには修道院の密度も連携もいまより格段に必要となる
 でしょう」
冬寂王「それらの修道院では天然痘の予防治療を行う」
青年商人「……事実ですか?」
冬寂王「そうだ」
青年商人「あの人ですか?」
冬寂王「……あの方の一族、だな」
青年商人「判りました。わが『同盟』は初年度において
 金貨5000万枚相当の援助を行う用意があります」
辣腕会計「それは本当なのか。……奇跡だ」

539 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 19:10:17.34 ID:498vELIP
青年商人「このようなニュースを耳にするとは……」
商人子弟「黙っていたのは、騙していたわけじゃないんですよ」
青年商人「いえ、それはもちろん判ります。
 むしろこのような機密をわたしのような得体の知れない商人に
 打ち明けて頂いたことの方が大きな驚きです」
冬寂王「紅の学士殿にあったのだろう?」
青年商人「はい。機会は多くはありませんが。
 あの美しい方は、外面だけではなく
 この世界まれに見る気高く聡明な魂を持っていますね」
冬寂王「ああ。二人共に……」
青年商人「――」
辣腕会計 ?
青年商人「ですがどうして?」
冬寂王「あの方は出会った者に刻印を……。
 いや、種を撒かれているような気がする。
 さっき話した商人殿の中に
 あの方の残した種の芽生えを感じたのだ」
商人子弟(……判る人には、やはり判るのだ)
青年商人「判るような気がします。
 だがわたしも商人です。商売のことでは退きませんよ?」
冬寂王「結構だ」にやり

543 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 19:17:11.74 ID:498vELIP
青年商人「それでは、今日の本題の二点目にして、
 最後の交渉です」
冬寂王「伺おう」
青年商人「我が『同盟』は、三ヶ国通商同盟と魔族との
 少なくとも魔族のいくつかの部族との早期停戦合意を
 希望しています」
鉄腕王「なんだとっ」ガタッ
青年商人「落ち着いてください」
冬寂王「……」
氷雪の女王「まずは話を聞こうではありませんか」
青年商人「わたし達『同盟』は魔族との交易を望んでいます。
 小競り合い程度ならともかく、全面戦争は交易にも
 深刻な不都合をもたらします」
鉄腕王「相手は魔族なんだぞ!? 取引など出来るものかっ」
青年商人「出来ます」
鉄腕王「何を根拠に大口を叩くっ!」
青年商人「誤解しないで頂きたい。あなた方だけが命を
 掛けているのではない。本日わたしが持ってきた交渉の
 材料――物資、資金、情報、信用。これらすべては
 『同盟』所属の商人たちが命がけでそろえたもの
 わたしは彼らを代表して。いわば一勢力の司令官として
 この席に望んでいるのです」

546 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 19:42:43.51 ID:498vELIP
青年商人「そのわたしが、出来る。と云っている。
 それはわたしのみならず『同盟』所属商人全ての
 声だと思って頂きたい。
 何を根拠に? そうお尋ねですが、
 根拠はそれです。わたしがわたしであるから。
 商人であるから、出来ると云っているのです。
 命を賭して、やる。と」
鉄腕王 がたん
氷雪の女王「ほぅ」
商人子弟「……お歴々方。この件に関しては、
 僕は心情的には青年商人さんの味方です」
従僕「へっ?」
商人子弟「いや、僕はしがない役人にすぎないのですが。
 商人の家の倅ですからね。商人ってのは、特に旅回り
 なんて云うのは辛いものです。嫌われようと疎まれようと
 村から村へ、国から国へと回って物を売り買いするんですよ。
 そこには敵も味方もないんです。必要なことをやってるだけ。
 自分で決めた道を自分で歩んでいるだけですからね。
  この青年商人さんにとって、この話は
 “戦争中の隣の国だけど、実はすごい特産品があるんだ。
 そうか。そんな所へ行って交易がしてみたいな”って
 それだけのことなんですよ。
 まぁ、そのために中央大陸の農民の命を盾にとって
 戦争を止めようとするほど業情っ張りの御仁ですけどね。
  なんだかその気持ちはわかるような気がするんですよ」

547 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 19:43:43.38 ID:498vELIP
青年商人「……」
辣腕会計「子弟殿……」
商人子弟「ま、それに。おい、試算」すちゃ
従僕「はいっ!」ぴょこっ
商人子弟「現実問題、中央とのもめ事に軋轢を抱えたまま
 対魔族戦線や警戒網を維持するのは無理な話じゃないですか?
 聖王国からは宣戦布告まで出されちゃってるんだから、
 魔族あいてには多少なりとも懐柔工作なり、すくなくとも
 中立派工作なり行って、いまの事実上のこの戦争休止状態を
 何とか延長することに何の問題もないと考えます。
  この試算によると、魔族との交易が推定規模に達した場合
 三ヶ国同盟の税収額の実に36%が、関連税、または港の使用料から
 まかなうことが可能であり、対魔族交易の中心地となる。
 また現在のかさんだ防衛予算を圧縮することも可能です」
辣腕会計「……やりますね、彼」
鉄腕王「……」
氷雪の女王「国民の納得はどうなるのだ」
商人子弟「実際の魔族と戦っていたこの国として
 そこをじっくりと考えて欲しいとは思います。
 本当に魔族って人間を堕落させるための破壊の化身なんですか?
 僕には……。
 こう言うと魔族との戦で死んでしまった人に
 申し訳が立たないのかも知れませんが、
 戦場で出会った魔族の方が、教会の説教に出てくる魔族より
 ずっと人間らしかった気がするんですよ」

548 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 19:45:04.34 ID:498vELIP
冬寂王「やはりこの件については、重大すぎるために
 すぐさまお返事するわけには行かない。
 申し訳ないが商人殿」
青年商人「そうですか……」
冬寂王「しかし、早急に魔界に対する調査団を派遣しようかと思う」
氷雪の女王「調査団?」
冬寂王「わたしも指摘されて思い知ったのだ。
 我らは魔界のことを知らなさすぎると、ね。
 なぜだろう?
 二回も聖鍵遠征団を送り、
 合計で10万人に迫る人間が魔界へと入り込んだのだ。
 その風物や産業、あるいは風景くらいは
 聞こえてきても良いのではないか?
  それなのに、なぜか我らの知っているのは、
 悪夢じみたおとぎ話にも思える戦闘の様子ばかり。
  何かがおかしいような気がしてならぬ」
氷雪の女王「云われてみれば……」
冬寂王「いまはこのくらいしかお答えできぬ。すまない」
青年商人「いえ、十分でしょう」
辣腕会計「委員……」
冬寂王「もしかしたら、二つの世界は意外に近いのではないか。
 そのような予感もわたしにはするのだ……」

554 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 20:24:07.38 ID:498vELIP
――開門都市、神像の無き神殿、最深部
女魔法使い「……」
女魔法使い「……すぅ、すぅ」
女魔法使い びくっ
女魔法使い「……」きょろきょろ
女魔法使い「……発見」
カツン
女魔法使い「……不可視化解除。……ここ」
女魔法使い「……」
女魔法使い「……」
女魔法使い「……」
女魔法使い「……冗長系としてのマージンがわたしを
 誕生させたけれど、その意味について設計者が
 関知しているかは疑問」
女魔法使い「……存在するなら進む。結果を見るのが、
 勇者なら、わたしはそれでも悪くない。
 ……ん。……正しく、冗長系だね」

560 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 20:45:25.57 ID:498vELIP
――魔王城、前庭、“忘れえぬ炎”の広場
魔王「我が同胞(はらから)よっ! 我が臣民よっ!」
おおおおお! 魔王! 魔王!
  勇者「なんだよ、魔王。人気ないって云ってなかったか?」
  メイド長「歴代の中では不人気なんですよ。
   魔界では戦闘能力があるほど尊敬されますしね。
   先代魔王が広場に集まった民にこんな呼びかけをしたら
   もう、4、5人鼻血だしてたおれてます」
魔王「長きにわたる不在! みなのものには心配をかけたであろう。
 様々な憶測、流言飛語があったかと思うが、
 わたしはこの通り壮健であるっ」
おおおお! 魔王! 魔王! 魔界に栄光あれっ!
魔王(小声)「メイド長っ」
  メイド長「何でございますか? まおー様」
魔王(小声)「この服、もうちょっと何とかならなかったのか?」
  メイド長「何とかなったからそうなのでございます」
魔王(小声)「胸があふれそうだっ」
  勇者「あー。やばいな。眼がちかちかするわ」
  メイド長「女性魔王たるもの、色気を無駄に
   垂れ流さなくてどうします」
  勇者「お約束?」
  メイド長「お約束でございます」

561 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 20:49:02.77 ID:498vELIP
魔王「諸君! 長きにわたる憂悶の日々に堪えてくれたことを
 嬉しく思う。……わたしは帰ってきた。この魔界にっ」
  勇者「なんか、そうぽよぽよされると、ほら、なんての。
   相方として、泣きたくなるじゃんね? 普通に」
魔王(小声)「殴る」
  メイド長「勇者様にもアピールできるチャンスですのに」
おおおおお! 魔王! 魔王!
魔王「わたしが雌伏している二年の間に何があったかは
 知っている。まずは人間の征服していた我らが聖地の一つ
 開門都市を取り戻せたことは喜ばしいっ。
 かの都市は以降、我が直轄領としての庇護を与えるっ」
  メイド長「えー。次の原稿は……」
魔王「わたしが姿を見せぬ間、魔王に反旗を翻し、
 またわたしがさだめた法を逸脱したものに関しては
 我が忠実な剣にして将、黒騎士がその斬魔の剣にて
 粛正を与えたっ!」
  メイド長「勇者様、ここで前に出て、ガオーって」
勇者「え?」 ざざっ。じゃきんっ 「こうか?」
  メイド長「もっとすごい感じで、ガオーって!」
勇者「うう。なんだよそれ……こ、“広域殲滅光炎陣”っ!」
 ヒュカッ!!  ……ビリビリ゙ビリ……チュドオオオオオオン!!!

569 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 20:52:22.99 ID:498vELIP
  シーン ……と、塔が一瞬で
  ヒソヒソヒソ…………な、なにごとだ
魔王「こっ……。これが我が将の実力だっ!」
  メイド長「まおー様、ナイスアドリブフォロー」
おおお! すげー! 黒騎士すげー! すごすぎる!魔王! 魔王〜! 魔王ーっ!! 魔王!!
勇者(やっべなんか出過ぎた)
魔王「本日は我からみなに通達がある。
 忠実なる同胞よ、我が臣民達よ! 人間と接触しはや20年。
  彼らの持つ姿も力もその性格も、すでに我らの
 よく知るところとなった。
 我らはいま正にっ! 歴史の岐路に立っておるっ」
魔王! 魔王〜! 魔王ーっ!! 魔王!!
魔王「わたしはっ!」 ばばっ
  メイド長「おお。黒マントひるがえり演出っ」
魔王「ここに、大部族会議っ、忽鄰塔の招集を告げるものである!」
魔王! 魔王〜! うぉぉ! とうとうこの日が来たっ!
人間との全面戦争だぁ! 今度こそ我らの大勝利だぁ!!
魔王「え? ちがっ。そうでなく」
魔王! 魔王〜! 魔王万歳っ!! 魔界万歳っ!!
魔王「……ええーいっ。
 すべては忽鄰塔において族長による決定があるっ!
 魔界の隅々にまで伝えよっ! 魔王が招集をしているとっ」

654 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 13:21:59.11 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、真冬の朝、村の入り口
痩せたした村人「ほーぅい」
中年の村人「どんな案配だい?」
痩せたした村人「今日も寒いなぁ」
中年の村人「ああ、氷っちまうだがよ。何処へいくだ?」
痩せたした村人「ちょっくら豚肉をとりに倉庫へな」
中年の村人「おいら氷溶かしだがや。……おや」
痩せたした村人「?」
中年の村人「ほーぅい! ほーぅい!」
痩せたした村人「ありゃ、学士様でねぇかい!
 都におられるって話だったけんど
 おら達が村に帰ってきてくれたのかい!?」
中年の村人「ほーぅい! 学士様よぉーい!」
  魔王 ぶんぶんっ
  勇者「そんなに手を振らんでも」
たったったった
痩せたした村人「おかえりだがや! 学士様!」
中年の村人「おかえりなさい、学士様!」
魔王「うん。いま帰った」にこっ

656 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 13:24:02.27 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、魔王の屋敷、暖炉の暖める広間
 めらめら、ぱちぱち
メイド姉「申し訳ありませんでした、当主様」
魔王「もう良いと云っているではないか」
メイド姉「しかし、当主様のお姿であのようなことをしでかし
 この件の影響は大きく、今後の当主様の活動にも
 変化を与えずには済みません」
魔王「かといって、あそこで殺されておったら、
 それこそわたしは幽霊になって
 住む家もいままでの成果も失ってしまう。
 おまけにメイド姉の幽霊も出てくるだろうから
 幽霊にたたられる幽霊ではないか」
メイド姉「は、はい……」
魔王「その件は、帰り道に勇者にも聞いておる。気にするな」
メイド姉「は、はい……」
魔王「それより長い間大変だったのであろう?
 もういいのか? 怪我などはしていないか?
 疲れてはいないか?」
勇者「いや、それは自分に云えよ」
メイド長「まったくです。人より重いものぶら下げてるんですから」

657 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 13:25:27.04 ID:BJlDi/AP
メイド姉「いえ、皆さんに本当に良くしてもらって」
メイド妹「うんうんっ! 鉄の国の料理も教えて貰ったよ!」
魔王「そうか、それは楽しみだな」なで
勇者「どんなのだ?」
メイド妹「海賊風スープとか、猪の香味炙り焼きとか」
勇者「豪快だな」
メイド妹「味が濃くて、ぎゅーって感じで美味しいよ?」
勇者「おお、なんか美味そうなな感じだ!」
メイド長「当主様がお出かけの間、
 家事に遺漏はありませんでしたか?」
メイド姉「家を空けておりましたので、
 その間は世話が行き届かなかったのですが
 村の方達が、冬支度と、雪下ろしをやってくれましたようで。
 昨日帰りましてから、邸内の埃払いなどを始めております。
 明日には全ての清掃管理を以前と同じような段階まで
 戻せるかと思います」
メイド妹「私もがんばったよ!」
メイド長「妹は何をしていたのです?」
メイド妹「シーツ全部洗濯した! リネンも全部きれい!」
メイド長「……よろしい。評価に加えましょう」

658 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 13:26:37.91 ID:BJlDi/AP
メイド姉「では、わたし達は廷内の清掃に戻りますので」
メイド妹「え? もっとお話……」
メイド姉「戻りますよ。妹。お話は夕食の時でもできます。
 それにいま全部聞いちゃったら、冬籠もりの間に
 お話を聞く楽しみが無くなっちゃうでしょ?」
メイド妹「うー」
メイド姉「ほら、いくよ?」 ずるずる
メイド妹「と、当主様。またー!」
メイド長「では、まおー様。わたしも冬の間の届け物や
 屋敷の遺漏、仕事の具合などをチェックしてまいりますので」
魔王「うむ。頼んだ」
勇者「よろしくなっ」
とっとっと
メイド長「あ、そうでした」
魔王「なんだ?」
メイド長「まだ屋敷の何処が汚れているか判りません。
 チェックも終わっていませんので、多少ご不便でしょうが、
 しばらくはこの部屋で大人しくしていてください。
 夜までには執務室を使えるようにしておきますので」
魔王「うん、お願いする」
勇者「たかが掃除で。汚れても死なないって」
メイド長「汚れた格好で歩き回られると掃除の手間が増えます」

660 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/16(水) 13:28:28.73 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、魔王の屋敷、暖炉の暖める広間
勇者「メイド長も神経質だなー」
魔王「ふふふ。あれでも気を遣ってくれたのだろう」
勇者「?」
魔王「少し休憩しろ、と云うことなのだ」
勇者「ああ。まだるっこしいなぁ」
魔王「そういう性格なのだ」にこっ
 めらめら、ぱちぱち
勇者「……」
魔王「……」
 めらめら、ぱちぱち
勇者「それにしてもさ、そのー。Quriltai?」
魔王「忽鄰塔だ。魔族の族長が集まり、
 重要事項を決定する大会議だな」
勇者「なのに、かえって来ちまって良かったのか?」
魔王「開催するためには一ヶ月以上掛かる。
 使者をとばして向こうも準備をせねばならぬからだ。
 忽鄰塔は本当に大きな集まりで、
 一人の魔王の治世の中でも2回も開けば多い方だ。
 中には1回の忽鄰塔も開かなかった魔王もいる」
勇者「ふぅん」

661 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 13:29:57.69 ID:BJlDi/AP
魔王「会議は族長同士で行われるが、
 族長だけが集まるわけではない。
 氏族の主立った顔ぶれがあつまって交流するのだ。
 市が開かれ交易も行われる。
 腕試しの決闘がそこここで開かれるし、
 中には恋に落ちる若者同士もいる。
 忽鄰塔の期間に生まれた子供は、将来利発になるとも云うな。
 そして多くの宴も催される。
 宴だけで時には一月にわたることもあるほどにだ」
勇者「ふーん。会議とお祭りと旅行が一緒くたのようなものか」
魔王「魔族の氏族の中には個性が強いものもおる。
 例えば竜族などは強力な氏族だが、多くの場合自分たちの
 領土に閉じこもって生活を続けているな。
 獣人族は山野を駆け巡る狩人で、あまり人里には暮らさない。
 彼らが他の氏族とふれあう機会である、というのも
 忽鄰塔の大きな役割なのだ」
勇者「そうか、人間と一緒にしちゃいけないな」
魔王「そのとおり」
勇者「今回の会議はやっぱり、その」
魔王「ああ、人間族との関係を見直さなければいけない時期だ」
勇者「……」
魔王「大丈夫。なんとかなるさ。そのためにもしばらくは
 この屋敷と地上界で資料集めや援軍の準備をしなくては」
勇者「そっか」

662 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 13:32:03.69 ID:BJlDi/AP
 めらめら、ぱちぱち
魔王「……ふわぅ。……んぅ」ぐぃっ
勇者「どうした?」
魔王「いや。暖かくてな。なんだか緊張が」
勇者「疲れてたんだろう?」
魔王「そうなのかな」
勇者「緊張している時は、疲れが自覚できないもんだ」
魔王「む。そういうものなのか」
勇者「激しい戦の後なんか、特蜷。
 もう何が何だか分かんないくらい気合いが入っちゃって、
 戦った後に海に飛び込んでゲラゲラ笑いながら8時間泳いで、
 陸に上がった後にいきなり寝むりこけて
 二日たった事もあったくらいだ」
魔王「それは勇者だけだ」
勇者「すこし寝るか?」
魔王「いや、眠くはないのだが。ちょっとだるいだけで」
勇者「そっか。……えーっと」
魔王「ん?」
勇者「あんまり柔らかくないし、
 寝心地悪いけど、膝を貸してやろうか?」
魔王「良いのか?」
勇者「おやすいご用だ」

668 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 13:37:27.58 ID:BJlDi/AP
「そこまでですっ!」
「その手を……は、離してくださいっ!」
「貴様ら、何者だっ!?」
 凍り付いたような月光の中を飛び込んできたのは二つの小さな
影だった。
 まだ子供のようなあどけない表情を、それでも闘志に燃やして、
 栗色の長い髪をたなびかせる少女。彼女のその幼いしかし将来を
十分に予感させる可憐な美貌に似合わない、薄手のぴっちりとした
服の胸部を盛り上げる発育した胸がふるえる。
 愛らしい腰回りにフリルを沢山つけたミニスカートからはニー
ソックスに包まれた健康そうな太ももを突き出され、強気そうに
大地を踏みしめた体勢で高らかに名を名乗る。
「わたしはごきげん剣士ななこっ!」
 その傍らに立つのは、少女と見まごうばかりの可愛らしい表情を
した少年。まだ発育しきらない、薄く華奢な上半身の線を晒しだし
てしまうような丈の短いブラウスと、細く滑らかな足を見せつけて
しまうようなきわどい半ズボンで、その身体を覆っている。
 少年はその格好が恥ずかしいのか、内股になって身をよじりなが
らも、奇っ怪な黒い影を見つめて気丈に声を張り上げる。
「ぼ、ぼくはごきげん賢者すいかっ!」
 二人が呼吸を合わせて手をハイタッチさせると、そこから奔流の
ように光が流れ、あたりに輝きの微粒子が舞い踊る。
 音楽的な炸裂音と七色の閃光は暗い倉庫を照らし、コウモリにも似た怪人の網膜を焼き尽くす。
「わたしたちっ!」「ぼくたちっ!」
 くるりと回って武器を構える二人。
「相手が悪だかどうかも確認せずに、ノリと勢いで征伐執行!
 わがままいっぱい甘えたい盛りのお年頃っ!
 その名もっ“ごきげん殺人事件”っ!! 執行完了170秒前っ!」