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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part37


493 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:00:19.88 ID:498vELIP
――冬の国、官庁街、高級宿屋
タッタッタッタ。ガチャン!!
辣腕会計「委員っ!」
青年商人「どうしました?」
火竜公女「何か起きましたかや?」
辣腕会計「まったく。……昼からお酒を召し上がるなどと」
火竜公女「寒くて他にすることもありませぬゆえ」
青年商人「ご相伴していただけですよ」
辣腕会計「それより、委員。雪ですっ」
火竜公女「雪……」
青年商人「雪はご存じですか?」
火竜公女「ええ、ゲート付近では目にします」
青年商人「中央は退きましたか?」
辣腕会計「ええ。中央の征伐軍は、短期決戦を諦めた模様。
 ある程度の兵を、現在の平原から少し進めて残し、
 そこに簡易的な砦を作り、南部諸王国を睨みながらも、
 大部分の兵は春になるまで、一旦国元へ戻る様子です」
火竜公女「戦争は回避されたのかや?」
青年商人「当面だけ、です」

495 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:02:27.34 ID:498vELIP
辣腕会計「どうされます?」
火竜公女「……」
青年商人「どうやら天の機嫌も南部諸王国に
 味方している様子ですね。
 巨大市場を形成するなら、ここが好機でしょう」
辣腕会計 こくり
青年商人「すでに中央大陸中心部の貨幣の流れは
 自壊のプロセスに入っています。
 貨幣の再鋳造を始めたら一層の加速をするでしょう。
 再鋳造の応急処置としての意味はあったかも知れない。
 でも、応急処置は応急処置です。
 根本的な農民の貧しさ。
 通貨のぶれに対する信頼性の低下。
 戦争と略奪に依存した未熟な生産性を
 転換するだけの体質改善が本当は必要だったのに。
 ここで貨幣に手を加えるには……」
辣腕会計「“信用”が低下しすぎていた、と」
青年商人「光の精霊を奉じる中央聖教会は
 無限の信用と尊敬を受けている。受ける事が出来る。
 無条件で全員が従うのだと、己の権威を過信していましたね」
火竜公女「では、ここまでですね」
辣腕会計「は?」

496 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:05:08.36 ID:498vELIP
火竜公女「これは戦であったのでしょう?
 で、あるならば収めるべき矛というものがありましょう」
辣腕会計「しかし、この状況下ではまだ搾り取れるっ」
火竜公女「――天が下のすべての事には季節があり
 すべてのわざには時がある
 生まるるに時があり 死ぬるに時があり
 植えるに時があり 植えたものを抜くに時があり
 殺すに時があり いやすに時があり
 こわすに時があり 建てるに時があり
 泣くに時があり 笑うに時があり
 悲しむに時があり 踊るに時があり
 石を投げるに時があり 石を集めるに時があり
 抱くに時があり 抱くことをやめるに時があり
 捜すに時があり 失うに時があり
 保つに時があり 捨てるに時があり
 裂くに時があり 縫うに時があり
 黙るに時があり 語るに時があり
 愛するに時があり 憎むに時があり
 戦うに時があり 和らぐに時がある」
青年商人「あなたは……そう思うのですね」
火竜公女「思うに、商人殿は商人としては純粋だが
 時に危うくも見える。純粋なる鋼の脆さのように。
 時にその非情を悔いておるようにも。
 だからこの国へ来たのではないのかや?
 最後の決断をするために。妾にはそう見えてならぬ」
青年商人「商いの道には情は禁物です」
火竜公女「流される情であるのならばそうでもありましょうが
 情を武器に出来るだけの器量を持ちながら
 怯えるなどとはらしくもない」

497 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/15(火) 13:07:11.53 ID:498vELIP
青年商人「……」
火竜公女「どちらに転んでも良いように準備していたのであろう?」
青年商人「……」
火竜公女「強情な殿方だの」
青年商人「強情ではなく慎重なのです」
火竜公女「妾は助けぬぞ。我が君、勇者のようには」
青年商人「……」
火竜公女「塩は欲しいが、それとこれとは別ゆえな」
青年商人「なかなか、心やすくは行きませんね」
火竜公女「当たり前であろう。
 火の粉が飛んでくる距離が良いと云ったゆえ
 ここも戦場なのだ。心して戦わねば」
青年商人「判りました。聖教会の救援に向かうとしますか」
辣腕会計「……助ける、のですか?」
青年商人「商人なりのやり方でね。
 そのそも二大通貨体制、拮抗体制は視野に入っていました。
 対立二つがあるからこそ、
 その間に入って“利”を得ることが出来る。
 いま一気に搾取するよりも、持続的な商売を採用する。
 そういう判断ですよ」
辣腕会計「はぁ……」
火竜公女「我が君を裏返したような殿方よな」
青年商人「商人子弟殿に冬寂王への面会を依頼してください」
辣腕会計「はっ」
青年商人「南部の英雄と話を固めるとしましょう」

501 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:31:44.21 ID:498vELIP
――聖王都、八角宮殿、西の対の宮、奥深い一室
軍閥貴族「口ほどにもないではないか」
蒼魔上級将軍「ふんっ」
軍閥貴族「何が魔族一の軍勢だ。凍土を越えることも
 叶わず引き返すとはっ」
蒼魔上級将軍「そうは言うが、ご自慢の中央の精鋭兵とやらは
 そもそも戦もせずに、食糧難でとって返したと云うではないか。
 われらが南部諸王国の後背をついたとしても、
 それでは軍略にならぬ。我らを陥れるおつもりだったのか?」
軍閥貴族「貴様、云わせておけばっ」
暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる」
蒼魔上級将軍「騎士侯爵だなどと勇ましいことだ」
軍閥貴族「貴様ッ。そのような侮辱捨て置けぬ。
 ここで銀剣の錆にしてくれても良いのだぞっ」
カーテンの影「……」
王室つき司教「おのおの方、その辺で一旦矛を
 収めてはいかがですか?」

502 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:33:31.91 ID:498vELIP
蒼魔上級将軍「……ちっ」
軍閥貴族「はっ」
王弟元帥「良い。初めから一筋縄でいくとは思っていない」
王室つき司教「さようで」
軍閥貴族「しかし、この冬の飢餓を考えれば
 再軍備の目処もなかなかに厳しく、
 また冬の間にきゃつらの巻き返しがあるやもしれぬのですぞ?
 王侯や貴族の中には、南部に尻尾を
 振る事を考える連中も出る始末」
蒼魔上級将軍「裏切り者か? 粛正すれば良いではないか。
 戦うまえから投降を考えるような敗北主義者を
 生かすような柔弱な姿勢が信念の所在を総括させぬのだ」
暗殺者「ふぅーっしゅっしゅっしゅ。
 流石魔族の若君。云うことが血なまぐさい。歓喜の音色」
王弟元帥「いい加減にせぬか。
 ――確かにあの雪の草原で南部三ヶ国同盟を打破できれば
 それに勝る事はなかったが、
 かといってこの敗北で我らが失った物は多くない。
 我らにはまだ大量の臣下、領土、物資、兵士が温存されておる。
 考えてみれば、あの戦で失ったものなど、
 たかが数百人の傭兵のみ」
王室つき司教「さようですぞ」
軍閥貴族「はっ」
蒼魔上級将軍「ふぅむ」

503 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:35:05.85 ID:498vELIP
王弟元帥「通貨の高騰は『同盟』の仕業と判明しておる。
 所詮奴らは時流になびくだけの商人よ。
 甘い蜜、勅書、教会の権威を振れば尻尾を振ろう。
 すでに新貨幣鋳造の準備は整っておる。
 ――そうであるな?」
暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる……。御意に。
 魔界より開門都市を通して……砂金の調達も続けております」
王弟元帥「軍資金はこの新貨幣でまかなえばよい」
軍閥貴族「はっ」
蒼魔上級将軍「我らには無縁のこと」
王弟元帥「蒼魔族との約定は先の通り。
 我らの悲願が達成された暁には、南部三ヶ国の領土を与えよう。
 人間界に領土を持つ唯一の魔族として、
 汝らは覇業へとのりだすのであろう?」
蒼魔上級将軍「いかにも。
 そしてその後もずっと『教会の敵』をも演じましょう。
 あなたたちが君臨し、君臨しつづけるためにもね」
軍閥貴族「……腰抜けが」
蒼魔上級将軍「口を控えて貰おう」
暗殺者「ふしゅるしゅるしゅる」
王室つき司教「考えてみれば、南部諸王国などと云う
 無力な防衛のためにずいぶんな金を支出したものです。
 制御できる脅威であれば十分でした物を」

504 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:37:05.66 ID:498vELIP
軍閥貴族「しかし、それもこれも、
 南部の跳ね返りものどもを始末しなければならぬ前提」
蒼魔上級将軍「その通りだ。珍しくもな」
カーテンの影「……教会は常に……一つ」
王室つき司教「さようで。我が教会は常に一つの教え、
 一つの聖書、一つの頂点により構成されねばなりませぬ。
 人を導くとはそう言ったもの。
 我らが教会は堅固にして盤石。
 その信仰心は金剛石よりも確か」
軍閥貴族「では……」
暗殺者「ふーっしゅっしゅっしゅ」
王弟元帥「第三回聖鍵遠征軍を招集する」
軍閥貴族「おおっ!」
王室つき司教「聖鍵遠征軍は貴族だけではなく、
 聖なる教会の信徒全てに直接呼びかける人界最強の軍。
 その軍を持って、三ヶ国同盟を打ち砕き、そのまま開門都市、
 さらには魔王を目指す」
軍閥貴族「希有壮大な……」
暗殺者「ふしゅーるしゅるしゅっしゅ」

505 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:40:10.47 ID:498vELIP
蒼魔上級将軍「ふふふ。その方が我らにとっても好都合。
 魔王さえ死ねば次の魔王を選ぶための儀式が
 早々に始まりますからな」
王室つき司教「その時の魔王は……。ふふふふ」
蒼魔上級将軍「われら蒼魔族のもの」
軍閥貴族「しかしあの広大な魔界の版図を如何に渡るか」
王弟元帥「今回は魔族の側にも協力者が居る。
 詳細な地図の用意も出来た。そのうえ。ふふっ。
 我が手には切り札がある。
 ……あれを持て」
小姓「こちらにご用意してございます」 すちゃ
軍閥貴族「これは?」
蒼魔上級将軍「見慣れぬ鉄杖ですな」
王弟元帥「――マスケット。ふふふ。
 魔力のないものでも中級炎弾を生み出す機械よ」
蒼魔上級将軍「――機械?」
王弟元帥「ブラックパウダーを推進力に変えて敵を討つ。
 その最大の特徴は訓練だ。
 弓兵を育てるには一年以上の教練が必要。
 ましてや、中級炎弾を使う魔道士となれば5年以上が掛かる。
 しかし、このマスケットは違うのだ。これさえあれば、
 奴隷であっても二週間の訓練で軍を編制できる」
軍閥貴族「なんとっ!?」

506 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/15(火) 13:42:12.28 ID:498vELIP
王弟元帥「ふふふっ。これも異端の技。
 鉄の国に住むとある腕の良い鉄職人がな……ふふふっ。
 あの異端の魔女、紅の学士の依頼と指示を受け
 昨年よりずっと開発していたものよ」
軍閥貴族「そのようなものが……」
王弟元帥「これの生産に成功すれば戦が変わる。
 戦に用いることの出来る兵が十倍にもなるのだ!!
 我らにもはや不可能などはない」
蒼魔上級将軍「……寝返りか」
王室つき司教「寝返りではありませぬ。
 彼は光の精霊への正しい信仰に目覚め、
 新たなる帰依の念を深くしたまで。
 いまは精霊の愛に包まれて至福の境地にありましょう」
王弟元帥「この冬は我らにとっても恵みとなろう。
 マスケットを量産するのだ。
 職人を集め、宮殿に巨大な高炉をつくりだせ!
 一切を秘密のうちに数千の武器を作りだし、
 魔界をも駆け抜けようぞっ! 聖鍵遠征軍こそ我らが剣!」
王室つき司教「全ては精霊の御心のままにっ」
軍閥貴族「御心のままにっ」
暗殺者「ふーっしゅっしゅっしゅるしゅる」

507 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 13:43:33.16 ID:498vELIP
カーテンの影「声が……。聞こえる……」
王弟元帥「……っ」ざざっ
王室つき司教「御お言葉を、お言葉を……」ざざっ
軍閥貴族「猊下っ」ざざっ
カーテンの影「呼ぶ声が……」
王弟元帥「……」
カーテンの影「鍵を……手に入れよ。魔王の……身命を……」
カーテンの影「そして、開門都市にて……我が悲願を……」
蒼魔上級将軍「……」じぃっ
カーテンの影「我らが、教会の……悲願を……」
王室つき司教「必ずや! 必ずやっ!!」
カーテンの影「我らが千年の万年の……」
暗殺者「ふしゅーっしゅっしゅっしゅ! ふしゅーっしゅっしゅ!」
カーテンの影「……光の……精霊の……聖骸を……
 必ずや、必ずや……手に入れるのだ……」

530 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/15(火) 18:48:46.50 ID:498vELIP
――冬の王宮、広間、対策会議
青年商人「お初にお目に掛かります。
 南部諸王国の王侯の方々。
 わたしは『同盟』所属の商人。
 あらかじめ商人子弟殿を通して
 ご紹介して頂いたとおりのものであります」
辣腕会計「補佐を務める会計と申します」
鉄腕王「ご挨拶痛み入る」
氷雪の女王「雪の国の女王です。以後お見知りおきを」
冬寂王「畏まることはない。我らは王族とは言え、
 もはやこの三ヶ国同盟において農奴は解放されたのだ。
 もちろん我ら自身の誇りと名誉によって民のために
 身命賭ける覚悟はあるが、我らはもはや王という
 支配者ではない。同名の管理人にすぎぬ」
商人子弟(それこそが王の資質なんだと、
 僕なんかにゃ見えてるんですがねぇ……)
青年商人「かたじけなきお言葉を賜り有り難く存じます。
 では、時間も差し迫っていることかと思いますので、
 手早く交渉に移りたいと思いますが……」
冬寂王「……」ちらっ
商人子弟 こくり
冬寂王「よろしくお願いする、青年商人殿」

532 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 18:49:56.19 ID:498vELIP
青年商人「まずは第1の話題です。
 わたしども『同盟』は三ヶ国同盟が国家備蓄として
 保持している馬鈴薯の全て。また春までに生産される
 追加分全てを引き取りたい、と云う意向を持っています」
鉄腕王「全て……!?」
氷雪の女王「とてつもない量になりますよ?
 船で運ぶのなら何十隻を必要とすることかっ」
冬寂王「何に使うつもりなのだ?」
青年商人「中央の諸国家に売ります」
鉄腕王「馬鈴薯は聖教会によって異端食物の指定を
 受けているんだぞ?」
青年商人「中央は現在深刻な穀物不足です。
 もっともわたしが『不足』などと表現すると、
 色々問題もあるような気がしませんでもありませんけれど。
  だがしかし、飢餓が目の前に迫っているのは現実。
 この状況を打破するためには多少劇薬が必要でして」
冬寂王「それが馬鈴薯か?」
青年商人「飢えた腹で食べる馬鈴薯はさぞや旨かろうと思います」
氷雪の女王「……っ」
青年商人「飢えて死ぬよりは、馬鈴薯を食べますよ。
 人間そこまで割り切れて生きれる物じゃぁ、無い。
 意地っ張りも居ますが、この件では多数派ではないでしょう」

534 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 18:53:25.81 ID:498vELIP
冬寂王「しかし、中央諸国を全て救うほどの馬鈴薯は……」
青年商人「その辺はご心配なく。
 高価格を維持する程度にコントロールして麦を放出します。
 飢餓を起こすことが『同盟』の目的ではない」
冬寂王「我ら三ヶ国通商同盟に肩入れをしてくださると?」
鉄腕王「ふむ? 肩入れとはどういう事だ?」
青年商人「いえ、馬鈴薯を食べた国民が、
 その味を理解しそれが悪魔の果実などではないと云うことを
 自らを持って体験してしまう。
 その結果、いくつかの国々が三ヶ国通商同盟の方へ傾く。
 そんなことが仮にあったとしても、別にそれは
 『同盟』が三ヶ国通商に好意を持っているという話では ありません」
氷雪の女王「……」
商人子弟「だがしかし、そうであってもわたし達には追い風です」
青年商人「それはもちろん。で、あればこそ交渉の余地がある」
冬寂王「『同盟』の意図はこの場合何処にあるのかね?」
青年商人「……」
冬寂王「もちろんそれが『同盟』の機密であるなら
 聞くわけにも行かないだろうが……」
商人子弟「いえ、おそらくそれが今日の交渉の一つの本題」

535 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 18:55:46.73 ID:498vELIP
青年商人「そうですね。冬寂王陛下。
 陛下達はいま、意識してか否か、歴史の岐路に立っておられる」
冬寂王「……」じぃっ
青年商人「三ヶ国通商同盟は拡大するチャンスがあります。
 今回の戦を無血に近い状況で回避できたこと。
 中央諸国の飢餓の兆候、長きにわたる不況、経済の停滞。
 そして聖教会の横暴と、農奴の解放運動」
氷雪の女王「それらが追い風になる、と?」
商人子弟「ええ」
青年商人「……すでにいくつかの打診があるのではないですか?
 自国だけは関税を緩和して欲しいであるとか、
 秘密軍事同盟を結びたいであるとか、と云った件です」
冬寂王「それはお答えしかねる」
青年商人「いままでのこの大陸では“聖王国ー聖なる光教会”の
 一極支配がまかり通ってきた。
 もちろん様々な国や領主が存在していましたが、
 それらは結局はこの『中央』の自治地方として
 認められていたに近い。
 民を治めてはいましたが、教会には頭が上がらないというのが
 現状でした。また聖教会は聖王国と癒着して、
 氾濫しそうな分子を武力粛正することが出来た。
 三ヶ国通商は、そう言った状況に発生した、
 武力と、教会以外の教会――すなわち修道院の結合。
 これは歴史上類を見ないことです。
 規模は小さいけれど、そこにまったく新しいチャンスがある」

536 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 18:56:52.47 ID:498vELIP
青年商人「……そのチャンスとは、勢力圏であり、経済圏。
 わたし達商人の言葉で言えば、市場です。
 新しい政策を打ち出し、
 新しい農業を営み、人口も増えている三ヶ国。
 そこに中央からいくつかの国家が加われば、
 聖王国や教会でもおいそれとは手出しの出来ない勢力が誕生する」
鉄腕王「お前達は共倒れを狙っているのか!?」
商人子弟「いえ、そうではありません。鉄腕王よ。
 彼らは商人です。もしわたし達が共倒れをしてしまえば
 商売をする相手が居なくなってしまう。
 彼らが望んでいるのはあくまで利益なのですから」
青年商人「そうです、鉄腕王よ。
 たった一つしか国がない状態では商売の幅が狭くなってしまう。
 もしまったく二つの異なった勢力があれば、
 どれほどに商売の幅が広がるでしょう?」
鉄腕王「それが本題なのか」
冬寂王(中央諸国のいくつかを、寝返らせ、それが無理でも
 中立状態に持ってゆき、停戦の道を探るというのが
 わたし達の当初立てたプランだった。
 彼のこの発言はそれを後押ししてくれるに等しい。
 だが……)
冬寂王「商人殿。……そこまでの部分のお話は判った。
 それに対する対価はどのように支払えばよいのだ?」

537 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 19:01:00.83 ID:498vELIP
青年商人「まず、第1に馬鈴薯についてですが、
 これは0.8倍の重さの轢いた小麦、
 もしくは1.55倍の重さの大麦との交換でいかがでしょう?」
冬寂王 ちらっ
商人子弟 かちゃかちゃ「妥当……ですね」
青年商人「次に経済圏設立提案ですが、こちらはただの
 アドバイス。無料です」
鉄腕王「ただより高い物はない、と云うな」
青年商人「……ええ、至言ですね。
 この商売のやり方は、ある方より教わった物でして。
 ははは。
 私どもは、この場合“概念”といいますか“考え”を
 売っているのです。儲けは度外視してもですね。
 私ども『同盟』は新しく設立したその勢力内でも商売をします。
 勢力に活気があればあるほど利益が大きくなります。
 ですからこそ、無料と云うことでも利益は上がる。
 もちろん、そうですね。
 とりあえず、手始めに商館と銀行業開始の許可を
 頂きたいですね。商館は地区支部です。
 それは私ども『同盟』の活動拠点ですから」
冬寂王「ふむ。銀行施設、か」