2chまとめサイトモバイル
魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part35


88 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:33:38.24 ID:6HXLExsP
鉄国少尉「まぁ、良いではないですか」
軍人子弟「しかし、違うでござる」
鉄国少尉「一般の市民やこの間まで農奴だった開拓民に
 軍隊内部の階級や呼称なんて判るわけがない。
 あの将軍っていうのは
 “格好良い”っていう意味なんですよ」
軍人子弟「――格好……良い?」
鉄国少尉「ええ、そうですよ。
 開拓民の倅の俺が言うんだから、まちがえっこありません。
 それにね、そんな格好良い、
 英雄みたいな将軍に“ありがとう”。って思った時
 学のねぇ頭の悪い連中や、俺たちは
 万歳って云うしかないんですよ」
軍人子弟「……そ、そうでござる……か?」
鉄国少尉「ええ。“将軍”! 今日の戦いは見事でした!
 俺たちはきっと孫が生まれても語り継ぎますよ。
 そのためにも、まだ続く戦、頑張っていきましょうっ!」
軍人子弟「そ、その……よろしくでござる」
即席兵士「将軍っ。あ、あれ? どちらに?」
軍人子弟「斥候が心配でござる。まだ行動可能な体調なものに
 食事と休憩をてはい、その後再編成して巡回部隊を組織すること。
 拙者、王宮への報告および、見回る場所があるでござる」

94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:48:36.62 ID:6HXLExsP
――ふかいふかい、ねむりのなかで
「なんだ……寝苦しいな……」
「う……うん……」
「まったくべたつくような夜気だな。絞ったタオルでも
 メイド長に持ってきて貰わねば、やりきれ……」
「えっと」
「あれは、誰だ?」
――。
「あれは、わたしじゃないか」
――。
「うわぁ、これが幽体離脱という物なのか。初めてではないか」
――。
「うーん、本体の方がああもすやすや眠っているところから
 推察すると、この寝苦しさは何らかの霊現象もしくは精神的な
 失調と関係があると推測して良さそうだな」

95 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:49:37.98 ID:6HXLExsP
――。すぅ
「おお。本体が起きたぞ。
 すると幽体離脱中でも本体の活動は別口なのか?
 興味深い事象だなぁ」
――。
「こうしてみると、わたしも捨てたものじゃないではないか。
 どこぞのメイド長に虐められてすっかり卑屈だったが
 ぷにってるはぷにってるが、こう……よいのではないか?
  人間界に出てみれば女性の胸は大きくても良いと云うではないか。
 腰回りも無駄でなければ、多少肉がついていた方が
 女らしいわけで……母性本能や癒しが足りないと云われれば
 それはそうだが、こうやって客観的に見ると色気だって
 おい。おっ、おいっ!」
――。
「わたしの身体っ! 色っぽいのはかまわないが
 何でそういやらしい仕草をするんだっ。
 色んな方面への謝罪対応に追われるような表情をするなっ。
 わっ、わたしの身体なんだぞっ!
 調査しなくても知っているではないかっ!
  ど、何処を触っているんだっ。
 っていうか、たのむ、その姿勢は止めてくれっ。
 胸が揺れすぎるからっ」

99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:53:14.78 ID:6HXLExsP
――しゃ。
「は?」
――ゆうしゃ。
「はぁぁぁ!?」
――ゆうしゃ。
「どっ、どこからとりだしたぁ、そのイメージっ!
 いや、わたしの中からだろうという想像はつくが
 どういうつもりだ身体っ!
 わたしをのけ者にして何をするつもりだ、はっきりとした
 返答をして貰おう期限は二秒だ12終了だ、応えろっ!」
――ゆうしゃ。
「待てっ。その手を止めろっ。
 いくら身体が相手だろうがわたし自身が相手だろうが
 それはわたしの所有物だぞ、
 一切手を触れることまかり成らんっ。
 いまこそ云ってやろう!!
 この駄肉っ!
 そのえろっぽい手をどけろっ!
 それはわたしのだっ!
 わたしが先にもらったんだ!
 おまけにわたしは、それのものなんだっ!
 駄肉風情が駄肉を捧げて手に入れられるなどと考えるなぁっ!!」

102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 21:58:58.12 ID:6HXLExsP
――冥府殿、闇の奥底
 きぃいっぃぃっいぃぃいっぃん!!
メイド長「勇者ッ!」
勇者「どっけぇぇ!!」
メイド長「む、無茶ですっ! 勇者っ!
 この中は魔王しか入れない玄室っ!
 歴代魔王の残留思念がうずまいているんですよっ!?」
勇者「無茶を通せない勇者なんて、存在の意味があるかぁっ!!」
 ズガァアーン!!
魔王「――」
 オオオン!!
  オオオオン!!
勇者「おいっ! 魔王っ! 魔王っ!」がくがくっ
メイド長「だ、大破壊!?」

106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 22:01:45.12 ID:6HXLExsP
魔王「――我の」
メイド長「勇者様っ! 殴って!!」
勇者「へ?」
魔王「――我の玄室へ」
メイド長「急いでっ!」
ぼぐっ
魔王「――」くたっ
 オオオン!!
  オオオオン!!
勇者「なんだってんだ?」
メイド長「昔の魔王の悪霊に取り憑かれちゃい
 かけてるんです! 中身が別物というか……」
勇者「ああ、そういうことか。理解した」
メイド長「いや、汚染でした。どうすれば良いんですかっ」
魔王「――我ヲ」
勇者「おい、魔王っ! 魔王っ! 正気に戻れ」 ぼぐっ
魔王「――」くたっ

116 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/13(日) 22:07:33.06 ID:6HXLExsP
勇者「おい、魔王っ! 何が“魔王にしかできない”だよ。
 強がりやがって! 自分を生け贄にして天災静めようとか
 そういう聖人じみた行動とってんじゃねぇよっ
 しまいにゃ食べてまうぞ、このぷに肉っ!
 おまえが柄でもなくこんなところで身を捧げたから
 偽者だったはずのメイド姉の方だって
 勢い余って聖人になっちまったんだぞっ!」
 ばしっ! ばしぃっ!
魔王「ゆウしゃ」
勇者「もどったかっ?」
魔王「――本物ダ」
勇者「嘘つけ、この旧世代っ!」
魔王「この我のものとなれ、勇」勇者「断る!」
魔王「我と共に来れば、貴様にはこの世の半」勇者「断る!」
魔王「ナ――ぜ――」
勇者「良いか、良く聞け時代遅れのポンコツ魔王っ!
 何が半分だこの詐欺師! そもそもお前のものでも無いくせに
 勝手に譲渡しようなんて片腹痛いんだよっ。
 そういう誠意の無い態度で勇者が口説けると思ったら大間違いだ!
 そんな化石化した台詞はなっ
 “今時の魔王が言っちゃいけない台詞集”にも
 ばっちり収録されてるんだよっ!!」
魔王「ナっ――」

122 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 22:12:31.22 ID:6HXLExsP
勇者「それになっ!」 ぎゅむっ
魔王「!?」
勇者「これは以前から俺の売約済みなんだっ。
 俺のものなんだ。契約をしたんだよっ。
 お前が占拠しようが、汚染しようが、俺のものなんだよっ!」
魔王「――何ヲ」
勇者「そうだよな、魔王っ!」
魔王「――云ッテ」
勇者「そうだよな、おいっ。聞いてるのか魔王っ!!」
メイド長「まおー様っ!!」
魔王「――何ヲ巫山戯タ」魔王「黙れ」
……オオオン!!
  ……オオオオ……ン!!
    ……オオ……オオ……ンッ
魔王「黙れ、駄肉め……。
 これでは甘やかな再会が台無しではないか」
 
勇者「甘いもなにもあるかっ。この強情魔王っ」
魔王「待たせたな――わたしの勇者」
勇者「寝坊しすぎだぞ――俺の魔王」

396 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:30:03.82 ID:498vELIP
――鉄の国、ギルド街、職人通り
片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」
 ズキィッ!
片目司令官「ッ!! ぐっふぅ、がふっ! がふっ!
 疼く、疼くぅ……。ここまで我を苦しめるか。
 砦将よ、冬寂王よっ。いや、この汚濁全てが我が目を喰らうのか。
 〜ッふ! ガフッ! アハッ! ギャハッ!」
 ズルン、ズルゥン
片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」
片目司令官「だがな、作戦は最後まで秘すべきものだ?
 そうだろう? 白夜王? ここに魔女が居る。
 はぁっ、はぁっ。ふはっ。ギヒッ。
 ここに、世界にあの地下牢で見た闇をぶちまけて、
 暗黒に引きずり落とそうと企む背教者が……。
 ギャハッ! ガフッ!」
……コッコッコッ
   通りすがりの職人「将軍の凱旋だっていうさ」
   通りすがりの徒弟「大勝利かぁ!」
コッコッコッ   通りすがりの職人「怪我をした人も多いらしい」
   通りすがりの徒弟「ああ、今度こそお手伝いしなきゃな」
コッコッコッ……
片目司令官「……ぎひひひっ。……行ったか」

397 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:31:09.42 ID:498vELIP
――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫
ガチャ、ズチャ……
「おねーちゃん。もう遅いよぉー」
「もうちょっとだけ、ね?」
片目司令官「はぁっ、はぁ、はぁ……」
「それにこの姿の時は、お姉ちゃんなんて呼ばないの」
「ぶーぶー。もういいじゃない」
「だーめ。一応あの演説を聴いちゃった人だっているんだし。
 当主様が帰るまではこの姿で居た方が、
 すこしでもみんなのためになると思うの」
片目司令官 にたり
「はいっ。次これでしょ?」
「あら、よくわかったわね?」
「覚えるよぅ。左の棚からねぇ。f、u、d、a、r……。ね?」「よく出来ました」「えへへ〜」
片目司令官「……紅の魔女にも、家族が居るのか。
 ふふふっ。背教者が人並みの家族だと? 聞くに堪えん。
 その絆もろとも闇淵へ沈むが良い」
「ん〜」
「できたぁ?」
「ん。できました。――新しい活版よ」
「刷ろう! 刷ろう〜」
「それは明日、職人さんが来ないとね」
「そっかぁ。じゃぁ、ご飯買って帰ろう?
 わたし、親方さんに云ってくるね♪」

398 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:32:31.96 ID:498vELIP
――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫
メイド妹「今日のご飯はなんだろー♪ 温かいスープに
 ちょっぴり黒パン、お豆の入った内臓煮込み〜♪」
メイド妹「お宿のベッドはふかふかで〜♪
 おうちに帰るの待っている〜きゃうっ!?」
片目司令官 にたぁり
メイド妹「ごめんなさっ!? ……お、おじさんは
 ……だ、だ、だれですか?」
片目司令官「……」にやにや
メイド妹「工房の人ですか? 工房の人は、
 もう夜だからいませんよっ。お、親方に用ですかっ。
 親方は母屋だからこっちにはいませんよっ」
片目司令官「我らに光と精霊の加護がありますように」
メイド妹「あ。修道会の人ですか?」ほっ
 ガシィッ!
メイド妹「っ!?」
片目司令官「修道会? あんな異端と一緒にしないで貰おうか。
 我は栄光ある第二回聖鍵遠征軍、駐屯司令官だよぉ。
 〜ッふっふっふ! あはははっ! ギャハハッ!」

400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:33:48.45 ID:498vELIP
――鉄の国、ギルド街、鋳造工房、印刷倉庫
メイド姉「妹〜? 妹〜? 片付け終わったわよ〜。
 おなかすいたんでしょー? 宿屋に戻りますよ〜?」
カツン、カツン、カツン
メイド姉「もう、親方さんのところで
 何かご馳走になっているのかしら?
 うーん。あの要領の良さだけは、本当にすごいんだけれど」
ガゴンッ! ゴゥーン
メイド妹「〜ッ! 〜ッ!」
片目司令官「お初にお目に掛かりますな、学士殿っ」
メイド姉「だっ、誰ですっ!」
片目司令官「は? あはははは。ひゃっはっはっは!!
 そうか、そうであったな。失敬失敬。
 我を知っているはずもないのか。農奴出身の売女よ。
 ――我はな。お前の死神だよ。あははははっ!」
メイド姉「なっ」
メイド妹「〜ッ! 〜ッ!」
片目司令官「何をするつもりかって? 知れているだろう?」
メイド姉「妹を離してくださいっ」
片目司令官「はっはっはっは。そのような顔をせずとも。
 なぁ、異端者。くぁっはっはっはっは!」

401 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:34:43.81 ID:498vELIP
メイド姉「……」きっ
片目司令官「まずは跪くが良い。精霊に詫びるのだ」
メイド姉「わたしは精霊様を信じています。跪くくらい
 なんでもありませんっ」 ぺたっ
メイド妹「〜ッ! 〜ッ!」
片目司令官「お前のような下賎な商売女が精霊様の
 名をかたるなっ! 跪けっ! 許しを請えっ!
 己の罪を告白し、恥辱に涙を流せっ!」
ドガッ!
メイド姉「……なんのっ。ことですっ」
メイド妹「〜ッ! 〜ッ!」
片目司令官「この位倉庫の中が貴様の懺悔室だと云うことだ。
 くぅっくっくっぅ。あっはっはっはっは!
 だがしかぁし、そこに許しはないがなぁ」 ジャキンッ!
片目司令官「どうだ? 学士? この剣は。
 貴様の二つ名と同じだよ。
 紅の名にふさわしいだけの血を吸ってきている。
 そうさ。ギャハハっ!
 貴様にはここで、精霊の許しも得られず、
 惨めにのたれ死ぬという裁きがくだされるのだよっ。
 我が瞳の中の赤黒い地獄に賭けてなっ!!」
 ヒュバンッ!!

404 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:39:19.25 ID:498vELIP
メイド姉「っ!!」
メイド妹「〜ッ!」
ギキィン!!
片目司令官「何者だっ!?」
軍人子弟「ただの軍人で、ござるよ。うぉぉぉっ!!」
ズダンッ!
メイド妹 ずるっ、びりっ「お姉ちゃんっ!!」
メイド姉「妹っ!」
片目司令官「そこをどけぇ!!」
ビュッ! ビュゥッ! シャッ! ジャッ!
軍人子弟「――っ。はっ! やっ!」
メイド姉「あ、あっ」
メイド妹「弟子のお兄ちゃんだぁ!」
ズシャァッ!
片目司令官「見れば青二才ではないかっ! 貴様などとっ
 くぐり抜けてきた地獄と苦痛が違うわぁっ!」
ザシャァッ!
メイド姉「あっ! 腕をっ!」

407 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:40:24.23 ID:498vELIP
片目司令官「ふふふっ。なんだ、貴様?
 はぁん。英雄気取りか? あ?
 この商売女を助けに飛び込みそれでどうにかなるとでも
 思っていたのかっ!?
 あははははっ。この小坊主がぁっ!」
 ギィンッ!
軍人子弟「拙者、ただの軍人でござるよ。
 ――英雄でも勇者でもないでござる」
じりじりっ
片目司令官「ならば上官に道を譲るが良いっ!」
ギィンッ!
軍人子弟「指令系統の違い理解せぬのは
 ――単一独裁になれすぎた悪癖でござるねっ」
ギィン! ギィンッ!!
片目司令官「猪口才なっ! どうした、左手が痛むかっ!
 防御が甘いぞっ! それっ! それっ! アハハハッ!!」
軍人子弟「――っ!」
メイド妹「お兄ちゃんっ!」
(重心を崩すなっ。相手の爪先を観ろっ。視線を観ろ。
 ――ちがうっ! この不器用者っ!
 見るんじゃない、観るんだよっ!
 それじゃお前が隙だらけになってしまうだろうっ!)

409 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:41:26.07 ID:498vELIP
片目司令官「お前に勝ち目はないっ! あはははっ!
 ぎゃははっ! 素直に命乞いをするかぁ? 許さんがなっ!」
ギィンッ!
(相手と自分の弱点、長所を冷静に比較しろ。
 戦争も剣戟も一緒だ。冷静になれ。
 相手の長所をつぶして短所を攻めろっ。
 お前の長所は何だっ? ――常に考えろ)
 キンッ! ザシュ!ガキン!
軍人子弟「――確かにっ。拙者は長所のない男でござるから
 昨日ならば勝てなかったでござろうねっ」
片目司令官「いい謙虚さだっ!」
メイド姉「っ!」
ギィンッ!!
片目司令官「なっ! なっんだ、それはっ。なぜ手首が落ちぬっ!?」
軍人子弟「鋼鉄の矢でござるよ――。
 籠手代わりに巻いてござった」
 ザギンッ!
片目司令官「っ!」
軍人子弟「“ありがとう”。
 そう言われたでござるよ。
 落ちこぼれで、いつも不平ばかりだった拙者が。
 ――“守ってくれて、ありがとう”と。
 民間人を守る軍人にとってこれほどの誉れが他にあると?
 拙者の覚悟は今日定まりました。
 長所などそれ一つで十分でござる」

416 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:47:40.57 ID:498vELIP
――大陸草原、雪の集合地
中央騎兵「くそっ!」
傭兵弓士「なんだこれはっ」
歩兵隊長「またマメの薄いスープ、それに固くなったパンの欠片」
中央騎兵「パンの欠片? これはクズって云うんだ」
傭兵弓士「何が起きているんだ?」
歩兵隊長「軍資金は十分だと云っていたじゃないか」
中央騎兵「貴族のテントでは毎晩のように饗宴」
傭兵弓士「我らは、この塩味のゆで汁だけかっ」
歩兵隊長「穀物の価格が上がっているとは聞いていたが」
中央騎兵「そうなのか?」
傭兵弓士「そんなことも知らないのか?
 大陸中心部では早くも飢餓の兆候が広がっているらしいぞ。
 だから俺たちはまだ物価も上がりきっていないという
 今回の遠征に参加をしたのに」
従士「隊長方、これはここだけの話ですが……」
歩兵隊長「なにかあったのか?」
従士「どうやら、今回の遠征、軍資金はたっぷりとあるのですが、
 食料は殆ど持ってきていないと云う話があるんです」
中央騎兵「……っ!」
傭兵弓士「なん……だと……?」

417 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 00:48:48.10 ID:498vELIP
歩兵隊長「なんだってそんな」
中央騎兵「司令官達は正気なのか!?」
傭兵弓士「あー、いやだいやだ。お坊ちゃんどもはこれだ」
歩兵隊長「何が言いたい?」
傭兵弓士「考えても見ろ。これだけの人数が居たら、
 食料を運ぶ馬車や従者だけでどれほどの人数になると思う?
 それだけ余計に食料が必要になるだろう。
 食糧補給の望めないような場所にいくならまだしも、
 勢力範囲の中で戦うなら
 金貨を持っていった方が遙かに軽くて運びやすいってこった」
歩兵隊長「それはそうだが」
傭兵弓士「それにおそらく、貴族は焦ってたんだ。
 金貨を持っていても食料がなければ冬は飢えるしかない。
 だから、冬の前に決着をつけようとこの戦争を決意した。
 まだ食料のある南部諸王国を狙ってな」
中央騎兵「そうだったのか……」
傭兵弓士「俺たちだって、隊長のその言葉を信じて
 略奪のしがいのあるこの南の果てまでやってきたってのに。
 くそがっ!」 ぺっ! カランカラン……
傭兵弓士「こんな薄い茹で汁じゃ、戦になんてならねぇっ」
歩兵隊長「じゃぁ、すぐにでも敵陣に
 襲いかかればいいじゃないかっ」