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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part33


919 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 14:26:50.37 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地
斥候「きっ! 来ました! 鏡光信号確認っ」
鉄国少尉「本当に来ましたね……」
軍人子弟「かえってすっきりしたでござろう。
 長い間出番の待機するのは嘘偽りなく疲れるでござるよ」
斥候「詳しい情報は山中より鳩がくると思いますが……」
軍人子弟「なに。おおよそは判るでござる。
 軽騎兵中心の高速機動戦力2000。
 白夜の国の常備軍と傭兵の混合部隊。
 出発は斥候の目視で確認済みでござるしね」
斥候「はっ」
鉄国少尉「2000ですか」
軍人子弟「もうちょっと多いかと思ってござったが。
 まぁ、このタイミングでこの数と云うことは国内治安にも
 不安が生じているのでござろう。
 王宮内権力掌握のためか、農奴の反乱に備えるためか、
 白夜王が手元にも多少の兵を起きたがった証拠と云えるで
 ござろうな」
鉄国少尉「しかし、こちらは冬の国へも兵力を送った関係で
 訓練を受けた兵士400、開拓民をざっと訓練した即席兵が
 これも500とすこし……勝負になりません」

920 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 14:28:56.29 ID:6HXLExsP
軍人子弟「笑うでござるよ」 にかっ
鉄国少尉「……そんな無茶な」
軍人子弟「おのおのがたっ!!!」
  ざわざわ
軍人子弟「ただいま斥候により連絡があった!
 百夜の国の騎兵約2000がここに向かっている!!
 これは非常によい知らせでござるっ!
 なぜなら百夜の国がこのような戦に
 騎兵2000しか送ってよこさぬと云うことは、
 百夜の国はもはや最低限の兵力しか
 残っていないと云うことを示すからでござる!
  おのおのがた!
 さらに云えば、ここはおのおの方の国でござるっ!
 おのおの方のかけがえのない大地でござるっ!
 つまり、この一戦に勝利すれば、おのおのがたの故郷たる
 土地も、家も、畑も、家族も守ることが出来るのでござるっ!
 確かに敵の数は多い。
 しかし、勝機は十分以上にあるでござるっ!
  おのおの方の中には、白夜の国から逃げてきたものもいれば
 白夜の国に同胞とも友も呼べる身内を持つ者もいるでござろうっ。
 この一戦は、彼らのために行うものでもあるっ!
  馬鈴薯を食って、笑うでござる!
  姫将軍、白き剣士……。我が師は云ってござった。
 “苦しい戦いで笑えれば勝利は自ずと手の中にある”と。
 敵の数は倍なれど、それ見据えて笑うでござる! 覚悟を決めよ!
 たった一つ断言するっ。勝つのは我らでござるっ!」

930 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 14:38:59.48 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、峠の裾
 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!
片目司令官「もはや国境も越えたっ、
 今日の大地はたっぷり血の供物を受け取るだろう。あはははっ」
軽騎兵「司令っ! 前方、敵兵を発見っ!!」
将校「なんだって!? そんなっ。まだ殆ど夜明けだぞっ。
 宣戦布告は届いていないか、届いたとしてもその直後のはずだっ」
軽騎兵「数は不明、街道で動揺している模様っ!」
片目司令官「狼狽えるなぁっ!!!」 ビリビリっ
将校「はっ!」
片目司令官「おそらく国境警備兵でしかないっ。
 多少数はそろえているかもしれんが、多くて数百っ。
 練度も一線とは比較にならぬっ。
 鉄の国が中央との会戦に備えて兵力を供出している事実は
 内通者を通じて入手しているっ」
将校「はっ!」
片目司令官「全軍全速前進っ! 前方の人影は敵兵だっ!
 村ではないぞ、略奪には及ばぬっ!
 残敵掃討は遅れてくる歩兵に任せておけっ。
 一気に襲いかかり、蹴散らせっ!!」
将校「全速前進っ!」
  軽騎兵「「「白夜の勇猛をっ!」」」
 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

931 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 14:40:22.92 ID:6HXLExsP
軽騎兵「見えた、あいつらかっ!」
軽騎兵「はっ。なんだあれは!? 冗談なのか?
 自分たちが掘った落とし穴に自分たちで勝手に落ちているのかっ!
 鉄の国の兵士は馬鹿なのかっ」
軽騎兵「一気に行くぞっ!」
軽騎兵「「「おうっ!」」」
 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!
軽騎兵「っ!?」 ドシャァ!
軽騎兵「落馬っ、間抜けが。あはははっ。
 一番乗りはこの俺――ギャッ!!??」
軽騎兵「な、なんだっ!? 落馬、なぜっ!?
 馬が暴れるっ。何をされているっ!?」
軽騎兵「どけぇっ! 馬にぶつかるっ。何をしているんだっ」
軽騎兵「これはっ、網だっ。……魚取り用の網が何で地面にっ」
軽騎兵「切れっ! 網くらいっ! 下馬して切るんだっ」
 ジャッ
軽騎兵「くっ、この糞網めっ! 小細工をグフッ!」
 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
軽騎兵「弓だっ。石弓っ!? どこからっ!?」

932 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 14:41:50.68 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地
軍人子弟「さて、講義の時間でござる」
鉄国少尉「こんな時にっ。敵は目の前ですよっ」
軍人子弟「我が師は教育を説いてござった。
 何時いかなる時でも後続を育てなければ、と。
 これは伝統でござるよ」
鉄国少尉「は、はぁっ」
軍人子弟「騎馬の持つ意味とは大きく三つあるでござる。
 まずは高速移動。
 これは戦場と戦場の間を早く移動すると云うことでござるね。
 遠征などには重要な要素でござるが
 今回のような場合にはあまり関係ござらん。
  第二はその機動力でござる。
 第一と混同されがちでござるが、これは戦場において、
 敵の弱点に敵が反応し切れないうちに攻撃を行う能力でござる。
 本質的に移動力と機動力は別の意味合いをもつでござるね。
 機動力は敵の部隊に隙が存在し、それを見抜くことが出来る
 司令官の下では強力な武器になるでござる。
 この機動力に対抗するには情報遮断と、
 こちらの軍の有機的連携が重要でござる」
鉄国少尉「は、はぁ……」
斥候「敵兵接近! 土埃が見えます! あと1分前後で
 到着すると思われますっ!!」

933 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 14:42:58.90 ID:6HXLExsP
軍人子弟「第三のポイント。
 今回のような戦闘で、もっとも恐ろしいのは突破力でござる。
 そもそも騎兵の攻撃力は高くないはずでござる。
 なぜなら攻撃翌力の高い両手用の武器が使えないのでござるからね。
 にもかかわらず騎兵がこれほどの戦闘能力を発揮できるのは、
 まず、馬そのもの戦闘能力があり、
 また馬に乗るという技術を習得できる階級が裕福であり
 戦闘訓練を十分に得られるという事実。
 そして高所からの攻撃による振り下ろし破壊力によるところが
 大きいのでござる。
  これらに馬の突進力が加わり、
 騎兵は瞠目に値する高い突破力を有するのでござるよ」
鉄国少尉「その突破力がこちらに向かっているんですよっ!」
軍人子弟「慌ててはいけないでござる」
斥候「接触30秒前っ!!」
軍人子弟「おのおの方っ!! 石弓の準備をっ!!」
鉄国兵士 ガチャ、ジャキッ!
軍人子弟「第一射撃の優先目標!
 立ち止まった兵馬。および下馬した兵士!
 敵は速度重視の軽騎兵でござる。
 石弓を防ぐ板金鎧の装備はないっ!
 無理せずマトの大きい胴体を狙えっ!」
斥候「接触! あ! 混乱してますっ! 馬が転んだり
 ああ、突っ込んできた! ち、近いですっ!」
軍人子弟「まだまだぁっ! 引きつけよ……っ。斉射ッ!!」

934 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 14:43:54.12 ID:6HXLExsP
 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
鉄国少尉「命中多数! 倒れていますっ!!」
軍人子弟「喜ぶなっ!! 役目をこなすでござるっ!
 即席兵っ! 射出済み石弓を受け取れっ!
 装弾済み石弓を即座に交換っ! 鉄国兵士は照準っ!!
 そこっ! 頭を上げるなっ! 体勢を低くっ!
 塹壕を信頼して、集中して作業を続けるでござるっ」
  うわぁっ!
    これはっ、網だっ。……魚取り用の網が……
  切れっ! 網くらいっ! 下馬して切るんだっ
軍人子弟「第一射撃の優先目標!
 馬を狙って混乱誘発! 引き寄せよっ。誘い込むでござるっ!」
鉄国兵士 ガチャ、ジャキッ!
軍人子弟「斉射ッ!!」
 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
鉄国兵士「やった! 落ちてるぞっ!」
即席兵士「装填完了っ。次をどうぞっ!」ごしごし、にかっ!
鉄国兵士「おお、どんどんいこうっ!」にやりっ

935 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 14:44:47.48 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地
片目司令官「何が起きているっ!? 何故止まるのだっ!」
将校「敵兵の抵抗かと……」
片目司令官「速度を行かして突破せぬかっ! 前進せよっ!」
将校「全軍前進っ! 敵は少数だっ! 押しつぶせっ!」
片目司令官「何をしているのだっ!」
  わぁぁぁぁ!!!
    わあああぁぁぁああ!!
軽騎兵「し、司令っ! 前方には足止めの網がっ!」
片目司令官「網!?」
軽騎兵「はっ! 鉄線で強化された魚取りの網が街路に
 配置され、それが馬に絡みついて足止めをっ!
 そこに石弓が飛来していますっ!」
片目司令官「敵数はっ?」
軽騎兵「未確認っ」
片目司令官「なぜ判らぬっ。撃たれているのだろうっ」
軽騎兵「敵はどうやら、地面に穴か溝のようなものを
 掘って落ちているらしく、視認が困難ですっ」
片目司令官「っ!! 機動力を生かせ。
 前線を押し上げると共に後列兵力を左右に回すのだっ!!」

943 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 15:00:25.98 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地
 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
軍人子弟「いま隠れているのは塹壕と呼ぶでござる」
鉄国少尉「はっ、はいっ」
軍人子弟「また、こういった人工の地形全般を
 野戦陣地などというでござるね。
 もっとも先生から聞いたことで、他で聞いたことはござらんから
 先生の思いついたことかもしれないでござるが」
斥候「落馬多数! 前線は混乱していますっ!」
軍人子弟「敵の突破力を殺すための手法の一つとして
 覚えると良いでござるよ。
 ――連続射撃っ!!
 装填係の即席兵はあらかじめの割り振りどおり、
 防御と装填に班を分けよっ!
 防御班は陣地に侵入した敵兵の排除、および落下してきた
 馬などを邪魔にならぬように移動っ!
  射撃兵と装填は右翼に攻撃を集中っ!
 自由目標射撃でござるっ!
 焦らず照準をすることっ。
 おのおの方の隣では兵士ではないにも関わらず
 勇気を持って参加してくれた仲間が石弓に鉄矢を
 装填してくれているでござるっ!
  じっくり照準をしても、
 普段よりずっと早く射撃できるでござるよっ」

944 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage_saga]:2009/09/13(日) 15:01:49.05 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地
片目司令官「ええい、まだ突破できんのかっ!」
将校「はっ」
片目司令官「殺せっ! 殺すのだっ!!
 前線を突破した兵士には金貨百枚の褒賞を与えるぞっ!
 鉄の国の軟弱兵など、木っ端微塵に打ち砕いてしまえっ!」
軽騎兵「膠着打破っ!」
片目司令官「動いたかっ?」
軽騎兵「側面攻撃が効果をあらわしつつありますっ。
 左翼の防御は固いようですが、右翼は手薄の模様っ。
 まばらな林を抜ければ、敵の陣地の後背さえつけますっ!」
片目司令官「よっし! 全軍投入っ!
 正面の落とし穴に圧力を加えつつ右翼重心で前進っ!!」
  軽騎兵「「「白夜の勇猛をっ!」」」
 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!
将校「……いや」
軽騎兵「どうされました、副官殿?」
将校「こ、これはっ」
片目司令官「何だと云うんだっ」
将校「右翼の前進が早いのでは……と。
 こ、これは……吸い込まれるようなっ」

946 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage_saga]:2009/09/13(日) 15:05:38.28 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地
鉄国少尉「敵が左翼へ流れ始めましたっ」
軍人子弟「そもそも、この陣地は斜線陣地でござるからね。
 前進を繰り返せば、主力軽騎兵ほど左翼へ流れるでござる。
 しかし、一度混乱した前線を抜けた騎兵に突破力はない。
 突破力はないが、後ろから押されるように狭い密集地帯に
 圧縮誘導される。そういう陣地でござるよ」
鉄国少尉 ごくり
軍人子弟「さぁ、仕上げでござる。少尉も拙者も出番でござるよ」
鉄国少尉「はっ!」
 ザッザッザッ
鉄国少尉「行くぞっ! 防御抽出部隊っ!!
 長槍装備で、左翼に集中した軽騎兵を叩くっ!
 恐れるなっ! 敵の数はもはや我らと変わらぬっ!」
軍人子弟(同数だなどと……。乗せるのが上手いでござるね)
鉄国少尉「農民兵の諸君!! 頭を低くして槍を突き出せっ!
 馬を恐れるな! 相手の剣は馬を下りない限り、
 塹壕の中の諸君には届きはしないのだっ!」にやり
鉄国少尉「行くぞっ! 大地のためにっ!」
鉄国兵士・即席兵士「「「大地のためにっ!!」」」

947 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 15:07:08.33 ID:6HXLExsP
ザシュ! ザシュン!!
 ズビシャッ! ガシュッ!!!
斥候「左翼の長槍部隊、敵と接触。敵前線膠着、崩壊の兆し」
軍人子弟「右翼もどうやら敵が退いた様子。
 おのおの方っ! 今一度石弓の確認をっ!
 ――総攻撃の時は来たっ!!」
鉄国兵士 ガチャ、ジャキッ!
軍人子弟「敵はこの陣地の攻略を半ば以上断念し、
 左翼に向かって流れているでござるっ!
 この好機を生かすっ。照準! 馬の横腹、
 および司令官が目視できれば司令官とおぼしき騎士!
 連中は無防備に部隊の横っ腹をこちらに向けているっ!
 転進中の後列から順次撃って、部隊を混乱に陥れよ!
 左翼長槍部隊を助けるために、一兵でも多く倒すのだっ!
  行くでござるっ! 一斉射撃ッ!!!」
 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
軽騎兵「なっ!?」
 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
軽騎兵「うわぁぁぁーっ!!」

973 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 17:30:49.98 ID:6HXLExsP
――魔王城、最下層、冥府殿
メイド長「なぜ出てこないんですか……。まおー様」
オオオオン!
 オオオオオン!
メイド長「もう、一月ですよ? ――もう十分です。
 これ以上の吸収は魂の構成因子さえ汚染されます。
 何をやっているんですか」
 オオオオ……オン!!!
 オ……オオン
 オン……
メイド長「鳴動が……」
きぃ
メイド長「止まりました……」
きぃ
メイド長「……」
ギギィィィィィ

974 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 17:32:14.96 ID:6HXLExsP
メイド長「まおーさま……?」
魔王「良い気分だ」
メイド長「まおーさま?」
魔王「どうしたんだー? メイド長ー。きょとんとした顔をして」
メイド長「まおー、様?」
魔王「おなかも減った、疲れた。まったく酷い目にあった」
メイド長「……」
魔王「ふふん。もう大丈夫だ。戻ろう」
メイド長「どこへ?」
魔王「――戦場へ」 にたぁり
メイド長「うわぁぁぁっ!!」 ザシュッ!
魔王「くぅっ! 主人に手を挙げるとは、
 しつけがなっていないぞ雌犬めっ」
メイド長「わたしのまおー様は! まおー様はっ!
 魔王なんかじゃ、ないっ!!」 ヒュバッ!
 キンッ! キンッ! ギキンッ!
魔王「どこから出した、その長剣……」
メイド長「わたしのまおー様は、そんな下卑た、物欲しげで
 下品に笑ったりはしませんっ!」

976 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 17:33:51.10 ID:6HXLExsP
魔王「それは残念、可哀想に。これからはこの表情で笑うのだ」
メイド長「せりゃぁぁっ!!」 ザッ! シュバっ! ヒュインッ!
魔王「上級魔族並みか。
“技”とはすごいな、獣鬼にまさる我が筋力さえも凌ぐのか」
メイド長「まおー様っ! まおー様っ!!」
魔王「ええいっ! 間抜けな呼び方で我が名前を連呼するなっ!」
メイド長「あなたなどの名を呼ぶつもりはないっ。
 わたしのまおー様は、マイマスターはただ1人っ」
魔王「こざかしいっ!」 ドシュっ!
メイド長「まおー様はっ。賢くて、聡明で、理知的で、
 合理的で、冷静で、シニカルで、嫌って云うほど現実的なのに
 はにかんだ笑顔は可愛らしいマイマスターっ。
 だらしなくて着替えも洗濯もいやがって、
 掃除も料理もろくに出来ない、わたしの選んだわたしの運命っ!」
魔王「これほどのっ……たかが魔族がっ」
メイド長「わたしはメイドですっ!!」 ギュバン!!
魔王「〜っ!」
メイド長「はぁっ、はぁっ、はぁ……」
魔王「はっ。手駒になると手加減すれば……」

978 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 17:34:36.24 ID:6HXLExsP
メイド長「っ!」ぞくっ
魔王「ふふん。……執事やしもべなどいくらでも作れる。
 貴様の血液で喉を潤し、城へ戻るとしよう」
メイド長「……」じりっじりっ
魔王「死ぬが良いっ!!」
 ガキィィッ!
メイド長「〜っ!! ま、お……」
魔王「ふっ。何処を狙っているのだ。相打ち狙いか?
 ……はははは、残念だな。我は無傷で、貴様の腕は。
 ほれ。ここだ」
 どしゃ
メイド長「はぁっ、はぁ……。まおー様?」
魔王「?」
メイド長「……ねぇ、まおー様?
 もう一回だけ、がんばりましょうよ……。
 ね? だって、あんなに黒くて、もふもふで、
 温かそうだったじゃありませんか?」
魔王「なにを笑わせる」
メイド長「きゃー」
魔王「きゃぁ?」

979 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/13(日) 17:35:53.29 ID:6HXLExsP
メイド長「そこでっ! あなたをっ! 投げるッ!!」
魔王「くっ、なんでっ。捉え……きれないっ!?」
メイド長「せぇい、やぁっ!!」 シュダン!!
魔王「突き飛ばし他くらいで何をっ」
 ガチン! ゴゴゴゴ!!
メイド長「はぁっ、はぁ……。もう一度出てきたら
 わたしは、死んじゃうのでしょうね……」
ギギギギギギギッ
魔王「ここはっ、玄室!? きさまっ!!」
ギギギギッ
メイド長「まおーさま。それでも、わたし待ってますから」
ギギッ
魔王「時間稼ぎかっ! ばかなっ!
 判らんのか、この身体は我の物だっ! 我が魔王なのだっ!!」
ドォォーン!!
メイド長「はぁっ、はぁ……。痴れ者め……。うくっ。
 まおー様は。……まおー様は。
 あなたなんかより
 ――何十倍も強いのです」

8 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage_saga]:2009/09/13(日) 18:18:24.27 ID:6HXLExsP
――開門都市、自治議会、執務室
東の砦将「こいつぁ……。本当なのか?」
副官「はい」
魔族娘「……あの、ほ、ほ……。本当なんです」
東の砦将「……っ」ぎりりっ
副官「三日ほど前からゲート方向へと移動する
 蒼魔族の部隊も目撃されています。規模は不明なれど
 1000以下ということはないかと」
東の砦将「警告を送ることも出来ないのか」だむんっ
魔族娘「ひっ。す、す、すみませんっ」
東の砦将「いや、すまん。気が立っちまった」
副官「……」
東の砦将「問題はこの手紙の主か……」
副官「はい」
「――魔族に敵対をしていた南部諸王国三ヶ国は
 中央の国家連合と戦争を行う事になった。
 南部諸王国三ヶ国は目下防御が弱体化しており、
 海岸部、および首都の後背は丸裸同然。
 領土を増やし民を“黄金の太陽の大地”へ導くのには
 絶好の好機かと、ご報告申し上げる」