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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part31


693 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:32:15.30 ID:Xzdt3noP
メイド長「勇者……ですか」
魔王「見るか? 新しい画像が手に入ったんだ」
メイド長「はぁ」
魔王「ほら、もう立てるようになったらしいぞ?
 可愛いだろう? すごいだろうっ?
 うーん、声を聞いてみたいなぁ」
メイド長「会いたくてたまらなさそうですね」
魔王「それは会いたいさ。
 ゲートが封印されてさえなければお忍びで出掛けて
 しまいたいくらいだ。
 ほら、こっちの画像は寝ているところだぞ?」
メイド長「わんこと大差ありませんね」
魔王「そうだ! そこが良いんだよっ」
メイド長「まったく呆れたものです。まさに盲目ですね」
魔王「?」
メイド長「まおー様は可愛いですね」
魔王「馬鹿を云うな。可愛くなんて無いぞ。
 勇者とわたしは、この世でたった二つのLiving Singularityだ。
 勇者と出会えば、何かが変わる。
 概念と概念が衝突し、化合し、反応して何かが始まる」
メイド長「多分それは戦闘かと思われます」

695 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:34:30.70 ID:Xzdt3noP
魔王「新しい視座が得られるんだ」
メイド長「はい……」
魔王「頭でっかちで、引きこもって、
 無駄に長生きしてしまったわたしに、何かが起きるんだ。
 その時になれば、わたし達は言葉を交わし
 ほんの一瞬でも、何かを感じられる」
メイド長「……この件だけはロマンチックですね」
魔王「ロマンなど感じていない。
 これは純粋な経済学的な市場拡大に対する欲求だ」
 チカ、チカ、チカ
メイド長「そういう物でしょうか……おや」
魔王「どうした?」
メイド長「連絡です。失礼して」
魔王「部下も増えたな、メイド長。良いことだ」
   メイド長「――。――――。――?」
魔王「早いところ啓蒙思想くらいは広めておかないとなぁ。
 思想史くらいは広めたいんだが……NDC130番台かな?
 あんまり機械文明を広めると、勇者が来た時揉めそうだしな。
 海とか云うのさえあれば、色々やりようもあるのになぁ」
   メイド長「――!? ――!!」

696 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:35:52.96 ID:Xzdt3noP
メイド長「魔王様っ」 くるっ!
魔王「どうした?」
メイド長「ゲートの封印が、解除されました」
魔王「は?」
メイド長「大規模な儀式法術により、封印が解除されたようです」
魔王「馬鹿な!?
 勇者は言葉もまだろくにしゃべれないんだぞっ?
 早すぎるっ。誰が封印を解除したんだ。
 こちらから中和術式を呪核に注入できるわけがっ」
メイド長「いえ、人間です。人間界からです。
 ゲート解除後、約1500名ほどが転移にて侵入。
 ――第一次聖鍵遠征軍。
 そう名乗って付近の魔族の降伏を求めています」
魔王「至急使者を。急がせろっ」
メイド長「はっ」
魔王「わたしたちも、魔王城へ戻るぞっ」
メイド長「もちろんでございますっ」
魔王「なんでだ。何で人間がこっちに来るんだ!?
 ――勇者の誕生で結界強度が下がっていたのか?
 だが、人間がこちら側に何の用があるって言うんだっ」

707 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:23:17.58 ID:Xzdt3noP
――大陸草原、雪の集合地
肥満領主「おお、寒い。なんて寒さだ!」
家令「さようですな」
肥満領主「何をしておる、もっと薪をくべんか」
小姓「はいっ」
肥満領主「夕飯はまだか? このような旅のテント暮らしでは、
 せいぜいが精のつく物でも食べんとやっていられん」
家令「はぁ、では尋ねて参りましょう。少々お待ちを」
肥満領主「ふぅぅ。寒いな」ぶるるっ
ガサ、ガサッ
近衛兵士「失礼しますっ」
肥満領主「どうした?」
近衛兵士「我が領内の全騎士、全兵士そろいましたっ。
 今回の出兵、我ら合計650でありますっ」
肥満領主「ふむ、思ったより少ないな。まぁ、よい。
 傭兵団を加えれば1000は優に超えよう」
近衛兵士「はっ!」

708 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:24:55.35 ID:Xzdt3noP
肥満領主「他の陣幕はどうなっておる?」
近衛兵士「灰青王は近衛騎士団、斧騎士団を率いて到着。
 山の国の重装騎士団、梢の国の弓騎士団もそろっておりますが
 全体としては、まだ参集は進行中であります」
肥満領主「どれくらい掛かりそうなのだ」いらいら
近衛兵士「はっ。あと二三日はかかるかと……」
肥満領主「今日が参集日時ではないかっ。
 何をしているのだっ!!
 うすのろどもが、勝利が欲しくはないのかっ」
近衛兵士「騎士および兵士の配置はいかがしましょう」
肥満領主「このテントを中心に円陣の形態に天幕をはれ。
 やれやれ、この分では戦までもうしばらく待つ必要が
 ありそうだ」
近衛兵士「申し訳ございません」
肥満領主「よい。腰抜け領主どもめの仕業だ。
 敵は? 南部の豚どもはどうしている」
近衛兵士「敵軍総数は、約2500程度。
 森林の縁に張り付くように布陣しております」
肥満領主「ふっ。世界の辺境に張り付くように
 生きていた野ねずみども、平原の中央に出るのが
 恐ろしくて仕方ないと見えるな」

709 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:27:05.78 ID:Xzdt3noP
ガサ、ガサッ
傭兵隊長「領主の大将、いるかい?」
肥満領主「おお。隊長か? 数はどうであった?」
傭兵隊長「ご注文どおり、古強者どもを400そろえたぜ」
肥満領主「それはありがたい!
 これで総数は1000を越える。圧勝は間違いのないところだな」
近衛兵士「ですなっ」
傭兵隊長「報酬の方は忘れて貰っちゃ困るぜ」
肥満領主「無論だ。金貨ははずもう。
 また、活躍次第ではたっぷりとした恩賞も
 期待してくれてかまわないぞ」
傭兵隊長「まぁ、そいつはいいとして、
 もう一つの約束の方が大事さね」
肥満領主「無論覚えておる。冬の国に入った暁には、
 最初の村とふたつめの村で二日間の略奪を許そう」
傭兵隊長「へっ。そいつが聞けりゃ十分だ。
 石弓兵も用意してある。用があれば声をかけてくれ」

710 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:28:14.38 ID:Xzdt3noP
パサッ
家令「領主様。夕飯のお支度が調いましたようで。
 よろしければ、いまからでも召し上がって頂けると」
肥満領主「よしっ」
家令「それから、なんでも付近の地主から樽酒の献上品が
 あったそうです。なかなか上質の氷酒でして、それが
 20樽もだそうです」
傭兵隊長「ははは。農民ども。よほど自分たちの農地が
 荒らされるのが恐ろしいらしい」
肥満領主「まったくだな! 地に這いつくばるものの
 せめてもの知恵か。ふふふっ。頂こうではないか。
 そう言えば、隊長は夕飯はまだなのであろう?」
傭兵隊長「おう」
肥満領主「2,3日は戦闘も始まらぬようだ。
 晩餐というわけにはいかんだろうが、一緒にどうだ。
 ふむ、そうだ。傭兵の隊の方にも酒1樽を差し入れに
 いってはいかがか?」
傭兵隊長「そいつはありがてぇな。寒さが紛れるってもんだ」
肥満領主「ははははっ。宮殿料理というわけにはいくまいが
 今宵は、我らが勝利の前祝いと行こうではないかっ。
 ふはははははっ!」

713 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:54:37.33 ID:Xzdt3noP
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部
 ガヤガヤッ
  3ポイント上昇。買い指示だっ。強気で行け
 銅の国、銅を積んだ船を発見
  押さえろ。倍値でかまわんっ!!
青年商人「……物珍しいですか」
火竜公女「はい」 きょろきょろ
青年商人「まぁ。情報は交換の約束ですからね」
火竜公女「取引は公平でなければゆけませぬ」
青年商人「いいんですか? こんな場所で。
 わたしは忙しいですが、腕の立つ護衛くらいは
 手配出来ますよ? 市中の案内くらいされては。
 魔界の情報を色々貰いましたからね、遠慮せずとも」
火竜公女「いぇ、いいのです」
青年商人「はぁ」
火竜公女「ここは商人様の仕事場なのでしょう?
 壁に掛けられたあの大きな地図は、この世界ので
 ございますね?」
青年商人「そうです」
火竜公女「では、街を見回るよりここに一日いましょう。
 お邪魔はしませぬ。声も立てませぬ。
 街と人々の暮らしに興味は尽きませぬが、
 おそらくここは世界の中心の1つ。
 ――そうでございましょう?」

714 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:55:34.78 ID:Xzdt3noP
青年商人「……」
火竜公女「わたしは異境からの旅人ですが愚か者ではございませぬ」
青年商人「そうですね。これも取引です」
火竜公女「ええ、公平です」
青年商人「だがもう決して明け方に潜り込むようなことは
 しないでくださいよ」
火竜公女「あれは何かの間違いでござりまするっ!
 わたしには我が君とお慕いする殿御がいるというのにっ。
 傷物にでもなったらどうするのです。いかが心得ますっ」
青年商人「被害者ぶっても通用しません」
火竜公女「この話は終わりと云ったはずですっ!!」
青年商人「かしましいですね、本当に」
 カチャッ
職員「委員。昨晩の動きです」 バサッ
青年商人「了解、目を通します。――梢の国の買い付けは?」
職員「進んでいます! 小麦の相場は+165、一昨日付」
青年商人「……鈍化してきたな」

715 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:57:08.57 ID:Xzdt3noP
ガチャッ
辣腕会計「征伐軍、集合を継続中。遅れが出ているようです」
青年商人「遅れ?」
辣腕会計「士気が低く、どうも軍規に乱れがあるようで」
青年商人「驕っているのか……。冬寂王の策略か」
辣腕会計「策略だと見ますね」
青年商人「なぜ?」
辣腕会計「迂回されてはいますが、
 冬の国の商人に氷酒が随分売れたようです」
ダッダッダッダ、ガチャン!!
職員「委員ッ!! 緊急ですっ!!」
青年商人「報告を」
職員「教会がバックにつき、
 聖王国が金貨の再鋳造を計画しているようですっ!。
 未確定ですが、現行の金貨28枚を新金貨10枚へと交換っ。
 現行金貨は法によって所持も使用も禁止するとの
 見方が強まっていますっ。
 会わせてこの新金貨、交換比率を超えた数
 鋳造されるとの情報もあります。確認急がせますが……」

719 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:58:51.32 ID:Xzdt3noP
青年商人「……ふふっ」
職員「い、委員……?」
青年商人「なかなか気の利いた手ではあるのでしょうが。
 ……勝負をかけてきたのは認めます。
  新金貨は、現行金貨の2.8倍の価値を持つはずですが
 その価値、守れるでしょうかね。
  教皇ですか。それとも王かな。
 本当に、本当の自分の国を知っているんですか?
 知ることが出来るほど愛してるんですか?
 大地から麦を得ると言うこと、岩を切り出し、
 木炭を焼き、鉄を鍛え、パンを焼き、家畜を育てる。
 それらのことを、どこまで理解しているんでしょうね。
  我らは卑しい商人ですが
 卑しいからこそ、そのことを忘れた日はない。
 忘れれば、その炎はすぐさま我ら自身を焼き尽くすんですから。
  いまこそ云えますよ。
 “損得勘定こそ我らが共通の言葉”
 ――その意味するところは
 “誰もが、少しでも幸福になりたい”ということ。
 他者の幸福を認めると云うことだと」
青年商人「その一手で、民衆が幸せになれるのならば
 わが『同盟』の負け、と云うことですがね」

720 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 18:59:58.70 ID:Xzdt3noP
辣腕会計「どうされます?」
青年商人「おそらく戦場は膠着します」
辣腕会計「はっ」
青年商人「“小麦引き渡し証書”なんてね……。
 早すぎたんですよ。こんな物に頼って溺れようだなんて。
 手元にない物を売るだなんて、自分で考えついて何ですがね。
 それは、信用を売買するのと同じ事」
辣腕会計「……」
青年商人「信用に応える力があるのか無いのか。
 連中、勘違いしてやしませんかね。
 王侯や貴族、領主に教会。そんなものに信用があるなどと。
 信用の源泉は大地。求められたものを生み出す事、
 それを相手に必ず渡すこと。取引を凍てつかせないこと。
 結局は大地からの収入が信用なのに。
 信用を奪うことは出来ても、増やすことが出来ない
 その農民を痛めつけるだけとは、商人とは云えませんね」
辣腕会計「彼らは、商人ではないんです」
青年商人「ええ。我らは商人の義を通しに行きましょう」
辣腕会計「はいっ」
青年商人「公女。冬の国へと行きます」
火竜公女「お供しましょう」

728 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 19:27:43.12 ID:Xzdt3noP
――貴族子弟からの手紙、氷雪の女王宛
 我が敬愛する氷雪の女王へ。
  過日国元を出ましてからずいぶんな時が流れました。
 大陸中央部はまだ秋の気配を残しておりますが
 道を行き交う馬車の量は少なく、人々の表情は冴えません。
 麦を初めとして物資の値段が高騰しているようです。
  こちらに来てから多くの領主や貴族、王族の方に
 ご挨拶しましたが、顔色は三色。
 戦の喜びに輝いているか、
 決断の苦渋にしかめられているか
 この冬の民を思って憂いておられるか
 そのどれかのようです。
  とはいえ、流石中央。
 社交界は洗練されていますし、
 流行のドレスは襟ぐりが深く悩殺されてしまいますね。
 こちらに来てからリュートなども手すさびに始めまして、
 楽しく過ごさせて頂いています。
 まったく、国のお金で遊んでいるようで気が咎めるのですが
 女王におかれましては、いかがお過ごしですか?
  最新のドレスを一着、長手袋を2揃い送らせて頂きます。
 すみれ色は女王にお似合いになるかと思います。
  追伸.出来ましたら路銀の追加をお願いします。
  追伸の追伸.そういえば、湖の国の女王が関税60%は
 きついって云ってました。秘密同盟とかすればよい
 ですよ、と云っておきました。他にも6領主が今年の
 飢饉を乗り切るのが辛いとのこと。氷の国に甘えれば?
 などと適当な事を喋っておきました。そういえば湖の国
 から木炭と毛皮を送ったそうです。着きました?

738 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :[saga]2009/09/12(土) 21:09:42.28 ID:Xzdt3noP
――冬の王宮、広間、対策本部
冬寂王「では、堅守を意識した布陣で」
女騎士「と、なれば騎兵戦力よりも、歩兵を。
 特に槍兵を重視したいな。多少の工兵も必要だろう」
将官「防寒具も必要でございますね」
女騎士「揃うか?」
将官「それについては極光島の時に、
 たっぷり中央に作ってもらいましたからね」
女騎士「すぐ手配してくれ」
勇者「わるいな。お守りのあとにはすぐに将軍で」
女騎士「いや、いいさ。
 あの姉妹は無事に鉄の国に向かったよ。
 いまこの状況では、戦場に近い冬の国よりも、
 鉄の国にいた方が遙かに安全だろう?」
執事「……ふむ。暇を見つけて様子を見に行きましょう」
将官「おっぱい見たいだけですか?」
執事「にょにょにょっ。失敬な!」
冬寂王「これで、出来うる限りではある」

739 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 21:11:04.12 ID:Xzdt3noP
女騎士「わたしに任せろ、勇者。なるだけ誰も傷つけないさ」
勇者「でも、お前の愛剣って物騒だからなぁ」
女騎士「何を言うんだ。愛剣も愛馬も凶暴なくらいが丁度良いんだ」
勇者「無茶はするなよ?」
女騎士「もちろんだ! 必要とあれば1人も
 怪我させることなくことごとく首をはねてみせるっ!」
執事「……」
冬寂王「将官。おまえも物資をとりまとめ次第、
 後詰めとして補給持って合流、姫騎士将軍どのをお助けせよ」
将官「はぁ」
女騎士「中央の征伐軍か。総数はおそらく2万に迫るだろうな」
執事「聖鍵遠征軍以外で、ここまでの規模は類例がありませぬな」
冬寂王「こちらは、4500が良いところだろう」
勇者「……」
冬寂王「そんなに顔をしかめるな。
 いずれにせよ、軍の指揮は勇者よりも将軍の方が
 向いているだろう?」
女騎士「任せておけ! 腕が鳴る」

741 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 21:13:33.11 ID:Xzdt3noP
タッタッタッタ! ガチャン!
伝令「伝令、伝令であります!!」
執事「何事だっ」
冬寂王「申すが良い」
伝令「南氷海より伝令っ! ま、ま、魔族です!」
勇者「っ!」  女騎士「!!」  執事「!!」
冬寂王「数はっ!?」
伝令「不明です。現在集合中。遠隔目視では最低1500!」
勇者「こんなタイミングでっ」
女騎士「魔族の侵攻……。魔王……」
勇者「こんな時にな。はぁぁぁ〜。
 ああ、俺が行く……。
 あいつ、なにやってやがる。何かあったのかよっ」だんっ!
執事「勇者殿……」
冬寂王「勇者であれば……。相手が万の軍勢でも
 平気なのかもしれぬが……。
 すまぬ、これ以上の軍は割けぬのだ」
勇者「冬寂王」
冬寂王「ん?」
勇者「魔族ともやり合いたくないって云ったら呆れるか?」

742 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 21:14:53.04 ID:Xzdt3noP
冬寂王「……」
将官「そ、それは……」
冬寂王「どんなことをしてでも、二正面作戦は避けるべきだろう」
勇者「……」
執事「若……」
冬寂王「いまはそれしか云えないな」
勇者「そっか。ありがとう。って云うべきなんだろな」
女騎士「勇者、そ、その……。大丈夫なのか?」
勇者「余裕だぜ」
 しゅわんっ!
女騎士「……」
執事「どういう事なのでしょう?」
冬寂王「……」
ガチャンッ!
伝令「伝令っ、伝令でありますっ!!」
冬寂王「何事だ! 魔族についてはすでに第一報がきているっ」
伝令「違います。早馬よりっ!
 鉄の国に白夜王が軍2000が強襲っ! 一昨日の日付ですっ」

751 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 21:34:07.96 ID:Xzdt3noP
――冬の国、王宮、予算編成室
 ダッダッダッダ! ダタン! ダッダ!
青年商人「なかなかに活気がありますね」
商人子弟「殺気立っているんです。騒がしくて済みません」
火竜公女「……」
青年商人「いえいえ、この状況ですから、お察ししますよ。
 このようにお手紙を差し上げることもなく、
 突然押しかけて申し訳ありません」
商人子弟「いえ、お待ちしていたところです」
青年商人「ほう」
商人子弟「確認させて頂きますが……」
青年商人「はい」
商人子弟「このテーブルでゲームをされていたのはあなたですね?」
青年商人「なぜそう思うのです?」
商人子弟「でなければ、いま、ここに訪れる意味がない」
青年商人「わたしは操り人形で、
 本当のプレイヤーは背後に控えているかもしれない」
商人子弟「遠隔操縦で交渉を?
 それは時間が余っている時の手法でしょう。
 こういった場合、交渉者に裁量権を与えない限り機能はしません。
 そして、もしあなたが人形だとしてもこの場の裁量権を預かって、
 ある程度自分の判断で交渉の可否を決定できるのならば、
 それは傀儡ではなくプレイヤーの1人と認識します」

752 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 21:35:00.73 ID:Xzdt3noP
青年商人「ふふふっ」
商人子弟「もし僕なら自分で出向きます。物見高いですから」
青年商人「よく判ります。荷物に関税をかけたのはあなたですね?」
商人子弟「そうです」
従僕「はぅー」
商人子弟「ああ。お茶を頼むよ」
従僕「はいっ!」たたたっ
青年商人「可愛らしい少年ですね」
商人子弟「見習い、のようなものです」
青年商人「では、交渉とまいりましょうか」
商人子弟「……」ごくり
青年商人「今日の交渉は多岐にわたります。 要点をかいつまんでお話ししましょう。
 第一点。三カ国同盟領内の通行権、この勅書を頂きたい。
 現在の関税ですと、品物が出て行く時に貨物に応じた
 額となりますね。これを『同盟』に限っては
 特例を設けて頂きたい」
商人子弟「特例、とは?」
青年商人「それは三カ国通商内部で商いを行わない場合です。
 持ってきた荷物を、ただ単純に通過させたい場合。
 これならば通商圏内の経済には影響を与えないでしょう?」
商人子弟「それは……そうですね」