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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part30


641 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 13:57:26.02 ID:Xzdt3noP
――湖の国、富裕街、青年の取った宿
青年商人「胆が冷えました」
火竜公女「なにゆえです?」
青年商人「あー。人間には尻尾がないですからね」
火竜公女「そうでありますな」きょとん
青年商人「茶でも飲みますか?」
火竜公女「あれば火酒を。……ここは寒くてかまいませぬ」
青年商人「そう言えば、あちらよりぐっと寒いですね」
火竜公女「こちらに来てから尻尾の先が暖まったことが
 一度もありませぬ。本当に人間界は冷え切った場所」
青年商人「まぁ、今は冬ですから」
火竜公女「冬……」
青年商人「ええ、魔界にはないんですか?」
火竜公女「聞き慣れぬ言葉ですね。いえ、意味はわかりますが。
 二つのゲートに近きところは寒く、遠きところは熱い。
 それが魔界です」
 とぷとぷとぷ……
青年商人「ん……。入りましたよ」
火竜公女「有り難く頂戴しまする」

642 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 13:59:03.80 ID:Xzdt3noP
青年商人「さて、と。どうして公女がここにいるんです?」
火竜公女「お客人に会いにまいりました」
青年商人「そのお客人ってのは止めましょう」
火竜公女「ではなんとお呼びすれば?」
青年商人「商人と」
火竜公女「では、商人様に会いに」くぴくぴくぴ
青年商人「はぁ……。はるばる魔界から。というか、
 転移呪文ですか? 魔族の魔法は人間のより
 強力なんですかね」
火竜公女「そのようなことはありませぬ。
 むしろ人間の儀式法術の方が強力だと、
 父様などは云っているくらいで。
 魔族は、魔力は品に込めるのが得意なだけ。
 人間界へも転移符で来たくらいです」
青年商人「どうやって居場所を? 勇者ですか?」
火竜公女「いえ、我が君には内緒です。
 ――此度は妾の仕事ですゆえ。
 居場所は探知魔法をかけて貰ったのですよ。
 通りすがりの魔法使いに」くぴくぴ
青年商人「常識の削られる音がしますね」
火竜公女「削る分があるうちは取り返しがつくというもの」
青年商人「ごもっとも。削って売れれば文句はありません。
 常識に元手は掛からないですからね」

643 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:00:30.81 ID:Xzdt3noP
青年商人「して、どのような品物をお求めでしょう、公女様」
火竜公女「塩を」
青年商人「いかほど?」
火竜公女「判りませぬ。必要なだけ」
青年商人「何とも曖昧は注文ですね」
火竜公女「ですから来ました」
青年商人「……?」
火竜公女「この注文をこなせるのは、
 商人様しかいないと踏んで出向きました」
青年商人「ふむ」
火竜公女「塩は魔界では貴重品。これを融通して頂きたいのです」
青年商人「……」
火竜公女「……」くぴくぴ
青年商人「……」
火竜公女「……」とぷとぷとぷ、くぴ
青年商人「……」
火竜公女「……暖まります」
青年商人「その壺全部飲んで良いですよ」
火竜公女「聞いていたのかや」
青年商人「ちょっと考え事を」

644 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:05:49.24 ID:Xzdt3noP
火竜公女「……?」
青年商人「これは謎かけでしょうか?」
火竜公女「妾は愚かしき子女ゆえ、考え深い殿御に
 とっては謎かけかもしれませぬ」
青年商人「考えすぎだ、と?」
火竜公女「賢きおなごは、万象の識をあつめ
 知を尽くして物事に当たります。
 しかし、心得を持つおなごは、殿方を立てることにより
 何もせずともそれ以上を手にしまする。
 それが妾が母上から受けた竜の教え。
 商人様に、なるべく多くを手に入れて貰うためならば
 謎かけでも何でもいたしましょう。
 殿御にお力をふるって頂くのが
 子女の誉れと心得ておりまする」
青年商人「塩なら造作もないんですけどねー」
火竜公女「……ああ、尻尾の先まで暖まりまする」こくん、こくん
青年商人「よく飲みますね」
火竜公女「人界の酒は珍しいゆえ」
青年商人「人間世界は初めてですか?」
火竜公女「もちろん初めてです。何もかもが珍しい。
 パンという食べ物は美味しいものですね。
 聞いていたのより随分高くて路銀で苦労しますが……。
 それから教会というのも良い。
 賛美歌というのはわくわくする代物ゆえ。
 一つの建物が丸ごと楽器などとは、これは仰天の
 体験でございます。人界とはまこと興味が尽きぬ」

645 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:08:53.43 ID:Xzdt3noP
青年商人「……しばらく、人界にいますか?」ぽつり
火竜公女「?」
青年商人「当面の塩は手配しましょう」
火竜公女「本当かや?」
青年商人「ええ」
火竜公女「それはかたじけない」
青年商人「ここまで危難に遭わなかったのが不思議ですよ」
火竜公女「尻尾かや?」
青年商人「ええ、まぁ。角も」
火竜公女「隠してはいたのですだ。
 人界の人はみな慌ただしいゆえ、注意を払われぬ」
青年商人「……」
火竜公女「……」くぴくぴ
青年商人「あなたは」
火竜公女「?」
青年商人「あなたが。あなたの存在が、
 “割り切れぬもの”に繋がるかもしれませんね。
 わたしたちは、知らなすぎるのではないでしょうか?」
火竜公女「何を?」
青年商人「おそらく、互いを」

647 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:28:33.88 ID:Xzdt3noP
――白夜の国、白夜王の宮殿
片目司令官「ええい! だから云ったのだ!」
 ガッシャァン!
白夜王「やつらはなぜ生きている!?
 なぜ地上の光を浴びている!?
 背教者だぞ? 我らが密告を受け、異端審問まで
 行ったというのに、なぜのうのうとこの世にはびこっているのだ」
片目司令官「くくくくっ。ははははっ」
白夜王「何がおかしいっ!」
片目司令官「悪魔だからに決まっておるではないかっ!
 豚に向かって“貴様は豚だ!”と言ったところで
 何の意味があるのだっ。
 ふんっ。屠殺しなければ終わるものではないっ」
白夜王「何を賢しらなことをっ!」
片目司令官「我は最初から剣で事を決しようと
 云ったではないか、それを策謀にて進めようとしたのは
 白夜王、あなたであろう?」
白夜王「うるさいっ! 我が国をみよっ!
 今年は麦が高騰を続けているのだ。
 中央からの義援金は例年よりも多く入ってきた。
 四カ国に送る予定だったのだからな。
 普段の二倍近い。
 しかし、それで買える麦は普段より
 少ないくらいでしかない位でしかないのだぞっ」

649 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 14:32:33.89 ID:Xzdt3noP
白夜王「そのうえ……」ぎりぎりっ
白夜王「昼も夜も絶えず、農奴どもが国境を越え、
 鉄の国へと流れておる。三カ国がなんだというのだ!?
 所詮は農奴を騙す新しいお題目を唱えているだけだというのに
 冬寂王、あやつにだけなぜ人々が味方をするっ」
片目司令官「それはな、あやつが天を欺いておるからよ」
白夜王「〜っ!!」
片目司令官「クカカカカッ」
白夜王「このままでは我が白夜は。我が白夜だけが……ッ」
片目司令官「なぁ、白夜王」
白夜王「……」
片目司令官「奪えば良いではないか? ほら、見ろ。
 鉄腕王の国、氷雪の女王の国。
 たっぷりと身の詰まった果物のように熟れておる。
 いずれにせよ、背教者。
 遠からず人間世界で腐って落ちよう?
 それなら、その前に奪って食って悪い道理があるものか」
白夜王「……いけるのか」
片目司令官「中央の兵達は、戦になれば呼び集められる
 招集の騎士と歩兵。誇り高いが実戦経験で劣る。
 この国にいるのはなんだ?
 世界で最高の経験を経た常備軍だと抜かしていたではないか」

661 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 15:17:37.23 ID:Xzdt3noP
白夜王「しかし、我は手勢の多くを極光島で失った。
 一年の訓練は施したが、同じ南部諸王国が相手では
 練度で劣るやもしれぬのだっ……」
片目司令官「あはははっ! 中央も、貴様も!
 そしてその冬寂王とか云う小せがれもまったく判っておらんな!」
白夜王「なに?」
片目司令官「常備軍の強さというものを」
白夜王「それはなんだというのだ」
片目司令官「奇襲だよ」にぃっ
白夜王「それでは野盗と同じではないかっ!
 人間同士の戦でそのようなことをしてどうする。
 教会の非難に遭えば国が危ういのだぞっ」
片目司令官「その教会の敵が相手なのだ、相手は獣と同じ」
白夜王「!!」
片目司令官「野盗? 結構っ! 国境の盗賊どもに
 金を払い、鉄の王国を荒らさせるのだ。
 防備が分散した時点で騎兵による強行奇襲をかける。
 畑も家も燃やし、一気呵成に鉄の国を落とすのだ」
白夜王「ふふふっ。それしかないようだな」ぐびっ
片目司令官「この片目の闇を、鉄の国にぶちまけてくれよう」

673 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:50:54.18 ID:Xzdt3noP
――冬の王宮、謁見室
 ガチャン!
勇者「宣戦布告があったって!?」
執事「勇者、来ていただけましたかっ」
冬寂王「そうだ。
 これが今朝届いた書面による正式な宣戦布告だ。 そのうえ同時に教会からは破門状も送られてきた」
勇者「早すぎる」
将官「もうしわけありませんっ。小官が甘い予想を」
冬寂王「いや、それは仕方ない。――事態が変わったのだ」
勇者「事態……?」
冬寂王「うむ、おそらく向こうも苦しいのだろう。
 小麦を初めとして全ての物価が上昇しているのだそうだ」
勇者「物価が? 食い物が買えなくなるのか?」
冬寂王「そうらしい。詳しいことは商人子弟にでも聞いてくれ。
 わたしもその構造や原因はわからぬ。だが、例年の二倍
 以上にはなっているようだ」
執事「恐ろしい冬にならねば良いのですが」

674 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:52:52.01 ID:Xzdt3noP
冬寂王「おそらく、その物価の上昇が教会か中央の首脳を
 刺激してしまったのだろう。
 もしくは手に入った多量の金貨を用いて、
 短期決戦を決意したのやもしれぬ。
 それがこのような急を告げる知らせになった」
勇者「そうか……」
将官「王よ、詳しい書状の話を」
執事「それは私から。えぇー。ごほんっ。
 冬の1月め、第四兎の日に南部草原にて会戦、
 との宣戦状であります」
冬寂王「ふんっ。一応体裁だけは取り繕ったわけだ」
勇者「あと十日か」
執事「出向かなければどうなります?」
将官「今までの戦でいえば、我らがこの宣戦状を無視すれば
 中央軍はそのまま進軍。向こうから見れば、攻城戦となりますね。
 ――しかし、我が国を始め、南部諸王国は
 魔族に備える砦は多くとも、領土の北部、大陸中心部方面
 つまり今回中央軍がやってくる方向には、警備のための
 塔がいくつかある程度で砦らしき砦はありません。
 と、なれば、いずれかの首都決戦になってしまうかと」
冬寂王「そうだな。この会戦を受けぬという選択肢は、無い」
勇者「くっそぉ。戦いたくないのにっ。
 ――戦いたくないんだ、俺はっ!」

676 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:54:28.79 ID:Xzdt3noP
冬寂王「これは、我ら愚かしい人間の戦だ」
勇者「だって、これは俺の、俺やあいつが撒いた」
冬寂王「違う。
 “農奴の権利を認める”と判断したときから
 これは人間の手による、人間の戦になったのだ。
 勇者。
 勇者が背負う必要など、どこにもない」
将官「そうですよ、勇者殿っ!」
執事「我らは今のこの時を、感謝こそすれ、けっして
 恨みに思っていたりはしませんぞ」
勇者「ちがう……。違うんだ」
執事「勇者……」
勇者「うまく言えないけれど、これは違う。
 こんな物が、あいつの目指した物であるはずがない。
 これが結末だなんてあり得ないっ」
将官「……」
冬寂王「確かにここで戦力を消耗するのは、
 我らにとっても益のないこと。
 我らにとってもはや戦は国力を増す手段にはならぬのだから。
 なぜ中央はその道理を判らぬ」
勇者(戦を望むのは、独占者。
 限られた世界の中で、“豊かさ”ではなく“優越”を
 求めるために寡占しようとする者。
 ……そこは間違っちゃいないはずだ)

677 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:55:48.59 ID:Xzdt3noP
勇者(どうすれば良いんだ?
 どうすれば止められる?
 聖王の、暗殺? ……馬鹿か、俺は。
 それじゃ魔王のところに行ったときと同じじゃねぇか。
 せめて。
 せめて、あと半年。いや、3ヶ月の時間があれば……)
勇者「せめて、いましばらく……」
勇者(この物価の上昇は、あの商人がやっているはずだ。
 あいつなら、これくらいのことはやる。
 きっとやる。……そういう目をしていた。
 あいつだけじゃないかもしれないけれど、
 あいつはきっと、中枢に噛みつけるような場所にいる。
 ……なんでだ? 何で小麦の値段や物価を上げる?
 あー、もう判らねぇよっ!
 なんで魔王はこう言う時にいねーんだよっ。
 あいつだったらさくっと解決しちまいそうなのにっ)
(そうだろう? 勇者だものな!)
勇者(何でこんな時に思い出すんだよ……)
(“あの丘の向こうに何があるんだろう?”って
 思ったことはないかい?
 “この船の向かう先には何があるんだろう?”って
 ワクワクした覚えは?)
勇者(なんであいつ、生きるの死ぬののって云う時に、
 のど元に剣を突きつけられて、あんなキラキラした
 瞳してやがったんだよっ)

679 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 16:56:53.39 ID:Xzdt3noP
(だから“そう言うもの”が見たいんだ)
勇者(あんなに無防備にっ)
(でも、だからこそ、それが“別の結末”を
 迎える事ができるのならば、
 それは私にとってだけじゃない。
 三千世界にとって“未だ見ぬもの”じゃないだろうか?)
勇者「〜ッ」 ガツンッ
将官「勇者殿っ」
勇者「冬寂王、戦になったとしてどれくらい被害を
 出さずに戦える?」
冬寂王「相手の戦意と数次第だな。
 この種の戦は、平野に両軍が終結し、時間指定も為される。
 その後合図……大抵はホルンによって騎士は騎乗し、
 正面から衝突することになる。
 両者の戦意や数、戦略に大きな食い違いがなければ
 これが一日につき1〜2回、数日の間繰り返されるだろう。
 指揮官が虜囚になるなどのアクシデントがあれば
 一方が加速度的に崩れることもある。
 はっきりした形で決着がつけば、負けた方は降伏するな」
勇者「犠牲は出したくない。味方にも、中央の軍にも」
冬寂王「……」
勇者「これは甘さじゃない。今後の展開上、必須だ」

680 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:00:06.76 ID:Xzdt3noP
冬寂王「……」
将官「冬寂王……」
冬寂王「天気次第、だな」
勇者「――雪かっ」
冬寂王「そうだ。こちらではもう積もっているが、
 あの平原にはまだ降雪はないだろう。
 山脈が雲から雪を搾り取るのだ。
 あの平原が雪に覆われるのはどれくらい先か
 雪が降れば戦意も下がるし、戦は停滞せざるを得ない。
 10日先に降り始めていればよし、天気が続くようならば
 会戦には問題が無くなってしまう。
 逆に本格的な降雪が始まれば、雪の降る間は
 戦を避けることが出来よう」
勇者「……」
冬寂王「おそらく、四週。
 早ければ、二週持ちこたえれば雪は降るはずだ。
 それだけの時間を凌ぐ、と云うことか」
勇者「できるか?」
冬寂王「……引き受けよう。
 わたしは、冬の戦ならば負けぬ。この名にかけて」

686 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:23:48.74 ID:Xzdt3noP
――魔王城、最下層、冥府殿、魔王の回想
魔王「ふわぁぁ」
メイド長「何をしているんです? 魔王様」
魔王「む」
メイド長「だらけていますね」
魔王「ちょっと疲れたのだ」
メイド長「やれやれ。魔王になってもあまり変わりませんね」
魔王「変わってたまるか」
メイド長「ふふふ。そうですね。
 お変わりなくて、本当に良かった」
魔王「あんなに運動をしたのは初めてだ。
 もう一生分の運動をしたから、
 あとは研究三昧で勇者が来るのを待ちたいものだな」
メイド長「変わったのは、呼び名ぐらいですね。魔王様」
魔王「それだ」
メイド長「はい?」
魔王「その、“魔王様”というのが良くない」
メイド長「そうですか? だって魔王になられたじゃありませんか」

688 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:26:28.16 ID:Xzdt3noP
魔王「背中がむずむずする。どうにかならんか」
メイド長「とはいえ、もう名前も剥奪されたわけですしね。
 旧名でお呼びするわけにも行かないでしょう?
 では、いっそ“胸ばかり太った無駄な肉、略して駄肉”
 というのはいかがですか?」
魔王「おぬしはわたしを嫌悪しているのではないかと
 思う時がある。たまに、より多い頻度で」
メイド長「困りましたね」
魔王「せめて、もうちょっとこう。明るく」
メイド長「そうですか。ふむ。まぁ、そう仰られるのなら」
魔王「出来るのか?」ぱぁっ
メイド長「我がメイド術に死角はありません」
魔王「おおっ!」
メイド長「こほん。――まおー様♪」きらきらっ
魔王「な、なんだ!? いま背後に花が見えたぞ!?」
メイド長「メイド術でございます」
魔王「それはそれで気色悪いな」
メイド長「まおー様。なんでそんなこと仰るんですか
 こんなにお慕い申し上げていますのに。まおー様ぁ♪」
魔王「ううう。何でそう甘ったるい声を出す!?」
メイド長「この術の要点ですので」すちゃ
魔王「うううっ。早まったかもしれん」

690 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:28:23.80 ID:Xzdt3noP
メイド長「それにしても」
魔王「なんだ?」
メイド長「いいんですか、こんなに『図書館』に引きこもって」
魔王「まぁな、統治するならこっちの方が都合が良い」
メイド長「判らないではないですが」
魔王「魔界にはこれだけの資料も情報素子海もないからな。
 プリンタもなければ汎用機もない。原始の世界だ」
メイド長「逆です。この空間が特殊なんですよ」
魔王「それはそうだがな。よいしょっと」
メイド長「どうされました?」
魔王「いや、多少はな。テコ入れしないと、
 統治もままならないと思ってな。計画書を作っているのだ」
メイド長「ふむ」
魔王「魔界は部族や氏族が入り乱れて戦乱状態だ。
 それは精霊五家の罪もあるから仕方がないが、
 逆に云えばそれだけ戦える豊かさがあると云うことでもあるしな。
 戦争が貨幣経済や流通網の発展を加速する側面がある以上、
 一方的に非難するわけにもいかんのだが」
メイド長「はい」
魔王「とりあえずは、これだ!」

692 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 17:30:27.48 ID:Xzdt3noP
メイド長「これは紙ですね。随分粗いですが」
魔王「そう。図書館製ではなく、魔界製の『紙』だ。
 森歌族に命令して作らせた」
メイド長「はぁ。これでどうなるのです?」
魔王「戦争の記録を義務づけるんだ。
 勝敗から場所、日時、敵味方の人数や被害、
 おおよその用意した物資、かかった費用、参加した武将」
メイド長「よく判りません」
魔王「目的はいくつかある。
 まずは“記録を取る”という事に馴れて貰う。
 専門職が育成されることもあるだろうが
 長い目で見れば識字率の向上にも役立とう。
 もう一つは自分たちのやっていることを理解して貰う」
メイド長「理解、ですか?」
魔王「戦を一方的に否定する気はないんだが
 本当に必要な戦と、気分や遺恨でやってる戦を
 混同するのも困る。自分たちがやっていることは
 果たして支払った代価に見合った効果が得られる行為なのか
 自覚して欲しいのだ」
メイド長「気の長い話ですね」
魔王「勇者が来るまで、そう時間はないから急ぎたいがな」