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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」
Part27


356 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:36:56.25 ID:sQx9tPoP
――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室
辣腕会計「委員、小麦の価格が多くの都市で
 +6ポイントまで上昇しました」
青年商人「市場動向はどのような印象ですか?」
辣腕会計「貴族や商人はむしろ好感触のようですね。
 手持ちの小麦に余裕あるからでしょうか、
 換金する動きも見て取れます。
 農場主は警戒感を強めています。
 彼らにとっては冬の間の食料ですからね。
 しかし、金額によっては手放すものも少なくありません」
青年商人「そうですか」
辣腕会計「今のところ相場の上昇は例年とそう変わりなく
 ある意味織り込み済みですから激しい反応は出ていませんが」
青年商人「了解です。――次の手を打っておきましょう。
 “生産物買い取り証書”の発行、ですね」
辣腕会計「聞き慣れない言葉です。なんですか?」
青年商人「今でっち上げましたからね。まぁ、聞いてください」

359 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:41:25.91 ID:sQx9tPoP
辣腕会計「黒板に板書してみます」カッカッ
青年商人「現在は冬です。冬小麦は秋に籾を蒔き、冬を越えて
 初夏の収穫と云うことになりますね。
 現在畑に籾はあるけれど、収穫はまだまだ……そうですね、
 6ヶ月は先でしょう。
 この先、畑にはどんなトラブルがあるか判らないが、順調に
 行けば半年後には収穫が望める」
辣腕会計「ふむふむ。まぁ、常識ですね」
青年商人「しかし、何らかのトラブルの発生で小麦の生産が
 減ってしまうと、地主や領主の収入は激減してしまう。
 またはそうでなかった場合でも、天候に恵まれて大豊作に
 なってしまっえば小麦の相場が安くなってしまう」
辣腕会計「ふむ」 カッカッカッ
青年商人「そこで、“小麦引き渡し証書”の出番です。
 つまり、“できあがった小麦を買い取る約束”です」
辣腕会計「それは、代金を先払いするという意味ですか?」
青年商人「そうです」
辣腕会計「地主や領主は手元にない麦でも売れるわけですね」
青年商人「そうなりますね。しかし、引き渡し時期……
 年明けの初夏には、契約した量の小麦は必ずそろえて貰う」

362 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:47:34.92 ID:sQx9tPoP
辣腕会計「つまり豊作であれば、領主達は、
 “小麦の販売時と引き渡し時の差益”を得ることが出来る」
青年商人「引き渡し時に凶作などの理由で相場が上昇していれば
 わたし達は“相場より安い金額で小麦を手にする”ことが出来る」
辣腕会計「相場が上昇する読みはあるのですか?」 カリカリ
青年商人「中央聖王都と教会が異端告発を意図している以上
 戦争が開始される可能性は高いでしょうね。
 それに――仮に戦争が回避されても問題はないでしょう」
辣腕会計「なぜです?」
青年商人「戦争がなければ、その人口は減らない。
 今まで足りなかったのは、資本と輸送力。
 それから市場間の“膜”ですよ。
 食べる口さえあれば、人為的な小麦の枯渇を作れる、
 小麦相場が下がることはあり得ない」
辣腕会計「……」ごくっ
青年商人「もし仮に、大陸の小麦生産量がわたしの予想より
 倍も大きければ『同盟』は破産するかもしれませんけどね」
辣腕会計「……なるほど。
 人為的な相場形成の一つの手段にすると。
 となると、この“小麦引き渡し証書”は
 最終的には、貴族を縛る鎖となりますね」
青年商人「それも一つの過程。あり得る選択肢ですね」

364 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:49:48.13 ID:sQx9tPoP
辣腕会計「意図がよく判りませんね」
青年商人「領主や地主の判断を重くするんですよ。
 来年の小麦相場のことを考えさせるのです。
 “小麦引き渡し証書”がこちらの手にある限り
 それは云ってみれば、多量の小麦を借りているに等しい状況。
 自領内の畑を損なうような動きは取れない。
 また、初夏の収穫から、あらかじめ引き渡す分は
 除外して考えなければならない」
辣腕会計「そうなりますね……」
青年商人「小麦の流通のイニシアチブを押さえるのが
 目下の目的です。そこが第1段階のステップ。
 初夏になっても小麦を自由に出来る量が少ない。
 手元にはさほど残らない。
 しかも小麦は高騰を続けていたら……。
 なにも本当に高騰している必要はない。
 “そうであったら困る”。
 そう思って貰うだけで、その不安は利益になります。
 証書を発行して、王国の金貨を渡しましょう。
 なに、安い投資ですよ」 にこにこ
辣腕会計「……」ぞくっ
青年商人「中央貴族の皆さんには、
 今しばらく長い冬を味わって貰おうじゃないですか。
 楽しい舞踏会の始まりです。
 この円舞曲。――買い、売り、交換する。
 その響きが大陸を満たすまで」

368 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:23:08.38 ID:sQx9tPoP
――開門都市、自治議会、執務室
 
コンコンッ
東の砦将「開いてるぞー。どうぞー」
火竜公女「ごきげんいかがかや、砦将?」
東の砦将「可もなく不可もなく。
 天気は良いが仕事は山積み。
 やってもやっても終わらんな」
火竜公女「やってもやっても終わらないのであれば、
 やらなくても良いのではないかや?」
東の砦将「おお! 尻尾のお嬢はいいこというなぁ!!」
副将「全然良くありませんっ!」 だむんっ
魔族豪商「ははは。相変わらずだのぅ」
火竜公女「これはこれは! 八鎧のお爺さまっ」
東の砦将「通商の用件で尋ねてきてくださったんだ」
火竜公女「それはお邪魔をしましたかや?
 妾は席を外す故、お話などゆるりと」
魔族豪商「かまわんよ。話は簡単なもので、
 ものの数分で片がついてしまったわ。
 じつに剛胆な御仁じゃな」

369 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:25:17.44 ID:sQx9tPoP
東の砦将「いやいや。自治都市とは名ばかりの
 張りぼて所帯ですからね。
 商売に来てくれるってんならこんなにありがたい
 事はないってやつですよ」
副将「ええ、本当に。ああ、公女様、加糊茶をどうぞ」
魔族豪商「はっはっは。こんな具合で、細かい書類も調べも
 袖の下もな。何にもなかったんじゃよ」
火竜公女「それはもう。
 この開門都市は自治委員会で運営されていますゆえ。
 執行役とはいえ、賄賂なんてもらったら一発で首を
 撥ねられてしまうのです。
 ――お爺さま? この都市には何を商いにいらっ
 しゃったのですか?」
魔族豪商「なぁに、細々とした日常品じゃよ。
 塩、鉄、馬鈴薯に、玉蜀黍。可可樹。綿花。
 それに砂金を少々」
火竜公女「そんなことを云って、お爺さまの商会は
 いつでも大商いをなさるではありませぬか」
東の砦将「豪商どのは馬鈴薯を入れてくださることに
 なってな。塩を求めているらしいんだが……」
副将「いやはや」
魔族豪商「以前は極光島から潤沢な塩が送られてきた
 ものだがな。いや、あれは痛かった」
火竜公女「そうでありました……」

371 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:27:48.78 ID:sQx9tPoP
魔族豪商「いやいや、人間である砦将殿が居る前で、
 詮方ないことを云ってしまった。老人の繰り言と
 思って許されよ」
火竜公女「……」ちらり
東の砦将「いやいや。お気遣いなどなさらずに。
 開き直るわけではありませんが、我らも沢山の
 魔族の方を手に掛けた。我が部下も沢山散っていった。
 争いもこの世の習いの一つですから……。
 今は明日を生きることが出来ることを感謝したいと。
 ――そう思います」
魔族豪商「若いのに、肝が据わっておるの」
東の砦将「塩は何とかしてみましょう」
魔族豪商「ではよろしく頼みましたぞ。
 いや、茶を馳走になりましたな」
東の砦将「副将、お送りして差し上げてくれ」
副将「はっ!」
 ザッザッザッ。ガチャン
東の砦将「存在感のある爺さんだな」
火竜公女「それは、お爺さまは魔族でも重鎮ですゆえ。
 ああ見えて、昔は相当強面だったとの話」

372 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:30:50.81 ID:sQx9tPoP
東の砦将「さぁて、話がある」
火竜公女「妾もですわ」
東の砦将「先にそちらを聞きましょう」
火竜公女「気になることがありまして。
 ……砦将どのは蒼魔族をご存じかや?」
東の砦将「蒼魔族ですか? 戦ったことはあるが、
 あんまり詳しくはないな。そもそも、あのころは
 魔族の見分けもついちゃ居なかった」
火竜公女「蒼魔族とは蒼い肌をもつ魔神の末裔たる魔族。
 魔界四氏族の一つにして、勢力も強い一族なのです。
 中には小型の者から大型の者まで、様々な亜種族を
 含みますが、総じて魔力、戦闘能力に秀でております」
東の砦将「ふむ……」
火竜公女「我ら竜族、妖精族などとはあまり交わろうとは
 しませぬね。我らもまた他族と交わる気風を持ちませぬが。
 ――蒼魔族は歴代のうち4名の魔王を輩出した、大氏族と
 いえるでしょう。そして、人間界を欲する氏族でもあり
 まする」
東の砦将「どうもきな臭い氏族だな」
火竜公女「その蒼魔族を最近、この都市で見かけると……」
東の砦将「……」

374 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:32:10.76 ID:sQx9tPoP
火竜公女「妾も直接確認したわけではないが、
 そのような話が出ております。
 開門都市はいまや人間族と魔族が混交した珍しき地。
 もちろん蒼魔族が住まって悪いわけではないのです。が」
東の砦将「気になる、と」
火竜公女 こくり
東の砦将「判った、配下を出そう。
 いや、魔族の方に頼んだ方が目立たないかな?
 とにかく、手を打ってみますよ。お任せあれ」
火竜公女「感謝いたします。……して、そちらの用件は?」
東の砦将「あー。んー。さっきのな」
火竜公女「?」
東の砦将「豪商どのの求めているのは塩なんだ」
火竜公女「はい、そのようで」
東の砦将「でも、この都市にも今そこまでの塩の備蓄はない」
火竜公女「はぁ……」
東の砦将「調達してきてくれないか?」
火竜公女「それはそれで無体な要求。塩の需要はどこでも
 高く、随分高価です。我が一族の領内にも塩山はひとつ
 しかないのですよ?」
東の砦将「いや、まぁ……。行く場所はあるんだ」
火竜公女「?」
東の砦将「人間界だよ」

386 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:00:02.88 ID:sQx9tPoP
――思い出の庭、魔王の回想
魔王「……ん。……うぬぬ! うわぁっ!?」
 きょろきょろ
魔王「もうこんな時間か。……おわっ。な、なんだ。
 背中が痛いぞ。と云うか、全身が痛む……。
 な、なぜだ」
メイド長「“こんな時間か”、が二日ぶりだからですよ」
魔王「おわっ」
メイド長「いい加減にしないと身体をこわしますよ」
魔王「うーん。しかし、面白いのだ、止められん」
メイド長「気持ちはわかりますが」
魔王「そちらはどうなんだ?」
メイド長「わたしの専門は実技を伴いますからね。
 身体を動かして技術を身につける以上、
 そこまで本や資料を読みあさって、
 筋が硬くなるなんて事はないんですよ」
魔王「そういえばそうか」
メイド長「お茶でも入れましょうか?」
魔王「なにも気を遣わなくても良いのに」
メイド長「あなたには恩がありますからね」
魔王「あれは行きがかり上だ」

387 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:01:10.10 ID:sQx9tPoP
メイド長「だとしても奴隷だったわたしには救いでした」
魔王「……」
メイド長「いえ、別にそれだけが理由ではありません。
 そんなことより目下重要なことがあるんです」
魔王「なんだ? 新しい研究か?」
メイド長「ええ、お茶を出すときの新しい作法です」
魔王「何だ、作法に新しいだの古いだの、いらないだろうに」
メイド長「必要なものだけがある世界なんて
 味気ないじゃありませんか。これも彩りです。
 そもそも“メイド道”は彩り重視なんですよ」
魔王「お茶がもらえるならありがたくもらうけど」
メイド長「承知しました、お嬢様」
魔王「お嬢様ぁ?」
メイド長「演出の一環ですよ。しばらくお付き合いください」
 とっとっとっ
魔王「しかし、我が一族は奇人変人ばかりだが……
 というか奇人変人が我が一族になるわけだが、
 あそこまでの変わり者もなかなかいないなぁ。
 部屋が片づいて良いけど」
魔王「……」

388 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:03:26.08 ID:sQx9tPoP
魔王「――ファンダメンタルズ、最適化、パレート
 ――債権、内需、所得、産業、成長率、空洞化」
魔王「興味は尽きないな。これはおそらく、価値観か」
魔王「名前、が本体なのだろうな。
 概念に名前――名詞をつけることによって、
 新しい価値観が発見/創造される。
  この場合発見と創造は同じ行為で、その瞬間に世界が
 拡張される。
 新しい視座を得て、今までの全ての事象は再評価されるわけだ。
  つまり、視座の数は、世界に対する係数。
 視座を多く持つほどに多くの世界を見ることが叶う。
 それが知識の、学習の意味。
 我が一族の、存在意義。
  我らは概念に名前をつける。
 新しい概念で世界を拡張する。
 概念と概念は時に出会い、融合して、生み出した我々にも
 思いつかなかったような変化を遂げることがある。
  それは、我らが手にする実り。
 世界の、果実。
 理論面においてはl=n(nー1)/2を取るのかな。
  素晴らしいな。……知ることは素晴らしい。
 けれど、それ以上にこの世界は素晴らしいな。
 この世界には、この世界を加速度的に拡張する存在が
 沢山いるんだ。
 それは魔族だけじゃなくて……」

389 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:05:54.96 ID:sQx9tPoP
魔王「……“魂持つ者”」
魔王「そう呼べたら素敵だな。
 あの向こうには、どれほど豊かな世界が広がっているんだろう?
 二つの世界が出会ったら、どれだけの組み合わせ爆発が
 起こるんだろう? 概念と概念が融合し、どんなに
 素晴らしい世界を見せてくれるんだろう?」
魔王「人間、世界か……。
 ただの魔物の一匹であるわたしには、触れ得ないだろうけれど。
 城ってどんなものなんだろうな。
 村って云うのは、魔族のそれといっしょなのかな。
 なかなかにもどかしいな。
 映像資料がもうちょっと充実してればよいのだろうが……」
魔王「我らも、物も、貨幣も流れる。
 決して留まりたるを知らない。
 時も流れる。
 でも、現われたものは、けして消えない。
 消えたかに見えて、必ずや残る。
 この瀬良の図書館のように。
 いくつも、いくつも、数千数億の世界の記録が
 歌っているのが聞こえる。
 何でみんなには聞こえないのかな?」
魔王「こんなにも見つけて欲しいと
 誇らしげに、高らかに、歌っているのに。
 わたしの想いも、
 やはり誰にも……届かないのかな」

392 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:07:46.47 ID:sQx9tPoP
メイド長「お嬢様、お茶が入りました」
魔王「ん? 何だ、そんなところに立って」
メイド長「……新しい作法でして」
魔王「ふむ」
メイド長「きゃー」
魔王「きゃー?」
メイド長「あー、ちょっと、ちょっと。わわわ、きゃふうん」
魔王「何を言っているんだ?」
メイド長「ここで素早くカップを投げつける」
魔王「へ?」
 ばしゃぁ!
魔王「熱っ! 熱っ! 熱いではないかっ!!」
メイド長「だ、だいじょうぶですかぁ。きゃふーん」
魔王「なんで雑巾っ、こっ、こらぁ!!」
メイド長「新しい作法でございます」すちゃ
魔王「……」
メイド長「まったく知識は素晴らしい。
 研鑽に果てはございません」きらきらっ
魔王「どんな資料を参照しているのだっ!」

402 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 19:14:02.57 ID:sQx9tPoP
――霧の国、地方都市の街角で
吟遊詩人「〜♪
 いざ生き者の学をまなばん!
 まずあぐるは、自由の民よ、四族の名前。
 はじめに生(あ)れし草の民らよ。
 次は、水辺を治めし、湖の民。
 三が荒れ地の砂の民。真に剛毅闊達なる。
 四が南の、荒れ地に住まいし風、開拓の民にして興武なり。
 黄金なる小麦の乗り手よ、何処(いずこ)へゆくか。
 吹き鳴られたる角笛、今どこに。
 土に触れたるたくましい指、紅く燃えたる炉辺の火よ。
 春は何処? 春は何処?
 実りの時よ、丈高く、頭を垂れる黄金の麦。
 土に埋もれる馬鈴薯の丘、山なす実りをいざ求め。
 南へ、南へ。実りをもとめ。
 南へ、南へ。いざ旅立たん
 〜♪」

403 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 19:16:13.76 ID:sQx9tPoP
――冬の王宮、広間、対策会議
ガチャリ
勇者「案配はどうだ〜?」
冬寂王「やはり文字の読み書きが一つの障害になっていたようだ。
 吟遊詩人の効果が徐々に出てきて、流入してくる開拓民が
 徐々に増えてきたようだな」
将官「冬の間は、南の国でなくても娯楽が必要ですからね」
勇者「この資料か?」
 ぺらぺら
勇者「……」
冬寂王「何か気になることでもあるのか?」
勇者「いや、この世界には俺たちしか居ない訳じゃないからな」
冬寂王「そうだな」
将官「は?」
冬寂王「我らと利害を共にする、または異にする“誰か”も
 同じように様々な策謀を練っている可能性がある。
 それを常に忘れてはいけないと云うことだ」

404 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 19:17:58.69 ID:sQx9tPoP
執事「そういえば、他の皆様は?」
冬寂王「ああ、鉄腕王も氷雪の女王も国元へと帰ったよ。
 何時までも宮殿を留守にするわけにも行かないだろう」
執事「……」はぁ
勇者「どうしたんだ?」
執事「華やかさのない男臭い部屋でございますね」
勇者「あの姉妹は氷雪の女王の所へ行ったよ。
 吟遊詩人に言葉を伝えるにしても、直接の方がいいだろうし。
 その後は、活版印刷の原盤を作るために、
 鉄の国へ向かうはずだ。
 女騎士も、護衛で同行。よって、ここは男パラダイス」
将官「姫騎士将軍もでありますか」
執事「あれは絶壁ですからようございます」
勇者「そうかな、あれはあれでいいやつだぞ?」
執事「……」ちらっ&ため息
勇者「そういえば、何か言ってきたか?」
冬寂王「ああ、もちろん。ほら」
 ドサリ
勇者「うへぇ、なんて量だ。何でこんなにあるんだよ!?」

406 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 19:20:22.80 ID:sQx9tPoP
冬寂王「まぁ、中央大陸と云っても
 統一されているわけではないからな。
 20年前までは領土戦争もしていた国同士が
 魔族の侵攻という現実を前に、
 一つの宗教を中心に結託しただけのことだ。
 だから、非難するにしても、自然とこうなってしまう」
勇者「じゃぁ、内容は似たり寄ったり?」
冬寂王「そうだ。
 中心となるのは、聖光教会からの公式な非難書だな。
 今回の書状には破門もちらつかせてある。
 そのほかは、王族や諸侯からの書状だ。
 内容は一言で言うならば“早く謝れ”だな」
将官「いやいや、言葉が飾られておりますので、
 それだけのことを3ページにもわけて書いてあるのですよ」
勇者「やっぱアホなんだなぁ」
冬寂王「いいや。……これは仕方がない。
 おそらくこの非難書、似たようなこの文面を出さないと
 大陸中央国家の派閥から外れてしまうことを恐れたのだろう。
 逆に言えば、これだけの国家、諸侯から非難された
 すなわち三カ国同盟は世界で孤立して居るぞ、という
 脅しを含んでいるのだ」
勇者「まぁ、わからんじゃない。実際破門された場合、
 商取引も事実上停止するんだろうしなぁ」
執事「そうですなぁ」
勇者「それが恐ろしくて、教会に逆らった国は今まで
 無かったわけだ」
冬寂王「そうなるな」