Part22
436 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:56:45.07 ID:CkBATQ0gP
――冬越し村、冬の始まり、メイド妹の日記
「このお屋敷に着てから三度目の冬が始まりました。
今年最初の雪です。
空がどんどん低くなって、雲がぐるぐると動いていたので
雨が降るかな、と思ったら雪でした。
べしゃべしゃして重い雪です。こういう雪は嫌いです。
当主のおねーちゃんと眼鏡のおねーちゃんが居ないので
お屋敷は静かです。
ご飯は、おねーちゃんとわたしが交代で作ります。
掃除が楽になったので、美味しいご飯を沢山勉強できます。
今日は酒場で、お料理を習ってきました。
ニジマスの香草焼きです。
おねーちゃんが当主様の書斎から、料理の本を探してくれました。
汚したら二度と口を聞いてくれないというので、
いま、紙に写しています。
文字を覚えて初めて便利だって思いました!
パイっていうのが面白そうです。
何でも包んでパン釜で焼くみたい。
このパイっていうの、作ってみたいな。
おにーちゃんは、ぼけらっとしているので
パイを作るのを手伝わせようと思います」
439 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:12:20.27 ID:CkBATQ0gP
――白夜の国、白夜王の宮殿
片目司令官「ええい! 黙れッ! 黙れッ!」
びゅっ! びゅうんっ!
白夜王「ふん。荒れておるではないか」
片目司令官「ふっ。疼くのだ、この目がっ。
下郎っ! 酒だ! 酒を持てっ!!」
侍従「は、はひぃっ……」 ダダダダッ
白夜王「我が宮殿の者に乱暴を働くのはよしてもらいたい」
片目司令官「うるさいっ! この目が」ガリ、ガリ、ガリッ
白夜王「ふはは。憎いのか」
片目司令官「ああ、憎い。ニクイっ」
白夜王「だがその狂気、我には向けるな、判っているだろうな」
片目司令官「ああ。感謝はしているさ。死を待つだけの
あの地下牢から替え玉まで使って救ってくれたことはな」
443 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:18:34.37 ID:CkBATQ0gP
白夜王「ふふ、そうだ。あの不潔な汚泥の中からな……。
貴族院の地下の地下、拷問の塔の最下層、黄泉へと通じる
ほどの深淵からお前を救ってやったのはこの我だ」
片目司令官「……」ごくっ、ごくっ、ごくっ
白夜王「思い出せるか? あの闇が」
片目司令官「ネズミがっ。ネズミが這い回り、我の目をっ。
我の目を、我の光を……。
うううっ。疼くっ。瞳が。
見えるぞ、赤黒い闇がっ。
闇が我を蝕むっ。痛い、全身が痛むっ。
殺す、殺してやるっ。東の砦将めっ! くされ魔族めっ!
我を取り囲み、愚弄しやがって!」
白夜王「そうだ、あやつらは我らを愚弄したのだっ」めらっ
片目司令官「……っ」
白夜王「冬の国の青二才め、この我をっ。この我を侮辱しおって。
何が流氷だ。何が農業改革だ。なにが生産性だっ。
やつのような詭弁を用いて戦って何になる。
やつのようなやり方、精霊が認めるはずがないっ」
片目司令官「そうだ、奴らは裏切り者だ。この世界を
暗黒に売り渡す売国奴。腐臭を放つ半人間どもよっ」
446 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:24:37.98 ID:CkBATQ0gP
白夜王「賢しい青二才が、西の交易を用いて
巨額の利益を上げているだと?
極光島は我ら南部諸王国共有の財産のはず。
いや、あの島にもっとも血を捧げたのは
我が白夜。
我らではないかっ!!
それをこともあろうに、なぜあの青二才が
勝利を吸い上げる。利益をむさぼるっ?」
片目司令官「ヒヒヒ、ヒヒィーッ」
白夜王「それをあの鉄腕王や、氷雪の女王までもが
英邁よ、豪傑よともてはやし、挙げ句の果ては
義勇軍として参加したものどもまでが冬の国に住み着くという。
わが白夜が凍えるような冬の厳しさに耐え
貧しい暮らしをつづけているというのに、
我を愚弄する小せがれは、我らが利益を盗んでいるのだ。
そのようなこと、精霊がお許しになるはずもないわっ」
片目司令官「アハハハハッ! 任せろ。この我にっ。
我にもはや失うべき命など無い。不死不滅の怨霊として
その青二才、我が切って捨ててくれるわ。
ははははっ。軍をよこせ! 我に手足を与えろっ!
斬って、斬って、斬り殺してやるっ!」
452 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:31:00.01 ID:CkBATQ0gP
白夜王「まぁ、まて。その狂気を解き放つのはな」
片目司令官「何故だ……」
白夜王「奴らを殺すのはいつでも出来る。杯に垂らす
一滴の毒、もしくは寝室に忍び込ませる短剣の一本でな」
片目司令官「ヒヒヒっ」 ごくっ、ごくっ
白夜王「あのヒヨッ子、そう容易くは殺しはしない。
やつには我が味わった、この高貴なる王者のあじわった
数千倍の恥辱を与えてやる。そうであろう?」
片目司令官「そうだっ! 屈辱の極みをっ。
裏切りの叛徒どものに、侮蔑の視線にさらされ
恥辱に灼かれる地獄を味あわせてやるっ!」
白夜王「ではまずはこの一手だ」にたり
片目司令官「……ふん? ははっ。
あははははははは!! これはいい!
そうか、そういうことかっ! あはははははは!!」
白夜王「ふふふ、そうだ。冬の王よ。お前の宝を
お前の国をばらばらにしてやろう。あははははは!」
片目司令官「あはははははははははは!!!!!」
460 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:36:57.16 ID:CkBATQ0gP
――冬越し村、魔王の屋敷、客間
メイド妹「こ、こちらにどうぞー」
青年商人「おやおや。小さなお嬢ちゃん。そんなに緊張しないで」
メイド妹「き、緊張してないですでございます」
青年商人「右手と右足が一緒だよ?」
メイド妹「へ、平気だもんっ」
青年商人「あははっ。よろしくね」
がちゃ
メイド妹「こ、こ、ここにどうぞっ」
青年商人「はい、座ります」
メイド妹「では、おねーちゃ……じゃなかった、当主様を
呼んでまいります。しょーしょーおまちくださひ」
青年商人「さひ?」
メイド妹 じわぁ
青年商人「あ、泣かない、泣かない!」 おろおろっ
463 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:42:59.95 ID:CkBATQ0gP
メイド妹「お、おねーちゃん、どうしよー?」
メイド姉「仕方ないわ。当主様から貰った指輪を使うしか」
メイド妹「う、うん……」
メイド姉「お茶の準備をお願いね」
こんこん……
メイド姉「お待たせして、済まない」
青年商人「ご無沙汰しています、学士殿っ」
メイド姉「一別以来だな。どうかな、変わりないかな」
青年商人「ええ……。
無事に商売を続けさせて頂いております」
メイド姉「……」
青年商人「……」
メイド姉「その、本日は」
青年商人「今回も定例の報告書や、収支決算書、納品書に
領収書類などのお届けです。普段は船便ですが、流石に
わたしも紅の学士殿の艶姿が懐かしくなりまして。
今回はお目にかかるためにのこのこ参上してしまいました。
はははは、お恥ずかしい」
メイド姉「それは、その……。言葉に困るな」
青年商人「ええ。はい。そのようなわけで、学士様。
お色直しなど、いかがですか?」
466 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:49:25.89 ID:CkBATQ0gP
メイド姉「はい?」
青年商人「いえいえ。極光島奪還が成りましたからね。
南西交易路による流通が増えて、船の便も増えました。
この冬の国にも、様々な物資が入ってくるようになった
でしょう?」
メイド姉「う、うむ」
青年商人「となると、商人に取りまして目利きが大事でして。
麦などは水を含ませて取引の際に目方を増やそうとする
者も居る始末でしてね。傷みが早くなるうえ、粗悪品。
そのような物を掴むのは二流の商売人。
わたしも駆け出しの頃は、父から良く鉄拳制裁を受けた
物です。お恥ずかしい話ですが。あはははは」
メイド姉「……そ、それが」
青年商人「さぁて」
カチャ
勇者「メイド姉、もういいや」
メイド姉「は、はいっ。いえ、まだっ」
勇者「いや、下がって良い。この人はもう見抜いてる」
メイド姉「……そっ、そんな」
勇者「確かな目利きだ。話に聞いていたとおり凄腕だなー」
471 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:55:02.08 ID:CkBATQ0gP
メイド姉「失礼します」
がちゃり。 とてて……
青年商人「や、すごい技ですね。幻術ですか?」
勇者「ああ、そうだ。一目で見抜かれるとは思わなかったよ」
青年商人「いえいえ逆です。こういう事は大抵直感が正しい。
考えた末に見破るというのは少ないのです」
勇者「恐れ入ったよ」
青年商人「あははは。大したことではありません。
それにしても……。お久しぶりですね、勇者殿」
勇者「ああ、久しぶり。三年、いや四年になるのか?」
青年商人「そうですね。懐かしいなぁ」
勇者「あー。腹立ってきた! そうだ、腹が立ってたんだ!
くっそ、広範囲殲滅雷撃系呪文が猛烈に恋しくなってきた」 青年商人「はい? どうしました?」
勇者「あのときは俺のこと騙したって云うじゃないか!」
青年商人「とんでもない。騙すだなんてこれっぽっちも」
勇者「金貨十五枚だぞ!? そっちは金貨数万枚は
少なくとも稼いだって云う話だぞっ!」
青年商人「ええ、あの演説は金になりました。
ありがとうございます」にこにこ
476 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:02:21.26 ID:CkBATQ0gP
勇者「うっわ、むかつく」
青年商人「ちゃんと契約どおりのお金をお払いしたじゃないですか」
勇者「それで納得してた俺の幼さが腹立たしいっ!」
青年商人「これもまた駆け引きの勝敗です」にこっ
勇者「まーそうだよな。はぁ……」
青年商人「生きてらっしゃったんですね」
勇者「ああ? おう。ぴんぴんしてるぞ」
青年商人「ふむ……」
勇者「何を考えている?」
青年商人「この後の話のもって行き方を」
勇者「あんたは……少し、変わったような気がするな」
青年商人「そうですか?」
勇者「四年前に会ったときは、もっと隙が無くて完璧で
どこをとってもとりつく島がないように見えた記憶がある」
青年商人「じゃぁ、四年で随分まるくなって温くなったんでしょう。
わたしもそろそろ後進に道を譲って隠居すべきでしょうか。 あはははっ」
477 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:10:02.45 ID:CkBATQ0gP
勇者「でも、今の方がよほど敵にはしたくないな」
青年商人「おやおや、奇遇ですね。
わたしもそう思っていたところです」
勇者「……」
青年商人「変わったとすれば、
それはあの方のせいかもしれませんよ。
自分の常識や今までの経験では飲み込めないような
巨大な存在に出会ったとき、どうすればいいのか。
腹をくくるとはどういうことか、
それを教わったような気がします」
勇者「あいつなのか?」
青年商人「はい」
勇者「そうか……」
青年商人「“相容れない光と影を仲介し、妥協し、
取引する”と。あれでわたしの商人としての生は
一つの道しるべを得た。かけがえのない言葉です」
479 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:15:30.82 ID:CkBATQ0gP
勇者「あいつが?」
青年商人「はい、最初にあった時に。
そして勇者、あなたがここに現われたことで
確信が持てました」
勇者「……契約は守ったとか云ってたよな?」
青年商人「はい?」
勇者「四年前の演説だよ」
青年商人「ええ、云いましたが……」
勇者「それは嘘だろう?
……俺が帰ったら宴を奢るとって云ってたじゃないか」
青年商人「おお。そうでした! 良く覚えていましたね。
それはまさしくその通りです。よろしいでしょう。
契約は果たさねば。いつでも良いですよ」
勇者「よし、その言葉、二言はないな」
青年商人「ええ、もちろん」
勇者「じゃぁ、今だ」
しゅいんっ!!
482 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:21:57.89 ID:CkBATQ0gP
――魔界、開門都市、郊外の虹降りしきる丘
しゅわんっ!
青年商人「こ、ここは……。くっ」
勇者「転移酔いだ。深呼吸すれば治るさ」
青年商人「これは……移動の呪文ですか?」
勇者「そうだ」
青年商人「ここは……。なんて場所だろう!!」
勇者「このあたりでは、夜になるとなぜか虹が降るんだ
磁気がどうとか説明されたけれど、俺にはちょっと
難しくて判らなかったな」
青年商人「すごい……」
勇者「夢魔鶫っ」
夢魔鶫「御身の側に」
勇者「公女に云って酒の用意を頼んでくれないか。
場所はここで良いだろう」
夢魔鶫「仰せのままに」
青年商人「魔族……?」
勇者「使い魔っていうんだ。伝言に便利だよ」
483 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:26:20.97 ID:CkBATQ0gP
青年商人「ここはまさか」
勇者「うん、魔界だ」
青年商人「……」
勇者「さっきの言葉で判ったよ。だから連れてきた」
青年商人「あの人は」
勇者「魔族だ」
青年商人「やはり……」
勇者「……」
青年商人「空気の香りも、違うのですね」
勇者「ん。そうかもな。でも、港町には港町の、
都市には都市の匂いがあるだろう? そういうものだ」
青年商人「あの外壁は?」
勇者「あれが『開門都市』。……この間まで人間が占拠
していた街さ」
青年商人「ああ。司令官が逃げ帰って魔族に再統治されたという」
488 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:32:50.23 ID:CkBATQ0gP
勇者「そりゃ嘘だな。だいたいその話が本当なら
開門都市にいた人間の商人数千人は殺されたことになる」
青年商人「違うのですか?」
勇者「あの都市で今でも商売をしているよ」
青年商人「は?」
勇者「ゲート周辺の治安や周囲の荒野の関係で、
いまはちょっと人間界と連絡を取りずらいかもしれないが
『同盟』の商人だって、残ってる」
青年商人「本当ですかっ!?」
勇者「嘘は言わない」
青年商人「そんな……」
勇者「おいおい。あいつと話したんだろう?」
青年商人「あ……。ええ……」
勇者「じゃあ判ってたはずだ。あいつが何を夢見ていたか」
青年商人「勇者……」
勇者「あいつは、お前のこと買ってたぞ?」
青年商人「……っ」
勇者「人間界にも好敵手は居る、ってな」
491 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:41:56.11 ID:CkBATQ0gP
勇者「俺はあいつじゃないから、あいつのように
計画も語れないし損得勘定であんたを説得できそうもない。
でも、やっぱり、今あんたに降りられると困るし。
あー。なんだろうな。
この感じは……。
うん……寂しい。
ただの勇者に戻るのは――寂しいんだな」
青年商人「……」
勇者「だから、見せる。これが開門都市だ。
今この世界にある唯一の魔族と人間が共存する交流都市だ。
この都市の人口は約三万二千。湖の国の首都より大きい。
この都市は中立地帯として魔王にも承認されている。
自治都市として、都市議会が統治を行っているんだ。
議会のメンバーの1/3は人間だよ。
議長は人間の元軍人が務めている。議員には魔界の
有力氏族の子女も……」
火竜公女「わが君〜ぃぃ」
勇者「入ってもらう形で……」
火竜公女「わが君、ご下命に応じましてただいま参上
いたしました。宴席であるとか。わが火竜一族の誇りに
賭けてお客人のおもてなしに無礼があっては成りませぬ故、
ただいま設営をっ!」
勇者「あー、んー。そのー。お手柔らかに」
494 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:46:46.44 ID:CkBATQ0gP
――魔界、開門都市、虹降りしきる丘、宴席
火竜公女「酌をしましょう、お客人」
青年商人「いえ、随分飲んだので」
火竜公女「なりませぬ」ぷいっ
勇者「ああ。飲んだ方がいいぞ。
火竜の酌を拒むと耳がかじられる。片耳だと不便だぞ」
青年商人「ええっ!? そんな無法なっ!!」
勇者「魔界だから仕方ない」 魔族娘「そ、その……黒騎士さまも、どうぞ……」
ぽたぽたぽた
青年商人「そ、そのくらいで。止めてくださいっ」
火竜公女「一人前の男子たるもの、杯の縁より酒が
こぼれるくらいでないと“注いだ”とは申しませぬ」
青年商人「なんて所なんだ!?」
勇者「おい、商人」
青年商人「なんですか、勇者」
496 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:50:55.47 ID:CkBATQ0gP
勇者「どーだ」
青年商人「なにがどーだですか」
勇者(小声)「おっぱいだよ、おっぱいっ!」
青年商人「はぁぁ!?」
勇者「お前がおっぱいいっぱいの打ち上げパーティーを
企画しておくから、民衆に手を振ってばきゅーん☆って
しろって俺を魔界に送り出したんだろ!」
青年商人「あ。あははは! そうでしたっ。
あははっ。ひどいなぁ、わたしそんなこと
云ってましたよね。若気の至りとは言え
我ながら呆れる悪辣さだっ」
勇者「どうよ、これ」ちらっ
青年商人「ええ、結構なお点前です」こくり
勇者「……あははっ」
青年商人「あはははっ。
ああ、おかしい。こんなに笑ったのは久しぶりです」
勇者「酒も旨いか」
青年商人「ええ。わたしは商人ですからね。
色んな国の酒を飲む。酒にはその国がでるような気がしますね」
勇者「おい、商人」
青年商人「なんですか、勇者」
499 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:54:50.66 ID:CkBATQ0gP
勇者「虹が、すごいなぁ!」 ごろん
青年商人「確かに」 ごろんっ
火竜公女「まぁ、殿方は子供ですね」
魔族娘「でも、ほんとうに……風が気持ちいいです」
青年商人「虹はすごいですが、それで交渉の妥協は
しませんよ? 勇者殿」にこっ
勇者「あいつが云ってたぞ。
“商人たちはその『許可』を求める”ってな。
使用許可、通行許可。新しい土地は新しい市場でもあり
新しい物産の供給源でもある。そう言った場所と
取引をする」
青年商人「ええ」
勇者「あの都市のそれはどうだ?」
青年商人「それは、そうですね。まさに……
“中央大陸の都市の金全て。
いや、既知世界の全てよりも金になる”」
勇者「売ろう」
青年商人「良いのですか?」
500 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 20:00:45.18 ID:CkBATQ0gP
勇者「かまわない」
青年商人「対価は何を求めるんです?」
勇者「俺はあいつじゃないから、何が適当な対価なんて
判らないんだよな。何が釣り合って、
何が釣り合わないかなんて、今までろくに考えないで生きてきた」
青年商人「……」
勇者「だから、対価なんて困っちまうんだけど。
それでも、となるとさ。
……商人は、何でも損と得に切り分けて
考えるのだろう?」
青年商人「ええ」
勇者「なんて云うのかな。
みんなは、そんな商人を強突張りだとか
利益にしか関心のない化け物のように云うけれど、
あいつを見ていると、
そんなことはないのじゃないかと、俺は思うんだ」
青年商人「……」
勇者「誰よりも利に聡く、誰よりも真剣に損得勘定で
生きている商人は、もしかしたら世界で一番最初に
損得では割り切れないものを見つけるかもしれない」